特許第5856069号(P5856069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5856069新規なシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856069
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】新規なシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7068 20060101AFI20160120BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20160120BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   A61K31/7068
   A61K47/48
   A61K9/107
   A61P35/00
   A61P31/12
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-544274(P2012-544274)
(86)(22)【出願日】2011年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2011076373
(87)【国際公開番号】WO2012067138
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-257013(P2010-257013)
(32)【優先日】2010年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓一朗
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 麻奈実
(72)【発明者】
【氏名】川村 大
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131675(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/056654(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/120914(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/116509(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/033296(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/056596(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/041570(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0009426(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7068
A61K 9/107
A61K 47/48
A61P 31/12
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーであるポリグルタミン酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に,一般式(I)あるいは一般式(II)
【化1】
[式中,R,Rはそれぞれ独立して水素原子又は置換基を有していてもよい(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは水素原子,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アルキル基,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アラルキル基,置換基を有していてもよい芳香族基,カルボキシ基が保護されたアミノ酸残基又は置換基を有していてもよい糖残基を示し,CX−CYはCH−CH又はC=C(二重結合)を示し,Aはシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基を除いた残基を示す]で表わされる置換基が結合しているシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【請求項2】
シチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体が一般式(III)
【化2】
[式中,Rは水素原子又は(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは結合基を示し,Rは水素原子又は(C1〜C6)アシル基を示し,Rは一般式(I)あるいは一般式(II)
【化3】
[式中,R,R,R,CX−CY及びAは前記と同じ意味を示す]
で表わされる置換基を示し,bは5〜11500の整数を示し,p及びqはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し,iは5〜200の整数を示し,nは0〜200の整数を示し,且つi+nは10〜300の整数を示す]
で表される化合物である請求項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【請求項3】
が(C1〜C3)アルキル基,Rが式(IV),(V)又は(VI)
【化4】
[式中,rは1〜6の整数を示す]
で表される結合基,Rが(C1〜C3)アシル基であり,bが100〜300の整数であり,Rによりp及びqはそれぞれ1又は2であり,iが5〜90の整数,nが0〜90の整数で,且つi+nが10〜100の整数である請求項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【請求項4】
がメチル基,Rがトリメチレン基,Rがアセチル基,RにおけるR,Rが共に水素原子であり,CX−CYがCH−CHである請求項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【請求項5】
シチジン系代謝拮抗剤がゲムシタビン,5’−デオキシ−5−フルオロシチジン,シタラビン又は3’−エチニルシチジンである請求項1〜のいずれか一項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体を薬効成分とする抗がん剤。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体を薬効成分とする抗ウイルス剤。
【請求項8】
水中でミセルを形成することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規なシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体,特にポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体における側鎖カルボキシ基に,特定のリンカーを介してシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基が結合しているシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体,及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍あるいはウイルス性疾患の治療を目的として,種々のシチジン系代謝拮抗剤の開発が行なわれ,抗がん剤としてはシタラビン(cytarabine),ゲムシタビン(gemcitabine)等が,抗ウイルス剤としてはザルシタビン(zalcitabine),ラミブジン(lamivudine)等が臨床で使用されている。
【0003】
しかし,これらシチジン系代謝拮抗剤は,強いin vitro活性を有するにも拘わらず生体内では代謝・排泄を受けやすいために十分な薬効を発揮出来なかったり,あるいは高投与量を必要とするものが多い。例えば,ゲムシタビンは,in vitroでは同じく抗がん剤であるパクリタキセルやドキソルビシン等の薬剤に匹敵する細胞増殖抑制活性を有する一方で,臨床では体表面積あたり1回1000mg/mの投与量が必要である。これは,2’−デオキシシチジンの代謝酵素であるシチジン脱アミノ化酵素によってシトシン塩基の4位アミノ基が代謝されてしまい,ゲムシタビンとしてのin vivo利用率が低くなるためと考えられている(非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献2には,平均分子量約30000のポリグルタミン酸類とシタラビンとを結合させた高分子誘導体が記載されている。しかしながら,薬剤の高分子誘導体には免疫反応により過敏反応を示す場合があり,その様な場合には薬剤として繰返し投与が出来ない。
【0005】
特許文献1にはポリエチレングリコール類にシチジン系誘導体を結合させた高分子誘導体が,非特許文献3にはポリエチレングリコール類の両末端にアスパラギン酸を分枝状に置換させ,それにシタラビンを結合させた高分子誘導体が開示されている。しかし,これらはポリエチレングリコール類1分子あたり薬剤を1〜8分子程度しか結合出来ず,有効量を投与するためにはポリマー総量が大量になってしまう。更に,これらの高分子誘導体からの薬剤放出は生体内の酵素による加水分解反応に依存している部分があり,臨床上における治療効果が患者の個体差に大きく影響される恐れがある。
【0006】
特許文献2にはポリエチレングリコール類とポリアスパラギン酸が縮合したブロック共重合体に薬剤を結合した分子がミセルを形成し医薬となることが記載されている。又,特許文献3にはポリエチレングリコール類とポリ酸性アミノ酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に疎水性物質を結合した高分子運搬体となる高分子担体が記載されている。更に,特許文献4にはポリエチレングリコール類とポリグルタミン酸が縮合したブロック共重合体のグルタミン酸側鎖カルボキシ基に抗がん性物質を結合させた高分子誘導体が記載されている。しかしながら,これらの特許文献2〜4には,結合する薬剤としてシチジン系代謝拮抗剤に関する記載はない。
【0007】
特許文献5には,ポリエチレングリコール類とポリグルタミン酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基とシチジン系代謝拮抗剤のアミノ基とがアミド結合した高分子誘導体が記載されている。又,特許文献6には,ポリエチレングリコール類とポリグルタミン酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基と核酸系代謝拮抗剤であるヌクレオシド誘導体の水酸基がエステル結合した高分子誘導体が記載されている。しかしながら,これらの文献はポリエチレングリコールとポリカルボン酸との共重合体のカルボキシ基に直接シチジン系代謝拮抗剤を結合させており,何らかのリンカーを介してシチジン系代謝拮抗剤を結合させてはいない。
【0008】
特許文献7にはポリエチレングリコール類とポリグルタミン酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に疎水性の高いリンカーを介して核酸系代謝拮抗剤であるヌクレオシド誘導体が結合している高分子誘導体が記載されている。しかしながら,このリンカーにはコハク酸モノアミド構造部分がなく,イミドを形成するとともに薬剤が放出されるシステムではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−524028号公報
【特許文献2】特許第2694923号公報
【特許文献3】特許第3268913号公報
【特許文献4】特開平5−955号公報
【特許文献5】国際公開第2006/120914号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/056596号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2008/056654号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「キャンサー・サイエンス」,日本癌学会発行,2004年,第95巻,105−111頁
【非特許文献2】「キャンサー・リサーチ」(米国),米国癌学会発行,1984年,第44巻,25−30頁
【非特許文献3】「ジャーナル オブ コントロールド リリース」(英国),エルゼヴィア発行,2002年,第79巻,55−70頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は,シチジン系代謝拮抗剤を高分子誘導体化することにより従来以上の高い薬効を有する新規な抗がん剤又は抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果,ポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体,特に,ポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に,コハク酸モノアミド構造を有する特定のリンカーを介してシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基を結合させたシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体を見出した。本発明の高分子誘導体は,リンカーの構成要素であるアミン成分を適宜選択することによって,結合しているシチジン系代謝拮抗剤の放出速度を自在に調節することが出来,高い薬効を有することを可能することを特徴としている。
【0013】
即ち,本発明は以下の(1)〜(10)に関する。
(1)ポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に,一般式(I)あるいは一般式(II)
【化1】
[式中,R,Rはそれぞれ独立して水素原子又は(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは水素原子,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アルキル基,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アラルキル基,置換基を有していてもよい芳香族基,カルボキシ基が保護されたアミノ酸残基又は置換基を有していてもよい糖残基を示し,CX−CYはCH−CH又はC=C(二重結合)を示し,Aはシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基を除いた残基を示す]で表わされる置換基が結合しているシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【0014】
(2)10以上のカルボキシ基を有するポリマーがポリアミノ酸又はその誘導体である前記(1)に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
(3)ポリアミノ酸がポリグルタミン酸である前記(2)に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【0015】
(4)シチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体が一般式(III)
【化2】
[式中,Rは水素原子又は(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは結合基を示し,Rは水素原子又は(C1〜C6)アシル基を示し,Rは一般式(I)あるいは一般式(II)
【化3】
[式中,R,R,R,CX−CY及びAは前記と同じ意味を示す]
で表わされる置換基を示し,bは5〜11500の整数を示し,p及びqはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し,iは5〜200の整数を示し,nは0〜200の整数を示し,且つi+nは10〜300の整数を示す]
で表される化合物である前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【0016】
(5)Rが(C1〜C3)アルキル基,Rが式(IV),(V)又は(VI)
【化4】
[式中,rは1〜6の整数を示す]
で表される結合基,Rが(C1〜C3)アシル基であり,bが100〜300の整数であり,Rによりp及びqはそれぞれ1又は2であり,iが5〜90の整数,nが0〜90の整数で,且つi+nが10〜100の整数である前記(4)に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【0017】
(6)Rがメチル基,Rがトリメチレン基,Rがアセチル基,RにおけるR,Rが共に水素原子であり,CX−CYがCH−CHである前記(5)に記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
(7)シチジン系代謝拮抗剤がゲムシタビン,5’−デオキシ−5−フルオロシチジン,シタラビン又は3’−エチニルシチジンである前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【0018】
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体を薬効成分とする抗がん剤。
(9)前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体を薬効成分とする抗ウイルス剤。
(10)水中でミセルを形成することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか1つに記載のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体,特に,ポリエチレングリコールとポリグルタミン酸とのブロック共重合体における側鎖カルボキシ基に,特定のリンカーを介してシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基が結合した高分子誘導体は,シチジン系代謝拮抗剤の結合様式が1種類であることから均質で製造制御が容易な高分子化合物であり,高い薬効を発揮することが期待される。又,本発明の高分子誘導体は生理的条件下,生体の加水分解酵素に依存することなくシチジン系代謝拮抗剤を放出することが可能であるため,個体差に影響されることなく有効な薬効を示すものである。更に,該リンカーの構成要素であるアミン成分を適宜選択することによって,結合しているシチジン系代謝拮抗剤の放出速度をその薬剤の使用目的に合わせて調節することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例の化合物5,化合物10及び比較化合物(PEG−Glu−ECyd,PEG−Glu−(ECyd,PheOBzl))について,PBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)中,37℃での3’−エチニルシチジン(ECyd)の放出量の全結合量に対する割合を示す。
図2】実施例の化合物15及び化合物21について,PBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)中,37℃での3’−エチニルシチジン(ECyd)の放出量の全結合量に対する割合を示す。
図3】実施例の化合物15,化合物22及び比較化合物(PEG−Glu−ECyd)について,PBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)中,37℃での3’−エチニルシチジン(ECyd)の放出量の全結合量に対する割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体は,ポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基に,一般式(I)あるいは一般式(II)[式中,R,Rはそれぞれ独立して水素原子又は(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは水素原子,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アルキル基,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アラルキル基,置換基を有していてもよい芳香族基,カルボキシ基が保護されたアミノ酸残基又は置換基を有していてもよい糖残基を示し,CX−CYはCH−CH又はC=C(二重結合)を示し,Aはシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基を除いた残基を示す]で表わされる置換基が結合している。
【0022】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体におけるポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体における10以上のカルボキシ基を有するポリマーとしては,側鎖にカルボキシ基を有する低分子モノマーが重合して構成されたポリマーあるいは水酸基等カルボキシ基以外の官能基を有する低分子モノマーの重合体に,例えば,ハロゲノ酢酸等を用いてカルボキシ基を導入したポリマーが挙げられる。
【0023】
該カルボキシ基を有するポリマーあるいは該カルボキシ基を有するポリマーの製造に使用し得る重合体としては,例えば,ポリグルタミン酸,ポリアスパラギン酸,ポリセリン,ポリシステイン,ポリチロシン,ポリリジン,ポリリンゴ酸,デキストラン又はその部分酸化体,ポリウロン酸等が挙げられる。
該カルボキシ基を有するポリマーとして好ましくは,ポリアミノ酸又はその誘導体が挙げられ,ポリ酸性アミノ酸であるポリグルタミン酸が特に好ましい。
【0024】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体におけるポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体におけるポリエチレングリコール構造部分としては,エチレングリコール構造部分を1〜15000程度有していれば特に限定されない。好ましくは直鎖状のポリエチレングリコールと,10以上のカルボキシ基を有するポリマーとの結合基を含めた構造部分である。
【0025】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体におけるポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体としては,ポリエチレングリコール構造部分とポリグルタミン酸のブロック共重合体が好ましい。
【0026】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体の10以上のカルボキシ基を有するポリマーに結合している一般式(I)あるいは一般式(II)の置換基において,R,Rはそれぞれ独立に水素原子又は(C1〜C6)アルキル基である。(C1〜C6)アルキル基とは,例えば,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,s−ブチル基,t−ブチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,シクロプロピル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基等が挙げられる。
該置換基におけるR,Rとしては両者共に水素原子が特に好ましい。
【0027】
該置換基において,Rは水素原子,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アルキル基,置換基を有していてもよい(C1〜C40)アラルキル基,置換基を有していてもよい芳香族基,カルボキシ基が保護されたアミノ酸残基又は置換基を有していてもよい糖残基である。
置換基を有していてもよい(C1〜C40)アルキル基における(C1〜C40)アルキル基としては直鎖状でも分岐していてもよく,例えば,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,s−ブチル基,イソブチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,n−ステアリル基等が挙げられ,該置換基としては,例えば,フェニル基,ナフチル基,メトキシ基,エトキシ基,ジメチルアミノ基,アダマンチル基等が挙げられる。置換位置は置換可能であれば特に限定されない。
【0028】
置換基を有していてもよい(C1〜C40)アラルキル基における(C1〜C40)アラルキル基としては,芳香族炭化水素基が結合したアルキル基であれば特に限定されず,例えば,ベンジル基,ナフチルメチル基,フェネチル基,4−フェニルブチル基等が挙げられ,芳香族炭化水素基部分の置換基としては,例えば,メチル基,エチル基,ニトロ基,塩素原子,臭素原子,ジメチルアミノ基等が挙げられる。置換位置,置換基数は置換可能であれば特に限定されない。
【0029】
置換基を有していてもよい芳香族基としては,例えば,ベンゼン,ナフタレン,フルオレン,アニリン,ニトロアニリン,クロロアニリン,アミノフルオロベンゾニトリル,アミノナフタレン,アミノフラボン,アミノフルオレン等から導かれる置換基が挙げられる。該芳香族化合物から導かれる置換基と,一般式(I)あるいは一般式(II)の置換基との結合位置は置換可能であれば特に限定されない。
【0030】
カルボキシ基が保護されたアミノ酸残基のアミノ酸としては,通常のペプチド合成で用いられるカルボキシ基が保護されたアミノ酸が挙げられ,該アミノ酸のカルボキシ基がエステルあるいはアミドにより保護されている化合物が好ましく,例えば,アラニンの(C1〜C12)アルキルエステル,アスパラギン酸のα若しくはβ(C1〜C12)アルキルエステル,グルタミン酸のα若しくはγ(C1〜C12)アルキルエステル,フェニルアラニンの(C1〜C12)アルキルエステル,システインの(C1〜C12)アルキルエステル,グリシンの(C1〜C12)アルキルエステル,ロイシンの(C1〜C12)アルキルエステル,イソロイシンの(C1〜C12)アルキルエステル,ヒスチジンの(C1〜C12)アルキルエステル,プロリンの(C1〜C12)アルキルエステル,セリンの(C1〜C12)アルキルエステル,スレオニンの(C1〜C12)アルキルエステル,バリンの(C1〜C12)アルキルエステル,トリプトファンの(C1〜C12)アルキルエステル,チロシンの(C1〜C12)アルキルエステル等又はそれらのフェニル基等の置換体が挙げられ,特に,フェニルアラニンメチルエステル,グリシンメチルエステル,グリシン(4−フェニル−1−ブタノール)エステル,ロイシンメチルエステル,フェニルアラニンベンジルエステル,フェニルアラニン(4−フェニル−1−ブタノール)エステル等が好ましい。該アミノ酸はD体でもL体でもそれらの混合物であってもよい。
【0031】
置換基を有していてもよい糖残基の糖としてはアミノ糖であれば特に限定されず,例えば,グルコサミン,ガラクトサミン,マンノサミン等が挙げられ,該置換基としてはアセチル基,ピバロイル基,ベンジル基,メチル基等が挙げられる。該糖としてはD体でもL体でもそれらの混合物であってもよい。又,置換基の置換位置及び置換基数は可能であれば位置や数は限定されない。
【0032】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体においてリンカーとなる一般式(I)あるいは一般式(II)の置換基においてCX−CYは,リンカー部分が環状イミド中間体を形成出来ればよく,CH−CH若しくはC=C(二重結合)であり,例えば,コハク酸モノアミド誘導体やマレイン酸モノアミド誘導体等が挙げられる。CX−CYはCH−CHが特に好ましい。
【0033】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体においてリンカーにシトシン塩基の4位アミノ基でアミド結合しているシチジン系代謝拮抗剤(A−NH)としては,例えば,ゲムシタビン,5’−デオキシ−5−フルオロシチジン,シタラビン又は3’−エチニルシチジン等が挙げられる。
以下に,ゲムシタビン,5’−デオキシ−5−フルオロシチジン,シタラビン,3’−エチニルシチジンについて構造式を示す。
【0034】
ゲムシタビン
【化5】
【0035】
5’−デオキシ−5−フルオロシチジン
【化6】
【0036】
シタラビン
【化7】
【0037】
3’−エチニルシチジン
【化8】
【0038】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体としては,前記一般式(III)[式中,Rは水素原子又は(C1〜C6)アルキル基を示し,Rは結合基を示し,Rは水素原子又は(C1〜C6)アシル基を示し,Rは一般式(I)あるいは一般式(II)[式中,R,R,R,CX−CY及びAは前記と同じ意味を示す]で表わされる置換基を示し,bは5〜11500の整数を示し,p及びqはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し,iは5〜200の整数を示し,nは0〜200の整数を示し,且つi+nは10〜300の整数を示す]で表される化合物が好ましい。
【0039】
における(C1〜C6)アルキル基としては,(C1〜C6)の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ,好ましくは(C1〜C4)アルキル基が挙げられ,例えば,メチル基,エチル基,n−プロピル基,n−ブチル基等が挙げられる。
式(III)におけるRとしてはメチル基が特に好ましい。
【0040】
における(C1〜C6)アシル基としては特に限定されず,好ましくは(C1〜C3)アシル基が挙げられ,例えば,ホルミル基,アセチル基,プロピオニル基等が挙げられる。
式(III)におけるRとしてはアセチル基が特に好ましい。
【0041】
は一般式(I)あるいは一般式(II)で表わされる置換基であり,該置換基は前記した通りであり,好ましい基も同様である。
【0042】
の結合基は,ポリエチレングリコール構造部分と10以上のカルボキシ基を有するポリマーとのブロック共重合体においてポリエチレングリコール構造部分の10以上のカルボキシ基を有するポリマーとの結合側の末端部を構成する構造部分であり,ヘテロ原子を介していてもよい直鎖又は分岐鎖の(C1〜C20)アルキレン基である。該ヘテロ原子としては酸素原子,窒素原子,硫黄原子等が挙げられる。
該結合基としては,例えば,前記の式(IV),式(V),式(VI)で表される基が挙げられる。ここでメチレン数rは1〜6の整数であり,2〜4が好ましく,3が特に好ましい。
の結合基としては式(IV)[r=3]で表されるトリメチレン基が殊更好ましい。
【0043】
一般式(III)におけるp及びqはそれぞれ独立に1〜3の整数であるが,Rの結合基によって規定される。例えば,結合基が式(IV)で表される基の場合,p=q=1であり,結合基が式(V)で表される基の場合,p=2,q=1であり,結合基が式(VI)で表される基の場合,p=2,q=2である。
【0044】
一般式(III)におけるbは5〜11500程度の整数であり,好ましくは8〜2300程度の整数であり,更に好ましくは100〜300程度の整数である。ポリエチレングリコール構造部分の分子量としては300〜500000程度であり,好ましくは500〜100000程度であり,更に好ましくは1000〜50000程度である。なお,本発明における分子量とはGPC法で測定した重量平均分子量である。
【0045】
一般式(III)におけるiは5〜200の整数,好ましくは5〜90であり,nは0〜200の整数,好ましくは0〜90であり,且つ全グルタミン酸数(i+n)は10〜300の整数、好ましくは10〜100程度,特に好ましくは10〜60程度である。全グルタミン酸数(i+n)に対するシチジン系代謝拮抗剤の結合したグルタミン酸数(i)の割合は10〜100%であり,好ましくは20〜100%であり,更に好ましくは40〜100%である。
一般式(III)におけるポリグルタミン酸の各構成部分は,その結合順は限定されず,ブロック型でもランダム型でもよい。
【0046】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体の分子量は1000〜600000程度,好ましくは1100〜110000程度,更に好ましくは1500〜80000程度である。
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体中の一般式(I)あるいは一般式(II)の置換基は,1分子中にそれぞれが混在していても一方のみであってもよく,R,R,Rの基も1分子中で同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体は,水中でポリエチレングリコール構造部分を外殻とし,シチジン系代謝拮抗剤がリンカーを介して結合している疎水性であるポリマーを内殻とするミセルを形成してもよい。
【0048】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体の製造について以下に例示するが,製造法がこれらに限定されるわけではない。
まず,前記一般式(I)あるいは一般式(II)で表されるリンカー部分の付いたシチジン系代謝拮抗剤誘導体を製造する。即ち,保護したアミノ基とカルボキシ基を有するコハク酸モノアミド誘導体又は保護したアミノ基とカルボキシ基を有するマレイン酸モノアミド誘導体と,シチジン系代謝拮抗剤とを有機溶媒中,脱水縮合剤を用いてシチジン系代謝拮抗剤の4位アミノ基とアミド結合させ,保護基を脱保護して,アミノ基を有しシチジン系代謝拮抗剤が結合したコハク酸モノアミド誘導体又はアミノ基を有しシチジン系代謝拮抗剤が結合したマレイン酸モノアミド誘導体を得る。
次いで,文献に記載又はそれを応用して得られるポリエチレングリコール構造部分とポリグルタミン酸とのブロック共重合体の側鎖カルボキシ基と該誘導体を有機溶媒中,脱水縮合剤を用いてアミド結合させる方法である。
【0049】
より詳細に説明する。例えば,tert−ブトキシカルボニル基(Boc)でアミノ基を保護したコハク酸モノアミド誘導体と3’−エチニルシチジンを両者が溶解する有機溶媒,好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF),1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI),N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒に溶解し,0〜180℃,好ましくは5〜50℃でジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC),ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI),1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)塩酸塩,1−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキシキノリノン(EEDQ),4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM),O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロリン酸塩(HBTU),O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロリン酸塩(HATU),(1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ−2−モルホリノ−カルベニウム ヘキサフルオロリン酸塩(COMU)等の脱水縮合剤を用いた反応に付して,縮合体を得る。反応物から必要により分離精製工程を経てシトシン塩基の4位アミノ基とのアミド結合体を得てもよい。又,脱水縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)若しくは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)塩酸塩,反応補助剤として1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール(HOBt)若しくは1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)の使用,あるいは,1−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキシキノリノン(EEDQ),4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM),(1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ−2−モルホリノ−カルベニウム ヘキサフルオロリン酸塩(COMU)の脱水縮合剤のみの使用により目的とするシトシン塩基の4位アミノ基とのアミド結合体を優先的に製造することが出来,その製造方法が実用上好ましい。更に,シチジン系代謝拮抗剤がカルボキシ基と反応する他の官能基を保護して縮合反応に付し,反応後に適当な段階で脱保護してもよい。
次いで,Bocを脱保護し国際公開2006/120914号パンフレットに記載の方法によって調製されるメトキシポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体と,前記と同様な溶媒中,前記と同様な脱水縮合剤を用い,必要に応じて反応補助剤を使用してアミド結合させ,本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体とする。
【0050】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体は,結合しているシチジン系代謝拮抗剤の薬効に相当する疾患を適応症とする医薬として使用出来る。例えば,抗がん剤,抗ウイルス剤等である。このような用途も本発明に含まれる。該高分子誘導体は,注射剤,錠剤,散剤等の通常使用されている剤型にて使用され得る。製剤化に当たり通常使用されている薬学的に許容される担体,例えば,結合剤,滑沢剤,崩壊剤,溶剤,賦形剤,可溶化剤,分散剤,安定化剤,懸濁化剤,保存剤,無痛化剤,色素,香料等を使用してもよい。
【0051】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体は注射剤としての使用が好ましく,通常,例えば,水,生理食塩水,5%ブドウ糖又はマンニトール液,水溶性有機溶媒(例えば,グリセロール,エタノール,ジメチルスルホキシド,N−メチルピロリドン,ポリエチレングリコール,クレモホール等及びそれらの混合液)並びに水と該水溶性有機溶媒の混合液等に溶解して使用される。
【0052】
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体の投与量は,そのシチジン系代謝拮抗剤の特性,患者の性別,年齢,生理的状態,適応症,病態等により当然変更され得るが,非経口的に,通常,成人1日当たり,活性成分として0.01〜500mg/m,好ましくは0.1〜250mg/mを投与する。注射による投与は,静脈,動脈,患部(腫瘍部)等に行われる。
本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体の使用に際し,本発明のシチジン系代謝拮抗剤の高分子誘導体に含まれる2以上の化合物を混ぜて使用してもよい。
【実施例】
【0053】
以下,本発明を実施例により更に説明する。ただし,本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。なお,実施例中で本発明の化合物が水溶液中でミセル等の粒子を形成する場合,該粒子の大きさ(粒径)は動的光散乱法によるガウス分布分析又は静的光散乱法によるRMS半径で示し,前者はZetaPotential/Particlesizer NICOMPTM 380ZLS(Particle Sizing Systems社製)により,後者はDAWN EOSTM(Wyatt Technology社製)により測定し算出した。
【0054】
合成例1 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルブチルアミド−4−ベンジルエステル(化合物1)の合成
4.27gのN−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−4−ベンジルエステル((株)ペプチド研究所製)と2.1mLの1−フェニルブチルアミンを40mLのDMFに溶解後,2.70gのWSC塩酸塩と1.93gのHOBtを加え,室温にて6時間攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物1を3.94g得た。
MS:m/z 477(M+Na):C2634(M+Na)としての計算値 477
【0055】
合成例2 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルブチルアミド(化合物2)の合成
合成例1で得られた3.50gの化合物1を酢酸エチル15mLに溶解し,5%パラジウム炭素(水分含量50%)0.656gを加えた後,系内を水素置換し,室温にて一夜攪拌し水素化分解した。5%パラジウム炭素を濾過し,酢酸エチル80mLで洗浄後,有機層を併せ,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物2を2.58g得た。
MS:m/z 387(M+Na)+:1928(M+Na)としての計算値 387
【0056】
合成例3 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物3)の合成
合成例2で得られた754mgの化合物2,500mgの3’−エチニルシチジン及び275mgのHOBtを4mLのDMFに溶解後,系内をアルゴン置換し,353mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて10時間攪拌した。次いで,377mgの化合物2と177mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて3時間,続いて177mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて2時間,更に,189mgの化合物2と177mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて2時間攪拌した。反応液に水を加え酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液,飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH)にて精製し,化合物3を716mg得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d,ppm):1.35(s,9H),1.3−1.6(m,4H),2.55(m,2H),2.6−2.7(m,2H),3.06(m,2H),3.16(s,1H),3.54(s,1H),3.6−3.7(m,2H),3.96(m,1H),4.14(d,1H),4.3(br,1H),5.0(br,1H),5.87(d,1H),5.93(br,1H),7.01(d,1H),7.1−7.2(m,5H),7.80(br,1H),8.31(d,1H),10.87(s,1H)
MS:m/z 614(M+H):C2937(M+H)としての計算値 614
【0057】
合成例4 アスパラギン酸−1−フェニルブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物4)の合成
合成例3で得られた860mgの化合物3を酢酸エチル3.5mLに溶解後,3.5mLの4N−HCl/AcOEtを加えて室温にて1時間攪拌した。反応終了後,減圧下で酢酸エチルを留去して化合物4を710mg得た。
MS:m/z 514(M+H):C2531(M+H)としての計算値 514
【0058】
実施例1 分子量12000のメトキシポリエチレングリコール構造部分と重合数が21のポリグルタミン酸部分からなるブロック共重合体と,アスパラギン酸−1−フェニルブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミドとのアミド結合体:一般式(III)のR=メチル基,R=トリメチレン基,R=アセチル基,R及びR=水素原子,R=1−フェニルブチル基,p=q=1,i+n=21,b=273(化合物5)の合成
国際公開2006/120914号パンフレットに記載された方法によって調製した503mgのメトキシポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体を9mLのDMFに溶解した。合成例4で得られた600mgの化合物4,197μLのトリエチルアミン,227μLのDIPCI及び96mgのHOBtを加えて,20℃にて24時間攪拌した。更に,55μLのトリエチルアミンと114μLのDIPCIを加えて3時間攪拌後,反応液をエタノール9mL及びジイソプロピルエーテル72mLの混合溶液にゆっくり滴下した。室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/8(v/v),20mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル12mLに溶かし,エタノール15mL及びジイソプロピルエーテル90mLの混合溶液にゆっくり滴下し室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/8(v/v),20mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル10mL及び水10mLに溶解し,イオン交換樹脂(ダウケミカル製ダウエックス50(H),2mL)を加え攪拌し,樹脂を濾取してアセトニトリル/水(1/1(v/v),30mL)にて洗浄した。得られた溶液からアセトニトリルを減圧下留去し,次いで凍結乾燥して化合物5を580mg得た。
【0059】
化合物5に結合した3’−エチニルシチジンの含量は,化合物5に1N−水酸化ナトリウム水溶液を加えて37℃で1時間攪拌後,遊離した3’−エチニルシチジンをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析し,予め3’−エチニルシチジンにより得られた検量線を用いて計算し求めた。その結果,結合した3’−エチニルシチジンの含量は19.4%(w/w)だった。
【0060】
化合物5の水溶液(1mg/mL)を用いてガウス分布分析及び静的光散乱法によるRMS半径の算出を行ったところ,それぞれ18nm(volume weighting),11nmだった。このことから化合物5は水中でミセルを形成していると考えられる。
【0061】
合成例5 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−ブチルアミド−4−ベンジルエステル(化合物6)の合成
4.27gのN−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−4−ベンジルエステルと1.31mLのn−ブチルアミンを25mLのDMFに溶解後,2.93gのWSC塩酸塩と1.93gのHOBtを加え,室温にて一夜攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物6を5.12g得た。
【0062】
合成例6 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−ブチルアミド(化合物7)の合成
合成例5で得られた5.09gの化合物6を酢酸エチル15mLに溶解し,5%パラジウム炭素(水分含量50%)0.656gを加えた後,系内を水素置換し,室温にて一夜攪拌し水素化分解した。5%パラジウム炭素を濾過し,酢酸エチルで洗浄後,有機層を併せ,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物7を4.05g得た。
【0063】
合成例7 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−ブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物8)の合成
合成例6で得られた596mgの化合物7,500mgの3’−エチニルシチジン及び275mgのHOBtを4mLのDMFに溶解後,系内をアルゴン置換し,353mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて9時間攪拌した。次いで,298mgの化合物7と177mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて3時間,更に,298mgの化合物7と177mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて3時間攪拌した。反応液に水を加え酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液,飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH)にて精製し,化合物8を590mg得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d,ppm):0.85(t,3H),1.2−1.3(m,4H),1.36(s,9H),2.5−2.7(m,2H),3.03(m,2H),3.53(s,1H),3.6−3.7(m,2H),3.96(m,1H),4.14(m,1H),4.28(m,1H),5.08(m,1H),5.87(d,1H),5.92(m,2H),7.00(d,1H),7.20(d,1H),7.75(m,1H),8.32(d,1H),10.86(s,1H)
MS:m/z 538(M+H):C2333(M+H)としての計算値 538
【0064】
合成例8 アスパラギン酸−1−ブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物9)の合成
合成例7で得られた590mgの化合物8を酢酸エチル3mLに溶解後,2.7mLの4N−HCl/AcOEtを加え室温にて1時間攪拌した。反応終了後,減圧下で酢酸エチルを留去して化合物9を500mg得た。
MS:m/z 438(M+H):C1927(M+H)としての計算値 438
【0065】
実施例2 分子量12000のメトキシポリエチレングリコール構造部分と重合数が21のポリグルタミン酸部分からなるブロック共重合体と,アスパラギン酸−1−ブチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミドとのアミド結合体:一般式(III)のR=メチル基,R=トリメチレン基,R=アセチル基,R及びR=水素原子,R=1−ブチル基,p=q=1,i+n=21,b=273(化合物10)の合成
国際公開2006/120914号パンフレットに記載された方法によって調製した438mgのメトキシポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体を8mLのDMFに溶解し,35℃にて15分攪拌後,20℃にて1時間攪拌した。合成例8で得られた450mgの化合物9,172μLのトリエチルアミン,198μLのDIPCI及び84mgのHOBtを加えて,20℃にて24時間攪拌した。更に,48μLのトリエチルアミンと99μLのDIPCIを加えて3時間攪拌後,反応液をエタノール8mL及びジイソプロピルエーテル64mLの混合溶液にゆっくり滴下した。室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/8(v/v),18mL)で洗浄した。沈析物を1mlのDMF及び7mLのアセトニトリルの混合溶媒に溶解し,エタノール8mL及びジイソプロピルエーテル64mLの混合溶液にゆっくり滴下し,室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/8(v/v),18mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル13.5mL及び水4.5mLに溶解後,イオン交換樹脂(ダウケミカル製ダウエックス50(H),5mL)を加え攪拌し,樹脂を濾取してアセトニトリル/水(1/1(v/v),25mL)にて洗浄した。得られた溶液からアセトニトリルを減圧下留去し,次いで凍結乾燥して化合物10を560mg得た。
【0066】
化合物10に結合した3’−エチニルシチジンの含量は,実施例1と同様に加水分解後にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析した。結合した3’−エチニルシチジンの含量は20.9%(w/w)だった。
【0067】
化合物10の水溶液(1mg/mL)を用いてガウス分布分析を行ったところ,散乱強度が弱く,この濃度で化合物10は水中でミセルを形成していないと考えられた。
【0068】
合成例9 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド−4−ベンジルエステル(化合物11)の合成
10.3gのN−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−4−ベンジルエステルと5.17gの1−アダマンタンメチルアミンを100mLのDMFに溶解後,7.15gmのWSC塩酸塩と4.72gのHOBtを加え,室温にて一夜攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物11を15.0g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.42(s,6H),1.46(s,9H),1.61(d,3H),1.70(d,3H),1.97(s,3H),2.71−2.76(m,1H),2.91−2.96(m,2H),3.03(dd,1H),4.50(br,1H),5.11(d,1H),5.16(d,1H),5.74(br,1H),6.56(br,1H),7.38−7.31(m,5H)
MS:m/z 493(M+Na):C2738(M+Na)としての計算値 493
【0069】
合成例10 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド(化合物12)の合成
合成例9で得られた15.0gの化合物11を酢酸エチル75mLに溶解し,10%パラジウム炭素(水分含量50%)1.5gを加えた後,系内を水素置換し,室温にて2日間攪拌し水素化分解した。10%パラジウム炭素を濾過し,酢酸エチル20mLで洗浄後,有機層を併せ,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物12を9.22g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.46(s,15H),1.61(d,3H),1.70(d,3H),1.96(s,3H),2.71−2.77(m,1H),2.89−3.06(m,3H)4.49(br,1H),5.76(br,1H),6.77(br,1H)
MS:m/z 403(M+Na):C2032(M+Na)としての計算値 403
【0070】
合成例11 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物13)の合成
合成例10で得られた1.88gの化合物12,1.10gの3’−エチニルシチジン及び658mgのHOBtを20mLのDMFに溶解後,凍結脱気を行った。914mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて9時間攪拌した。次いで,313mgの化合物12と141mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて2時間攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/n−Hexane)にて精製し,化合物13を1.47g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.41(s,9H),1.45(s,6H),1.58(d,3H),1.67(d,3H),1.93(s,3H),2.64(br,2H),2.92−3.22(m,5H),4.00(br,1H),4.30(br,1H),4.49(br,1H),4.68(br,1H),5.18(br,1H),5.85(br,1H),5.26(br,1H),7.01(br,1H),7.45(br,1H),7.71(br,1H),8.22(br,1H),10.5(br,1H)
MS:m/z 630(M+H):C3143(M+H)としての計算値 630
【0071】
合成例12 アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物14)の合成
合成例11で得られた1.47gの化合物13を酢酸エチル6mLに溶解後,6mLの4N−HCl/AcOEtを加えて室温にて1時間攪拌した。反応終了後,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物14を1.20g得た。
H−NMR(400MHz,CDOD,ppm):1.57(s,6H),1.70(br,3H),1.79(br,3H),2.00(s,3H),2.82(br,2H),3.15−3.20(m,5H),4.05(br,1H),4.22(br,1H),4.36(br,1H),6.04(br,1H),7.37(br,1H),8.60(br,1H)
MS:m/z 530(M+H):C2635(M+H)としての計算値 530
【0072】
実施例3 分子量12000のメトキシポリエチレングリコール構造部分と重合数が21のポリグルタミン酸部分からなるブロック共重合体と,アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミドとのアミド結合体:一般式(III)のR=メチル基,R=トリメチレン基,R=アセチル基,R及びR=水素原子,R=1−アダマンチルメチル基,p=q=1,i+n=21,b=273(化合物15)の合成
国際公開2006/120914号パンフレットに記載された方法によって調製した489mgのメトキシポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体を10mLのDMFに溶解した。合成例12で得られた600mgの化合物14,192μLのトリエチルアミン,221μLのDIPCI及び94.0mgのHOBtを加えて,20℃にて19時間攪拌した。更に,53μLのトリエチルアミンと55μLのDIPCIを加えて4時間攪拌後,反応液をエタノール10mL及びジイソプロピルエーテル90mLの混合溶液にゆっくり滴下した。室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/9(v/v),10mL)で洗浄した。沈析物を8mLのDMFに溶かし,エタノール10mL及びジイソプロピルエーテル90mLの混合溶液にゆっくり滴下し,室温にて1時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/9(v/v),4mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル10mL及び水10mLに溶解後,イオン交換樹脂(ダウケミカル製ダウエックス50(H),1mL)を加え攪拌し,樹脂を濾取してアセトニトリル/水(1/1(v/v),10mL)にて洗浄した。得られた溶液からアセトニトリルを減圧下留去し,次いで凍結乾燥することにより化合物15を775mg得た。
【0073】
化合物15に結合した3’−エチニルシチジンの含量は,実施例1と同様に加水分解後にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析し計算した。結合した3’−エチニルシチジンの含量は19.5%(w/w)だった。
【0074】
化合物15の水溶液(1mg/mL)を用いてガウス分布分析及び静的光散乱法によるRMS半径の算出を行ったところ,それぞれ20nm(volume weighting),13nmだった。よって,化合物15は水中でミセルを形成しているものと考えられた。
【0075】
合成例13 フェニルアラニンフェニルブチルエステル(化合物16)の合成
5.03gのフェニルアラニンと22.8gの4−フェニル−1−ブタノールを1,4−ジオキサン17mL中に加え,17mLの4N−HCl/1,4−dioxaneを加えて室温にて4日間攪拌した。濾過をして濾液にジエチルエーテル450mLを加えて室温にて1.5時間攪拌した。沈析物を濾取し,ジエチルエーテル50mLで洗浄後,真空乾燥して化合物16を5.90g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.44−1.55(m,4H),2.53(t,2H),3.31(dd,2H),3.44(dd,2H),4.05(t,2H),4.44(dd,1H),7.11−7.29(m,10H),8.74(br,2H)
MS:m/z 298(M+H):C1923NO(M+H)としての計算値 298
【0076】
合成例14 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルアラニン−(4−フェニルブチルエステル)アミド−4−ベンジルエステル(化合物17)の合成
2.08gのN−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−4−ベンジルエステルと合成例13で得られた2.18gの化合物16を20mLのDMFに溶解後,1.43gのWSC塩酸塩と0.943gのHOBtを加えて,室温にて一夜攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し、次いで真空乾燥して化合物17を1.18g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.42(s,6H),1.57−1.61(m,4H),2.60(t,2H),2.69(dd,1H),3.02−3.08(m,3H),4.04−4.13(m,2H),4.52(br,1H),4.78(dd,1H),5.11(d,1H),5.14(d,1H),5.62(br,1H),6.95(br,1H),7.12−7.38(m,15H)
MS:m/z 625(M+Na):C3542(M+Na)としての計算値 625
【0077】
合成例15 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルアラニン−(4−フェニルブチルエステル)アミド(化合物18)の合成
合成例14で得られた1.18gの化合物17を酢酸エチル5mLに溶解し,10%パラジウム炭素(水分含量50%)0.118gを加えた後,系内を水素置換し,室温にて一夜攪拌した。10%パラジウム炭素を濾過し,酢酸エチル20mLで洗浄後,有機層を併せ,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物18を1.18g得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,ppm):1.42(s,19H),1.58(m,4H),2.60(t,2H),2.70(dd,1H),2.98−3.09(m,3H),4.03−4.12(m,2H),4.52(br,1H),4.79(dd,1H),5.61(d,1H),7.06−7.38(m,11H)
MS:m/z 535(M+Na):C2836(M+Na)としての計算値 535
【0078】
合成例16 N−(tert−ブトキシカルボニル)アスパラギン酸−1−フェニルアラニン−(4−フェニルブチルエステル)−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物19)の合成
合成例15で得られた200mgの化合物18,87.0mgの3’−エチニルシチジン及び55.0mgのHOBtを2mLのDMFに溶解後,凍結脱気を行った。次いで,70.6mgのWSC塩酸塩を加えて20℃にて6時間攪拌した。続いて,35.3mgのWSC塩酸塩を加え,20℃にて2時間攪拌した。反応液に水を加え,酢酸エチルにて抽出し,有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液,飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下で酢酸エチルを留去し,得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/n−Hexane)にて精製し,化合物19を155mg得た。
MS:m/z 784(M+Na):C394711(M+Na)としての計算値 784
【0079】
合成例17 アスパラギン酸−1−フェニルアラニン−(4−フェニルブチルエステル)−4−(3’−エチニルシチジン)アミド(化合物20)の合成
合成例16で得られた155mgの化合物19を酢酸エチル1mLに溶解後,510μLの4N−HCl/AcOEtを加えて室温にて1時間攪拌した。反応終了後,減圧下で酢酸エチルを留去し,次いで真空乾燥して化合物20を105mg得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d,ppm):1.51(s,4H),2.22−2.24(m,3H),2.78−3.07(m,4H),3.31−4.18(m,6H),4.50(s,1H),5.83(d,1H),5.89(d,1H),6.28(br,1H),7.19−7.26(m,11H),8.34(br,2H),8.94(s,1H),9.09(br,2H),10.1(br,1H),11.3(br,1H)
MS:m/z 684(M+Na):C3439(M+Na)としての計算値 684
【0080】
実施例4 分子量12000のメトキシポリエチレングリコール構造部分と重合数が21のポリグルタミン酸部分からなるブロック共重合体と,アスパラギン酸−1−フェニルアラニン−(4−フェニルブチルエステル)−4−(3’−エチニルシチジン)アミドとのアミド結合体:一般式(III)のR=メチル基,R=トリメチレン基,R=アセチル基,R及びR=水素原子,R=1−フェニルアラニン−4−フェニルブチルエステル基,p=q=1,i+n=21,b=273(化合物21)の合成
国際公開2006/120914号パンフレットに記載された方法によって調製した66mgのメトキシポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体を2mLのDMFに溶解した。合成例17で得られた100mgの化合物20,23μLのトリエチルアミン,39μLのDIPCI及び13mgのHOBtを加えて20℃にて4時間攪拌した。更に,19μLのトリエチルアミンと20μLのDIPCIを加えて16時間攪拌後,反応液をエタノール4mL及びジイソプロピルエーテル36mLの混合溶液にゆっくり滴下した。室温にて0.5時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/9(v/v),4mL)で洗浄した。沈析物を少量のDMFに溶かし,酢酸エチル4mL及びジイソプロピルエーテル24mLの混合溶液にゆっくり滴下し室温にて3時間攪拌し,沈析物を濾取して酢酸エチル/ジイソプロピルエーテル(1/6(v/v),4mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル2.5mL及び水2.5mLに溶解後,イオン交換樹脂(ダウケミカル製ダウエックス50(H),0.5mL)を加え攪拌し,樹脂を濾取してアセトニトリル/水(1/1(v/v),3mL)にて洗浄した。得られた溶液からアセトニトリルを減圧下留去し,次いで凍結乾燥して化合物21を36.5mg得た。
【0081】
化合物21に結合した3’−エチニルシチジンの含量は,実施例1と同様に加水分解後にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析し計算した。結合した3’−エチニルシチジンの含量は22.5%(w/w)だった。
【0082】
化合物21の水溶液(1mg/mL)を用いてガウス分布分析及び静的光散乱法によるRMS半径の算出を行ったところ,それぞれ41nm(volume weighting),40nmだった。よって,化合物21は水中でミセルを形成しているものと考えられた。
【0083】
実施例5 分子量5000の二本のメトキシポリエチレングリコール部分と重合数が21のポリグルタミン酸部分からなるブロック共重合体と,アスパラギン酸−1−アダマンタンメチルアミド−4−(3’−エチニルシチジン)アミドとのアミド結合体:一般式(III)のR=メチル基,R=式(V)の結合基,r=3,R=アセチル基,R及びR=水素原子,R=1−アダマンチルメチル基,i+n=21,b=114(化合物22)の合成
国際公開2006/120914号パンフレットに記載された方法を応用して(メトキシポリエチレングリコール)アミン(SUNBRIGHT GL2−100PA;日油(株)製)から調製した413mgの(メトキシポリエチレングリコール)−ポリグルタミン酸ブロック共重合体を8.3mLのDMFに溶解した。次いで,合成例12で得られた570mgの化合物14,183μLのトリエチルアミン,210μLのDIPCI及び89mgのHOBtを加えて,20℃にて17時間攪拌した。更に,51μLのトリエチルアミンと105μLのDIPCIを加えて3時間攪拌後,反応液をエタノール10mL及びジイソプロピルエーテル90mLの混合溶液にゆっくり滴下した。室温にて0.5時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/9(v/v),10mL)で洗浄した。沈析物を8mLのDMFに溶かし,エタノール10mL及びジイソプロピルエーテル90mLの混合溶液にゆっくり滴下し,室温にて0.5時間攪拌し,沈析物を濾取してエタノール/ジイソプロピルエーテル(1/9(v/v),4mL)で洗浄した。沈析物をアセトニトリル35mL及び水17.5mLに溶解し,イオン交換樹脂(ダウケミカル製ダウエックス50(H),5mL)を加え攪拌し,樹脂を濾取してアセトニトリル/水(1/1(v/v),10mL×2)にて洗浄した。得られた溶液からアセトニトリルを減圧下留去し,次いで凍結乾燥することにより化合物22を685mg得た。
【0084】
化合物22に結合した3’−エチニルシチジンの含量は,実施例1と同様に加水分解後,HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析し計算した。結合した3’−エチニルシチジンの含量は20.2%(w/w)だった。
【0085】
化合物22の水溶液(1mg/mL)を用いてガウス分布分析及び静的光散乱法によるRMS半径の算出を行ったところ,それぞれ14nm(volume weighting),8nmだった。よって,化合物22は水中でミセルを形成しているものと考えられた。
【0086】
試験例1 3’−エチニルシチジン高分子誘導体の酵素非存在下での薬剤放出
化合物5,化合物10,化合物15,化合物21及び化合物22と,比較化合物として国際公開第2006/120914号パンフレット記載の方法で作成したポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体に3’−エチニルシチジン誘導体が結合しているPEG−Glu−ECyd,ポリエチレングリコール−ポリグルタミン酸ブロック共重合体に3’−エチニルシチジンとフェニルアラニンベンジルエステルが結合しているPEG−Glu−(ECyd,PheOBzl)をそれぞれPBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水;pH7.4)に1mg/mLの濃度で溶解し,37℃にてインキュベートした。各高分子誘導体から放出された3’−エチニルシチジンを,HPLCを用いて定量した。定量値と高分子誘導体の薬剤含有量から求めた高分子誘導体中の全薬剤量との比を図1図3に示した。
【0087】
図1図2及び図3から明らかなように,本発明の高分子誘導体(化合物5,化合物10,化合物15,化合物21及び化合物22)は加水分解酵素が存在しなくても3’−エチニルシチジンを放出し,アスパラギン酸に結合しているRの置換基によって放出速度を大きく変化させることが出来,比較化合物に比べて放出速度は同等以上であった。特に化合物5及び化合物10は,PEG−Glu−ECydよりも十分速く3’−エチニルシチジンを放出することが出来た。一方,比較化合物は,ブロック共重合体にコハク酸モノアミド構造部分を持たないことから放出速度を速くすることが出来ない。これらの結果は,本発明の高分子結合体が薬剤放出速度の調整能に優れていることを示している。
【0088】
試験例2 3’−エチニルシチジン誘導体の抗腫瘍活性試験
ラット皮下で継代しているヒト肺癌LC−11−JCKを約2mm角のブロックにし,套管針を用いてF344ヌードラットの背側部皮下に移植した。腫瘍移植後13日目から本発明の高分子誘導体(化合物5,化合物10)を表1に示す投与量で静脈内に単回投与した。又,対照薬(3’−エチニルシチジン;ECyd)は,Alzet pumpを用い24時間かけて皮下にinfusion投与した。なお,各化合物は5%ブドウ糖溶液で溶解して使用した。投与量は,体重変動が最大減少率10%程度までを最大投与量として,その投与量より投与を行った。
【0089】
投与開始日及び投与開始後23日目の腫瘍体積を,腫瘍の長径(Lmm)及び短径(Wmm)をノギスで計測し,腫瘍体積を(LxW)/2により計算して無処置群(コントロール)の腫瘍体積に対する相対腫瘍体積比として表1に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
この結果,本発明の高分子誘導体である化合物5,化合物10は,対照薬である3’−エチニルシチジンと比較して,体重変動が最大減少率10%程度以下の最大投与量において強い抗腫瘍効果を示し,且つその半量で対照薬の最大投与量と同等の効果を有することを示した。
図1
図2
図3