特許第5854650号(P5854650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5854650生体親和性透明シート、その製造方法、及び細胞シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854650
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】生体親和性透明シート、その製造方法、及び細胞シート
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/14 20060101AFI20160120BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160120BHJP
   C01B 25/32 20060101ALN20160120BHJP
【FI】
   C12N11/14
   C12M1/00 C
   !C01B25/32 Q
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-124225(P2011-124225)
(22)【出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2012-249570(P2012-249570A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2014年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】楠 正暢
(72)【発明者】
【氏名】西川 博昭
(72)【発明者】
【氏名】本津 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 太陽
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/108373(WO,A1)
【文献】 特開平03−223150(JP,A)
【文献】 特開平08−097483(JP,A)
【文献】 特開2002−274930(JP,A)
【文献】 特開2009−263201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00−13/00
C12M 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体親和性セラミックス膜を、生体親和性セラミックス膜が維持できる環境下において除去可能な部分を含む基材上に成膜する成膜工程と、
生体親和性セラミックス膜が成膜された基材を前記環境下で除去し、生体親和性セラミックス膜を得る除去工程と、
生体親和性セラミックス膜の上下面のうちの少なくとも一面が生体親和性セラミックス粉末に覆われるような状態で、生体親和性セラミックス膜を熱変形し難い材質により構成された耐熱容器内に収容する収容工程と、
生体親和性セラミックス膜と生体親和性セラミックス粉末とを収容した耐熱容器を熱処理して前記生体親和性セラミックス膜を結晶化し、結晶化した生体親和性透明シートを得る熱処理工程と、
耐熱容器から生体親和性透明シートを取り出す取出工程と、
を備えている生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項2】
収容工程において、生体親和性セラミックス膜の上下両面が覆われるように、生体親和性セラミックス膜を生体親和性セラミックス粉末に埋込む請求項1に記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項3】
生体親和性透明シートが、ハイドロキシアパタイトから構成されている請求項1又は2に記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項4】
生体親和性透明シートが、種類の異なる複数のアパタイトから構成されている請求項1から3までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項5】
基材の除去可能な部分が、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する材料から構成され、除去工程において、生体親和性セラミックス膜が成膜された基材を溶媒に浸漬することによって、基材の除去可能な部分を除去する請求項1から4までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項6】
基材の除去可能な部分が、有機溶媒に溶解する樹脂から構成され、溶媒が有機溶媒である請求項5に記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項7】
基材の除去可能な部分が、水溶性無機塩又は水溶性有機物から構成され、溶媒が水系溶媒である請求項5に記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項8】
レーザーアブレーション法により、生体親和性セラミックス膜を成膜する請求項1から7までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項9】
生体親和性セラミックス粉末が、生体親和性透明シートと同一素材である請求項1から8までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項10】
耐熱容器が、金属素材からなる請求項1から9までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理工程における熱処理の温度が800℃以下である、請求項1から10までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【請求項12】
厚さが1〜100μmである生体親和性透明シートを製造する、請求項1から11までのいずれかに記載の生体親和性透明シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体親和性及び生体関連物質の吸着性が高く、新規な生体材料として使用でき、生きた細胞の増殖・分化などをリアルタイムで観察できる生体親和性透明シート、その製造方法、及びこの生体親和性透明シートの表面に細胞を播種して増殖させた細胞シートに関する。
【背景技術】
【0002】
表面に細胞を播種して増殖するための細胞培養足場として使用するため、又は生きた細胞の増殖・分化などをリアルタイムで観察するため、生体親和性セラミックス膜のみからなるとともに、可撓性及び柔軟性を備える生体親和性透明シートが従来から研究されている(特許文献1を参照)。
【0003】
この生体親和性透明シートは、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する基材の上に透明生体親和性セラミックス膜を成膜(成膜工程)したのち、前記溶媒により基材を溶解する(溶解工程)ことによって製造される。
【0004】
そして、得られた生体親和性透明シートをより結晶化して、可撓性及び柔軟性を増すため、高温の水蒸気含有ガス又は炭酸含有ガス中で熱処理する熱処理工程を付け加えた製造方法についても研究がなされている。
【0005】
しかし、熱処理工程中に生体親和性透明シート内に温度ムラが生じ、この温度ムラによって生体親和性透明シートに反りや割れなどの欠陥を生じてしまうため、生体親和性透明シートを、原型をとどめたまま、高い成功確率で熱処理することは困難であった。また、熱処理に際して、水蒸気含有ガス、炭酸含有ガスなどのガス、及びこれに係る付帯設備が別途必要であり、無駄な費用が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開2007−108373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来よりも大きな生体親和性透明シートを、反りや割れなどの欠陥を生じさせずに高い成功確率で製造できる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の生体親和性透明シート製造方法は、生体親和性セラミックス膜を結晶化する際に、生体親和性セラミックス膜の上下面のうちの少なくとも一面が生体親和性セラミックス粉末に覆われるような状態で、熱処理することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の生体親和性透明シートの製造方法は、従来よりも大きくて欠陥の少ない生体親和性透明シートをより高い成功確率で製造できる。そのため、この製造方法によって製造された生体親和性透明シートを、細胞シートの調製に使用すれば、より大きな細胞シートが得られる。そして、この細胞シートを患部の被覆に使用すれば、より少ない回数で患部を覆る。また、この細胞シートを細胞の増殖や分化、生体分子間の相互作用のリアルタイム観察に使用すれば、より効率よく観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】生体親和性透明シートの製造方法のうち、成膜工程、除去工程を模式的に示す図である。
図2】生体親和性透明シートの製造方法のうち、収容工程、熱処理工程、取出工程を模式的に示す図である。
図3】他の生体親和性透明シートの製造方法の一部を模式的に示す図である。
図4】生体親和性透明シートのX線回折パターンを示す図である。なお、図4(a)は熱処理工程前、図4(b)は熱処理工程後のX線回折パターンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.生体親和性透明シートとその製造方法
この発明の生体親和性透明シートの製造方法は、例えば、図1及び図2に模式的に示すように、成膜工程、除去工程、収容工程、熱処理工程、取出工程を含む方法である。また、この発明の生体親和性透明シートは、この発明の製造方法によって製造された生体親和性透明シートである。以下にその詳細について説明する。
【0012】
(1)成膜工程
成膜工程は、図1(a)に示すような基材1に、レーザーアブレーション法等により生体親和性セラミックス膜2を成膜する工程である。なお、図1(b)は成膜後の状態を示している。
【0013】
基材1には、例えば、生体親和性セラミックス膜2を溶解しない溶媒に溶解する部分を含む材料からなるものであれば特に限定することなく使用できる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属や非晶質酸化マグネシウムなどの水溶性無機塩、水溶性無機塩やグリシンをはじめとするアミノ酸結晶等の水溶性有機物、又は有機溶媒に溶解する樹脂、ワックスなどの素材を成形したもの、ナフタレンなどの芳香族系材料が挙げられる。これらの中でも、大きい生体親和性セラミックス膜を製造しやすいこと、安価であることから、樹脂、ワックス等が好ましい。
【0014】
この他にも、基材1には、例えば、紫外線の照射や加熱によって分解する樹脂、リンやヨウ素のように加熱により昇華する材料、ロウのように加熱により融解、燃焼する材料など、生体親和性セラミックス膜2が維持できる環境下で除去可能な材料からなるものであれば、特に限定することなく使用できる。
【0015】
なお、図1(a)に記載の基材1の形状は板状であるが、基材1の形状はこれに限定されるわけではなく、例えばドーム状、チューブ状、歯冠形状など、製造する生体親和性透明シートの形状に合わせた任意の形状でよい。
【0016】
生体親和性セラミックスは、アパタイト、その原材料及びそれを含む混合物のことである。ここで、アパタイトとはM10(ZOn)6X2の組成を持った鉱物群であり、式中のMは例えばCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnは例えばPO4、SO4、CO3であり、Xは例えばOH、F、O、CO3である。ハイドロキシアパタイトや炭酸アパタイトが一般的ではあるが、中でも生体親和性の高さからハイドロキシアパタイトが好ましい。また、アパタイトの原材料としてはリン酸カルシウム及びその水和物が例示でき、アパタイトを含む混合物としては牛等の骨から採取した生体アパタイトが例示できる。
【0017】
なお、種類の異なる複数の生体親和性セラミックスを組み合わせて使用してもよい。例えば、生体アパタイトと化学量論組成アパタイトとを組み合わせて使用してもよい。ここで、生体アパタイトは生体内吸収性があるため組織誘導性に優れており、反対に化学量論組成アパタイトは生体内に残留するため、組織の安定性に優れている。そのため、これらを組み合わせることによって早期の組織誘導性と組織安定性を兼ね備えたシートが製造できる。
【0018】
成膜は、レーザーアブレーション法、例えばスパッタリング法、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、分子線エピタクシー法、化学的気相成長法等の公知の成膜装置を利用する成膜方法であれば限定なく利用できる。中でも、効率よく均質な膜が得られることから、レーザーアブレーション法が好ましい。
【0019】
生体親和性透明シートが可撓性、柔軟性、一定の強度を備えるようにするため、生体親和性透明シートの厚さは、1〜100μmが好ましい。そのため、成膜する際の各種条件、例えば基材温度や雰囲気ガスのガス圧等は、成膜装置の構成や特性を考慮して、前記の生体親和性透明シートの厚さの範囲に収まるように調整する必要がある。
【0020】
(2)除去工程
除去工程は、生体親和性セラミックス膜2が維持できる環境下で、生体親和性セラミックス膜2が成膜された基材1から基材1を除去する工程である。具体的には、生体親和性セラミックス膜2が成膜された基材1を溶媒に浸漬する方法が例示できる。
【0021】
溶媒に浸漬する方法は、具体的には図1(c)〜図1(e)に示すようにして行われる。ここで、図1(c)は生体親和性セラミックス膜2を成膜した基材1を容器10内の溶媒11に浸漬した状態を示している。また、図1(d)は基材1が溶解した後の状態を示している。さらに、図1(e)は溶媒11から取り出した後の状態を示している。
【0022】
この際に使用する溶媒としては、生体親和性セラミックス膜2を溶解せず、少なくとも基材1の生体親和性セラミックス膜2と接する部分を溶解する液体であれば、水系溶媒のような極性溶媒、有機溶媒のような非性溶媒など特に限定することなく使用できる。水系溶媒の場合には、純水、細胞培養用緩衝液、細胞培養用液体培地等がより好ましい。また、有機溶媒の場合は、揮発性で生体セラミックス膜に残らないアセトン、ヘキサン、アルコール等が好ましい。なお、溶解時間や溶媒の温度などは基材の材質や厚さなどに応じて任意に調節すればよい。また、基材の材質に応じて複数の溶媒を組み合わせてもよい。
【0023】
また、紫外線照射や加熱によって分解、昇華、融解、燃焼などする材料からなる基材1使用する場合には、紫外線ランプ、加熱炉など公知の装置を使用して、基材1を除去する。なお、照射する紫外線の波長や強度、加熱する際の温度や雰囲気等は、生体親和性セラミックス膜2が維持できる範囲内で、基材1の材質に応じて設定することができる。
【0024】
なお、基材1を除去したのち、生体親和性セラミックス膜2を自然乾燥又は装置乾燥することによって、熱処理工程における溶媒により生じる温度ムラをより減らせる。
【0025】
(3)収容工程
収容工程は、図2に示すように、生体親和性セラミックス膜2の上下面のうちの少なくとも一面が生体親和性セラミックス粉末に覆われるような状態で、生体親和性セラミックス膜を耐熱容器に収容する工程である。なお、図2(f)は収納前の状態を示しており、図2(g)は収納後の状態を示している。
【0026】
生体親和性セラミックス粉末3は、生体親和性セラミックス膜2との間で相互作用(熱による拡散)によって、生体親和性セラミックス膜が割れるなどの悪影響が生じないのであれば、生体親和性セラミックス膜2と同一の素材を使用しなくてもよい。また、相互作用によって、生体親和性セラミックス膜2の品質が向上するのであれば、生体親和性セラミックス膜2と異なる素材を意図的に使用してもよい。
【0027】
ただし、熱伝導度が同一であり、熱処理中の気体の放出・吸収による素材成分の混入を防ぐため、同一種の素材が好ましい。例えば、生体親和性セラミックス膜2の素材がハイドロキシアパタイトの場合は、生体親和性セラミックス粉末3にはハイドロキシアパタイト粉末の使用が好ましい。
【0028】
耐熱容器は、上下面を構成するステンレス円板21と、中間部を構成するステンレスドーナツ板22と、これら束ねて一体化する足長の支柱23から構成されている。ここで、ステンレスドーナツ板22は、その中央部に円形の収容孔22aが開いている。また、ステンレス円板21とステンレスドーナツ板22は、その外周部に支柱23が貫通するための貫通孔21a、22bが、それぞれ開けられており、耐熱容器を組み立てる際には貫通孔21a、22bが互いに重なるように配置する。さらに、支柱23はボルト23aとこれを固定するナット23bを備えている。
【0029】
この耐熱容器への生体親和性セラミックス膜2と生体親和性セラミックス粉末3の収納はつぎのようにして行う。まず、収納容器の下面となるステンレス円板21の上に2枚のステンレスドーナツ板22を配置して円柱状の空間を形成し、この空間に生体親和性セラミックス粉末3を配置する。つぎに、生体親和性セラミックス粉末3の上に生体親和性セラミックス膜2を配置し、生体親和性セラミックス膜2を覆うように生体親和性セラミックス粉末3を配置して、その上に収納容器の上面となるステンレス円板21を配置する。最後に、貫通孔21a、22bに支柱23が貫通するようにボルト23aとナット23bを固定する。
【0030】
耐熱容器の上下面から生体親和性セラミックス膜2までの距離は、可能な限り等距離で短くする。また、生体親和性セラミックス膜2を前記円柱上空間の中心に配置する。これらによって、上下面及び側面から生体親和性セラミックス膜2への熱伝導による温度ムラが可能な限り小さくなるようにする。
【0031】
なお、耐熱容器は、前記ステンレスの他、熱処理工程において燃焼、変形しない素材、例えば、金属、セラミックスなどから構成されていれば使用できる。ただ、熱伝導率が高く、耐熱容器内部の温度ムラを生じ難いため、熱伝導性のよい金属、例えば白金、チタン、タングステン、インコネル、ハステロイなどが好ましい。
【0032】
また、耐熱容器の形状は、前記の形状に限定せず、任意の形状でよいが、収納する生体親和性セラミックス膜2の大きさに合わせてなるべく小さいほうがよい。例えば、ステンレス円板21、ステンレスドーナツ板22の厚さは、強度を維持できる限りなるべく薄くして、垂直方向の温度差を小さくしたほうがよい。これによって、耐熱容器内の温度ムラをより小さくできる。また、前記のように、耐熱容器の下部に複数の足部や台座を設ければ、加熱炉収納部の底面から浮かせた状態にして加熱でき、接触による温度ムラをより小さくできる。
【0033】
さらに、収容工程は、図2のように、生体親和性セラミックス膜2を生体親和性セラミックス粉末3に埋め込むことに限定しない。例えば、生体親和性セラミックス膜2の一面(例えば下面)側に板状の部材、例えば、生体親和性セラミックスからなる板状部材を配置し、他の面(例えば上面)を生体親和性セラミックス粉末3で覆ってもよい。
【0034】
(4)熱処理工程
熱処理工程は、生体親和性セラミックス膜2と生体親和性セラミックス粉末3を収納した耐熱容器を熱処理して、生体親和性セラミックス膜2を結晶化し、生体親和性シート4を得る工程である。
【0035】
熱処理方法は、セラミックス素材を熱処理する公知の方法、例えば図2(h)に示すような電気炉24により処理する方法が使用できる。この他にも、例えば、高周波加熱による方法が使用できる。
【0036】
熱処理温度や熱処理時間は、使用する生体親和性セラミックス膜2、生体親和性セラミックス粉末3、耐熱容器等によって変わるが、生体親和性セラミックス膜2が結晶化する熱処理温度と熱処理時間であればよく、熱処理温度が低く熱処理時間が短いほど生産性があがるため好ましい。
【0037】
例えば、厚さ1μmのハイドロキシアパタイト膜とアパタイト粉末とを電気炉で処理する場合には、熱処理温度は200℃〜800℃であり、熱処理時間は5時間〜50時間である。また、熱処理は、水蒸気含有ガスや炭酸ガス雰囲気下で行ってもよいが、これらを使用せず空気中で行っても同様の効果が得られる。
【0038】
(5)取出工程
取出工程は、図2(i)に示すように電気炉24から耐熱容器を取り出して分解し、図2(j)に示す生体親和性透明シート4を取り出す工程である。なお、電気炉24の温度が常温付近まで下がってから、電気炉24から耐熱容器を取り出すことにより、生体親和性透明シートの割れやヒビが防げる。
【0039】
このように、この発明の生体親和性透明シートの製造方法では、生体親和性セラミックス膜を耐熱容器に安定的に収容した状態で結晶化する。そのため、結晶化処理の間に生体親和性セラミックス膜が損傷する可能性が減り、より大きな生体親和性透明シートを高い確率で製造できるようになった。
【0040】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で様々な変更を加えられる。
【0041】
例えば、基材1が複数の素材を組み合わせたものであってもよい。具体的には、図3(a)に示すように、前記基材1と同様に溶媒11に溶解する材料からなる部分5aと、溶媒11に溶解しない材料、例えばガラス板や鋼板等からなる部分5bとを備えた基材5を使用してもよい。また、図3(b)に示すように、この5aの上面に溶媒11に溶解する材料からなる突起物5cにより一定のパターンを形成してもよい。
【0042】
このような基材5を使用すれば、生体親和性透明シートを製造するたびに基材を全て作り直す必要がないため、生体親和性透明シートをより安価に製造できる。また、図3(b)に示すような突起物5cによるパターンを形成した基材5を使用して、前記実施の形態と同様に、生体親和性セラミックス膜6の成膜(成膜後の状態を図3(c)に示す。)、基材5の溶解、生体親和性セラミックス膜6の乾燥を行うことによって、図3(d)に示すような貫通孔6aの開いた生体親和性透明シート6を製造できる。
【0043】
前記基材5は、溶媒11に溶解しないガラス板や鋼板等の上に、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、分子線エピタクシー法、化学的気相成長法などを用いて溶媒11に溶解する材料の被覆を生成すること、溶媒11に溶解する材料を溶かした液体をスプレーなどによって噴霧したのち乾燥させること等によって製造できる。
【0044】
この生体親和性透明シート6は、突起物5cの大きさと間隔によって貫通孔6aの直径と間隔を制御でき、これによって細胞増殖の速度等を制御できる。また、貫通孔6aを介して物質の交換する状態で細胞増殖できるので、生体親和性透明シート6の両面に種類の異なる細胞を増殖させられ、両面に異なる細胞が増殖した生体親和性透明シート6を複数積層することによって、異なる種類の細胞を含み複雑な構造を持った重層化シートを容易に製造できる。
【0045】
2.細胞シート
この発明の細胞シートは、生体親和性透明シートの表面に細胞を増殖させたものであり、直接患部に移植できるものである。以下にその詳細について説明する。
【0046】
(1)細胞
前記細胞としては、角膜上皮細胞、表皮角化細胞、口腔粘膜細胞、結膜上皮細胞、骨芽細胞、神経細胞、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、脂肪細胞、及びこれらの幹細胞等が例示できるが、これに限定するわけではない。また、これらの細胞は単独で使用してもよいが、複数の細胞を組み合わせて使用してもよい。さらに、その細胞の由来は特に限定する必要はないが、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ブタ、ヒツジなどを例示できる。ただ、この細胞シートをヒトの治療に用いる場合はヒト由来細胞の使用が好ましい。
【0047】
(2)培養方法
細胞の培養は、具体的にはつぎのようにして行う。まず、生体親和性透明シートをシャーレ等の培養容器の内部に載置し、シャーレ等内に適当な細胞培養液を添加して培地を捨て、生体親和性透明シートに染みこませる。この後、複数回培地交換を繰り返し、適当な時間放置することによって、細胞培養液を生体親和性透明シートに培地をなじませる。つぎに、細胞を生体親和性透明シート上に播き、シャーレ内に細胞培養液を添加して、通常の培養条件下で適当な期間培養する。また、必要に応じて培養液を交換する。
【0048】
なお、前記のように生体親和性透明シートの1つの面だけで細胞の増殖を行うのではなく、その両面で細胞の増殖を行ってもよい。例えば、貫通孔を有する生体親和性透明シートを使用し、その両面で異なる種類の細胞を増殖すれば、細胞を通過させることなく、細胞が産生し培養液中に放出する液性因子だけを通過させられる。これにより、例えば一つの面に上皮系細胞(例えば、表皮角化細胞)が増殖し、他の面にフィーダー細胞が増殖した細胞シートが得られる。
【0049】
ここで、使用するフィーダー細胞としては、例えば線維芽細胞、組織幹細胞、胚性幹細胞などが例示できるが、用途に応じて自由に変更でき、特に限定するものではない。また、上皮系細胞とフィーダー細胞とは、同一種の動物に由来する必要はないが、得られた細胞シートを移植に使用する場合には、上皮系細胞とフィーダー細胞とは同一種の動物由来するほうが好ましい。さらに、この細胞シートをヒトの治療に使用する場合は、上皮系細胞とフィーダー細胞にはヒト由来細胞の使用が好ましい。
【0050】
(3)培養培地
細胞培養のための培地は培養する細胞に対して、一般的に使用されているものであれば特に限定することなく使用できる。具体的には、D-MEM培地、MEM 培地、HamF12培地、HamF10培地が例示でき、これらの培地にはウシ胎児血清(FSC)等の血清を添加した培地でもよく、添加していない無血清培地でもよい。ただし、細胞シートをヒトの治療に使用する場合には、培地の成分は由来が明確なもの、又は医薬品として使用が認められているものが好ましい。
【0051】
(4)移植方法
表面に細胞を増殖させた細胞シートは、単独で又は複数枚積み重ねて、直接患部に移植する。このように複数枚積み重ねることによって、三次元構造を持った細胞組織を移植できる。なお、培養液からの細胞シートの回収、細胞シートの積み重ね、患部への移植は、例えば、ピンセットなどを使用する手技によって行う。
【0052】
また、移植後に細胞シートと生体組織とを固定する方法は、公知の方法であれば特に限定する必要なく使用できる。例えば、細胞シートと生体組織とを縫合してもよく、細胞シートと生体組織との生着し易さを利用して、患部に培養細胞シートを付着させて包帯などで覆うだけでもよい。
【0053】
(5)適用疾患
この細胞シートの適用疾患は、移植可能でさえあれば、何ら制約されない。具体的な適用疾患としては、例えば軟骨細胞を増殖させた細胞シートは、変形性関節症の治療に、心筋細胞を増殖させた心筋シートは虚血性心疾患に、表皮細胞と真皮細胞をそれぞれ増殖させた細胞シートを積み重ねた細胞シートは火傷、ケロイド、あざ等に使用できる。
【0054】
以下、この発明を実施例に基づいてより詳しく説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
1.生体親和性透明シートの製造
(1)成膜工程
まず、基材にレーザーアブレーション法により、ハイドロキシアパタイト膜を成膜した。具体的には、まず、25mm×25mm×1mmのSiO2基板にフォトレジスト(シプレイ社製 S1818)をコートした基材を、レーザーアブレーション装置(近畿大学生物理工学部本津研究室設計、誠南工業株式会社作製)の試料把持装置に把持させた。つぎに、この結晶にArFエキシマレーザー(λ=193nm、パルス幅=20n秒)を使用するレーザーアブレーション法によって、厚さ約1μmのハイドロキシアパタイト膜を被覆した。なお、基材温度は室温、使用した雰囲気ガスは酸素−水蒸気混合ガス、混合ガスのガス圧力は0.8mTorrであった。
【0056】
(2)除去工程
ハイドロキシアパタイト膜を成膜した基材を、アセトンに浸漬してフォトレジストを溶解し、透明ハイドロキシアパタイト膜のみを単離した。単離した透明ハイドロキシアパタイト膜をメタノール、純水にて洗浄して、自然乾燥した。
【0057】
(3)収容工程
図2に示すように、ステンレス円板とステンレスドーナツ円板からなる耐熱容器にアパタイト粉末を充填し、耐熱容器の中央に透明ハイドロキシアパタイト膜を埋め込んだ。なお、透明ハイドロキシアパタイト膜を埋め込む際には、耐熱容器の上下面から透明ハイドロキシアパタイト膜までの距離が等距離、かつ短くなるようにして、上下面から透明ハイドロキシアパタイト膜への熱伝導による温度差が可能な限り小さくなるようにした。また、ステンレス円板は外径85mm、厚さ2mmの円板を使用し、ステンレスドーナツ円板は外径85mm、内径70mm、厚さ1mmのドーナツ円板を使用した。
【0058】
(4)熱処理工程及び取出工程
耐熱容器を電気炉(上野金属社製 LABOX-436-8-09K)に入れて熱処理した。熱処理温度は、室温、200,350,500,700,800℃であり、熱処理時間は10時間であった。また、熱処理中、電気炉に水蒸気含有ガスや炭酸ガスは特に流さず、空気中で行った。熱処理終了後、電気炉から耐熱容器を取り出し、耐熱容器から生体親和性透明シートを取り出した。
【0059】
2.製造した生体親和性透明シートの評価
熱処理温度を室温〜800℃まで変化させたにもかかわらず、いずれの熱処理温度においても割れずに回収可能であった。また、触針式膜厚計(ULVAC社製 Dektak 150)によってその厚さを測定した。その結果、厚さは約1μmであった。
【0060】
生体親和性透明シートが結晶性を、2θ-θ法によるX線回折パターン(Rigaku社製Ultima IV)を測定することによって調べた。その結果を図4に示す。図4のX線回折パターンから、この発明の製造方法により、生体親和性透明シートの結晶化が確認できた。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 生体親和性セラミックス膜
3 生体親和性セラミックス粉末
4 生体親和性透明シート
図1
図2
図4
図3