(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建物の上下方向に延長するように設けられて上部開口が建物の屋上と連通し、かつ、下部開口が連通路を介して建物の下部の回りと連通するように建物の内側に設けられたボイドと、ボイドの周囲を取り囲むように設けられたボイド側廊下とを備えた建物において、
ボイド側廊下のボイド側縁部に、ボイド側廊下側からボイド側に向けて傾斜して立ち上がる傾斜面を有してボイドの空間内に位置される気流制御部を備えたことを特徴とする建物。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1;
図2に示すように、建物1は、内側にボイド5を備えた構造の建物である。ボイド5は、建物1の上下方向にし、上端部6が開口し、かつ、下端部7が連通路8を介して建物1の下部の回りと連通する構成である。
【0008】
建物1は、ボイド5の周囲を取り囲むように設けられたボイド側廊下10のボイド側縁部9に、ボイド側廊下10側からボイド5側に向けて傾斜して立ち上がる傾斜面11を形成する板12(例えば平板)により形成されてボイド5の空間内に位置される気流制御部20を備える(
図1(b)参照)。尚、傾斜面11は、ボイド側廊下10側に面する面である。
また、気流制御部20は、手摺を兼ねた気流制御部20であってもよいし、図外の手摺とは別に設けられた気流制御部20であってもよい。
手摺を兼ねた構成の気流制御部20を設けた場合、気流制御部20の内側に手摺が無いために空気の流れを阻害する要因が減るので、気流制御部20の傾斜面11による気流制御効果が向上し、後述するようにボイド側廊下10の換気がより良好に行われるようになる。
一方、気流制御部20とは別に手摺を設ける場合には、当該手摺としては、例えば、ボイド側廊下10と気流制御部20との境界部付近のボイド側廊下10や気流制御部20より立ち上がるように設けられた手摺、あるいは、気流制御部20の上端側から建物内側方向に延長するように設けられた手摺を設ければよいが、この場合、空気の流通を遮断する板状でない構成の手摺を設ける。例えば、ボイド側廊下10と気流制御部20との境界部付近のボイド側廊下10や気流制御部20より立ち上がるように設けられた支持部の上端側にボイド側廊下10の延長方向に延長するような手摺部を備えた手摺、あるいは、気流制御部20の上端側から建物内側方向に延長するように設けられた支持部の先端側にボイド側廊下10の延長方向に延長するような手摺部を備えた手摺であって、前記支持部が柵状又は格子状に形成された構成の手摺を設ければよい。
【0009】
例えば、
図1(b)に示すように、気流制御部20のボイド側廊下10の床面13からの垂直方向の高さhは120cm程度に形成され、気流制御部20のボイド側廊下10の領域からボイド空間に突出する水平方向の長さwは69cm程度に形成され、気流制御部20の傾斜面11とボイド側廊下10の床面とのなす角度(鋭角)αは60°程度に形成される。尚、手摺を兼ねた気流制御部20の場合、気流制御部20の高さh、長さw、角度αは、人が気流制御部20を乗り越えられないように適切な値に設定される。例えば、手摺を兼ねた気流制御部20の場合、気流制御部20の高さhは110〜130cm程度が好ましい。
気流制御部20は、例えば、鉄筋コンクリート、金属、強化合成樹脂等の材料により形成される。
【0010】
図2(a)に示す建物1の外壁面21(下部に連通路8が形成された外壁面)に白抜矢印Aで示した方向(外壁面21と直交する方向)から風が吹き風圧が建物に作用した場合にボイド側廊下10内及びボイド5内での気流状態をシミュレーションで求めた結果を
図2(d)に示す。
また、
図3(a)に示すような、ボイド側廊下10のボイド側縁部9に当該ボイド側縁部9から垂直に立ち上がる手摺等の垂直部15を備えた従来の建物100の外壁面21(下部に連通路8が形成された外壁面)に白抜矢印Aで示した方向(外壁面21と直交する方向)から風が吹き風圧が建物に作用した場合にボイド側廊下10内及びボイド5内での気流状態をシミュレーションで求めた結果を
図3(d)に示す。
尚、
図2及び
図3において、図(a)はシミュレーションの対象とした建物の斜視図、図(b)はシミュレーションにおける建物の外壁面に対する風向きを示す平面図、図(c)はシミュレーションの対象とした建物の垂直断面図、図(d)は建物の外壁面21に風圧が作用した場合にボイド側廊下10内及びボイド5内での気流状態をシミュレーションで求めた結果を示した図である。尚、
図2(d);
図3(d)では、
図2(b);
図3(b)の垂直断面切断位置Pにおける状態を示した。
【0011】
ボイド側廊下10に垂直部15を備えた従来の建物100では、
図3(d)に示すように、ボイド側廊下10内で気流が渦巻いてしまって、ボイド側廊下10からボイド5内に気流が流れていないのに対して、実施形態1の建物1では、
図2(d)に示すように、ボイド側廊下10からボイド5内に気流が流れ出ており、ボイド側廊下10の換気が良好に行われていることがわかる。
即ち、実施形態1の建物1によれば、ボイド側廊下10のボイド側縁部9に、ボイド側廊下10側からボイド5側に向けて傾斜して立ち上がる傾斜面11を有してボイド5の空間内に位置される気流制御部20を備えたので、ボイド側廊下10からボイド5へと気流が流れ出やすくなり、ボイド側廊下10の換気を良好にできる。
【0012】
実施形態2
後述するようにボイド5内の換気を良好とできる構成を備えた建物1Aに、実施形態1で説明した気流制御部20を設けた構成とすれば、ボイド側廊下10及びボイド5内の換気をより良好にできる建物となる。
【0013】
図4に示すように、建物1Aは、建物本体2と、建物本体2の屋上3より上方に突出するボイド内換気制御構造体4とを備える。
建物本体2は、内側にボイド5を備える。ボイド5は、建物本体2の上下方向にし、上端部6が開口し、かつ、下端部7が連通路8を介して建物本体2の下部の回りと連通する構成である。
ボイド内換気制御構造体4は、建物本体2の屋上3の周囲を取り囲むように屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁40により構成される。囲み壁40は、例えば板面が垂直面となるように建物本体2の屋上3に設置された平板により構成される。
例えば、建物本体2における屋上3までの建物形状が正四角柱状である場合、正四角形の屋上3の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置する上部開口縁41を形成する四角筒枠状の囲み壁40が建物本体2の屋上3に構築され、かつ、囲み壁40で囲まれた四角柱状の上部開放の柱状空間42が形成される。
【0014】
図4(a)に示す建物1Aの建物本体2の外壁面21(下部に連通路8が形成された外壁面)に白抜矢印Aで示した方向(外壁面21と直交する方向)から風が吹き風圧が建物に作用した場合にボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図4(d)に示す。
尚、
図4及び後述する
図5において、図(a)は数値シミュレーションの対象とした建物の斜視図、図(b)は数値シミュレーションにおける建物の外壁面に対する風向きを示す平面図、図(c)は数値シミュレーションの対象とした建物の垂直断面図、図(d)は当該建物の外壁面21に風圧が作用した場合にボイド5内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示した図である。図(d)において建物1Aの最も左側の外壁面が図(a);図(b)の外壁面21に相当する。
図(d)における等圧線Fに付した数字は風圧係数であり、等圧線Fの1間隔は、風圧係数0.05間隔である。風圧係数Cpは、風が吹くことによって建物1の外表面に作用する圧力pを建物頂部高さHにおける速度圧qHで除した値(Cp=p/qH)である。風圧係数は、+の場合は面を押す力を示し、−の場合は面を引く力を示す。
尚、
図4(d);
図5(d)では、
図4(b);
図5(b)の垂直断面切断位置Pにおける状態を示した。
【0015】
ボイド5内の換気を良好とするためには、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れるようにすることが好ましい。そして、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れるようにするためには、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であること(以下、条件1という)、及び、建物下部の建物回りの空気がボイド5内に流れ込みやすいようにボイド5内の風圧係数がより小さい状態であること(以下、条件2という)が必要であると考えられる。
図4からわかるように、建物1Aによれば、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.70程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.65程度であるので、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態になっており、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.65〜−0.70であり、ボイド5内の風圧係数がより小さい状態であることという条件2を満たす。つまり、
図4に示す建物1Aによれば、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物となる。
【0016】
従って、ボイド5内の換気を良好とできる構成を備えた当該建物1Aに、実施形態1で説明した気流制御部20を設けた構成とすれば、ボイド側廊下10及びボイド5内の換気をより良好にできる建物1を得ることができる。
【0017】
実施形態3
後述するようにボイド5内の換気を良好とできる構成を備えた建物1Bに、実施形態1で説明した気流制御部20を設けた構成とすれば、ボイド側廊下10及びボイド5内の換気をより良好にできる建物となる。
図5に示すように、建物1Bは、ボイド内換気制御構造体4が、建物本体2の屋上3の周囲を取り囲むように屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた壁面45と当該壁面45の上端49とボイド5の上部開口縁51とを繋ぐ傾斜面46とを備えた構成である。尚、
図5において、実施形態2の
図4と同一部分については同一符号を付してその説明を省略する。
例えば、
図5に示すように、建物本体2における屋上3までの建物形状が正四角柱状である場合、正四角形の屋上3の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置する上部開口縁47を形成する四角筒枠状の囲み壁48が建物本体2の屋上に構築され、かつ、囲み壁48を構成する各平板の各上端49とボイド5の上部開口縁51の各一辺とがそれぞれ平板により連結されて各傾斜面46が形成されたことにより、ボイド5の上部開口縁51から上方に延長する上部開放の逆四角錐柱状のような逆錐形状空間50が形成された構成である。
【0018】
図5(a)に示す建物1Bのボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図5(d)に示す。
図5からわかるように、建物1Bによれば、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.70程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.65程度であるので、上記条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.65〜−0.70であり、上記条件2を満たす。即ち、当該建物1Bによれば、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物が得られる。
【0019】
従って、ボイド5内の換気を良好とできる構成を備えた当該建物1Bに、実施形態1で説明した気流制御部20を設けた構成とすれば、ボイド側廊下10及びボイド5内の換気をより良好にできる建物1を得ることができる。
【0020】
尚、気流制御部20は、ボイド5の周囲を取り囲むように設けられたボイド側廊下10のボイド側縁部9の全てに設けることが好ましいが、ボイド側廊下10のボイド側縁部9の一部にのみ設けるようにしてもよいし、また、階毎に設ける場所を異ならせるようにしてもよい。