(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855522
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】定量シリンジ型噴出器
(51)【国際特許分類】
A61M 11/00 20060101AFI20160120BHJP
A61M 15/08 20060101ALI20160120BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
A61M11/00 D
A61M15/08
A61M5/315 500
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-103300(P2012-103300)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-230208(P2013-230208A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】星野 真弥
(72)【発明者】
【氏名】角田 義幸
【審査官】
小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−507412(JP,A)
【文献】
特表2002−515268(JP,A)
【文献】
特表2004−500201(JP,A)
【文献】
特開2008−200316(JP,A)
【文献】
特開2012−139330(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/111687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315,11/00,15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指掛け部を有するシリンジと、当該シリンジ内に押し込み可能なプランジャとを備える定量シリンジ型噴出器において、
プランジャは、ピストンを保持するピストン保持部と、使用者が押圧するプランジャ操作部と、ピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結する変形及び復元が可能な弾性部と、当該弾性部を挟んで配置されるとともにピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結する複数のアーム部を有し、
当該アーム部は、先端側アームと、当該先端側アームに一体に連結される後端側アームと、当該先端側アーム及び後端側アームの連結部に形成された屈曲部を有し、当該屈曲部に、シリンジの後端に係止される係止部を設けるとともに、
先端側アームに、プランジャ操作部からの押圧によってシリンジの後端開口部から進入してピストン保持部と屈曲部との間に内向きの撓み変形を生じさせる摺動突起を設け、前記弾性部の復元力によって、先端側アームの屈曲部側の撓み変形を、摺動突起を基点に復元させることで、係止部の係止を解除するものであることを特徴とする定量シリンジ型噴出器。
【請求項2】
請求項1において、先端側アームの屈曲部側連結基部と後端側アームの屈曲部側連結基部とを屈曲部に向かうに従って外向きに湾曲させたことを特徴とする定量シリンジ型噴出器。
【請求項3】
請求項1又は2において、後端側アームのプランジャ操作部側連結基部に、後端側アームを外向きに開かせる屈曲部を形成したことを特徴とする定量シリンジ型噴出器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、シリンジの先端部に噴霧ノズルを設けたことを特徴とする定量シリンジ型噴出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ部を有するシリンジと、当該シリンジ内に押し込み可能なプランジャとを備える定量シリンジ型噴出器であって、プランジャの押し込みを段階的に行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンジ型噴出器には、例えば、シリンジ内にプランジャを押し込んで薬液などの内容物を取り出すものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−213612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のシリンジ型噴出器は、シリンジ内にプランジャを押し込むにすぎないため、内容物を小分けして噴出することが困難であった。
【0005】
本発明の目的とするところは、内容物を小分けして噴出することができる、新規な定量シリンジ型噴出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、指掛け部を有するシリンジと、当該シリンジ内に押し込み可能なプランジャとを備える定量シリンジ型噴出器において、
プランジャは、ピストンを保持するピストン保持部と、使用者が押圧するプランジャ操作部と、ピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結する変形及び復元が可能な弾性部と、当該弾性部を挟んで配置されるとともにピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結する複数のアーム部を有し、
当該アーム部は、先端側アームと、当該先端側アームに一体に連結される後端側アームと、当該先端側アーム及び後端側アームの連結部に形成された屈曲部を有し、当該屈曲部に、シリンジの後端に係止される係止部を設けるとともに、
先端側アームに、プランジャ操作部からの押圧によってシリンジの後端開口部から進入してピストン保持部と屈曲部との間に内向きの撓み変形を生じさせる摺動突起を設け、前記弾性部の復元力によって、先端側アームの屈曲部側の撓み変形を、摺動突起を基点に復元させることで、係止部の係止を解除するものであることを特徴とするものである。
【0007】
本発明では、先端側アームの屈曲部側連結基部と後端側アームの屈曲部側連結基部とを屈曲部に向かうに従って外向きに湾曲させることができる。また、後端側アームのプランジャ操作部側連結基部に、後端側アームを外向きに開かせる屈曲部を形成することもできる。さらに本発明によれば、シリンジの先端部には、噴霧ノズルを設けることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、プランジャ操作部を使用してプランジャを押し込むと、ピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結するアーム部では、その先端側アームに設けた摺動突起がシリンジの後端開口部から進入して当該シリンジの内周面を摺動する。このとき、先端側アームと後端側アームとの連結部に形成された屈曲部は、ピストン保持部とプランジャ操作部を一体に連結する弾性部によってほとんど変形することなく、アーム部全体としての屈曲は抑制される。このように、アーム部が屈曲することなく、シリンジの内周面を摺動すると、当該先端側アームには、シリンジに保持されたピストン保持部と、プランジャ操作部からの押圧力が加わる屈曲部との間で、摺動突起を起点にした撓み変形が生じる。このため、先端側アームに設けた摺動突起が邪魔になることなく、当該先端側アームと後端側アームとの連結部に形成された係止部がシリンジの後端に係止されるまで、1回目の噴出が可能になる。
【0009】
次いで、プランジャ操作部に対する押し込みを緩めると、ピストン保持部とプランジャ操作部を繋ぐ弾性部の復元力によって、アーム部の状態も、プランジャ操作部からの押圧力が負荷されていない初期状態に復帰する。このとき、先端側アームのうち、ピストン保持部側は摺動突起を起点に内側に変形したままであるから、先端側アームの屈曲部側は、摺動突起を起点に内側に変形したピストン保持部側と整列するように斜め内向きに復元する。このため、屈曲部に連なる係止部も屈曲部側のアームに追従するように斜め内向きに変位することで、当該係止部の係止が解除される。これにより、再びプランジャを押し込めば、2回目の噴出が可能になる。
【0010】
従って、本発明によれば、内容物を小分けして取り出すことができる。加えて、本発明では、プランジャ操作部からの押し込みを緩めるだけで、2回目の噴出が可能になるため、2回目の噴出を行うときに持ち替える必要がない。このため、使用者は、内容物の小分けを片手操作で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一の実施形態である点鼻薬噴霧器であって、その操作前の初期状態を一部断面で示す側面図である。
【
図2】同実施形態にあって、同形態に係る、プランジャを模式的に示した斜視図である。
【
図3】同実施形態にあって、1回目の噴出が完了した状態を一部断面で示す側面図である。
【
図4】同実施形態にあって、2回目の噴出を開始するためにプランジャの押し込みを緩めた状態を一部断面で示す側面図である。
【
図5】同実施形態にあって、2回目の噴出が完了した状態を一部断面で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である点鼻薬噴霧器10を詳細に説明する。
【0013】
図1中、符号11は、内容物としての点鼻薬Cを充填可能な定量シリンジである。シリンジ11は、中空の胴部11aを有し、この胴部11aには、肩部11bを介して先端部11cが一体に繋がる。先端部11cは、胴部11aよりも小径としてなる。また、胴部11aには、先端部11cと対向する後端部に、指掛け部11dが一体に設けられている。指掛け部11dの後端は、シリンジ11の後端11eを一致するように形成されている。
【0014】
符号12は、シリンジ11内に収納されるプランジャである。
図2には、プランジャ12を模式的に示す。図中、符号13は、ピストンPを保持するピストン保持部である。ピストン保持部13は、図示のように、ピストンPを保持固定する固定部13aと、断面十字形に組み合わせた縦長の4枚のプレート部分13b(図中、符号は1つのみに例示)と、ディスク部13cとを一体に設けてなる。ピストンPは、例えば、ゴムなどの弾性材料からなり、シリンジ胴部11aの内周面11fに摺動可能に保持されている。符号14は、使用者が押圧するプランジャ操作部である。本形態では、指掛け部11dと同径のディスク形状を有する。
【0015】
符号15は、ピストン保持部13とプランジャ操作部14との間に配置される弾性部である。弾性部15は、ピストン保持部13とプランジャ操作部14との間に支持部16を介して一体に連結されている。本形態では、弾性部15は、図示のように、S字形をしている。これにより、弾性部15は、支持部16を通して伝えられた負荷に応じて変形及び復元することができる。また、弾性部15には、互いに向かい合う接触面にそれぞれ、ストッパSが設けられている。ストッパSは、互いに接触することで、変形量を制限する。
【0016】
符号17は、ピストン保持部13とプランジャ操作部14を一体に連結するアーム部である。アーム部17は、弾性部15を挟んで対向する位置に配置される。アーム部17は、ピストン保持部13から後方に向かって伸びる変形及び復元が可能な先端側アーム17aと、プランジャ操作部14から前方に向かって伸びる後端側アーム17bとを有する。先端側アーム17aと後端側アーム17bは一体に連結される。
【0017】
先端側アーム17aと後端側アーム17bとの連結部には、屈曲部18が形成されている。屈曲部18は、薄肉部として形成されている。屈曲部18は、先端側アーム17a及び後端側アーム17bを外向きに押し開くことができる。
【0018】
先端側アーム17aには、摺動突起19が一体に設けられている。摺動突起19は、先端に向かって先細りに傾斜する傾斜面19aを有する。これにより、摺動突起19は、シリンジ11の後端開口部A1(
図1参照)から進入させ易くすることができる。
【0019】
本形態では、先端側アーム17aは、軸線Oに沿って伸びるほぼ平板状に形成されている。先端側アーム17aは、屈曲部18側の連結基部17a
1が屈曲部18に向かうに従って外向きに湾曲している。後端側アーム17bも、屈曲部18側の連結基部17b
1が屈曲部18に向かうに従って外向きに湾曲している。屈曲部18には、シリンジ11の後端11eに係止される係止部20が設けられている。本形態では、係止部20は、屈曲部18の外側に形成された平面として構成されている。
【0020】
また、本形態では、後端側アーム17bは、プランジャ操作部14側の連結基部17b
2は、プランジャ操作部14及び支持部16とともに、連結部21によって一体に形成されている。加えて、連結基部17b
2には、屈曲部22が形成されている。屈曲部22は、後端側アーム17bを外向きに開かせ易くする。本形態では、屈曲部22は、連結基部17b
2の外周面に形成された薄肉部としてなる。
【0021】
図示のように、シリンジ11とピストンPとの間には空間R1が形成されている。空間R1には、点鼻薬Cが充填される。空間R1に充填された点鼻薬Cは、プランジャ12の押し込みによって、先端部11cに形成した貫通孔A2に圧送される。シリンジ先端部11cには、ノズル23が装着されている。ノズル23は、噴霧チップ24を内蔵し、貫通孔A2を通って圧送された点鼻薬Cを噴出孔A3より噴霧させることができる。
【0022】
ここで、本実施形態の使用方法を説明する。
【0023】
使用者は先ず、
図1に示す状態で、人差し指と中指を指掛け部11dに掛けてプランジャ操作部14を親指で押さえてノズル23を一方の鼻の穴に挿入した後、プランジャ12をシリンジ11内にプランジャ操作部14を通して押し込む。すると、アーム部17では、その先端側アーム17aに設けた摺動突起19がシリンジ11の後端開口部A1から進入して、シリンジ11の内周面11fを摺動する。このとき、アーム部17に形成された屈曲部18は、支持部16を通して付勢された弾性部15によってほとんど変形することがない。このため、プランジャ操作部14を通してプランジャ12を押し込んでも、アーム部17全体としての屈曲は抑制される。
【0024】
加えて、先端側アーム17aに設けた摺動突起19は、上述のとおり、傾斜面19aを有することから、シリンジ11の後端開口部A1から容易に進入させることができる。
【0025】
このように、アーム部17が屈曲することなく、シリンジ11の内周面11fを摺動すると、先端側アーム17aには、
図3に示すように、シリンジ11に保持されたピストン保持部13と、プランジャ操作部14からの押圧力が加わる屈曲部18との間で、摺動突起19を起点にした内向きの撓み変形が生じる。このため、プランジャ12は、摺動突起19が邪魔になることなく、シリンジ11内に押し込むことができる。また、その押し込みは、同図に示すように、アーム部17に設けた係止部20がシリンジ11の後端11eに接触して係止されるまで行うことができる。これにより、係止部20がシリンジ11の後端11eに係止されるまで、噴出孔A3から点鼻薬Cを鼻の穴に一定量噴出することができる。
【0026】
係止部20がシリンジ11の後端11eに係止されると、プランジャ12を押し込むことができなくなるので、
図3に示すように、空間R2に点鼻薬Cを残した状態で1回目の噴霧は終了する。なお、空間R2の容量は、使用目的に応じて適宜選択できるが、例えば、空間R1の容量の半分とする。
【0027】
次いで、プランジャ操作部14に対する押し込みを緩めると、
図4に示すように、アーム部17の状態も、弾性部15の復元力によって、プランジャ操作部14からの押圧力が負荷されていない初期状態に復帰する。このとき、先端側アーム17aのうち、ピストン保持部側の部分17a
2は、摺動突起19を起点に内側に変形したままであるから、先端側アーム17aの屈曲部側の部分17a
3は、同図に示すように、摺動突起19を起点に内側に変形したピストン保持部側の部分17a
2と整列するように斜め内向きに復元する。このため、屈曲部18に連なる係止部20も屈曲部側の部分17a
3に追従するように斜め内向きに変位することで、当該係止部20の係止が解除される。これにより、プランジャ操作部14からの押し込みを緩めてアーム部17を初期状態に復帰させた後、他方の鼻の穴にノズル23を挿入して、再びプランジャ操作部14を押し込めば、
図5に示すように、噴出孔A3から空間R2内に残った点鼻薬Cを2回目として鼻の穴に噴出することができる。
【0028】
上述のように、本実施形態によれば、点鼻薬Cを小分けして噴霧することができる。加えて、本実施形態では、プランジャ操作部14からの押し込みを緩めると、2回目の噴出が可能になるため、2回目の噴出を行うときに持ち替える必要がない。このため、使用者は、点鼻薬Cの小分けを片手操作で行うことができる。
【0029】
上述したところは、本発明の様々な実施形態であるが、本発明に従えば、様々な変更が可能となる。例えば、アーム部17は、少なくとも2箇所以上に設けることができるが、アーム部17を2箇所に設ければ、良好な操作が実現できる。上述の実施形態では、シリンジ型噴出器を噴霧器として説明したが、本発明に従えば、泡として噴出させ、または、通常の液体として噴出させるなど、内容物を様々な形態で噴出させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、指掛け部を有するシリンジと、当該シリンジ内に押し込み可能なプランジャとを備える定量シリンジ型噴出器であれば、様々な形態のものに採用することができる。内容物も、点鼻薬に限定されることなく、様々なものを採用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 点鼻薬噴霧器(シリンジ型噴出器)
11 シリンジ
11a 胴部
11b 肩部
11c 先端部
11d
指掛け部
11e 後端
12 プランジャ
13 ピストン保持部
14 プランジャ操作部
15 弾性部
16 支持部
17 アーム部
17a 先端側アーム
17a
1 屈曲部側の連結基部
17b 後端側アーム
17b
1 屈曲部側の連結基部
18 屈曲部
19 摺動突起
20 係止部
21 連結部
22 屈曲部
23 ノズル
24 噴霧チップ
A1 後端開口部
A2 空間貫通孔
A3 ノズル噴出孔
C 点鼻薬(内容物)
P ピストン
R 充填空間
S ストッパ