特許第5855364号(P5855364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社朝日工業社の特許一覧

<>
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000002
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000003
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000004
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000005
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000006
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000007
  • 特許5855364-室内の局所換気システム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855364
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】室内の局所換気システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/007 20060101AFI20160120BHJP
【FI】
   F24F7/007 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-133248(P2011-133248)
(22)【出願日】2011年6月15日
(65)【公開番号】特開2013-2696(P2013-2696A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150567
【氏名又は名称】株式会社朝日工業社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 栄造
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−180479(JP,A)
【文献】 特開平10−205496(JP,A)
【文献】 特開2008−051377(JP,A)
【文献】 特開昭60−169022(JP,A)
【文献】 実開平06−073627(JP,U)
【文献】 特開平08−200758(JP,A)
【文献】 特開平06−185780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内で発生する汚染源を、排気ファン又は空気浄化装置に誘引する局所換気システムにおいて、室内の上部又は室の上部に、汚染源が発生するエリアから上記排気ファン又は空気浄化装置にかけて圧力チャンバーを配置し、その圧力チャンバーに、それぞれ空気供給管を介して円筒状吹出ノズルを複数懸吊し、その円筒状吹出ノズルが、外側ケーシングと内側ケーシングとで内部通路が形成されると共に内側ケーシングの内周に軸方向に空気を吹き出すスリットノズルが形成されて構成され、これら円筒状吹出ノズルを、汚染源が発生するエリアの上部から上記排気ファン又は空気浄化装置にかけて直列に間隔をおいて配置して誘引空気流路を形成し、上記スリットノズルからの吹出風速を5〜15m/secの範囲にすると共に上記円筒状吹出ノズルの配置間隔を600mmとして、上記誘引空気流路内の風速が0.5m/sec以上となるようにしたことを特徴とする室内の局所換気システム。
【請求項2】
上記圧力チャンバーには、外気又は温調空気が導入される請求項1記載の室内の局所換気システム。
【請求項3】
上記空気供給管は、長さ調整自在に形成される請求項1記載の室内の局所換気システム。
【請求項4】
円筒状吹出ノズルは、上記空気供給管に回転自在にかつ揺動自在に設けられる請求項1〜3いずれかに記載の室内の局所換気システム。
【請求項5】
上記誘引空気流路の上流側の円筒状吹出ノズルの内径が下流側に対して大きく形成される請求項1〜4いずれかに記載の室内の局所換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や病院などの室内で発生する汚染源を局所的に換気できる室内の局所換気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種製品の製造工場や製薬工場、病院、学校、事務所、レストラン、喫煙室など、室内の作業環境で発生した臭気やVOC(揮発性有機化合物)を除去する際には、換気・循環型ガス除去装置で、室内空気を循環しながら吸着剤でVOCを除去するようにしている(特許文献1)。しかし、吸込口から汚染源やその滞留域が遠く離れていると、期待する除去効果が得られない。
【0003】
この対策としては、汚染源近傍にフードを設置し、そのフードで汚染源を捕集し、ダクトを介して吸込口に導くようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−7871号公報
【特許文献2】特開2010−203447号公報
【特許文献3】特開昭56−167897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フードを用いた局所換気は、(1)オイルミスト・水蒸気・粉じん、金属腐食性物質などが汚染ガスに含まれていると、ダクトの清掃・交換が頻繁になる、(2)フード・ダクトが隠蔽施工できない、かつ内部露出施工では作業環境・光環境・景観が悪化する場合は適応できない、などの問題がある。
【0006】
また、撹拌ファンで汚染源の滞留域を拡散消滅させて排気口に導くことがあるが、汚染源を室内に拡散させることとなり、好ましくなく、さらに低濃度大風量の汚染ガス処理では搬送エネルギーが増加し、ガス除去装置も大きくなり効率も低下する。
【0007】
一方、特許文献2,3に示されるように、空気を円筒状吹出ノズルから噴射することで周囲空気を誘引しながら送風する送風機が知られている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、円筒状吹出ノズルを用いて局所排気できる室内の局所換気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、室内で発生する汚染源を、排気ファン又は空気浄化装置に誘引する局所換気システムにおいて、室内の上部又は室の上部に、汚染源が発生するエリアから上記排気ファン又は空気浄化装置にかけて圧力チャンバーを配置し、その圧力チャンバーに、それぞれ空気供給管を介して円筒状吹出ノズルを複数懸吊し、その円筒状吹出ノズルが、外側ケーシングと内側ケーシングとで内部通路が形成されると共に内側ケーシングの内周に軸方向に空気を吹き出すスリットノズルが形成されて構成され、これら円筒状吹出ノズルを、汚染源が発生するエリアの上部から上記排気ファン又は空気浄化装置にかけて直列に間隔をおいて配置して誘引空気流路を形成し、上記スリットノズルからの吹出風速を5〜15m/secの範囲にすると共に上記円筒状吹出ノズルの配置間隔を600mmとして、上記誘引空気流路内の風速が0.5m/sec以上となるようにしたことを特徴とする室内の局所換気システムである。
【0010】
請求項2の発明は、上記圧力チャンバーには、外気又は温調空気が導入される請求項1記載の室内の局所換気システムである。
【0011】
請求項3の発明は、上記空気供給管は、長さ調整自在に形成される請求項1記載の室内の局所換気システムである。
【0012】
請求項4の発明は、円筒状吹出ノズルは、上記空気供給管に回転自在にかつ揺動自在に設けられる請求項1〜3いずれかに記載の室内の局所換気システムである。
【0013】
請求項5の発明は、上記誘引空気流路の上流側の円筒状吹出ノズルの内径が下流側に対して大きく形成される請求項1〜4いずれかに記載の室内の局所換気システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、円筒状吹出ノズルで形成した誘引空気流路(誘引トンネル)を通して室内の特定エリアで発生する汚染源を局所的に換気できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態を示す正面図である。
図2】本発明において、円筒状吹出ノズルで形成される誘引トンネルの排風量の実験結果を説明する図である。
図3】本発明の第2の実施の形態を示す正面図である。
図4】本発明の第3の実施の形態を示す平面図である。
図5】本発明の第4の実施の形態を示す平面図である。
図6】本発明の第5の実施の形態を示す正面図である。
図7】本発明の第6の実施の形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示し、病理学的検査を行う病院施設や解剖実験を行う大学・研究施設の室内10で発生する汚染源としてのホルムアルデヒド対策(防腐剤として使用するホルマリンから発生するホルムアルデヒド対策)の局所換気システムの例を示したものである。
【0018】
室内10には、解剖台11が設けられ、この解剖台11上のエリア11Aで、病理学的検査や解剖実験で使用されるホルンマリンからホルムアルデヒドが汚染源として図示の矢印12のように発生する。この室内10の壁10wには排気ファン13が設けられている。
【0019】
室内10の天井裏(或いは室内10の天井)には、エリア11Aから排気ファン13にかけてダクト等で形成された圧力チャンバー14が設けられる。圧力チャンバー14は、排気ファン13側の端部が閉じられ、他方には、温調空気又は外気を供給する給気ファン15が接続される。
【0020】
圧力チャンバー14には、空気供給管16を介して円筒状吹出ノズル17が、その圧力チャンバー14に沿って複数懸吊される。
【0021】
円筒状吹出ノズル17は、特許文献2,3に示されたものと同様、すなわち図2に示したように、外側ケーシング17oと内側ケーシング17iとで、断面円形、断面長円形、断面流線形の内部通路が形成され、内側ケーシング17iの内周に軸方向に空気を吹き出すスリットノズル18が形成されてなる。円筒状吹出ノズル17の内側ケーシング17iの内径は200〜600mmに形成される。
【0022】
空気供給管16は、円筒状吹出ノズル17の外側ケーシング17oに接続され、圧力チャンバー14内の空気を円筒状吹出ノズル17に供給し、スリットノズル18から吹き出せるようになっている。
【0023】
この空気供給管16は、内管16iと外管16oの二重管で伸縮自在に形成され、その外管16oの端部に締付具19が設けられ、任意の伸縮長さで締付具19で内管16iを締め付けることで、空気供給管16の長さを調整できるようになっている。また、空気供給管16の下部には、蛇腹などからなる角度調整部材20が設けられ、さらに空気供給管16の下端部16bに対して円筒状吹出ノズル17が回転自在に設けられる。
【0024】
円筒状吹出ノズル17は、解剖台11上のエリア11Aの前後に、さらにそのエリア11Aから排気ファン13に至るまで、直列に間隔を置いて圧力チャンバー14に空気供給管16を介して懸吊されて、図示の一点鎖線で示したように誘引空気流路21(以下誘引トンネル21という)が形成される。この場合、室内10の天井近くに配置される円筒状吹出ノズル17の空気供給管16は、排気ファン13との高さと同じになるため、長さを調節する必要はなく、空気供給管16は内管のみで形成するようにしてもよい。
【0025】
次に本実施の形態の作用を説明する。
【0026】
解剖台11上で発生したホルムアルデヒドの汚染源は、図示の矢印12のように蒸発して室内10に拡散しようとするが、円筒状吹出ノズル17内に吸引され、その円筒状吹出ノズル17が直列に配置されて形成された誘引トンネル21により排気ファン13まで誘引され、排気ファン13から排気される。
【0027】
この円筒状吹出ノズル17を直列に配置して形成した誘引トンネル21は、作業者の移動に妨げにならない高さに配置することができ、また従来のダクトと違って、景観を損ねたり、解剖などの作業を妨げることもない。
【0028】
図2は、円筒状吹出ノズル17を3台直列に配置したときの誘引実験結果を示したものである。
【0029】
先ず、円筒状吹出ノズル17としては、内側ケーシング17iの径を300mmφとし、スリットノズル18の軸方向の吹出幅を1.5mmとしたものを用い、これを600mm間隔で配置した。
【0030】
各円筒状吹出ノズル17のスリットノズル18からは吹出風速10m/secで吹出した。この際のスリットノズル18からの風量は0.85m3/min(50m3/h)である。
【0031】
実験の結果、A点からВ点に円筒状吹出ノズル17を通して吹き出された中心風速は、1.50m/sec、В点からC点に円筒状吹出ノズル17を通して吹き出された中心風速は、1.96m/sec、C点からD点に円筒状吹出ノズル17を通して吹き出された中心風速は、3.37m/secといった測定結果が得られた。
【0032】
このA点から、ホルムアルデヒドを模して発煙筒から煙を発生させて観測した結果、煙のほぼ全てがD点まで誘引できることを確認した。
【0033】
ホルムアルデヒドの相対蒸気密度は、空気(=1)とほぼ同じ1.08であり拡散しやすいが、エリア11Aに発生したホルムアルデヒドを誘引トンネル21を通して吸引し、排気ファン13を通して換気することが可能となる。
【0034】
この場合、誘引トンネル21内の風速は、0.4m/sec、安全を考慮して0.5m/sec以上あれば、誘引トンネル21に吸引された汚染源が再拡散することなく誘引できる。よって最初に吸引する円筒状吹出ノズル17の風速は、0.5m/sec以上であればよく、スリットノズル18からの吹出風速は、5〜15m/secの範囲であれば、汚染源の局所換気を確実に行うことができる。
【0035】
また、図2の実験結果が示すように、スリットノズル18からの吹出風速を同じとすると、下流側の円筒状吹出ノズル17の総風量が多くなるため、スリットノズル18からの吹出風速を、円筒状吹出ノズル17の配置間隔に応じて、漸次小さくするようにしてもよい。
【0036】
図3は本発明の第2の実施の形態を示したものである。
【0037】
この第2の実施の形態は、図1の第1の実施の形態と基本的に同じであるが、円筒状吹出ノズル17で形成する誘引トンネル21を変形したものである。
【0038】
図1の実施の形態においては、円筒状吹出ノズル17の内径を同じもの(例えば300mmφ)としたが、本実施の形態においては、解剖台11近くの吸込口となる円筒状吹出ノズル17aの内径を大きく、例えば500mmφとし、排気ファン13にかけてその内径を漸次小さくして誘引トンネル21aを形成したものである。
【0039】
この第2の実施の形態においては、誘引トンネル21aの径を吸込側から排気ファン13にかけて漸次小さくすることで、効率のよい換気が行える。
【0040】
図4は、本発明の第3の実施の形態を示したものであり、室内10が禁煙エリア10Bと喫煙エリア10Cとに区画され、喫煙エリア10Cに設けた喫煙台11C上で発生するタバコの煙を排気ファン13に局所換気する例を示したものである。
【0041】
この第3実施の形態においては、禁煙エリア10Bと喫煙エリア10Cとは、隔壁24で仕切られているものの完全に仕切られたものではなく、煙が、喫煙エリア10Cから禁煙エリア10Bに拡散しやすい。
【0042】
そこで、隔壁24に沿って円筒状吹出ノズル17を直列に配置して誘引トンネル21cを形成し、喫煙台11C上で発生するタバコの煙を誘引トンネル21cを通して排気ファン13に排気するようにする。この場合、隔壁24は、平面視で直線状でなく傾斜していても円筒状吹出ノズル17は、空気供給管16に回転自在なため、その隔壁24の傾斜に合わせて回転させ、誘引トンネル21cを形成することができる。
【0043】
図5は、本発明の第4の実施の形態を示したものである。
【0044】
本実施の形態においては、一般病室や大便ブースなどの室内10にベットや便所11Dが並べて設けられ、その並べられたベットや便所11Dの上方に沿って、円筒状吹出ノズル17を直列に配置して誘引トンネル21dを形成したものである。この場合、圧力チャンバー14と給気ファン15は図示していないが、給気ファン15から、外気又は温調空気に混ぜて脱臭用としての消臭剤を混入したり、滅菌用のオゾンガスを混入するようにすることで、局所換気と共に脱臭・滅菌が行える。
【0045】
図6は、本発明の第5の実施の形態を示したものである。
【0046】
本実施の形態では、工場の室内10の作業環境を改善するもので、室内10には、製造ライン11Eが設置され、その製造ライン11Eから汚染源としてのVOCやオイルミスト、蒸気、塵埃等のガス状物質や粒子状物質が発生する。また、室内10の天井には照明器具25が設けられている。
【0047】
この室内10の壁10wには、排気型の空気浄化装置26が設置され、製造ライン11E上から空気浄化装置26にかけて円筒状吹出ノズル17を直列に配置して誘引トンネル21eを形成するものである。
【0048】
このように誘引トンネル21eを形成することで、製造ライン11Eで発生するオイルミスト等の汚染源は誘引トンネル21eを通して空気浄化装置26に導くことができる。
【0049】
本実施の形態においては、ダクトがないため、照明器具25からの照明を遮ることなく製造ライン11Eを照明でき、作業域が明るく、作業の障害にならない。
【0050】
また、VOCなどが汚染源であると製造ライン11Eは防爆施設となるが、円筒状吹出ノズル17は、ファンモータを内蔵していないため、防爆に適したものとなる。
【0051】
また、誘引トンネル21eを通して汚染源を空気浄化装置26に導くため、処理空気は高濃度最小風量ですみ、空気浄化装置26を小さくでき、除去効率も向上できる。
【0052】
図7は、第5の実施の形態と同様に工場内で使用する溶剤を保管する保管庫や作業室などの室内10の作業環境を改善するもので、室内10には、溶剤タンク11Fが設置され、その室内10と区画されて廊下30が配置され、廊下30と反対側の室内10の壁10wに接して室内循環型空気浄化装置31が設置され、また天井には照明器具25が設けられている。
【0053】
この実施の形態においては、圧力チャンバー14に接続した給気ファン15は廊下30の空気を吸引して圧力チャンバー14に送風するように構成し、溶剤タンク11F上から床に設置された室内循環型空気浄化装置31にかけて、円筒状吹出ノズル17を直列に配置して誘引トンネル21fを形成する。
【0054】
これにより、溶剤タンク11Fから蒸発するVOCを室内循環型空気浄化装置31に導入することができ、室内10の環境を最適化することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
10 室内
13 排気ファン
14 圧力チャンバー
16 空気供給管
17 円筒状吹出ノズル
21 誘引トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7