(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855761
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】包装用鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20160120BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20160120BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20160120BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20160120BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
C25D5/50
C22C38/00 301T
C22C38/18
C22C38/54
C21D9/46 H
【請求項の数】19
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-547821(P2014-547821)
(86)(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公表番号】特表2015-508449(P2015-508449A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】EP2012074115
(87)【国際公開番号】WO2013092170
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】102011056847.6
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゼスニ,アニカ
(72)【発明者】
【氏名】オーバーホッファー,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】スクルップ,マーチン
(72)【発明者】
【氏名】マツシェ,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】サウワー,ライナー
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−327702(JP,A)
【文献】
特開平07−188770(JP,A)
【文献】
特開昭61−284530(JP,A)
【文献】
特開2009−084687(JP,A)
【文献】
特開2000−282289(JP,A)
【文献】
特表2015−514159(JP,A)
【文献】
特表2015−521231(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/045791(WO,A1)
【文献】
米国特許第03285790(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1%未満の炭素含有量である非合金鋼材または低合金鋼材の冷間圧延鋼板から包装用鋼材を製造する方法であって、当該鋼板は、
まず、金属コーティングでコーティングされ、
続いて、再結晶工程において、600℃以上の温度で、75K/s以上の加熱速度にて、焼鈍処理されることで前記金属コーティングは溶融され、
その後に、前記コーティングされて焼鈍処理された鋼板は急冷される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記コーティングされた鋼板は、前記再結晶焼鈍処理後に、少なくとも100K/sの冷却速度で急冷され、
前記鋼板内には多相構造が形成され、前記多相構造は、フェライトと、マルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトの構造成分の少なくとも1つと、を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングされた鋼板は、前記再結晶焼鈍処理後に700K/s以上の冷却速度で急冷される、
ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記鋼材は、
0.4質量%未満のMnと、
0.04質量%未満のSiと、
0.1質量%未満のAlと、
0.1質量%未満のCrと、
を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記多相構造は、80%以上が構造成分であるフェライト、マルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトで成る、
ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記鋼板は、B及び/又はNb及び/又はTiを含有する低合金鋼材から製造される、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼板は、冷間圧延された薄鋼板または超薄鋼板である、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記再結晶焼鈍処理は電磁誘導によって実施される、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングされた鋼板は、前記再結晶焼鈍処理中にオーステナイト変態点(A1)以上の温度に加熱される、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記再結晶焼鈍処理および前記急冷後に、前記鋼板は少なくとも500MPaの引張強度と、5%以上の破断点伸びとを備えている、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋼板は、以下記載の上限の質量部分の合金成分を含んだ低合金鋼材から製造されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法:
N : 最大 0.02%
Mn: 最大 0.4%
Si: 最大 0.04%
Al: 最大 0.1%
Cr: 最大 0.1%
P : 最大 0.03%
Cu: 最大 0.1%
Ni: 最大 0.1%
Sn: 最大 0.04%
Mo: 最大 0.04%
V : 最大 0.04%
Ti: 最大 0.05%
Nb: 最大 0.05%
B : 最大 0.005%
不純物を含む他の合金成分の合計量: 最大0.05%
【請求項12】
前記鋼板は、前記再結晶焼鈍処理後に、冷却流体によって、または、不活性気体のジェット流による冷却によって、100K/sから1200K/sの冷却速度で冷却される、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記再結晶焼鈍処理は、0.5秒から1.5秒間実施され、それにより前記鋼板は少なくとも700℃の温度に加熱される、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属コーティングは、Sn、ZnまたはAlで製造された耐食層である、
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記金属コーティングは、前記鋼板に電気メッキによって提供される、
ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記金属コーティングでコーティングされた前記鋼板の表面は、前記冷却中または冷却後に酸で処理される、
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記鋼板の前記コーティングされた表面の冷却および酸処理は、冷却酸槽に前記コーティングされた鋼板を沈漬することで実行される、
ことを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の方法で製造された鋼板の包装用鋼板としての利用。
【請求項19】
請求項1から17のいずれか1項に記載の方法で製造された鋼板の利用であって、食品用の缶の製造用、飲料用の缶の製造用、化学製剤または生物学製剤を含む他の物質用の缶の製造用、エアゾールの缶の製造用および密封装置の製造用としての利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の導入部分による冷間圧延鋼板から包装用鋼材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CH469810から、鋼板あるいは鋼帯の形態の薄壁鋼材製品およびその製造方法は知られている。この方法は高強度ブリキ板の製造に利用が可能である。この鋼材製品は、0.03質量%から0.25質量%のC(炭素)を含有し、0.2質量%から0.6質量%のMn(マンガン)含有量と、0.011質量%未満のSi(ケイ素)含有量とを備えた非合金鋼材で製造される。この鋼材製品は微細構造を特徴とし、少なくとも部分的にマルテンサイトとフェライトで成り、少なくとも6328kg/cm
2の引張強度と、少なくとも1.5%の破断点伸びを有する。これらの特徴の提供のため、この鋼材製品はまずA
1点以上の温度に炉内で加熱され、続いて水槽で急冷される。
【0003】
包装品の製造のための金属材料の特性、特にそれらの成形性、強度および耐食性に関する特性に対する益々高まる要求が存在する。事実、いわゆる複相鋼材は自動車製造での利用で知られており、マルテンサイトおよびフェライトまたはベイナイトで実質的に成る多相構造を有しており、高い引張強度と高い破断点伸びとを有している。少なくとも580MPaの降伏点と、少なくとも10%の破断点伸びA
80を備えたそのような複相鋼材が、例えばWO2009/021898A1に記載されている。そのような複相鋼材の材料特性と、高強度および良好な成形性の組み合わせのおかげで、そのような複相鋼材は、例えば自動車のボディ製造の分野で必要とされるもののごとき複雑な形状を有した高応力印加部材の製造に適している。
【0004】
一般的に、知られた複相鋼材の合金は、20%から70%のマルテンサイト部分と、残留オーステナイト部分、さらにはフェライト及び/又はベイナイト部分で成る。複相鋼材の良好な成形性は、比較的に軟質のフェライト相を通じて保証されており、高強度は硬いマルテンサイトとベイナイト相によって提供され、これらはフェライトのマトリックスに結合されている。複相鋼材の場合には、成形性と強度に関する望む特性は合金組成を介して広い範囲でコントロールできる。例えば、Siを加えてフェライトまたはベイナイトを硬化させることで強度を増加させることができる。マルテンサイトの成形はMnの添加によって好適な影響を受け、パーライトの形成が防止できる。強度はAl(アルミニウム)、Ti(チタン)およびB(ホウ素)の添加によって増加させることができる。さらにAlの添加は脱酸素反応と、鋼材内に存在する窒素の結合に使用できる。多相合金構造の形成のため、複相鋼材には再結晶(またはオーステナイト化)熱処理が施され、鋼帯は適した温度にまで加熱され、続いて冷却されて、所望の多相合金構造が、本質的にフェライト−マルテンサイト構造の形成によって確立される。経済的理由によって、通常、冷間圧延鋼帯は、焼鈍(アニール)炉内での連続焼鈍プロセスにより再結晶焼鈍処理される。焼鈍炉のパラメータ、例えば、通過速度、焼鈍温度、および冷却速度などは、必要な構造および所望の材料特性に応じて決定される。
【0005】
高強度複相鋼材およびその製造方法はDE102006054300A1において説明されており、その製造方法において冷間または熱間圧延鋼帯は連続焼鈍炉にて820℃から1000℃の温度範囲で連続再結晶焼鈍処理が施され、その後に焼鈍処理された鋼帯は毎秒15℃から30℃の冷却速度で焼鈍温度から冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/021898A1
【特許文献2】DE102006054300A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車産業で知られる複相鋼材は、一般的には包装用鋼材としての使用に適してはいない。なぜなら複相鋼材は、特にMn、Si、CrおよびAlのような合金元素の高含有量のために非常に高価だからであり、例えば一部の知られた合金元素は食品分野において包装用鋼材としては使用が禁止されており、包装内容物への合金成分の拡散による食品汚染は排除されなければならないからである。加えて、多くの知られた複相鋼材は非常に高い強度を有しており、包装用鋼材の製造に普通に用いられている装置では冷間圧延することができない。
【0008】
さらに包装用鋼材は、高い耐食性と良好な耐酸性を有していなければならない。なぜなら、飲物缶および食品缶のような包装用鋼材で製造した包装体の内容物は酸を含んでいることが多いからである。従って、包装用鋼材は耐食層として金属コーティングを有している。この耐食層の品質は、鋼板表面へのその接着能力によって大きく影響を受ける。コーティングの耐食性および鋼板表面の耐食層の接着性を改善するため、例えばブリキ板の製造時に鋼板に電気メッキされた錫コーティングはコーティングプロセス後に溶融される。この目的のため、鋼帯上に電気メッキされたコーティングはコーティング物質の融点を少々超える温度(例えば、錫コーティングの場合には240℃)にまで加熱され、続いて水槽で急冷される。コーティングの溶融によって、コーティングの表面には光沢が付与され、コーティングと鋼板との間の鉄−錫合金層の孔度は減少し、耐食性は増強され、例えば有機酸等の侵襲性物質の浸透性は低減される。
【0009】
よって本発明は、良好な成形性と高耐食性を備えた高強度包装用鋼材を製造すること、および、可能な限りエネルギー効率が高い製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題は請求項1の特徴を備えた方
法により解決される。この製造方
法の好適実施態様は従属請求項において示されている。
【0011】
包装用鋼材として使用される本発明の鋼板は0.1%未満の炭素含有量である低合金の冷間圧延鋼材から製造される。以下の説明が鋼板に関するものであれば、鋼帯もそれに含まれる。本発明の鋼板は低炭素含有量だけではなく、他の追加的合金成分の低濃度をも特徴とする。本発明の鋼板を製造する鋼材は冷間圧延された非合金または低合金鋼材である。低合金鋼材とは、合金元素が平均含有量5%を超えないものである。特に本発明の鋼板を製造するのに使用される鋼材は、0.5質量%未満、好適には0.4質量%未満のMn(マンガン)と、0.04質量%未満のSi(ケイ素)と、0.1質量%未満のAl(アルミニウム)と、0.1質量%未満のCr(クロム)とを含む。強度を増すために、この鋼材はB(ホウ素)及び/又はNb(ニオブ)及び/又はTi(チタン)の合金追加元素を含むことができる。Bの追加量は、好適には0.001質量%から0.005質量%の範囲であり、NbまたはTiの追加量は0.005質量%から0.05質量%の範囲である。しかし0.03質量%未満のNbの含有量が好適である。
【0012】
鋼板はまず金属耐食層でコーティングされる。この耐食層は、例えば、Sn(錫)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム
)またはZn(亜鉛)/Ni(ニッケル)のコーティングでよい。好適には、コーティングは鋼板の片面または両面に電気的にメッキされる。
【0013】
多相合金構造の形成および堆積されたコーティングの溶融のため、コーティングされた鋼板はまず75K/s(ケルビン/秒)以上の加熱速度で700℃以上の温度に加熱されて再結晶焼鈍処理され、その再結晶焼鈍処理後に急冷される。急冷処理は高冷却速度で実行され、鋼材の硬度を増加させる。この目的で、冷却は少なくとも100K/sの冷却速度で実施される。再結晶焼鈍処理はA
1変態点以上の温度で良好に実施される。最高温度T
max>Aclの再結晶熱処理によって、鋼材のオーステナイト化が実施され、続く急冷処理によって鋼材に多相構造が形成される。これはフェライトと、マルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトのうちの少なくとも1種と、を含む。このように処理された鋼板は少なくとも500MPaの引張強度と、6%を超える破断点伸びを有する。
【0014】
本発明によれば、耐食コーティングは、コーティングされた鋼板の再結晶焼鈍処理中に溶融され、コーティングの耐食性を改善し、鋼板表面上での接着性を改善する。コーティングの溶融のため、再結晶焼鈍処理中にコーティングされた鋼板は少なくとも短時間に最高温度にまで加熱される。この最高温度はコーティング材料の融点以上である。例えば、錫メッキ鋼板(ブリキ板)の場合には232℃であり、亜鉛メッキ鋼板の場合には419℃であり、アルミコーティングされた鋼板の場合には660℃である。
【0015】
電磁誘導によるコーティングされた鋼板の再結晶(またはオーステナイト化)焼鈍処理は、本発明による包装用鋼材の製造のために特に好適であることが証明されている。驚くべきことに、0.1質量%未満の炭素含有量の冷間圧延鋼板が、まず電磁誘導による加熱速度75K/s以上での再結晶(またはオーステナイト化)焼鈍処理が施され、続いて少なくとも100K/sの高冷却速度で急冷されるなら、典型的に複相鋼材に含まれる合金成分の追加、例えば、Mn(典型的には公知の複相鋼材では0.8質量%から2.0質量%含有)、Si(典型的には公知の複相鋼材では0.1質量%から0.5質量%含有)、およびAl(典型的には公知の複相鋼材では0.2質量%まで含有)の追加は省略できることが発見された。
【0016】
誘導焼鈍処理された鋼帯でのマルテンサイト相の形成と構造に対する観測された誘導加熱の驚くべき効果は次のようなものである。外部磁界が不在であれば強磁性物質は磁化されない。しかし、これらの物質内部には、外部磁界が不在であっても同様に飽和状態にまで磁化される領域(ワイス(Weiss)領域)が存在する。これらワイス領域はブロッホ壁(Bloch壁)によって分離されている。好適に配向された、すなわちエネルギー的に好適に配向された外部磁界の適用を通じて、ワイス領域は隣接領域を消費にして成長する。これが起きるとブロッホ壁はシフトする。これによって電子スピンフリップは同時的に起きることはないが、まずワイス領域の境界でスピンの方向が変えられる。磁界のさらなる増加によって、スピンが全部の領域で外部磁界の方向と一致するまで磁化の方向は磁界の方向へ回転し、飽和状態が到達される。外部の隣接機械的応力が不在であれば、磁界は転位の動きに影響を及ぼすことができることも知られている。それゆえ、ブロッホ壁が変位と共に炭素原子及び/又は他原子の転位を引き連れることはあり得るように思われる。このように、炭素及び/又は他原子の転位は特定の領域に集められ、引き続きそこで焼鈍処理および急冷処理後にマルテンサイトが形成される。
【0017】
好適には、鋼板は冷間圧延プロセスでその最終的な厚さにまで圧延された薄板あるいは超薄板である。薄鋼板は3mm未満の厚みの鋼板を意味し、超薄鋼板は0.5mm未満の厚みを有すると鋼板であると理解されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】クレムカラーエッチングが施された構造の断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は以下において実施例を利用してさらに詳細に説明されている。
【0020】
包装用鋼材として使用する本発明の鋼板の実施例を示すため、以下の組成を有し、連続鋳造プロセスおよび熱間圧延処理で仕上げられ、コイル状に巻き上げられた鋼材製の鋼帯が包装用鋼材として使用された。
C : 最大 0.1%
N : 最大 0.02%
Mn : 最大 0.5%、好適には0.4%未満
Si : 最大 0.04%、好適には0.02%未満
Al : 最大 0.1%、好適には0.05%未満
Cr : 最大 0.1%、好適には0.05%未満
P(リン) : 最大 0.03%
Cu(銅) : 最大 0.1%
Ni : 最大 0.1%
Sn : 最大 0.04%
Mo(モリブデン) : 最大 0.04%
V(バナジウム) : 最大 0.04%
Ti : 最大 0.05%、好適には0.02%未満
Nb : 最大 0.05%、好適には0.02%未満
B : 最大 0.005%
他の合金成分と不純物: 最大 0.05%
残部 : Fe(鉄)
【0021】
この鋼板はまず50%から96%の厚み減少率(圧延率)により約0.5mmの最終厚さ範囲に冷間圧延され、続いて、鋼帯錫メッキ装置で電気的に錫コーティングが施された。コーティングプロセス後に、コーティングされた鋼板は誘導炉で誘導加熱によって再結晶焼鈍処理された。例えば、f=200kHzの周波数で出力50kWの誘導コイルが、サンプルサイズ20×30に対して使用された。熱処理曲線は
図1で示されている。
図1の熱処理曲線から分かるように、鋼帯は、典型的には約0.5秒から約10秒である非常に短い加熱時間t
A内でA
1温度(T(A
1)=約725℃)以上の最高温度T
maxに加熱された。好適には、最高温度T
maxは強磁性相転移(T
f=約770℃)の相転移温度T
f以下である。続いて鋼帯の温度は、約1秒である焼鈍処理時間t
GでA
1温度以上の温度に維持された。この焼鈍処理時間t
Gの間、鋼帯は、例えば、750℃の最高温度T
maxからA
1温度(約725℃)にまでほんの少々冷却された。その後、鋼帯は、例えば、冷却時間約0.25秒で水冷、空冷または不活性ガスでのジェット冷却によって室温(約23℃)にまで冷却された。この冷却後、必要であればコーティングされた鋼板のスキンパスが実施できる。
【0022】
このように処理された鋼板は、その強度と破断点伸びに関して試験された。比較実験により、全ての場合において、破断点伸びは6%を超えており、一般的には10%以上であり、引張強度は少なくとも500MPaであり、多くの場合には600MPaから800MPaでさえあった。
【0023】
本発明によって処理された鋼板は、軟質相としてのフェライトと、硬質相としてのマルテンサイトおよび可能にはベイナイト及び/又は残留オーステナイトを備えた合金構造を有することが、クレム(Klemm)に従ったカラーエッチングによって示された。
図2は、クレスカラーエッチングが施された構造を断面図で示す。白色領域はマルテンサイト相であり、青または茶色領域はフェライト相を示す。相対的に高い強度の相(マルテンサイト/ベイナイト)の線状構造も示されている。
【0024】
比較実験によって、強度と成形性に関する最良結果は、再結晶焼鈍処理の加熱速度が200K/sから1200K/sであり、再結晶焼鈍処理された鋼帯がその後に100K/s以上の冷却速度でアニール処理されるときに得られることが判明した。装置の観点からの好適な形態は冷却速度が350K/sから1000K/sのときである。なぜなら、この場合には、費用が高額な水冷または油冷の装置が省略でき、冷却は空気のような冷却気体によって行うことができるからである。実際には、材料特性の観点による最良結果は、冷却速度が1000K/s以上での水冷を利用するときに達成される。しかし、過剰に高い冷却速度には、急冷中の鋼板の亀裂および反りのリスクが伴う。
【0025】
コーティングされた鋼板は再結晶焼鈍処理で(錫)コーティングの融点以上の温度に加熱されたので、耐食コーティングは焼鈍処理中に溶融した。これでコーティングの耐食性および耐酸性が改善され、鋼板表面へのコーティングの接着性が改善される。改善された接着性は、鋼板表面とコーティングとの間の薄くて(コーティングの厚みとの比較)非常に密度が高い合金層の形成によって提供される。この合金層は鋼材の鉄原子とコーティング材料(すなわち、例えば錫)の原子とで成る。製造パラメータに応じて、合金層の厚みは、0.5g/m
2未満、あるいはさらに0.3g/m
2未満の合金コーティング層に対応するように達成される。再結晶焼鈍処理中のコーティングの溶融によって、コーティングの孔度も低下し、よって、その耐食性および耐酸性は増加する。同時に、コーティングの溶融はコーティングの表面光沢の改善につながる。なぜなら、本来は光沢がないコーティング表面が溶融と急速冷却によって光沢を有するようになるからである。
【0026】
水槽内でのコーティングされた鋼板の急冷後、暗色酸化物層がコーティングの表面に形成されることは知られている。この望ましくない酸化物層を除去するため、急冷中または急冷後に、コーティングされた鋼板は軽酸、例えば、15%の塩酸で適正に処理される。しかしながら、この目的に、他の酸や、他の濃度の酸であっても使用が可能である。急冷液として酸を含んだ冷却酸槽が使用されると特に効果的である。続いて、酸化物層の除去と急冷が、コーティングされた鋼板の浸沈による同時的な酸処理手段によって実行できる。
【0027】
本発明で製造される鋼板は包装用鋼材として使用するのに非常に好適である。よって、例えば食品缶または飲料缶が、特に食品分野において、高い耐食性および耐酸性の特徴を備えた本発明の鋼板から製造される。
【0028】
コーティングは、必要に即して片面または両面に実行できる。
【0029】
自動車製造で知られる複相鋼材と較べて、包装用鋼材として使用される本発明の鋼板は、特に、本質的に安価である製造コストと、包装された食品の汚染が回避できるよう、低合金濃度および少ない合金成分である鋼材が使用可能であるという利点を特徴とする。強度と成形性に関しては、本発明の鋼板は自動車製造で知られる複相鋼材と同等である。冷間圧延鋼材の全面的な硬質構造は、再結晶焼鈍処理によって高引張強度と良好な破断点伸びを有する多相構造物に変換される。再結晶焼鈍処理は、例えば知られた錫メッキプロセスではなく、金属コーティングで鋼板をコーティングした後でのみ実行される。金属コーティングは本発明の再結晶焼鈍処理と同時的に溶融するので、耐食性および耐酸性に関して、および表面光沢に関して、耐食コーティングの質も増加する。従って、本発明の方法は、非常にエネルギー効率が高い。なぜなら、鋼材の構造変態と、コーティングの溶融は1つの方法工程(再結晶焼鈍処理および続く急冷)で同時的に起きるからである。従って、鋼板の再結晶焼鈍処理は(コーティング後に)コーティング装置の内部で実行され、従来方式(コーティング前に実行)のようにコーティング装置の外部で独立した焼鈍処理により実行されるのではない。これで効率の良い方法の運用が可能になり、装置の経費を大きく低減させることができる。本発明による方法では、コーティング処理前の鋼板の再結晶熱処理は必要とされない。