【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、水系の電極組成物の製造方法について種々検討を行い、エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩単量体由来の構造単位10〜60質量%を含む水溶性高分子をバインダー(結合剤)として用いることに想到した。このような水溶性高分子はアルカリ可溶性樹脂にアルカリ水溶液を加えていくことで簡単に製造することができることから、このような水溶性高分子を結合剤として用いることによって、水系の電極組成物を簡便に製造することが可能となることを見出した。このようにして得られる水溶性高分子は分散性や増粘性に優れるためバインダーとして優れた性能を発揮し、この水溶性高分子をバインダーとして用いることで、電池性能に優れた電極の材料として好適な水系の電極組成物とすることができることも見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち本発明は、電極活物質、結合剤、及び、水を含む電極組成物の製造方法であって、上記製造方法は、電極活物質、結合剤、及び、水を混練する工程を含み、上記結合剤は、エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩単量体由来の構造単位10〜60質量%を含む水溶性高分子を含み、上記水溶性高分子は、2質量%水溶液の全光線透過率が90〜100%であることを特徴とする電極組成物の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明の電極組成物の製造方法は、電極活物質、結合剤、及び、水を含む電極組成物を製造するものであるが、電極組成物としては、電極活物質、結合剤、及び、水を含む限り、後述する水分散樹脂(エマルション)、分散剤、導電助剤等のその他の成分を含んでいてもよい。また、これらの各成分は、1種を含んでいても2種以上を含んでいてもよい。
本発明の電極組成物の製造方法は、電極活物質、結合剤、及び、水を混練する工程を含むものであるが、この工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0013】
本発明における混練工程は、電極活物質、結合剤、及び、水を混練する工程であるが、このように混練することによって水中に結合剤及び電極活物質が均一に分散されることとなる。混練工程としては、結合剤に水及び電極活物質を加えて、混練する工程が好ましい。
上記混練工程においては、ビーズ、ボールミル、攪拌型混合機、2軸遊星方式の混合混練装置(例えば、TKハイビスミックス(登録商標)(プライミクス社製)等が挙げられる。)等を用いて混練することができる。
なお上記混練工程としては、結合剤、水及び電極活物質を加える限り、その他の成分を加えてもよく、混練工程としては、溶媒である水に溶解した水溶性高分子を含む結合剤に、場合により分散剤を添加し、更に必要に応じて導電助剤を混合して混練することで分散させ、その溶液に電極活物質を加えて更に混練することで分散させる工程もまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0014】
本発明の電極組成物の製造方法は、上記混練工程後、更に、水分散樹脂を加える工程を含むことが好ましい。このような手順で電極組成物を調製すると、電極活物質を簡便かつ充分に均一分散させることが可能となる。好適な水分散樹脂、及び、配合割合は後述する。
【0015】
上記電極組成物は、電極活物質、結合剤、及び、水を含むものであるが、電極組成物における電極活物質の含有量としては、電極組成物の全量100質量%に対して、85〜99質量%であることが好ましい。より好ましくは、90〜98質量%である。
また、上記結合剤の含有量としては、電極活物質100質量%に対して、0.1〜6質量%であることが好ましい。結合剤の含有量がこの範囲であると、分散性、粘度調整機能を充分に発揮し、電極活物質や後述する導電助剤等のフィラーを結合し、かつ、電極中のバインダー使用量を抑えることができる。より好ましくは、0.2〜3質量%である。
上記水の含有量としては、電極活物質100質量%に対して、50〜300質量%であることが好ましい。水の含有量がこの範囲であると、適当な粘度のスラリーを作製することができる。より好ましくは、70〜200質量%である。
【0016】
上記水溶性高分子は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位を含むアルカリ可溶性樹脂を金属塩で中和して得られるものであることが好ましい。ここで、中和して得られるとは、アルカリ可溶性樹脂が含む酸基が全て金属塩で中和されていることのみを意味するものではなく、アルカリ可溶性樹脂が含む酸基の少なくとも一部が中和されていれば、中和されていない酸基が残っているものも中和して得られるものに含まれる。また、アルカリ可溶性樹脂が含む酸基に対して金属塩を過剰に加えて中和し、アルカリ可溶性樹脂が含む酸基が全て金属塩で中和された上、更に過剰の金属塩が残存する形態についても、当該中和して得られる形態に含まれる。中和の好ましい形態については後述する。
上記金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩が好ましい。より好ましくは、リチウム塩である。これら金属塩としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0017】
上記金属塩でアルカリ可溶性樹脂を中和する方法としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩などの水溶液を用いて、上記アルカリ可溶性樹脂と中和反応させる方法が挙げられる。これら金属塩で上記アルカリ可溶性樹脂を中和することにより、均一な水溶液となり、外観として透明溶液となる。
ここで、透明溶液とは、2質量%水溶液の全光線透過率が90〜100%であるものを意味する。すなわち、上記水溶性高分子は、2質量%水溶液の全光線透過率が90〜100%であるものである。全光線透過率として好ましくは、95%以上であり、より好ましくは、97%以上である。
また、上記水溶性高分子は、2質量%水溶液のヘイズが10以下であることが好ましく、より好ましくは、3以下である。
上記全光線透過率及びヘイズは、ヘイズメーター(製品名「NDH5000」、日本電色工業社製)を用いて、測定することができる。
【0018】
上記中和反応としては、上記アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位が有するカルボン酸を金属塩で60〜150%中和することが好ましい。上記中和率としてより好ましくは、70〜110%であり、更に好ましくは、80〜100%である。
このように、本発明における水溶性高分子が、アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位が有するカルボン酸を金属塩で60〜150%中和して得られるものであることもまた、本発明の好適な実施形態の一つである。
なお、中和率は、中和反応に供されるアルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位が有するカルボン酸量に対する、中和反応に供される金属塩の仕込み量の比で規定される。したがって、上記カルボン酸量よりも多く、過剰に金属塩を仕込む場合には、上記中和率は100%を超えることとなる。
【0019】
上記中和反応においては、中和後の水溶性高分子を含む水溶液のpHとしては、6以上であることが好ましい。より好ましくは、7以上である。また、pHの上限としては、9を超えないことが好ましい。
pH測定は、ガラス電極式水素イオン度計F−21(製品名、堀場製作所社製)を用いて、25℃での値を測定することにより行うことができる。
【0020】
上記水溶性高分子は、重量平均分子量が、50万〜300万であることが好ましい。重量平均分子量が50万未満である場合、水溶性高分子に求められる分散性は発現できるが、粘度調整機能が充分でない場合があり、粒子間の結着性を向上させる上では充分でないおそれがある。重量平均分子量としてより好ましくは、70万〜200万である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置、及び、測定条件で測定することができる。
GPC装置:HLC−8120(製品名、東ソー社製)
カラム:TSK−gel GMHXL(製品名、東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン
溶離液流量:1ml/min
カラム温度:40℃
測定方法:中和前のアルカリ可溶性樹脂を溶離液に測定対象物の固形分が0.1質量%となるように溶解し、フィルターを用いてろ過したものを測定サンプルとする。
【0021】
上記水溶性高分子は、2質量%水溶液の粘度が50〜20,000mPa・sであることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂として、中和後にこのような粘度範囲を持つ水溶性高分子となるものを用いることにより、電極組成物の粘度を調整する機能を充分に発揮することができる。中でも、アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位が有するカルボン酸を100%金属塩で中和して得られる水溶性高分子の2質量%水溶液の粘度が50〜20,000mPa・sであることがより好ましい。更に好ましくは、100〜10,000mPa・sであり、特に好ましくは、120〜3,000mPa・sである。
上記粘度は、B型粘度計(東京計器社製)を用いて、25±1℃、30rpmの条件で測定することができる。
【0022】
上記アルカリ可溶性樹脂は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位を含むものであるが、アルカリ可溶性樹脂の有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位を10〜60質量%、及び、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を10〜90質量%必須として含むものであることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂としてこのようなものを用いることによって、中和して得られる水溶性高分子を含む結合剤を、分散性や粘度調整機能を損ねずに、密着性や可とう性、電極形成性にもより優れたものとすることができる。
【0023】
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表している。
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸単量体及びそれらの酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。これらエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0024】
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体の有するカルボン酸は、後述する重合方法によりアルカリ可溶性樹脂を合成することができる限り、その一部が金属塩の形態であってもよい。上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体の有するカルボン酸の一部が金属塩となっている形態の場合には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の有するカルボン酸のうち、金属塩の形態となっているものが50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、30モル%以下であり、更に好ましくは、10モル%以下である。
上記カルボン酸の金属塩としては、カルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0025】
上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表している。
上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエステルが挙げられ、好ましくは、例えば、一般式(1);
CH
2=CR−C(=O)−OR’ (1)
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R’は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、又は、ポリアルキレングリコール基を含む基を表す。)で表される化合物である。
【0026】
上記一般式(1)におけるR’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等の炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基;(メタ)アクリル酸等にポリエチレングリコール基等が付加した構造を有するポリアルキレングリコール基を含む基;などが挙げられる。
これらの中でも、後述する乳化重合時の安定性等の観点からは、疎水性の高いものが好ましく、すなわち、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基である。上記一般式(1)におけるR’がアルキル基であると、得られる水溶性高分子のガラス転移温度(Tg)が低くなるため好ましい。R’として特に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基である。これらエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0027】
上記アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位の含有割合は、アルカリ可溶性樹脂の有する構造単位の全量100質量%に対して、10〜60質量%であることが好ましいものである。エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位の含有量をこのような範囲とすることによって、得られるアルカリ可溶性樹脂は、水への溶解度が充分なものとなり均一な水溶液を得ることができ、また、重合反応を後述する乳化重合法により行う場合に、容易に製造可能となる。アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位の含有量としてより好ましくは、15〜50質量%であり、更に好ましくは、20〜45質量%である。
【0028】
上記アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位の含有割合は、アルカリ可溶性樹脂の有する構造単位の全量100質量%に対して、10〜90質量%であることが好ましいものである。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、カルボキシル基を有する単量体であり、疎水性単量体であるが極性基を含有しているものであるため、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位の含有量をこのような範囲とすることによって、得られるアルカリ可溶性樹脂は、水への溶解度が充分なものとなり均一な水溶液を得ることができ、また、重合反応を後述する乳化重合法により行う場合に、乳化滴の核になり易くなるために、乳化重合により容易に製造することが可能となる。アルカリ可溶性樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位の含有量としてより好ましくは、30〜80質量%であり、更に好ましくは、40〜75質量%である。
【0029】
上記アルカリ可溶性樹脂としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位、及び、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を含む限り、その他の重合可能な単量体由来の構造単位を含んでいてもよい。
【0030】
上記その他の重合可能な単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;酢酸ビニル、フタル酸ジアリル等の多官能アリル系単量体;ブタジエン、イソブレン系等の共役ジエン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
また、末端にハロゲン化していてもよい炭素数5〜30のアルキル基等の疎水基を有するポリアルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリルエステルやビニル化合物を用いることもできる。その場合、アルキレンオキサイド末端に疎水基を有することで、疎水基が会合することにより電極組成物の粘性を変えることができる。
上記アルキレンオキサイド末端の疎水基として好ましくは炭素数5〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数10〜20のアルキル基である。これらその他の重合可能な単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0031】
上記アルカリ可溶性樹脂がその他の重合可能な単量体由来の構造単位を含む場合、その含有割合としては、アルカリ可溶性樹脂の有する構造単位の全量100質量%に対して、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以下であり、更に好ましくは、5質量%以下である。
【0032】
すなわち、上記アルカリ可溶性樹脂における構造単位の比率としては、アルカリ可溶性樹脂の有する構造単位の全量を100質量%とした時に、(エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位)/(エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位)/(その他の重合可能な単量体由来の構造単位)=10〜60質量%/10〜90質量%/0〜30質量%となるものである。
【0033】
上記アルカリ可溶性樹脂は、上述したアルカリ可溶性樹脂が含む構造単位の由来となる各単量体成分を上述した含有割合で含むように重合することにより製造することができる。単量体成分を重合する方法としては、特に限定されず、例えば、乳化重合、逆相懸濁重合、懸濁重合、溶液重合、水溶液重合、塊状重合等の方法が挙げられる。これらの重合方法の中でも、乳化重合法が好ましい。
乳化重合法は、高分子量の共重合体を高濃度で容易に重合することが可能で、重合溶液の粘度も低い方法である。重量平均分子量が50万以上の水溶性高分子は、乳化重合法により水分散体としてアルカリ可溶性樹脂を作製し、金属塩で中和し可溶化(均一化)することにより、簡便に製造することができるため、アルカリ可溶性樹脂の製造方法として乳化重合法を選択することは生産コストの上でもメリットがある。
【0034】
上記乳化重合は、乳化剤を用いて行うことができる。乳化剤としては特に限定されないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤や、これらの界面活性剤の構造中にラジカル重合性の不飽和基を有するものである反応性界面活性剤等が挙げられる。これら乳化剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0035】
上記反応性界面活性剤としては、例えば、ラテムルPD(花王社製)、アデカリアソープSR(アデカ社製)、アクアロンHS(第一工業製薬社製)、アクアロンKH(第一工業製薬社製)、エレミノールRS(三洋化成社製)等が挙げられる。
【0036】
上記重合反応は、重合開始剤を用いて行うことができる。重合開始剤としては通常重合開始剤として用いられているものを使用することができ、特に制限されず、熱によってラジカル分子を発生させることができるものであればよい。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
なお、重合方法として特に乳化重合を行う場合には、これら重合開始剤の中でも水溶性の開始剤が好ましく使用される。
【0037】
上記重合反応は、分子量の調整を目的として連鎖移動剤を用いて行ってもよい。連鎖移動剤としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン化置換アルカン、アルキルメルカプタン、チオエステル類、アルコール類等が挙げられる。これら連鎖移動剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
上記連鎖移動剤の使用量としては、重合反応に供する単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜1重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.5重量部である。
【0038】
上記重合反応を乳化重合により行う場合の重合温度としては、特に限定されないが、例えば、20〜100℃が好ましく、より好ましくは、50〜90℃である。重合時間についても特に限定されないが、生産性を考慮すると、1〜10時間が好ましい。
また、乳化重合を行う際、得られる共重合体(アルカリ可溶性樹脂)に悪影響を及ぼさない範囲で、親水性溶媒や添加剤等を加えることができる。
【0039】
上記重合反応を乳化重合により行う場合の、各単量体成分の反応系への添加方法としては、特に制限されず、反応様式としては、一括重合法、単量体成分滴下法、プレエマルション法、パワーフィード法、シード法、多段添加法等を用いることができる。これらの中でも、プレエマルション法が好ましい。
【0040】
上記乳化重合反応後に得られるエマルション(アルカリ可溶性樹脂)の不揮発分としては、20〜60%であることが好ましい。不揮発分が20〜60%の範囲であることにより、得られるエマルションの流動性や分散安定性を保つことが容易となる。また、目的とする重合体の生産効率の点からも好ましい。
上記エマルションの平均粒子径としては、特に限定されないが、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは30〜500nmである。エマルションの粒子径がこの範囲であることにより、粘度が高くなりすぎたり、分散安定性が保てず凝集したりする可能性を低くすることができる。
【0041】
本発明における電極活物質としては、正極活物質及び負極活物質のいずれもが挙げられる。すなわち、本発明における電極組成物は、正極活物質を含む正極組成物であってもよいし、負極活物質を含む負極組成物であってもよいもので、本発明の電極組成物の製造方法は、正極組成物の製造方法としても、負極組成物の製造方法としても好ましいものである。
【0042】
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出できる化合物であることが好ましい。このような正極活物質を用いることで、リチウムイオン電池の正極として好適に用いることができるものとなる。リチウムイオンを吸蔵、放出できる化合物としては、リチウム含有の金属酸化物が挙げられ、そのような金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウムやオリビン構造を有する化合物、リン酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、LiNi
1−x−yCo
xMn
yO
2やLiNi
1−x−yCo
xAl
yO
2(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系酸化物等の遷移金属酸化物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLi
2MnO
3と、電気化学的に活性な層状のLiMO(M=Co、Ni等の遷移金属)との固溶体)等が挙げられる。
これら正極活物質としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0043】
上記正極活物質としては、オリビン構造を有する化合物を含むものであることが好ましい。すなわち、正極活物質が、オリビン構造を有する化合物を含む正極活物質であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0044】
上記オリビン構造を有する化合物としては、下記一般式(2);
LixAyDzPO
4 (2)
(式中、Aは、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を表す。Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y及び希土類元素の群から選ばれる少なくとも1種を表す。x、y及びzは、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5を満たす数である。)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。このような化合物では、構造内の酸素原子がリンと結合することで(PO
4)
3−ポリアニオンを形成しており、酸素が結晶構造中に固定化されるために原理的に燃焼反応が起こらない。そのため、一般式(2)で表される構造を有する化合物を含む電極活物質は安全性に優れたものとなることから、特に中大型電源への用途に好適に用いることができるものとなる。
【0045】
上記一般式(2)におけるAとしては、Fe、Mn、Niが好ましく、より好ましくはFeである。
また、上記一般式(2)におけるDとしては、Mg、Ca、Ti、Alが好ましい。
【0046】
上記オリビン構造を有する化合物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムが好ましい。より好ましくはリン酸鉄リチウムである。また、正極活物質としては、導電性を補うためにカーボンで一部又は全てを表面被覆しているものを用いることが好ましい。正極活物質を被覆する炭素の含有量としては、正極活物質100重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましく、0.8〜5重量部がより好ましい。
【0047】
上記正極活物質は、リン酸鉄リチウムを主成分として含む正極活物質であることが好ましい。上記オリビン構造を有する化合物の中でもリン酸鉄リチウムがより好ましく、正極活物質の主成分であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、過充電に対する安定性が高く、また、鉄、リン酸などの豊富な資源を用いるものであることから、安価であり、製造コストの面でも好ましい。
なお、上記「リン酸鉄リチウムを主成分として含む」とは、正極活物質全体100質量%に対するリン酸鉄リチウムの含有量が50質量%以上であることを意味するが、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。最も好ましくは、リン酸鉄リチウムのみからなることである。
【0048】
上記負極活物質としては、例えば、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ポリアセン系導電性高分子、チタン酸リチウム等の複合金属酸化物、リチウム合金などが挙げられる。これらの中でも、炭素材料が好ましい。
これら負極活物質としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0049】
上述したように、本発明における電極組成物は、水分散樹脂(エマルション)を含むことが好ましい。水分散樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、ジエン系ポリマー等の非フッ素系ポリマー;PVDF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、(メタ)アクリル変性フッ素系ポリマー等のフッ素系ポリマー;などが挙げられる。これらの中でも、水分散樹脂としては粒子間の結着性や柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましいことから、アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、(メタ)アクリル変性フッ素系ポリマーが好ましい。
【0050】
特に電極活物質として正極活物質を用いる、本発明における電極組成物が正極組成物である場合には、フッ素含有重合体を(メタ)アクリル変性した構造を有する重合体のエマルションが、フッ素含有重合体が持つ化学的、電気的に安定な性質を有しつつ、フッ素含有重合体の欠点である低い結着性や得られる塗膜の密着性の低さ、塗膜の硬脆さをアクリルで変性することにより改善されているので、好ましい。
また、PVDFやPTFEを(メタ)アクリル変性した構造を有するエマルションも、PVDFやPTFE自体は結晶性を有するポリマーであるが、それらフッ素系ポリマーにアクリルが入り込んだ「IPN構造」を有するような粒子とすることにより結晶性が低下し、エマルションの造膜温度も低くなっているため、好ましい。そのような(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体のエマルションは、例えば、PVDFやPTFEの水分散粒子存在下に、(メタ)アクリル酸エステル、又は、カルボン酸やスルホン酸等官能基を有する不飽和単量体等を乳化重合することにより得ることができる。
【0051】
上記水分散樹脂を用いる場合の、電極組成物中の水分散樹脂の含有量としては、電極活物質100質量%に対して、0.5〜7質量%であることが好ましい。水分散樹脂の含有量がこの範囲であると、結着性、膜の柔軟性や可とう性を更に優れたものとすることができる。より好ましくは、1〜5質量%である。
【0052】
本発明における電極組成物は、特に電極組成物が正極組成物である場合には、更に導電助剤を含むことが好ましい。導電助剤はリチウムイオン電池を高出力化するために用いられるものであり、主に導電性カーボンが用いられる。導電性カーボンとしては、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛等が挙げられる。これらの中でもケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましい。
ケッチェンブラックは中空シェル構造を持ち、導電性ネットワークを形成しやすい。そのため、従来のカーボンブラックに比べると半分程度の添加量で同等性能を発現することができるため、好ましい。また、アセチレンブラックは高純度のアセチレンガスを用いることで生成されるものであり、カーボンブラックの不純物が非常に少なく、表面の結晶子が発達しているため、好ましい。
【0053】
上記導電助剤を用いる場合の、電極組成物中の導電助剤の含有量としては、電極活物質100質量%に対して、0.5〜10質量%であることが好ましい。導電助剤の含有量がこの範囲であると、電極抵抗を充分に低減し導電助剤としての効果を発揮することができる。より好ましくは、1〜6質量%である。
【0054】
本発明における電極組成物は、特に導電助剤を含む場合、更に必要に応じて分散剤を含むことができる。分散剤を用いることにより電極活物質や導電助剤の分散性を更に高め電極組成物の粘度を低減することが可能となり、電極組成物の固形分の濃度を高く設定することが可能となる。
上記分散剤としては、特に制限されず、アニオン性、ノニオン性若しくはカチオン性の界面活性剤、又は、スチレンとマレイン酸との共重合体等の高分子分散剤などの種々の分散剤を用いることができる。分散剤を用いる場合の分散剤の使用量としては、導電助剤100質量%に対して1〜20質量%含有させることが好ましい。分散剤の含有量がこのような範囲であると、電極活物質や導電助剤を混合した場合の分散性を充分に確保することが可能となる。分散剤の使用量としてより好ましくは、3〜15質量%である。
このように分散剤を併用して、電極組成物における電極活物質及び導電助剤の均一分散安定性を向上させることで、電極活物質粒子間の接触抵抗を低減することができ、良好な電極膜の電導度を達成することが可能となる。
【0055】
上記電極組成物が正極組成物である場合の、組成物中に含まれる構成成分の含有割合の一例としては、固形分における水溶性高分子、正極活物質、導電助剤、エマルション、及び、これらの成分以外のその他の成分の比が、水溶性高分子/正極活物質/導電助剤/エマルション/その他の成分=0.2〜3.0/70〜95/2〜20/1〜10/0〜5であることが好ましい。正極組成物がこのような含有割合で構成成分を含むものであると、正極組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。より好ましくは、0.3〜2.0/80〜93/3〜10/2〜5/0〜3である。
なお、ここでいうその他の成分は、上述の水溶性高分子、正極活物質、導電助剤、エマルション以外の成分を指し、分散剤や他の増粘剤等が含まれる。
【0056】
また、上記電極組成物が負極組成物である場合の、組成物中に含まれる構成成分の含有割合の一例としては、固形分における水溶性高分子、負極活物質、導電助剤、エマルション、及び、これらの成分以外のその他の成分の比が、水溶性高分子/負極活物質/導電助剤/エマルション/その他の成分=0.2〜2/85〜99/0〜10/0.5〜9/0〜5であることが好ましい。負極組成物がこのような含有割合で構成成分を含むものであると、負極組成物から形成される電極を電池の負極として用いた場合の出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。より好ましくは、0.5〜1.5/90〜99/0〜5/0.8〜2/0〜3である。
なお、ここでいうその他の成分は、上述の水溶性高分子、負極活物質、導電助剤、エマルション以外の成分を表し、分散剤や他の増粘剤等が含まれる。
【0057】
本発明における電極組成物は、粘度が1〜20Pa・sであることが好ましい。電極組成物の粘度がこのような範囲にあると、塗工する際の適当な流動性を確保でき、作業性の面で好ましい。より好ましくは2〜12Pa・sであり、更に好ましくは、2〜10Pa・sである。
【0058】
また、上記電極組成物は、チクソ値が2.5〜8であることが好ましい。2.5以下の場合は塗工液が流れてハジキ易くなり、8以上の場合は塗工液の流動性が無く塗工し難い。より好ましくは3〜6である。
電極組成物の粘度は、B型粘度計(東京計器社製)を用いて、25±1℃、30rpmの条件で測定することができる。また、電極組成物のチクソ値は、B型粘度計(東京計器社製)を用いて、25±1℃、6rpmと60rpmの粘度を測定し、6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値として求めることができる。
【0059】
上記電極組成物は、25℃でのpHが6〜10であることが好ましい。pHがこのような範囲にあることで集電体の腐食を起こしにくくなり、材料の持つ電池性能を充分に発現することができる。
pH測定は、ガラス電極式水素イオン度計F−21(製品名、堀場製作所社製)を用いて、25℃での値を測定することにより行うことができる。
【0060】
上記電極組成物は、本発明の電極組成物の製造方法によって得られるものであって、上述した水溶性高分子を含む結合剤、電極活物質、及び、水を含有するものであり、これにより電極活物質の分散安定性、粘度調整機能を確保し、更に、塗膜の形成能、基材との密着性や可とう性に優れたものとなっている。そして、このような電極組成物を集電体上に塗工して得られる電極は、二次電池用の電極として充分な性能を発揮することができるものである。
【0061】
このような本発明の電極組成物の製造方法によって得られる電極組成物を集電体上に塗工して得られる電極もまた、本発明の一つである。そして更に、このような電極を用いて作製される二次電池もまた、本発明の一つである。
上記集電体としては、特に制限されないが、例えば、アルミ集電体、銅箔等が挙げられる。
【0062】
また、本発明の二次電池は、充放電を100回繰り返した100サイクル後の電気容量維持率(単に、「100サイクル維持率」ともいう。)が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上である。
二次電池の電気容量は後述する実施例において行われるような充放電測定装置を用いた評価により測定することができる。