特許第5855512号(P5855512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5855512-セラミックシートの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855512
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】セラミックシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/24 20060101AFI20160120BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20160120BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   B28B11/24
   B28B1/30 101
   C04B35/64 G
   C04B35/64 L
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-82123(P2012-82123)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208876(P2013-208876A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 剛
(72)【発明者】
【氏名】相川 規一
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−073291(JP,A)
【文献】 特開昭57−088068(JP,A)
【文献】 特開2000−101234(JP,A)
【文献】 特開2010−182665(JP,A)
【文献】 特開平11−207723(JP,A)
【文献】 特開平03−274108(JP,A)
【文献】 特開平02−153867(JP,A)
【文献】 特開平07−040325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00−19/00
B28B 1/30−1/32
C04B 35/64−35/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック原料粉末、バインダー及び溶媒を含むスラリーをシート状に成形して乾燥させたセラミックシート用グリーン体を、所定の形状に切断する成形工程と、
前記成形工程によって得られた、前記所定の形状を有するグリーンシートの周縁部の少なくとも一部を、前記グリーンシートの厚さ方向に押えて、所定の時間が経過した後に前記押えを終了する周縁押え工程と、
前記周縁押え工程の後に実施される、前記グリーンシートを焼成する焼成工程と、
を含む、
セラミックシートの製造方法。
【請求項2】
前記周縁押え工程において、前記グリーンシートの前記周縁部の全体を前記グリーンシートの厚さ方向に押える、
請求項1に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項3】
前記周縁押え工程において、前記グリーンシートの周縁部の少なくとも一部を、前記グリーンシートの厚さ方向に押える前記所定の時間が、0.5〜5秒である、
請求項1又は2に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項4】
前記周縁押え工程において、前記グリーンシートの周縁部の少なくとも一部を、前記グリーンシートの厚さ方向に押える圧力が、7.8〜78MPaである、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミックシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックシートは、優れた機械的強度、電気絶縁性、靭性、耐摩耗性、耐薬品性、及び耐食性等を有することから、各種電子材料、各種構造材料、刃物、及び焼成用のセッター等に利用されている。その中で、アルミナを主体とするセラミックシートは優れた電気絶縁性を有することから厚膜印刷基板及び薄膜回路基板として、窒化アルミニウムを主体とするセラミックシートは優れた熱伝導性と絶縁性を有することからパワーモジュール向け放熱・絶縁基板及び回路基板として、さらにまた、ジルコニアを主体とするセラミックシートは高い酸素イオン伝導性を有することから燃料電池の電解質膜として、活用されている。
【0003】
セラミックシートを電子基板として利用する場合、基板上に導体回路を形成したり電子素子を搭載したりするので、基板となるセラミックシートには厳しい強度基準が設定される。
【0004】
また、近年、燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0005】
SOFCのセルは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる電解質が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、電解質シート及びアノードを重ね合わせたものを単セルとする。この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって、高出力が得られる。このように複数積み重ねて用いられる電解質シートには、高い強度の信頼性が要求される。
【0006】
SOFCの電解質には、ジルコニア系、セリア系及びランタンガレート系のセラミック材料が好適に用いられる。ジルコニア系セラミック材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)及びスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等が挙げられる。セリア系セラミック材料としては、イットリア、サマリア及び/又はガドリア等がドープされたセリアが挙げられる。ランタンガレート系セラミック材料としては、ランタンガレート、及び、ランタンガレートのランタン及び/又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル及び/又は銅等で置換されたものが挙げられる。したがって、これらのセラミック系電解質材料からなるシートに高い強度の信頼性が要求される。
【0007】
セラミックシートは、通常、セラミック原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合及び粉砕して得られるスラリーをドクターブレード法等によりテープ状に成形してグリーンテープを作製し、このグリーンテープを所定形状に切断・打抜きしたグリーンシートを焼成することによって、作製される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−182665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、セラミックシート、特にSOFC用の電解質シートに要求される強度基準は益々厳しくなっている。しかし、従来の方法では、そのような高い強度基準を満たすセラミックシートを歩留り良く製造することが困難である。
【0010】
そこで、本発明は、高い強度基準を満たすセラミックシート、特にSOFC用の電解質シートを、歩留り良く製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセラミックシートの製造方法は、
セラミック原料粉末、バインダー及び溶媒を含むスラリーをシート状に成形して乾燥させたセラミックシート用グリーン体を、所定の形状に切断する成形工程と、
前記成形工程によって得られた、前記所定の形状を有するグリーンシートの周縁部の少なくとも一部を、前記グリーンシートの厚さ方向に押える周縁押え工程と、
前記周縁押え工程を経た前記グリーンシートを焼成する焼成工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法では、所定の形状を有するグリーンシートを得るための成形工程と、グリーンシートを焼成する工程との間に、グリーンシートの周縁部の少なくとも一部をグリーンシートの厚さ方向に押える周縁押え工程がさらに設けられる。このような周縁押え工程が設けられることにより、高い強度信頼性の基準を満たすセラミックシートを歩留り良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の製造方法の成形工程の一例である打抜き工程によって得られるグリーンシートの一例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
【0015】
本実施の形態のセラミックシートの製造方法は、
セラミック原料粉末、バインダー及び溶媒を含むスラリーをシート状に成形して乾燥させたセラミックシート用グリーン体を、所定の形状に切断する成形工程と、
前記成形工程によって得られた、前記所定の形状を有するグリーンシートの周縁部の少なくとも一部を、前記グリーンシートの厚さ方向に押える周縁押え工程と、
前記周縁押え工程を経た前記グリーンシートを焼成する焼成工程と、
を含む。
【0016】
まず、成形工程で用いられるセラミックシート用グリーン体について、SOFC用の電解質シートを例に挙げて説明する。本実施の形態の製造方法において用いられるSOFC用の電解質シート用のグリーン体は、例えば、セラミック系電解質原料粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーを例えば長尺のシート状に成形して乾燥させることによって得ることができる。以下、長尺のシート状のグリーン体を、グリーンテープと記載する。
【0017】
セラミック系電解質原料粉末としては、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属酸化物;Sc23、Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23及びYb23等の希土類元素酸化物;及び、Bi23及びIn23等の酸化物、から選択される1種もしくは2種以上を、安定化剤として含有するジルコニアの粉末を例示できる。さらに、その他の添加剤として、SiO2、Ge23、B23、SnO2、Ta25及びNb25から選択される何れかの酸化物が含まれていてもよい。これらの中でも、より高レベルの酸素イオン伝導性、強度及び靭性を確保する上で望ましいのは、スカンジア、イットリア、セリア及びイッテルビアからなる群から選択される少なくとも何れか1種を安定化剤として含む、安定化ジルコニアである。安定化ジルコニア全体における安定化剤の含有量は、スカンジアで4〜12モル%、イットリアで3〜10モル%、セリアで0.5〜2モル%、イッテルビアで4〜15モル%である。結晶系は正方晶系であってもよいし立方晶系であってもよいが、スカンジアを含むジルコニアの場合、スカンジアの含有量が多くなると結晶系が菱面体晶に転移することがあるので、結晶系を立方晶系に安定化するために、第三成分としてセリア及び/又はアルミナ等を加えてもよい。以下、例えば、4モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(「4モル%のスカンジアを安定化剤として含むジルコニア」という意味。以下、同様の表現を同様の意味で用いる。)を4ScSZ、10モル%のスカンジア及び1モル%のセリアで安定化されたジルコニアを10Sc1CeSZ、8モル%のイットリアで安定化されたジルコニアを8YSZと表記する。
【0018】
セラミック系電解質原料粉末としては、他に、セリア系セラミック材料の粉末及びランタンガレート系セラミック材料の粉末を用いることもできる。セリア系セラミック材料としては、イットリア、サマリア及び/又はガドリア等がドープされたセリアが挙げられる。ランタンガレート系セラミック材料としては、ランタンガレート、及び、ランタンガレートのランタン及び/又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル及び/又は銅等で置換されたものが挙げられる。
【0019】
本実施の形態で用いられるSOFC用の電解質シート用のグリーンテープは、以上のようなセラミック系電解質原料粉末を用いて作製されるものである。
【0020】
なお、SOFC用の電解質シート以外のセラミックシートの主要素材となるセラミック粉末としては、アルミナ系粉末、チタニア系粉末、マグネシア系粉末、窒化アルミニウム系粉末、ホウ珪酸ガラス系粉末、コージェライト系粉末、ムライト系粉末、及びこれら2種以上からなる複合粉末等を挙げることができる。また、セラミック粉末として、ジルコニア系粉末、セリア系粉末及びランタンガレート系粉末を用いることも可能である。
【0021】
回路を形成したり電子素子を搭載したりするための電子基板用セラミックシートの素材として特に望ましいのはアルミナ系粉末であり、放熱・絶縁基板として特に望ましいのは窒化アルミニウム系粉末である。アルミナ系粉末としては、アルミナのみ、並びに、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニア、焼結時にガラス質を形成し易いSiO2、K2O及びB23等の酸化物、Na23−SiO2−MgO系ガラス等のガラス成分等を、1種又は2種以上含むアルミナ系セラミックからなる粉末が挙げられる。窒化アルミニウム系粉末としては、窒化アルミニウムのみ、並びに、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物等を、1種又は2種以上含む窒化アルミニウム系セラミックからなる粉末が挙げられる。
【0022】
グリーンテープの作製に用いられるバインダーの種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている有機バインダーの中から適宜選択できる。有機バインダーとしては、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類及びワックス類等が例示される。これらの中でもグリーンシートの成形性や強度、特に量産のために大量焼成するときの熱分解性等の点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレート又はヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレート類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレート等のマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマー等の中から少なくとも1種を重合又は共重合させることによって得られるポリマーが好ましく使用される。
【0023】
グリーンテープの作製に用いられる溶剤の種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている溶剤の中から適宜選択できる。例えば、炭素数が2〜4のエタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルキルアルコール;1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等の中から適宜選択した溶剤を使用できる。これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0024】
必要に応じて用いられる分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤には、従来の製造方法で電解質シートを製造する際に用いられる公知の分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤を、それぞれ用いることができる。
【0025】
セラミック原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合して作製されたスラリーを、通常の方法、例えばドクターブレード法、押出成形法又はカレンダーロール法等により長尺状に成形して乾燥させたグリーンテープを、所定の形状に切断することによって、セラミックシート用のグリーンシートを作製できる。グリーンテープの切断は、例えば打抜き加工によって行われる。なお、必要に応じて、グリーンシートの表面を粗化する工程が含まれていてもよい。グリーンシートの大きさ及び厚さは、目的とするセラミックシートの形状、大きさ及び厚さと、焼成による収縮率とから求められる。
【0026】
SOFC用の電解質シートの場合、グリーンシートは、最終的に得られる電解質シートが50〜1000cm2の面積を有し、且つ0.05〜0.5mmの厚さを有するように、大きさ及び厚さを有することが望ましい。
【0027】
グリーンシートの形状は、用途に応じて、例えば電解質シートの場合はその電解質シートが適用されるSOFCの形状に応じて、適宜決定されればよいため、特に制限されない。
【0028】
次に、成形工程によって得られたグリーンシートの周縁部を押える周縁押え工程が実施される。グリーンシートに対してこの周縁押え工程が実施されることによって、グリーンシートを焼成して得られる電解質シートが安定的に高い強度を有することができる。したがって、強度基準を満たさない電解質シートの数が減少することなり、その結果、シートの歩留りが向上する。例えば打抜きによって成形されたグリーンシートには、打抜き時にグリーンシートの周縁に生じたと推定される細かいクラック、傷及び凹み等の、強度を低下させる要因となる欠陥が含まれていると考えられる。このようなグリーンシートに対して焼成前に周縁押え工程を実施することによって、グリーンシートに含まれる欠陥を減らすことができる。その結果、焼成して得られるセラミックシートが、安定的に高い強度の信頼性を有することができると考えられる。
【0029】
周縁押えを実施するための具体的な方法は、特には限定されない。例えば、グリーンシートの周縁部のみを押圧できるような押え金型を準備し、その押え金型を用いてグリーンシートの周縁部を加圧してもよい。
【0030】
ここでいうグリーンシートの周縁部とは、グリーンシートの周縁及び周縁に沿った領域を含んでおり、グリーンシートの周縁から少なくとも1mm幅の領域を周縁部と設定することが望ましい。より安定的に高い強度を有するシートを製造するために、グリーンシートの周縁から2mm以上の幅の領域を周縁部と設定してもよい。一方、経済性、すなわち加圧面積が増えるとプレス機の加圧能力を大きくする必要があるので設備費の増大を招くこと、及び、作業性、すなわち加圧面積が増えると押え金型とグリーンシートと接触面積が増えてグリーンシートが剥がれ難くなること、等の理由から、周縁部の幅は例えば周縁から10mm以下に設定するとよい。一例としてグリーンシートの周縁から5mm幅の領域、他の例としてグリーンシートの周縁から3mm幅の領域を、周縁部と設定してもよい。また、グリーンシートが穴(円形、楕円形、矩形等)を備えた形状を有する場合、そのグリーンシートの周縁は、グリーンシートの外縁及び穴の周縁を含む。
【0031】
周縁部について、図1に示されたグリーンシート1を例に挙げて説明する。グリーンシート1の形状は、1つの穴12を備えた角形である。この場合、グリーンシート1の周縁部とは、グリーンシート1の外縁及び当該外縁に沿った領域と、穴12の周縁及び当該周縁に沿った領域とを合わせた領域(図中、ハッチングが施されている領域11)となる。この例では、グリーンシート1の周縁と、周縁から幅dの領域とで周縁部が構成されている。すなわち、dは少なくとも1mmとすることが望ましく、10mm以下とすることが望ましい。
【0032】
なお、周縁押え工程では、周縁部の少なくとも一部をグリーンシートの厚さ方向に押さえればよい。しかし、より安定的に高い強度を実現するためには、周縁部の全体を押えることが望ましい。すなわち、図1に示すグリーンシート1の場合、領域11の全体を厚さ方向に押えることが望ましい。
【0033】
周縁押えによってグリーンシートの周縁部に加えられる圧力は、特には限定されないが、例えば7.8MPa〜78MPaとすることができ、例えば9.8MPa〜58.8MPaとしてもよく、14.7MPa〜39.2MPaとしてもよい。なお、グリーンテープをグリーンシートに打抜く際に、グリーンテープの位置ずれを防ぐ目的で、グリーンシートの周縁部となる部分が厚さ方向に押えられる場合があるが、周縁押え工程でグリーンシートの周縁部に加えられる圧力は、打抜き時にグリーンシートの周縁部に加えられる圧力よりも大きい。
【0034】
周縁押えによってグリーンシートの周縁部を押える時間は、特には限定されないが、0.5〜5秒とすることができ、例えば1〜3秒としてもよく、1〜2秒としてもよい。
【0035】
周縁押え時の温度は、特に限定されない。したがって、周縁押え工程は、例えば室温で行うことができる。しかし、より短い時間で圧力効果を高める為に、グリーンシートと押え金型を予め加熱してから周縁押えを行ってもよい。
【0036】
次に、周縁押え工程を経たグリーンシートを焼成する焼成工程が実施される。以下に、焼成工程の一例を説明する。
【0037】
セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサと、上記のように作製されたグリーンシートとを、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に積み重ねて、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとからなる積層体を配置する。グリーンシートの外縁は、セラミック多孔質スペーサの外縁よりも内側に位置することが望ましい。
【0038】
積み重ねられるグリーンシートの枚数は、その寸法にもよるが、例えば2〜20枚であり、望ましくは4〜12枚である。なお、セラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサには、電解質シートを作製する際に一般的に用いられる、公知のセラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサが使用できる。
【0039】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミック多孔質スペーサは、アルミナ、ジルコニア及びムライトからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む多孔質体からなることが望ましい。これらは、耐クリープ性及び耐スポーリング性に優れているからである。さらに、これらは、高温雰囲気下でジルコニアとの反応性が低いので、ジルコニア系グリーンシートを焼成する際のスペーサとして適している。
【0040】
セラミック多孔質スペーサの気孔率は、30%以上70%以下が望ましい。セラミック多孔質スペーサがこのような気孔率を有することにより、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとを交互に積み重ねた状態でグリーンシートを焼成する際に、バインダー、可塑剤及び分散剤等の有機成分の熱分解によって生成するガス成分を速やかに外部に放出させて脱脂効果を促進できるからである。気孔率が30%未満である多孔質スペーサを使用すると、通気性の低下によって有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの放出が不十分となり、積層体上に重しを載置しても、電解質シートに発生するうねり及び反りの高さが大きく、且つ多くなり、クラックや割れが生じる原因になる。一方、気孔率が70%を超える多孔質スペーサを使用すると、有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの効率的な放出が行われてうねり及び反りの発生は低減されるが、多孔質スペーサ自体の強度が不十分となるため、ハンドリング性が著しく低下して複数回の使用に耐えられなくなる他、多孔質スペーサ表面の平滑性も悪くなって電解質シートにクラックや割れが生じやすくなる等の問題が生じる。多孔質スペーサのより望ましい気孔率は35%以上65%以下であり、さらに望ましい気孔率は40%以上60%以下である。
【0041】
なお、ここでいう気孔率とは、JIS R2205の「耐火れんがの見掛気孔率の測定方法」に準拠して求められる気孔率のことである。試料の見掛気孔率(P0)は、乾燥試料の質量(W1)、飽水試料の水中の質量(W2)、飽水試料の質量(W3)から、下記式(1)で算出される。
0={(W3−W1)/(W3−W2)}×100 ・・・(1)
【0042】
また、多孔質スペーサの厚さが100μm未満では、気孔率が上記の望ましい範囲内であっても多孔質スペーサ自体のハンドリング強度が十分でなく、一方、厚さが500μmを超えると、ハンドリング強度は十分であるがグリーンシートからの有機成分分解ガスが効率良く放散されにくくなり、電解質シートにうねり及び反りが発生しやすくなる。多孔質スペーサのより望ましい厚さは120μm以上400μm以下であり、さらに望ましい厚さは150μm以上350μm以下である。
【0043】
多孔質スペーサの面積及び形状は、目的とする電解質シートの面積及び形状から特定されるグリーンシートの面積及び形状に基づいて決定される。したがって、多孔質スペーサの形状は、焼成するグリーンシートの形状と相似形であることが好ましく、円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等、いずれでもよく、これらの形状内に円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等の穴を有するものであってもよい。
【0044】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミックセッターは、一般に、主に電子部品やガラスの焼成に使用されるセラミック製の焼成用治具のことであり、棚板や敷板とも呼ばれる。本実施の形態で用いられるセラミックセッターは、アルミナ、シリカ、マグネシア及びジルコニア等の酸化物、及び/又は、コージェライト、ジルコン及びムライト等の複合酸化物を含み、厚さが5〜30mm程度で、一辺が150〜400mm程度の平板状であり、セラミック多孔質スペーサが載置される敷板であることが望ましい。
【0045】
次に、積層体の状態でグリーンシートを焼成する。具体的な焼成の条件は、特に制限されない。したがって、グリーンシートを焼成する通常の方法を用いることが可能である。例えば、グリーンシートからバインダー及び可塑剤等の有機成分を除去するために、150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、酸化性雰囲気下もしくは非酸化性雰囲気下、1000〜1800℃、好ましくは1200〜1600℃で2〜10時間保持して焼成することによって、電解質シートが得られる。
【0046】
なお、本実施の形態では電解質シートを例に挙げて説明したが、本実施の形態で説明した方法が他のセラミックシートの製造にも適用できることはいうまでもない。本実施の形態の製造方法によって得られるセラミックシートは、例えばSOFC用の電解質シートに求められる厳しい強度基準を満たすものである。すなわち、本実施の形態の製造方法は、高い強度の信頼性を有するセラミックシートを歩留まり良く製造できる方法である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されない。
【0048】
(実施例1)
実施例1では、打抜き加工によって得られたグリーンシートに対して、押え金型を用いて周縁押えを施し、その後でそのグリーンシートを焼成した例について説明する。なお、本実施例では、セラミックシートとして、SOFC用の電解質シート、より詳しくはジルコニア系電解質シートを製造した。
【0049】
(1)ジルコニア系電解質シート用のグリーンシートの製造
原料粉末として、10モル%酸化スカンジウム1モル%酸化セリウム安定化ジルコニア粉末(第一希元素化学社製、商品名「10Sc1CeSZ」、d50(平均粒径):0.6μm)を用いた。この原料粉末100質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(数平均分子量:100,000、ガラス転移温度:−8℃)を固形分換算で16質量部、分散剤としてソルビタン酸トリオレート2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール(質量比=3/2)の混合溶剤50質量部を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに入れ、40時間ミリングしてスラリーを調製した。得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度:40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮脱泡し、25℃での粘度を3Pa・sに調整して塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーをドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に連続的に塗工し、次いで、40℃、80℃、110℃と乾燥させることによって、長尺の電解質シート用の未処理グリーン体(グリーンテープ)を得た。このグリーンテープを、PETフィルムから剥がし、厚さ125μmの剥離剤付きのPETフィルムを装着した1000KN4柱式試験プレス機(株式会社大阪ジャッキ製作所製)を用いて、175KNで1秒間加圧した。その後、このグリーンテープを打抜き金型で打ち抜いて、一辺が67mmの正方形のグリーンシートを得た。得られたグリーンシートの厚さは、215μmであった。
【0050】
(2)周縁押え工程の実施
上記で得られた正方形のグリーンシートの周縁から2.6mmの幅を周縁部とし、この周縁部の全体を、グリーンシートの厚さ方向に圧力19.6MPa(200kgf/cm2)で1秒間加圧した。この周縁押えは、押え金型を用いて行われた。また、この周縁押えは、室温で行われた。
【0051】
(3)セラミック多孔質スペーサの準備
セラミック多孔質スペーサには、一辺が約71mmである正方形のアルミナスペーサを用いた。このアルミナスペーサは、厚さが0.3mm、気孔率が45%であった。
【0052】
(4)積層体の作製
上記(2)で得られたグリーンシート10枚と、上記(3)のアルミナスペーサ11枚とを準備した。最下層及び最上層にアルミナスペーサが配置されるように、アルミナスペーサとグリーンシートとを交互に積み重ねた。このとき、グリーンシートの外縁が、アルミナスペーサの外縁よりも約2.0mm内側に位置するように積み重ねて、積層体を作製した。同様の積層体を合わせて2つ用意した。
【0053】
(5)焼成
上記(4)で作製された積層体の上に、厚さ1.6mmのセラミック多孔体(重し)を載せた。これを、100mm角のアルミナ製焼成セッターに載置し、連続脱脂炉を有する連続トンネル焼成炉(白石電機工業株式会社製)で、最高温度1400℃で3時間保持して焼成した。
【0054】
以上の方法によって、実施例1のジルコニア系電解質シートが20枚製造された。
【0055】
(実施例2)
周縁押え工程において、グリーンシートに加える圧力を39.2MPa(400kgf/cm2)に変更した点以外は、実施例1と同じ方法でジルコニア系電解質シートを製造した。
【0056】
(比較例)
周縁押え工程を実施しなかった点以外は、実施例1と同じ方法で、比較例1のジルコニア系電解質シートを製造した。すなわち、上記(1)で得られたグリーンシートを、上記(2)の工程を経ずに上記(3)〜(5)の方法で焼成した。
【0057】
実施例1及び2のジルコニア系電解質シートと、比較例のジルコニア系電解質シートに対して、3点曲げ強度試験を実施した。ここで実施された3点曲げ強度試験の方法は、以下のとおりである。試験結果は、表1に示されている。
【0058】
(3点曲げ強度試験)
各実施例および比較例について、得られたジルコニア系電解質シート20枚の3点曲げ強度を測定した。樹脂フィルム剥離面を下にして、電解質シートをスパン30mmの2本の下部支柱上に載置し、室温にて、上部支柱からクロスヘッド速度0.5mm/minで荷重をかけていったときの、破断に至った最大応力を測定した。得られた値を3点曲げ強度とした。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、周縁押え工程が実施された実施例1及び2の電解質シートでは最小強度が0.3GPa以上となっており、周縁押え工程を実施しなかった比較例の電解質シートの最小強度よりも高かった。この結果から、周縁押え工程を実施することによって、十分な強度を有さない電解質シートが製造される可能性が低くなり、高い強度の信頼性を有するセラミックシートを歩留り良く製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のセラミックシートの製造方法は、高い強度を有するセラミックシートを歩留まり良く製造できるので、例えば厳しい強度基準が課されているSOFC用の電解質シートの製造にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 グリーンシート
11 周縁部となる領域
12 グリーンシートに設けられた穴
図1