【文献】
源田稔 他,O-5 水熱分解法と酵素分解法を組み合わせた農業残渣等のセルロースバイオマスの低コスト糖化技術の開発,「平成21年度バイオマスエネルギー関連事業成果報告会」,2010年 2月11日,p.55-69,URL,http://www.nedo.go.jp/events/report/FF_00003.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の提案では、鉱物を濃厚にする方法として、無機塩を外部から供給する必要がある、という問題がある。すなわち、無機塩をアルコール発酵槽に直接的に供給するか、間接的に酵母培養を介して供給する等の方策があるが、いずれの方策でも外部からの無機塩添加が必須となる。
よって、外部から無機塩のみを添加することなく、例えばアルコール等を糖液から発酵させる際の発酵効率の向上及び費用の低廉化を図ることができる糖液を用いた発酵システム及び方法の出現が切望されている。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑み、例えばアルコール等を糖液より発酵する際の発酵効率を向上させる糖液を用いた発酵システム及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、糖液を発酵してアルコールを製造するアルコール製造システムであって、前記糖液を酵母の添加により発酵し有機原料を生成する発酵槽と、前記発酵槽に
、バイオマス原料を水熱処理して当該バイオマス原料に含まれる鉱物及び無機塩を抽出した
前記バイオマス原料の水熱抽出画分のバイオマス水熱処理物を添加するバイオマス水熱処理物添加手段とを具備することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記バイオマス水熱処理物が、固形残渣画分
を含むことを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記バイオマス水熱処理物に加えて又は単独で、発酵処理残渣画分、蒸留残渣画分のいずれか一方又は両方を発酵槽に添加する添加ラインを有することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、前記アルコール発酵処理残渣画分、蒸留残渣画分のいずれか一方又は両方を、水熱分解装置により水熱処理した後、水熱処理物を発酵槽に添加することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0011】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、前記バイオマス水熱処理物が、セルロース系バイオマス原料を用いた有機原料の製造システムの糖化原料であることを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0012】
第6の発明は、第5の発明において、前記セルロース系バイオマス原料を用いた有機原料の製造システムの処理残渣を発酵槽に添加する添加ラインを有することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0013】
第7の発明は、第5又は6の発明において、前記セルロース系バイオマス原料を用いた有機原料の製造システムが、バイオマス原料を加圧熱水と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス固体中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる水熱分解装置と、前記水熱分解装置から排出される固形残渣画分中のセルロースを酵素処理して6炭糖を含む糖液に第1の酵素で酵素分解する第1の酵素糖化槽と、第1の酵素糖化槽で得られた第1の糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する第1の発酵装置とを具備することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0014】
第8の発明は、第7の発明において、さらに、前記水熱分解装置からの水熱抽出画分中のヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む糖液に酵素分解する第2の酵素分解装置と、該第2の酵素分解装置で得られた第2の糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する第2の発酵装置とを具備することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0015】
第9の発明は、第7の発明において、さらに、前記水熱分解装置からの水熱抽出画分中のヘミセルロース成分を硫酸分解して5炭糖を含む第2の糖液に分解する硫酸分解装置と、該硫酸分解装置で得られた第2の糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する第2の発酵装置とを具備することを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0016】
第10の発明は、第7の発明において、前記水熱分解装置が、バイオマス原料を圧密状態で徐々に移動させる水熱分解装置本体と、水熱分解装置本体内に加圧熱水を供給する熱水供給手段と、バイオマス原料と加圧熱水とを対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス原料中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離し、リグニン成分及びヘミセルロース成分を含む水熱抽出画分と、セルロースを含む固形残渣画分とを得ることを特徴とする糖液を用いた発酵システムにある。
【0017】
第11の発明は、糖液を発酵して有機原料を製造する糖液を用いた発酵方法であって、
バイオマス原料を水熱処理して当該バイオマス原料に含まれる鉱物及び無機塩を抽出した
前記バイオマス原料の水熱抽出画分のバイオマス水熱処理物を発酵槽に添加して有機原料を発酵することを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【0018】
第12の発明は、第11の発明において、前記バイオマス水熱処理物
が固形残渣画分
を含むことを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【0019】
第13の発明は、第11又は12の発明において、前記バイオマス水熱処理物が、セルロース系バイオマス原料を用いた有機原料の製造システムの糖化原料であることを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【0020】
第14の発明は、第11又は12の発明において、前記バイオマス水熱処理物に加えて又は単独で、発酵処理残渣画分、蒸留残渣画分のいずれか一方又は両方を発酵槽に添加することを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【0021】
第15の発明は、第14の発明において、前記アルコール発酵処理残渣画分、蒸留残渣画分のいずれか一方又は両方を水熱処理した後、アルコール発酵槽に添加することを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【0022】
第16の発明は、第13の発明において、前記セルロース系バイオマス原料を用いた有機原料の製造システムの処理残渣を発酵槽に添加することを特徴とする糖液を用いた発酵方法にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外部から無機塩のみを添加することなく、アルコール発酵効率の向上及び費用の低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0026】
本発明による実施例に係る糖液を用いた発酵システム及び方法として、アルコール製造システム及び方法を例示して、図面を参照しつつ説明する。
図1は、実施例1に係るアルコール製造システムの概略図である。
図1に示すように、実施例1に係るアルコール製造システム10Aは、糖液11を発酵してアルコールを製造するアルコール製造システムであって、前記糖液11を酵母13の添加により発酵し有機原料であるアルコールを発酵するアルコール発酵槽12と、前記アルコール発酵槽12にバイオマス原料を水熱処理したバイオマス水熱処理物20を供給ラインL
20により添加するバイオマス水熱処理物添加手段(図示せず)とを具備するものである。
【0027】
ここで、アルコール発酵原料である糖液11は糖液供給ラインL
10により、アルコール発酵槽12に送られ、添加される酵母13により所定条件において、発酵処理がなされる。
糖液11としては、例えば糖蜜、サトウキビの糖液、キャッサバの糖液、トウモロコシの糖液等を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
アルコール発酵がなされたアルコール発酵液14は、発酵液供給ラインL
11により蒸留塔15に送られ、ここで蒸留がなされる。
蒸留された蒸留物16は図示しない精製装置で精製され、アルコール供給ラインL
13により貯留槽17に送られる。この貯留槽17からは、供給ラインL
15により必要に応じて製品であるアルコール18を供給する。
【0028】
アルコール発酵槽12における酵母残渣13aは、酵母残渣排出ラインL
12により排出される。また、蒸留塔15における蒸留残渣15aは、蒸留残渣排出ラインL
14により排出される。
【0029】
ここで、本発明でバイオマス水熱処理物20とは、バイオマス原料を水熱分解装置により水熱分解処理した処理物のことをいう。特に、セルロース系バイオマス原料を水熱分解装置により水熱分解処理することで、セルロース系バイオマスに豊富に含まれる鉱物・無機塩を固相(バイオマス)から、液相側に抽出されバイオマス水熱処理物20を得るものである。なお、水熱分解装置の詳細は後述する。
セルロース系バイオマス原料としては、例えば稲藁、麦稈、コーンストーバー(トウモロコシの茎)、コーンコブ(トウモロコシの芯)、EFB(アブラヤシの空果房)等を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明では、この水熱分解装置からの水熱抽出画分のみならず、固形残渣画分もアルコール発酵槽12に供給するようにしてもよい。
これは、水熱抽出画分に抽出されなかった鉱物・無機塩は、固形残渣画分に留まっているので、これらを有効利用するためである。
【0030】
ここで、本発明において鉱物・無機塩とは、バイオマス水熱処理物に含まれ、アルコール発酵槽に供給される窒素、リン、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、亜鉛、銅、マンガン、セレン、モリブデン、ホウ素等を例示することができる。
【0031】
この結果、水熱分解装置からの水熱抽出画分又は固形残渣画分のいずれか一方又は両方のバイオマス水熱処理物20を添加することにより、アルコール発酵の際における鉱物・無機塩濃度を高めることができ、アルコール発酵速度を向上させることができる。
【0032】
本実施例にかかる他のアルコール製造システムの概略図を
図2に示す。
図2に示すように、実施例1に係るアルコール製造システム10Bは、実施例1にかかるアルコール製造システムにおいて、さらに、アルコール発酵処理残渣画分である酵母残渣13aと、蒸留残渣画分である蒸留残渣15aをアルコール発酵槽に添加する添加ラインL
16及びL
17を有している。
これにより、酵母残渣13aや蒸留残渣15aに残った鉱物・無機塩を有効利用することができる。よって、バイオマス水熱処理物20の他にさらに、酵母残渣13aや蒸留残渣15aを添加することにより、アルコール発酵の際における鉱物・無機塩濃度を高めることができ、アルコール発酵速度を向上させることができる。
なお、本実施例は、酵母残渣13aや蒸留残渣15aを同時に添加しているが、本発明はこれに限定されず、いずれか一方のみを添加するようにしてもよい。
【0033】
本実施例にかかる他のアルコール製造システムの概略図を
図3に示す。
図3に示すように、実施例1に係るアルコール製造システム10Cは、
図2に示すアルコール製造システム10Bにおいて、酵母残渣13a及び蒸留残渣15aを、水熱分解させる水熱分解装置21を設けている。
この水熱分解装置21により、酵母残渣13aや蒸留残渣15a側に留まっていた、鉱物・無機塩を熱水側に抽出させ、その水熱抽出物である水熱処理物22を添加ラインL
18によりアルコール発酵槽12に供給して、アルコール発酵の際における鉱物・無機塩濃度を高めることができ、アルコール発酵速度を向上させることができる。この際、水熱処理物22と共に、反応残渣である固形分も供給するようにしてもよい。
【0034】
本実施例では、糖液11を用いて有機原料であるアルコール発酵を行う場合について、説明したが、本発明の糖液を用いた発酵システム及び方法はこれに限定されるものではなく、発酵処理により求めるものとして、有機原料であるアルコール類(エタノール、メタノール等)以外の、化成品原料となる石油代替品類又は食品・飼料原料となるアミノ酸類を発酵装置により得ることができる。
【0035】
ここで、糖液11を基点とした化成品としては、例えばLPG、自動用燃料、航空機用ジェット燃料、灯油、ディーゼル油、各種重油、燃料ガス、ナフサ、ナフサ分解物であるエチレングリコール、エタノールアミン、乳酸、アルコールエトキシレート、塩ビポリマー、アルキルアルミニウム、PVA、酢酸ビニルエマルジョン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、MMA樹脂、ナイロン、ポリエステル等を挙げることができる。よって、枯渇燃料である原油由来の化成品の代替品及びその代替品製造原料としてバイオマス由来の糖液を効率的に利用することができる。
【実施例2】
【0036】
本発明による実施例に係るアルコール製造システム及び方法について、図面を参照して説明する。
図4は、アルコール製造システムの概略図である。
図4に示すように、実施例2に係るアルコール製造システム10Dは、バイオマス水熱処理物20が、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30の糖化原料(固形残渣画分35又は水熱抽出画分36)のものとしている。
【0037】
ここで、前記セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Aは、セルロース系バイオマス原料31を粉砕する粉砕機32と、バイオマス原料粉砕物33を加圧熱水と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス固体中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる水熱分解装置34と、前記水熱分解装置34から排出される固形残渣画分35中のセルロースを第1の酵素(セルラーゼ)38で酵素処理して6炭糖を含む第1の糖液39を得る第1の酵素糖化槽(C6)37と、第1の酵素糖化槽37で得られた第1の糖液(6炭糖)39を用いて、第1の酵母(C6)41を用いた発酵処理によりアルコール類を製造する第1のエタノール発酵槽(C6)40と、第1のアルコール発酵液42を精製して目的生成物の蒸留物44であるエタノール46と蒸留残渣47とに分離処理する蒸留槽43とから構成されている。なお、符号45は貯留槽、L
31〜L
34は供給ラインである。
【0038】
このような、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Aからの固形残渣画分35と水熱抽出画分36とは、供給ラインL
20a、L
20bとにより、アルコール発酵槽12側へ供給され、途中合流されてラインL
20よりアルコール発酵槽12内へ添加している。
【0039】
この結果、水熱分解装置34からの固形残渣画分35又は水熱抽出画分36のいずれか一方又は両方のバイオマス水熱処理物20を添加することにより、アルコール発酵の際における鉱物・無機塩濃度を高めることができ、アルコール発酵速度を向上させることができる。なお、水熱抽出画分36は、廃棄されるか又は酵素糖化槽37に供給するようにしてもよい。ここで、酵素糖化槽37に供給する場合には、固形残渣画分35から第1の糖液(6炭糖)39を得たのち、エタノールを得ると共に、水熱抽出画分36中に移行されたヘミセルロース成分を第2の酵素で酵素処理して5炭糖を含む糖液を得た後、エタノール得るようにしてもよい。
【0040】
ここで、前記水熱分解装置34の一例について説明する。
図5は、本実施例に係るバイオマスの水熱分解装置を示す概念図である。
図5に示すように、本実施例に係るバイオマスの水熱分解装置34Aは、セルロース系バイオマス原料(以下、「バイオマス原料」という)31を常圧下から加圧下に供給するバイオマス供給装置61と、供給されたバイオマス原料31を、いずれか一方(本実施例では下方側)から装置本体の内部にて、スクリュー手段62により他方(上方)へ搬送すると共に、前記バイオマス原料31の供給箇所とは異なる他方(上方)の側から加圧熱水63を装置本体内部に供給し、前記バイオマス原料31と加圧熱水63とを対向接触させつつ水熱分解し、排出する加圧熱水である水熱抽出画分36中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、前記バイオマス原料31中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる反応装置64と、前記装置本体の他方からバイオマス固形分である固形残渣画分35を加圧下から常圧下に抜出すバイオマス抜出装置65とを具備するものである。なお、図中、符号66は脱水液、67は加圧窒素、68は温度ジャケットを各々図示する。
【0041】
なお、本実施例では、バイオマス原料31を下端部側から供給しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これとは逆に上端部側から供給するようにしてもよく、この際には、加圧熱水63は下端部側から供給する。
前記常圧下から加圧下に供給するバイオマス供給装置61としては、例えばスクリューフィーダー、ピストンポンプ又はスラリーポンプ等の手段を挙げることができる。
【0042】
また、水熱分解装置34Aは、本実施例では、縦型の装置としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、傾斜型の装置や、水平型の反応装置としてもよい。
【0043】
ここで、縦型や傾斜型とするのは、水熱分解反応において発生したガスや原料中に持ち込まれたガス等が上方から速やかに抜けることができ好ましいからである。また、加圧熱水63で分解生成物を抽出するので、抽出効率の点から上方から下方に向かって抽出物の濃度が高まることとなり、好ましいものとなる。
【0044】
ここで、前記バイオマスとしては、特に限定されるものではなく、地球生物圏の物質循環系に組み込まれた生物体又は生物体から派生する有機物の集積をいう(JIS K 3600 1258参照)が、本発明では特に木質系の例えば広葉樹、草本系等のリグノセルロース資源や農業系廃棄物、食品廃棄物等を用いるのが好ましい。
【0045】
また、前記バイオマス原料31としては、粒径は特に限定されるものではないが、5mm以下に粉砕することが好ましい。
本実施例では、バイオマスの供給前において、前処理装置として、例えば粉砕装置を用いて前処理するようにしてもよい。また、洗浄装置により洗浄するようにしてもよい。
なお、バイオマス原料31として、例えば籾殻等の場合には、粉砕処理することなく、そのまま水熱分解装置34Aに供給することができるものとなる。
【0046】
また、水熱分解装置34Aにおける、反応温度は180〜240℃の範囲とするのが好ましい。さらに好ましくは200〜230℃とするのがよい。
これは、180℃未満の低温では、水熱分解速度が小さく、長い分解時間が必要となり、装置の大型化につながり、好ましくないからである。一方240℃を超える温度では、分解速度が過大となり、セルロース成分が固体から液体側への移行を増大すると共に、ヘミセルロース系糖類の過分解が促進され、好ましくないからである。
また、ヘミセルロース成分は約140℃付近から、セルロースは約230℃付近から、リグニン成分は140℃付近から溶解するが、セルロースを固形分側に残し、且つヘミセルロース成分及びリグニン成分が十分な分解速度を持つ180℃〜240℃の範囲とするのがよい。
【0047】
また、反応圧力は本体内部が加圧熱水の状態となる、各温度の水の飽和蒸気圧に更に0.1〜0.5MPaの高い圧力とするのが好ましい。
また、反応時間は20分以下、3分〜10分とするのが好ましい。これはあまり長く反応を行うと過分解物の割合が増大し、好ましくないからである。
【0048】
ここで、本発明では、水熱分解装置34Aの本体内の加圧熱水63とバイオマス原料31との流動は、バイオマス原料31と加圧熱水63とを対向接触させる、いわゆるカウンターフローで接触・撹拌・流動するようにすることが好ましい。
【0049】
また、前記水熱分解装置34Aでは、バイオマス原料31の固形分は底部側から供給され、一方加圧熱水63は頂部側から供給され、相互が対向して移動することにより、加圧熱水63(熱水、分解物が溶解した液)は、固体であるバイオマス原料31とカウンターフローに固体粒子間に滲みながら移動することとなる。
【0050】
その対向接触の際、固体であるバイオマス原料31が加圧熱水63により分解すると、その分解物が加圧熱水63側に溶解移行することとなり、この際鉱物・無機塩を溶出させている。
【0051】
なお、本発明では反応装置64の内部には気体部分が存在することとなるので、加圧窒素(N
2)67を内部に供給するようにしている。
【0052】
また、水熱分解装置34A内におけるバイオマス原料31の昇温は、装置本体内で加圧熱水63と接触させることによる直接熱交換で実施可能である。なお、必要に応じて、外部から水蒸気等を用いて加温するようにしてもよい。
【0053】
また、本発明においては、バイオマス原料31と加圧熱水63とを対向接触させることにより、加圧熱水63に可溶化され易い成分から順次排出されると共に、バイオマス原料31の投入部から熱水投入部まで温度勾配が生じる為、ヘミセルロース成分の過分解が抑制され、結果的に5炭糖成分を効率よく回収することができる。
さらに、対向接触させることで、熱回収ができシステム効率から好ましいものとなる。
【0054】
図6は、本実施例に係る他のバイオマスの水熱分解装置を示す概念図である。
図6に示すように、本実施例に係るバイオマスの水熱分解装置34Bは、バイオマス原料(本実施例では、例えば麦わら等)31を常圧下から加圧下に供給するバイオマス供給装置71と、供給されたバイオマス原料31を、上下のいずれかの端部側(本実施例では下端側)から垂直型装置本体(以下「装置本体」という)の内部を圧密状態で徐々に移動させると共に、前記バイオマス原料31の供給とは異なる端部側(本実施例では上端側)から加圧熱水63を装置本体内部に供給し、バイオマス原料31と加圧熱水63とを対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水63中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス原料31中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる反応装置72と、該装置本体の加圧熱水63の供給部側からバイオマス固形分である固形残渣画分35を加圧下から常圧下に抜出すバイオマス抜出装置65とを具備するものである。なお、符号V
11〜V
15はON−OFF弁を示す。
前記常圧下から加圧下に供給するバイオマス供給装置71としては、例えばピストンポンプ又はスラリーポンプ等のポンプ手段を挙げることができる。
【0055】
本実施例では、前記装置本体内部にバイオマス原料31をいわゆるプラグフローの圧密状態で撹拌する固定撹拌手段73を設けており、内部に送り込まれるバイオマス原料31を軸方向に移動する際に、撹拌作用により撹拌するようにしている。
【0056】
この固定撹拌手段73を設けることにより、装置本体内で固体表面、固体中の加圧熱水63の混合が進み反応が促進される。
【0057】
ここで、本発明では、水熱分解装置34Bの装置本体内の加圧熱水63とバイオマス原料31との流動は、バイオマス原料31と加圧熱水63とを対向接触させる、いわゆるカウンターフローで撹拌・流動するようにすることが好ましい。
【0058】
水熱分解装置34Bは、プラグフロー型による水熱分解であるので、構造が簡易であり、固体であるバイオマス原料31は、管中心軸と垂直に攪拌されながら、管中心軸と平行に移動することとなる。一方加圧熱水63(熱水、分解物が溶解した液)は、固体に対しカウンターフローにて固体粒子間に滲みながら移動する。
【0059】
また、プラグフローでは、加圧熱水63の均一な流れを実現することができる。なぜならば、固体のバイオマス原料31が加圧熱水63により分解すると、分解物が熱水側に溶解する。分解部近傍は高粘度となり、未分解部近傍へ優先的に熱水が移動し、未分解部が続いて分解することとなり、均一な熱水の流れになり、均一な分解が実現することとなる。
【0060】
また、水熱分解装置34Bにおける装置本体内面の管壁の抵抗により、装置本体内において、バイオマス原料31の入口側に比べ、バイオマス原料31の出口側の固体密度が減少し、加えて分解によりバイオマス固形分である固形残渣画分35が減少するため、加圧熱水63の占める割合が増加し、液滞留時間が増加することにより、液中の分解成分が過分解するので、少なくとも固定撹拌手段73を設けるようにしている。
【実施例3】
【0061】
本発明による実施例に係るアルコール製造システム及び方法について、図面を参照して説明する。
図7は、実施例3に係るアルコール製造システムの概略図である。
図7に示すように、実施例3に係るアルコール製造システム10Eは、実施例2のシステムにおいて、さらに、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Bにおける糖化原料の水熱処理画分36からアルコールを製造するものである。
【0062】
すなわち、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Bにおける水熱分解装置34から排出される水熱抽出画分36中に移行されたヘミセルロース成分を第2の酵素52で酵素処理して5炭糖を含む糖液53を得る第2の酵素糖化槽51と、第2の酵素糖化槽51で得られた第2の糖液(5炭糖)53を用いて、第2の酵母(C5)54による発酵処理によりアルコール類を製造する第2のエタノール発酵槽55とを具備してなり、第2のアルコール発酵液56を精製して目的生成物の蒸留物44であるエタノール46を製造している。なお、符号L
36〜L
37は供給ラインである。
【0063】
また、
図8に他のセルロース系バイオマス原料を用いたアルコール製造システムの構成図を示す。
図8に示すように、実施例3に係る他のアルコール製造システム10Fは、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Cにおいて、水熱抽出画分36の糖化に際して、酵素糖化以外の方法として、硫酸分解による糖化を行うものである。すなわち、水熱抽出画分36に硫酸を供給して、水熱抽出画分36中のヘミセルロース成分を硫酸分解して5炭糖を含む第2の糖液52に分解する硫酸分解装置80を用いるものである。
【0064】
ここで、本発明における硫酸分解処置装置80での分解条件としては、硫酸濃度が0.1〜5重量%、好ましくは1〜4重量%とし、分解温度が100〜140℃、好ましくは約120℃前後とし、分解時間としては、30分から3時間、好ましくは1時間前後としている。これは、上記範囲外であると、良好なヘミセルロースの分解を行うことができないからである。
【実施例4】
【0065】
本発明による実施例に係るアルコール製造システム及び方法について、図面を参照して説明する。
図9は、実施例4に係るアルコール製造システムの概略図である。
図9に示すように、実施例4に係るアルコール製造システム10Gは、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Dからの処理残渣を用いたアルコール製造システムの構成図を示す。
図9に示すように、セルロース系バイオマス原料を用いたアルコール製造システム30Dからの固形残渣画分35と水熱抽出画分36とは、供給ラインL
20a、L
20bとにより、アルコール発酵槽12側へ供給され、途中合流されてラインL
20よりアルコール発酵槽12内へ添加している。これと共に、第1の糖液(6炭糖)39、第1のアルコール発酵液42、蒸留残渣47、第2の糖液(5炭糖)52及び第2のアルコール発酵液56をそれぞれ、ラインL
40a、L
40b、L
40c、L
40d、L
40eよりアルコール発酵槽12側へ供給され、途中ラインL
40で合流され、アルコール発酵槽12内に、いずれか一つ以上の処理物を添加している。
【0066】
また、
図10に、実施例4に係る他のアルコール製造システム10Hは、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30Eからの処理残渣を用いたアルコール製造システムの構成図を示す。
図10に示すように、セルロース系バイオマス原料を用いたアルコール製造システム30Eからの固形残渣画分35と水熱抽出画分36とは、供給ラインL
20a、L
20bとにより、アルコール発酵槽12側へ供給され、途中合流されてラインL
20よりアルコール発酵槽12内へ添加している。これと共に、第1の糖液(6炭糖)39、第1のアルコール発酵液42、蒸留残渣47、第2の糖液(5炭糖)53及び第2のアルコール発酵液56をそれぞれ、ラインL
40a、L
40b、L
40c、L
40d、L
40eよりアルコール発酵槽12側へ供給され、途中ラインL
40で合流され、アルコール発酵槽12内に、いずれか一つ以上の処理物を添加している。
【0067】
この結果、セルロース系バイオマス原料を用いたアルコール製造システム30D又は30Eからの第1の糖液(6炭糖)39、第1のアルコール発酵液42、蒸留残渣47、第2の糖液(5炭糖)53及び第2のアルコール発酵液56をアルコール発酵槽12に循環することで、アルコール発酵での鉱物・無機塩濃度を高めることができ、アルコール発酵速度を向上できる。同時に、系外からの鉱物・無機塩の添加量を低減できる。
【0068】
本実施例では、セルロース系バイオマス原料31を用いたアルコール製造システム30A〜30Eとして、発酵処理により求めるものとして、有機原料であるアルコール類のエタノールを用いて例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アルコール類以外の、化成品原料となる石油代替品類又は食品・飼料原料となるアミノ酸類を発酵装置により得ることができる。
【0069】
ここで、糖液を基点とした化成品としては、例えばLPG、自動用燃料、航空機用ジェット燃料、灯油、ディーゼル油、各種重油、燃料ガス、ナフサ、ナフサ分解物であるエチレングリコール、エタノールアミン、乳酸、アルコールエトキシレート、塩ビポリマー、アルキルアルミニウム、PVA、酢酸ビニルエマルジョン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、MMA樹脂、ナイロン、ポリエステル等を挙げることができる。よって、枯渇燃料である原油由来の化成品の代替品及びその代替品製造原料としてバイオマス由来の糖液を効率的に利用することができる。