(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の温度と該第1の温度より高い第2の温度とによって挟まれる第1の区間よりも、前記第1の温度より低い第2の区間および前記第2の温度より高い第3の区間の一方または双方のほうが、温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が大きい出力周波数となるように、前記第1の区間においては三次関数を用い、前記第2の区間および前記第3の区間においては三次関数および一次関数を用いて、周波数偏差が温度に対して三次関数的に変化する温度特性を有する水晶振動子の発振周波数に対する温度補償を行うことを特徴とする温度補償型発振器の温度補償方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する温度補償型発振器および温度補償型発振器の温度補償方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る温度補償型発振器の断面視による説明図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る温度補償型発振器1は、パッケージ10と、水晶素子20と、蓋体30と、集積回路素子40とを備える。
【0013】
以下の説明では、パッケージ10からみて集積回路素子40が設けられる側の面を温度補償型発振器1の「下面」と呼び、蓋体30が設けられる側の面を「上面」と呼ぶ。また、以下の説明では、「下面」または「上面」を「主面」と呼ぶ場合がある。
【0014】
パッケージ10は、上面側および下面側にそれぞれ凹部(以下、「キャビティ」と呼ぶ)が形成されたH型構造の容器体である。パッケージ10の上面側キャビティには、水晶素子20が配置され、下面側キャビティには、集積回路素子40が配置される。
【0015】
パッケージ10の最上面には、メタライズ層51が設けられる。このメタライズ層51は、後述する蓋体30をパッケージ10と接合する際に用いられる。また、パッケージ10の最下面には、外部接続端子52が設けられる。外部接続端子52は、温度補償型発振器1を携帯端末装置等の電子機器と接続する端子である。
【0016】
水晶素子20は、接続パッド53および導電性接着剤54を介して接続される。接続パッド53は、水晶素子20を集積回路素子40と電気的に接続するためのパッドであり、上面側キャビティの底面に設けられる。この接続パッド53は、後述する内部配線57を介して集積回路素子40側の接続パッド56と電気的に接続される。
【0017】
なお、水晶素子20は、たとえば板状に形成された水晶片の両主面に励振電極を配した部材である。励振電極には、水晶片の端部へ向けて引き出された引き出し電極が設けられており、この引き出し電極と接続パッド53とが導電性接着剤54を介して接続されることで、水晶素子20は、接続パッド53と電気的に接続される。
【0018】
ここでは、水晶素子20の水晶片が、ATカットとなるカットアングルで形成される場合について説明するが、水晶片のカットアングルは、ATカット以外のカットアングルであってもよい。また、水晶素子20は、板状以外の形状であってもよい。
【0019】
蓋体30は、上面側キャビティを閉塞する部材である。具体的には、蓋体30は、蓋体30の下面に設けられた封止材層55と、パッケージ10の最上面に設けられたメタライズ層51とを重ね合わせるようにしてパッケージ10の最上面に載置される。これにより、上面側キャビティは、蓋体30によって閉塞された状態となる。
【0020】
そして、封止材層55とメタライズ層51とがシーム溶接等により接合されることによって、上面側キャビティ内の空間は気密封止される。以下では、水晶素子20を上面側キャビティ内に気密封止したものを「水晶振動子」と呼ぶ。
【0021】
集積回路素子40は、水晶素子20の発振動作を制御する。この集積回路素子40は、パッケージ10の下面側キャビティの上面に設けられた接続パッド56を介してパッケージ10へ接続される。
【0022】
接続パッド56は、集積回路素子40を水晶素子20と電気的に接続するためのパッドである。具体的には、接続パッド56は、パッケージ10の内部に設けられた内部配線57を介して水晶素子20の接続パッド53と電気的に接続される。また、接続パッド56の一部は、パッケージ10の図示しない内部配線により、パッケージ10の最下面に設けられた外部接続端子52と接続される。
【0023】
このように、水晶素子20と集積回路素子40とは、接続パッド53、導電性接着剤54、接続パッド56および内部配線57を介して電気的に接続される。
【0024】
なお、ここでは、集積回路素子40が、アレイ状に設けられた接続パッド56を介してパッケージ10と接続されるものとするが(いわゆる、フリップチップ実装)、集積回路素子40は、他の手法(たとえば、ワイヤボンディング)によって実装されてもよい。
【0025】
また、下面側キャビティ内の空間には、集積回路素子40を搭載した後、たとえば樹脂等の素材が充填されてもよい。充填材として用いられる樹脂には、たとえば、ポリイミドやエポキシ系樹脂などを用いることができる。また、このエポキシ系樹脂に硬化剤等の添加剤や添加物を混ぜて得られる組成物等を用いてもよい。
【0026】
次に、集積回路素子40の構成について
図2を用いて説明する。
図2は、集積回路素子40の構成を示すブロック図である。なお、
図2では、説明をわかりやすくする観点から主な構成要素のみを示している。
【0027】
図2に示すように、集積回路素子40は、端子Vccと、端子IOと、端子Outとを備える。また、集積回路素子40は、定電圧回路41と、発振回路42と、温度センサ43と、温度センサ回路44と、メモリ45と、温度補償回路46とを備える。
【0028】
端子Vccは、外部からの電源電圧を集積回路素子40へ供給するための端子である。外部からの電源電圧は、この端子Vccを介して定電圧回路41へ供給される。端子IOは、温度補償回路46と外部の装置との間で制御信号やデータの入出力を行うためのデジタルインタフェースである。端子Outは、温度補償回路46によって補償された後の発振周波数が出力される端子である。
【0029】
定電圧回路41は、端子Vcc経由で供給される電源電圧を一定の電圧に調整する回路である。定電圧回路41によって調整された電圧は、集積回路素子40内の他の回路(
図2では、発振回路42を例示)へ供給される。
【0030】
発振回路42は、定電圧回路41から電圧を供給されることによって動作し、水晶振動子60(水晶素子20を上面側キャビティ内に気密封止したもの)を所定の周波数で発振させる。また、発振回路42は、端子IO経由で外部からの制御信号やデータを受け取り、受け取った制御信号に基づいて水晶素子20の発振周波数を調整する。
【0031】
また、発振回路42は、水晶振動子60の発振周波数に対応する発振信号を温度補償回路46へ出力する。
【0032】
温度センサ43は、水晶振動子60の温度を検出するために設けられるセンサであり、検出した温度情報を温度センサ回路44へ出力する。温度センサ回路44は、温度センサ43から受け取った温度情報を温度補償回路46へ出力する。
【0033】
メモリ45は、後述する温度補償回路46が発振回路42から受け取った発振信号に対して温度補償を行う際に用いる調整パラメータを格納する。具体的には、メモリ45には、調整パラメータとして、三次関数の三次成分の係数および一次成分の係数が格納されるが、かかる点については後述する。
【0034】
温度補償回路46は、温度センサ回路44から入力された温度情報およびメモリ45に格納された調整パラメータを用い、発振回路42から入力された発振信号に対して温度補償を行う回路である。具体的には、温度補償回路46は、温度情報および調整パラメータを用いて補正値を算出し、発振回路42から入力された発振信号に対して上記補正値を加算して出力する。温度補償回路46によって補償された発振信号は、端子Out経由で外部へ出力される。
【0035】
このように、第1の実施形態に係る集積回路素子40は、水晶振動子60の発振周波数に対して温度補償を行う温度補償回路46を含み、補償後の発振周波数を出力周波数として出力する。
【0036】
次に、温度補償回路46が行う温度補償方法の内容について
図3を用いて説明する。
図3は、第1の実施形態における温度補償方法の説明図である。
【0037】
図3には、水晶振動子60の発振周波数の温度変化(すなわち、水晶振動子60の温度特性)を実線で、温度補償回路46の補正値の温度変化を一点鎖線で、集積回路素子40の出力周波数の温度変化を破線でそれぞれ示している。
図3に示すグラフの縦軸は、周波数偏差df/f[ppm]であり、横軸は温度Temp[℃]である。なお、周波数偏差とは、基準周波数からのずれ量のことである。また、基準周波数とは、温度補償型発振器1における所望の周波数のことである。
【0038】
また、以下では、−10℃以上70℃以下の温度区間を「第1の区間」、−40℃以上−10℃未満の温度区間を「第2の区間」、70℃より高く100℃以下の温度区間を「第3の区間」と呼ぶ。ただし、第2の区間における低温側の端点は、−40℃より低い温度であってもよい。また、第3の区間における高温側の端点は、100℃より高い温度であってもよい。
【0039】
図3の破線で示すように、集積回路素子40の出力周波数は、第1の区間においては周波数偏差が一定となり、第2の区間および第3の区間においては温度が高くなるにつれて周波数偏差が低くなる。
【0040】
すなわち、温度補償回路46は、第1の区間よりも第2の区間および第3の区間のほうが、温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が大きい出力周波数となるように、水晶振動子60の発振周波数に対する温度補償を行う。ここで、「周波数偏差の平均低下率」とは、
図3の破線によって示されたグラフに関して、1℃高い点における周波数偏差の減少量のことをいう。以下、かかる点について具体的に説明する。
【0041】
図3の実線で示すように、水晶振動子60は、周波数偏差が温度に対して三次関数的に変化する温度特性を有する。具体的には、水晶振動子60の温度特性は、−10℃付近に極大値を有し、70℃付近に極小値を有する。
【0042】
ここで、従来の温度補償方法では、最終的な出力周波数が温度によらず基準周波数と一致するように、すなわち、周波数偏差が温度によらず常に0ppmとなるように温度補償を行っていた。しかしながら、従来の温度補償方法では、−10℃付近以下の温度および70℃付近以上の温度において出力周波数の変化量が大きくなるという事象が発生していた。
【0043】
これは、集積回路素子のドリフト特性が、水晶振動子の温度特性における極大点(−10℃付近)および極小点(70℃付近)で挟まれる温度区間と、極大点より低温側の温度区間および極小点より高温側の温度区間とで異なるためである。ドリフト特性とは、電源投入後における集積回路素子の出力周波数の時間的な変化のことである。
【0044】
ここで、かかるドリフト特性の違いについて
図4A〜
図4Cを用いて説明する。
図4Aは、従来における温度補償方法の説明図である。また、
図4Bおよび
図4Cは、従来における集積回路素子のドリフト特性の説明図である。なお、
図4Aには、水晶振動子の発振周波数の温度変化を実線で、温度補償回路素子の補正値の温度変化を一点鎖線でそれぞれ示している。
【0045】
図4Aに示すように、従来の温度補償方法では、水晶振動子の温度特性曲線を周波数偏差0ppmのラインを基準に反転させた三次曲線を、温度補償回路による補正値の温度曲線としている。
【0046】
温度補償型発振器に電源が投入され集積回路素子が起動すると、集積回路素子が発熱し、その後、集積回路素子の発熱によって水晶振動子の温度が上昇する。温度センサは、通常、集積回路素子内あるいは集積回路の近傍に設けられる。このため、電源投入直後においては、水晶振動子の実際の温度よりも高い温度が温度センサによって検出され、その後、水晶振動子の実際の温度が温度センサの検出温度に近づいていくこととなる。
【0047】
一方、集積回路素子の出力周波数には、時間経過とともに増加する成分が含まれる。これは、たとえば、水晶振動子の起動特性に起因する成分である。すなわち、水晶振動子の発振周波数は、発振開始から安定するまでにある程度の時間を要する。このため、水晶振動子は、発振開始後(すなわち、電源投入後)、発振周波数が時間とともに徐々に高くなる。
【0048】
これらの点を踏まえ、水晶振動子の温度特性(
図4Aの実線参照)における極大点および極小点によって挟まれる温度区間でのドリフト特性について
図4Bを用いて説明する。なお、
図4Bには、たとえば25℃付近における集積回路素子のドリフト特性を模式的に示している。
【0049】
たとえば、電源投入直後において、水晶振動子の温度が25℃付近の温度「T1」であり、温度センサの検出温度が温度「T1」より高い「T2」であるとする。また、温度「T1」における水晶振動子の周波数偏差が「−F1」であり、温度「T2」における温度補償回路の補正値の周波数偏差が周波数偏差「F1」より高い「F2」であるとする(
図4A参照)。
【0050】
すなわち、温度補償回路は、電源投入直後においては、水晶振動子の発振周波数「−F1」の正負を反転させた値「F1」よりも大きい補正値「F2」で温度補償を行う。したがって、集積回路素子の出力周波数は、
図4Bに示すように、電源投入直後においてプラス側に変動する。
【0051】
その後、水晶振動子の温度が温度センサの検出温度「T2」に近づくにつれて、水晶振動子の周波数偏差は、「−F1」から「−F2」に近付く。このため、集積回路素子の出力周波数は、徐々に低下していく(
図4Bの破線参照)。
【0052】
しかし、この出力周波数の低下(すなわち、温度センサの検出温度と水晶振動子の温度との差に起因する出力周波数の低下)は、時間経過とともに増加する成分によって打ち消されることとなる。
【0053】
このため、水晶振動子の温度特性における極大点および極小点によって挟まれる温度区間において、集積回路素子の出力周波数は、
図4Bに示すように、時間経過とともに比較的緩やかに上昇することとなる。すなわち、この区間において、水晶振動子の温度が温度センサの検出温度に収束し、集積回路素子の出力周波数が安定するまでの出力周波数の変化量は、比較的小さいものとなる。
【0054】
つづいて、水晶振動子の温度特性における極大点より低温側の温度および極小点より高温側の温度でのドリフト特性について
図4Cを用いて説明する。なお、
図4Cには、たとえば−30℃付近における集積回路素子のドリフト特性を模式的に示している。
【0055】
たとえば、電源投入直後において、水晶振動子の温度が−30℃付近の温度「T3」であり、温度センサの検出温度が温度「T3」より高い「T4」であるとする。また、温度「T3」における水晶振動子の周波数偏差が「F3」であり、温度「T4」における温度補償回路の補正値の周波数偏差が周波数偏差「−F3」より低い「−F4」であるとする(
図4A参照)。
【0056】
すなわち、温度補償回路は、電源投入直後においては、水晶振動子の発振周波数「F3」の正負を反転させた値「−F3」よりも小さい補正値「−F4」で温度補償を行う。これにより、集積回路素子の出力周波数は、
図4Cに示すように、電源投入直後においてマイナス側に変動する。
【0057】
その後、水晶振動子の温度が温度センサの検出温度「T4」に近づくにつれて、水晶振動子の周波数偏差が「F3」から「F4」に近付く。このため、集積回路素子の出力周波数は、徐々に上昇していく(
図4Cの破線参照)。
【0058】
さらに、この出力周波数の上昇(温度センサの検出温度と水晶振動子の温度との差に起因する出力周波数の上昇)には、時間経過とともに増加する成分が重畳されることとなる。
【0059】
このため、水晶振動子の温度特性における極大点より低温側の温度および極小点より高温側の温度においては、
図4Cに示すように、極大点および極小点によって挟まれる温度区間と比較して、出力周波数の上昇度合が大きくなる。したがって、この区間においては、水晶振動子の温度が温度センサの検出温度に収束し、集積回路素子の出力周波数が安定するまでの出力周波数の変化量が、極大点および極小点によって挟まれる温度区間と比較して大きくなる。
【0060】
また、この区間における出力周波数の変化量は、水晶振動子の温度特性における極大点(−10℃付近)および極小点(70℃付近)からの温度差が大きくなるほど大きくなる傾向がある。
【0061】
このように、従来の温度補償方法では、極大点より低温側の温度および極小点より高温側の温度において、出力周波数の変化量が大きくなる。出力周波数の変化量が大きいと、たとえば、出力周波数が安定するまでに多くの時間を要することとなるため、従来の温度補償方法では、かかる温度区間において安定した使用が困難であった。
【0062】
そこで、第1の実施形態に係る温度補償型発振器1では、上述したドリフト特性の違いを考慮した温度補償を行うこととした。具体的には、
図3に示すように、第1の実施形態に係る温度補償回路46は、第1の区間よりも第2の区間および第3の区間のほうが、温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が大きい出力周波数となるように温度補償を行うこととした。なお、ここでいう「温度上昇」とは、
図3の破線によって示されるグラフ上での温度上昇を意味し、「温度上昇に対する」とは、
図3の破線によって示されるグラフ上における2点のうち、低温側の点を基準として高温側の点を見ることを意味する。
【0063】
すなわち、温度補償回路46は、第2の区間では、温度が下がるにつれて集積回路素子40の出力周波数が高くなるように、第3の区間では、温度が上がるにつれて集積回路素子40の出力周波数が低くなるように温度補償を行う。また、温度補償回路46は、第1の区間では、従来の温度補償方法と同様に、集積回路素子40の出力周波数が温度によらず一定(すなわち、0ppm)となるように温度補償を行う。
【0064】
これにより、温度補償型発振器1は、電源投入時における温度センサ43の検出温度と水晶振動子60の温度との差に起因する出力周波数の低下を抑えることができる。そして、かかる出力周波数の低下を抑えることで、その後に生じる出力周波数の上昇を抑えられることとなるため、第2の区間および第3の区間における出力周波数の変化量を抑えることができる。
【0065】
たとえば、
図3に示すように、電源投入直後において、温度センサ43の検出温度が「T4」であり、集積回路素子40の補正値が「−F5」であるとする。ここで、補正値「−F5」は、従来の温度補償方法における補正値「−F4」よりも大きい。すなわち、補正値「−F5」の正負を反転させた値「F5」は、従来の温度補償方法における補正値「−F4」の正負を反転させた値「F4」と比較して、水晶振動子60の発振周波数「F3」に近い値となる。
【0066】
このため、電源投入直後において、集積回路素子40の出力周波数はマイナス側に変動するが、その変化量は、従来の温度補償方法における変化量と比較して小さいものとなる。また、マイナス側への変動を抑えることによって、その後の、温度センサ43の検出温度と水晶振動子60の温度との差に起因する出力周波数の上昇も抑えられることとなる。したがって、温度補償型発振器1によれば、第2の区間および第3の区間における出力周波数の変動を抑えることができる。
【0067】
第2の区間および第3の区間において温度補償を行う場合、温度補償回路46は、温度センサ回路44から入力された温度に応じて、三次関数に対応する値および一次関数に対応する値をそれぞれ生成し、これらの合算値を補正値として出力する。ここでいう三次関数とは、水晶振動子60の温度特性を反転させた曲線を擬似的にあらわす三次関数である。
【0068】
また、一次関数は、y=p×(t−t1)またはy=p×(t−t2)であらわされる。ここで、「t」は、温度センサ43の検出温度である。また、「t1」は、水晶振動子60の温度特性の極大点に基づいて決定される温度(第1の実施例では、−10℃)、「t2」は、水晶振動子60の温度特性の極小点に基づいて決定される温度(第1の実施例では、70℃)である。また、この一次関数の係数である「p」は、集積回路素子40の出力周波数の温度に対する変化率を示す値であり、第1の実施形態では、たとえば−0.2以上0未満の値が用いられる。
【0069】
三次関数の係数や一次関数の係数は、調整パラメータとしてメモリ45に格納されている。そして、温度補償回路46は、メモリ45に格納された調整パラメータを用い、温度センサ回路44から入力された温度に応じた補正値を算出する。
【0070】
なお、第1の区間において、温度補償回路46は、温度センサ回路44から入力された温度に応じて、三次関数に対応する値を生成し、この値を補正値として出力する。
【0071】
ここで、調整パラメータの決定方法について
図5を用いて説明する。
図5は、調整パラメータの決定方法を示すフローチャートである。
【0072】
図5に示すように、温度補償型発振器1は、水晶振動子60の温度特性が測定され(ステップS101)、その後、測定結果を用いたシミュレーションによって最適な調整パラメータが算出される(ステップS102)。そして、温度補償型発振器1は、算出された調整パラメータが集積回路素子40のメモリ45に書き込まれる(ステップS103)。
【0073】
その後、温度補償型発振器1は、温度特性が測定され、基準を満たすか否かを検査される(ステップS104)。なお、メモリ45がたとえばRAM(Random Access Memory)等の書き換え可能なメモリである場合、基準を満たさないと判定された温度補償型発振器1は、ステップS101〜S104の各工程が繰り返されることとなる。
【0074】
上述してきたように、第1の実施形態に係る温度補償型発振器は、水晶振動子と、集積回路素子とを備える。集積回路素子は、水晶振動子の発振周波数に対して温度補償を行う温度補償回路を含み、補償後の発振周波数を出力周波数として出力する。そして、温度補償回路は、第1の温度と第2の温度とによって挟まれる第1の区間よりも、第1の温度より低い第2の区間および第2の温度より高い第3の区間のほうが、温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が大きい出力周波数となるように温度補償を行う。
【0075】
したがって、第1の実施形態に係る温度補償型発振器によれば、広範な温度範囲に亘って安定した発振周波数を得ることができる。
【0076】
また、第1の実施形態では、水晶振動子が、周波数偏差が温度に対して三次関数的に変化する温度特性を有し、第1の温度および第2の温度は、それぞれ水晶振動子の温度特性における極大点および極小点に対応する温度に基づいて決定される温度である。
【0077】
したがって、水晶振動子の温度特性における極大点および極小点で挟まれる温度区間と、極大点より低温側の温度区間および極小点より高温側の温度区間との間における、集積回路素子のドリフト特性の違いを考慮した温度補償を行うことができる。
【0078】
なお、第1の実施形態では、第1の温度が−10℃であり、第2の温度が70℃である場合の例について説明したが、第1の温度は、−10℃以外の他の温度であってもよいし、第2の温度は、70℃以外の他の温度であってもよい。
【0079】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、温度補償回路が、第1の区間における温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が0付近となるように温度補償を行うこととした。すなわち、第1の区間では、従来の温度補償方法と同様に、集積回路素子の出力周波数が温度によらず0ppmとなるように温度補償を行うこととした。
【0080】
しかし、第1の区間における温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率は、必ずしも0付近である必要はない。そこで、第2の実施形態では、温度補償方法の他の例について
図6を用いて説明する。
図6は、第2の実施形態における温度補償方法の説明図である。
【0081】
ここで、従来の温度補償型発振器には、電源が投入された場合あるいは温度変化が生じた場合に、出力周波数が安定するまでの時間が温度によって異なっていた。具体的には、従来の温度補償型発振器には、出力周波数が安定するまでの時間が、温度が高くなるほど長くなる傾向があった。
【0082】
そこで、第2の実施形態に係る温度補償方法は、第1の区間における周波数偏差の温度上昇に対する平均低下率が正となるように温度補償を行う。たとえば、
図6に示すように、第2の実施形態に係る温度補償回路46は、最終的な出力周波数の第1の区間における温度勾配が、温度が1℃上昇するにつれて周波数偏差が所定量(たとえば、0.1ppm)減少する勾配となるように温度補償を行う。
【0083】
これにより、第2の実施形態に係る温度補償方法では、電源が投入された場合や温度変化が生じた場合等において出力周波数が安定するまでの時間を短縮することができる。なお、第1の区間における周波数偏差に対して設けられる温度勾配(温度上昇に対する平均低下率)は、第2の区間および第3の区間における周波数偏差の温度勾配(温度上昇に対する平均低下率)よりも小さいものとする。
【0084】
また、第1の区間における温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が負となるように温度補償を行ってもよい。
図7は、その他の温度補償方法の説明図である。
【0085】
図7に示すように、温度補償回路46は、最終的な出力周波数の第1の区間における温度勾配が、温度が1℃上昇するにつれて周波数偏差が所定量(たとえば、0.1ppm)増加する勾配となるように温度補償を行ってもよい。
【0086】
(変形例)
次に、本願の開示する温度補償型発振器および温度補償型発振器の温度補償方法の変形例について説明する。
【0087】
たとえば、上述してきた各実施形態では、集積回路素子の出力周波数を第2の区間および第3の区間の双方において傾斜させる場合の例について説明したが、これに限ったものではなく、第2の区間または第3の区間の一方のみを傾斜させてもよい。すなわち、温度補償回路は、第2の区間および第3の区間のうち一方のみが、第1の区間よりも温度上昇に対する周波数偏差の平均低下率が大きい出力周波数となるように温度補償を行うこととしてもよい。
【0088】
また、上述してきた各実施形態では、集積回路素子の出力周波数を温度に応じて直線的に変化させることとしたが、出力周波数の変化のさせ方は、これに限ったものではない。すなわち、集積回路素子の出力周波数は、「第1の区間における周波数偏差の平均低下率<第2の区間または第3の区間における周波数偏差の平均低下率」の関係が維持されていれば、たとえば曲線的に変化させてもよい。
【0089】
また、上述してきた各実施形態では、温度補償型発振器のパッケージがH型である場合の例について説明したが、温度補償型発振器のパッケージは、H型構造の容器体に限定されない。
【0090】
たとえば、温度補償型発振器のパッケージとして、水晶振動素子が気密封止される第1の容器体と、集積回路素子が収納される第2の容器体とを別体で形成してもよい。この場合には、第1の容器体と第2の容器体とを接合することで温度補償発振器とすることができる。また、温度補償型発振器のパッケージとして、1つのキャビティを有する容器体を用いてもよい。
【0091】
また、温度補償型発振器のパッケージは、他の容器体によって気密封止された状態の水晶振動素子を収納してもよい。たとえば、直方体状に形成された容器体やCANタイプの容器体に水晶振動素子を気密封止したものを水晶振動子とし、この水晶振動子をパッケージ内に収納してもよい。
【0092】
また、温度補償型発振器は、集積回路素子を蓋体の代わりに用いてパッケージのキャビティを気密封止する構造であってもよい。また、温度補償型発振器は、キャビティ内に集積回路素子を搭載し、集積回路素子の上方に水晶振動子を配置させた構造であってもよい。
【0093】
また、温度補償型発振器のパッケージは、四隅に柱状の外部端子を備えた構造であってもよい。
【0094】
また、温度補償型発振器は、パッケージ内に水晶振動素子を気密封止して水晶振動子を構成し、リードフレームにこの水晶振動子と集積回路素子とを搭載して樹脂でモールドしたモールド型の温度補償型発振器であってもよい。
【0095】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。