(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環状オレフィン系重合体は、シクロオレフィン単独重合体、及びエチレン−シクロオレフィン共重合体から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の熱収縮フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱収縮フィルムは、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの合計100質量部、及び環状オレフィン系重合体を5〜100質量部含有する熱収縮フィルムであって、
(1)前記直鎖状低密度ポリエチレン及び前記低密度ポリエチレンを含有する海部と、前記環状オレフィン系重合体を含有する島部とが形成された海島構造を有し、
(2)前記熱収縮フィルムを、フィルム巻き取り方向(MD方向)と平行方向に切断して形成されるMD断面における前記島部のアスペクト比(A)と、前記フィルム巻き取り方向(MD方向)と垂直な方向(TD方向)に切断して形成されるTD断面における前記島部のアスペクト比(B)との比(A)/(B)が1以下であり、
(3)前記TD断面における、前記島部の厚み方向(ZD方向)の長さが、0.5μm以下であることを特徴とする。
【0017】
上記特徴を有する本発明の熱収縮フィルムは、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの合計100質量部、及び環状オレフィン系重合体を5〜100質量部含有するので、熱収縮性に優れると同時に優れた破断強度を示す。また、本発明の熱収縮フィルムは、MD断面における島部のアスペクト比(A)と、TD断面における島部のアスペクト比(B)との比(A)/(B)が1以下であり、且つTD断面における島部の厚み方向(ZD方向)の長さが、0.5μm以下であるので、TD方向の熱収縮性に優れる。
【0018】
また、本発明の多層熱収縮フィルムは、上記構成を備える熱収縮フィルムを少なくとも1層有し、上記熱収縮フィルムの厚みが多層熱収縮フィルムの総厚みの20%以上であるので、熱収縮フィルムと同様に、内容物(被包装物)の集積包装に適しており、TD方向の熱収縮性に優れ、且つ優れた破断強度を示す。
【0019】
更に、本発明の製造方法は、上記熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムをインフレーション法により製造し、ブロー比が2〜6であり、且つ、環状ダイリップの直径(内径)をDとして、上記環状ダイリップの端部からDと同じ高さにおける上記熱収縮フィルム又は上記多層熱収縮フィルムのバブル径が2D以下であるので、環状オレフィン系重合体を含有する島部がTD方向に配向し、TD方向の熱収縮性にも優れている。このため、本発明の製造方法によれば、直鎖状低密度ポリエチレンを含有する優れた破断強度を示す熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムでありながら、TD方向の熱収縮性に優れ、内容物(被包装物)の集積包装に適した上記熱収縮フィルム及び上記多層熱収縮フィルムを容易に製造することが可能となる。
【0020】
以下、本発明の熱収縮フィルム、多層熱収縮フィルム及びそれらの製造方法について説明する。
【0021】
1.熱収縮フィルム
本発明の熱収縮フィルムは、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの合計100質量部、及び環状オレフィン系重合体を5〜100質量部含有する。
【0022】
上記直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「LLDPE」とも示す)は、Ziegler触媒、メタロセン触媒等のシングルサイト系触媒を用いて、エチレンとα−オレフィンとを共重合することにより得ることができ、α−オレフィンの種類や量を調整することによって密度範囲を制御することができる。
【0023】
上記α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独又は2種以上を併用することができる。
【0024】
LLDPEの密度は、0.870〜0.945g/cm
3の範囲の製品が市販されている。上記LLDPEの密度は、0.900〜0.945/cm
3が好ましく、0.910〜0.945/cm
3がより好ましい。なお、本明細書における密度は、JIS K7112:1999 水中置換法(A法),25℃の条件で測定した値である。
【0025】
また、LLDPEのMFRは小さすぎると製膜性が不安定になり、大きすぎると熱収縮フィルムの優れた結束性(熱収縮性)が得られなくなるので、0.05〜2.0g/10分が好ましく、0.1〜1.2g/10分がより好ましい。なお、本明細書におけるMFRは、JIS K7210:1999,A法,190℃,荷重21.18Nの条件で測定した値である。
【0026】
上記低密度ポリエチレン(以下、「LDPE」とも示す)は、密度が0.910〜0.930g/cm
3の範囲のポリエチレン系樹脂(ホモポリエチレン)であり、例えば、ラジカル開始剤を用いて高圧ラジカル重合により製造されるものが挙げられる。 LDPEの密度は、0.915〜0.930/cm
3が好ましく、0.920〜0.930/cm
3がより好ましい。また、熱収縮フィルムの優れた結束性(熱収縮性)及び製膜安定性を得るためには、LDPEのメルトフローレート(MFR)は、0.05〜2.0g/10分が好ましく、0.1〜1.2g/10分がより好ましい。
【0027】
本発明の熱収縮フィルムは、LLDPEとLDPEとの合計を100質量部含有していればよく、例えば、LDPEを含有せずLLDPEを100質量部含有する構成であってもよいし、LLDPEを含有せずLDPEを100質量部含有する構成であってもよい。すなわち、本発明の熱収縮フィルムは、LLDPE及びLDPEから選択される少なくとも1種の含有量が100質量部であればよい。
【0028】
本発明の熱収縮フィルムは、LLDPEを30質量部以上含有することが好ましく、35質量部以上含有することがより好ましい。また、本発明の熱収縮フィルムのLDPEの含有量は、70質量以下が好ましく、65質量部以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の熱収縮フィルムは、LDPEとLLDPEとの合計を100質量部含有していれば、本発明の効果が発現する限り、他のポリエチレン系樹脂を含有していてもよい。このような他のポリエチレン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)等を用いることができる。上記他のポリエチレン系樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。なお、本明細書において、上記他のポリエチレン樹脂は、少なくともHDPEをその概念に含む意味である一方、後述する環状オレフィン系重合体はその概念に含まれない。
【0030】
本発明では、LLDPE単独又はLDPEとLLDPEとの混合物を用いることが好ましい。
【0031】
上記環状オレフィン系重合体としては、重合体中に環状オレフィンを含有していれば特に限定されず、シクロオレフィン単独重合体(以下、「COP」とも示す)、エチレン−シクロオレフィン共重合体(以下、「COC」とも示す)等を用いることができる。熱収縮フィルムのTD方向の熱収縮性をより向上させることができる点で、COCを用いることがより好ましい。
【0032】
エチレン−環状オレフィン共重合体としては限定的ではないが、モノマー成分としてのエチレン含有量が25質量%以上でガラス転移点(Tg)が120℃以下であれば、LDPE、LLDPE等のポリエチレン系樹脂への分散性が良くなり、TD方向の熱収縮性が向上するため好ましい。また、エチレン−環状オレフィン共重合体の密度は0.95〜1.05g/cm
3程度が好ましく、190℃21.18Nで測定したMFRは0.05〜4.0g/10分程度が好ましい。
【0033】
モノマー成分としての環状オレフィンは、例えば、炭素原子数が3〜20のシクロアルカンを有するビニルシクロアルカン及びその誘導体、炭素原子数が3〜20のモノシクロアルケン及びその誘導体、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン(ノルボルネン)及びその誘導体、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]−3−デセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]−4−ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ヘキサデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.1
3,6.0
2,7.0
9,14]−4−ヘキサデセン及びその誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.1
3,6.1
10,13.0
2,7.0
9,14]−4−ヘプタデセン及びその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.1
2,9.1
4,7.1
11,17.0
3,8.0
12,16]−5−エイコセン及びその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.1
3,6.1
10,17.1
12,15.0
2,7.0
11,16]−4−エイコセン及びその誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.1
2,9.1
4,7.1
11,18.0
3,8.0
12,17]−5−ヘンエイコセン及びその誘導体、オクタシクロ[8.8.0.1
2,9.1
4,7.1
11,18.1
13,16.0
3,8.0
12,17]−5−ドコセン及びその誘導体、ノナシクロ[10.9.1.1
4,7.1
13,20.1
15,18.0
2,10.0
3,8.0
12,21.0
14,19]−5−ペンタコセン及びその誘導体等があげられる。なお、環状オレフィンは、特開2007−291364号公報に開示されているように、水素添加処理されているものであってもよい。
【0034】
エチレン−環状オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン−ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン共重合体、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]−3−デセン−エチレン共重合体、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン−エチレン共重合体等が挙げられる。また、エチレン−環状オレフィン共重合体としては、市販品を用いてもよく、例えば、三井化学(株)製のアペル(商品名)、Topas Advanced Polymers GmbH社製のTOPAS(商品名)等が挙げられる。
【0035】
シクロオレフィン単独重合体としては特に限定されず、ガラス転移点(Tg)が120℃以下であれば、LDPE、LLDPE等のポリエチレン系樹脂への分散性が良くなり、TD方向の熱収縮性が向上するため好ましい。シクロオレフィン系単独重合体の密度は0.95〜1.05g/cm
3程度が好ましく、190℃21.18Nで測定したMFRは0.05〜4.0g/10分程度が好ましい。
【0036】
シクロオレフィン単独重合体の市販品としては、例えば、日本ゼオン(株)製のゼオノア(商品名)、JSR(株)製のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0037】
上記環状オレフィン系重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
本発明では、環状オレフィン系重合体の含有量は、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの合計100質量部に対して5〜100質量部であればよく、20〜80質量部が好ましく、30〜60質量部がより好ましい。なお、後述する本発明の多層熱収縮フィルムにおいては、多層熱収縮フィルムを構成する少なくとも1層の上記熱収縮フィルムにおいて、環状オレフィン系重合体の含有量が上記範囲となっていればよい。この場合、更に上記熱収縮フィルムの厚みが、多層熱収縮フィルムの総厚みの20%以上であることにより、多層熱収縮フィルムのTD方向において、より優れた収縮率を示すことができる。
【0039】
本発明の熱収縮フィルムは、上記直鎖状低密度ポリエチレン及び上記低密度ポリエチレンを含有する海部と、上記環状オレフィン系重合体を含有する島部とが形成された海島構造を有している。上記海島構造は、熱収縮フィルムをRuO
4で染色した上で当該熱収縮フィルムを切断し、切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察倍率1000〜10000倍にて観察し、拡大写真を撮影することにより確認することができる。TEM画像では、環状オレフィン系重合体がRuO
4により染色されて、黒く写る。
【0040】
上記海部は、直鎖状低密度ポリエチレン及び上記低密度ポリエチレンを含有していれば他の樹脂を含有していてもよいが、これらの樹脂を主成分として含有していることが好ましい。なお、本明細書中、主成分とは、含有量が最も多い成分(好ましくは、含有量が50重量%を超える成分)を意味する。海部の直鎖状低密度ポリエチレン及び上記低密度ポリエチレンの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0041】
上記島部は、環状オレフィン系重合体を含有していれば他の樹脂を含有していてもよいが、環状オレフィン系重合体を主成分として含有していることが好ましい。島部の環状オレフィン系重合体の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0042】
本発明の熱収縮フィルムは、フィルム巻き取り方向(MD方向)と平行方向に切断して形成されるMD断面における上記島部のアスペクト比(A)と、上記フィルム巻き取り方向(MD方向)と垂直な方向(TD方向)に切断して形成されるTD断面における上記島部のアスペクト比(B)との比(A)/(B)が1以下である。
【0043】
上記MD断面及びTD断面について図を用いて説明する。
図1は、本発明の熱収縮フィルムをインフレーション法により製造する製造方法の模式図である。
図1において、本発明の熱収縮フィルム1は、円形ダイス2の環状のダイリップから、紙面の下から上方向、すなわち、点線の矢印3の方向に向かって押出され、後工程において巻き取られる。このとき、特定のブロー比で点線4の方向に延伸される。本発明の熱収縮フィルムにおいて、上記フィルム巻き取り方向(MD方向)は点線3の方向であり、当該MD方向と平行方向に切断して形成される断面がMD断面である。また、本発明の熱収縮フィルムにおいて、上記フィルム巻き取り方向(MD方向)と垂直な方向(TD方向)は点線4の方向であり、当該TD方向に切断して形成される断面がTD断面である。
【0044】
図2に、MD断面及びTD断面が形成された本発明の熱収縮フィルムの模式図を示す。
図2において、本発明の熱収縮フィルム1は、MD方向を示す点線3と平行方向に切断してMD断面5が形成され、TD方向を示す点線4の方向に切断してTD断面6が形成されている。なお、
図2において、本発明の熱収縮フィルム1は、海部7と島部8とが形成された海島構造となっている。
【0045】
本発明の熱収縮フィルムは、フィルム巻き取り方向(MD方向)と平行方向に切断して形成されるMD断面における前記島部のアスペクト比(A)と、前記フィルム巻き取り方向(MD方向)と垂直な方向(TD方向)に切断して形成されるTD断面における前記島部のアスペクト比(B)との比(A)/(B)が1以下である。上記比(A)/(B)が1を超えると、熱収縮フィルムのTD方向の熱収縮性が低下し、TD方向の結束力が十分でない。上記比(A)/(B)は、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。また、上記比(A)/(B)の下限は特に限定されないが、0.1以上が好ましい。
【0046】
本発明の熱収縮フィルムは、TD断面における、上記島部の厚み方向(ZD方向(フィルム厚み方向))の長さが0.5μm以下である。TD断面における島部のZD方向の長さが0.5μmを超えると、島部の分散が不十分となり破断強度が低下する。上記TD断面における島部のZD方向の長さは、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。また、上記TD断面における島部のZD方向の長さの下限は特に限定されないが、0.01以上が好ましい。
【0047】
なお、本明細書において、MD断面における島部のアスペクト比(A)、TD断面における島部のアスペクト比(B)、及びTD断面における島部のZD方向の長さは、以下の測定方法により測定される値である。
【0048】
先ず、熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムをRuO
4で染色した上で切断する。切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察倍率1000〜10000倍にて観察し、拡大写真を撮影する。RuO
4により環状オレフィン系重合体相(以下、「COC相」とも示す)が染色され、TEMによる拡大写真により黒く撮影される。この際、観察倍率は、環状オレフィン系重合体の分散構造を判別でき、且つ写真内に30〜500個の分散相が確認できる倍率に調整するとよい。
【0049】
次いで、拡大写真において、COC相のアスペクト比を算出する。COC相の島部のアスペクト比は、三谷商事株式会社製の画像処理ソフトである「WinROOF Ver5.03」を用いて、分散相の重心を通るMD又はTD方向の長さとZD(厚み方向)の長さの比として算出することができる。
【0050】
上記「WinROOF Ver5.03」を用い、環状オレフィン系重合体が島部を形成し、且つLDPE及びLLDPEが海部を形成している場合の、MD断面における島部のアスペクト比(A)、TD断面における島部のアスペクト比(B)、及びTD断面における島部のZD方向の長さを算出する方法について以下に詳細に説明する。
【0051】
先ず、RuO
4によって黒く染色されたCOC相を正確に抽出するための前処理を行う。
【0052】
(i)染色されていないポリエチレン層の抽出
「画像処理」「強度」「ルックアップテーブル変換」「輝度抽出」コマンドを順に実行し、パラメータを128〜255に設定する。上記コマンドにより黒く染色されたCOC相が濃度0となり白く均一に分離される。
【0053】
(ii)2値化
「2値処理」「単一しきい値による2値化」を、しきい値を100に設定し実行する。これにより、COC相を白、ポリエチレン層を黒に2値化する。
【0054】
(iii)「画像処理」「強調」「反転」コマンドを実行する。これにより、白、黒を反転しCOC相を黒、ポリエチレン相を白に変更する。
【0055】
(iv)ノイズ除去
「2値処理」「削除」を、しきい値を面積1以下に設定して実行する。これにより、ポリエチレン樹脂層中の黒い斑点上のノイズを除去する。なお、撮影倍率に応じて画像を確認しながらしきい値を指定する。
【0056】
次いで、相の形状を滑らかにする処理を行う。
【0057】
(v)「2値処理」「膨張」を2回行う。これにより、領域中の白抜け部分や境界のくぼみを埋める。
【0058】
(vi)「2値処理」「収縮」を2回行う。これにより突起部を取り除き、膨張前のサイズに戻す。
【0059】
最後に、切断長を求めるため、形状分析を行う。
【0060】
(vii)「計測」「形状特徴」を行い、「切断長」を選択し実行する。これにより、領域の重心を通る最大長さ、最小長さを算出する。
【0061】
上記測定方法では、フィルム断面の観察を行うため、実質的に島部の最小長さが島部のZD切断長となり、MD断面においては島部の最大長さが島部のMD切断長、TD断面においては島部の最大長さが島部のTD切断長となる。上記MD切断長、TD切断長、及びZD切断長により、下記式により、MD断面における島部のアスペクト比(A)、及びTD断面における島部のアスペクト比(B)を算出した。
・MD断面における島部のアスペクト比(A)=MD切断長/ZD切断長
・TD断面における島部のアスペクト比(B)=TD切断長/ZD切断長
上記COC相の2値化における設定パラメーターは拡大写真のコントラストに応じて適宜変更して、形状分析が可能となるように設定することができる。
【0062】
上記COC相のアスペクト比の算出は、上記「WinROOF Ver5.03」以外の画像処理ソフトを用いた場合も、各画像処理ソフトに用意されている2値化処理及び形状分析として「切断長」と同等の測定を実行することで、行うことができる。上記画像処理ソフトとしては、例えば、オリンパス株式会社から市販されている「analySIS FIVE」、日本ローバー社から市販されている「Image Pro AMS」、NIH Image社から市販されている「Image J」、住友金属テクノロジー株式会社から市販されている「粒子解析」、イメージセンス社から市販されている「汎用画像解析ソフト」等の画像処理ソフトが挙げられる。
【0063】
本発明の熱収縮フィルムの厚みは、20〜100μmが好ましく、25〜80μmがより好ましい。熱収縮フィルムの厚みが厚過ぎると熱収縮性が低下するおそれがあり、薄過ぎると、熱収縮フィルムの破断強度が十分でないおそれがある。
【0064】
2.多層熱収縮フィルム
本発明の多層熱収縮フィルムは、上記熱収縮フィルムを少なくとも1層有し、上記熱収縮フィルムの厚みが、多層熱収縮フィルムの総厚みの20%以上である。熱収縮フィルムとしては、上記説明したものが用いられる。
【0065】
本発明の多層熱収縮フィルムは、上記熱収縮フィルムを有していればその層構成は特に限定されず、例えば、中間層としての上記熱収縮フィルムの両面に、内層及び外層として他の層を備える層構成、上記熱収縮フィルムの一方面に、他の層を備える構成、中間層としての他の樹脂層の両面に、内層及び外層として上記熱収縮フィルムを備える構成であってもよい。
【0066】
上記熱収縮フィルムと積層される他の層としては特に限定されず、例えば、LDPEを主成分とする層、LLDPEを主成分とする層等が挙げられ、LDPEからなる層、LLDPEからなる層等が好適に用いられる。
【0067】
本発明の多層熱収縮フィルムにおいて、上記熱収縮フィルムの厚みは、多層熱収縮フィルムの総厚みの20%以上である。熱収縮フィルムの厚みが多層熱収縮フィルムの総厚みの20%未満であると、TD方向の熱収縮性を十分に発揮できない。上記熱収縮フィルムの厚みは、多層熱収縮フィルムの総厚みの25%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。
【0068】
本発明の多層熱収縮フィルムの総厚みは、20〜100μmが好ましく、25〜80μmがより好ましい。多層熱収縮フィルムの総厚みが厚過ぎると熱収縮性が低下するおそれがあり、薄過ぎると、多層熱収縮フィルムの破断強度が十分でないおそれがある。
【0069】
3.熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムの製造方法
本発明の製造方法は、上記熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムを、インフレーション法により製造する製造方法であって、ブロー比が2〜6であり、且つ、環状ダイリップの直径(内径)をDとして、前記環状ダイリップの端部からDと同じ高さにおける前記熱収縮フィルム又は前記多層熱収縮フィルムのバブル径が2D以下である製造方法である。本発明の製造方法について図を用いて説明する。なお、以下の
図3及び4を用いた説明においては、熱収縮フィルムの製造方法の場合を例に挙げて説明するが、多層熱収縮フィルムの製造方法についても略同様である。
【0070】
図3は、本発明の製造方法の一例を示す模式図であり、
図4は環状ダイリップを示す模式図である。
図3において、本発明の熱収縮フィルム1は、円形ダイス2の環状のダイリップから、紙面の下から上方向、すなわち、点線の矢印3の方向に向かって押出され、後工程において巻き取られる。
【0071】
本発明の製造方法では、
図4に示すように、円形ダイス2の環状のダイリップの直径(内径)をDとした場合に、
図3において、ダイリップの端部21からDと同じ高さ、すなわち、ダイリップの端部21から紙面の上側にDと同じ高さでの円筒状の熱収縮フィルム1の直径、すなわちバブル径L1が2D以下である。上記バブル径が2Dを超えると、熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムのTD方向の熱収縮性が十分でない。上記バブル径は、1.8D以下が好ましい。また、上記バブル径は、1.1D以上が好ましい。バブル径が小さ過ぎると、熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムのTD方向の熱収縮性が十分でないおそれがある。なお、上記「Dと同じ高さ」とは、ダイリップの端部21から、ダイリップの端部21を含む平面から法線方向にDと同じ距離離れた位置である。
【0072】
上記
図3及び4において、熱収縮フィルム1は、点線4の方向に2〜6のブロー比で延伸される。なお、上記ブロー比は、
図3において、ダイリップの端部21における熱収縮フィルム1の円周の長さ(t1)と、
図3におけるフロストラインL2よりも紙面の上側の熱収縮フィルム1の円周の長さ(t2)との比を、以下の式により算出することにより得られる比である。
(ブロー比)=(t2)/(t1)
上記ブロー比が2未満であると、熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムのTD方向の熱収縮性が十分でない。上記ブロー比が6を超えると、延伸の安定性が悪くなり、フィルムの破断等が発生する。上記ブロー比は、2.2〜5.5が好ましく、3.0〜5.5がより好ましい。
なお、本発明の熱収縮フィルムのTD方向の収縮率は、実使用上20%以上が好ましく、収縮率を当該範囲とするためには、上記ブロー比は、3.0以上であることが好ましい。
【0073】
インフレーション成形の温度は、LLDPE及びLDPEの融点以上であればよく、好ましくは、融点+40℃〜融点+80℃である。具体的には、160〜200℃が好ましい。
【0074】
インフレーション成形の温度がLLDPE及びLDPEの融点+40℃未満であると、これらの樹脂が充分な溶融状態にはならず、インフレーション成形による溶融製膜ができなくなるおそれがある。一方、インフレーション成形の温度がLLDPE及びLDPEの融点+80℃を超えると、溶融製膜はできるものの、樹脂劣化促進などが発生するおそれがある。なお、本明細書中、融点は、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量測定により測定される値である。
【0075】
本発明の熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムは、TD方向の熱収縮性に優れ、且つ優れた破断強度を示すので、包装用、特に集積包装用に好適に用いることができる。特にPETボトル、缶飲料等の比較的重い物品の集積包装にも好適に用いることができる。
【0076】
また、本発明の製造方法は、上記特性を備える熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムを容易に製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例の範囲に限定されない。
【0078】
熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムを調製するための原料として以下の原料を用い、以下の方法により実施例及び比較例の熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムを調製した。
(原料)
・LDPE(旭化成製、サンテックM2204、MFR=0.4g/10分、密度0.922g/cm
3)・LLDPE(ダウ・ケミカル製 エリート5100、MFR=0.85g/10分、密度0.920g/cm
3)・COC (三井化学製 APL6509T、MFR=3.5g/10分、密度1.02g/cm
3)・COC (ポリプラスチックス社製 TOPAS 9506F-500、MFR=1g/10分、密度1.01g/cm
3)
【0079】
実施例1〜6及び比較例1〜5
(熱収縮フィルム(単層)の調製)
1台の押出機が接続具を介してリップギャップ1.0mm、円の内径Dが100mmの円形ダイスに接続されてなる単層インフレーション製膜装置を用意した。
【0080】
次に、表1に示す質量部のLDPE、LLDPE及び環状オレフィン系重合体(COC)を混合し、上記押出機に供給し、200℃にて溶融混練した後、溶融状態の樹脂を上記円形ダイスより吐出し、横方向のブロー比を表1のように調整して、溶融製膜した。円形ダイスの環状ダイリップの直径(内径)Dは100mmであった。また、環状ダイリップの端部から100mm(Dと同じ距離)押出された位置での熱収縮フィルムのバブル径を表1のように調整した。
【0081】
以上により、実施例1〜6及び比較例1〜5の厚み55μmの熱収縮フィルム(単層)を調製した。
【0082】
実施例7〜22及び比較例6〜9
(多層熱収縮フィルムの調製)
3台(内層、中間層及び外層の各層を形成するためのもの)の押出機が接続具を介してリップギャップ1.0mmの円形多層ダイスに接続されてなる多層インフレーション製膜装置を用意した。
【0083】
次に、表2及び3に示す質量部のLDPE、LLDPE及び環状オレフィン(COC)を混合し、上記各押出機に供給し、200℃にて溶融混練した後、溶融状態の樹脂を上記円形ダイスより吐出(共押出)し、横方向のブロー比を表2及び3のように調整して、溶融製膜した。円形ダイスの環状ダイリップの直径(内径)Dは100mmであった。また、環状ダイリップの端部から100mm(Dと同じ高さ)押出された位置での熱収縮フィルムのバブル径を表2及び3のように調整した。
【0084】
以上により、実施例7〜22及び比較例6〜9の厚み55μmの多層熱収縮フィルムを調製した。
【0085】
実施例1〜6及び比較例1〜5の熱収縮フィルム、並びに、実施例7〜22及び比較例6〜9の多層熱収縮フィルムについて、以下の評価を行った。
【0086】
<130℃収縮率>
JIS Z1709に準拠した測定方法により、温度条件を120℃から130℃に変更して、熱媒液としてシリコーンオイルを用いて測定した。測定は、加熱収縮前の熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムを用い、MD方向及びTD方向について行った。
【0087】
<引張強度>
加熱収縮前の熱収縮フィルム及び多層熱収縮フィルムについて、JIS Z7127に準拠して測定した。
【0088】
<島部のアスペクト比、及び島部のZD方向の長さ>
MD断面における島部のアスペクト比(A)、TD断面における島部のアスペクト比(B)、及びTD断面における島部のZD方向の長さを、以下の方法により測定した。
【0089】
先ず、熱収縮フィルム又は多層熱収縮フィルムをRuO
4で染色した上で切断した。切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察倍率5000倍にて観察し、拡大写真を撮影した。RuO
4により環状オレフィン系重合体相(以下、「COC相」とも示す。)が染色され、TEMによる拡大写真により黒く撮影された。この際、観察倍率は、環状オレフィン系重合体の分散構造を判別でき、且つ写真内に30〜500個の分散相を確認した。
【0090】
次いで、拡大写真において、COC相のアスペクト比を算出した。COC相の島部のアスペクト比は、三谷商事株式会社製の画像処理ソフトである「WinROOF Ver5.03」を用いて、分散相の重心を通るMD又はTD方向の長さとZD(厚み方向)の長さの比として算出した。
【0091】
上記「WinROOF Ver5.03」を用い、MD断面における島部のアスペクト比(A)、TD断面における島部のアスペクト比(B)、及びTD断面における島部のZD方向の長さを、以下の方法により算出した。
【0092】
先ず、RuO
4によって黒く染色されたCOC相を正確に抽出するための前処理を行う。
【0093】
(i)染色されていないポリエチレン層の抽出
「画像処理」「強度」「ルックアップテーブル変換」「輝度抽出」コマンドを順に実行し、パラメータを128〜255に設定する。上記コマンドにより黒く染色されたCOC相が濃度0となり白く均一に分離される。
【0094】
(ii)2値化
「2値処理」「単一しきい値による2値化」を、しきい値を100に設定し実行する。これにより、COC相を白、ポリエチレン層を黒に2値化する。
【0095】
(iii)「画像処理」「強調」「反転」コマンドを実行する。これにより、白、黒を反転しCOC相を黒、ポリエチレン相を白に変更する。
【0096】
(iv)ノイズ除去
「2値処理」「削除」を、しきい値を面積1以下に設定して実行する。これにより、ポリエチレン樹脂層中の黒い斑点上のノイズを除去する。なお、撮影倍率に応じて画像を確認しながらしきい値を指定する。
【0097】
次いで、相の形状を滑らかにする処理を行う。
【0098】
(v)「2値処理」「膨張」を2回行う。これにより、領域中の白抜け部分や境界のくぼみを埋める。
【0099】
(vi)「2値処理」「収縮」を2回行う。これにより突起部を取り除き、膨張前のサイズに戻す。
【0100】
最後に、切断長を求めるため、形状分析を行う。
【0101】
(vii)「計測」「形状特徴」を行い、「切断長」を選択し実行する。これにより、領域の重心を通る最大長さ、最小長さを算出する。
【0102】
上記測定方法では、フィルム断面の観察を行うため、実質的に島部の最小長さが島部のZD切断長となり、MD断面においては島部の最大長さが島部のMD切断長、TD断面においては島部の最大長さが島部のTD切断長となる。上記MD切断長、TD切断長、及びZD切断長により、下記式により、MD断面における島部のアスペクト比(A)、及びTD断面における島部のアスペクト比(B)を算出した。
・MD断面における島部のアスペクト比(A)=MD切断長/ZD切断長
・TD断面における島部のアスペクト比(B)=TD切断長/ZD切断長
【0103】
上述の画像処理を行った実施例2の熱収縮フィルムのMD断面のTEMによる拡大写真を
図5に示す。なお、
図5において、矢印はMD方向を示している。また、上述の画像処理を行った実施例2の熱収縮フィルムのTD断面のTEMによる拡大写真を
図6に示す。なお、
図6において、矢印はTD方向を示している。
【0104】
上述の画像処理を行った実施例3の熱収縮フィルムのMD断面のTEMによる拡大写真を
図7に示す。なお、
図7において、矢印はMD方向を示している。また、上述の画像処理を行った実施例3の熱収縮フィルムのTD断面のTEMによる拡大写真を
図8に示す。なお、
図8において、矢印はTD方向を示している。
【0105】
また、上述の画像処理を行う前の実施例3の熱収縮フィルムのMD断面のTEMによる拡大写真を
図9に示す。なお、
図9において、矢印はMD方向を示している。また、上述の画像処理を行う前の実施例3の熱収縮フィルムのTD断面のTEMによる拡大写真を
図10に示す。なお、
図10において、矢印はTD方向を示している。
【0106】
結果を表1〜3に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【課題】内容物(被包装物)の集積包装に適した熱収縮フィルムであって、TD方向の熱収縮性に優れ、且つ優れた破断強度を示し、容易に製造することができる熱収縮フィルムを提供する。
(2)前記熱収縮フィルムを、フィルム巻き取り方向(MD方向)と平行方向に切断して形成されるMD断面における前記島部のアスペクト比(A)と、前記フィルム巻き取り方向(MD方向)と垂直な方向(TD方向)に切断して形成されるTD断面における前記島部のアスペクト比(B)との比(A)/(B)が1以下であり、