(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るシート加工装置1の構成を示す正面図である。シート加工装置1は、不織布であるシート部材9に対して熱加工を施す装置である。本実施の形態では、シート加工装置1により、高吸収性ポリマー(SAP(Super Absorbent Polymer))等の高吸収性樹脂の粒子が複数のシート部材に挟まれた吸収シートが製造される。吸収シートは、使い捨ておむつや軽失禁用の吸収パッド等の吸収性物品に利用される吸収性物品用シート部材である。
【0017】
シート加工装置1は、搬送機構2と、アンビルロール3と、加工ロール4とを備える。搬送機構2は、アンビルロール3および加工ロール4の
図1中の左右両側に配置される複数の搬送ロール21を備え、複数の搬送ロール21にてシート部材9を挟んで所定の搬送方向(
図1中の左右方向)に搬送する。
【0018】
アンビルロール3は、シート部材9の一方の主面92(
図1中の下側の主面であり、以下の説明では「下面92」という。)に対向して配置される。アンビルロール3は、シート部材9の下面92に平行、かつ、シート部材9の搬送方向に垂直な幅方向を向く第1回転軸31を中心とする略円柱状であり、第1回転軸31を中心として回転する。
【0019】
加工ロール4は、シート部材9の他方の主面である上面91に対向して配置される。加工ロール4は、上記幅方向を向く第2回転軸41を中心とする略円柱状であり、第2回転軸41を中心として回転する。加工ロール4は、アンビルロール3との間でシート部材9を挟んで熱加工を施す。本実施の形態では、シート部材9は、積層された複数の不織布シートを含み、当該熱加工は、複数の不織布シートの加熱を伴う接合(いわゆる、ヒートシール)である。
【0020】
図2は、加工ロール4を示す側面図である。
図2に示すように、加工ロール4は、ロール本体42と、ツール部43と、加圧リング44と、ロックナット部45とを備える。ロール本体42は、第2回転軸41を中心として回転する略円柱状の部材である。ツール部43は、第2回転軸41を中心とする略円筒状であり、ロール本体42に外挿されてロール本体42に着脱自在に取り付けられる。ツール部43は、アンビルロール3と対向する位置にてシート部材9の上面91(
図1参照)に接触する。加圧リング44は、ツール部43の幅方向の両側にてツール部43の端縁に直接的に当接し、ツール部43の両端部の位置を固定する。ロックナット部45は、ツール部43の幅方向の両側にて加圧リング44に直接的に当接することにより(すなわち、ツール部43の端縁に間接的に当接することにより)、ツール部43の幅方向の両側の端縁の位置を決定する。
【0021】
図3は、加工ロール4の一方の端部近傍を拡大して示す断面図である。加工ロール4の他方の端部の構造は、
図3に示す構造とほぼ同様である。
図3に示すように、ツール部43の幅方向の両側において、ツール部43の端部の内周面とロール本体42の外周面との間に、加工ロール4の端縁に近づくに従って漸次増大する環状間隙40が設けられる。本実施の形態では、ツール部43の両端部において、ツール部43の内径が端縁に近づくに従って漸次増大し、ロール本体42の直径はおよそ一定である。なお、ツール部43の内径がおよそ一定であり、ロール本体42の直径が端縁に近づくに従って漸次減少することにより環状間隙40が設けられてもよい。
【0022】
シート加工装置1の使用前の状態では、ツール部43の内径はロール本体42の外径よりも大きいため、ツール部43をロール本体42に対して容易に外挿することができる。シート加工装置1が使用される際には、後述する加熱部46による加熱により、ロール本体42およびツール部43が加熱される。ロール本体42の熱膨張率はツール部43よりも大きいため、当該加熱により、ツール部43の内周面は、幅方向の両端部を除き、ロール本体42の外周面に接する。
【0023】
加圧リング44は、略円筒状の突出部441と、突出部441の端部から周方向外側に広がる略円環板状のフランジ部442とを備える。突出部441の外径は、フランジ部442から離れるに従って漸次減少する。すなわち、突出部441の断面は楔状である。突出部441は、ツール部43とロール本体42との間の上記環状間隙40に挿入され、突出部441の外周面がツール部43の内周面に接する。突出部441は、フランジ部442がツール部43の端縁に直接的に接するまで環状間隙40に押し込まれる。これにより、ツール部43の端部の位置が固定される。
【0024】
ロックナット部45は、2つのロックナット451を有するダブルロックナットである。各ロックナット451は、ロール本体42の外周面に形成されたねじ部421に螺合されて加圧リング44のフランジ部442に直接的に当接する。これにより、加圧リング44の位置が決定され、加圧リング44に直接的に当接するツール部43の端縁の幅方向の位置が決定される。
図3に示すロックナット部45のねじ山の巻き方向と、加工ロール4の他方の端部において、ロール本体42の外周面に形成されたねじ部421に螺合されるもう1つのロックナット部45のねじ山の巻き方向とは反対である。
【0025】
図4は、加工ロール4を第2回転軸41を通る面にて切断した断面図である。
図4に示すように、ツール部43は、外周面431において幅方向に配列される複数(本実施の形態では、7つ)の第1凸部432を備える。ツール部43は、また、外周面431において複数の第1凸部432の間に幅方向に配列される複数の第2凸部433を備える。本実施の形態では、隣接する各2つの第1凸部の間に4つの第2凸部433が配置される。各第2凸部433の幅は、各第1凸部432の幅よりも小さい。
図2に示すように、複数の第1凸部432、および、複数の第2凸部433はそれぞれ、ツール部43の外周面431の全周に亘って設けられる略円環状である。複数の第1凸部432および複数の第2凸部433は、アンビルロール3と対向する位置にてシート部材9の上面91(
図1参照)に接触する。
【0026】
図4に示すように、加工ロール4は、ツール部43の外周面431よりも内側において幅方向に延びる複数の加熱部46を備える。複数の加熱部46は、同構造を有する略円柱状であり、ロール本体42の端面のツール部43近傍に形成された幅方向に延びる穴部に挿入されてツール部43を加熱する。加工ロール4では、
図1に示すように、複数の加熱部46が、第2回転軸41を中心とする周方向におよそ等間隔に配置される。
【0027】
図4に示すように、各加熱部46は、幅方向に延びる略円柱状の熱伝導部461と、熱伝導部461の中央部に設けられた中央発熱部462と、熱伝導部461の幅方向の両端部に設けられた端部発熱部463とを備える。幅方向においてツール部43の複数の第1凸部432および第2凸部433が設けられる領域を凸部領域と呼ぶと、熱伝導部461は凸部領域の略全長に亘って設けられる。加工ロール4では、複数の加熱部46により、複数の第1凸部432および複数の第2凸部433が加熱される。
【0028】
図1に示すように、加工ロール4は、幅方向の一方の端部に配置されて温度を測定する温度センサ47を備える。温度センサ47は、ロール本体42の端面に設けられた幅方向に延びる穴部に挿入される。シート加工装置1では、温度センサ47により測定される温度が所定の設定温度に等しくなるように、温度センサ47からの出力に基づいて複数の加熱部46が制御される。なお、本実施の形態では、加工ロール4の幅方向の他方の端部には、温度センサは設けられない。
【0029】
シート加工装置1では、搬送機構2により加工ロール4およびアンビルロール3へと搬送されるシート部材9の積層された複数の不織布シートの間に、高吸収性ポリマー(SAP(Super Absorbent Polymer))等の高吸収性樹脂の粒子が存在している。
図5に示すように、シート部材9では、高吸収性樹脂の粒子は、それぞれが搬送方向に平行に延びる複数の帯状の粒子存在領域93に散布されており、複数の粒子存在領域93の間には、搬送方向に平行に延びる複数の帯状の粒子非存在領域94が設けられる。換言すれば、シート部材9では、複数の粒子存在領域93がストライプ状に設けられる。
図5では、粒子存在領域93に平行斜線を付す。
【0030】
図1に示すシート加工装置1では、シート部材9が加工ロール4とアンビルロール3との間を通過する際に、
図4に示す加工ロール4の複数の第1凸部432および複数の第2凸部433が、シート部材9の複数の粒子非存在領域94(
図5参照)に接触する。そして、加熱された第1凸部432および第2凸部433とアンビルロール3との間において、積層された複数の不織布シートが粒子非存在領域94にて熱接合される。シート部材9では、第1凸部432が接触する粒子非存在領域94の幅は、第2凸部433が接触する粒子非存在領域94の幅よりも大きい。
【0031】
粒子非存在領域94における熱接合が終了すると、シート部材9は、図示しない加工部により、搬送方向において等間隔に配列されるとともにそれぞれが幅方向に延びる複数の切断領域にて接合されて切断される。そして、第1凸部432により熱接合された7つの粒子非存在領域94のうち、両端を除く5つの粒子非存在領域94にて切断される。これにより、
図6に示すように、5つの粒子存在領域93がストライプ状に設けられた吸収シート95が形成される。
【0032】
ところで、熱接合に利用される通常の加工ロールでは、ロール本体に挿入される複数の加熱部のそれぞれにおいて、中央部の温度が最も高く、中央部から離れるに従って温度が漸次低下する。仮に、上述の加工ロール4にこのような加熱部が設けられたとすると、このような加工ロール(以下、「比較例の加工ロール」という。)では、ツール部の中央部に位置する凸部の温度と、端部に位置する凸部の温度とが大きく異なってしまう。その結果、シート部材の幅方向の全体に亘る均一な熱接合を実現することができなくなる。換言すれば、少なくとも幅方向のいずれかの位置において、所望の熱接合を実現することができなくなる。特に、後工程において切断される粒子非存在領域、すなわち、第1凸部に対応する粒子非存在領域における熱接合が不十分であると、当該粒子非存在領域が切断された後に、積層された不織布シートが剥離して内部の粒子が流出してしまう。
【0033】
これに対し、シート加工装置1では、
図4に示す加熱部46の端部発熱部463が、単位時間当たりに中央発熱部462よりも大きい熱量を発生することにより、加熱部46の温度の幅方向における均一性が向上する。これにより、ツール部43の複数の第1凸部432の温度の均一性を向上することができ、複数の第1凸部432に対応する複数の粒子非存在領域94における不織布シートの熱接合の質の均一性を向上することができる。また、複数の第2凸部433の温度の均一性も向上することができる。さらに、加熱部46の温度の幅方向における均一性が向上することにより、加熱部46の温度制御に利用される温度センサ47の幅方向における配置の自由度が向上する。
【0034】
図7.Aないし
図7.Fは、比較例の加工ロールの複数の第1凸部の温度と、加工ロール4の複数の第1凸部432の温度とを比較した図である。
図7.Aないし
図7.Fでは、図の左側の領域に比較例の加工ロールの7つの第1凸部の温度をプロットし、図の右側の領域に加工ロール4の7つの第1凸部432の温度をプロットしている。
【0035】
図7.Aないし
図7.Fはそれぞれ、設定温度を125℃、135℃、145℃、155℃、165℃および175℃としたときの第1凸部の温度を示す。
図7.Aないし
図7.Fに示すように、本実施の形態に係る加工ロール4の複数の第1凸部432の温度は、比較例の加工ロールの複数の第1凸部の温度よりも均一性が高い。また、加工ロール4の複数の第1凸部432の平均温度は、比較例の加工ロールの複数の第1凸部の平均温度よりも設定温度に近い。比較例の加工ロールでは、上述のように、中央部の温度が最も高く、中央部から離れるに従って温度が漸次低下する。このため、加工ロールの端部に設けられた温度センサの出力に基づいて加熱部の温度制御が行われると、中央部の温度が設定温度よりも大幅に高くなり、平均温度も設定温度よりも高くなる。
【0036】
図7.Aの設定温度125℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、140.3℃および14.2℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、124.0℃および5.1℃である。
図7.Bの設定温度135℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、150.1℃および9.7℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、133.4℃および1.3℃である。
図7.Cの設定温度145℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、152.1℃および14.3℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、146.1℃および2.0℃である。
【0037】
図7.Dの設定温度155℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、177.9℃および10.3℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、150.1℃および4.2℃である。
図7.Eの設定温度165℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、179.9℃および12.1℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、159.6℃および4.1℃である。
図7.Fの設定温度175℃の例では、比較例の第1凸部の平均温度および標準偏差が、210.4℃および26.1℃であるのに対し、加工ロール4の第1凸部432の平均温度および標準偏差は、172.0℃および3.8℃である。
【0038】
ツール部の外周面に、全周に亘る複数の第1凸部が幅方向に配列される加工ロールでは、通常、複数の第1凸部の温度がばらつきやすい。本実施の形態に係る加工ロール4では、上述のように、ツール部43の複数の第1凸部432の温度の均一性を向上することができる。したがって、加工ロール4の構造は、ツール部の外周面に、全周に亘る複数の第1凸部が幅方向に配列される加工ロールに特に適している。
【0039】
シート加工装置1では、温度センサ47が、加工ロール4の幅方向の一方の端部に配置される。これにより、加工ロール4の幅方向の中央部等に設ける場合に比べて、温度センサ47の設置やメンテナンス等が容易となる。また、中央発熱部462に比べて単位時間当たりの発熱量が大きい端部発熱部463近傍にて温度を測定することができるため、加熱部46の温度制御の精度を向上することができる。
【0040】
シート加工装置1では、シート部材9に接触する凸部の形状や配置が互いに異なる複数種類のツール部43が用意され、ロール本体42に取り付けられるツール部43を交換することにより、シート部材9に対する複数種類の加工を1つのシート加工装置1にて行うことができる。また、ツール部43の端部の内周面とロール本体42の外周面との間に、加工ロール4の端縁に近づくに従って漸次増大する環状間隙40が設けられることにより、ツール部43をロール本体42に容易に外挿することができる。さらに、当該環状間隙40に加圧リング44を挿入することにより、ツール部43の端部の位置を容易に固定することができる。
【0041】
加工ロール4では、上述のように、ロール本体42の外周面に形成されたねじ部421に螺合されるとともにツール部43の一方の端縁に当接することにより当該一方の端縁の位置を決定するロックナット部45が設けられる。これにより、ツール部43の幅方向の位置を容易に調整することができる。また、ロックナット部45がダブルロックナットであることにより、ロックナット部45の意図しない回転および幅方向の移動を防止し、ツール部43の幅方向の位置がずれてしまうことを防止することができる。
【0042】
加工ロール4では、さらに、ツール部43の幅方向の両側に設けられた2つのロックナット部45において、ねじ山の巻き方向が互いに反対である。このため、一方のロックナット部45を幅方向の中央部に向けて締める際に、当該一方のロックナット部45の回転がツール部43を介して他方のロックナット部45に伝達されるとしても、伝達される回転は、他方のロックナット部45が幅方向の中央部に向かって締められる方向の回転である。したがって、一方のロックナット部45を締める側に回転させる際に、他方のロックナット部45が弛む方向に回転することを防止することができる。その結果、ツール部43の幅方向の位置決めをより容易に行うことができる。
【0043】
上述のように、加工ロール4では、ツール部43を加熱する加熱部46がロール本体42に設けられる。これにより、加熱部46を交換することなく、ツール部43を容易に交換することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0045】
例えば、加工ロール4では、ツール部43の両側から加圧リング44が省略され、ロックナット部45が、ツール部43の幅方向の両側の端縁に直接的に当接することにより、ツール部43の両側の端縁の位置が決定されてもよい。この場合であっても、ツール部43の幅方向の位置を容易に調整することができる。また、ロール本体42の外周面から突出するストッパが設けられ、ツール部43の一方の端縁を当該ストッパに当接させることによりツール部43の位置が決定された後、ツール部43の他方の端部の位置が加圧リング44やロックナット部45により固定されてもよい。
本発明に関連する技術に係る加工ロール4では、加圧リング44やロックナット部45以外の様々な構造により、ツール部43の位置の調整および固定が行われてもよい。
【0046】
ツール部43では、複数の第1凸部432および第2凸部433は、必ずしもツール部43の外周面431の全周に亘って設けられる必要はない。例えば、複数の第1凸部432がそれぞれ、周方向に断続的に配列される複数の凸部要素を有するものであってもよい。この場合であっても、シート加工装置1では、上述と同様に、幅方向に配列される複数の第1凸部432の温度の均一性を向上することができる。ツール部43では、凸部の個数や形状は様々に変更されてよく、例えば、それぞれが幅方向に延びる線状または帯状である複数の凸部が、周方向に配列されてもよい。
【0047】
ツール部43は、必ずしも略円筒状である必要はなく、少なくとも両端部が略円環状であればよい。例えば、略円環状の両端部の間にて幅方向に延びる略帯状の複数の中間部材が設けられ、当該複数の中間部材にて両端部が接続されてもよい。この場合、シート部材9に対する加工は、複数の中間部材の一部または全体が接触することにより行われる。ただし、ツール部43の剛性を高くするという観点からは、ツール部43が略円筒状であることが好ましい。これにより、ツール部43の変形を防止することができ、ツール部43をロール本体42に容易に取り付けることができる。また、ツール部43の長寿命化を図ることもできる。
【0048】
シート加工装置1では、シート部材9に対して施される加工は、必ずしも熱接合には限定されず、加熱を伴うエンボス加工や切断加工等の様々な熱加工が行われてよい。また、シート部材9に対して施される加工は、必ずしも加熱を伴う必要はない。例えば、シート加工装置1により、加熱を伴わず押圧のみによるエンボス加工や切断加工がシート部材9に対して施されてもよい。
【0049】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。