特許第5854834号(P5854834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本パーカライジング株式会社の特許一覧

特許5854834チタン及び/又はジルコニウムを主成分とする金属表面に最適化された不動態化処理剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854834
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】チタン及び/又はジルコニウムを主成分とする金属表面に最適化された不動態化処理剤
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20160120BHJP
【FI】
   C23C22/34
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-500186(P2011-500186)
(86)(22)【出願日】2009年3月17日
(65)【公表番号】特表2011-514448(P2011-514448A)
(43)【公表日】2011年5月6日
(86)【国際出願番号】EP2009053109
(87)【国際公開番号】WO2009115504
(87)【国際公開日】20090924
【審査請求日】2011年11月25日
(31)【優先権主張番号】102008014465.7
(32)【優先日】2008年3月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100072109
【弁理士】
【氏名又は名称】西舘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】ブラウアー,ヤン−ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】クレマー,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】コルナン,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ハイシュカンプ,ニコール
(72)【発明者】
【氏名】ジカ,フランツ−アドルフ
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−174832(JP,A)
【文献】 特開2004−218073(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/103080(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/098359(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/065645(WO,A1)
【文献】 清水秋雄、青木智幸,アルミニウムD&I缶用ジルコニウム系化成処理反応について,日本パーカライジング技報,日本,1993年,第6号,pp.40-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−30/00
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B):
(A)チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の元素原子を含み、これらの元素原子の合計濃度が、2.5×10-4モル/リットル以上で、しかし2.0×10-2モル/リットル以下の、1種以上の水溶性化合物、及び
(B)フッ素イオンの供給源として、少なくとも1個のフッ素原子を含む1種以上の水溶性化合物
を含み、
前記成分(A)に含まれる、チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の元素原子の合計をAとし、(B)に含まれるフッ素元素原子をBとして、
モル比A:Bが1:z(但し、zは6より大きな実数を表す)
である、クロム不含有水性処理剤であって、
前記処理剤は下記追加成分(C)及び(D):
(C)少なくとも1個の銅原子を含み、銅イオンを放出する1種以上の水溶性化合物、及び
(D)鉄を含み、鉄イオンを放出するが、フッ素イオンの発生源ではない1種以上の水溶性及び/又は水分散性化合物
を更に含み、
成分(D)鉄原子の合計数の、成分(B)フッ素原子の合計数に対するモル比D:Bは(z−6)/4z以上である、
金属表面の防食化成処理用クロム不含有水性処理剤。
【請求項2】
前記成分(D)鉄原子の合計数の、前記成分(B)フッ素原子の合計数に対するモル比D:Bが(z−6)/3z以上である、請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
前記成分(A)チタン及び/又はジルコニウム原子の合計数の、前記成分(C)銅原子の合計数に対するモル比A:Cが1:3以上である、請求項1又は2に記載の処理剤。
【請求項4】
成分(B)に対応するフッ素原子の合計含有量が、3g/リットル以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項5】
燐のオキソアニオンの合計含有率が1ppm未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項6】
前記処理剤のpH値が2.5以上であり、しかし5以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項7】
鉄、鋼、亜鉛めっき及び合金化亜鉛めっきされた鉄及び鋼、アルミニウム及び/又は亜鉛並びに少なくとも50原子%のアルミニウム及び/又は亜鉛の合金含有量を有するアルミニウム及び/又は亜鉛の合金から選ばれた金属の表面を防食化成処理するための方法であって、前記金属表面を、請求項1〜6のいずれか一項に記載のクロム不含有水性処理剤と接触させる、金属表面用防食化成処理方法。
【請求項8】
前記処理剤が、前記金属表面に接触された後、この接触表面にさらに自己析出又は電着による被覆が施される前に、前記金属表面が乾燥されることはない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
金属表面用防食化成処理が施されている金属基材を製造する方法であって、鉄、鋼、亜鉛めっき及び合金化亜鉛めっきされた鉄及び鋼、アルミニウム及び/又は亜鉛並びに少なくとも50原子%のアルミニウム及び/又は亜鉛の合金含有量を有するアルミニウム及び/又は亜鉛の合金から選ばれた金属の表面を、請求項1〜6のいずれか一項に記載のクロム不含有水性処理剤と接触させ、
その表面における、チタン及び/又はジルコニウムの元素付着量、20mg/m2以上であり、しかし150mg/m2以下とする、金属基材を製造する方法
【請求項10】
前記処理剤が、前記金属表面に接触された後、この接触表面にさらに自己析出又は電着による被覆が施される前に、前記金属表面が乾燥されることはない、請求項9に記載の金属基材を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタン及び/又はジルコニウムの水溶性化合物を主成分とするクロム不含有水性処理剤、及び金属表面の防食化成処理方法に関するものである。前記クロム不含有水性処理剤は複雑な構造を形成するために互に結合される種々の金属材料、とりわけ鋼材又は亜鉛めっき、又は合金化亜鉛めっきを施された鋼、及びこれらの材料のすべての組合せを処理する目的に好適なものである。また、アルミニウム及びその合金の表面は、本発明による前記処理剤を用いる防食処理に供されることがある。前記防食処理は、主として、それに続いて施される浸漬被覆の前処理として、意図されたものである。
本発明は、さらに、本発明によるクロム不含有処理剤を用いて、予じめ設定された処理手順に従って処理された金属基材、及びその使用、特に自動車車体の製造における使用を包含するものである。
【0002】
フッ素錯体の酸性水溶液からなる防食処理剤は、かなり前から知られていた。この防食処理剤は、クロム化合物の有毒特性によって既にあまり使用されなくなったクロメート処理法に代って、次第に広く使用されている。一般に、前記フッ素錯体の水溶液は、さらに防食活性成分を含み、この成分が防食作用及び被覆接着性を、さらに向上させる。
【背景技術】
【0003】
例えば、DE−A−1933013は、その一実施態様において、一処理溶液を記載しており、この処理溶液はヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸コバルト及びm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムの水溶液であって、5.2のpH値を有するものである。この溶液は亜鉛、鋼又はアルミニウムの表面用に使用できる。EP−A−1571237は、鉄、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムを含む表面用の処理溶液及び処理方法について、記載している。この溶液は、2乃至6の範囲内のpH値を有し5乃至5000ppmのジルコニウム及び/又はチタンと、0.1乃至100ppmの遊離フッ化物を含んでいる。またこの溶液は、さらに塩素酸塩、臭素酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、過マンガン酸塩、バナジウム酸塩、過酸化水素、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、或は上記各酸塩において結合している酸、から選ばれた化合物を追加して含んでいてもよい。同様に有機ポリマーが含まれていてもよい。このような溶液による処理の後に、金属表面は、さらに不動態化溶液により水洗されてもよい。
【0004】
WO93/05198は、塗布型(dry−in−place)方法を記述しており、この方法において、クロム不含有処理剤は、その一成分として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、硅素及びホウ素のフルオロ錯体を含み、さらに第二の成分として、コバルト、マグネシウム、チタン、亜鉛、ニッケル、錫、ジルコニウム、鉄、アルミニウム及び鉄から選ばれた元素のカチオンを含み、上記2成分は、互に最小の特定の比率で含まれ、前記処理剤は特に亜鉛めっき鋼表面に適用される。この文献の方法態様は、前記第二の成分としてコバルト又はマグネシウムの化合物を含む組成物の有益な効果を実証している。
【0005】
同様に、WO07/065645は特にチタン及び/又はジルコニウムのフルオロ錯体を含む水性組成物を記述しており、この組成物には、さらに、硝酸イオン、銅イオン、銀イオン、バナジウム又はバナジウム酸のイオン、ビスマスイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、錫イオン、pH範囲を2.5乃至5.5にするための緩衝剤系、ドナー原子を含む少なくとも2種の基を有する芳香族カルボン酸又はこのカルボン酸の誘導体、及び1μm未満の平均粒径を有するシリカ粒子から選ばれた追加成分がさらに含まれている。WO07/065645は、さらに、過剰な遊離フッ化物を捕捉するために、アルミニウムイオンを、「フッ化物捕捉剤」として、さらに添加してもよいことを教示しているが、しかし、何が過剰な遊離フッ化物を構成しているか或は、アルミニウムイオンを「フッ化物捕捉剤」として使用してもよい条件を示していない。
【0006】
EP1405933は鉄及び/又は亜鉛表面を処理するための組成物を開示しており、この組成物は、Ti,Zr,Hf及びSiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属と、及びフッ素イオンの供給源とを含み、これら2成分の濃度比について、遊離フッ素イオンの量は、500ppmを超えないという条件が定められている。「フッ化物捕捉剤」としては、銀、アルミニウム、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、ニッケル、コバルト、及び亜鉛元素を含む化合物が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は金属表面の化成処理のための、クロム不含有で、チタン及び/又はジルコニウムを主成分とする水性処理剤を提供することであり、前記処理剤とは、そのフッ化物含有率が高くなった場合においても、処理された金属表面に効果的な不動態化化成処理を達成し、かつ一方では、処理された金属部材に、直接に適切な防食保護を付与し、他方では有機下塗被覆又は有機浸漬被覆とともに、永続的な防食保護に関する高い要求性能を満たすものであり、そして、それは良好な密着性を確保するために必要なことである。
【0008】
前記目的の記載手段内において述べられている高くなったフッ化物含有率は、フッ素原子の合計数が、チタン及び/又はジルコニウム元素により錯化し得るフッ素原子の最大数よりも多いとき、すなわち、フッ素原子の合計数の、チタン及び/又はジルコニウム原子の合計数に対するモル比が、6の数値よりも大きい場合の前記水性処理剤において発生する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、金属表面の化成処理に好適な、下記クロム不含有水性処理剤により達成される。
本発明の水性処理剤は、
下記成分(A)及び(B):
(A)チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の元素原子を含み、これらの元素原子の合計濃度が、2.5×10-4モル/リットル以上、2.0×10-2モル/リットル以下である1種以上の水溶性化合物、
(B)フッ素イオンの供給源として、少なくとも1個のフッ素原子を含む1種以上の水溶性化合物。
を含み、
前記処理剤は、前記特定成分(A)に含まれる、チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の元素原子の合計をAとし、(B)に含まれる前記フッ素元素原子をBとして、1:zのモル比A:Bで含み、zは6より大きな実数Rを表し{z∈R│z>6}、
(C)少なくとも1個の銅イオンを含み、銅イオンを放出する1種以上の水溶性化合物、及び
(D)鉄を含み、イオンを放出するが、フッ素イオンの発生源ではない1種以上の水溶性及び/又は水分散性化合物
を含み、
成分(D)原子の合計数の、成分(B)フッ素原子の合計数に対するモル比D:Bの数値は、前記処理剤が、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において、鉄含有表面好ましくは非合金化鋼表面に、接触したときに、前記表面上において、チタン及びジルコニウムから選ばれた1種以上の前記成分(A)元素に係る元素付着量(elemental loading)が、20mg/m2未満になるときのモル比数値より低くない、金属表面の防食化成処理用クロム不含有水性処理剤である。
【0010】
本発明の処理剤において、前記成分(A)元素チタン及び/又はジルコニウムの最小濃度は化成処理層の形成に関するしきい値であり、従って処理剤が必ず有するものである。若し前記濃度の値が、前記しきい値より低いときには、ジルコニウムの酸化物/水酸化物混合物を含有する不動態化層が形成されるために、前記金属表面が、均一に化成処理されることはなく、またチタン及び/又はジルコニウム元素に係る元素付着量(elemental loadings)は明らかに20mg/m2より低くなる。このような場合には、銅の沈着が優位を占め、不動態化外層はほとんど形成されない。
他面において前記水性処理液中の、成分(A)によるチタン及び/又はジルコニウム元素の、2.0×10-2モル/リットルより高い濃度は、経済的に実用性がなく、また、さらに、金属部材の処理における防食保護に関して、付加的有益性をもたらすものでも全くない。さらに、このような高濃度は加工性を悪化させ、結果として生ずる付加的再生及び再処理工程により、化成処理浴の操業コストを、増大させる。
このようなクロム不含有水性処理剤の特に好ましいものは、その成分(A)が単に、ジルコニウムの水溶性化合物からなる処理剤である。
【0011】
さらに、本発明の根源をなす目的は、金属表面の化成処理に好適な下記クロム不含有水性処理液により達成される。
この処理液は、
下記成分(A)及び(B):
(A)チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の原子を含み、これらの元素原子の合計濃度が、2.5×10-4モル/リットル以上、2.0×10-2モル/リットル以下である1種以上の水溶性化合物、及び
(B)フッ素イオンの供給源として、少なくとも1個のフッ素原子を含む1種以上の水溶性化合物
を含み、
前記成分(A)に含まれる、チタン元素及びジルコニウム元素から選ばれた少なくとも1種の元素原子の合計をAとし、(B)に含まれるフッ素元素原子をBとして、モル比A:Bが1:zであり、zは6より大きな実数Rを表し{z∈R│z>6}
記処理剤は下記追加成分(C)及び(D):
(C)少なくとも1個の銅イオンを含み、銅イオンを放出する1種以上の水溶性化合物、及び
(D)鉄を含み、イオンを放出するが、フッ素イオンの発生源ではない1種以上の水溶性及び/又は水分散性化合物
を更に含み、
成分(D)原子の合計数の、成分(B)フッ素原子の合計数に対するモル比D:Bは(z−6)/4z以上である。
【0012】
成分(D)原子の合計数の、成分(B)フッ素原子の合計量に対するモル比D:Bの特定値、すなわち少なくとも(z−6)/4zは、前記処理剤が、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において、鉄含有表面、好ましくは合金化されていない鋼表面に接触したとき、前記表面上におけるチタン及び/又はジルコニウムから選ばれた成分(A)元素に係る元素付着量が、少なくとも20mg/m2になるようにするために、本発明の前記処理剤中に、十分な量の「フッ化物捕捉剤」の存在を確実にするものである。
前記モル比D:Bが、その特定値:(z−6)/4zより下がることのない本発明の処理剤は、特に前記処理剤が浸漬法によって塗布されるときに、前記金属表面の十分な不動態化化成処理層を形成する。
【0013】
しかしながら、特に本発明の処理剤がスプレー法により塗布されるときには、前記モル比D:Bが比(z−6)/4zにより特定された値より低い場合であっても、本発明による防食前処理は、それに適用される初期条件を下記のようにすれば、金属表面に施すことができる。すなわち、前記処理剤が、鉄含有表面、好ましくは、合金化されていない鋼表面に、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において接触したときに、この処理剤のモル比D:B値が、前記表面上におけるチタン及びジルコニウムより選ばれた前記成分(A)元素に係る元素付着量が、20mg/m2未満になるモル比D:B値よりも低くならないように、初期条件をしっかり設定しなければならない。
【0014】
従って、前記少なくとも(z−6)/4zの比D:Bは、また、本発明による組成物のためのガイド値であるとも考えられ、このガイド値は、前記組成物の接触に用いられる具体的方法に関係なく、金属表面の十分な不動態化化成処理を達成するものであって、このような十分な化成処理は、さらに、前記処理剤が、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において、鉄含有表面、好ましくは、合金化されていない鋼表面に接触したときに、その比D:Bが、前記表面上における、チタン及びジルコニウムから選ばれた成分(A)元素に係る元素付着量を20mg/m2未満とするいかなる比D:Bの値より低くならないような条件に供される。
【0015】
特に、このように化成処理層の形成に有益な水性処理液は、成分(D)原子の合計数の、成分(B)フッ素原子の合計数に対するモル比D:Bが(z−6)/3z以上であり、好ましくは(z−6)/2z以上であるような処理液であることが見出されている。
前記有益な効果は、本発明の処理剤による金属表面の処理によって形成される化成処理層の組成を変更して、チタン及び/又はジルコニウム元素に関する元素付着量を特に銅の元素付着量との対比において、より高くし、有利にするということであり、それによって次に塗布される上塗り有機被覆層に対するすぐれた防食保護及び一層向上した接着特性が得られるということである。チタン及び/又はジルコニウムの化合物を主成分とするクロム不含有処理剤は、この処理剤が、鉄含有表面、好ましくは合金化されていない鋼表面に、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において接触したときに、前記表面上における、チタン及び/又はジルコニウムから選ばれた成分(A)元素に係る元素付着量が20mg/m2未満になるような値以下のモル比D:B値を有する場合には、本発明に従うようにすることが好ましい。このことに関連して、チタン及び/又はジルコニウム元素の元素付着量がほぼ20mg/m2に到達するまでは、連続的な均質化成処理層は、形成されないことを実証し得ることが証明されている。若し前記金属表面の化成処理が、不適切であるならば、銅イオンが存在するときのクロム不含有水性処理剤中における金属銅の無電解めっきが優勢になる。しかし金属性が優勢な保護被覆層の塗布は、満足できる防食保護を進展させるためには、特に、上塗り有機被覆層に対する満足できる接着性を付与するためには、不適切である。上記のような不適切な処理剤は、一方では、完全かつ均一な無機化成処理層の形成をもたらし、他方では、化成処理層中の欠陥部における、銅の局部的沈着をもたらす場合には、本発明の処理剤を用いることによって、防食保護に関する最適な結果が達成される。このことに関連して、上述の不動態化層が、成分(A)のチタン及び/又はジルコニウム元素の、好ましくは少なくとも20mg/m2の、特に好ましくは少なくとも40mg/m2の元素付着量を、同時に、成分(C)による銅の、好ましくは、100mg/m2以下の特に好ましくは80mg/m2以下の元素付着量とともに有し:しかし、好ましくは少なくとも10mg/m2の銅の沈着量が得られることを、実証し得ることが証明されている。本発明に係る好ましい処理剤は、成分(A)のチタン及び/又はジルコニウム原子の合計数の、成分(C)銅原子の合計数に対するモル比A:Cが1:3以上であり、好ましくは2:3以上であるような処理剤である。前記A:C比が本発明に係る処理剤の好ましい範囲未満であっても、金属表面の適切な無機化成処理は、実施可能であるが、通常、銅に係る元素付着量は、100mg/m2よりも多量である。極端な場合、すなわち前記比A:Cが好ましいレベルよりも著しく低い場合には、チタン及び/又はジルコニウムを主成分とする化成処理が、著しく抑制され、その結果ふき取り可能な、アモルファス金属銅の被覆層が形成するという結果となる。反対に、本発明に係る好ましい処理剤は、成分(A)のチタン及び/又はジルコニウム原子の合計数の、成分(C)の銅原子の合計数に対する比A:Cが、前記処理剤が、鉄含有表面、好ましくは合金化されていない鋼表面に、90秒の処理時間及び30℃の処理温度において、接触したときに、前記表面におけるチタン及び/又はジルコニウムから選ばれた成分(A)元素に係る元素付着量が20mg/m2未満であるが、或は、成分(C)元素銅に係る元素付着量が100mg/m2より多量になるような比A:Cの値以下であるような処理剤である。
【0016】
成分(A)〜(D)に対応する、本発明に係る水溶性化合物は、その水溶液中において、前記において具体的に記述された元素を含むイオン数又は前述の元素それ自体のイオン類と、化学的平衡をなしているものである。前記水溶液中において、前記イオン類と、化合物(A)〜(D)に対応する未遊離の水溶性化合物との間に形成されている化学的平衡は、本発明においては、慣用方法を用いて定性的に検出されるべきものであり、すなわち前記イオン類は、それ自身が、水性相において、定量的に測定可能に存在すべきものである。
対称的に、成分(D)に対応する本発明の水溶性化合物は、そのイオン形成性物質の構造によってのみ特徴づけがなされており、イオン形成物質のマトリックス中のイオン形成成分として、成分(D)の前述の特定元素の少なくとも1種を含んでいる。前記水性相中のイオン類の含有量割合は、ここでは水分散可能な化合物の溶解度積(solubility product)により予じめ定められる。
【0017】
好ましい化合物(A)の水溶性化合物は、その水溶液中において、チタン及び/又はジルコニウム元素のフルオロ錯体のアニオンに解離する化合物である。このような好ましい前記化合物は、例えば、H2ZrF6,K2ZrF6,Na2ZrF6及び(NH42ZrF6及びこれらと同様のチタン化合物である。成分(A)に用いられる前記フッ素含有化合物は、同時に本発明に係る成分(B)の水溶性化合物であり、また逆の場合も同じである。チタン及び/又はジルコニウム元素のフッ素含有化合物は、また本発明に係る成分(A)の水溶性化合物、例えば(NH42Zr(OH)2(CO32又はTiO(SO4)としても使用され得るのである。
【0018】
好ましい成分(B)の水溶性化合物は、フッ化物イオンの発生源として働くものであって、前述のようなフルオロ金属酸であり、これに加えて、フッ化水素酸、フッ化アルカリ金属類、及び/又は二フッ化アンモニウムなどである。
【0019】
好ましい成分(C)の水溶性化合物は、銅イオンを遊離するものであって、塩化物イオンを含まないすべての水溶性銅塩である。特に、硫酸銅、硝酸銅及び酢酸銅が好ましい。
【0020】
成分(D)の水溶性化合物は、イオンを遊離するものであるが、フッ化物イオンの発生源ではなく、また、鉄イオンのみを遊離する化合物である
これらの化合物は成分(D)に規定された上述のの水溶性塩の、フッ化物イオンも塩化物イオンも含まないもののすべてを包含する。成分(D)に規定された代表的化合物は、実施例に記載されたものであってもよく、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)である。
【0022】
原則的に、好ましい前記成分(D)水分散性化合物は、その平均粒子直径が100nm以下、特に好ましくは20nm以下のものである。
【0025】
本発明に係る前述のクロム不含有処理剤のさらに好ましいものは、成分(B)に対応するフッ素原子の合計含有量が2g/リットル以下、好ましくは1g/リットル以下に限定されたものである。フッ素含有量が高いことは、それに伴って同時に、存在する成分(D)化合物の含有率がかなり高くなり、それによって付加的再生及び再処理工程が不可避的に生じ、その結果として、化成処理浴の操業コストが著しく上昇するから、不経済である。
【0026】
本発明は、前記クロム不含有処理剤が、有効な不動態化処理のためのいかなる追加重合体化合物を含むことを必要としないという点において、さらに他から区別されるべきものである。しかし、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリビニルピロリドン、上述のポリマーの構成単位を含んでなるブロックポリマーの誘導体のような有機ポリマーの少量を含むことは、成分(D)に規定されて水分散性化合物を含む本発明の処理剤の安定性のために有益であることがある。この場合には、本発明の処理剤中の有機ポリマーの合計含有量が50ppm未満、好ましくは10ppm未満、さらに好ましくは1ppm未満にすることが好ましい。本発明の処理剤は、その一つの具体的態様において有機ポリマーを含んでいない。
【0027】
金属表面の処理において、本発明の処理剤中に、りん酸アニオンが或る割合で含まれると、りん酸塩を含有する化成処理層が形成されることになり、この化成処理層は特定のエッチングされた基材(pickled substrate)から生ずる高い割合の金属カチオン、具体的には亜鉛及び鉄カチオンを含有する。上述のような不動態化層は防食特性を有しているが、本発明によるりん酸塩不含有処理剤により得られたチタン及び/又はジルコニウムを主成分とする化成処理層とは著しく異るものである。加えて、成分(B)による銅イオンの存在下に化成処理層を形成するときの相乗効果は、本発明によるりん酸塩不含有処理剤、すなわち、有機上塗り被覆層に、向上した防食保護及び改良された接着特性と付与するりん酸塩不含有処理剤において認められるが、この相乗作用は、本発明に係るりん酸塩含有処理剤においては、あまり強く目立つものではない。本発明に係るりん酸塩含有処理剤の更に他の不利益は難溶性りん酸塩の局部的沈殿に起因するスラッジ形成が増加することで有る。
従って、本発明に係る処理剤は、さらに好ましい実施態様において、りんのオキソアニオンを、5ppm未満の、含有量で含むことが好ましく、全く含まないものが特に好ましい。
【0028】
本発明に係る処理剤のpH値は、2.5以上であることが好ましく、特に好ましくは3.5以上であり、しかし、このpH値は5以下で有ることが好ましく、4.5以下であることが特に好ましい。このpH値は、少なくとも部分的に酸の形態にある、成分(A)又は成分(B)としてのチタン及び/又はジルコニウム元素のフルオロ錯体を用いて、上記の酸性範囲に調節されることが好ましい。しかし、このpH値は、また、他の酸、例えば、硝酸及び硫酸により調節されてもよい。さらに、本発明に係る処理剤を、より高いpH値において使用することが所望されるときには、このpH値を、アルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩、アンモニア或は有機アミンの添加により調節してもよい。
【0029】
本発明に係る処理剤のさらに好ましい実施態様においては、合計酸含有量を調節するために緩衝剤系がさらに存在し、この緩衝剤系は、2.5乃至5範囲内のpK値において、タンパク質平衡を示す。酢酸/酢酸塩緩衝剤は前記pH値範囲用の緩衝剤系として特に好適である。その他の好適な緩衝剤系としては、フタル酸カリウム水素を主成分とするものがある。緩衝剤系の添加による合計酸含有量の増加は、本発明に係る処理剤の安定性を向上させ、かつ処理剤のpHの設定を容易にする。本発明に係る処理剤を規定されたpH値に調節することは、この処理剤が、例えば、金属部材の防食処理のための連続処理法における浸漬浴として用いられる場合に、化成処理層の品質を一定に堅持するために必要である。このような緩衝剤の好適な性能は、この緩衝剤性能において、本発明に係る処理剤の、2.5乃至5.5の好ましい範囲内にあるpH値が、溶液1リットル当り1グラム当量の酸又はアルカリの導入により、好ましくは0.2単位以下の変化を生ずる性能であることが見出された。本発明に係る処理剤の上述のような緩衝剤性能は、フッ素の合計含有量に対する酸の相対的合計量が、フッ素含有量100ppm当り、5ポイント以上、特に好ましくは、6ポイント以上であり、かつ好ましくは10ポイント以下であるときに優れている。
【0030】
上述の本発明に係る処理剤の前記成分に加えて、前記水性処理溶液は、処理層形成性リン酸塩処理において「促進剤」として使用されている化合物を含んでいてもよい。これらの促進剤は、金属表面上で、酸によるエッチング反応により発生する水素原子を捕捉する特性を有する、この反応は、「減極反応」として知られており、金属表面上の酸性処理溶液の作用を促進にし、また、防食保護層の形成を著しく促進する。下記は、特に好ましい濃度範囲における好ましい促進剤の不完全なリストである。
0.05〜2g/リットル m−ニトロベンゼンスルホン酸イオン
0.1〜10g/リットル 遊離の、イオン状態の、又は、結合した形態のヒドロ
キシルアミン
0.05〜2g/リットル m−ニトロ安息香酸イオン
0.05〜2g/リットル p−ニトロフェノール
1〜70mg/リットル 遊離の、又は、結合状態の過酸化水素
0.05〜10g/リットル 有機N−酸化物
0.1〜3g/リットル ニトログアニジン
1〜500mg/リットル 亜硝酸イオン
1〜1000mg/リットル 硝酸イオン
0.5〜5g/リットル 塩素酸イオン
【0031】
本発明の処理剤はその使用環境において、前述の成分(A)乃至(D)を水中に溶解し、そのpH値を調整して調製してもよい。しかし、このような調製方法は実際には常法ではない。実際には、上記方法の代りに、水性濃縮性を慣行的に用意しておき、この濃縮液から、使用環境において、それを水により希釈し、必要があれば、そのpH値を調整して、使用に適合したクロム不含有処理剤を調製する。このようにして、本発明は、また、水により約10乃至約100倍迄特に、約20倍乃至約50倍の範囲内で希釈し、かつ必要があれば、そのpH値を、調整して、本発明の上記記載事項による酸性、クロム不含有水性溶液を生成させるための水性濃縮液を、提供する。前記の濃縮体は、その安定性を維持するために、しばしばそれを水によって希釈するに当り、そのpH値が、すぐには必要な範囲内にならないように調節される。この場合、水による希釈の後に、前記pH値が、上方に又は下方に調整される。このpH値は既に説明したように、適当な酸又は塩基の添加により調節される。本発明は、その別の態様(aspect)において、金属表面の防食化成処理方法に係り、この方法においては清浄化された金属表面が本発明に係るクロム不含有水性加工剤に接触せしめられる。この方法は、例えば処理溶液中に浸漬する方法(「浸漬法」)、或はクロム不含有処理剤をスプレーする方法(「スプレー法」)によって実施される。本発明によれば、処理剤の温度は、好ましくは15乃至60℃であり、特に25乃至50℃である。ここで所要処理時間とは、処理浴装置中の循環に適合し、かつ被処理金属部材の組成に特有な1回の処理時間である。しかし、クロム不含有処理剤との接触時間は、少なくとも30秒間であることが好ましく、特に好ましくは、少なくとも1分間であり、しかし、10分以内であることが好ましく、5分間以内であることが特に好ましい。前記接触の後、好ましくは水により、特に脱イオン水により洗浄される。
【0032】
処理されるべき金属表面から、残留オイル及びグリースが清浄化工程において、前もって除去される。同時に、その結果として、本発明に係る処理剤による化成処理後の均一な層品質を確保する再生可能な金属表面が形成される。この清浄化は当業者に既知の従来の市販製品によるアルカリ清浄化を含む。
【0033】
本発明の目的のために使用される金属表面は、鉄、鋼、亜鉛めっき及び合金めっき鉄及び鋼の表面であり、これらは、従来の市販品名Galfan(商標)、Galvalume(商標)及びGalvannealed(商標)により入手できるものである。本発明に係る処理剤により防食前処理を施すことができる金属表面とは、アルミニウム、亜鉛並びに、少なくとも50原子%のアルミニウム又は亜鉛を含むアルミニウム又は亜鉛合金も包含している。
本発明による方法により処理された金属表面は、「光沢(bright)金属表面であることが好ましい。「光沢」金属表面とは、防食被覆を施されていない金属表面を意味する。従って、本発明に係る方法は、防食保護層を形成する第1又は唯一の処理工程を含み、この防食保護層は、次に施される被覆の下地として作働することがある。従って本発明による処理層は、予じめ形成された防食保護層に対する後処理層例えばりん酸塩処理層を含まない。
【0034】
本発明によれば、更に追加の行程は不必要であり、むしろ、それを回避することが好ましい。本発明の更に他の様相においては、金属表面は、それを前記クロム不含有処理剤と接触させた後、かつ浸漬被覆処理例えば、電着塗装の前に、乾燥される。しかし、装置が停止し、処理された金属表面、例えば自動車の車体又はその部品の表面が、本発明に係る処理剤を含む浴と、浸漬被覆浴との間において空気中に暴露されたときには、意図しない乾燥が発生する。しかしながら、このような意図しない乾燥が、全く損害をまねくことはない。
本発明によれば、浸漬被覆層は、金属表面上に、外部からの電流の負荷なしの浸漬被覆、すなわち自己析出により塗布される有機ポリマーの水性分散体の被覆のみならず、外部電圧源の負荷による水相からの、被覆物質による被覆をも含んでいる。
【0035】
本発明は、さらにまた、本発明に係る処理剤を用いて前記方法により処理された金属表面を提供する。この金属表面は、チタン及び/又はジルコニウムを好ましくは20mg/m2以上の、かつ好ましくは150mg/m2以下のチタン及び/又はジルコニウム元素付着量で含んでいる。本発明の金属表面は、付着した銅の付着量が100mg/m2以下であり、好ましくは、80mg/m2であり、しかし、10mg/m2以上であるものが好ましい。
【0036】
後に続く多層システムの塗布による工業的表面処理方法における前述の金属表面の使用は、本発明によって提供される。
【0037】
さらに、本発明によって化成処理された金属材料、部材及び複合構造物は、自動車の車体組立て、造船、建設及び建築分野における半製品の製造、において、並びに、白物家電製品及び電子住宅機器の製造のために用いられる。
【実施例】
【0038】
下記の実施態様例は、本発明方法及び本発明による新クロム不含有処理剤の技術的有益性を示すものである。
【0039】
本発明によるクロム不含有水性処理剤及び、それに対応する、金属表面の化成処理のための工程順序は、冷間圧延鋼(Sidca製CRS ST1405、又はChemetall製MBS)から製造されたテスト鋼板を用いてテストされた。
【0040】
前記金属テスト板の本発明による処理用のための工程順序は、原則として、自動車車体製造において従来から使用されており、これを下記に示す。前記金属板を、最初に、60℃において、5分間のアルカリ清浄化及びグリース除去に供された。この目的のために、本出願人の従来の市販製品の界面活性剤一含有混合物:3%Ridoline(商標)1574A及び0.3%のRidosol(商標)1270を含む混合物、が用いられた。次に、前記冷間圧延鋼板が、30℃、90秒間のクロム不含有処理剤による処理の前に、化学用水(process water)による洗浄工程に供され、次に、脱イオン水(k<1μScm-1)による追加洗浄サイクルに供された。
化成処理の品質は、処理直後の鋼板を、「化学用水テスト」(process water test)に供することにより評価された。この「化学用水テスト」は、本発明に係る処理剤による処理後の化成被膜の物質性を確認すること及び評価することを含む、この目的のために、先ず、処理直後の鋼板を、送風乾燥し、次に、直ちに、化学用水中に、20℃、30秒間浸漬し、次に風乾した。
本発明において、「化学用水」とは、導電度、pH値、塩化物イオン及び硝酸イオン含有率及び銅含有率から選ばれた特定の特性値が予じめ定められた範囲内の値であるものである。一般に、前記「化学用水テスト」における本願による使用のための化学用水は、EU Council Directive 98/83/ECによる要件に合致しなければならず、下記表に記載の化学用水用の化学的パラメータの特性値が、「化学用水テスト」の実施に必要である。
パラメータ | 特性値
導電度 | 20℃において、500〜900μScm-1
pH値 | 6.5−7.5
塩化物 | <250ppm
硝酸塩 | <50ppm
銅 | <0.1ppm
残留重金属 | <500ppb
【0041】
前記鋼板が上述の「化学用水テスト」によって処理されたとき、赤錆の形成状態が下記基準に評価された。
0:肉眼認識可能な赤錆なし
1:かろうじてやや、又は極めて少量の赤錆が認識できる(<10%)
2:少量の赤錆(<20%)
3:明瞭な赤錆形成(<30%)
4:顕著な赤錆(>50%)
ここで赤錆とは、鉄の赤色腐食生成物、すなわち酸化鉄を示すものである。赤錆は、湿った大気中に鉄を曝露したときに、ほとんど即時に形成される。従って鉄含有表面上に化学用水の薄膜は、赤錆形成の開始に十分である。しかしながら赤錆の形成が、乾燥環境において停止状態になると、鉄含有表面上に形成された防食化成処理層の均質性の良好な評価を、赤錆の誘発形成に基いて、行うことが可能である。前記クロム不含有処理剤により処理された鋼板が、均質で、連続的な化成処理層を有しているならば、赤錆の形成は微少又は、人の肉眼では識別不能である。これに対して明瞭に認識可能な赤錆が「化学用水テスト」において形成されたときは、化成処理層又は不動態化層が、全体的に薄過ぎるという不適切な層形成がなされたことによる巨視的欠陥を示す。
【0042】
表1は前述の方法に従って、冷間圧延された鋼材の金属表面の防食前処理用に用いられたクロム不含有ジルコニウム系の処理剤を示すものである。
【0043】
本発明の特定成分(A)−(D)の内容は下記のとおりである。
(A)H2ZrF6
(B)H2ZrF6,(NH4)HF2
(C)Cu(NO32・3H2
(D)Fe(NO33・9H2O〔表1,3
【0044】
先ず、表1から、銅イオンを含まないクロム不含有処理剤(VB1)は、実際に鋼表面に20mg/m2未満の適切な元素付着量をもたらすけれども、このときの化成処理層は赤錆の発生を完全に防止することはできない。これに対して、本発明の処理剤中に銅イオンが存在する場合(B1)には、ジルコニウムと銅との両者が、不動態化層に取り込まれ、得られたジルコニウムの元素付着量は、銅を含まない組成物(VB1)により得られた元素付着量を、はるかに超えるものであった。この相乗効果及び銅の同時付着は、それによって、「化学用水テスト」において、赤錆形成がほとんど発生しないか、或は完全に防止されるという結果を生ずる。ジルコニウムの銅に対する割合が一定のモル比(A:C)をなすときは、化成処理層形成の促進を生ずる前記相乗効果はジルコニウムの合計量(B2)から独立無関係なものである。少なくとも、前記「脱イオン水テスト」後の赤錆の形成に関しては、化成処理中に含まれる銅の含有割合が高くなってもその影響は少なく、このことは本発明に準拠する実施例B1及びB2の対比から明らかである。
【0045】
本発明のさらなる他の態様(aspect)は、「フッ化物捕捉剤」(成分D)の割合に関連する合計フッ化物含有量が、本発明において定められた特定値未満になることが必要であるということである。このことに関連して、実施例VB2とB1との対比から、一定割合の鉄イオン量(VB2)において、フッ化物(成分B)の含有量を2倍にすると、その結果、化成処理層は全く形成されないこと(Zr元素付着量:<1.5mg/m2)になり、かつ金属銅のみが、鋼板表面に付着(銅元素付着量:67mg/m2)する。このときの「フッ化物捕捉剤」鉄の、合計フッ化物含有量に対する実際の比:1:22は、本発明におけるモル比D:Bの最小値:1:7.6にくらべて、はるかに低い
【0046】
3には、化成処理された鋼板の、「腐食性被覆層付着テスト」及び「石衝撃テスト」の結果が示され、それにより、クロム不含有処理剤中の銅含有率が非常に高い場合(B7)及び非常に低い場合(B11)の両方における被覆層付着において、明白な効果があることが確認されている。本発明に係る処理剤において、この処理剤中の「フッ化物捕捉剤」のフッ素含有量に対する、最適に調節されたモル比D:Bにおいて、ジルコニウム(成分A)の合計含有量が、前記表面の化成処理をもたらすのに十分な量であるならば、そのモル比A:Cが1:14乃至37:1の間で変動している処理剤のすべてが化成処理用銅不含有処理剤(VB7)よりも優れている。
【0047】
【表1】
【0049】
【表3】