【実施例】
【0039】
ここで、転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材、及び、高低2種類の潜熱蓄熱材を組み合わせて容積比率を異ならせた実施例1〜3に基づいて、実施形態1の蓄熱動作を説明する。なお、比較のために、表1にそれぞれ単味の潜熱蓄熱材の例を比較例1〜3として示す。また、潜熱蓄熱材の例として、酢酸ナトリウム三水和物(以下、酢酸ソーダと略称する。)、チオ硫酸ナトリウム五水和物(以下、チオ硫酸ソーダと略称する。)、硫酸ナトリウム十水和物(以下、ボウ硝と略称する。)を示したが、転移温度に応じて、これら以外にも水和物系の化合物を適用できることは言うまでもない。ここで、酢酸ナトリウム三水和物や硫酸ナトリウム十水和物などの水和物は殆ど包晶物質であり、低温から高温への変化のときに相分離に相当する分解融解を起こして転移する。
【表1】
【0040】
図2に、実施形態1の潜熱蓄熱貯湯槽の貯湯タンク2に充填する潜熱蓄熱材として実施例1の高温潜熱蓄熱材8aとして酢酸ソーダ、低温潜熱蓄熱材8bとしてボウ硝を組み合わせて用い、それらの容積比率を1:1(50%:50%)とした場合について、貯湯時の貯湯タンクの温度分布の変化を示す。なお、
図2の温度分布の変化は熱計算により求めたものであり、横軸は熱交換器9(貯湯タンク2)の上部から下部までの位置を示し、縦軸はその位置における温水の温度を示している。
図2において、蓄熱を開始する際、貯湯タンク2の熱交換器9の下部から冷水(例えば、10℃)を取出し、加熱源6により加熱して熱交換器9の上部に高温水(例えば、80℃)を流し込む。
図2の曲線(1)に示すように、最初に蓄熱を開始する際、貯湯タンク2の上部の高温潜熱蓄熱材8aは低温(0〜20℃)であるため、高温潜熱蓄熱材8aである酢酸ソーダの熱容量により蓄熱(顕熱蓄熱)され、酢酸ソーダの転移温度(58℃)まで上昇する。この熱交換の作用は上部から下部に向かって高温水の温度を徐々に下げながら行われていくので、貯湯タンク上部になだらかな温度分布を発生させる。
【0041】
次に
図2の曲線(2)に示すように、貯湯タンク最上部の温度が高温潜熱蓄熱材8aの転移温度になると、高温潜熱蓄熱材8aによる潜熱蓄熱が始まり、最上部の狭い範囲では転移温度を保持する。最上部のすぐ下部では温水は転移温度に達していないので、上述した熱交換による顕熱蓄熱の作用により、さらになだらかな温度分布を貯湯タンク上部に発生させる。
【0042】
次に、最上部の高温蓄熱材8aの潜熱蓄熱が終了すると、
図2の曲線(3)、(4)に示すように、最上部では高温潜熱蓄熱材8aの顕熱蓄熱が始まり、温水温度は潜熱蓄熱温度より高くなるので、最上部のすぐ下部の狭い範囲で高温潜熱蓄熱材8aによる潜熱蓄熱が始まり、その部分の狭い範囲で温水温度は転移温度を保持する。転移温度を保持している箇所の上部では顕熱蓄熱による温度上昇があるため、熱交換器9に流れ込んでいる高温水の温度に比較的早く到達する。そのため、潜熱蓄熱が行われている箇所よりも上部で高温の温度成層が発生する。
【0043】
さらに、
図2の曲線(5)に示すように、なだらかな温水の温度分布が低温潜熱蓄熱材8bであるボウ硝が充填されている層の最上部に到達し、ボウ硝による顕熱蓄熱が始まって、ボウ硝が充填されている層の最上部における温度が低温潜熱蓄熱材8bの転移温度(32℃)に達すると、低温潜熱蓄熱材8bの最上部で潜熱蓄熱が始まり、この狭い部分で低温潜熱蓄熱材8bの転移温度を保持する。
【0044】
次いで、
図2の曲線(6)に示すように、高温潜熱蓄熱材8aと同様に、低温潜熱蓄熱材8bの転移温度を保持している箇所の下部では低温潜熱蓄熱材8bの転移温度より低い温度でなだらかな温度分布が発生し、すぐ上部では温度成層を発生する。このときの温度成層の温度は高温潜熱蓄熱材8aの転移温度となる。つまり、貯湯タンクの上部から高温水温度の温度成層、高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層、低温潜熱蓄熱材8bの転移温度より低くなだらかな温度分布の層の3つの温度層になる。
【0045】
さらに高温水を流し込むと、
図2の曲線(7)に示すように、高温潜熱蓄熱材8aへの潜熱蓄熱が終了し、高温の温度成層と高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層の温度境界が崩れ始めながら貯湯タンク下部へ移っていき、高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層がなくなっていく。そして、
図2の曲線(8)に示すように、最下部の低温潜熱蓄熱材8bへの潜熱蓄熱が終了すると、熱交換器の底部の給水口から抜き出される低温水が設定上限温度(例えば、35℃)に達すると、この貯湯タンクへの蓄熱が終了する。加熱源6に導入する低温水の設定上限温度は、例えば加熱源6にヒートポンプ給湯装置を用いた場合は、COPが1以下にならないように設定されている。
【0046】
なお、貯湯タンク2に蓄えられた湯を給湯場所で使う際、温度が逆転した形で同様な温度分布の変化が発生する。但し、貯湯タンク2の上部の数十L(リッター)分は、急激な給湯需要のため高温潜熱蓄熱材8aへ残しておくのが普通である。
【0047】
図3に、実施例1〜3の組み合わせの潜熱蓄熱材と、比較例1、3の単味の潜熱蓄熱材を充填した貯湯終了時と給湯終了時の貯湯タンク内の温度分布を示す。
図3の横軸及び縦軸は
図2と同様である。図中の曲線(12)は、実施例1の貯湯終了時の温度分布である。実施例1の潜熱蓄熱材を充填した熱交換器9(貯湯タンク2)において出湯を続けていくと、貯湯時とは逆の現象が起きるので、最終的には
図3の曲線(22)に示す温度分布となる。なお、
図3の曲線(22)は、給湯開始時に速やかな給湯を可能にするために、熱交換器9の上部に数十Lの高温水を残した場合の温度分布である。つまり、酢酸ソーダは、給湯温度以上の転移温度であるから、高温水を少し残しておけば、急な給湯需要に対応することができる。
【0048】
図3において、実施例2の低温潜熱蓄熱材8bのボウ硝を多くした組み合わせの場合には、曲線(13)に示すように、貯湯終了時の蓄熱量は下部の顕熱蓄熱分が多くなっている。しかし、給湯終了時の温度分布は、曲線(23)に示すように、中温水の残量が多くなる。同様に、実施例3の、さらに低温潜熱蓄熱材8bのボウ硝を多くした組み合わせの場合には、曲線(14)に示すように、貯湯終了時の蓄熱量がさらに多くなるが、給湯終了時の温度分布は、曲線(24)に示すように、中温水の残量がさらに多くなる。
【0049】
なお、比較例1の酢酸ソーダ単味の場合は、
図3の曲線(11)に示すように、貯湯終了時において潜熱蓄熱材の転移温度(58℃)より低い温度領域が多く発生して、その領域での潜熱蓄熱がされていないことが理解できる。これは、低温潜熱蓄熱材が存在しないために、潜熱蓄熱が行われている箇所よりも転移温度(58℃)からなだらかに低下していく温度分布が発生して、最下部の温度が設定上限温度に達する状態までなだらかな温度分布の状態のままでいるためである。なお、給湯終了時には、
図3の曲線(21)に示すように、中温水の残量がほとんどなく、蓄熱できた熱量はすべて使い切ることができている。しかし、給湯需要温度以下の温水が少ないが、蓄熱量は
図3において、曲線(11)と(21)に挟まれる領域の面積に相当する顕熱蓄熱量と、曲線(11)のうち潜熱蓄熱材の転移温度より高い温度で蓄熱されている領域での潜熱蓄熱量との合計に相当するから、曲線(11)のうち転移温度(58℃)未満の領域の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていないことが分かる。
【0050】
また、比較例2のボウ硝単味の場合は、
図3の曲線(15)に示すように、貯湯終了時において、実施例1の下部の状態と同様に、貯湯タンクのほとんどで加熱された高温水の温度(80℃)まで達していて、潜熱蓄熱材の全てで潜熱蓄熱ができている。しかし、
図3の曲線(25)に示すように、給湯終了時には、酢酸ソーダの蓄熱時の状況と逆の状況が発生するため、転移温度(32℃)より高い中温水の残量が多くなる。つまり、蓄熱量は
図3において、曲線(15)と(25)に挟まれる領域の面積相当する顕熱蓄熱量と、曲線(25)のうち潜熱蓄熱材の転移温度よりも低い温度で使い切った領域での潜熱蓄熱量との合計に相当するから、曲線(25)のうち転移温度(32℃)より高い領域の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていない。そのため、貯湯タンクの容積を小型化する効果が得られない。
【0051】
また、比較例3のチオ硫酸ソーダ単味の場合は、
図4の曲線(16)と曲線(26)に示すように、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていないことが理解できる。すなわち、蓄熱終了条件は、上述したように、貯湯タンク2の最下部の温度が設定上限温度に達するときであり、チオ硫酸ソーダや酢酸ソーダの場合、ボウ硝と違って、転移温度が設定上限温度より高いので、チオ硫酸ソーダや酢酸ソーダの潜熱蓄熱が始まる前に蓄熱が終了することになり、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できない。一方、給湯終了条件は、同様に、例えば貯湯タンク2の頂部から数十リットルの箇所の温度が設定下限温度に達したときになる。この設定下限温度は、ふろの追炊き需要に基づいて設定するが、酢酸ソーダの転移温度(58℃)より低く設定できるが、チオ硫酸ソーダの転移温度(48℃)やボウ硝の転移温度(32℃)では難しくなり、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できない。
【0052】
図5を参照して、上述した実施例1の組み合わせの潜熱蓄熱材を用いて、中温水取り出しを行うことにより、貯湯タンクの容積を一層小型化できることについて説明する。
図5は、
図3と同様、貯湯終了時と給湯終了時の熱交換器9の上下方向の温度分布をそれぞれ曲線(12)、(22′)で示している。図から明らかなように、貯湯終了時の温度分布は、中温水取出しを行わない場合の温度分布曲線(22)と比較して、中温水の残量が少なくなっている。これにより、貯湯タンク及び熱交換器9の容積を一層小型化できるという効果が得られる。
【0053】
図6に、実施例1〜3と比較例1〜3の潜熱蓄熱材を用いた貯湯タンクについて、中温水取り出し無しの場合(薄色のバーチャート)と、中温水取り出し有りの場合(濃色のバーチャート)の貯湯タンク2の容積の比較を示す。図において、縦軸は43℃換算給湯量(貯湯タンク容積比率)を示す。また、図中に示した閾値線L1は現状の貯湯タンクの43℃換算給湯量を示し、L2は開発目標である貯湯タンクの容積を3/4に小型化する43℃換算給湯量を示す。図から明らかなように、実施例1〜3はいずれも現状よりも貯湯タンクの容積を小さくできることが分かる。特に中温取り出し有りの場合は、実施例1〜3のいずれもが開発目標のL2に達している。また、転移温度が低い比較例2のボウ硝単味の場合で、中温取り出し有りの場合は、現状のL1を越えているが、比較例1,3は、いずれも現状のL1に達していない。
【0054】
(実施形態2)
図7に実施形態2の本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の構成を示す。
図1の実施形態1では、複数の潜熱蓄熱材として、それぞれ潜熱蓄熱材を素材のまま貯湯タンク2内に充填する例を説明した。したがって、実施形態1によれば、融解した潜熱蓄熱材が給湯に混入するのを防止するため、熱交換器9を介して温水と潜熱蓄熱材との熱交換をするようにしている。
【0055】
これに対して、本実施形態2は、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成した高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bを貯湯タンク2内に充填した点が異なる。また、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めたことから、融解した潜熱蓄熱材が給湯に混入するのを防止できる。そのため、実施形態1のような熱交換器9を設ける必要がなく、出湯口4と給水口3の間に流通させる温水を高温潜熱蓄熱材18a及び低温潜熱蓄熱材18bの隙間に流通させることができ、熱交換器9に比べて熱交換速度を高めることができる。
【0056】
なお、実施形態2において、高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bが混じり合うのを防止するため、金網あるいはパンチングメタル等の板材下なる仕切り板19を設けることが好ましい。また、中温水取出し管12は、貯湯タンク2の低温潜熱蓄熱材18bの充填層の上部に開口させて、中温水を取り出すようにする。
【0057】
さらに、実施形態2において、実施形態1と同様に、熱交換器9を設けてもよい。この場合は、非水溶性の殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成された潜熱蓄熱材18a又は18b相互及び熱交換器9との間に形成される隙間に伝熱性の液体を充填することが好ましい。潜熱蓄熱材18a又は18b相互、及び潜熱蓄熱材18a又は18bと熱交換器9との間の熱交換の効率を向上できる。また、貯湯タンク2には給水圧が加わらないので、貯湯タンク2の肉厚を薄くでき、あるいは、貯湯タンク2を樹脂で形成することができる。さらに、貯湯タンク2の断面を多角形を含む角筒状、あるいは任意の形状に形成することができる。
【0058】
(実施形態3)
図8に実施形態3の本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の構成を示す。 同図に示すように、本実施形態3は、実施形態1の貯湯タンク2を、高温潜熱蓄熱材8aが充填された高温貯湯タンク2aと、低温潜熱蓄熱材8bが充填された低温貯湯タンク2bとに分割して並べて設置するようにしたことを特徴とする。また、高温貯湯タンク2aの頂部に出湯口4が設けられ、低温貯湯タンク2bの底部に給水口3が設けられている。高温貯湯タンク2aの底部は、連通管20を介して低温貯湯タンク2bの頂部に連通されている。
【0059】
また、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2b内に、実施形態1と同様に熱交換器9a、9bが分割して設けられている。これに代えて、実施形態2と同様に、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成した高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bを、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bに分けて充填してもよい。この場合、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2b内に伝熱性を有する液体を充填することが好ましい。
【0060】
このように構成される実施形態3によれば、潜熱蓄熱貯湯槽としての貯湯容量が同じであれば、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bの水平面上の断面積を小さくできる。したがって、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bを並べて設置すると、設置スペースを横長の長方形にできるから、潜熱蓄熱貯湯槽の設置場所の制限が緩和される。また、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bの横断面を矩形又は多角形として角筒状に形成すれば、設置スペースを一層小さくできる。
【0061】
上述した各実施形態において、加熱源6としてヒートポンプ装置を用いた例で説明した。本発明は、これに限らず、加熱源6として太陽熱集熱装置を用いることができる。さらに、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器のうちの少なくとも1つ、あるいは複数を組み合わせて用いることができる。ここで、ガス又は灯油の給湯器には、高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器を適用できる。
【0062】
太陽熱集熱装置を用いた場合、循環管5aにより給水する水温度が低い方が集熱能力が高い。また、早朝から昼にかけて日射量が多く、高温集熱が可能になるが、昼から夕方にかけて日射量が減っていき、集熱温度が下がっていく。したがって、貯湯タンク2内に温度成層を形成しない場合は、貯湯タンク2の給水口側の温度が高くなり、夕方の太陽熱集熱ができなくなる場合がある。そこで、本発明のように、貯湯タンク2の給水口側に低温潜熱蓄熱材8b、18bを充填し、貯湯タンク2の給水口側の温水温度を下げた温度成層を形成することにより、太陽熱集熱を増やすことができる。
【0063】
また、夕方の太陽熱集熱の低下により高温水の温度が低下し、高温潜熱蓄熱材8a,18aの転移温度よりも低下した場合は、貯湯タンク2の中間部に加熱水の中間入口を設けて、そこから温度が低下した高温水を戻すことにより、低温潜熱蓄熱材8b、18bの潜熱蓄熱能力を利用して、効率的に集熱を行わせることができる。
【0064】
上記のいずれの実施形態においても、給水口側の低温水を抜き出して加熱する加熱源がヒートポンプ装置及び/又は太陽熱集熱装置のとき、貯湯タンクの給水口側の最下部に充填する潜熱蓄熱材の転移温度が、加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定されることが好ましい。また、加熱源が高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器の場合も同様に、加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定することが好ましい。また、貯湯タンクの給水口側の充填層に充填される潜熱蓄熱材の転移温度が、給水口に供給される加圧水である上水道の水温よりも高い温度に設定されることが好ましい。さらに、貯湯タンクの出湯口側の充填層に充填される潜熱蓄熱材の転移温度は、出湯口から出湯する高温水の最低設定温度以上に設定されることが好ましいが、少なくとも出湯口から出湯する高温水の最高設定温度以下に設定することが好ましい。