(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切替手段は、前記付勢力付与位置に向かって常時付勢されつつ前記中間部材に配設されるとともに、当該中間部材が回転すると、その回転で生じる遠心力にて前記付勢力遮断位置に移動して切替えられることを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
前記切替手段は、前記付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で摺動可能なコマ部材から成り、当該コマ部材の表面には、前記付勢力付与位置にあるとき前記付勢手段の端部を嵌入させる凹部と、前記付勢力遮断位置にあるとき前記付勢手段の端部と当接し得る当接部とが形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置。
前記バックトルクリミッタ用カムによる作用で前記中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に、前記複数の付勢手段のうち特定の付勢手段の他端を前記プレッシャ部材から離間させて当該特定の付勢手段から前記プレッシャ部材に付与される付勢力を遮断させ得る遮断手段と、前記切替手段との両方を具備するとともに、当該切替手段は、前記複数の付勢手段のうち前記遮断手段で付勢力が遮断される特定の付勢手段を除く他の任意の付勢手段に対応して配設されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、以下の如き問題があった。
エンジンが停止した状態で車両を前進させ、車輪を回転させることで当該エンジンを始動させる所謂押し掛けが必要な車両においては、当該押し掛けを行う際、バックトルクリミッタ用カムが作用してしまい、エンジンの始動を良好に行わせることが困難となってしまうという不具合があった。
【0007】
また、押し掛けを行う際、中間部材とクラッチ部材とを連結させるとともに、押し掛けによりエンジンが始動した後は、遠心力により揺動して当該連結を解除させる揺動ピンから成るロック機構を設けることも考えられるが、その場合、押し掛けの際に伝達されるトルク(車輪側からエンジン側に伝達されるトルク)がロック機構を構成する揺動ピンに対して付与されることから、当該トルクに耐えることが困難であった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達を行わせることができるとともに、当該エンジン側に伝達されるトルクに十分耐えることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、入力部材の回転と共に回転し複数の駆動側クラッチ板が形成されたクラッチハウジングと、前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板と、出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記クラッチ部材の軸方向に移動が可能とされて取り付けられ、当該クラッチ部材に対する軸方向への移動に伴い前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ又は該圧接力を解放させ得るプレッシャ部材と、前記被動側クラッチ板をスプライン嵌合するとともに、前記クラッチ部材とプレッシャ部材との間に介装されて当該クラッチ部材及びプレッシャ部材と共に回転し得る中間部材と、クラッチ部材から突出形成されたボス部に固定された固定部材に一端が取り付けられるとともに、前記プレッシャ部材に他端が取り付けられ、当該プレッシャ部材を中間部材及びクラッチ部材側に常時付勢し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させる複数の付勢手段と、前記クラッチ部材に設けられたクラッチ部材側カム面と前記中間部材に設けられた中間部材側カム面とから成り、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回って当該中間部材とクラッチ部材とが相対的に回転したとき、前記クラッチ部材側カム面と中間部材側カム面とによるカムの作用によって当該中間部材を軸方向に移動させ、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させ得るバックトルクリミッタ用カムとを有し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接又は当該圧接力の解放により、車両のエンジンの駆動により入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得る動力伝達装置であって、前記バックトルクリミッタ用カムによる作用で前記中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に前記付勢手段の他端と前記プレッシャ部材との当接を維持して当該付勢手段の付勢力を前記プレッシャ部材に付与させる付勢力付与位置と、前記バックトルクリミッタ用カムによる作用で前記中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に前記付勢手段の他端を前記プレッシャ部材から離間させて当該付勢手段から前記プレッシャ部材に付与される付勢力を遮断させる付勢力遮断位置とで切替え可能とされるとともに、前記車両が停止して前記中間部材が停止した状態のとき前記付勢力付与位置とされ、前記車両が走行して前記中間部材が回転した状態のとき前記付勢力遮断位置とされる切替手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記切替手段は、前記付勢力付与位置に向かって常時付勢されつつ前記中間部材に配設されるとともに、当該中間部材が回転すると、その回転で生じる遠心力にて前記付勢力遮断位置に移動して切替えられることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置において、前記切替手段は、前記付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で摺動可能なコマ部材から成り、当該コマ部材の表面には、前記付勢力付与位置にあるとき前記付勢手段の端部を嵌入させる凹部と、前記付勢力遮断位置にあるとき前記付勢手段の端部と当接し得る当接部とが形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記バックトルクリミッタ用カムによる作用で前記中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に、前記複数の付勢手段のうち特定の付勢手段の他端を前記プレッシャ部材から離間させて当該特定の付勢手段から前記プレッシャ部材に付与される付勢力を遮断させ得る遮断手段と、前記切替手段との両方を具備するとともに、当該切替手段は、前記複数の付勢手段のうち前記遮断手段で付勢力が遮断される特定の付勢手段を除く他の任意の付勢手段に対応して配設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に付勢手段の他端とプレッシャ部材との当接を維持して当該付勢手段の付勢力をプレッシャ部材に付与させる付勢力付与位置と、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に付勢手段の他端をプレッシャ部材から離間させて当該付勢手段からプレッシャ部材に付与される付勢力を遮断させる付勢力遮断位置とで切替え可能とされるとともに、車両が停止して中間部材が停止した状態のとき付勢力付与位置とされ、車両が走行して中間部材が回転した状態のとき付勢力遮断位置とされる切替手段を備えたので、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達を行わせることができるとともに、当該エンジン側に伝達されるトルクに十分耐えることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、切替手段は、付勢力付与位置に向かって常時付勢されつつ中間部材に配設されるとともに、当該中間部材が回転すると、その回転で生じる遠心力にて付勢力遮断位置に移動して切替えられるので、切替手段の切替動作を行わせるための別個の手段や機構等を不要として装置構成を簡素化することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、切替手段は、付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で摺動可能なコマ部材から成り、当該コマ部材の表面には、付勢力付与位置にあるとき付勢手段の端部を嵌入させる凹部と、付勢力遮断位置にあるとき付勢手段の端部と当接し得る当接部とが形成されたので、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達をより円滑に行わせることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材がプレッシャ部材側に移動する際に、複数の付勢手段のうち特定の付勢手段の他端をプレッシャ部材から離間させて当該特定の付勢手段からプレッシャ部材に付与される付勢力を遮断させ得る遮断手段と、切替手段との両方を具備するとともに、当該切替手段は、複数の付勢手段のうち遮断手段で付勢力が遮断される特定の付勢手段を除く他の任意の付勢手段に対応して配設されたので、押し掛けによりエンジンを始動させる際のエンジン側に伝達させるべきトルクを任意調整することができ、車両に応じた押し掛け時の伝達トルクを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す全体縦断面図
【
図2】同動力伝達装置におけるクラッチ部材を示す斜視図
【
図3】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を示す斜視図
【
図4】同動力伝達装置におけるステー(固定部材)を示す斜視図
【
図5】同動力伝達装置における中間部材を示す斜視図
【
図6】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)を示す斜視図
【
図7】同動力伝達装置からステー(固定部材)を取り外した状態を示す平面図
【
図8】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力付与位置にある状態(バックトルクリミッタ用カムが作用していない状態)を示す断面斜視図
【
図9】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力付与位置にある状態(バックトルクリミッタ用カムが作用した状態)を示す断面斜視図
【
図10】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力遮断位置にある状態(バックトルクリミッタ用カムが作用していない状態)を示す断面斜視図
【
図11】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力遮断位置にある状態(バックトルクリミッタ用カムが作用した状態)を示す断面斜視図
【
図12】同動力伝達装置における遮断手段を示す平面図
【
図13】同遮断手段による作用を示す模式図であって、(a)バックトルクリミッタ用カムが作用しない状態、(b)バックトルクリミッタ用カムが作用した状態を示す断面図
【
図14】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力付与位置にある状態を示す平面図
【
図15】同コマ部材(切替手段)による作用を示す模式図であって、(a)バックトルクリミッタ用カムが作用しない状態、(b)バックトルクリミッタ用カムが作用した状態を示す断面図
【
図16】同動力伝達装置におけるコマ部材(切替手段)が付勢力遮断位置にある状態を示す平面図
【
図17】同コマ部材(切替手段)による作用を示す模式図であって、(a)バックトルクリミッタ用カムが作用しない状態、(b)バックトルクリミッタ用カムが作用した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、
図1〜7に示すように、入力部材としてのギア1が形成されたクラッチハウジング2と、出力部材としてのシャフト3と連結されたクラッチ部材4と、該クラッチ部材4の図中右端側に形成されたプレッシャ部材5と、中間部材10と、クラッチハウジング2側に連結された駆動側クラッチ板6及び中間部材10側に連結された被動側クラッチ板7と、付勢手段としてのクラッチスプリングSa、Sbと、バックトルクリミッタ用カム(クラッチ部材側カム面A及び中間部材側カム面B)と、コマ部材11(切替手段)と、遮断手段13とから主に構成されている。
【0019】
ギア1は、エンジンから伝達された駆動力(回転力)が入力されるとシャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット8等によりクラッチハウジング2と連結されている。該クラッチハウジング2は、同図右端側が開口した円筒状のケース部材から成り、その内周壁からは複数の駆動側クラッチ板6が形成されている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(同図中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
【0020】
クラッチ部材4は、
図1に示すように、クラッチハウジング2内に配設された部材から成るものであり、同図及び
図2に示すように、略中央には、シャフト3を貫通させつつスプライン嵌合させる嵌合孔4bが形成されており、当該クラッチ部材4が回転するとシャフト3も回転するよう構成されている。このクラッチ部材4における中間部材10と対向する面には、クラッチ部材側カム面Aが複数(本実施形態においては、同一円状に所定間隔離間して3つ)形成されている。
【0021】
なお、
図2中符号4aは、クラッチ部材4からプレッシャ部材5側に突出形成され、ステーL(固定部材)を取り付けるためのボス部を示している。すなわち、同図中符号4aaは、ボス部4aの突端面に形成されたボルト孔を示しており、当該ボルト孔4aaにボルトb(
図8〜11参照)が挿通可能とされており、該ボルトbの頭部側に固定部材としてのステーLが取り付けられているのである。かかるステーLとプレッシャ部材5との間にクラッチスプリングSa、Sb、及びスプリングsが取り付けられている。
【0022】
ステーL(固定部材)は、クラッチ部材4から突出形成されたボス部4aの突端にボルトbにて固定されたもので、
図4に示すように、円環状金属製部材から成るものである。このステーLには、ボルト孔4aaに対応した位置に孔部Laが形成されており、このうち、当該孔部La及びボルト孔4aaにボルトbを挿通させることによりステーLがボス部4aの突端に固定可能とされている。そして、このステーLにクラッチスプリングSa、Sb、及びスプリングsの一端が固定されるようになっている。
【0023】
クラッチスプリングSa、Sb(付勢手段)は、クラッチ部材4から突出形成されたボス部4aに固定されたステーL(固定部材)に一端(
図1中右端)が取り付けられるとともに、プレッシャ部材5に他端(
図1中左端)が取り付けられ、当該プレッシャ部材5を中間部材10及びクラッチ部材4側(同図中左向き)に常時付勢し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる複数のコイルスプリングから成るものである。
【0024】
なお、コマ部材11(切替手段)に対応させた付勢手段をクラッチスプリング「Sa」(本実施形態においては1つ配設)、遮断手段13に対応させた付勢手段をクラッチスプリング「Sb」(本実施形態においては2つ配設されるとともに、本発明における「特定の付勢手段」を構成する)と符号を付したが、何れもプレッシャ部材5を中間部材10及びクラッチ部材4側(
図1中左向き)に常時付勢し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるコイルスプリングから成るものである。
【0025】
また、符号「Sc」は、クラッチスプリングSa、Sbと同様、プレッシャ部材5を中間部材10及びクラッチ部材4側(
図1中左向き)に常時付勢し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるコイルスプリングから成るものであるが、遮断手段13及びコマ部材11(切替手段)と対応させたものではない。さらに、符号「s」は、中間部材10を押し付けて保持するためのコイルスプリングを示している。
【0026】
プレッシャ部材5は、
図1及び
図3に示すように、中間部材10を介してクラッチ部材4の
図1中右端側の位置に取り付けられた略円板状部材から成るもので、クラッチスプリングSa、Sbにより同図中左方向へ常時付勢されているとともにクラッチ部材4に対する軸方向(
図1中左右方向)への移動に伴い駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接又は当該圧接の解放(離間)を行わせ得るものである。すなわち、プレッシャ部材5がクラッチ部材4に近接する方向に移動すると、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、プレッシャ部材5がクラッチ部材4から離間する方向に移動すると、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解放されるのである。
【0027】
中間部材10は、側面にスプライン溝が形成されて被動側クラッチ板7をスプライン嵌合するとともに、クラッチ部材4とプレッシャ部材5との間に介装されて当該クラッチ部材4及びプレッシャ部材5と共に回転し得るものである。より具体的には、中間部材10に形成されたスプラインは、
図5に示すように、その外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプラインを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7の中間部材10に対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該中間部材10と共に回転し得るよう構成されているのである。この中間部材10におけるクラッチ部材4と対向する面には、中間部材側カム面Bが複数(本実施形態においては、同一円状に所定間隔離間して3つ)形成されている。
【0028】
被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接し又は当該圧接力が解放(離間)され得るようになっている。すなわち、両クラッチ板6、7は、中間部材10の軸方向への摺動が許容されており、プレッシャ部材5にて
図1中左方向へ押圧されると圧接され、クラッチハウジング2の回転力が中間部材10を介してクラッチ部材4及びシャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ部材5による押圧を解除すると離間してクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなって停止し、シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0029】
なお、ここでいう両クラッチ板6、7の離間(圧接力の解放)とは、当該両クラッチ板6、7間にクリアランスを生じた状態である必要はなく、物理的なクリアランスが生じていなくても、圧接力が解放(解除)されてクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなった状態(すなわち、駆動側クラッチ板6が被動側クラッチ板7上を摺動する状態)をも含むものとする。
【0030】
一方、プレッシャ部材5の縁部の面は、積層状態の駆動側クラッチ板6(又は被動側クラッチ板7)のうち
図1中最右部のものと当接しており、クラッチスプリングSa、Sbの付勢力を得た当該プレッシャ部材5が最右部の駆動側クラッチ板6を押圧することにより、両クラッチ板6と7とが圧接するようになっている。このような圧接により、クラッチハウジング2とクラッチ部材4とは常時連結された状態となり、ギア1に回転力が入力されるとシャフト3を回転させ得るようになっている。
【0031】
なお、シャフト3の先端(
図1中右端)側の内部には、その軸方向に延びる操作部材9が配設されており、運転者が図示しないクラッチレバーを操作することにより当該操作部材9を同図中右方向へ移動させ、プレッシャ部材5をクラッチスプリングSa、Sbの付勢力に抗して右方向へ移動させることができるようになっている。このように、プレッシャ部材5が右方向へ移動すると、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解かれ、離間状態となってギア1及びクラッチハウジング2へ入力された回転力がクラッチ部材4及びシャフト3へ伝達されず遮断されることとなる。
【0032】
バックトルクリミッタ用カムは、クラッチ部材4に設けられたクラッチ部材側カム面Aと中間部材10に設けられた中間部材側カム面Bとを対峙させて成り、シャフト3(出力部材)の回転がクラッチハウジング2(入力部材)の回転数を上回って当該中間部材10とクラッチ部材4とが相対的に回転したとき、クラッチ部材側カム面Aと中間部材側カム面Bとによるカムの作用によって当該中間部材10を軸方向(
図1中右向き)に移動させ、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させ得るものである。
【0033】
遮断手段13は、中間部材10におけるプレッシャ部材5と対向した面に突出形成されたリブ状部位(
図5、12参照)から成り、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際に、複数のクラッチスプリングSa、Sb(付勢手段)のうち特定のクラッチスプリングSb(特定の付勢手段)の他端をプレッシャ部材5から離間させて当該特定のクラッチスプリングSbからプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させ得るものである。
【0034】
より具体的には、特定のクラッチスプリングSbは、
図13(a)に示すように、一端がステーL(固定部材)に取り付けられるとともに他端がプレッシャ部材5の固定部5aに取り付けられている。そして、車両の走行中、シャフト3(出力部材)の回転がクラッチハウジング2(入力部材)の回転数を上回って当該中間部材10とクラッチ部材4とが相対的に回転し、バックトルクリミッタ用カムが作用して中間部材10がプレッシャ部材4側に移動する際、
図13(b)に示すように、遮断手段13が特定のクラッチスプリングSbの他端を押圧することにより、当該他端をプレッシャ部材5の固定部5aから離間させて当該特定のクラッチスプリングSbからプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させるのである。
【0035】
これにより、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際に、複数の付勢手段(クラッチスプリングSa、Sb)のうち特定の付勢手段(クラッチスプリングSb)の他端をプレッシャ部材5から離間させて当該特定の付勢手段(クラッチスプリングSb)からプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させ得る遮断手段13を具備したので、プレッシャ部材5を動作させることなく付勢手段(クラッチスプリングSa、Sb)によるプレッシャ部材5に対する付勢力を低減させる(すなわち、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接力を低減させて圧接力の解放(クラッチトルク容量の低減)を行わせる)ことができ、バックトルクリミッタ用カムが作用した際のプレッシャ部材5の瞬間的な往復動作を確実に回避し、クラッチ操作時の操作性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、遮断手段13は、中間部材10におけるプレッシャ部材5と対向した面に突出形成されたリブ状部位から成るとともに、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際に当該中間部材10にて押圧されて移動することにより特定の付勢手段(クラッチスプリングSb)の他端をプレッシャ部材5から離間させ得るので、バックトルクリミッタ用カムが作用した際のプレッシャ部材5の瞬間的な往復動作を簡易な構成にてより確実に回避し、クラッチ操作時の操作性を向上させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態に係る中間部材10は、プレッシャ部材5と対向した面に切替手段としてのコマ部材11が配設されている。かかるコマ部材11(切替手段)は、
図6に示すように、表面(クラッチスプリングSaと対向する面)に形成された凹部11a及び当接部11bと、バネ取付穴11cとを有した部品から成り、中間部材10に形成された取付孔10aに取り付けられて当該中間部材10の径方向に移動可能(
図14中寸法tだけ移動可能)とされている。
【0038】
また、コマ部材11は、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際にクラッチスプリングSa(付勢手段)の他端とプレッシャ部材5の固定部5b(
図8〜11及び
図15、17参照)との当接を維持して当該クラッチスプリングSa(付勢手段)の付勢力をプレッシャ部材5に付与させる付勢力付与位置(
図8、9参照)と、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際にクラッチスプリングSa(付勢手段)の他端をプレッシャ部材5の固定部5bから離間させて当該クラッチスプリングSa(付勢手段)からプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させる付勢力遮断位置(
図10、11)とで切替え可能とされている。
【0039】
さらに、バネ取付穴11cにはコイルスプリング12が挿入されており、コマ部材11が取付孔10aに取り付けられた状態でコイルスプリング12の先端が当該取付孔10aの開口縁部10b(
図5参照)と当接するよう設定されている。これにより、取付孔10aに取り付けられたコマ部材11は、コイルスプリング12により中間部材10の径方向中心向き(内側向き)に常時付勢されて付勢力付与位置とされている。なお、コイルスプリング12に代えて他の汎用的な付勢手段としてもよい。
【0040】
しかして、コマ部材11は、コイルスプリング12にて付勢力付与位置に向かって常時付勢されて付勢力付与位置とされるとともに、車両が走行してクラッチ部材4及びプレッシャ部材5と共に当該中間部材10が回転すると、その回転で生じる遠心力にてコイルスプリング12による付勢力に抗して付勢力遮断位置に移動して切替えられるよう構成されている。すなわち、コマ部材11は、車両が停止して中間部材10が停止した状態のとき付勢力付与位置(
図14参照)とされ、車両が走行して中間部材10が回転した状態のとき付勢力遮断位置(
図16参照)とされるのである。
【0041】
コマ部材11に形成された凹部11aは、
図8、9に示すように、当該コマ部材11が付勢力付与位置にあるときクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部を嵌入させる部位から成る。すなわち、コマ部材11は、車両が停止して中間部材10が停止した状態のとき、
図8及び
図15(a)に示すように、付勢力付与位置とされており、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際、
図9及び
図15(b)に示すように、凹部11aとクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部とが合致して当該凹部11aに端部を嵌入させるのである。
【0042】
これにより、コマ部材11によるクラッチスプリングSaに対する押圧がなされないので、クラッチスプリングSaの他端とプレッシャ部材5の固定部5bとの当接が維持され、当該クラッチスプリングSaの付勢力をプレッシャ部材5に付与させることができる。したがって、本動力伝達装置によれば、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達を行わせることができるとともに、当該エンジン側に伝達されるトルクに十分耐えることができる。
【0043】
コマ部材11に形成された当接部11bは、
図10、11に示すように、当該コマ部材11が付勢力遮断位置にあるときクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部と当接し得る部位から成る。すなわち、コマ部材11は、車両が走行して中間部材10が回転した状態のとき、
図10及び
図17(a)に示すように、付勢力遮断位置とされており、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際、
図11及び
図17(b)に示すように、当接部11bとクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部とが合致して当該当接部11bにて端部を押圧するのである。
【0044】
これにより、コマ部材11によるクラッチスプリングSaに対する押圧がなされるので、クラッチスプリングSaの他端をプレッシャ部材5の固定部5bから離間させ、当該クラッチスプリングSaからプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させることができる。したがって、車両の走行中、シャフト3(出力部材)の回転がクラッチハウジング2(入力部材)の回転数を上回って中間部材10とクラッチ部材4とが相対的に回転したとき、クラッチ部材側カム面Aと中間部材側カム面Bとによるカムの作用によって当該中間部材10を軸方向に移動させ、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させることができる。
【0045】
また、本実施形態においては、遮断手段13とコマ部材11(切替手段)との両方を具備するとともに、当該コマ部材11(切替手段)は、複数の付勢手段(クラッチスプリングSa、Sb)のうち遮断手段13で付勢力が遮断される特定のクラッチスプリングSb(特定の付勢手段)を除く他の任意のクラッチスプリングSa(本実施形態においては1本のクラッチスプリングSa)に対応して配設されている。
【0046】
本実施形態に係る動力伝達装置によれば、付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で切り替えられるとともに、車両が停止して中間部材10が停止した状態のとき付勢力付与位置とされ、車両が走行して中間部材10が回転した状態のとき付勢力遮断位置とされるコマ部材11(切替手段)を具備したので、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達を行わせることができるとともに、当該エンジン側に伝達されるトルクに十分耐えることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る動力伝達装置によれば、コマ部材11(切替手段)は、付勢力付与位置に向かって常時付勢されつつ中間部材10に配設されるとともに、当該中間部材10が回転すると、その回転で生じる遠心力にて付勢力遮断位置に移動して切替えられるので、コマ部材11(切替手段)の切替動作を行わせるための別個の手段や機構等を不要として装置構成を簡素化することができる。
【0048】
さらに、切替手段は、付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で摺動可能なコマ部材11から成り、当該コマ部材11の表面には、付勢力付与位置にあるときクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部を嵌入させる凹部11aと、付勢力遮断位置にあるときクラッチスプリングSa(付勢手段)の端部と当接し得る当接部11bとが形成されたので、押し掛けによりエンジンを始動させる際、エンジン側に必要なトルク伝達をより円滑に行わせることができる。
【0049】
またさらに、バックトルクリミッタ用カムによる作用で中間部材10がプレッシャ部材5側に移動する際に、複数のクラッチスプリングSa、Sb(付勢手段)のうち特定のクラッチスプリングSb(特定の付勢手段)の他端をプレッシャ部材5から離間させて当該特定のクラッチスプリングSbからプレッシャ部材5に付与される付勢力を遮断させ得る遮断手段13と、コマ部材11(切替手段)との両方を具備するとともに、当該コマ部材11(切替手段)は、複数のクラッチスプリングSa、Sb(付勢手段)のうち遮断手段13で付勢力が遮断される特定のクラッチスプリングSbを除く他の任意のクラッチスプリングSa(付勢手段)に対応して配設されたので、押し掛けによりエンジンを始動させる際のエンジン側に伝達させるべきトルクを任意調整することができ、車両に応じた押し掛け時の伝達トルクを設定することができる。
【0050】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばコマ部材11に代えて、付勢力付与位置と付勢力遮断位置との間で切り替えられるとともに、車両が停止して中間部材10が停止した状態のとき付勢力付与位置とされ、車両が走行して中間部材10が回転した状態のとき付勢力遮断位置とされる他の形態の切替手段としてもよい。
【0051】
また、切替手段としてのコマ部材11は、付勢力付与位置に向かって常時付勢されつつ中間部材10に配設されるとともに、当該中間部材10が回転すると、その回転で生じる遠心力にて付勢力遮断位置に移動して切替えられるものとされているが、これに代えて、車両が停止した状態のときコイルスプリング12等の付勢手段にて付勢力付与位置とされるとともに、車両が走行した状態のとき油圧や別個のアクチュエータ等により付勢力遮断位置とされるコマ部材11としてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態においては、コマ部材11(切替手段)を1つ配設するとともに遮断手段13を2つ形成したものとされているが、遮断手段13を1つ形成するとともにコマ部材11(切替手段)を2つ配設するもの、或いはコマ部材11(切替手段)のみ配設するもの(例えばクラッチスプリングSa、Sbの両方に対応してコマ部材11を配設させたもの)としてもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、二輪車の他、押し掛けが可能な種々車両に搭載された多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。