【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例である熱流束測定装置10の構成を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1の熱流束測定装置10における物体12及び熱抵抗体14を表面に垂直な方向(
図1の矢印IIで示す方向)から見た平面図である。本実施例の熱流束測定装置10は、被測定物である物体12からの熱移動(例えば対流熱伝達や熱放射等)に係る熱流束すなわち単位面積における単位時間あたりの熱量を測定するものであり、
図1に示すように、前記物体12における被測定部位の表面12aには熱抵抗体14が設けられている。この熱抵抗体14は、好適には、熱伝導率が小さく耐熱性に優れたポリイミド等の合成樹脂材料、或いはガラスやセラミックス等の無機材料等から、周縁部が円形状を成す板状に形成されたものである。すなわち、前記熱抵抗体14は、好適には、所定の厚さ寸法を有する略円盤状を成すものであるが、その周縁部は必ずしも真円を成すものでなくともよく、例えば前記物体12の仕様によっては周縁部が楕円形を成すものであってもよい。前記熱抵抗体14は、例えば両面テープ(好適には、熱伝導率の高いシリコーン製の粘着テープ)、グリース、接着剤等の接着層16を介して前記物体12の表面12aに接着されている。すなわち、
図1に示す熱流束測定装置10においては、前記物体12の表面12aに前記熱抵抗体14が前記接着層16を介して貼り付けられている。好適には、前記物体12の表面12a及び前記熱抵抗体14の表面14aには、図示しない黒体塗料(表面からの放射率を均一にするための塗料)が塗布されており、それら物体12の表面12a及び熱抵抗体14の表面14aの放射率が略等しくなっている。
【0018】
図1に示すように、前記熱流束測定装置10は、赤外線温度センサ18を備えている。この赤外線温度センサ18は、物体から放射される赤外線の検出によりその物体の温度を測定するよく知られた放射温度計であり、少なくとも前記物体12の表面12aの温度及び前記熱抵抗体14の表面14aの温度を測定できる位置に設けられる。好適には、前記熱抵抗体14の表面14aの温度と、その熱抵抗体14の周囲における前記物体12の表面12aの温度とを、同期して(略同時に)測定できる位置に設けられる。好適には、少なくとも前記物体12の表面12a及び前記熱抵抗体14の表面14aであって、前記黒体塗料が塗布された部位の温度を測定できる位置に設けられる。
【0019】
以下、前述のように構成された本実施例の熱流束測定装置10の原理について説明する。前記物体12とその物体12の周囲における流体(例えば、空気等)との間に温度差がある場合、斯かる物体12の表面12aと流体との間で熱交換が行われる。前記熱流束測定装置10は、この物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束を算出する。
図1に示すような構成において、前記熱抵抗体14の厚さ方向(厚み方向)に熱伝導があると、その熱抵抗体14の厚さ方向で温度勾配(不均一な温度分布)が生じる。すなわち、前記熱抵抗体14における前記表面14aすなわち前記物体12との接着に係る前記接着層16とは逆側の表面と、前記物体12側すなわち前記接着層16側の表面14bとの間に温度勾配が生じる。ここで、前記接着層16が厚みを有する場合、その接着層16の厚さ方向にも温度勾配が生じるが、斯かる接着層16の厚さ寸法を十分に薄くすると共に熱伝導率を大きく(少なくとも熱抵抗体14の熱伝導率よりも大きく)構成すること等により、前記熱抵抗体14の厚さ寸法に係る温度勾配に比べ、前記接着層16における温度勾配はほとんど無視できる。
【0020】
前記熱流束測定装置10のように、前記物体12の表面12aに前記熱抵抗体14が設けられた構成においては、その物体12の表面12aからの熱移動に応じて前記熱抵抗体14の厚さ方向の温度勾配が変化する。具体的には、前記熱抵抗体14が設けられた前記物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束が大きいほどその熱抵抗体14の厚さ方向の温度勾配は大きく、その表面12aからの熱移動に係る熱流束が小さいほどその熱抵抗体14の厚さ方向の温度勾配は小さくなる。すなわち、定常状態においては、伝熱に関するフーリエの法則より、前記熱抵抗体14が設けられた前記物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束と、その熱抵抗体14の厚さ方向の温度勾配とは略比例する。前記接着層16の厚さ方向の温度勾配が無視できる場合、前記熱抵抗体14における前記物体12側の表面14bの温度と、その物体12の表面12aの温度とは略等しいものと考えることができる。
【0021】
図3及び
図4は、前記熱流束測定装置10による測定に用いられる、前記物体12の表面温度及び前記熱抵抗体14の表面温度の温度差ΔTとその温度差に対応する熱流束qとの関係(校正のための対応関係)を導出するための検定装置20の一例を示す図であり、
図3は、矩形長手状の流路外形を概略的に示す平面図、
図4は、
図3のIV-IV視断面を拡大して示す視断面図である。
図3においては流体の流れ方向を白抜き矢印で示すと共に筐体28の一部を切り欠いて示している。これらの図に示すように、前記検定装置20は、矩形長手状の流体流路22と、その流体流路22における一面(
図4に示す例においては底部を構成する面)に設けられた加熱面24と、その加熱面24を加熱するための電気ヒータ26と、断熱材等の材料から構成された筐体28とを、備えて構成されている。前記加熱面24の一部(
図3に示す熱流束センサ取り付け位置すなわちIV-IV視断面に相当する部分)には、前記熱抵抗体14が接着層16を介して貼り付けられている。
図4に示すように、前記検定装置20における前記熱抵抗体14が設けられた位置には、前記赤外線温度センサ18によりその熱抵抗体14の表面温度及びその周囲の加熱面温度を測定できるように、前記筐体28の一部(
図4では加熱面24と対向する上面の一部)に赤外線を透過する例えばゲルマニウムやサファイア等の材料から成る窓部30が設けられている。前記加熱面24及び熱抵抗体14の表面14aには、
図1を用いて前述した構成と同様に図示しない黒体塗料が塗布されている。以上のように構成された検定装置20において、前記加熱面24からの熱移動に対応する熱流束qは、理論的に算出することができ、前記流体流路22における流体の加熱量を加熱面積で除した値となる。従って、前記検定装置20により上述のような測定を行うことで、前記ΔTと熱流束q=f(ΔT)との対応関係を実験的に得ることができる。
【0022】
図5は、前記検定装置20を用いて前記熱抵抗体14の表面温度(表面14aの温度)及びその熱抵抗体14の周囲における前記加熱面24の表面温度を測定した結果に関し、流体である空気の流れ方向に係る温度分布を示す図である。この
図5における横軸は、前記熱抵抗体14の中心軸(平面視における中心)上における空気の流れ方向に対応する。この空気の流れ方向と前記熱抵抗体14との相対的な位置関係を便宜上
図2に白抜き矢印で示している。
図5の測定結果に示す例では、前記熱抵抗体14の表面温度は、流体(空気)の流れ方向で分布すなわち温度勾配があり、前縁側(流体の流れ方向上流側)で局所熱伝達が良く温度が低くなっている。しかし、前記熱抵抗体14の表面全体の平均温度をT
1とすれば、その熱抵抗体14と流体の流れ方向との関係を特に考慮する必要がなくなり、解析を簡略化できる。一般に、赤外線温度センサの1画素あたりの温度測定面積は、測定点と温度計の距離や赤外線温度計の仕様等で異なるため、それらの影響をなくすためにも前記熱抵抗体14の表面温度T
1を平均温度として熱流束の計算をしたほうが好ましい。
図6は、
図5の測定結果に対応する、前記熱抵抗体14における流体の流れに垂直な方向(加熱面24に平行な方向であって流体の流れ方向と垂直を成す方向)の温度分布を示す図である。この
図6に示すように、前記熱抵抗体14の表面温度は、流体の流れに垂直な方向では略一定である。
【0023】
以上を前提として、
図1等に示す本実施例の熱流束測定装置10は、前記赤外線温度センサ18により測定される前記物体12の表面12aの温度T
1及び前記熱抵抗体14の表面14aの温度T
2に基づいて前記物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束qを算出する。すなわち、前記赤外線温度センサ18により測定される前記物体12の表面12aの温度T
1と、前記熱抵抗体14の表面14aの温度T
2との差ΔT(=T
1−T
2)を算出し、
図3及び
図4に示す検定装置20を用いて予め導出された関係(ΔTとq=f(ΔT)との対応関係)から、前記算出された温度差ΔTに基づいて、前記物体12の被測定部位の表面12aからの熱移動に係る熱流束q(=f(ΔT))を算出する。ここで、前記熱抵抗体14の表面平均温度は、その熱抵抗体14の中心温度(平面視における中心の温度)と略等しい。従って、前記熱抵抗体14の表面温度T
1として、前記熱抵抗体14の表面全体の平均温度ではなく、その中心温度を用いてもよい。このようにすれば、測定をより簡単なものとすることができる。前記物体12の表面温度T
2としては、例えば
図7に示すように、前記熱抵抗体14の中心からの距離が等しい複数(
図7では4つ)の測定点32a〜32dの温度を測定し、各測定点の温度の平均値を前記物体12の表面温度T
2とするのが好ましい。前記物体12の表面12aにおける面方向(表面12aに平行な方向)に温度勾配が存在したとしても、斯かる平均値を前記物体12の表面温度T
2として算出することで、前記熱抵抗体14の中心付近における前記物体12の表面温度を適用することができる。
【0024】
このように、本実施例によれば、被測定物である前記物体12における被測定部位の表面12aに熱抵抗体14が設けられ、前記被測定部位の表面12aの温度T
1と、前記熱抵抗体14の表面14aの温度T
2との差ΔT(=T
1−T
2)に基づいて、前記被測定部位の表面12aからの熱移動に係る熱流束qを算出するものであることから、前記被測定部位の表面温度の時間変化によらず、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を精度良く測定することができる。すなわち、物体12の温度の時間変化が小さい場合にも好適に熱流束を測定する熱流束測定装置10を提供することができる。
【0025】
前記熱抵抗体14は、周縁部が円形状を成す板状に形成されたものであるため、前記被測定物表面12aの周囲の流体の流れ方に対して、前記熱抵抗体14の表面14aの温度に指向性が生じるのを抑制することで、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を更に精度良く測定することができる。
【0026】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【実施例2】
【0027】
図8及び
図9は、前記熱流束測定装置10において、前記物体12の表面12aに前記熱抵抗体14とは形状の異なる熱抵抗体34を設けた例について説明する図であり、
図8は前記熱抵抗体34の中心を含む断面図、
図9は前記熱抵抗体34の中心軸方向から見た平面図である。これらの図に示すように、本実施例の熱流束測定装置10に設けられた熱抵抗体34は、その一部に他の部分よりも厚さ寸法が薄く形成された肉薄部36を備えたものである。すなわち、比較的厚さ寸法が薄く形成された肉薄部36と、その肉薄部36よりも厚さ寸法が所定値Δt厚く形成された肉厚部38とを、備えている。
図8及び
図9においては、中央部(中心を含む部分)に肉厚部38が、その肉厚部38の周縁部(外周側)に肉薄部36がそれぞれ設けられた熱抵抗体34を例示しているが、中央部に肉薄部36が設けられると共に、その外周側に肉厚部38が設けられた熱抵抗体も好適に用いられる。前記熱抵抗体34は、前記接着層16を介して前記物体12の表面12aに貼り付けられている。
【0028】
前述のような構成を有する熱抵抗体34において、その熱抵抗体34の厚さ方向に熱伝導した場合、前記肉薄部36と肉厚部38とで厚さ寸法に差があることから、その肉薄部36の表面36aと肉厚部38の表面38aとでそれぞれの表面温度が異なる。従って、前記熱抵抗体34に関して、前記肉薄部36の表面36aの温度T
1′と前記肉厚部38の表面38aの温度T
2′との温度差ΔT′(=T
1′−T
2′)とその温度差に対応する熱流束qとの関係を前記検定装置20等により予め導出しておくことで、その関係から前記赤外線温度センサ18により検出される前記肉薄部36の表面36aの温度T
1′と前記肉厚部38の表面38aの温度T
2′との温度差ΔT′に基づいて前記物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束qを測定することができる。
図1等を用いて前述した熱抵抗体14を有する熱流束測定装置10に比べて、
図8等に示す熱抵抗体34を有する熱流束測定装置10では、前記接着層16の厚さ方向の温度勾配の影響を受けないことに加え、温度検出に係る前記表面36a、38aが同じ材質であることから放射率が等しく、黒体塗料を塗布せずとも精度良く赤外線による温度計測を行い得る等の利点がある。
【0029】
本実施例によれば、被測定物である前記物体12における被測定部位の表面12aに熱抵抗体34が設けられ、その熱抵抗体34は、その一部に他の部分すなわち肉厚部38よりも厚さ寸法が薄く形成された肉薄部36を備えたものであり、その肉薄部36の表面温度T
1′と、前記熱抵抗体34におけるその肉薄部36ではない部分すなわち肉厚部38の表面温度T
2′との差ΔT′(=T
1′−T
2′)に基づいて、前記被測定部位の表面12aからの熱移動に係る熱流束qを算出することを特徴とするものである。このようにすれば、前記被測定部位の表面温度の時間変化によらず、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を精度良く測定することができる。すなわち、物体温度の時間変化が小さい場合にも好適に熱流束を測定する熱流束測定装置10を提供することができる。
【0030】
前記熱抵抗体34は、周縁部が円形状を成す板状に形成されたものであるため、前記被測定物表面12aの周囲の流体の流れ方に対して、前記熱抵抗体34の表面温度に指向性が生じるのを抑制することで、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を更に精度良く測定することができる。
【実施例3】
【0031】
図10は、本発明の一実施例である熱流束測定方法の要部を説明する工程図である。先ず、第1表面温度測定工程P1において、前記赤外線温度センサ18により前記物体12の表面12aの温度T
1乃至前記肉薄部36の表面36aの温度T
1′が測定(検出)される。この第1表面温度測定工程P1と相前後して、第2表面温度測定工程P2において、前記赤外線温度センサ18により前記熱抵抗体14の表面14aの温度T
2乃至前記肉厚部38の表面38aの温度T
2′が測定(検出)される。次に、温度差算出工程P3において、前記第1表面温度測定工程P1により測定された第1温度T
1乃至T
1′と、前記第2表面温度測定工程P2により測定された第2温度T
2乃至T
2′との差ΔT(=T
1−T
2)乃至ΔT′(=T
1′−T
2′)が算出される。次に、熱流束算出工程P4において、予め定められた関係から、前記温度差算出工程P3にて算出された温度差ΔT(=T
1−T
2)乃至ΔT′(=T
1′−T
2′)に基づいて、前記物体12の表面12aからの熱移動に係る熱流束qが算出される。
【0032】
本実施例によれば、被測定物である前記物体12における被測定部位の表面12aに熱抵抗体14が設けられ、前記被測定部位の表面温度T
1と、前記熱抵抗体14の表面温度T
2との差ΔTに基づいて、前記被測定部位の表面12aからの熱移動に係る熱流束qを算出するものであるため、前記被測定部位の表面温度の時間変化によらず、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を精度良く測定することができる。すなわち、物体温度の時間変化が小さい場合にも好適に熱流束を測定する熱流束測定方法を提供することができる。
【0033】
被測定物である前記物体12における被測定部位の表面12aに熱抵抗体34が設けられ、その熱抵抗体34は、その一部に他の部分よりも厚さ寸法が薄く形成された肉薄部36を備えたものであり、その肉薄部36の表面温度T
1′と、前記熱抵抗体34におけるその肉薄部36ではない部分すなわち肉厚部38の表面温度T
2′との差ΔT′に基づいて、前記被測定部位の表面12aからの熱移動に係る熱流束を算出するものであるため、前記被測定部位の表面温度の時間変化によらず、その被測定部位からの熱移動に係る熱流束を精度良く測定することができる。すなわち、物体温度の時間変化が小さい場合にも好適に熱流束を測定する熱流束測定方法を提供することができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。