特許第5855981号(P5855981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855981
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】水銀分析装置および水銀分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20160120BHJP
【FI】
   G01N21/31 610D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-52619(P2012-52619)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-186028(P2013-186028A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】599102310
【氏名又は名称】日本インスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】黒川 竜太
(72)【発明者】
【氏名】中谷 正
(72)【発明者】
【氏名】楠本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】日下 雅明
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−102068(JP,A)
【文献】 特開平07−128228(JP,A)
【文献】 特開2011−174852(JP,A)
【文献】 特開2011−242222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 − G01N 21/01
G01N 21/17 − G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀の分析線を放射する水銀ランプと、
試料から気化された測定ガスが導入されるとともに、前記水銀ランプからの水銀の分析線が照射される測定セルと、
前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器と、
前記検出器からの信号強度を時間積分して求めた積分値を記憶する積分手段と、
前記検出器からの信号強度のピーク値を記憶するピーク値記憶手段と、
を備え、
前記積分手段に記憶された積分値または前記ピーク値記憶手段に記憶されたピーク値に基づいて試料中の水銀の含有量を定量する水銀分析装置であって、
前記積分手段に記憶された積分値対前記ピーク値記憶手段に記憶されたピーク値の比を算出して記憶する積分値/ピーク値記憶手段と、
前記積分値/ピーク値記憶手段に記憶された未知試料についての積分値/ピーク値対前記積分値/ピーク値記憶手段に記憶された標準試料についての積分値/ピーク値の比を算出して記憶する試料比記憶手段と、
前記試料比記憶手段に記憶された、未知試料についての積分値/ピーク値対標準試料についての積分値/ピーク値の比が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する試料比判定手段と、
前記試料比判定手段に記憶された試料比判定結果を表示する表示手段と、
を備える水銀分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水銀分析装置において、
前記検出器からの信号強度のピーク値の時間的な位置を記憶するピーク位置記憶手段と、
前記ピーク位置記憶手段に記憶された未知試料についてのピーク値の時間的位置対前記ピーク位置記憶手段に記憶された標準試料についてのピーク値の時間的位置の比を算出して記憶するピーク位置比記憶手段と、
前記ピーク位置比記憶手段に記憶された、未知試料についてのピーク値の時間的位置対標準試料についてのピーク値の時間的位置の比が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶するピーク位置判定手段と、
前記ピーク位置判定手段に記憶されたピーク位置判定結果を表示する表示手段と、
を備える水銀分析装置。
【請求項3】
請求項に記載の水銀分析装置において、
前記試料比判定結果と前記ピーク位置判定結果とが所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する総合判定手段と、
前記総合判定手段に記憶された総合判定結果を表示する表示手段を備える水銀分析装置。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の水銀分析装置において、
前記所定の基準値範囲が0.9〜1.5である水銀分析装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の水銀分析装置と、
試料中の水銀を気化させて測定ガスとして前記水銀分析装置に導入する水銀気化装置と、
を備える水銀分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の水銀を定量する水銀分析装置および水銀分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水銀分析装置は、長年にわたり環境分析や品質管理分析などで広く使用されている。河川水などの分析では還元気化法を用いた水銀分析装置、固体試料の分析では、空気ポンプで所定流量の空気を流しながら、試料容器に入れられた試料を試料加熱炉で加熱分解し、試料から発生した水銀を水銀捕集管で捕集して測定する加熱気化水銀分析装置などがある。
【0003】
河川水などの分析では、図10に示す還元気化法を用いた水銀原子吸光分析装置が使用されており、還元剤などの試薬とともに還元容器107に入れられた試料108に空気ポンプ110から空気が送られ、試料溶液がバブラー112によりバブリングされ、試料108中に存在する酸化水銀が還元剤により還元され、気化水銀となり、測定セル102に導入される。気化水銀が導入された測定セルに水銀ランプ101からの水銀分析線が入射し、測定セル102を透過した水銀分析線を検出器131が検出する。検出器131からの信号強度を時間積分することにより積分値を求め、この積分値を用いて試料中の水銀濃度を定量する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−102068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、水銀分析において、試料に共存する共存物質によって干渉を受けて正確な分析ができないことがあり、従来、種々の対策がとられているが、それでも共存物質の干渉を除去できない場合がある。例えば、還元気化水銀分析では、試料を酸処理して測定する。この酸処理で試料が十分に処理されていないと正確な測定値(積分値またはピーク値)を得ることができないが、その測定値が正常値であるか、否かを判定することは困難である。また、加熱気化水銀分析装置では、水銀を選択的に捕集する、金糸やクロモソルブなどを充填した水銀捕集管に水銀を捕集濃縮して妨害成分の影響を低減しているが、妨害成分の影響の除去が不十分であったり、水銀捕集管に汚染が生じたりして、正確な測定値を得ることができない場合がある。この場合も測定値が正常値であるか、否かを判定することは困難である。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、測定値が正常値であるか否かの判定の容易化を図り、分析の正確さを向上させた水銀分析装置および水銀分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成にかかる水銀分析装置は、水銀の分析線を放射する水銀ランプと、試料から気化された測定ガスが導入されるとともに、前記水銀ランプからの水銀の分析線が照射される測定セルと、前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器と、前記検出器からの信号強度を時間積分して求めた積分値を記憶する積分手段と、前記検出器からの信号強度のピーク値を記憶するピーク値記憶手段と、を備え、前記積分手段に記憶された積分値または前記ピーク値記憶手段に記憶されたピーク値に基づいて試料中の水銀の含有量を定量する。
【0008】
さらに、第1構成にかかる水銀分析装置は、前記積分手段に記憶された積分値対前記ピーク値記憶手段に記憶されたピーク値の比を算出して記憶する積分値/ピーク値記憶手段と、前記積分値/ピーク値記憶手段に記憶された未知試料についての積分値/ピーク値対前記積分値/ピーク値記憶手段に記憶された標準試料についての積分値/ピーク値の比を算出して記憶する試料比記憶手段と、前記試料比記憶手段に記憶された、未知試料についての積分値/ピーク値対標準試料についての積分値/ピーク値の比が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する試料比判定手段と、前記試料比判定手段に記憶された試料比判定結果を表示する表示手段と、を備える。
【0009】
本発明の第1構成の水銀分析装置によれば、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0010】
本発明の第2構成にかかる水銀分析装置は、水銀の分析線を放射する水銀ランプと、試料から気化された測定ガスが導入されるとともに、前記水銀ランプからの水銀の分析線が照射される測定セルと、前記測定セルに照射されて透過した水銀の分析線強度、または前記測定セル中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器と、前記検出器からの信号強度を時間積分して求めた積分値を記憶する積分手段と、前記検出器からの信号強度のピーク値を記憶するピーク値記憶手段と、を備え、前記積分手段に記憶された積分値または前記ピーク値記憶手段に記憶されたピーク値に基づいて試料中の水銀の含有量を定量する。
【0011】
さらに、第2構成にかかる水銀分析装置は、前記検出器からの信号強度のピーク値の時間的な位置を記憶するピーク位置記憶手段と、前記ピーク位置記憶手段に記憶された未知試料についてのピーク値の時間的位置対前記ピーク位置記憶手段に記憶された標準試料についてのピーク値の時間的位置の比を算出して記憶するピーク位置比記憶手段と、前記ピーク位置比記憶手段に記憶された、未知試料についてのピーク値の時間的位置対標準試料についてのピーク値の時間的位置の比が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶するピーク位置判定手段と、前記ピーク位置判定手段に記憶されたピーク位置判定結果を表示する表示手段と、を備える。
【0012】
本発明の第2構成の水銀分析装置によれば、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0013】
本発明の第3構成にかかる水銀分析装置は、第1構成にかかる水銀分析装置に加え、前記検出器からの信号強度のピーク値の時間的な位置を記憶するピーク位置記憶手段と、前記ピーク位置記憶手段に記憶された未知試料についてのピーク値の時間的位置対前記ピーク位置記憶手段に記憶された標準試料についてのピーク値の時間的位置の比を算出して記憶するピーク位置比記憶手段と、前記ピーク位置比記憶手段に記憶された、未知試料についてのピーク値の時間的位置対標準試料についてのピーク値の時間的位置の比が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶するピーク位置判定手段と、前記ピーク位置判定手段に記憶されたピーク位置判定結果を表示する表示手段と、を備える。
【0014】
本発明の第3構成の水銀分析装置によれば、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0015】
本発明の第3構成の水銀分析装置において、前記試料比判定結果と前記ピーク位置判定結果とが所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する総合判定手段と、前記総合判定手段に記憶された総合判定結果を表示する表示手段を備えるのが好ましい。この構成により、2つの判定結果を用いて試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定できるので、分析の正確さをより向上させることができる。
【0016】
本発明の第1〜3構成の水銀分析装置において、前記所定の基準値範囲が0.9〜1.5であるのが好ましい。
【0017】
本発明の第4構成にかかる水銀分析システムは、本発明の第1〜3構成のいずれかの水銀分析装置と、試料中の水銀を気化させて測定ガスとして前記水銀分析装置に導入する水銀気化装置と、を備える。
【0018】
本発明の第4構成の水銀分析システムによれば、水銀気化装置を含めた水銀分析システムにおける分析において、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定できるので、分析の正確さをより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態である水銀分析システムの概略ブロック図である。
図2】同システムで測定した試料の信号強度のピーク形状を示す図である。
図3】同システムで測定した標準試料の信号強度のピーク形状を示す図である。
図4】同システムで測定した標準試料の測定結果の表である。
図5】同システムで測定した未知試料の測定結果の表である。
図6】同システムで測定した第1実験の測定結果の表である。
図7】同システムで測定した第1実験の試料の信号強度のピーク形状を示す図である。
図8】同システムで測定した海水の試料の信号強度のピーク形状を示す図である。
図9】同システムで測定した第2実験の測定結果の表である。
図10】従来の水銀分析システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態である水銀分システムについて説明する。図1に示すように、第1実施形態の水銀分析システムは水銀分析装置100と水溶液の試料S中の水銀を還元気化する還元気化装置500とを備えている。水銀分析装置100は、水銀の分析線を放射する水銀ランプ1と、試料Sから気化された測定ガスが導入されるとともに、水銀ランプ1からの水銀の分析線(例えば、257.3nmの分析線)が照射される測定セル2と、測定セル2に照射されて透過した水銀の分析線強度を検出する検出器31と、検出器31からの信号強度を時間積分して求めた積分値を記憶する積分手段41と、検出器31からの信号強度のピーク値Pを記憶するピーク値記憶手段42と、を備え、積分手段41に記憶された積分値またはピーク値記憶手段42に記憶されたピーク値に基づいて試料S中の水銀の含有量を定量する水銀原子吸光分析装置である。
【0021】
さらに、水銀分析装置100は、積分手段41に記憶された積分値A対ピーク値記憶手段42に記憶されたピーク値Pの比A/Pを算出して記憶する積分値/ピーク値記憶手段43と、積分値/ピーク値記憶手段43に記憶された未知試料Suについての積分値/ピーク値(Au/Pu)対積分値/ピーク値記憶手段43に記憶された標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)を算出して記憶する試料比記憶手段44と、試料比記憶手段44に記憶された、未知試料Suについての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料Ssについての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する試料比判定手段45と、試料比判定手段45に記憶された試料比判定結果を表示する表示手段46と、を備える。
【0022】
その上に、検出器31からの信号強度のピーク値Pの時間的な位置Tpを記憶するピーク位置記憶手段51と、ピーク位置記憶手段51に記憶された未知試料Suについてのピーク値Puの時間的位置Tpu対ピーク位置記憶手段51に記憶された標準試料Ssについてのピーク値Psの時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsを算出して記憶するピーク位置比記憶手段52と、ピーク位置比記憶手段52に記憶された、未知試料Suについてのピーク値Puの時間的位置Tpu対標準試料Ssについてのピーク値Psの時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsが所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶するピーク位置判定手段53と、前記試料比判定結果と前記ピーク位置判定結果とが所定の基準値範囲内であるか否かを判定して、その判定結果を記憶する総合判定手段54と、を備え、ピーク位置判定手段53に記憶されたピーク位置判定結果と総合判定手段54に記憶された総合判定結果とを表示手段46に表示する。
【0023】
積分手段41、ピーク値記憶手段42、積分値/ピーク値記憶手段43、試料比記憶手段44、試料比判定手段45、表示手段46、ピーク位置記憶手段51、ピーク位置比記憶手段52、ピーク位置判定手段53および総合判定手段54は、例えば、コンピュータ4に備えられている。
【0024】
未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)の所定の基準値範囲は、試料比判定手段45に前もって記憶させておいてもよいし、操作者が測定時に所望の基準値範囲を設定してもよい。所定の基準値範囲は0.9〜1.5が好ましい。未知試料についてのピーク値Puの時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値Psの時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsの所定の基準値範囲は、ピーク位置判定手段53に前もって記憶させておいてもよいし、操作者が測定時に所望の基準値範囲を設定してもよい。所定の基準値範囲は0.9〜1.5が好ましい。
【0025】
還元気化装置500は、水溶液試料S中の水銀を還元気化する還元容器7、バブラー12および空気ポンプ10を備える。
【0026】
次に、第1実施形態の水銀分析システムの動作について説明する。まず、水銀量がそれぞれ、0、3、6、9、12、15ngの水溶液の標準試料Ssを順に測定して検量線を作成する。還元容器7に所定量の水溶液の標準試料Ssと還元剤である塩化第一すず、硫酸などの試薬を入れ、空気ポンプ10の作動を開始すると、空気ポンプ10からバブラー12を通じて送られた空気によって還元容器7中の標準試料Ssが攪拌され、標準試料Ss中の水銀が塩化第一すずによって還元され、気化された水銀が空気ポンプ10の送入空気により測定セル2に導入される。測定セル2の入射窓に水銀ランプ1から分析線が照射され、測定セル2を透過し出射窓より出射した分析線の強度を検出器31が検出する。空気ポンプ10を作動させて気化水銀を測定セル2に導入すると同時に測定を開始する。
【0027】
測定を開始すると、図2に示すように信号強度はピーク値Psに達し、その後下降する。積分手段41が測定開始時間から設定された積分時間まで信号強度を時間積分して積分値Asを求め、ピーク値記憶手段42が信号強度のピーク値Psを記憶し、ピーク位置記憶手段51が各標準試料Ssについてのピーク値Psの時間的位置Tpsを記憶する。積分値/ピーク値記憶手段43が、積分手段41に記憶された積分値As対ピーク値記憶手段42に記憶されたピーク値Psの比である、標準試料についての積分値/ピーク値、As/Psを算出して記憶する。各標準試料Ssの積分値Asに基づいて検量線が作成される。
【0028】
標準試料Ssについてのピーク値Psの時間的位置Tpsおよび標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)は、デフォルト値として記憶してもよいが、検量線の作成のたびに記憶するのが好ましい。
【0029】
測定した各標準試料Ssの信号強度のピーク形状を図3に、測定結果を図4に示す。図4の測定結果には、測定した各標準試料Ssの、ピーク値Ps、積分値As、ピーク値Psの時間的位置(ピーク値時間)Tpsおよび積分値/ピーク値(As/Ps)が表示されている。図4において、ピーク値はPEAK、積分値はAREA、ピーク値の時間的位置(ピーク値時間)はP.TIME、積分値/ピーク値はAREA/PEAKとして表示し、後述する図5、6、9においても同様の表示をする。図4の測定結果には、ピーク値Psの時間的位置Tpsの平均値および積分値/ピーク値(As/Ps)の平均値が表示されていないが、それぞれの記憶手段に記憶される。第1実施形態のシステムにおいては、標準試料Ssの、ピーク値Psの時間的位置Tpsおよび積分値/ピーク値(As/Ps)はこれらの平均値を用いる。ピーク値Psの時間的位置Tpsの平均値は14.4秒、積分値/ピーク値(As/Ps)の平均値は333である。
【0030】
次に、未知試料Suを標準試料Ssと同様にして測定して、積分手段41が信号強度を時間積分して積分値Auを求め記憶し、ピーク値記憶手段42が信号強度のピーク値Puを記憶し、ピーク位置記憶手段51が各未知試料Suについてのピーク値Puの時間的位置Tpuを記憶し、積分値/ピーク値記憶手段43が各未知試料Suについての積分値/ピーク値(Au/Pu)を記憶する。試料比記憶手段44が、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)を算出して記憶する。試料比判定手段45が、試料比記憶手段44に記憶された、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333が所定の基準値範囲0.9〜1.5内であるか否かを判定して記憶し、その試料比判定結果を表示手段46に表示する。試料比判定結果が基準値範囲内であれば、○印、基準値範囲外であれば、×印で表示される。
【0031】
ピーク位置比記憶手段52が、ピーク位置記憶手段51に記憶された未知試料Suについてのピーク値の時間的位置Tpu対ピーク位置記憶手段51に記憶された標準試料Ssについてのピーク値の時間的位置14.4の比を算出して記憶する。ピーク位置判定手段53が、ピーク位置比記憶手段52に記憶された、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4が所定の基準値範囲内であるか否かを判定して記憶し、そのピーク位置判定結果を表示手段46に表示する。ピーク位置判定結果が基準値範囲内であれば、○印、基準値範囲外であれば、×印で表示される。
【0032】
総合判定手段54が、試料比記憶手段44に記憶された試料比判定結果とピーク位置判定手段53に記憶されピーク位置判定結果とがともに所定の基準値範囲0.9〜1.5内であるか否かを判定して、その総合判定結果を記憶し、表示手段46に表示する。
【0033】
表示手段46に表示された総合判定結果を含む測定結果を図5に示す。図5の測定結果には、測定した各未知試料Suの、積分値Au、ピーク値Puの時間的位置(ピーク値時間)Tpu、積分値/ピーク値(Au/Pu)、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333および未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4が表示され、総合判定結果がPEAK判定欄に○印または×印で表示されている。総合判定結果が基準値範囲内であれば、○印、基準値範囲外であれば、×印で表示されている。
【0034】
図5では、総合判定結果はPEAK判定として表示され、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333はPEAK判定欄の括弧内の左方に、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4はPEAK判定欄の括弧内の右方に表示されている。
【0035】
試料の測定値が正常値であるか否かの判定に、試料比判定結果、ピーク位置判定結果および総合判定結果のいずれを用いるかについては、分析条件設定時に表示手段に表示された判断基準設定画面(図示なし)において設定する。
【0036】
本発明の第1実施形態の水銀分析システムによれば、試料比判定結果、ピーク位置判定結果および総合判定結果が○印または×印で表示されるので、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0037】
次に、第1実施形態のシステムを用いて、試料比判定の基準値範囲およびピーク位置判定の基準値範囲と試料に添加した水銀量の回収率との関係を求めるための実験を行ったので、その結果を第1実験結果として以下に説明する。標準試料Ssについては、前記の標準試料Ss(水銀量がそれぞれ、0、3、6、9、12、15ng)の測定結果(図4)を用いた。電気集塵機捕集灰溶出液5mlに水銀10ngを添加した試料S1〜S9を前記の測定と同様に測定して、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333、および、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4を求め、さらに、それぞれの試料S1〜S9に添加した水銀量の回収率を求め、その回収率を図6に示す測定結果の回収率欄に表示した。試料S1〜S9を測定した信号強度のピーク形状を図7に示す。図6において、ピーク値はPEAKとして表示している。
【0038】
測定結果(図6)によると、試料S1、S2、S6の回収率は、それぞれ97%、96%、92%であり、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333は、それぞれ1.04、0.99、1.31であり、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4は、それぞれ1.00、1.00、1.31であり、いずれも0.9〜1.5の基準値範囲内であった。その他の試料S3、S4、S5、S7、S8、S9の回収率は90%未満であり、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値333の比(Au/Pu)/333、および、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置14.4の比Tpu/14.4は、いずれも0.9〜1.5の基準値範囲外であった。さらに、図7に示すように、試料S3、S4、S5、S7、S8、S9のピーク形状は、試料S1、S2、S6のピーク形状に比べ幅広くなっている。
【0039】
この第1実験結果から分かるように、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)が、0.9〜1.5の範囲内であれば、水銀量の回収率は90%を超えており、良好な回収率が得られる。また、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsが、0.9〜1.5の範囲内であれば、水銀量の回収率は90%を超えており、良好な回収率が得られる。この実験結果から分かるように、試料比判定の基準値範囲およびピーク位置判定の基準値範囲である0.9〜1.5は、測定値が正常値であるか否かの判定の指標として好ましい範囲である。この基準値範囲内で測定することによって分析の正確さを向上させることができる。
【0040】
次に、第1実施形態のシステムを用いて、海水に水銀濃度が2pptになるように水銀を添加した試料S1〜S5を測定した実験を行ったので、その結果を第2実験結果として以下に説明する。標準試料の測定結果は、第1実験の標準試料Ss(水銀量がそれぞれ、0、3、6、9、12、15ng)の測定結果(図4)を用いた。前記の測定と同様に試料S1〜S5を測定して、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)および未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsを求め、さらに、それぞれの未知試料S1〜S5に添加した水銀量の測定値を求めた。試料S1〜S5を測定したピーク形状を図8に示す。
【0041】
図8に示すピーク形状は第1実験によって測定された試料のピーク形状と異なり、試料S1〜S5の時間的位置Tpuは、標準試料Ssについてのピーク値の時間的位置Tpsに比べ、早い時間位置になっている。図9に示す測定結果によると、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)および未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsが、いずれも0.9未満であり、水銀の測定値は添加濃度2pptの約5倍になっている。ピーク値の時間的位置Tpが早い時間位置になる試料の場合も正常な測定値にならないことが、この実験結果から分かる。海水のように塩素が多く含まれ、水銀の含有量が微量の試料の場合には、図8に示された信号強度のピーク形状のように、測定開始から早い時間にピーク値が現れ、大きな測定誤差を生じる。したがって、分析の正確さを向上させるためには、試料比判定の基準値範囲およびピーク位置判定の基準値範囲を測定値が正常値であるか否かの判定の指標として用いることが好ましい。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態の水銀分析システムについて説明する。この第2実施形態の水銀分析システムは、第1実施形態の水銀分析装置100とは異なる水銀分析装置200を備えている。水銀分析装置200は、ピーク位置記憶手段51と、ピーク位置比記憶手段52と、ピーク位置判定手段53と、総合判定手段54とを備えておらず、その他の構成は水銀分析装置100と同じである。
【0043】
第2実施形態の水銀分析システムにおいても第1実施形態の水銀分析システムと同様に標準試料Ssと未知試料Suとを同様に測定して、未知試料についての積分値/ピーク値(Au/Pu)対標準試料についての積分値/ピーク値(As/Ps)の比(Au/Pu)/(As/Ps)が所定の基準値範囲0.9〜1.5内であるか否かを判定して、表示手段46に表示する。
【0044】
本発明の第2実施形態の水銀分析システムによれば、試料比判定結果が○印または×印で表示されるので、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態の水銀分析システムについて説明する。この第3実施形態の水銀分析システムは、第1実施形態の水銀分析装置100とは異なる水銀分析装置300を備えている。水銀分析装置300は、積分値/ピーク値記憶手段43と、試料比記憶手段44と、試料比判定手段45とを備えておらず、その他の構成は水銀分析装置100と同じである。
【0046】
第3実施形態の水銀分析システムにおいても第1実施形態の水銀分析システムと同様に標準試料Ssと未知試料Suとを同様に測定して、未知試料についてのピーク値の時間的位置Tpu対標準試料についてのピーク値の時間的位置Tpsの比Tpu/Tpsが所定の基準値範囲0.9〜1.5内であるか否かを判定して、表示手段46に表示する。
【0047】
本発明の第3実施形態の水銀分析システムによれば、ピーク位置判定結果が○印または×印で表示されるので、試料毎に測定値が正常値であるか否かを容易に判定でき、分析の正確さを向上させることができる。
【0048】
なお、第1〜第3実施形態では、標準試料Ssの、ピーク値Psの時間的位置Tpsおよび積分値/ピーク値(As/Ps)は測定した標準試料Ssの平均値を用いたが、いずれか一つの標準試料Ssのピーク値Psの時間的位置Tpsや積分値/ピーク値(As/Ps)を用いてもよい。
【0049】
第1〜第3実施形態では、試料の測定値が正常値であるか否かの判定に、未知試料についての積分値/ピーク値対標準試料についての積分値/ピーク値の比、または、未知試料についてのピーク値の時間的位置対標準試料についてのピーク値の時間的位置の比を用いたが、これらの比を用いずに、未知試料についての積分値/ピーク値の数値そのもの、または、未知試料についてのピーク値の時間的位置の数値そのものを用いて判定してもよい。第1〜第3実施形態では、積分手段41に記憶された積分値に基づいて試料S中の水銀の含有量を定量したが、ピーク値記憶手段42に記憶されたピーク値(例えば、図4のPEAK欄に表示されている)に基づいて試料S中の水銀の含有量を定量してもよい。
【0050】
なお、第1〜第3実施形態では、還元気化装置500を用いる水銀分析システムについて説明したが、加熱気化装置を用いて試料中の水銀を加熱気化させて水銀捕集部に捕集し、その捕集した水銀を加熱気化させて測定する水銀分析システムでもよく、還元気化装置500を用いた場合と同様の作用効果を奏することができる。また、本発明は、水銀分析装置100、200、300としてシングルビーム方式の原子吸光分析装置について説明したが、ダブルビーム方式の原子吸光分析装置でもよい。また、水銀分析装置は、測定セル2中に存在する水銀から発生する水銀の蛍光強度を検出する検出器を備える原子蛍光分析装置であってもよく、原子吸光分析装置と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 水銀ランプ
2 測定セル
31 検出器
41 積分手段
42 ピーク値記憶手段
43 積分値/ピーク値記憶手段
44 試料比記憶手段
45 試料比判定手段
46 表示手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10