特許第5855110号(P5855110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855110
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】ピストンリングの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/26 20060101AFI20160120BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   F16J9/26 C
   F02F5/00 N
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-532047(P2013-532047)
(86)(22)【出願日】2011年8月13日
(65)【公表番号】特表2013-540243(P2013-540243A)
(43)【公表日】2013年10月31日
(86)【国際出願番号】DE2011001604
(87)【国際公開番号】WO2012045293
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年5月27日
(31)【優先権主張番号】102010048079.7
(32)【優先日】2010年10月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509340078
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス エッサー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ゲアト クレシェル
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ホッペ
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−520931(JP,A)
【文献】 特開2003−113940(JP,A)
【文献】 特開2002−195409(JP,A)
【文献】 特開平11−230341(JP,A)
【文献】 特開2007−040470(JP,A)
【文献】 特表2010−530045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/00−9/28
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウェブ(2)を備えた半径方向外側の摺動面(2′)と、半径方向内側の周面(3)と、前記両面の間を延在している上側面(3′)及び下側面(3″)とを有する、2mm未満の軸線方向の高さを有するピストンリングの製造方法であって、該方法において、
各ウェブ(2)に、半径方向外側に向かって円錐状に先細りしていく外縁を設け、
その後、前記摺動面(2′)に、前記各円錐状のウェブ(2)のウェブ側面(4,4′)を含めて、少なくとも1つの耐摩耗性の層(7)を設け、
次いで、前記各ウェブ(2)のウェブ側面(4)の、掻取りエッジ(8)を形成するクランクハウジング寄りの側面側の耐摩耗性の層(7)だけに、少なくとも部分的な材料除去を行い、前記材料除去された箇所の外側に残っている前記摺動面(2′)の面部分を、前記各ウェブ(2)も含め加工しないことを特徴とする、2mm未満の軸線方向の高さを有するピストンリングの製造方法。
【請求項2】
前記耐摩耗性の層(7)を設け、それに続いて、前記摺動面(2′)に円筒ラッピングプロセスを施すことを特徴とする、請求項1載の方法。
【請求項3】
前記各ウェブ側面(4)から前記耐摩耗性の層(7)を、半径方向のウェブ高さの30〜90%の面領域に亘って、加工工具より除去することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法により製造された油掻取りピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2mm未満の軸線方向の高さを有するピストンリングの製造方法に関する。
【0002】
例えば電気メッキによりコーティングされ、研磨により輪郭付けされる、最高で2mmのリング高さを持つ、輪郭付けされているか輪郭付けされていないエキスパンダーリング(Schlauchfederring)を摺動面側で加工することができる、という一般的な技術がある。この構成において、一般的には2つのウェブ側面が、対称的に外側溝を含めて加工される。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許第100002282号には、油掻取りピストンリングの製造方法、及びこの方法により製造された油掻取りピストンリングが開示されている。この方法は、耐摩耗性の被覆部を備えた少なくとも1つの摺動ウェブを有する油掻取りピストンリングを製造するための方法であって、耐摩耗性の被覆部の形成前に、円錐状の領域において、この平面から半径方向に突出している凸部を有する輪郭を摺動ウェブ側に形成して、少なくともこの輪郭に耐摩耗性の被覆部を設け、リング周面に亘ってほぼ均一な摺動面輪郭を調節するために、少なくとも半径方向の凸部の領域において、被覆部の予め規定可能な材料除去を実施し、次いで摺動ウェブ側面を研磨により輪郭付けし、これにより規定された円筒状の残り面が、半径方向の凸部の領域に形成される。
【0004】
この技術は、今日では、最高で2mmのリング高さのピストンリング、特に油掻取りピストンリングに使用される。内燃機関の絶え間ない発展は、最高で1.5mm又は1.5mm未満の範囲へのピストンリング高さのさらなる適応を求めている。現在の先行技術によれば、摺動面構成の軸線方向での小さな寸法に、使用可能な研磨ディスク技術を適用することはできず、したがって、上記リングの摺動面側において研磨により輪郭付けすることはもはやできない。
【0005】
本発明の根底にある目的は、これまで有効に使用されてきた、ピストンリングにおける摺動面構造を包含したままで、2mm未満の寸法を持ったピストンリングであっても、シャープ若しくは鋭利な掻取りエッジが付与されているように摺動面を加工することを可能にする手段を提供するだけでなく、さらに経済的な手段を提供することである。
【0006】
上記目的は、少なくとも1つのウェブを備えた半径方向外側の摺動面と、半径方向内側の周面と、これら両面の間を延在している上側面及び下側面とを有する、2mm未満の軸線方向の高さを備えるピストンリングの製造方法であって、各ウェブに半径方向外側に向かって円錐状に先細りしていく外縁を設け、その後、摺動面に、円錐状の各ウェブのウェブ側面を含め、少なくとも1つの耐摩耗性の層を設け、次いで、各ウェブの、掻取りエッジを形成するウェブ側面だけから、少なくとも部分的に材料を除去する方法により達成される。
【0007】
本発明の対象の有利な改良形は、方法技術に関する従属請求項から読み取ることができる。
【0008】
同様に、本発明に係る方法により製造される油掻取りピストンリングを特許請求の範囲に記載する。
【0009】
本発明に係る方法により製造されたピストンリング、特に油掻取りピストンリングは、好ましくは極めて高い形状適合性能(Formfuellvermoegen)及び低い接線力を持って、オットーエンジン及びディーゼルエンジンにおいて使用される。
【0010】
こうして各ウェブの、クランクハウジング寄りの側面側の摩耗層だけを部分的に除去することにより、他の摩擦パートナと作用接続していないピストンリングの他の摺動面領域は、加工されないままにすることができる。したがって、ドイツ連邦共和国特許第100002282号に基づく先行技術とは異なり、各摺動ウェブの対称的ではなく、むしろ非対称的な加工が行われる。これにより、先行技術と比べた輪郭研磨若しくは研削時のサイクル時間を、著しく高めることができる。
【0011】
工具、特に研磨ディスクは、シャープな掻取りエッジを形成するために、各ウェブ側面を、各外側溝の深さの約30〜90%まで加工するだけでよい、という特別な利点を有する。
【0012】
本発明の対象は、ドイツ連邦共和国特許第100002282号に記載されているような輪郭にのみ使用可能なわけではない。むしろ2mm未満の構成高さ、好ましくは1.5mm以下の構成高さを持った油掻取りリングを加工することもできる。この油掻取りリングは、他の輪郭を持たない円筒状のウェブ面を有する。この構成において、油室寄りのウェブ側面において部分的な材料除去を行う本発明に係る方法により、シャープな掻取りエッジを形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】規定された摺動面輪郭を備えた、1.5mmの全高を有する油掻取りリングの一部分を示す図である。
図2】摺動面にコーティング部を備える、図1に示したピストンリングを示す図である。
図3】摺動面ウェブの規定された面領域を加工するための加工工具を示す図である。
図4】円筒状の摺動面輪郭を備えた油掻取りリングの一部分を示す図である。
図5】摺動面ウェブの規定された面領域を加工するための加工工具を示す図である。
図6】ウェブを備えた油掻取りリングを、加工工具と共に示す図である。
【0014】
本発明の対象を実施の形態に基づき図示し、以下に説明する。
【0015】
本発明の対象は、とりわけドイツ連邦共和国特許第10002282号の図示の実施の形態を含む。上述のように、上記刊行物の図1〜3に示されている油掻取りリングは、2mm以上のリング高さに適用可能であり、このピストンリングの摺動面は対称的に加工可能でもある。この使用態様のためには、2つの摺動ウェブの対称的な加工を同時に可能にする加工工具がさらにある。2mm未満のリング高さ、特に1.5mm以下のリング高さにとって、研磨ディスク形状に基づき技術はその限界に達するので、ウェブの対称的な加工はもはや可能ではない。
【0016】
図1に、上記実施の形態において、1.5mmのリング高さhを有していることになっているピストンリング本体1を示す。横断面形状は、ドイツ連邦共和国特許第100002282号同様に選択されたので、この実施の形態においても、基本輪郭を形成するために同様の加工基準を用いることができる。第1の作業工程において摺動ウェブ2は、機械加工により、ウェブ側面4,4′が半径方向外側に向かって徐々に先細りするように(図に示すような円錐の)テーパ状に形成される。
【0017】
各ウェブ2は、半径方向の凸部5が形成されるように加工される。同様に、ウェブ2の間に形成されている溝6′の溝底部から、内側の周面3の方向に延びている油流出孔6が看取可能である。摺動面2′と内側の周面3との間に、上側のリング側面3′及び下側のリング側面3″が延びている。
【0018】
上述のように準備されたピストンリング本体1には、図2に示したように、ウェブ2、凸部5及びウェブ側面4,4′を含む全摺動面2′の領域に、油流出孔6だけを除き耐摩耗性の層7が設けられる。
【0019】
各凸部5と、対応付けられたウェブ側面4との間の移行領域に、シャープな掻取りエッジ8を形成するために、図3において単に示唆している研削工具あるいは研磨工具9が使用される。この研磨工具9は、上記移行領域のみを加工し、この移行領域を、図示のように、耐摩耗性の層7から解放する。摺動面2′の他の領域は未加工のままとなる。このように加工されたピストンリング本体1は、完成した油掻取りピストンリングをもたらす。この油掻取りピストンリングには、必要な場合にさらにラッピングプロセスを施すことができる。運転状態において、シャープな各掻取りエッジ8は、クランクハウジング/油室(図示せず)を向いている。
【0020】
図4〜6は、油掻取りピストンリングの択一的な横断面形状を示す。有利な限りは、図1〜3に対応して同じ符号が用いられる。
【0021】
図4は、加工状態からしてほぼ図2に相当する。図4においては、各ウェブ2は、その摩擦パートナ(図示せず)寄りの摺動面2′において輪郭付けされておらず、むしろ円筒状に加工されているという点で図1〜3とは異なる。その他の点では、横断面形状は、図1〜3の横断面形状に相当する。各ウェブ側面4,4′には、同様に耐摩耗性の材料7を提供した。
【0022】
図5は、ほぼ図3に相当する。加工工具9は、各ウェブ側面4に向けて導入可能であり、円筒状の摺動面2′からウェブ側面4への移行領域において、ウェブ2の規定された半径方向の高さに亘って耐摩耗性の材料を除去する。この措置により、摺動面2′からウェブ側面4への移行領域に、シャープな掻取りエッジ8が形成される。
【0023】
図6は、1つのパッケージにまとめられた複数の油掻取りピストンリングを示す。これらの油掻取りピストンリングは、単に1つの摺動面ウェブ2を有し、その他には、図4から看取可能である横断面形状を有する。摺動面2′は、この実施の形態でも、円筒状に構成されている。図5と同様に、加工工具9は、シャープな掻取りエッジ8を形成するために、摺動面2′からウェブ側面4への移行領域において耐摩耗性の材料を、ウェブ2の規定された半径方向の高さに亘って、ウェブ側面4からのみ除去する。
図1-3】
図4
図5
図6