(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスの印加タイミングからイメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えることで、前記流入する血液の互に異なる移動時間にそれぞれ対応する複数の前記イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記複数のイメージングデータに基づいて、前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データを生成する血流情報生成部と、
前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データ同士の比較に基づいて、前記心筋の解析を行う解析部と
を備え、
前記解析部は、前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データ同士の信号差の大小関係に基づいて、前記心筋内の病変部位として梗塞部位及び虚血部位を識別し、識別した前記病変部位を心筋の断面画像上で識別表示する、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスの印加タイミングからイメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えることで、前記流入する血液の互に異なる移動時間にそれぞれ対応する複数の前記イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記複数のイメージングデータに基づいて、前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データを生成する血流情報生成部と、
前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データ同士の比較に基づいて、前記心筋の解析を行う解析部と
を備え、
前記解析部は、前記心筋の解析として、前記複数の血流像データに対応する複数の血流信号強度または信号強度差のプロファイルであって、前記心筋の断面画像上を横切るように設定された線状の関心領域方向の信号強度または信号強度差の変化を示すプロファイルを血流情報として生成する、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスの印加タイミングからイメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えることで、前記流入する血液の互に異なる移動時間にそれぞれ対応する複数の前記イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記複数のイメージングデータに基づいて、前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データを生成する血流情報生成部と、
前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データ同士の比較に基づいて、前記心筋の解析を行う解析部と
を備え、
前記解析部は、前記複数の血液信号強度の変化を3次元的に示すプロファイルであって、心筋断面画像上において交差する2つの軸方向の各値と信号値とを有するプロファイルを生成する、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスの印加タイミングからイメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えることで、前記流入する血液の互に異なる移動時間にそれぞれ対応する複数の前記イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記複数のイメージングデータに基づいて、前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データを生成する血流情報生成部と、
前記互に異なる血液の移動時間にそれぞれ対応する複数の血流像データ同士の比較に基づいて、前記心筋の解析を行う解析部と
を備え、
前記解析部は、前記心筋の解析として、位置補正が行われた前記複数の血流像データ間の所望の断面における信号強度差を複数のセグメントに分割して表示する血流情報画像を生成する、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
前記解析部は、前記複数の血流像データに対応する各心筋断面において右室と左室の境界部分に設定された基準位置を用いて前記複数の血流像データの位置補正を行い、前記位置補正後における前記複数の血流像データ間の信号強度又は信号強度差を計算するように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
(構成および機能)
図2は、磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0019】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24を備えている。
【0020】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0021】
静磁場用磁石21は、静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0022】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22は、シムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0023】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24には、ガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や、寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0024】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0025】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給される電流により、X軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzが撮像領域にそれぞれ形成される。
【0026】
RFコイル24は、送信器29および/または受信器30と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有する。受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0027】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能を有する。また、シーケンスコントローラ31は、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0028】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けて、この生データをコンピュータ32に入力する。
【0029】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる。受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と、生成した生データをシーケンスコントローラ31に入力する機能とが備えられる。
【0030】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号は、シーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0031】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに、拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。以下、ECG信号を取得する場合について述べる。
【0032】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0033】
図3は、
図2に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0034】
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、血流像作成部43、画像データベース44および血流情報作成部45として機能する。撮像条件設定部40は、プレスキャン条件設定部40A、撮像パラメータ決定部40Bおよび撮像パラメータ保存部40Cを有する。
【0035】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。撮像条件設定部40は、ECG同期下においてイメージング領域に流入する血液をラベリングして、心筋の断面における血流像を非造影で取得するためのパルスシーケンスを設定する機能を備える。また、撮像条件設定部40は、ラベリングされた血液の移動時間が異なる複数の血流像を取得するための複数のパルスシーケンスを設定する機能を備える。なお、「ラべリング」は、「タグ付け」と同義であるものとして用いる。
【0036】
心筋の複数の断面を含むイメージング領域からデータを収集するためのイメージングシーケンスとしては、例えば3次元(3D: three-dimensional) FSE (fast spin echo)シーケンス、 3D FASE (fast asymmetric spin echo又はfast advanced spin echo)シーケンス、3D定常自由歳差運動(SSFP: steady state free precession)シーケンス、EPI (echo planar imaging)シーケンス、Radialデータ収集シーケンスを用いることができる。
【0037】
FASEシーケンスは、ハーフフーリエ法を利用したFSEシーケンスである。
【0038】
Radialデータ収集シーケンスには、複数のデータ収集ラインを回転させるPROPELLER (Periodically Rotated Overlapping Parallel Lines with Enhanced Reconstruction)シーケンスも含まれる。
【0039】
SSFPシーケンスには、balanced SSFPシーケンスやtrue SSFPシーケンス等の種類があり、balanced SSFPシーケンスおよびtrue SSFPシーケンスは、データ収集効率が大きいため高速データ収集を行う場合に適している。
【0040】
また、非造影MRAとしてFBI法がある。FBI法は、FASEシーケンス等のシーケンスを用いて、R波等の被検体Pの心時相を表す基準波に同期したトリガ信号から所定時間遅延させて、複数心拍毎にエコーデータを繰り返して収集する非造影MRAである。FBI法によれば、複数心拍の経過によって血液の横緩和(T2)成分の磁化が回復し、血液のT2磁化成分を強調した水(血液)強調画像を血管画像として得ることができる。さらに、FBI法では所定スライスエンコード量分のエコーデータ(ボリュームデータ)を収集する3次元イメージングが実行される。
【0041】
さらに、大動脈から心臓内のイメージング領域に流入する血液を良好に描出するために、血液のラベリングを行う撮像条件が設定される。ラベリング法の1つとして、複数のラベリング用のパルスの印加を伴うt-SLIP (Time-SLIP: Time Spatial Labeling Inversion Pulse)法が挙げられる。ここでは、t-SLIP法を例に説明する。
【0042】
t-SLIP法によるt-SLIPシーケンスでは、t-SLIPパルスが印加され、撮像領域に流入する血液がラベリングされる。すなわち、t-SLIPシーケンスは、撮像断面に流入する血液をラべリングすることで、ラべリングされた血液を選択的に描出或いは抑制するためのASL (Arterial spin labeling)パルスの印加を伴う撮像シーケンスである。このt-SLIPシーケンスにより、反転時間(TI: inversion time)後に撮像断面に到達した血液のみの信号強度を選択的に強調または抑制することができる。t-SLIPパルスは、ECG信号のR波から一定の遅延時間(delay time)経過後に印加され、ECG同期下において撮像が行われる。
【0043】
t-SLIPパルスは、領域非選択インバージョンパルスおよび領域選択インバージョンパルスで構成される。領域非選択インバージョンパルスはON/OFFの切換が可能である。t-SLIPパルスは、少なくとも領域選択インバージョンパルスを含む。つまり、t-SLIPパルスは、領域選択インバージョンパルスのみで構成される場合と、領域選択インバージョンパルスおよび領域非選択インバージョンパルスの双方で構成される場合とがある。
【0044】
領域選択インバージョンパルスは、イメージング領域とは独立に任意に設定することが可能である。この領域選択インバージョンパルスにより、イメージング領域に流入する血液をラベリングすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度は、高くなる。尚、領域非選択インバージョンパルスをOFFにすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度が低くなる。このため、血液の移動方向や距離を把握することができる。
【0045】
図4は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるt-SLIPシーケンスの一例を示す図である。
図4において、横軸は経過時間tを示し、ECG, RF, G, Mzはそれぞれ、ECGトリガとしてのR波、RF信号、傾斜磁場パルス、縦磁化成分(longitudinal magnetization component)を表す。また、td1は、R波の時刻から180°領域非選択IRパルスの印加時刻までの時間間隔(遅延時間)である。また、td2は、データ収集開始の直前のR波の時刻から、データ収集開始時刻までの時間間隔(遅延時間)である。
【0046】
図4に示すように、ECG信号のR波に同期して、R波から所定の遅延時間td1の経過後に、180°領域非選択反転回復パルス(180° REGION NON-SELECTIVE IR PULSE:IRはinversion recoveryの意味)が印加される。これにより、被検体内の心筋および血液の縦磁化成分Mzは、反転する。すなわち、
図4に示すように、心筋(MYOCARDIUM)および血液(BLOOD)の縦磁化成分Mzは、いずれも-1となる。
【0047】
次に、180°領域非選択IRパルスの印加時刻からΔT経過後のタイミングで、ラベリング領域として選択されたスラブに対して、第1および第2の180°領域選択IRパルス(180° FIRST REGION SELECTIVE IR PULSE, 180° SECOND REGION SELECTIVE IR PULSE)が別々のタイミングで印加される。また、ラベリング用のスラブの選択のため、第1および第2の180°領域選択IRパルスの印加と同時に、第1および第2の180°スラブ選択励起傾斜磁場パルス(FIRST SLAB SELECTION G-PULSE, SECOND SLAB SELECTION G-PULSE)がそれぞれ印加される。これにより、ラベリング領域内の血液の縦磁化成分Mzは、180°領域非選択IRパルスと180°領域選択IRパルスとの間隔ΔTに応じた量だけ回復した後に、選択的に反転する。即ち、ラベリング領域内の血液がラベリングされる。
【0048】
なお、
図4では煩雑となるので、第1の180°領域選択IRパルスによって、そのラベリング領域内の血液の縦磁化成分Mzが反転する場合を二点鎖線で示し、第2の180°領域選択IRパルスによって反転する血液の縦磁化成分Mzについては省略した。一方、ラベリング領域外の血液の縦磁化成分Mzは、反転せずに負値のまま維持される。つまり、(第1および第2の)180°領域選択IRパルスがラべリングパルスとして機能する。
【0049】
そして、180°領域非選択パルスの印加時刻からTI経過後のタイミングで、すなわち、180°領域選択IRパルスからBBTI(Black Blood Traveling Time)経過後のタイミングで、イメージングシーケンスの実行が開始され、心筋部分を含むイメージング領域からのデータ収集(DATA ACQUISITION)が開始される。ただし、心筋は常に動いているため、常に同じ拡張期の心時相でデータ収集を行うことが望ましい。そこで、データ収集が拡張期の適切な心時相において行われるように、ECG同期の遅延時間td1, td2が設定される。
【0050】
より詳細には、心臓は、拡張末期において、拍動が少なく最も静止状態に近いのでデータ収集に適している。本発明では後述するようにBBTIの値を変え、異なるBBTI毎にそれぞれの画像を得るが、データ収集の都度、単にBBTIを増加させるのでは、データ収集開始のタイミングを心臓の拡張末期に常に合わすことはできない。
【0051】
BBTIを増加させても、(a)データ収集開始のタイミングが心臓の拡張末期に常に合うように、且つ、(b)ラべリングされていない心筋の縦磁化成分Mzがゼロのときに(背景信号が抑制されているときに)データ収集開始となるように、ラべリングパルスと領域非選択パルスとの関係、および、遅延時間(td1, td2)を制御することが望ましい。
【0052】
上記(a)、(b)の要件を満たすため、本発明では以下の(1)式および(2)式に基づいて、背景信号の抑制と、BBTIとを独立に制御可能にする。
Td1 + ΔT + BBTI = n × RR + td2 ・・・(1)
ΔT + BBTI = TI ・・・(2)
(1)式において、RRはR波とR波の時間間隔(心臓の拍動の1周期の期間に相当)であり、nは1以上の自然数(例えば3まで)である。
図4は、n=2の場合に対応する。(2)式において、TIは、心筋の縦緩和時間により決まる物性値であり、一定の値である。
【0053】
そこで本実施形態では、ECG信号に基づいてRRを測定後、nを決め、データ収集開始のタイミングが心臓の拡張末期に合うように、遅延時間td2を決める。遅延時間Td2が決まれば、遅延時間td1は、(1)式に基づいて一義的に決定される。次に、(2)式に基づき、ラべリングされていない心筋の縦磁化成分Mzがゼロのときにデータ収集開始となるように、ΔT、BBTIをそれぞれ決定すればよい。
【0054】
ここで、血液の到達距離を長くするには、BBTIを長くする必要があるが、そのためには、ΔTの符号をマイナスにし、TIよりBBTIを長くしてもよい。すなわち、180°領域非選択IRパルスの前に、180°領域選択IRパルスを印加してもよい。
【0055】
なお、心臓の拍動の1周期の期間(RR)は、常に同じ間隔ではなく、変動する。従って、心拍の変動に応じて、パルスシーケンスを適切に変更することが望ましい。具体的には、ECG信号のデータや、データ収集対象の心拍の前の複数のRRに基づいて、データ収集対象となるRRを推定する。そして、RRの推定値に基づいて、ダイナミック、或いは、リアルタイムで遅延時間td2を制御(調整)する。この制御において、データ収集対象のRRの推定値が極端に短い場合、遅延時間td2がRRの推定値よりも短くなるように遅延時間td2を短く補正するか、或いは、データ収集を行わないことが望ましい。データ収集対象のRRよりも遅延時間td2が長い場合、収縮期の心時相でデータ収集を行う可能性があり、この心時相は心臓の動きが大きく、データ収集には適さないからである。
【0056】
さらに、データ収集前には、
図4に示すように、脂肪飽和(fat-saturation)パルスやSPIR(spectral pre-saturation with inversion recovery)パルス等の脂肪抑制パルス(FAT SUPPRESSION PULSE)が印加される。
【0057】
FBI法の場合には、データ収集は、複数の心拍に跨る。また、データ収集は非造影で行われるため、時間の制限がない。このため、イメージングシーケンスとして高分解能で3Dデータ収集を行うシーケンスを用いることができる。
【0058】
尚、TIとBBTIとは、独立に設定することができる。つまり、従来は、180°領域非選択IRパルスと180°領域選択IRパルスの間隔ΔT≒0であったが、間隔ΔTは可変である。TIまたはBBTIの代わりに間隔ΔTを設定することもできるが、ここではTIおよびBBTIを設定する場合について説明する。
【0059】
図4に示すように180°領域非選択パルスの印加後、イメージング領域における心筋やラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzが回復する。そこで、背景となる心筋の縦磁化成分Mzの絶対値と、ラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzの絶対値との双方が所定値以下であって、ゼロ付近となるタイミングにおいて、データ収集が開始されるようにTIを決定することが望ましい。そのようにすれば、ラベリングされた血液からの信号を選択的に強調する一方、背景となる心筋やラベリングされていない血液からの不要な信号を抑制することができるからである。
【0060】
しかしながら、
図4に示すように、縦磁化成分Mzの回復速度は、心筋と血液とで異なる。そこで、心筋の縦磁化成分Mzがゼロ付近となるタイミングにおいてデータ収集が開始されるようにTIを決定する。同時に、ラベリングされていない血液からの信号については、データ処理によって抑制することができる。これにより、心筋およびラベリングされていない血液からの不要な信号をより一層良好に抑制することができる。
【0061】
ラベリングされていない血液からの信号を除去する処理は、後述する血流像作成部43において行うことができる。すなわち、複素信号である磁気共鳴信号の(絶対値ではなく)実部を用いてREAL画像再構成処理を行えば、ラベリングされていない血液からの磁気共鳴信号は、負値をとるため、画像データにおいて低信号値となる。従って、画像データをデータ値に応じて輝度表示する場合、ラベリングされた高信号を呈する血液部分は高い輝度で表示される一方、ラベリングされない不要な血液部分は低い輝度で表示される。さらに、心筋からの信号値はゼロ付近であるから、ラベリングされた血液だけを選択的にwhite bloodとして白く表示させることができる。
【0062】
さらに、収集データにコサインフィルタを掛ければ、ラベリングされていない血液からの正規化された負値の信号を−1にすることができる。これにより、輝度表示される画像データにおいて、ラベリングされていない血液部分を黒くすることができる。
【0063】
また、BBTIについては、複数の心拍に跨るように設定することもできる。そのために、BBTIはTIよりも長く、つまり、ΔT < 0 として設定することもできる。180°領域選択IRパルスが印加されると、ラベリング領域内においてラベリングされた血液は、BBTIの経過後にイメージング領域内に移動し、データ収集によって収集される信号のうち、ラベリングされた血液からの信号が特に強調される。このため、BBTIを長く設定できれば、より長い距離を移動する血液を強調することができる。
【0064】
そこで、180°領域選択IRパルスを複数回印加すれば、設定可能なBBTIの上限値を大きくすることができる。すなわち、ラベリングパルスをラベリング領域に複数回印加すると、ラベリングされる血液が増えるため、設定可能なBBTIの上限が長くなる。
図4の例では、2つの180°領域選択IRパルスが印加されており、第1の180°領域選択IRパルスからΔBBTIの経過後において、第2の180°領域選択IRパルスが印加されている。
【0065】
ΔBBTIは、ラベリングされる血液が途切れず連続的に流れるようにすることが望ましい。例えば、第1の180°領域選択IRパルスによってラベリングされた血液が全てラベリング領域から流出するタイミングにおいて、第1の180°領域選択IRパルスの印加領域と同じ領域に第2の180°領域選択IRパルスを印加すれば、理論的にはBBTIの上限値を2倍にすることができる。なお、第2の180°領域選択IRパルスの印加領域は、第1の180°領域選択IRパルスの印加領域と同じにしてもよいし、異なるものとしてもよい。第2の180°領域選択IRパルスの印加領域は、例えば、第1の180°領域選択IRパルスの印加領域におけるイメージング領域側の一部のみにするなどして、ラベリングされる血液が途切れず連続的に流れるようにすることが望ましい。
【0066】
さらに、必要に応じて、RMC(real-time motion correction)法におけるモニタ用NMR信号としての単一または複数のMPP (motion probing pulse)をデータ収集前に収集することができる。RMC法は、通常ECG同期を伴ってMPPを収集し、MPPに基づいて測定される動き量を用いて呼吸による動きの影響が除去されるように、イメージングデータの収集領域や収集されたデータをリアルタイムで補正する手法である。RMC法によるイメージングデータ収集領域の補正機能は、撮像条件設定部40に設けることができる。
【0067】
MPPは、例えば横隔膜を含む領域から、イメージングデータの位相エンコード量よりも小さい位相エンコード量で、或いは、位相エンコード用傾斜磁場を印加しないで取得される。そうすると、MPPを1次元(1D: one-dimensional)フーリエ変換(FT: Fourier transform)して得られる信号から、MPPの収集時刻における体軸方向に関しての横隔膜の位置を呼吸レベルとして検出することができる。そして、呼吸レベルの基準値からの変動量を呼吸による動き量として求めることができる。さらに、呼吸による動き量に相当する移動量だけ、データ収集領域を移動させる。これにより、呼吸による動きの影響を低減させることができる。
【0068】
また、呼吸レベルが許容範囲外となった場合には、データ収集を行わないようにしたり、呼吸レベルの時間変化を可視化することもできる。さらに、後処理として呼吸による動きの影響が除去されるように呼吸による動き量に応じてイメージングデータの位相補正や画像データの位置補正を行うようにしてもよい。
【0069】
ただし、RMCを行わずに、または、RMCと併用して、息止めを行うことによりデータ収集を呼吸停止下で行うようにしてもよい。
【0070】
次に、t-SLIPシーケンスの別の例について説明する。
【0071】
一般にBBTIの値は、1200msから1400msとなる場合が多く、TIの値は600ms程度となる。このため、
図4に示すt-SLIPシーケンスの場合、BBTI > TIとなる場合が多い。そこで、ラベリング領域を励起する180°領域選択IRパルスの印加後に、イメージング領域における心筋および血液の縦磁化成分Mzを反転させる180°イメージング領域選択IRパルスを印加すれば、180°領域非選択IRパルスの印加後に180°領域選択IRパルスを印加する場合においても、不要な信号を抑制しつつ長いBBTIを設定することができる。
【0072】
図5は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるt-SLIPシーケンスの別の一例を示す図である。
【0073】
図5において横軸は経過時間tを示し、ECG, RF, G, Mzはそれぞれ、ECGトリガとしてのR波、RF信号、傾斜磁場パルス、縦磁化成分を表す。また、td1は、R波の時刻から180°領域非選択IRパルスの印加時刻までの遅延時間であり、td2は、データ収集開始の直前のR波の時刻から、データ収集開始時刻までの遅延時間である(
図4と同様)。
【0074】
図5に示すように、ラベリングされた血液がイメージング領域に流入する前のタイミングにおいて、心筋およびイメージング領域内における血液の縦磁化成分Mzがいずれも正値に回復している場合には、180°イメージング領域選択IRパルス(180° IMAGING REGION SELECTIVE IR PULSE)を印加することにより、イメージング領域における心筋および血液の縦磁化成分Mzを再び反転させることができる。この場合、再び反転して負値となった心筋の縦磁化成分Mzの回復速度は、ラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzの回復速度よりも速いため、心筋およびラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzの双方がゼロとなるタイミングが現れる。
【0075】
そこで、心筋およびラベリングされていない血液の双方の縦磁化成分Mzがゼロとなるタイミングにおいてデータ収集が開始されるように、180°イメージング領域選択IRパルスの印加時刻からデータ収集開始時刻までの時間間隔T’を決定することが望ましい。このようにすれば、心筋およびラベリングされていない血液からの信号を良好に抑制しつつ、ラベリングされた血液からの信号を高い強度で収集することができる。しかも、2RRよりも長い3RRに跨るようなBBTIを設定することができる。
【0076】
尚、ラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzが正値に回復していない場合でも、ラベリングされていない血液の縦磁化成分Mzの絶対値が無視できる程度に十分に小さければ、180°イメージング領域選択IRパルスの印加によって、支配的な心筋の縦磁化成分Mzを負値に反転させることができる。このため、BBTIが2RRより短い場合でも、心筋からの信号を抑制することができる。
【0077】
次に、血液のラベリング領域の設定方法について説明する。
【0078】
ラベリング領域は、心筋に血液を供給する冠動脈が大動脈から分岐する部分とすることができる。より具体的には、心筋に血液を供給する血管としては、右冠動脈(RCA: Right Coronary Artery)、左冠動脈主幹部(LMT: Left Main Coronary Trunk)、左回旋枝(LCX: Left Circumflex)および左前下行枝(LAD: Left Anterior descending Artery)が挙げられる。そして、心筋に血液を供給する任意の血管内の血液がラベリングの対象となる。
【0079】
図6は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第1の例を示す。
【0080】
図6に示すように、心筋(MYOCARDIUM)には、大動脈(AORTA)から分岐するLMT, RCA, LCX, LADにより血液が供給される。そこで、
図6に示すように、大動脈からLMTへの出口と、大動脈からRCAへの出口とを含むスラブをラベリング領域(LABELED REGION)に設定することができる。さらに心筋部分をイメージング領域(IMAGING REGION)に設定すると、BBTI後にLMTまたはRCAを経由して心筋に到達した血液からの信号を強調してイメージングを行うことができる。
【0081】
図7は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第2の例を示し、
図8は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第3の例を示す。
【0082】
図7に示すように、選択スラブの方向を調整したり、局所励起用にスラブを設定することにより、RCAのみを含むラベリング領域を設定することができる。
【0083】
同様に、
図8に示すように、LMTのみを含むスラブをラベリング領域に設定することができる。このように特定の血管を選択的にラベリングすることで、ラベリングされた血管から供給される血液の心筋内における範囲を特定することができる。逆に、心筋の特定の領域に血液を供給している血管を特定することもできる。また、同様にして、LCXまたはLADのみを含むスラブをラベリング領域として設定することもできる。
【0084】
図9は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第4の例を示す。
【0085】
図9に示すように、大動脈上のスラブに加えて斜線部で示す心室内のスラブをラベリング領域に設定して、血液をラベリングすることもできる。これにより、ラベリングされた血液のボーラス性を持続し、ラベリングされた血液を心筋内により長く供給させることができる。心室内のスラブは、2次元(2D: two-dimensional)局所励起、または、2D局所励起と3Dスラブ励起の組み合わせによって、選択励起することができる。
【0086】
図10は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第5の例を示し、
図11は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第6の例を示す。
【0087】
図10に示すように、右室(RIGHT VENTRICLE)、左室(LEFT VENTRICLE)および左房(LEFT ATRIUM)の3つのチャンバーが表示される断面における3チャンバーView (In and Out Flow View)画像を、スカウト画像(位置決め画像)としてラベリング領域を設定することもできる。この場合、心基部(basal)側における冠動脈の出口を含むスラブを、ラベリング領域としてより容易かつ正確に設定することができる。
【0088】
ここで、ラベリング領域の幅が狭いと、ラベリングされた血液の量も少なくなる分、ラベリングされた血液の到達距離が短くなり、イメージング領域には、十分な量のラベリングされた血液が到達しない場合がある。
【0089】
そこで、
図11に示すように、3チャンバーView画像において、イメージング部分が含まれないようにラベリング領域(の幅)を広く設定してもよい。この場合、ラベリングされる血液の量が増え、ラベリングされた血液の到達距離も長くなるため、より長いBBTIを設定することが可能となる。
【0090】
3チャンバーView画像は、公知の方法により取得することができる。具体的には例えば、ある線ROI上におけるスカウト画像の収集および収集したスカウト画像上における線ROI (region of interest)の設定を繰り返すことにより、3チャンバーView画像を取得することができる。3チャンバーView画像の収集には、2D SSFPシーケンスなどが用いられる。
【0091】
図12は、
図3に示す撮像条件設定部40において設定されるラベリング領域の第7の例を示す。
【0092】
図12に示すように、被検体および心臓のサジタル面に平行で冠動脈を含む3D-MRA画像をスカウト画像として表示させて、ラベリング領域を設定することもできる。この場合にも、冠動脈が分岐する様子が視認できるため、冠動脈の出口を含むスラブをラベリング領域としてより容易かつ正確に設定することができる。
【0093】
冠動脈の3D-MRA画像データは、息止め中に収集可能な厚さTh1の薄い画像データとすれば、より短時間で収集することができる。逆に、上述した呼吸による動きの影響を低減させる補正を伴って自然呼吸下において冠動脈の3D-MRA画像データを収集すれば、より広範囲のスカウト画像をラベリング領域の設定用に収集することができる。
【0094】
ラベリング領域は、例えば、
図12に示すように立体的に表示された3D-MRA画像上に有限の厚さTh2を有するスラブとして、または、無限の厚さを有する領域として設定することができる。或いは、ラベリング領域は、3D-MRA画像データから得られる最大値投影(MIP: maximum intensity projection)画像データ等の投影画像データ上に有限の厚さを有するスラブとして、または、無限の厚さを有する領域として設定することができる。さらに別の例としては、3D-MRA画像データから得られる、ある適切な断面における2D-MRA画像データ上にラベリング領域を設定することもできる。
【0095】
ところで、
図4は、t-SLIP法のうち、Flow-Out法によりイメージングを行う場合の例を示しているが、Flow-In法やOn-Off Alternative差分法によりイメージングを行うこともできる。
【0096】
Flow-Out法は、
図4に示すように180°領域非選択IRパルスの印加によって心筋の信号を抑制する一方、冠動脈近傍のラベリング領域において180°領域選択IRパルスによりラベリングされた血液が心筋に灌流(Perfuse)するタイミングでイメージングデータを収集する方法である。ただし、Flow-Out法では、180°領域非選択IRパルスをOffとしてもよい。
【0097】
Flow-In法は、180°領域非選択IRパルスをOffとして、180°領域選択IRパルスのみを心筋を含むイメージング領域に印加する方法である。この方法では、180°領域選択IRパルスの印加後にイメージング領域に流入する血液を、励起状態の他の部分から識別できるようにイメージングすることができる。180°領域選択IRパルスの印加後にイメージング領域に流入する血液は、180°領域選択IRパルスの影響を受けていない状態(非励起状態)だからである。
【0098】
On-Off Alternative差分法は、On画像と、Off画像との差分画像データを血流像データとして生成する方法である。On画像は、Flow-Out法と同様に、冠動脈近傍のラベリング領域において180°領域選択IRパルスによりラベリングされた血液が心筋に流入したタイミングでデータ収集した画像である。Off画像は、180°領域選択IRパルスを印加せずに、(他の撮像条件はOn画像の場合とほぼ同一にして)データ収集した画像である。On-Off Alternative差分法では、ラベリングされた血液からの信号を選択的に抽出し、抽出した血液信号から血流像データを生成することができる。
【0099】
尚、血流像データの生成に必要な全てのOn画像のデータ収集を終了後、全てのOff画像のデータ収集を行う場合よりも、On画像のデータ収集とOff画像のデータ収集とをスライスエンコード量ごとに交互に行う場合の方が望ましい。後者の方が、On画像とOff画像との間の撮像時刻の間隔が短くなるため、被検体の動きの影響(モーションアーチファクト)が小さくなるからである。
【0100】
そして、t-SLIP法におけるBBTIを変えて、複数のBBTIに対応する血流像データを収集するための撮像条件が、撮像条件設定部40において設定される。すなわち、互に異なる複数のBBTIが撮像条件設定部40において撮像条件として設定される。
【0101】
また、上述したように、データの収集のタイミングが異なるBBTI間で、同一またはより近い心時相となるように適切なR波からのパルスシーケンスの遅延時間td1, td2が撮像条件設定部40において設定される。この遅延時間td1, td2の設定については、前述した理論に基づいて撮像条件設定部40において自動的に行うことがきるが、入力装置33から撮像条件設定部40に情報を入力することにより手動で行うこともできる。
【0102】
パルスシーケンスの遅延時間td1は、
図4や
図5に示すようにR波から180°領域非選択IRパルスまでの時間としてもよいが、パルスシーケンス上の他の基準を用いて遅延時間td1を設定してもよい。さらに、R波からの遅延時間td1ではなく、他のデータ収集タイミングに影響を与える時間条件をパルスシーケンスの遅延時間として調整するようにしてもよい。例えば、R波のタイミングから180°領域選択IRパルスの印加タイミングまでの時間(
図4における td1 + ΔT )を遅延時間とすることもできる。この場合、BBTIに応じて適切な遅延時間を自動または手動で決定することができる。
【0103】
例えば、第1のBBTIが1200ms(milli-second)であり、R波の時刻から180°領域選択IRパルスの印加時刻までの遅延時間(td1 + ΔT )が400msである場合、データ収集の開始タイミングは、R波の時刻から1600ms経過したときである。従って、第2のBBTIが1400msである場合、R波の時刻から180°領域選択IRパルスの印加時刻までの遅延時間(td1 + ΔT )を200msに設定すれば、データ収集の開始タイミングを同一の心時相に設定することができる。
【0104】
上記の計算方法に倣えば、BBTIを変えた各シーケンスを通して、データ収集の開始タイミングの心時相が一致するように、各シーケンスにおける遅延時間td1等の撮像条件を自動計算できる。この自動計算は、BBTIの値が基準として選択されたシーケンスにおけるBBTIやTI等の時間パラメータの値と、ΔTなどの時間パラメータのどれを優先的に用いて他のシーケンス(BBTIの値が基準以外であるシーケンス)の撮像条件を決定するかの優先条件とに応じて、行えばよい。これにより、BBTIの値が基準として選択されたシーケンスにおける各時間パラメータの値と、上記の優先条件とを設定するのみで、他のBBTIに対応するシーケンスの各時間パラメータの値を自動設定することができる。このような自動設定に従えば、ユーザが設定すべき撮像条件が少なくて済むので、操作性の向上に繋がる。
【0105】
BBTIは、Flow-Out法およびOn-Off Alternative差分法では、ラベリングされた血液の移動時間に相当する。また、Flow-In法では、励起されていない血液の移動時間に相当する。つまり、BBTIは、イメージング領域に流入する血液の移動時間に対応している。従って、BBTIを変えてイメージングを行えば、血液の到達位置の異なる複数の血流像を収集することができる。具体例としては、BBTIは、600ms, 800ms, 1000ms, 1200msに設定される。
【0106】
ここで、TIおよびBBTIの設定方法について説明する。
【0107】
TIおよびBBTIを設定する機能は、撮像パラメータ決定部40Bに備えられる。TIおよびBBTIは、それぞれ個別に設定可能であり、それぞれプレスキャンにより決定することができる。なお、ここでの「プレスキャン」や、後述の「prepスキャン」は、スライス選択パルスなどのデータ収集に必要なパルスの印加から、画像再構成処理によって画像データを生成するまでの動作の意味で用いる。
【0108】
プレスキャン条件設定部40Aには、TIを決定するためのプレスキャンであるTI-prepスキャン用の撮像条件を設定する機能と、BBTIを決定するためのプレスキャンであるBBTI-prepスキャン用の撮像条件を設定する機能とが設けられる。
【0109】
図13は、
図3に示す撮像条件設定部40において、撮像条件として設定されるTIおよびBBTIの決定方法を説明する図である。
【0110】
図13において、横軸は経過時間tを示す。
図13(A)に示すように、異なるn個のTI (TI1, TI2, TI3, …, TIn)でデータ収集を複数回行うTI-prepスキャンの撮像条件が設定される。TI-prepスキャンのデータ収集シーケンスは、イメージングシーケンスとして用いることが可能なFASEシーケンス等の任意のシーケンスとすることができる。ただし、TI-prepスキャンのデータ収集シーケンスは、イメージングシーケンスと同じシーケンスとすることが望ましい。また、データ収集時間を短縮化するため、TI-prepスキャンのデータ収集シーケンスは、2Dシーケンスとすることが望ましい。
【0111】
そして、TI-prepスキャンを実行して血流断面像を生成すると、
図13(B)に示すように、異なるTIに対応する血流断面像I(TI1), I(TI2), I(TI3), …, I(TIn)が得られる。そこで、複数の血流断面像I(TI1), I(TI2), I(TI3), …, I(TIn)から最もコントラストが良好な血流断面像I(TIopt)を選択すると、適切なTIoptを決定することができる。すなわち入力装置33から血流断面像の選択情報としてTI値の決定情報を撮像パラメータ決定部40Bに入力することができる。
【0112】
ただし、閾値処理等のデータ処理によってコントラストが良好な血流断面像を自動的に選択する機能を撮像パラメータ決定部40Bに設けてもよい。
【0113】
同様に、
図13(C)に示すように異なるm個のBBTI (BBTI1, BBTI2, BBTI3, …, BBTIm)で複数回データ収集を行うBBTI-prepスキャンの撮像条件が設定される。BBTI-prepスキャンのデータ収集シーケンスも、イメージングシーケンスとして用いることが可能なFASEシーケンス等の任意のシーケンスとすることができる。ただし、BBTI-prepスキャンのデータ収集シーケンスは、イメージングシーケンスと同じシーケンスとすることが望ましい。また、データ収集時間を短縮化するため、BBTI-prepスキャンのデータ収集シーケンスは、2Dシーケンスとすることが望ましい。
【0114】
そして、BBTI-prepスキャンを実行して血流断面像を生成すると、
図13(D)に示すように異なるBBTIに対応する血流断面像I(BBTI1), I(BBTI2), I(BBTI3), …, I(BBTIm)が得られる。そこで、複数の血流断面像I(BBTI1), I(BBTI2), I(BBTI3), …, I(BBTIm)の中から、イメージング領域に流入する血液の移動距離が適切な距離となる範囲の複数の血流断面像I(BBTIst), …, I(BBTIend)を選択する。この選択により、適切な範囲のBBTIst, …, BBTIendを決定することができる。すなわち、血流断面像の選択情報としての複数のBBTI値またはBBTI値の初期値、終値および変更幅の決定情報を、入力装置33から撮像パラメータ決定部40Bに入力することができる。
【0115】
具体例としては、100msから2000msの範囲を100msの刻み幅で変えた複数のBBTI値で2次元のイメージングを実行し、600msから1200msの範囲を200msの刻み幅で変えた複数のBBTI値をイメージング用に決定することができる。このように、イメージングにおけるBBTI値の変更幅は、BBTI-prepスキャンにおけるBBTI値の変更幅から変更してもよい。
【0116】
BBTI-prepスキャンの撮像断面は、BBTI-prep画像によりBBTIに応じてラベリングされた血液が到達する長軸方向の心筋断面位置を容易に視認できるように、心臓の任意の長軸面、または、長軸を中心として回転させた複数の長軸面とすることが好適である。すなわち、適切なBBTIおよびその変更範囲を決定する観点から言えば、BBTI-prep画像は、ラベリング領域を設定するためのスカウト画像と同一、または、このスカウト画像に平行な断面の2D画像とすることが好適である。
【0117】
そして、
図13(E)に示すように適切なTI(TIopt)および複数のBBTI (BBTIst, …, BBTIend)を撮像条件として、3Dイメージングを実行することが可能となる。
【0118】
適切なTI値および複数のBBTI値は、被検体の年齢、性別、体重、身長、病変部位の進行度、撮像部位等の条件によって異なる。そこで、経験的に、これらの条件ごとに適切なTI値および/または適切な複数のBBTI値を求めておき、データベース化することもできる。すなわち、撮像パラメータ保存部40Cに、被検体の条件ごとの適切なTI値および/または適切な複数のBBTI値を示すテーブルデータを保存することができる。
【0119】
この場合、入力装置33の操作によって被検体の条件を示す情報を撮像パラメータ決定部40Bに入力すると、撮像パラメータ決定部40Bは、撮像パラメータ保存部40C内のテーブルデータを参照し、入力された条件に対応する適切なTI値および/または適切な複数のBBTI値を取得することができる。このようにすれば、TI-prepスキャンおよび/またはBBTI-prepスキャンを行わなくても、被検体の条件に応じた適切なTI値および/または適切な複数のBBTI値を決定することができる。
【0120】
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
【0121】
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からの撮像開始指示情報に基づいて撮像条件設定部40からパルスシーケンスを含む撮像条件を取得し、この撮像条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより、シーケンスコントローラ31を駆動制御する機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けて、k空間データベース42に形成されたk-spaceに配置する機能を有する。
【0122】
血流像作成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで、FTを含む画像再構成処理および必要な画像処理を行うことにより、異なるBBTIに対応する複数の血流像データを生成する機能を有する。また、血流像作成部43は、生成した血流像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。
【0123】
例えば、On-Off Alternative差分法によるイメージングの場合には、180°領域選択IRパルスによりラベリングを行って得られるOn画像データと、ラベリングを行わずに得られるOff画像データとの差分処理が血流像作成部43において行われる。
【0124】
さらに、RMC等の呼吸による動き補正を行う場合には、呼吸による動きの影響が除去されるように、呼吸による動き量に対応するシフト量でのk空間データの位相補正や血流像データの位置補正が血流像作成部43において行われる。呼吸による動き量は、例えば呼吸レベル検出用に収集されたMPP等のk空間データをフーリエ変換して得られる実空間データの基準値からの変動量として求めることができる。
【0125】
さらに、血流像作成部43は、k空間データの画像再構成処理によって得られる画像データから、組織からの信号成分を除去し、これにより血流信号成分のみを血流像データとして抽出する補正処理を行う機能を有する。
【0126】
図14は、血流像作成部43において、画像データから血液以外の信号成分を除去して血流像データを生成する処理を説明する図である。
【0127】
図14(A), (B)において、横軸はBBTIの長さ(second)を示し、縦軸は画像データの信号強度Sを示す。
図14(A)に示すように、BBTIごとの画像データの信号値(SIGNAL INTENSITY OF IMAGE DATA)を丸でプロットすると、組織やラベリングされない血液における縦磁化成分Mzが回復するため、BBTIが大きくなるにつれて画像データの信号強度Sも大きくなる。すなわち、BBTIが大きくなるほど、背景からの信号成分が多く重畳し、血液信号のベースラインが変化する。従って、より正確に血流像データの信号強度を求めるためには、画像データから、四角のプロットで示す背景の成分(SIGNAL INTENSITY OF BACKGROUND COMPONENT)を除去することで、ラベリングされた血液からの信号成分(BLOOD SIGNAL COMPONENT)を抽出するベースライン補正を行うことが望ましい。
【0128】
そこで、血流像作成部43には、画像データにベースライン補正を施して、
図14(B)に示すような血流像データを生成する機能が備えられる。ベースライン補正は、画像データからラベリングされた血液以外の背景成分を差し引くことにより、行うことができる。尚、画像データの代わりに、画像再構成前のk空間データに対してベースライン補正を行ってもよい。背景成分の信号値は、イメージングまたは縦磁化成分MzのT1回復曲線のシミュレーションによって求めることができる。
【0129】
背景成分の信号値を求めるためのイメージングとしては、例えば、背景部分の縦磁化成分Mzを反転させる180°領域非選択IRパルスを印加する一方で、血液のラベリング用の180°領域選択IRパルスを印加しない方法が挙げられる。或いは、データ収集タイミングにおいて、ラベリングされた血液がイメージング領域に流入しないような領域をラベリング領域とするイメージングによっても、背景成分の信号値を取得することができる。また、ベースライン補正が必要なイメージング領域の一部のみについて、背景成分の信号値をイメージングによって取得すれば、撮像時間の短縮およびデータ処理量の低減に繋がる。
【0130】
血流情報作成部45は、異なるBBTIに対応する複数の血流像データを画像データベース44から読み込んで、複数の血流像データに基づく心機能解析を行い、心機能解析結果として所望の表現方法で心筋における心機能を表す血流情報を作成し、この血流情報を表示装置34に表示させる機能を有する。
【0131】
血流情報の表示例としては、異なるBBTIに対応する複数の血流像を並列表示させる例が挙げられる。そうすると、BBTIはイメージング領域への血液の供給時間に相当するため、大きいBBTIに対応する血流像ほど、イメージング領域内に流入する強調された血液がより長い距離を移動した画像となる。つまり、各々のBBTIに対応して、血液の移動距離が異なる複数の血流像を表示させることができる。
【0132】
さらに、BBTIの値の順に血流像を連続的に切換表示させるシネ画像データのように、時間軸を有する血流像データを血流情報として作成することもできる。この場合、心筋内を血流が徐々に流れるように血流像を表示させることができる。
【0133】
また、任意の心筋断面位置におけるBBTIごとの血流像データのプロファイルを血流情報として作成することもできる。
【0134】
図15は、
図3に示す血流情報作成部45において作成される血流像データのプロファイルの一例を示す。
図15(A)は、心筋の短軸断面画像を示し、
図15(B)は、
図15(A)に示す心筋の短軸断面画像上に設定した線ROI (region of interest)上における血流像データのプロファイルを示す。すなわち、
図15(B)の横軸は心筋短軸断面位置を示し、縦軸は血流像データの信号強度を示す。
【0135】
図15(A)に示すように、心筋(MYOCARDIUM)は、内膜(ENDOMEMBRANE)と、外膜(EPIMYOCARDIUM)とで覆われ、心筋内には左室(LEFT VENTRICLE)が形成されている。また、左室には右室(RIGHT VENTRICLE)が隣接している。このような心筋断面において短軸方向のプロファイルを作成すると、
図15(B)に示すようなデータが得られる。心筋内の血流量は、左室内および右室内に比べて少ないため、
図15(B)に示すように、心筋内における血液信号の強度は、相対的に小さくなる。
図15(B)に示すようなプロファイルは、BBTIごとに作成することができる。
【0136】
図16は、
図3に示す血流情報作成部45において、異なる複数のBBTIに対応する血流像データのプロファイルを作成した例を示す。
図16において各縦軸は、血液信号の強度を示し、各横軸は心筋の短軸方向位置を示す。
【0137】
例えば
図16(A), (B), (C), (D)に示すように、BBTIを600ms, 800ms, 1000ms, 1200msのように変えた場合の各々の血流像データのプロファイルを作成することができる。そして、所望の心筋断面について、複数のBBTIに対応する血流像データの各プロファイルを並列表示させ、それらのプロファイル同士を比較可能にすることができる。
【0138】
イメージング領域に流入した血液は、心筋の外膜から心筋内に入り、内膜から左室内に流れる。従って、
図16(A), (B), (C), (D)に示すように、BBTIの増加に伴って外膜付近における信号強度が徐々に増加した後、内膜側への血液の移動によって内膜付近における信号強度が増加する。このように、BBTIの変化によって血液が心筋内を移動する様子を、心筋内における血液信号の強度の時間変化として観察することができる。また、血液信号の分布を把握することもできる。
【0139】
この血流像データのプロファイルは、所望の心筋断面ではなく、3次元的に作成して表示させることもできる。すなわち、心筋断面上において交差する2つの軸方向の各値(例えばx座標およびy座標)と、信号値Sの3つのパラメータをもつプロファイルを、斜視図としてドーナツ状に表示させることができる。これにより、信号強度が相対的に低い部位を容易に把握できる。
【0140】
また、血流像データの符号反転処理を行って、低信号ほどハイライト表示させることもできる。そうすると、梗塞部位等の低信号部分が局所的であっても、容易に発見できる。さらに、プロファイルを3次元的に表示した場合には、低信号部位をピークとして観測できる。
【0141】
また、血流像作成部43において、上述したベースライン補正を行わない場合には、プロファイルに背景信号成分が重畳していることになる。そこで、プロファイルのうち、背景信号の成分と、ラベリングされた流入血液の信号成分とを識別できるように、異なる色や表示方法で表示させることもできる。
【0142】
さらに、血流情報として、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差を求め、信号差に基づいて心筋内の虚血部位や梗塞部位等の病変部位を特定することもできる。
【0143】
図17は、
図3に示す血流情報作成部45において、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差に基づいて特定した心筋の病変部位を識別表示させた例を示す。
図17は、ある心筋の短軸断面を複数セグメントに分割し、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差(信号強度差)をセグメントごとに表示させた血流情報画像である。すなわち、血流像データは非造影で収集されるため、
図17に示すように、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差を高分解能で輝度表示させることができる。信号差については、値に応じた有彩色を用いてセグメントごとにカラー表示することもできる。
【0144】
この場合、3次元血流像データのピクセルごとに、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差を計算することもできる。これにより、より高精度な血流情報を得ることができる。ピクセルごとに差分値を求める場合には、セグメント内における平均値等の代表値を表示させればよい。
【0145】
尚、異なる複数の心筋断面のデータを同心状の1枚の画像として表示するブルズアイ表示として、血流像データ間の信号差を表示させてもよい。また、血流像データの信号値自体をセグメントごとに表示することもできる。
【0146】
例えば、180°領域選択IRパルスを印加せずに、つまりBBTI=0として収集した血流像データを基準データとして、各BBTI値に対応する血流像データとの信号強度の差分を求めることができる。そうすると、各時刻における血液の移動量に応じた信号差分値を得ることができる。
【0147】
正常部位では、血液の供給量が十分であるため、血液信号の変化を示す信号差分値は、一定の値以上となる。しかし、血液が供給されない梗塞(infarction)の部位では、血液信号が変化しないため、信号差分値はゼロとなる。また、血液の供給量が少ない虚血(ischemia)の部位では、血液信号の変化が小さいため、信号差分値は小さくなる。
【0148】
従って、各位置において信号差分値がゼロとみなせる値であるか否かを判定し、信号差分値がゼロとみなせる領域を特定することにより、梗塞部分の範囲を検出することができる。また、各位置において信号差分値が虚血部位に対応する閾値以下であるか否かを判定し、信号差分値が閾値以下となる領域を特定することにより、虚血部分の範囲を検出することができる。検出された梗塞部位や虚血部位等の病変部位は、
図17に示すcolor 1, color 2の部分のように、異なるパターンなどを用いて識別表示させることができる。
図17は便宜上グレースケールの図として描画しているが、
図17に示すcolor 1, color 2の部分に対しては、病変部位として、それぞれ異なる有彩色を割り当てて識別表示してもよい。
【0149】
図18は、
図17に示す虚血部位を横切る線ROI-Aにおける信号差を示し、
図19は、
図17に示す梗塞部位を横切る線ROI-Bにおける信号差を示す。
【0150】
図18および
図19において、各縦軸は、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差分値ΔSを示し、各横軸は、線ROI上の位置を示す。
図18に示すように、虚血部位を横切る線ROI-A上の信号差分値のプロファイルでは、虚血部位における信号差分値ΔSが小さくなる。また、
図19に示すように、梗塞部位を横切る線ROI-B上の信号差分値のプロファイルでは、梗塞部位における信号差分値ΔSがゼロとなる。そして、このような信号差分値ΔSのカーブも、血流情報として表示させることができる。
【0151】
図20は、
図3に示す血流情報作成部45において、心筋断面上の複数の線ROI上における異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差分値ΔSを選択表示できるようにした例を示す。
【0152】
図20は、ある心筋の短軸断面を複数セグメントに分割し、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差をセグメントごとに表示させた血流情報画像である。
図20に示すように複数の線ROI (ROI-1, ROI-2, ROI-3, …)を血流情報画像上に選択可能に設定することができる。そして、マウス等の入力装置33の操作によって任意の線ROIを選択すると、選択された線ROI上における信号差分値ΔSのカーブを
図18や
図19に示すように表示させることができる。
【0153】
尚、ブルズアイ表示として複数の線ROIを表示させてもよい。また、血流像データの信号値自体をセグメントごとに表示させ、複数の線ROIから所望の線ROIを選択すると、選択された線ROI上における信号値のプロファイルが表示されるようにすることもできる。さらに、信号差分値ΔSのプロファイルについても、信号強度のプロファイルと同様に3次元的な表示、符号反転表示および背景信号成分の識別表示が可能である。
【0154】
さらに、異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差を求める場合には、差分の対象となる血流データ間において心筋断面の位置が対応していることが重要となる。そこで、上述したように、差分の対象となる血流像データ間においてデータ収集タイミングの心時相を一致させつつ、各血流像データ上における心筋断面の位置が互に一致するように、血流像データの位置補正を行うことが望ましい。その方が、より高精度で血流情報を得ることができるからである。血流像データの位置補正は、血流情報作成部45において行うことができる。
【0155】
図21は、
図3に示す血流情報作成部45において、血流像データ間の位置補正を行う場合における基準位置を示す。
【0156】
図21に示すように、心筋は内膜と外膜とで覆われ、心筋内には左室が形成されている。また、左室には右室が隣接している。このような心筋の短軸断面画像上において、右室と左室の境界部分に単一または複数の基準位置(REFERENCE POSITION 1, 2)を設定し、異なるBBTIに対応する血流像データ間における基準位置がより一致するように、各血流像データの平行移動や回転移動等の位置補正を行えば、より正確に信号差分値等の血流情報を得ることができる。尚、
図21に示すように2箇所の基準位置を設ければ、容易に位置補正を行うことができるが、基準位置を1箇所にしてもよい。
【0157】
(動作および作用)
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0158】
図22は、
図2に示す磁気共鳴イメージング装置20による非造影MRAイメージングにおいて、被検体Pの心筋断面の血流情報を取得して表示させる動作の流れを示すフローチャートである。ここでは一例として、t-SLIP法およびFlow-Out法によりイメージングを行う場合について説明する。
【0159】
まず予め、寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて、撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0160】
次に、ステップS1において、t-SLIPパルスのTIおよび互に異なる複数のBBTIが撮像パラメータ決定部40Bにおいて決定される。TIおよびBBTIは、プレスキャンの実行または撮像パラメータ保存部40Cに保存されているデータベースの検索によって決定することができる。
【0161】
プレスキャンによりTIおよび/またはBBTIを決定する場合には、
図13に示すような流れでプレスキャン用の撮像条件が撮像条件設定部40において設定される。そして、設定されたプレスキャン用の撮像条件に従って、ECG同期下においてプレスキャンが実行される。さらに、プレスキャンによって収集された血流像に基づいて、TIおよび/またはBBTIが決定される。また、データベースの検索によってTIおよび/またはBBTIを決定する場合には、撮像パラメータ決定部40Bは、入力装置33を介して入力された条件に対応するTIおよび/またはBBTIを撮像パラメータ保存部40Cから取得する。
【0162】
次に、ステップS2において、決定したTIおよび異なる複数のBBTIを用いたt-SLIPシーケンス(
図4または
図5参照)が、イメージング用の撮像条件として撮像条件設定部40において設定される。そして、設定された撮像条件に従ってECGユニット38からのECG信号に同期して非造影でイメージングが実行される。
【0163】
具体的には、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41に撮像開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は、撮像条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に入力する。シーケンスコントローラ31は、この入力されたパルスシーケンス従って、ECGユニット38からのECG信号に同期して傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより、被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させると共に、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0164】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0165】
尚、必要に応じてRMCが実行され、MPPに基づいて取得される呼吸による動き量に応じて、データ収集領域が補正される。
【0166】
次に、ステップS3において、血流像作成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで、これに画像再構成処理を施すことにより、異なるBBTIに対応する複数の画像データを生成する。また、RMCを行う場合には、必要に応じてMPPに基づいて取得される呼吸による動き量に応じて、k空間データの位相または画像データの位置が補正される。
【0167】
次に、ステップS4において、血流像作成部43は、画像データに差分処理等の必要な画像処理を行うことにより、異なるBBTIに対応する複数の血流像データを生成する。生成された血流像データは、画像データベース44に保存される。さらに、必要に応じて、背景部分のT1回復(縦緩和)による信号成分を除去するベースライン補正が、血流像作成部43によって画像データに対して施される。ただし、画像再構成処理前のk空間データに対してベースライン補正を行ってもよい。
【0168】
次に、ステップS5において、血流情報作成部45は、異なるBBTIに対応する複数の血流像データに基づいて、心筋断面についての血流情報を作成し、作成した血流情報を表示装置34に表示させる。例えば、異なるBBTIに対応する複数の血流像、
図16に示すような心筋断面における信号強度のプロファイル、
図17に示すような異なるBBTIに対応する血流像データ間の信号差分値を示す心筋断面におけるセグメント画像、
図18および
図19に示すような信号差分値のカーブ、が血流情報として表示装置34に表示される。また、必要に応じて、
図21に示すような右室と左室の境界に設定された基準位置を用いて、血流像データの位置補正が実施される。
【0169】
このため、ユーザは、心筋内の虚血部位や梗塞部位等の病変部位を容易に発見し、病変部位の範囲を把握することができる。
【0170】
以上の構成の磁気共鳴イメージング装置20は、虚血部位や梗塞部位の心臓検査において、心筋部分における血流情報を非造影で取得できる。具体的には、磁気共鳴イメージング装置20は、心筋部分に設定されたイメージング領域に流入する血液からの信号が識別できるように領域選択励起を行い、領域選択励起からデータ収集までの時間を変えることによって、血液の流入距離が異なる複数の血流像を生成する。
【0171】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20は、血液の移動距離が異なる複数の血流像データから、心筋断面における血液信号の強度のプロファイルや血液信号の差分値等の血流情報を求め、この血流情報を表示させる。これにより、虚血部位や梗塞部位を特定することができる。
【0172】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、ガドリニウム造影剤を使用する必要がないことに加え、データ収集時間に制限がないため高分解能での撮像が可能である。具体的には、磁気共鳴イメージング装置20では3D撮像を行うため、シンチグラフィや従来のMRIによるPerfusion検査と比較して、数倍の面内分解能が得られる。このため、血液信号のプロファイルの分解能が向上し、心筋の虚血部分や梗塞部位をより高分解能で描出することができる。
【0173】
また、t-SLIP法等のラベリングにより血液の自然な流れを描出することが可能である。このため、任意の時刻における血流像および血液信号のマップを得ることができる。さらに、血流像上における血液の移動の有無や血液信号の時間変化量に基づいて、虚血部位や梗塞部位等の病変部位を検出することができる。この場合、病変部位の範囲をカラー(有彩色)を用いて識別表示できる。
【0174】
さらに、薬剤負荷や運動負荷等のストレス付加が不要となる。ガドリニウム造影剤も使用しないため安全性が高い。
【0175】
また、例えばt-SLIP法のBBTIを300ms, 500ms, 800ms, 1000msなどに設定することにより、微小血管分布像(Micro-vascularity)を得ることができる。そして、血液信号のプロファイルを表示させたり、血液信号差をブルズアイ表示させることにより、微小血管分布を観察することができる。
【0176】
また、磁気共鳴イメージング装置20によれば、非造影で心筋の虚血検査を行うことができるため、磁気共鳴イメージング装置20を人間ドックのスクリーニング検査等に活用することができる。
【0177】
(変形例)
1.第1の変形例
上述した実施形態では、イメージング領域に流入する血液からの信号を識別するための領域選択励起パルスとして、180°領域選択IRパルスを印加する例を示した。本発明の実施形態は、かかる形態に限定されるものではない。領域選択励起パルスとしては、90°飽和(サチュレーション:saturation)パルスを印加してもよい。
【0178】
領域選択励起パルスとして90°飽和パルスを印加する場合には、90°飽和パルスの印加タイミングからデータ収集開始タイミングまでの時間間隔は、領域選択励起パルスとして180°領域選択IRパルスを印加する場合(
図4、
図5参照)とは異なる値に設定される。例えば、心筋全体をイメージング領域として、データ収集開始タイミングからの間隔を変えて90°飽和パルスをイメージング領域と同一の領域に印加すれば、イメージング領域外からイメージング領域内に流入する非飽和状態の血液からの信号を選択的に強調してイメージングすることができる。
【0179】
また、例えば、180°領域非選択IRパルスを印加せずに、ノッチドパルス(Notced Pulse)を用いて、心臓の大動脈のみを外した領域(例えば
図6または
図9におけるLABELED REGION 以外の領域)に90°飽和パルスを印加後、データ収集を行ってもよい。この場合、ノッチドパルスの印加領域において血液の縦磁化成分Mzがゼロになるので、背景の信号レベルを抑制できる。同時に、ノッチドパルスを受けない大動脈の血液は、縦磁化成分Mzが静磁場方向と同じ1であるため、高い信号レベルでイメージング領域に流入するので、適切なタイミングでデータ収集を行うことにより、識別することができる。
【0180】
2.第2の変形例
上述した実施形態では、被検体に運動負荷および薬剤負荷のいずれもかけないでイメージングを行う例を示した。本発明の実施形態は、かかる形態に限定されるものではない。運動負荷および薬剤負荷の一方または双方を被検体にかけた上で、イメージングを行ってもよい。さらに、運動負荷および薬剤負荷の一方または双方を被検体にかけたイメージングと、かけないイメージングとをそれぞれ実行し、得られた各血流像を比較できるように、これら血流像を並列表示させることもできる。また、負荷を被検体にかけて収集された血流像データと、負荷を被検体にかけずに収集された血流像データとの差分処理によって、診断用の血流像データを生成して表示させることもできる。そして、このような比較表示や差分表示により、診断を良好に行うことが可能となる。
【0181】
3.他の変形例
図4および
図5において説明したように、ECG信号の(R波)を同期信号としてパルスシーケンスを設定する例について説明した。本発明の実施形態は、かかる形態に限定されるものではない。前述した脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号、或いは、心音同期信号を取得し、それに基づいてパルスシーケンスを設定してもよい。
【0182】
上述した実施形態では、心臓にイメージング領域を設定した例について説明したが、頭部、腎臓、肝臓等の心臓以外の臓器にイメージング領域を設定して血流像を収集することもできる。