特許第5854803号(P5854803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854803
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】脱硝触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/053 20060101AFI20160120BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160120BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   B01J27/053 AZAB
   B01D53/86 222
   B01J37/08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-263593(P2011-263593)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-116428(P2013-116428A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(74)【代理人】
【識別番号】100076587
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 武長
(72)【発明者】
【氏名】池本 清司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰良
(72)【発明者】
【氏名】今田 尚美
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−194452(JP,A)
【文献】 特開2011−078898(JP,A)
【文献】 特開平11−342332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物に少なくともバナジウムを含む活性成分を担持した組成物を第一成分とし、
バナジウムを含まない組成物を第二成分として、これらを混合後、成形、乾燥、焼成する脱硝触媒の製造方法において、
第二成分として、第一成分よりも比表面積が小さい酸化チタンを用い、
さらに第三成分として、第一成分、第二成分及び第三成分の総和に対する第三成分の割合が1を超えて20重量%になるように、石膏を加えた
ことを特徴とする脱硝触媒の製造方法
【請求項2】
第二成分の酸化チタンは、比表面積が30m2/g以下である、請求項1記載の脱硝触媒の製造方法
【請求項3】
第二成分の酸化チタンは、700℃以上で熱処理して成ったものである、請求項2記載の脱硝触媒の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝触媒に係り、特にアンモニア接触還元用脱硝触媒として好適に使用される高活性な脱硝触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンを主成分とするアンモニア還元法脱硝触媒は、活性が高く耐久性が優れるため、国内外でボイラなどの排煙処理に広く用いられ、脱硝触媒の主流となっている。また、これらの脱硝触媒について、脱硝反応器のコンパクト化の傾向に対し、脱硝性能が高い触媒の需要が高まっている。このような背景に対し、高い脱硝性能を有する脱硝触媒として、触媒表面に活性成分を集中させたコーティング層を有する触媒(特許文献1)や、活性成分をチタン酸化物に担持後、予備焼成した第一成分と、バナジウム(V)を含まないチタン酸化物である第二成分とを、一定の不均質さを保持した状態で混合、成形した脱硝触媒(特許文献2及び3)が挙げられる。中でも、特許文献3の方法は、Vなどの活性成分を担持させる第一成分のチタン酸化物として、比表面積が30〜120m2/gのものを用いることにより、高い脱硝性能を得られる、優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-220468号公報
【特許文献2】特開平5-96165号公報
【特許文献3】特願2011-131208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術は、極めて高活性な触媒が得られる、優れた方法であるが、長時間水蒸気を含むガスに晒されると、活性が低下する傾向があり、これを改良すれば、さらに優れた実用触媒になると考えられる。
本願の解決しようとする課題は、上記脱硝触媒の、水蒸気を含むガスによる活性低下の原因を解明し、これを改善した脱硝触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
(1)チタン酸化物に少なくともバナジウムを含む活性成分を担持した組成物を第一成分とし、バナジウムを含まない組成物を第二成分として、これらを混合後、成形、乾燥、焼成する脱硝触媒の製造方法において、第二成分として、第一成分よりも比表面積が小さい酸化チタンを用い、さらに第三成分として、第一成分、第二成分及び第三成分の総和に対する第三成分の割合が1を超えて20重量%になるように、石膏を加えたことを特徴とする脱硝触媒の製造方法
(2)第二成分の酸化チタンは、比表面積が30m2/g以下である、(1)記載の脱硝触媒の製造方法
(3)第二成分の酸化チタンは、700℃以上で熱処理して成ったものである、(2)記載の脱硝触媒の製造方法
【0006】
本発明者らは、水蒸気や熱によって触媒の耐久性が低下する原因を鋭意検討した結果、その原因は第一成分である酸化チタン上に担持されたVが、熱や水蒸気により吸着力の強い第二成分の酸化チタンへと移動することで引き起こされることを見出した。このようにVが第一成分から第二成分に移動すると、活性成分が均一化し、本来の目的であるVが不均質化した触媒の効果が損なわれる。この現象は、Vがバナジン酸イオンになって第二成分に移動し、また第二成分にOH基を有するとこれが加速される傾向にある。
【0007】
これを防ぐためには、第二成分を高温で熱処理して表面のOH基を減少させ、かつ比表面積を低減したものを用いればよく、このようにすることにより、第一成分中の酸化チタンに吸着したVが、第二成分中に移動することを防止し、Vなどの活性成分が均一化することによる性能低下を抑制することができる。しかし、この場合、第二成分にシリカや低比表面積の酸化チタン、あるいはアルミナなどを用いると、粒子同士の結合性がないため、触媒を実用に値する形状、例えば、粒状やハニカム、板状に成型しようとしても保形性が悪く、健全な成型体が得られにくい。これを防ぐために、シリカゾルやアルミナゾルなどのような無機バインダを添加する方法が考えられる。しかし、これらは、焼成後の比表面積が約100m2/gを有しているため、第一成分中のVなどの活性成分がバインダ成分に移動し、本来の目的が達成されない。
【0008】
本発明者らは、上記第二成分の結合性を改善するため、鋭意研究した結果、第三成分に成形助剤として石膏を添加すると、上記第二成分の結合性が改善されると共に、第一成分に、不均質に担持されたV成分などが熱の影響を受けても移動することが抑制され、耐久性の高い脱硝触媒を得られることを見出した。これは、石膏はモース硬度が2と低く、加圧などによって容易に壁開し、そのため、石膏を添加するとニーダなどによる混練時の加圧操作によって石膏粒子が崩れ、触媒成分粒子間の隙間に石膏粒子が入り込むことで、粒子同士の結合力が高まり、これにより、成形性が良くなり触媒の保形性が向上するものと推定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化チタンを主成分とする排ガス用脱硝触媒において、バナジウムを含まない第二成分に、シリカ、第一成分よりも比表面積が小さい酸化チタン、またはアルミナを用い、さらに第三成分として石膏を特定量加えて触媒を調製することにより、水蒸気や熱によるV成分の移動を抑制し、かつ触媒の成形性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる第一成分は、例えば酸化チタン、オルトチタン酸もしくはメタチタン酸のスラリ、または上記粉末に水を加えたものと、メタバナジン酸アンモン、硫酸バナジルなどのバナジウム化合物とを混合する他に、モリブデンもしくはタングステンの酸化物、またはオキソ酸塩などの熱分解により酸化物を生成する化合物などを混合して得ることができる。これらを加熱混練、蒸発乾固等の通常触媒調製に用いられる方法によって水を蒸発させ、得られたペーストを乾燥、さらに400〜600℃で予備焼成されるが、第一成分中の活性成分であるVなどが第二成分へと移動することが抑制されているため、予備焼成は必ずしも行わなくてもよい。また、第一成分は第二成分との混合に先立ち粉砕され、その平均粒子径は通常50μmから150μmとすることが好ましい。
【0011】
さらに、第二成分は、シリカや第一成分で用いられる酸化チタンよりもOH基が少なく、かつ比表面積が小さい酸化チタン、アルミナなどが選ばれるが、熱的に安定な酸化物であればこれらに限定されない。また、活性成分であるVの移動防止の効果を得るために、第二成分で用いられる酸化物の比表面積は30m2/g以下のものが好ましい。第二成分が酸化チタンである場合、700℃以上で熱処理することが好ましい。これにより、酸化チタン表面に含まれるOH基が減少し不活性になり、さらに、比表面積が30m2/g以下にまで減少する。第二成分がアルミナである場合、α−アルミナを用いる他に、酸化アルミニウム(γ、δ、θ、η、ρ、χ−アルミナなど)や水酸化アルミニウム(無水、或いは水和物)、或いはアルミナゾルを1000℃以上の熱処理を行うことが好ましく、これにより、アルミナがα化しているとより好ましい。この操作により、酸化チタンと同様に表面のOH基の減少と共に、数m2/g程度の比表面積のアルミナを得ることができる。第二成分がシリカである場合、結晶性シリカ、非晶質シリカや石英、珪砂、珪石、珪藻土、或いはシリカゾルの焼成体などを用いることができる。
【0012】
さらに、第三成分として添加される石膏には、二水石膏、半水石膏、無水石膏など何れの石膏も用いることができる。また、第一成分と第二成分の混合では、乾式で混合する方法、湿式で混合する方法のどちらでもよい。乾式で混合する方法では上記した石膏の何れを用いても差し支えないが、湿式で混合する方法では、半水石膏は水と反応すると短時間で凝固する性質があるため、製造上、注意が必要である。また、触媒調製に二水石膏を用いる場合、工業用試薬の他、脱硫廃石膏などの副生品や、廃石膏ボードなどを破砕したものを用いてもよい。石膏の添加量は、第一成分、第二成分及び第三成分の総和に対して1〜20重量%の範囲が選ばれる。石膏が第一成分と第二成分と第三成分の総和に対して1重量%以下であると、成形助剤の効果を得づらく、20重量%以上では、石膏自身のモース硬度が2と低いため、例えば、石炭焚き排ガス用に用いられる際に、ダストによって磨耗されやすくなるため好ましくない。また、石膏が20重量%以上になると、触媒全体が非常に硬くなりガスの拡散性が低下し、活性低下を招くので好ましくない。
【0013】
さらに、第一成分と第二成分の混合は、重量比が10/90から90/10になることが好ましく、水とともにニーダなどの混練機でペースト状に混練される。また、第三成分である石膏は、第一成分と第二成分との混合時に添加される。この際、必要に応じてセラミックス製繊維などを加えることができる。第一成分と第二成分の混合比は触媒の使用条件化で上記組成との兼ね合わせで決定されるものであり、どのような比率であってもよいが、混合比があまり大きいと作り難くなり、逆に小さいと効果が小さくなる。通常の混練による操作では第1成分/第2成分の重量比が90/10ないし10/90程度の範囲が選ばれる。さらに、得られた触媒ペーストは、そのまま押出し成形機を用いてハニカム、柱状、円筒状などに成形されるか、ローラを用いてメタルラスなどの金属基板やセラミック、ガラス製網状織布などに塗布して板状に成形される。成形体はその後、必要形状に切断、成型され、乾燥後、400℃から600℃で焼成される。
【実施例】
【0014】
以下、具体的に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
第二成分である酸化チタン(石原産業社製 CR50、比表面積約12m2/g)と第三成分である二水石膏(キシダ化学社製、比表面積23m2/g)の粉末を、重量比99:1になるように6.0g取り、ポリエチレン製の袋の中で物理混合した。この粉末1.0gを錠剤成型器(φ10mm)に充填し、1.3t/cm2加圧し、ディスクを得た。
[実施例2]
実施例1において、酸化チタンと二水石膏の重量比を90:10に変える以外は同様に行った。
[実施例3]
実施例1において、酸化チタンと二水石膏の重量比を80:20に変える以外は同様に行った。
【0015】
[実施例4]
実施例1において、酸化チタン(石原産業社製 MC90、比表面積約90m2/g)を予め750℃で2時間焼成して比表面積を30m2/gとしてから用いるように変える以外は同様に行った。
[実施例5]
実施例3において、酸化チタンをシリカ(龍森社製 Imsil A-25、比表面積6m2/g)に変える以外は同様に行った。
[実施例6]
実施例3において、酸化チタンをα-アルミナ(キシダ化学社製、比表面積2m2/g)に変える以外は同様に行った。
【0016】
[比較例1]
実施例1において、二水石膏を添加しない以外は同様に行った。
[比較例2]
比較例1において、酸化チタンを石原産業社製 MC90(比表面積約90m2/g)を予め750℃で2時間焼成して比表面積を30m2/gとしてから用いるように変える以外は同様に行った。
[比較例3]
比較例1において、酸化チタンをシリカ(龍森社製 Imsil A-25、比表面積6m2/g)に変える以外は同様に行った。
[比較例4]
比較例1において、酸化チタンをα-アルミナ(キシダ化学社製、比表面積2m2/g)に変える以外は同様に行った。
【0017】
[試験例1(硬度評価試験)]
はじめに、第三成分による第二成分の結合性改善効果を明確にするため、第二成分と第三成分のみで以下のような試験を行った。実施例及び比較例の触媒について木屋式硬度計(Sanriki社製)を用いて、破壊硬度を測定した。得られた結果を表1に纏めて示した。
表1の結果から、実施例1〜6が比較例1〜4の破壊硬度よりも何れも高く、第三成分である石膏の添加により、第二成分の保形性が改善されることは明らかである。
【0018】
【表1】
【0019】
[触媒調製例1]
メタバナジン酸アンモニウム1.65gを水36gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業社製MC90、比表面積約90m2/g)24gを入れ、加熱混練を行った。これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して第一成分である触媒を得た。本触媒の組成はTi/V=95.5/4.5 原子比である。得られたTi/V粉末に、第二成分として酸化チタン(石原産業社製CR50、比表面積約10m2/g)、第三成分として二水石膏(キシダ化学社製)として用い、それぞれを425〜500μmの粒径に揃えた。次に、第一成分と第二成分の重量比が30/70、第一成分と第二成分と第三成分との総和に対する第三成分の割合が10重量%になるようにそれぞれの粉末を採取し、ポリエチレン製の袋の中で物理混合した。この粉末1.0gを錠剤成型器に充填後、1.3t/cm2で加圧し、表3に示す粒状に成型した。物理混合後の触媒の組成はTi/V=98.5/1.5 原子比である。
【0020】
[触媒調製比較例1]
実施例6において、二水石膏を添加せず、また第二成分の酸化チタンを比表面積のより大きい酸化チタン(石原産業社製 MC90、比表面積約90m2/g)に変える以外は同様に行った。
[触媒調製比較例2]
触媒調製例1において、二水石膏を第一成分と第二成分と第三成分との総和に対して30重量%になるように変える以外は同様に行った。
【0021】
[試験例2(耐久性評価試験)]
上記実施例の耐久性の効果を示すため以下のような試験を行った。表2の耐久試験の条件で耐久試験を行い、表3に示した条件で脱硝性能を測定した。得られた結果、および耐久試験前の結果を表4に纏めて示した。
表4から、触媒調製例1の触媒が触媒調製比較例1の触媒に比べ、耐久試験後の脱硝活性が高く、耐久性が高いことが明らかである。また、触媒調製比較例2で石膏の含有量が30重量%の触媒では、触媒調製例1の触媒よりも初期の脱硝率が低い。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】