(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854597
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】サーマルプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/325 20060101AFI20160120BHJP
B41J 35/08 20060101ALI20160120BHJP
B41J 17/28 20060101ALI20160120BHJP
B41J 17/30 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
B41J2/325 A
B41J35/08
B41J17/28
B41J17/30 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-276075(P2010-276075)
(22)【出願日】2010年12月10日
(65)【公開番号】特開2012-121301(P2012-121301A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2013年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】京井 聡明
【審査官】
牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−000599(JP,A)
【文献】
特開2003−094705(JP,A)
【文献】
特開2008−023885(JP,A)
【文献】
特開2009−202417(JP,A)
【文献】
特開平05−220999(JP,A)
【文献】
特開2009−285980(JP,A)
【文献】
特開2010−105243(JP,A)
【文献】
実開平5−44545(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/325
B41J 17/28
B41J 17/30
B41J 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体と、
このヘッド本体に複数の発熱体をライン状に配列した発熱体と、
前記発熱体に対して印字用紙搬送方向下流側に設けられた転向部をと、を有するとともに、
対向するプラテンローラとの間に印字用紙及びインキリボンを移送可能とし、このインキリボンを用いてこの印字用紙に印字情報を転写し、前記転向部で前記プラテンローラと離反する方向にインキリボンを転向するサーマルプリンタであって、
前記ヘッド本体の前記発熱体の近傍に前記発熱体と平行してリボン移送方向変更部材を設け、このリボン移送方向変更部材を前記発熱体よりも、前記プラテンローラの方向に突出させ、前記リボン移送方向変更部材は、前記発熱体と、前記転向部と、の間に位置し、凸部を前記発熱体の配列方向に断続的に設けたことを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記凸部は樹脂よりなることを特徴とする請求項1記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記凸部の先端が円弧状であることを特徴とする請求項1及び2記載のサーマルプ
リンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッド及びサーマルヘッドを用いた熱転写プリンタにかかり、特にサーマルヘッドとインキリボンとの間に発生する摩擦力を低減することに着目したものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルヘッド及びプラテンローラとでインキリボン及び印字用紙を挟持して、サーマルヘッドにより発生する熱でインキリボンのインキを溶融し、溶融したインキを印字用紙に転写固着させることによって所定の情報を印字する熱転写プリンタが知られている。
【0003】
図4に基づき従来の熱転写プリンタについて詳説する。
図4は熱転写プリンタ1の概略側面図であり、熱転写プリンタ1は主にハウジング2と、印字用紙供給部3と、印字部4と、印字用紙カット部5と、から構成されており、ハウジング2の印字用紙カット部5下流側には排出口6が形成している。
【0004】
印字用紙供給部3は供給軸7を有し、この供給軸7にロール状印字用紙8を保持する。印字部4はサーマルヘッド9と、このサーマルヘッド9の対向する位置にあるプラテンローラ10と、インキリボン供給部11と、インキリボン巻き取り部12と、によって構成されている。インキリボン供給部11からインキリボン巻取り部12にはインキリボン13が案内ローラ14に案内されサーマルヘッド9の下部を掛け渡すように配置している。
【0005】
印字用紙供給部3から供給された印字用紙8は、移送ローラ15によって下流側にある印字部4方向へ移送され、サーマルヘッド9及びプラテンローラ10の間にインキリボン13とともに挟持される。このとき、インキリボン13はサーマルヘッド9において発生した熱によりインキが溶融し印字用紙8に所定の情報が印字される。印字後印字用紙8は印字用紙カット部5にて所望の長さにカットされ、排出口6から熱転写プリンタ1の外部に排出される。
【0006】
印字用紙8は図にその断面図を拡大して示すように、基材16に粘着剤17が塗布されており、剥離剤となるシリコーン18を介して台紙19に仮貼付されており、基材16の表面にインキが転写固着することによって所定の情報が表示される。
【0007】
次に熱転写プリンタ1に用いられるサーマルヘッド9について
図5を用いて説明する。
図5はサーマルヘッド9をプラテンローラ10側から見た裏面図であり、図示矢印方向が印字用紙8の移送方向における上流側から下流側を示している。
サーマルヘッド9は主に放熱板からなるヘッド本体20と発熱体21と、プリンタ本体の制御部によりこの発熱体21の熱量を制御する信号を伝達するためのコネクタ部22と、サーマルヘッド9をプリンタ本体の図示しないブラケットに支持するための係合部23と、で構成されている。
【0008】
発熱体21は複数の発熱素子がサーマルヘッド9の幅方向に断続してライン状に配置され、この発熱素子が発熱することでインキリボン13のインキを溶融し、溶融されたインキが印字用紙8に転写固着することによって所定の情報が印字される。
【0009】
このような熱転写プリンタ1において、インキリボン13の撓み、皺、斜行といった印字不良の原因となる現象が生じていた。インキリボン13に皺等を発生させないために一定のテンションを持たせる方法として、インキリボン13の巻取りの速度を印字用紙の移送速度を上回るように図示しない制御部においてインキリボン13の巻取り速度を制御するものや、サーマルヘッド9においてインキリボン13が印字用紙8から剥離され、インキリボン巻取り部12方向へ転向する位置にインキリボン13を案内するガイド部材を設けたものがある。(例えば特許文献1参照。)
【0010】
しかし、上述の構成のプリンタ1においては例えば白黒反転させて印字する場合や印字濃度を上げる場合に、インキリボン13の一部に集中して熱エネルギーがかかるためインキリボン13が熱の影響により部分的に波状に歪みが生じる。この歪みによって皺が発生し、均等なテンションが与えられず印字不良やインキリボン13の斜行が発生する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−262018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
具体的に
図6を用いて説明する。
図6は
図4における印字部4の拡大側面図である。
印字用紙8はプラテンローラ10の回転駆動(図示矢印方向)に従って移送される。インキリボン13は発熱体21により加熱された後、転向部27でプラテンローラ10と離反する方向に転向し、
図4に示すインキリボン巻取り部12によって巻き取られる。
【0013】
インキリボン13はフィルム層24とその上にインキ層25を塗布したもので、その厚みは6μm〜8μmである。フィルム層24側に位置する発熱体21に発生する熱によりインキ層25のインキが加熱され、印字用紙8にインキが冷えて転写固着してからインキリボン13は印字用紙8から剥離される。このように印字するとき、インキリボン13のインキは、サーマルヘッド9によって溶融されてから下流側で印字用紙8から剥離されるまでの間溶融状態が続くこととなる。
【0014】
サーマルヘッド9の熱により加熱された直後のインキリボン13のフィルム層24は受ける熱量が高いと波状に歪むので、溶融状態にあるインキ層25のインキは歪んだフィルム層24の形状に従って変形する。よって、単にインキリボン13の巻取り速度を調整したり、特許文献1に記載のように、インキリボン13と印字用紙8とを剥離した後にインキリボン13をインキリボン巻取り部12方向へガイドするガイド部材を設けるのみでは、サーマルヘッド9により加熱された直後のインキが溶融状態で波状に歪んだインキリボン13に均等なテンションを付与することが出来なかった。
【0015】
さらに、インキリボン13及び印字用紙8はプラテンローラ10によってサーマルヘッド9方向へ押し付けられた状態で印字が行われるので、サーマルヘッド9とインキリボン13との間には常に一定の摩擦力が発生しており、インキリボン13が熱により歪んだ箇所は歪んでいない箇所と比べて摩擦力が増す。したがって、インキリボン13の巻取り速度が予定されていた速度よりも遅れる。他方印字用紙8はプラテンローラ10によって移送されるので、インキリボン13と印字用紙8との間にある速度差が予定されていた差よりも大きくなる。そうなると、溶融状態にあるインキが印字用紙8の移送される方向に引っ張られ、対するインキリボン13はサーマルヘッド9との間で印字用紙8の移送方向の反対方向へブレーキがかかり、インキ層25内でインキが分離(層内分離部26参照)する虞があった。層内分離が発生すると、印字された情報の濃淡が部分的に異なり適切な情報の表示が阻害される。
【0016】
上記の問題を解消する方法の一つとして、サーマルヘッド9の下流側に位置する転向部材27をインキリボンと交差する方向に調整してインキリボンをサーマルヘッド9から離反する方向へ押すように調整する方法が考えられるが、この調整は熟練した技術が必要となり一般のユーザーが容易に行うことが出来なかった。
【0017】
本発明は上記に鑑みてされたものであり、サーマルヘッドにより加熱され歪んだインキリボンに張りを持たせ、熟練の技術を必要とすることなくサーマルヘッドとインキリボンとの間に発生する摩擦力を低減するサーマルヘッド及び熱転写プリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、第一の発明は、ヘッド本体と、このヘッド本体に複数の発熱体をライン状に
配列した発熱体と、
前記発熱体に対して印字用紙搬送方向下流側に設けられた転向部をと、を有するとともに、対向するプラテンローラとの間に印字用紙及びインキリボンを移送可
能とし、このインキリボンを用いてこの印字用紙に必要可能な印字情報を転写し、
前記転向部で前記プラテンローラと離反する方向に転向するサーマル
プリンタである
。
また、前記凸部は不揮発性の樹脂剤を断続的に
塗布することにより形成されることを特徴とする。また、前記凸部の先端を円弧状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第一の発明によれば、サーマルヘッドの発熱体近傍にリボン移送方向変更部材を設けることで、インキリボンの移送路をプラテンローラ側に変更しインキリボンにテンションを付与させて、インキリボンとサーマルヘッドとの間で発生する摩擦力を低減し、インキ層内の剥離現象を容易に防止できる。
また、第二の発明によれば、発熱体近傍にリボン移送方向変更部材を設けたサーマルヘッドを熱転写プリンタに用いたことにより、白黒反転させて印字する場合等インキリボンに集中して高い熱エネルギーがかかっても、インキリボンとサーマルヘッドと間で発生する摩擦力を低減することで良好な印字品質を保つことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例による熱転写プリンタ28の概略側面図である。
【
図2】本発明の実施例によるサーマルヘッド29をプラテンローラ10側から見た裏面図及びリボン移送方向変更部材30の拡大図とその断面図である。
【
図3】同サーマルヘッド29を備えた
図1の熱転写プリンタ28の印字部4の拡大断面図である。
【
図4】従来の熱転写プリンタ1の概略側面図である。
【
図5】従来のサーマルヘッド9をプラテンローラ10側から見た離面図である。
【
図6】同サーマルヘッド9を備えた
図4の熱転写プリンタ1の印字部4の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施例)
本発明の実施例における熱転写プリンタ28及びサーマルヘッド29について
図1乃至
図3を用いて説明する。
ただし、
図4乃至
図6の従来技術と同様の構成については同一の符号を用い、その詳説は省略する。
【0022】
図1は、熱転写プリンタ28の概略側面図である。熱転写プリンタ28の最上流側に印字用紙供給部3を有し、印字用紙供給部3から供給された印字用紙8は下流側の印字部4においてサーマルヘッド29とプラテンローラ10によって、インキリボン供給部11より供給されたインキリボン13とともに挟持され所定の情報が印字された後さらに下流側にある印字用紙カット部5において所望のサイズにカットされ、排出口6から排出される。
【0023】
図2は、サーマルヘッド29をプラテンローラ10側からみた裏面及びリボン移送方向変更部材30の周辺の拡大図及びリボン移送方向変更部材30の断面図である。
サーマルヘッド29は幅方向に発熱体21が配置され、発熱体21は発熱素子が断続してライン状に配列され、この発熱素子が発熱することでインキリボン13のインキを溶融し、溶融したインキが印字用紙8に固着することによって所定の情報が印字される。発熱体21の近傍下流側にはサーマルヘッド29の幅方向にリボン移送方向変更部材30が設けられている。ここでいう近傍とは、例えば発熱体21の下流側1.0mm〜1.5mm程度の範囲である。
【0024】
リボン移送方向変更部材30はサーマルヘッド29の幅方向に凸状の部材となる凸部31が複数個設けられることにより構成され、発熱体21の下流側に断続的に設けられている。凸部31は、サーマルヘッド29の幅方向の長さXが2.2mm〜3.1mmであり、好ましくは3.0mmとすることができる。また、凸部31のサーマルヘッド29における用紙の移送方向の長さYは1.0mm〜1.2mmであり、好ましくは1.0mmとすることができる。また、凸部31がプラテン側に突出する厚さHは0.1mm〜0.12mmであり、好ましくは0.1mmとすることができる。また、凸部31の中心点Qと隣合う凸部31の中心点QとのピッチPが7.0mm〜9.0mmであり、好ましくは8.0mmとすることができる。
【0025】
また、凸部31は不揮発性の樹脂剤を塗布することで形成することができ、インキリボン13と接する凸部31の先端の形状は円弧状に形成することができる。
【0026】
サーマルヘッド29を備えた熱転写プリンタ28によって印字用紙8に所定の情報を印字する場合のインキリボン13と印字用紙8との関係について
図3に基づいて説明する。
【0027】
図3は熱転写プリンタ28における印字部4の拡大断面図である。印字用紙8はプラテンローラ10の図示矢印方向の回転駆動に従い、下流側へ移送される。印字用紙8がサーマルヘッド29及びプラテンローラ10によって挟持されたとき発熱体21によってインキリボン13が加熱され、インキ層25のインキが溶融し印字用紙8に付着する。印字用紙8にインキが付着した直後のインキは溶融状態にあり、インキリボン13が転向部27を通過するときは冷却され印字用紙8に転写固着された後インキリボン13と印字用紙8が互いに剥離される。発熱体21によって加熱されたフィルム層24は発生する熱量が高い場合フィルム層24が波状に歪む虞があるが、リボン移送方向変更部材30がインキリボン13を発熱体21に離反する方向へ押し出ことにより、すなわち、インキリボン13の移送方向をプラテンローラ9方向に僅かに変更させることにより、過熱直後のフィルム層24に対して一定のテンションが付与される。
【0028】
なお、上記の実施例ではリボン移送方向変更部材30は、発熱体の下流側に凸部31を断続的に設けたこととしているが、必ずしも断続的である必要はなく、本発明の課題を解決できる範囲であればリボン移送方向変更部材30は発熱体21と平行する位置に継続的に設けられていてもよい。
【0029】
上記の構成によれば、リボン移送方向変更部材30がインキリボン13を発熱体21と離反する方向に押し出したとしても印字動作は正常に行われ、かつ、インキリボン13と印字用紙8はプラテンローラ10によって発熱体21に押圧されるので、発熱体21と転向部27の間でインキリボン13にテンションを付与することができ、仮にフィルム層24が熱により歪んでいてもサーマルヘッド29における発熱体21の下流部分とフィルム層24との間に発生する摩擦力を、インキリボン13の巻取り速度に影響を及ぼさない程度にまで低減できる。
【0030】
さらに、サーマルヘッド29にリボン移送方向変更部材30を予め設ける構成としたことで、インキリボン13を離反させるための熟練の技術が不要となる。
【0031】
また、凸部31の先端を湾曲状に形成することによりインキリボン13と当接する面が少なくなるのでサーマルヘッド9とインキリボン13との間に発生する摩擦力を低減することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 熱転写プリンタ(従来技術、
図4)
2 ハウジング
3 印字用紙供給部
4 印字部
5 印字用紙カット部
6 排出口
7 供給軸
8 印字用紙
9 サーマルヘッド(従来技術、
図6)
10 プラテンローラ
11 インキリボン供給部
12 インキリボン巻取り部
13 インキリボン
14 案内ローラ
15 移送ローラ
16 基材
17 粘着剤
18 シリコーン
19 台紙
20 ヘッド本体
21 発熱体
22 コネクタ部
23 係合部
24 フィルム層
25 インキ層
26 層内分離部
27 転向部
28 熱転写プリンタ(実施例、
図1)
29 サーマルヘッド(実施例、
図2)
30 リボン移送方向変更部材
31 凸部
X 凸部31の幅方向の長さ
Y 凸部31の印字用紙8の移送方向の長さ
Q 凸部31の中心点
P 凸部31の中心点Qと隣接する凸部31のQの長さ
H 凸部31の厚さ