特許第5854997号(P5854997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5854997-繊維布帛及び繊維布帛の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854997
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】繊維布帛及び繊維布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06Q 1/02 20060101AFI20160120BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20160120BHJP
   D06M 13/432 20060101ALI20160120BHJP
   D06M 23/00 20060101ALI20160120BHJP
   D06M 23/16 20060101ALI20160120BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20160120BHJP
【FI】
   D06Q1/02
   D01F8/14 C
   D06M13/432
   D06M23/00 A
   D06M23/16
   D06M101:32
【請求項の数】12
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-524620(P2012-524620)
(86)(22)【出願日】2011年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2011066639
(87)【国際公開番号】WO2012008617
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2014年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-160025(P2010-160025)
(32)【優先日】2010年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100123618
【弁理士】
【氏名又は名称】雨宮 康仁
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】坪田 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】柳 克彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智仁
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−352886(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/075643(WO,A1)
【文献】 特開平04−263679(JP,A)
【文献】 特開2008−121157(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/074833(WO,A1)
【文献】 特開2009−228157(JP,A)
【文献】 特開2005−350828(JP,A)
【文献】 特開2004−060066(JP,A)
【文献】 特開2009−270207(JP,A)
【文献】 特許第2517676(JP,B2)
【文献】 特開2007−016353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/14
D04D 1/00 − 11/00
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
D06Q 1/00 − 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合繊維からなる糸によって全部または一部が構成されている繊維布帛であって、前記芯鞘型複合繊維の芯部がポリアミド成分からなり、鞘部がポリエステル成分からなり、前記芯鞘型複合繊維の横断面において前記芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面に露出しており、前記芯部のポリアミド成分が前記繊維表面に露出する割合は前記鞘部の外周上の1〜40%であり、前記鞘部のポリエステル成分が繊維分解加工剤によって除去された部分と除去されていない部分とを持つことを特徴とする繊維布帛。
【請求項2】
前記芯鞘型複合繊維の横断面において、前記ポリアミド成分と前記ポリエステル成分の横断面積比率が、20/80〜80/20であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維布帛。
【請求項3】
前記芯鞘型複合繊維の、前記鞘部のポリエステル成分がアルカリ金属スルホン酸基を有する化合物により変性された変性ポリエステル共重合体からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維布帛。
【請求項4】
分解除去されていないポリエステル成分及び/またはポリエステル成分が分解除去された部分のポリアミド成分に色柄が付与されていることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の繊維布帛。
【請求項5】
前記ポリアミド成分を構成するポリアミド系ポリマーの相対粘度が、1.5〜6.0であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の繊維布帛。
【請求項6】
前記ポリエステル成分を構成するポリエステル系ポリマーの固有粘度が、0.4〜1.0であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の繊維布帛。
【請求項7】
前記芯鞘型複合繊維の前記繊維布帛における割合が30〜100質量%であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の繊維布帛。
【請求項8】
芯鞘型複合繊維からなる糸によって全部または一部が構成されている繊維布帛の製造方法であって、前記芯鞘型複合繊維の芯部がポリアミド成分からなり鞘部がポリエステル成分からなる前記芯鞘型複合繊維の横断面において前記芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面に露出しており、前記芯部のポリアミド成分が前記繊維表面に露出する割合は前記鞘部の外周上の1〜40%である繊維布帛に、模様状に、アルカリを主成分とする繊維分解加工剤を付与し、前記鞘部のポリエステル成分を部分的に除去することを特徴とする繊維布帛の製造方法。
【請求項9】
前記繊維分解加工剤を付与する方式が、捺染方式またはインクジェット方式である、請求項8に記載の繊維布帛の製造方法。
【請求項10】
前記繊維分解加工剤と同時に、前記ポリエステル成分の着色が可能な着色剤及び/または前記ポリアミド成分の着色が可能な着色剤を付与することを特徴とする、請求項8または9に記載の繊維布帛の製造方法。
【請求項11】
前記繊維分解加工剤がグアニジン弱酸塩である請求項8乃至10のいずれか1項に記載の繊維布帛の製造方法。
【請求項12】
前記グアニジン弱酸塩が炭酸グアニジンである請求項11に記載の繊維布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布帛及び繊維布帛の製造方法に関する。特に、糸が部分的に分解除去された部分を有する繊維布帛及び繊維布帛の製造方法に関する。さらに詳しくは、分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に優れ、分解部分と未分解部分との差異により意匠を形成する、または、部分的に機能性(伸縮性)を変化させることが可能な繊維布帛及び繊維布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な手法を用いた高意匠性繊維布帛が開発されている。かかる高意匠性繊維布帛は、スポーツ分野、ファッション分野、インナー分野等への利用が拡大している。繊維分解柄模様を有する繊維布帛は、繊維分解により特定の繊維を取り除くことによって、分解部分と未分解部分との差異により模様を形成して意匠を表現するものである。このような繊維分解柄模様を有する繊維布帛は、高意匠性繊維布帛の中でも、立体感、高級感あるいは清涼感のあるものとして注目されている。また、繊維分解により伸縮性をコントロールした繊維布帛は、運動能力を向上させる機能性コンプレッションウェアの分野においても注目されている。
【0003】
このような繊維布帛は、例えば、繊維分解加工剤等を付与することで特定の繊維を分解して繊維分解柄模様を形成して製造することができる。繊維分解加工剤を付与する方法としては、従来からローラ捺染またはスクリーン捺染方式が知られている。また、近年では、インクジェット方式が注目されている。これらの方式により、2種類以上の繊維を使用した繊維布帛において、インク化した繊維分解加工剤を塗布し、それらの繊維のうちの1種類の繊維のみを分解する加工を行い、いわゆるオパール調の透け感を繊維布帛上に表現できることが知られている。これらの加工の方法は、分解させる繊維の種類や、糸または繊維布帛の構成等の諸条件により、その使用する薬剤や加工条件が異なるため、実に様々な方法が存在する。
【0004】
中でも、特にポリエステル系繊維からなる繊維布帛に対して、アルカリを主成分とした繊維分解加工剤を利用した加工が、一般的に広く利用されている。代表的な加工布としては、ポリエステル系繊維を含む複合繊維布帛からポリエステル系繊維のみを分解させ、他の繊維を残して繊維分解柄模様を形成したものが挙げられる。
【0005】
具体的な加工方法としては、上記アルカリを主成分とし、必要に応じて分解促進剤を添加した繊維分解加工剤を、ポリエステル系繊維布帛上の繊維分解領域に付与した後、加熱処理し、ついで、洗浄等を施すことにより、その領域の繊維を除去する方法が知られている。この方法により、繊維布帛上において、繊維分解加工剤を付与した領域のポリエステル繊維のみが分解除去される。一方、繊維分解加工剤を付与しなかった領域の繊維は繊維布帛上に残る。これにより、繊維分解柄模様を有する複合繊維布帛が得られる。
【0006】
特許文献1には、繊維分解速度の異なる2種以上のポリエステル系繊維を含む繊維布帛の特定の繊維だけを分解させる方法について記載されている。しかし、特許文献1の方法では、透け感を繊維布帛上に表現する際に、繊維分解加工後の分解部分と未分解部分との境界部分で織目や編目のずれ、ほつれ(フィラメントのバラケ)が起きる場合がある。これにより、分解部分と未分解部分との境界部分の品位が低下する。また、分解部分の強度、特に引裂強度が低下しやすくなる等の問題がある。
【0007】
特許文献2には、分解性の違いを有する繊維同士を合撚、交絡、カバーリング等により複合化した糸を使用した繊維布帛において、特定の分解性を有する繊維のみを分解させる方法について記載されている。しかし、特許文献2の方法であっても、ほつれ(フィラメントのバラケ)が起きる場合があり、繊維分解部分と繊維未分解部分との境界部分の品位が低下する等の問題がある。
【0008】
特許文献3には、ポリエステル繊維の改質により繊維分解速度に違いを持たせた2種のポリエステル成分を芯鞘構造とした芯鞘型複合繊維を用いた、抜蝕加工用の複合繊維について記載されている。しかし、特許文献3の複合繊維では、繊維分解の度合いをコントロールする必要があるため加工の条件が難しく、条件によっては芯部のポリエステル繊維も分解して、強度低下に繋がる等の問題がある。
【0009】
特許文献4には、繊維布帛の強度向上及び編目のずれ、ほつれを改善する目的で編組織をアトラス編や二目編組織とする方法が記載されている。しかし、特許文献4の方法では、強度は向上するが、ほつれの改善については十分とはなっていない。また、特許文献4の方法では、繊維布帛の伸びが制限され、風合いが硬くなる等の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭61−27518号公報
【特許文献2】特開2000−282362号公報
【特許文献3】特開平6−248515号公報
【特許文献4】特開2007−119946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に優れ、分解部分と未分解部分との差異により高品位の意匠を形成する、または、部分的に機能性(伸縮性)を効果的に変化させることが可能な繊維布帛及び繊維布帛の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1に、芯鞘型複合繊維からなる糸によって全部または一部が構成されている繊維布帛であって、前記芯鞘型複合繊維の芯部がポリアミド成分からなり、鞘部がポリエステル成分からなり、前記芯鞘型複合繊維の横断面において前記芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面に露出しており、前記芯部のポリアミド成分が前記繊維表面に露出する割合は前記鞘部の外周上の1〜40%であり、前記鞘部のポリエステル成分が繊維分解加工剤によって除去され部分と除去されていない部分とを持つことを特徴とする繊維布帛である。
【0013】
本発明は、第2に、前記芯鞘型複合繊維の横断面において、前記ポリアミド成分と前記ポリエステル成分の横断面積比率が、20/80〜80/20である、上記第1に記載の繊維布帛である
【0014】
本発明は、第に、前記芯鞘型複合繊維の、前記鞘部のポリエステル成分がアルカリ金属スルホン酸基を有する化合物により変性された変性ポリエステル共重合体からなる、上記第1または第2に記載の繊維布帛である。
本発明は、第に、分解除去されていないポリエステル成分及び/またはポリエステル成分が分解除去された部分のポリアミド成分に色柄が付与されている、上記第1〜第のいずれかに記載の繊維布帛である。
【0015】
本発明は、第に、前記ポリアミド成分を構成するポリアミド系ポリマーの相対粘度が、1.5〜6.0である、上記第1〜第のいずれかに記載の繊維布帛である。
本発明は、第に、前記ポリエステル成分を構成するポリエステル系ポリマーの固有粘度が、0.4〜1.0である、上記第1〜第のいずれかに記載の繊維布帛である。
本発明は、第7に、前記芯鞘型複合繊維の前記繊維布帛における割合が30〜100質量%である、上記第1〜第6のいずれかに記載の繊維布帛である。
【0016】
本発明は、第8に、芯鞘型複合繊維からなる糸によって全部または一部が構成されている繊維布帛の製造方法であって、前記芯鞘型複合繊維の芯部がポリアミド成分からなり鞘部がポリエステル成分からなる前記芯鞘型複合繊維の横断面において前記芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面に露出しており、前記芯部のポリアミド成分が前記繊維表面に露出する割合は前記鞘部の外周上の1〜40%である繊維布帛に、模様状に、アルカリを主成分とする繊維分解加工剤を付与し、前記鞘部のポリエステル成分を部分的に除去することを特徴とする繊維布帛の製造方法である。
【0017】
本発明は、第9に、前記繊維分解加工剤を付与する方式が、捺染方式またはインクジェット方式である、上記第8に記載の繊維布帛の製造方法である。
本発明は、第10に、前記繊維分解加工剤と同時に、前記ポリエステル成分の着色が可能な着色剤及び/または前記ポリアミド成分の着色が可能な着色剤を付与する、上記第8または第9に記載の繊維布帛の製造方法である。
【0018】
本発明は、第11に、前記繊維分解加工剤がグアニジン弱酸塩である、上記第8〜第10のいずれかに記載の繊維布帛の製造方法である。
本発明は、第12に、前記グアニジン弱酸塩が炭酸グアニジンである、上記第11に記載の繊維布帛の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、繊維分解加工剤による分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に優れ、分解部分と未分解部分との差異により高品位の意匠を形成することができ、また、部分的に機能性(伸縮性)を効果的に変化させることのできる繊維布帛を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の芯鞘型複合繊維の繊維横断面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の繊維布帛及び繊維布帛の製造方法について、以下に詳細に説明する。
本発明の繊維布帛の形態としては、例えば、織物、編物、不織布等を挙げることができるが、これらに特に限定されるものではない。織物としては、例えば、平織、綾織及び朱子織等が挙げられる。編物としては、例えば、平編、ゴム編及びパール編等の緯編、トリコット編、コード編、アトラス編、鎖編及びインレイ編等の経編が挙げられるが、本発明の作用・効果を阻害しない範囲であればこれらに特に限定されるものではない。尚、繊維布帛に伸縮特性変化の効果を得たい場合、繊維布帛の形態としては編物であることが好ましい。
【0022】
本発明の繊維布帛は、全部または一部が、芯部のポリアミド成分と鞘部のポリエステル成分を複合紡糸して得られる芯鞘型複合繊維からなる糸により構成された繊維布帛である。
芯鞘型複合繊維の芯部に使用する成分はポリアミド系ポリマーであり、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、ポリメタキシレンアジパミド等従来から知られているものが利用できる。あるいはそれらとアミド形成官能基を有する化合物、例えばラウロラクタム、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の共重合成分を含有する共重合ポリアミドが挙げられる。これらのポリアミド系ポリマーは単独で用いてもよいし、複数を組合せて用いてもよい。中でも、汎用性、着色性の観点からナイロン6、ナイロン66が好ましい。
【0023】
ポリアミド系ポリマーの相対粘度は、JIS K 6810に従い、98%硫酸中濃度1%、温度25℃における測定で、好ましくは1.5〜6.0である。相対粘度が1.5未満であると機械的強度が不十分となりやすく、6.0を超えると加工性が低下しやすい。さらに、ポリアミド系ポリマーの相対粘度は、良好な加工性を得る点、繊維布帛の破裂強度を維持する点から2.0〜5.0が好ましく、特に2.9〜4.5が好ましい。
使用するポリアミド系ポリマーが複数である場合は、それらの混合物の相対粘度が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
芯鞘型複合繊維の鞘部に使用する成分はポリエステル系ポリマーであり、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸等のポリエステル類、またはこれらを主成分とする変性ポリエステル共重合体が挙げられる。これらのポリエステル系ポリマーは単独で用いてもよいし、複数を組合せて用いてもよい。このうち、変性ポリエステル共重合体は、分解除去にアルカリを用いる場合、分解を促進させて、溶解除去に要する時間を短くできる等の点で好ましい。なかでも、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルが好ましく、さらに分解除去性や着色性を向上させるように変性した共重合ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0025】
好ましい第1の変性成分としては、アルカリ金属スルホン酸基を有する化合物がある。アルカリ金属スルホン酸基を有する化合物により変性された変性ポリエステル共重合体が分解除去性及び染色性の面において特に好ましい。
なかでも、アルカリ金属スルホン酸基を有するイソフタル酸(SIP成分)で変性された変性ポリエステル共重合体が好ましく、より具体的には1.0〜5.0mol%のSIP成分で変性されたポリエステルが好ましい。SIP成分の好適な例として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
【0026】
好ましい第2の変性成分としては、ポリアルキレングリコールがある。より具体的には、1.0〜20質量%のポリアルキレングリコールで変性された変性ポリエステル共重合体が好ましい。さらに具体的な変性割合としては、ポリアルキレングリコールの分子量が100〜1000の場合は1.0〜5.0質量%、1000〜10000の場合は5.0〜20.0質量%が好ましい。このようなポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)が特に好ましい。
【0027】
好ましい第3の変性成分としては、ジエチレングリコール(DEG)がある。より具体的には、1.0〜10.0mol%のDEGで変性された変性ポリエステル共重合体が好ましい。
【0028】
変性成分の組合せ好適例としては、SIP成分1.0〜5.0mol%で変性された主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである変性ポリエステル共重合体が好ましく、加えて分子量100〜1000のPEGの1.0〜5.0質量%または分子量が1000〜10000のPEGの5.0〜20.0質量%で変性された上記変性ポリエステル共重合体が好ましく、さらに加えてDEGの1.0〜10.0mol%程度で変性された上記変性ポリエステル共重合体がより好ましい。
【0029】
未変性のポリエチレンテレフタレートと比較して、上記のような変性ポリエステル共重合体を用いることでアルカリに対する分解が促進され、アルカリ分解除去する場合に生産性が向上する。またアルカリ濃度、温度条件を緩和し、処理時間を短くできるため、分解できない繊維へのダメージが低くなり、品質のよい繊維布帛を得ることができる。
【0030】
ポリエステル系ポリマーの固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合液50mlに0.5gのポリマーを溶解して、温度20℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した値であり、0.4〜1.0であることが好ましい。固有粘度が0.4未満であると機械的強度が不十分となりやすく、1.0を超えると加工性が低下して、製糸性が悪化するためである。ポリエステル系ポリマーの固有粘度は、0.5〜0.8であることがより好ましい。使用するポリエステル系ポリマーが複数である場合は、それらの混合物の固有粘度が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0031】
本発明で使用される繊維布帛は本発明の芯鞘型複合繊維単独または、芯鞘型複合繊維とポリアミド繊維及び/またはポリエステル繊維と組み合わせて構成することが望ましいが、本発明の作用・効果を阻害しない範囲であれば、ポリアミド繊維及びポリエステル繊維以外の、ポリウレタン系繊維やアクリル繊維等の繊維分解加工剤の付与により分解しない繊維を含んでいても構わない。繊維分解加工剤の付与により分解しない繊維は、混紡、混繊、交撚、交織または交編等の方法により組み合わせることができる。
【0032】
本発明で使用される繊維布帛において、芯鞘型複合繊維の割合は、ポリエステル成分の分解、除去により目的とする意匠表現、伸縮特性変化が発現する割合であれば特に限定されないが、好ましくは30〜100質量%である。芯鞘型複合繊維の割合が30質量%より少ないと、分解部分と未分解部分との差異による意匠表現や機能性(伸縮性)変化が十分に得られないおそれがある。
【0033】
芯鞘型複合繊維の外形は、繊維横断面において丸断面、多角断面、多葉断面、その他公知の断面形状のいずれであってもよい。芯部の形状も丸断面、多角断面、異形断面、その他公知の断面形状のいずれであってもよい。芯部は全体の中央部にあってもよく、中央部ではない偏芯であってもよい。また、芯部の数も単芯の他、必要とする強度が維持できる範囲であれば、2芯、3芯といった多芯構造であってもよい。鞘部のポリエステル成分の分解、除去性の面からは、丸断面形状が好ましく、さらに単芯であることが好ましい。好適な繊維横断面の例を図1に示す。
図1に示される繊維横断面のうち繊維横断面(a)は、芯部も鞘部も丸断面であり、芯部は繊維表面に露出していない同心円状である。繊維横断面(b)は、繊維横断面(a)において芯部が偏芯の形状である。繊維横断面(c)は、繊維横断面(a)において芯部が多葉状のものである。また、繊維横断面(d)は、繊維横断面(a)において鞘部が多葉状になっているものである。また、繊維横断面(e)は繊維横断面(a)において一部の芯部が繊維表面に露出しているものであり、鞘部がC型を形成している形状である。繊維横断面(f)は、繊維横断面(e)において、鞘部の外形が多角形であり、芯部が鞘部を介して露出する際に芯部が繊維表面に向かって狭くなっているものである。また、繊維横断面(g)は繊維横断面(f)の芯が多芯のものである。繊維横断面(h)は芯部が多葉状で、繊維表面に露出するものである。また、繊維横断面(i)は繊維横断面(b)の芯部が繊維表面に露出している例である。
【0034】
染色において濃染性が求められる場合は、ポリアミド成分とポリエステル成分の両方が染色可能な繊維断面形状が好ましく、具体的には、図1に示される繊維横断面のうち繊維横断面(e)、(f)、(g)、(h)及び(i)のように芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面に露出している断面形状が特に好ましい。また、ポリアミド成分とポリエステル成分との界面は親和性が乏しいため、ポリアミド成分が繊維表面に露出することで界面に繊維分解加工剤が浸透しやすくなり分解を促進する効果がある。
【0035】
但し、サイドバイサイド型のような断面形状とした場合、ポリアミド成分とポリエステル成分との密着性が不十分であることから、未分解部分においてポリアミド成分とポリエステル成分の剥離による糸割れの不具合が生じるおそれがある。上記のような断面形状とすることで、ポリアミド成分とポリエステル成分との両方が染色可能となり、さらに前述しているようなポリアミド成分とポリエステル成分との剥離による糸割れの不具合が起こり難くなる。
【0036】
本発明で使用される芯鞘型複合繊維は、通常溶融複合紡糸法により製造される。芯部と鞘部の横断面積比率(以下、芯鞘比率という)は、20/80〜80/20の割合、特に30/70〜70/30の割合に設定することが好ましい。芯部の横断面積の割合が20%未満であると、鞘部の繊維を分解除去した後の繊維強度が不十分となるおそれがある。一方、芯部の横断面積の割合が80%を超えると、繊維分解加工後においても分解部分と未分解部分との差異が得られず意匠の表現が困難となるおそれがある。また、繊維の分解度合いが少ないため、繊維の分解により伸縮性をコントロールする目的においても機能性(伸縮性)変化が得られないおそれがある。
【0037】
本発明で使用される芯鞘型複合繊維は、前記したように、その横断面形状において、芯部のポリアミド成分の一部が繊維表面、即ち鞘部に露出しているものが好ましい。その場合、芯部が鞘部に露出する割合は、繊維分解加工後の強度が維持できるもので、分解部分と未分解部分との差異による意匠表現や機能性(伸縮性)変化が得られるものであれば特に限定されるものではないが、鞘部の外周上の1〜40%が好ましく、1〜30%がさらに好ましい。40%を超えると、ポリエステル成分とポリアミド成分の界面で剥離が生じ易くなり、いわゆる糸割れが発生して、製織、編成において不具合を引き起こすおそれがある。また、繊維布帛とした際に目面が悪くなり、耐摩耗性に劣るおそれがある。
【0038】
本発明において、芯部がポリアミド成分、鞘部がポリエステル成分の芯鞘型複合繊維とすることにより、鞘部のポリエステル成分を分解除去する工程において、芯部を形成するポリアミド成分の分解制御を必要としない。このため、分解の条件設定が容易となる。例えば芯部と鞘部を共にポリエステル成分として、芯部のポリエステル系ポリマーと鞘部のポリエステル系ポリマーの分解性に差を設けたとしても、芯部が鞘部と同じポリエステル成分で構成されているので、アルカリ性の繊維分解加工剤を使用し、分解が速く進行する条件とした場合は、芯部の分解も生じるおそれがあり、強度低下を引き起こす要因となる。特に繊維分解加工剤として、後述する炭酸グアニジンを用いるとポリエステル成分が強くダメージを受けるため芯部の強度低下を生じる可能性が高くなる。またそのような不具合を避けるため、ポリエステル成分の分解を高い精度で制御する必要があり、分解条件設定が難しく、強度劣化の危険性が高くなる。これに対し、芯部をポリアミド成分とすることで、鞘部のポリエステル成分の分解条件設定が容易となるほか、芯部の分解による強度劣化のおそれも回避可能となる。
【0039】
尚、繊維分解によるポリエステル成分の分解性に影響を与えない範囲で、芯鞘型複合繊維を、タスラン糸、カバーリング糸、または仮撚り等の加工糸に加工して、本発明の繊維布帛に使用してもよい。これらの加工により、繊維布帛にバリエーションを与えることができ、様々な用途にあわせて使用することができる。
【0040】
本発明で使用される芯鞘型複合繊維はマルチフィラメント糸として使用することが好ましく、単糸繊度は通常1〜10dtexであり、より好ましくは1〜4dtexであり、さらに好ましくは1〜2dtexである。
単糸繊度が1dtex未満であると繊維分解加工後に繊維布帛の強度が大きく低下するおそれがある。単糸繊度が10dtexを超えるとポリエステル繊維が十分に分解除去できず、残渣として残るおそれがあり、後の工程で染色ムラ等の不具合の原因となる。
【0041】
そして、本発明で使用される芯鞘型複合繊維によるマルチフィラメント糸の総繊度は通常10〜220dtexであり、好ましくは33〜110dtexである。総繊度が10dtex未満であると、製織、編成等の繊維布帛の形成が困難になるおそれがあり、繊維分解加工後に繊維布帛の強度が大きく低下するおそれがある。逆に、総繊度が220dtexを超えると、紡糸操業性が悪くなるおそれがある。また、繊維分解工程において十分に分解除去できないおそれがある。
【0042】
本発明で使用される芯鞘型複合繊維では繊維分解加工剤で処理された部分の鞘部のポリエステル成分のみが除去されるため、繊維布帛を組織する糸が分解の結果として切断されない。これにより、分解部分と未分解部分との境界部分において糸のほつれ(フィラメントのバラケ)に伴う品位低下が発生しない。そのため、分解部分と未分解部分との境界部分においてシャープ性に優れた繊維布帛となる。また、これまで糸のほつれ(フィラメントのバラケ)のために表現が難しかった細線による意匠表現(3mm以下、好ましくは1mm以下の細い幅での繊維分解加工)も可能となる。
【0043】
本発明で使用される芯鞘型複合繊維の製造方法としては、芯鞘型複合繊維となる製造方法であれば特に限定されないが、例えば、鞘部成形用及び芯部成形用の2台の押出機で構成される溶融複合紡糸機を用いて得ることができる。すなわち、まず、芯部形成用のポリアミドチップ及び鞘部形成用のポリエステルチップを乾燥する。ポリマーの乾燥には真空乾燥機、ホッパードライヤー等の公知の装置を適宜選択して使用することができる。なお、芯部形成用のポリアミドチップを用いる場合は、チップの含有水分率が100ppm以下(100mg/kg以下)のポリアミドチップを用いることが好ましい。鞘部形成用のポリエステルチップを用いる場合は、チップの含有水分率が20ppm以下(20mg/kg以下)のポリエステルチップを用いることが好ましい。このように、チップの含有水分率を一定以下にしたものを用いることにより、紡糸操業性がより向上する。
【0044】
乾燥したそれぞれのポリマーを鞘部成形用及び芯部成形用の押出機に投入する。押出機にてそれぞれのポリマーを溶融・混練して、ポリアミドが芯部に、ポリエステルが鞘部となるように紡糸ヘッドに導入し、芯鞘型複合ノズルから溶融紡出される。紡出された繊維は冷却固化され、冷却固化後に給油付与装置を用いて紡糸油剤を付与する。この後、繊維は捲取機に捲き取られて芯鞘型複合の未延伸糸を得ることができる。捲取速度も特に限定されるものではないが、400〜2000m/minの範囲が好ましい。
【0045】
さらに得られた未延伸糸を延撚機で延伸処理を実施する。延撚条件も特に限定されるものではなく、延伸倍率2.5〜5.0倍、延伸速度300〜1000m/min、温度を25〜160℃に設定して、目的とする芯鞘型複合繊維を得ることができる。直接紡糸延伸法、POY糸を製糸してその後必要に応じた仮撚加工等の高次加工により得ることも可能である。
【0046】
次に、繊維分解加工工程について述べる。
前記繊維布帛への繊維分解加工剤の付与は、捺染方式またはインクジェット方式による付与が好ましい。
捺染方式においては、糊剤に繊維分解加工剤を含有させた捺染糊を繊維布帛の所望の部分に印捺し、インクジェット方式においては、繊維分解加工剤を含むインク(以下、繊維分解性インクという)をインクジェット方式により繊維布帛の所望の部分に付与する。
【0047】
本発明で用いる繊維分解加工剤としては、非分解繊維(ポリアミド成分)のダメージが少なく、分解繊維(ポリエステル成分)が分解されるものであれば特に限定されないが、硝酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、グアニジン弱酸塩、多価アルコールにエチレンオキシドを2モル以上付加した多価アルコールエチレンオキシド付加物、多価アルコールエチレンオキシド付加物と第四級アンモニウム塩を用いたもの等の公知の繊維分解加工剤等が挙げられる。なかでも、繊維分解効果が大きく、環境及び安全面で優れている点で、グアニジン弱酸塩が好ましい。そのなかでも、苛性ソーダ等の他の強アルカリに比べて、水溶液のpHが10〜13と低く、作業の安全性や装置が腐蝕されにくい点、繊維を着色する場合に、使用する着色剤への影響が少ない点等から、特に炭酸グアニジンが好ましい。この炭酸グアニジンにより、ポリエステル成分が分解される理由としては、推測するに、炭酸グアニジンの付与後に行なわれる熱処理の工程で、炭酸グアニジンが尿素とアンモニアに分解されることで強アルカリへと変化するためと考えられる。
【0048】
繊維分解加工剤の付与は、その付与により鞘部のポリエステル成分が分解除去されて芯部のポリアミド成分が露出した領域(部分)とそうでない領域(部分)とからなる所望の模様が形成されるように付与される。
【0049】
繊維分解加工剤を捺染方式にて付与する場合に使用される捺染装置としては、ローラ捺染機やスクリーン捺染機等の一般に用いられている捺染機が用いられる。繊維布帛への、捺染糊の印捺は、ローラ捺染やスクリーン捺染等一般に行われている捺染方法で行われる。糊剤としては特に限定するものではなく公知の糊剤が用いられ、小麦澱粉、トラガントガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ等の天然、加工、半合成、合成の糊剤を単独でまたは2種以上混合して用いることができる。また、使用する捺染糊の粘度、及び付与量は、対象となる繊維布帛の厚みや組織等の条件により、都度調整して使用すればよい。捺染機による捺染糊の付与後、乾熱または湿熱処理により繊維の分解を行い、さらに洗浄処理で捺染糊と分解したポリエステル成分を取り除くことで本発明の繊維布帛が製造できる。
【0050】
また、糊剤付与の工程において繊維分解加工剤と同時に、ポリエステル繊維(本発明で使用される芯鞘型複合繊維のポリエステル成分を含む)の着色が可能な染料及び/またはポリアミド繊維(本発明で使用される芯鞘型複合繊維のポリアミド成分を含む)の着色が可能な染料を同時に付与することも可能である。すなわち、前記繊維分解加工剤とポリエステル繊維用染料及びポリアミド繊維用染料を単独または組み合せて捺染糊に混合し、印捺することで、同一繊維布帛上において、分解部面へ色柄の着色が可能となり、分解加工のみ、分解加工及び分解部分の着色加工、未分解部分の着色加工等の各種加工を同時に行うことができる。
【0051】
次に、繊維分解加工剤を付与する方法としてインクジェット方式を用いることで、分解部分の深さや幅を自由に調整することができる。捺染型のような柄の制約もなく、1ピクセルレベルの緻密な意匠を自由に表現することができる。また、時間、コスト及び作業性に加え、大量の排水を出さないことから、環境の面においても優れているといえる。
【0052】
繊維分解加工剤をインクジェット方式にて付与する場合に使用されるインクジェット印捺装置は、繊維分解加工剤及び着色用インクとして使用する染料インクを加熱分解しない方式であれば特に限定されない。例えば、荷電変調方式、帯電噴射方式、マイクロドット方式及びインクミスト方式等の連続方式、ピエゾ変換方式及び静電吸引方式等のオンデマンド方式等、いずれも採用可能である。なかでも、インク吐出量の安定性及び連続吐出性に優れ、比較的安価で製造できる点で、ピエゾ変換方式が好ましい。
【0053】
インクジェット方式において繊維分解加工剤の付与量としては、1〜50g/mの範囲が好ましく、さらには5〜30g/mが好ましい。付与量が1g/m未満であると、分解されない傾向にある。一方、50g/mを超えると、必要以上の量となるため、コスト高になる傾向にある。
【0054】
また、長時間安定した吐出が可能となる点で、繊維分解加工剤は水溶解させて使用することが好ましい。その場合、繊維分解加工剤の濃度としては、10〜35質量%の範囲が好ましく、さらには15〜30質量%の範囲が好ましい。10質量%未満であると、充分分解されない傾向にある。一方、35質量%を超えると、繊維分解加工剤の水への溶解限度に近くなるため、析出物が発生する等ノズル詰まりの原因となり、長時間安定した吐出が不可能となる傾向にある。
【0055】
繊維分解性インクの粘度は、25℃において、1〜10cpsであることが好ましく、1〜5cpsであることがより好ましい。1cps未満では吐出したインク滴が飛翔中に分裂し、目的の場所にインクが着弾し難くなるため分解部分と未分解部分の境界部分が判り難くなる傾向にある。一方、10cpsを超えると、高粘度のため、ノズルからのインクの吐出が困難となる傾向にある。
【0056】
ここで、繊維布帛に繊維分解加工剤をインクジェット方式にて付与する工程の前に、繊維布帛にインク受容層を形成する工程を含むことが好ましい。これにより形成されたインク受容層が、ノズルから吐出された繊維分解性インクを瞬時に受け止め、適度に保持するため、繊維分解性インクの滲みを防止することができる。
【0057】
インク受容層は、通常、水溶性高分子を主成分としたインク受容剤により形成される。
水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、グアガム、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸等を挙げることができる。これらは2種類以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、耐アルカリ性に優れ、低価格及び流動性に優れるカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。インク受容層には、必要に応じて、還元防止剤、界面活性剤、防腐剤、耐光向上剤等を含有させることができる。
【0058】
インク受容剤は、固形分換算で1〜20g/m付与されることが好ましく、2〜10g/m付与されることがより好ましい。付与量が1g/m未満であると、インク受容能力に劣るため、インクが滲んだり、裏抜けしたりする傾向にある。一方、20g/mを超えると、繊維布帛が硬くなることから、インクジェットプリンタでの搬送性が不良となったり、取り扱い時に受容剤が繊維布帛から脱落し易くなったりする傾向にある。
【0059】
また、その付与方法は、ディップニップ法、ロータリースクリーン法、ナイフコーター法、キスロールコーター法及びグラビアロールコーター法等が挙げられる。なかでも、繊維布帛表面だけでなく、繊維布帛全体にインク受容層を付与することができ、インク受容能力に優れる繊維布帛の製造が可能となる点で、ディップニップ法が好ましい。
【0060】
インクジェット方式の場合においても、繊維分解加工剤と同時に、ポリエステル繊維の着色が可能なインク及び/またはポリアミド繊維の着色が可能なインクを付与することも可能である。すなわち、前記繊維分解性インク、ポリエステル繊維着色インク及びポリアミド繊維着色インクを備えるインクセットを準備し、インクを適宜選択して印捺することで、同一繊維素材上において、分解部分へ色柄の着色が可能となり、分解加工のみ、分解加工及び分解部分の着色加工、未分解部分の着色加工等の各種加工を同時に行うことができる。
繊維分解性インクには、その他、必要に応じて乾燥防止剤、防腐剤及び水溶性色素等を添加することができる。
【0061】
前記したように、捺染方式においても、インクジェット方式においても、繊維分解加工剤の付与と同時に着色剤(着色インク、染料、顔料を含む)を付与できるが、より詳しくは、分解部分に色柄を表現する場合は、ポリアミド繊維着色剤を選択し、繊維分解加工剤と同一箇所に付与することが好ましい。また、分解加工は必要とせず、ポリエステル繊維のみを着色させる場合は、ポリエステル繊維着色剤を選択し、付与する。分解加工は必要とせず、ポリアミド繊維のみ着色させる場合は、ポリアミド繊維着色剤を選択し、印捺する。この場合、分解加工されない芯鞘型複合繊維の、芯部であるポリアミド繊維を着色させるには、芯部のポリアミド繊維が鞘部に露出している必要がある。使用する繊維布帛によっては、いずれか一方の繊維のみを着色すると、得られた色柄の目ムキや白ボケ等が生じ、品質的に不良となる場合がある。そのような場合は、それぞれの着色剤を同一箇所に印捺し、ポリエステル繊維とポリアミド繊維とを同時に着色する。
【0062】
ポリエステル繊維着色剤としては、堅牢度、鮮明性及び発色性に優れる分散染料を水分散させた着色剤を主に使用することができる。その他、顔料を水分散させた着色剤、または、カチオン可染型ポリエステル繊維を使用する場合は、カチオン染料を水溶解または水分散させた着色剤を使用することができる。
【0063】
前記ポリアミド繊維着色剤としては、反応性染料、酸性染料または金属錯塩型染料を水溶解させた着色剤が使用可能である。反応性染料の種類は、反応基として、モノクロロトリアジン基、モノフロロトリアジン基、ジフロロモノクロロピリミジン基及びトリクロロピリミジン基等から選択される1種を少なくとも1つ有する反応性染料が好ましい。
その他の反応基を持つ反応性染料は、アルカリ雰囲気下で加水分解を起こし易く、繊維分解加工剤を含むインクと繊維布帛上で混合された場合に、反応基が分解し、ポリアミド繊維への着色濃度が低下する可能性が高い。
ポリエステル繊維及びポリアミド繊維以外の繊維を含んでいる場合は、その繊維を着色可能な着色剤を適宜選択して印捺することができる。
【0064】
インクジェット方式の場合においても繊維布帛に繊維分解加工剤を付与した後、熱処理が必要である。熱処理することにより、繊維が分解除去され、着色インクを付与した場合は、繊維への着色が行なわれる。
【0065】
芯鞘型複合繊維のポリエステル成分を分解するための好ましい熱処理条件は、160〜190℃にて約10分間程度である。160℃未満であると、ポリエステル成分の分解が不十分となるおそれがあり、また、インクジェット方式にて着色インクを付与した場合は、特にポリエステル繊維への着色も不十分となるおそれがある。190℃を超えると、ポリアミド繊維への着色が不十分となる、繊維が熱劣化して黄変する等の現象が発生しやすくなる。熱処理は、乾熱処理または湿熱処理のいずれでもよい。
【0066】
熱処理をした後、繊維の分解物を繊維布帛から脱落させることを目的として、また、インクジェット方式にて着色インクを付与した場合においては、繊維布帛上に残留しているインク受容層、未固着の染料を脱落させることを目的として、洗浄処理を行うことが好ましい。これにより、さらに鮮明な分解部分と未分解部分との差異による意匠表現の形成が可能となる。
【0067】
洗浄処理の条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、繊維分解促進剤1〜5g/Lを用いて、熱水処理温度70〜100℃で、10〜60分間処理すればよい。さらにNaOH水溶液2〜15g/Lを用いて処理してもよい。
【0068】
繊維分解促進剤としては、脂肪族アミン塩陽イオン界面活性剤、脂肪族アミン塩の四級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤、芳香族四級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤及び複素環四級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤等が使用できる。
このように、繊維分解性加工剤を付与した後、熱処理及び洗浄処理することで、完全にポリエステル成分を分解除去することができる。
【0069】
本発明の繊維布帛の、繊維分解部分の破裂強度としては、使用する用途に応じた布帛の強度を維持できれば特に限定するものではない。細部の意匠性を表現することを重視する際には、150kPa以下でもよいが、加圧下着等のインナー用途で伸縮性やパワー差による機能性を表現したい場合は200kPa以上であることが好ましい。
本発明の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の芯鞘型複合繊維の強度としては、2.5〜5.0cN/dtexが好ましい。また、分解部分の芯鞘複合繊維の強力としては、120cN以上が好ましく、未分解部分の芯鞘型複合繊維の強力としては、分解後との強力差を発現させるためには200cN以上が好ましい。さらに、未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率((分解部分の芯鞘型複合繊維の強力/未分解部分の芯鞘型複合繊維の強力)×100)が30%以上であると、強度差が発現しやすく、インナー用途等で、着圧差を有するものを得やすい。なお、このような強度差があるものは、ポリウレタン弾性糸等の弾性を有する糸と組み合わせたり、伸縮性のある編成としたりする等、自由度のある組織とすることにより、分解部分の組織がルーズになりやすく、布帛として優れた伸縮性を得やすくなる。
【0070】
本発明によれば、分解部分と未分解部分の境界において糸のほつれ(フィラメントのバラケ)に伴う品位低下が発生しない、境界のシャープ性に優れた繊維布帛を得ることができる。
【0071】
また、分解部分は組織がルーズになるため伸縮性が向上する。分解部分と未分解部分とでは伸縮差、強度差、通気度差等の物理的表現も可能となるため、分解部分と未分解部分の組合せによって、よりバリエーションに富んだ繊維布帛を得ることができる。
【0072】
本発明の繊維布帛は、前記した優れた効果をもつことから、水着、フィットネス衣料等のスポーツ用途やスパッツ、ガードル、ショーツ、ブラジャー等のインナー用途に特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を比較例と共にあげ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。各評価項目は、以下の方法に従って評価を行った。
【0074】
(評価項目)
(1)糸の強度、伸度及び強力
JIS L 1013に準じ、島津製作所(株)製、AGS 1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、引張速度20cm/minの条件で試料が伸長破断したときの強度(cN/dtex)、伸度(%)及び強力(cN)を求めた。
【0075】
(2)分解部分と未分解部分の境界の品位
分解部分と未分解部分の境界の品位を、拡大鏡を用いて下記基準に従って目視判定した。
◎:分解部分と未分解部分の境界が鮮明で、毛羽等糸のほつれが全く認められない。
○:分解部分と未分解部分の境界が鮮明で、毛羽等糸のほつれがほとんど認められない。
△:分解部分と未分解部分の境界は鮮明であるが、毛羽等糸のほつれが若干認められる。
×:分解部分と未分解部分の境界は不鮮明であり、毛羽等糸のほつれが認められる。
【0076】
(3)未分解部分の表面品位〈繊維の糸割れ〉
未分解部分の表面品位を、拡大鏡を用いて下記基準に従って目視判定した。
◎:未分解部分の、繊維割れが全く発生しておらず目面の品位がよい。
○:未分解部分の、繊維割れがほとんど発生しておらず目面の品位がよい。
△:未分解部分の、繊維割れがわずかに発生している。
×:未分解部分の、繊維割れが多く発生しており目面の品位が悪い。
【0077】
(4)分解の有無による表現性
分解部分と未分解部分との差異によって意匠性が表現されているかについて、拡大鏡を用いて下記基準に従って目視判定した。
◎:分解部分の透け感が極めてよく、意匠性が表現されている。
○:分解部分の透け感がよく、意匠性が表現されている。
△:分解部分の透け感は少ないが、意匠性は表現されている。
×:分解部分の透け感が悪く、意匠性が表現されていない。
【0078】
(5)破裂強度
ミューレン型破裂試験機により、JIS L 1018A法に準拠して測定し、下記基準で判定した。
◎:250kPa以上
○:200kPa以上250kPa未満
△:200kPa未満
【0079】
(6)ナイロン系ポリマーの相対粘度
ポリアミド系ポリマーの相対粘度の測定は、JIS K 6810に従って98%硫酸中濃度1%、温度25℃において測定した。
【0080】
(7)ポリエステル系ポリマーの固有粘度
ポリエステル系ポリマーの固有粘度の測定は、溶媒にフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合液50mlに0.5gのポリマーを溶解して、オストワルド型粘度計を用いて、温度20℃において測定した。
【0081】
(芯鞘型複合繊維の製造)
<繊維a>
複合紡糸機を用いて、未変性のポリエチレンテレフタレート(融点256℃、固有粘度0.63)を290℃で溶融し鞘成分とし、ナイロン6(融点224℃、相対粘度2.47)を260℃で溶融し芯成分として、紡糸温度280℃、芯鞘比率50/50で芯鞘型溶融紡糸口金から吐出後、冷却して油剤を付与し、巻取り速度800m/minで巻取り未延伸糸を得た。次いで紡出した未延伸糸を延撚機にてロールヒーター65℃、延伸倍率3.3倍、プレートヒーター150℃、延伸速度800m/minで延伸し、図1に示す繊維横断面のうち(a)の繊維横断面の芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.8cN/dtex、伸度:43.5%、芯部露出度:0%、芯部のみの強度:2.9cN/dtex)を得た。
【0082】
<繊維b>
鞘成分を、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(酸成分に対して1.5mol%)、DEG4.8mol%及び分子量600のPEG3.0質量%から構成される共重合ポリエチレンテレフタレート(融点237℃、固有粘度0.60)とする以外は、繊維aと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.5cN/dtex、伸度:44.5%、芯部露出度:0%、芯部分のみの強度:2.7cN/dtex)を得た。
【0083】
<繊維c>
芯鞘比率を、67/33に変更して、繊度を変更する以外は、繊維bと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:70dtex/48f、強度:4.0cN/dtex、伸度:44.2%、芯部露出度:0%、芯部のみの強度:2.7cN/dtex)を得た。
【0084】
<繊維d>
繊維横断面形状が図1に示す繊維横断面のうち(i)で芯部露出度が8.9%である以外は繊維bと同様に芯鞘複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.5cN/dtex、伸度:34.0%、芯部のみの強度:3.3cN/dtex)を得た。
【0085】
<繊維e>
芯部露出度が5.2%である以外は繊維dと同様に芯鞘複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.4cN/dtex、伸度:37.5%、芯部のみの強度:3.1cN/dtex)を得た。
【0086】
<繊維f>
鞘成分を、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(酸成分に対して2.3mol%)、DEG4.8mol%及び分子量8000のPEG10質量%から構成される共重合ポリエチレンテレフタレート(融点241℃、固有粘度0.77)とする以外は、繊維aと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.4cN/dtex、伸度:42.3%、芯部露出度:0%、芯部のみの強度:2.6cN/dtex)を得た。
【0087】
<繊維g>
芯鞘複合繊維の芯鞘比率を、20/80と変更する以外は、繊維bと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.2cN/dtex、伸度:32.4%、芯部露出度:0%、芯部のみの強度:3.8cN/dtex)を得た。
【0088】
<繊維h>
芯鞘複合繊維の芯鞘比率を、90/10と変更する以外は、繊維bと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.4cN/dtex、伸度:49.2%、芯部露出度:0%、芯部のみの強度4.3cN/dtex)を得た。
【0089】
<繊維i>
芯鞘複合繊維の芯鞘比率を、10/90と変更する以外は、繊維dと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.1cN/dtex、伸度:30.4%、芯部露出度:8.9%、芯部のみの強度:5.4cN/dtex)を得た。
【0090】
<繊維j>
芯鞘複合繊維の芯鞘比率を、80/20と変更する以外は、繊維dと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.0cN/dtex、伸度:42.8%、芯部露出度8.9%、芯部のみの強度:3.8cN/dtex)を得た。
【0091】
<繊維k>
芯鞘複合繊維の芯部露出度を、40%と変更する以外は、繊維dと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.7cN/dtex、伸度:38.4%、芯部露出度40%、芯部のみの強度:3.3cN/dtex)を得た。
【0092】
<繊維l>
芯鞘複合繊維の芯部露出度を、50%と変更する以外は、繊維dと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:3.6cN/dtex、伸度:36.6%、芯部露出度:50%、芯部のみの強度:3.3cN/dtex)を得た。
【0093】
<繊維m>
鞘成分を、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(酸成分に対して1.5mol%)、DEG4.8mol%及び分子量600のPEG3.0質量%から構成される共重合ポリエチレンテレフタレート(融点237℃、固有粘度0.60)、芯成分を未変性のポリエチレンテレフタレート(融点256℃、固有粘度0.63)とする以外は、繊維aと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.2cN/dtex、伸度:32.0%)を得た。
【0094】
<繊維n>
芯成分をナイロン6(融点225℃、相対粘度2.98)とし、270℃で溶融する以外は、繊維bと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.2cN/dtex、伸度:48%、芯部露出度:0%、芯部分のみの強度:4.2cN/dtex)を得た。
【0095】
<繊維o>
芯成分をナイロン6(融点225℃、相対粘度3.37)とし、280℃で溶融する以外は、繊維bと同様に芯鞘型複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.8cN/dtex、伸度:36%、芯部露出度:0%、芯部分のみの強度:4.7cN/dtex)を得た。
【0096】
<繊維p>
芯成分をナイロン6(融点225℃、相対粘度2.98)とし、270℃で溶融する以外は、繊維dと同様に繊維横断面形状が図1に示す繊維横断面のうち(i)で芯部露出度が8.9%である芯鞘複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.1cN/dtex、伸度:48%、芯部のみの強度:4.0cN/dtex)を得た。
【0097】
<繊維q>
芯成分をナイロン6(融点225℃、相対粘度3.37)とし、280℃で溶融する以外は、繊維dと同様に繊維横断面形状が図1に示す繊維横断面のうち(i)で芯部露出度が8.9%である芯鞘複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.8cN/dtex、伸度:36%、芯部のみの強度:4.7cN/dtex)を得た。
【0098】
<繊維r>
芯成分をナイロン6(融点225℃、相対粘度2.98)とし、270℃で溶融させ、一方、鞘成分をテレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(酸成分に対して1.5mol%)、DEG4.8mol%及び分子量600のPEG3.0質量%から構成される共重合ポリエチレンテレフタレート(融点237℃、固有粘度0.595)とテレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(酸成分に対して2.3mol%)、DEG4.8mol%及び分子量8000のPEG10質量%から構成される共重合ポリエチレンテレフタレート(融点241℃、固有粘度0.770)を重量比率6/4で混合して290℃で溶融する以外は、繊維dと同様に繊維横断面形状が図1に示す繊維横断面のうち(i)で芯部露出度が8.9%である芯鞘複合繊維(繊度:100dtex/48f、強度:4.2cN/dtex、伸度:40%、芯部のみの強度:4.1cN/dtex)を得た。
【0099】
繊維についての情報を表1に示す。
実施例1
【0100】
上記で作成された繊維aを用いて、鹿の子組織の編物A(厚さ1mm)を得た。さらに得られた編物Aについて一般的な条件により精練、セットを行った。
【0101】
次に、編物Aに対し以下の方法に従って繊維分解加工を行った。
(1)インク受容層の形成
下記処方1の組成物を混合し、ホモジナイザーを用いて1時間攪拌して得られた処理液を、上記で得られた編物に、固形分換算で2g/mになるようにディップニップ法で付与し、170℃で2分間乾燥してインク受容層が形成された編物を得た。
【0102】
<処方1>
DKSファインガムHEL−1:2質量%
(第一工業製薬(株)製、エーテル化カルボキシメチルセルロース)
MSリキッド:5%質量
(明成化学工業(株)製、ニトロベンゼンスルホン酸塩、還元防止剤、
有効成分30%)
水:93質量%
【0103】
(2)繊維分解性インクの調製
下記処方2の組成物を混合し、スターラーを用いて1時間攪拌後、ADVANTEC高純度濾紙No.5A(東洋濾紙(株)製)にて減圧濾過後、真空脱気処理し、繊維分解性インクを得た。なお、25℃における粘度は、3cpsであった。
【0104】
<処方2>
炭酸グアニジン(繊維分解加工剤):20質量%
尿素(溶解安定剤):5質量%
ジエチレングリコール(乾燥防止剤):5質量%
水:70質量%
【0105】
(3)インクジェット印捺
予め定めた柄となるように、以下の条件にてインクジェット印捺を行った。
<インクジェット印捺条件>
印捺装置:オンデマンド方式シリアル走査型インクジェット印捺装置
ノズル径:50μm
駆動電圧:100V
周波数:5kHz
解像度:360dpi
繊維分解性インク印捺量:40g/m
【0106】
編物を乾燥した後、HTスチーマーを用いて175℃で10分間湿熱処理した。さらに、トライポールTK(第一工業製薬(株)製、ノニオン界面活性剤)を2g/L、ソーダ灰を2g/L、ハイドロサルファイトを1g/L含むソーピング浴にて、80℃で10分間処理して洗浄した後、水洗し、乾燥して分解部分と未分解部分を有する実施例1の繊維布帛を得た。
【0107】
また、得られた実施例1の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は145.9cN、未分解部分の強力は378cNであった。分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率((分解部分の芯鞘型複合繊維の強力/未分解部分の芯鞘型複合繊維の強力)×100)は39%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例2
【0108】
上記で作成された繊維bを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例2の繊維布帛を得た。
【0109】
また、得られた実施例2の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は135.3cN、未分解部分の強力は350.9cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は39%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例3
【0110】
上記で作成された繊維cを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例3の繊維布帛を得た。
【0111】
また、得られた実施例3の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は135.3cN、未分解部分の強力は279.2cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は49%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例4
【0112】
上記で作成された繊維dを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例4の繊維布帛を得た。
【0113】
また、得られた実施例4の繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は163.1cN、未分解部分の強力は361.5cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は45%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例5
【0114】
上記で作成された繊維eを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例5の繊維布帛を得た。
【0115】
また、得られた実施例5の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は156.2cN、未分解部分の強力は346.1cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は45%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例6
【0116】
上記で作成された繊維fを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例6の繊維布帛を得た。
【0117】
また、得られた繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は129.3cN、未分解部分の強力は335.0cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は39%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例7
【0118】
上記で作成された繊維gを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例7の繊維布帛を得た。
【0119】
また、得られた繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は75.1cN、未分解部分の強力は322.5cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は23%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例8
【0120】
上記で作成された繊維hを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例8の繊維布帛を得た。
【0121】
また、得られた繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は387.4cN、未分解部分の強力は441.2cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は88%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例9
【0122】
上記で作成された繊維iを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例9の繊維布帛を得た。
【0123】
また、得られた繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は54.2cN、未分解部分の強力は313.4cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は17%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例10
【0124】
上記で作成された繊維jを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例10の繊維布帛を得た。
また、得られた実施例10の繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は301.4cN、未分解部分の強力は402.3cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は75%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例11
【0125】
上記で作成された繊維kを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例11の繊維布帛を得た。
また、得られた実施例11の繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は165.8cN、未分解部分の強力は374.3cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は44%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例12
【0126】
上記で作成された繊維lを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例12の繊維布帛を得た。
また、得られた実施例12の繊維布帛を構成する芯鞘複合繊維を抜き出した際の、分解部分の強力は164.7cN、未分解部分の強力は358.1cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は46%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例13
【0127】
上記で作成された、繊維aを使用した編物Aに対し以下の方法に従って繊維分解加工を行った。
下記処方3の組成物を混合し、水と糊剤の添加により粘度を40000〜50000cpsに調整し、目的とする繊維分解加工剤を得た。得られた繊維分解加工剤をロータリー捺染機により、乾燥後の塗布量が単位面積当たり約4g/mとなるように塗布した。
【0128】
<処方3>
第4級アンモニウム塩(ポリエステル分解剤):30部
尿素(浸透剤):20部
ハイプリントRH(林化学工業)6%水溶解品(糊剤):10〜20部
水:30〜40部
【0129】
110℃で2分間編物を乾燥した後、HTスチーマーを用いて110℃で10分間湿熱処理した。さらに、トライポールTK(第一工業製薬(株)製、ノニオン界面活性剤)を2g/L、ソーダ灰を2g/L、ハイドロサルファイトを1g/L含むソーピング浴にて、80℃で10分間処理して洗浄した後、水洗し、乾燥して分解部分と未分解部分を有する実施例13の繊維布帛を得た。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例14
【0130】
上記で作成された繊維aを用いて、鹿の子組織の編物に代えてツイル組織の織物とした以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例14の繊維布帛を得た。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例15
【0131】
上記で作成された繊維nを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例15の繊維布帛を得た。
【0132】
また、得られた実施例15の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は210.5cN、未分解部分の強力は420.2cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は50%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例16
【0133】
上記で作成された繊維oを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例16の繊維布帛を得た。
【0134】
また、得られた実施例16の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は235.2cN、未分解部分の強力は470.6cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は50%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例17
【0135】
上記で作成された繊維pを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例17の繊維布帛を得た。
【0136】
また、得られた実施例17の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は200.2cN、未分解部分の強力は410.8cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は49%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例18
【0137】
上記で作成された繊維qを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例18の繊維布帛を得た。
【0138】
また、得られた実施例18の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は235.3cN、未分解部分の強力は480.7cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は49%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
実施例19
【0139】
上記で作成された繊維rを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、実施例19の繊維布帛を得た。
【0140】
また、得られた実施例19の繊維布帛を構成する糸を抜き出した際の、分解部分の強力は200.1cN、未分解部分の強力は410.5cNであった。上記未分解部分の強力に対する分解部分の強力の比率は49%であった。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
【0141】
〔比較例1〕
上記で作成された繊維mを用いた以外は全て実施例1と同様な工程で製造し、比較例1の繊維布帛を得た。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
【0142】
〔比較例2〕
ナイロン6(東レ株式会社製、56dtex/17f)、ポリエステル繊維(東レ株式会社製、44dtex/48f)、ポリウレタン繊維(旭化成せんい株式会社製、78dtex)を用いて鹿の子組織により交編し、ナイロン6が49%、ポリエステル繊維が30%、ポリウレタン繊維が21%の、鹿の子組織の編物を得た。以後は実施例1と同様な工程で製造し、比較例2の繊維布帛を得た。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
【0143】
〔比較例3〕
ナイロン6(東レ株式会社製、78dtex/24f)に、カチオン可染ポリエステル仮撚糸(東レ株式会社、56dtex/36f)を、スピンドル回転数10500rpm、撚数650(Z撚)T/mで巻き付けることによりナイロン6/ポリエステル複合被覆糸を得た。
得られた複合被覆糸を用いて、鹿の子組織の編物を作成した。以後は実施例1と同様な工程で製造し、比較例3の繊維布帛を得た。得られた繊維布帛の評価を表2に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
実施例1〜19の繊維布帛はいずれも、繊維分解加工剤による分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に優れ、分解部分と未分解部分との差異により高品位の意匠を形成することができるが、比較例1〜3の繊維布帛は分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に劣り、高品位の意匠を形成することはできなかった。
なお、実施例4、5、9、10、17〜19のように、繊維横断面において、ポリアミド成分の一部が繊維表面に露出し、芯部露出度が1〜30%のものは、特に、鞘部の除去性に優れ、分解部分と未分解部分の境界品位や意匠表現性に優れたものであった。
【0147】
本発明は、2010年7月14日に出願された日本国特許出願2010−160025号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2010−160025号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照して取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、分解部分と未分解部分との境界部分のシャープ性に優れ、意匠性や部分的な機能性の付与に適した繊維布帛に好適である。
図1