(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856535
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】ローラレベラおよびそれを用いた板材の矯正方法
(51)【国際特許分類】
B21D 1/05 20060101AFI20160120BHJP
【FI】
B21D1/05 B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-101004(P2012-101004)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-226582(P2013-226582A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501120122
【氏名又は名称】スチールプランテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敬三
(72)【発明者】
【氏名】青山 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐野 徹
【審査官】
岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−173676(JP,A)
【文献】
特開2000−246338(JP,A)
【文献】
特開平8−47721(JP,A)
【文献】
特開平5−50144(JP,A)
【文献】
実開平3−70809(JP,U)
【文献】
特開昭63−199024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矯正すべき板材の通板ラインの上下に千鳥状に配置され、板材を挟んで板材を矯正して通板させるように回転する複数のレベリングロールを有するレベリングロールユニットと、
前記レベリングロールユニットにおける板材の入側および出側にそれぞれ設けられ前記レベリングロールを介して板材を圧下する圧下シリンダと、
前記レベリングロールを回転させて板材を通板させる駆動機構とを具備し、
前記複数のレベリングロールのうち少なくとも一つは、板材の板幅方向中央部に対応する大径の幅方向中央部と、板材の板幅方向端部に対応する小径の幅方向端部を有する段付き構造であることを特徴とするローラレベラ。
【請求項2】
前記複数のレベリングロールは、前記通板ラインの上に配置された複数の上レベリングロールと、前記通板ラインの下に配置された複数の下レベリングロールとを有し、前記下レベリングロールの少なくとも一つが前記段付き構造のレベリングロールであることを特徴とする請求項1に記載のローラレベラ。
【請求項3】
前記レベリングロールユニットの一方の端部から2以上の前記下レベリングロールが前記段付き構造のレベリングロールであることを特徴とする請求項2に記載のローラレベラ。
【請求項4】
前記レベリングロールユニットの一方側に前記段付き構造のレベリングロールを有し、前記レベリングロールユニットの他方側はストレート形状のレベリングロールのみであり、板材の板幅方向の降伏応力偏差ΔσがΔσ>0.08×σMAXのとき、および/または耳波が発生しているとき、前記一方側を入側として板材の矯正が行われ、Δσ≦0.08×σMAXでかつ耳波が発生していないとき、前記他方側を入側として板材の矯正が行われることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のローラレベラ。
ただし、Δσ=σMAX−σMIN、σMAXは板幅方向の降伏応力の最大値、σMINは板幅方向の降伏応力の最小値である。
【請求項5】
前記段付き構造のレベリングロールの前記幅方向中央部の長さと前記幅方向端部の長さは、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて設定されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のローラレベラ。
【請求項6】
前記段付き構造のレベリングロールは、前記幅方向中央部と同じ直径のリングを前記幅方向端部に装着可能であり、前記リングにより、前記幅方向中央部の長さを調節することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のローラレベラ。
【請求項7】
矯正すべき板材の通板ラインの上下に千鳥状に配置された複数のレベリングロールを有するレベリングロールユニットと、前記レベリングロールユニットにおける板材の入側および出側にそれぞれ設けられ前記レベリングロールを介して板材を圧下する圧下シリンダと、前記レベリングロールを回転させて板材を通板させる駆動機構とを具備するローラレベラを用い、前記複数のレベリングロールにより板材を挟み、前記圧下シリンダにより前記レベリングロールを介して板材を圧下しつつ、前記レベリングロールを回転させ、板材を通板させて板材を矯正する板材の矯正方法であって、
前記複数のレベリングロールのうち少なくとも一つを、板材の板幅方向中央部に対応する大径の幅方向中央部と、板材の板幅方向端部に対応する小径の幅方向端部を有する段付き構造とし、
これにより、板材を矯正する際に、板材の板幅方向中央部の押込量を板材の板幅方向端部の押込量よりも大きくして、板幅方向端部に耳波が発生することを抑制する、および/または板幅方向端部に発生している耳波を解消することを特徴とする板材の矯正方法。
【請求項8】
前記複数のレベリングロールは、前記通板ラインの上に配置された複数の上レベリングロールと、前記通板ラインの下に配置された複数の下レベリングロールとを有し、前記下レベリングロールの少なくとも一つが前記段付き構造のレベリングロールであることを特徴とする請求項7に記載の板材の矯正方法。
【請求項9】
前記レベリングロールユニットの一方の端部から2以上の前記下レベリングロールが前記段付き構造のレベリングロールであることを特徴とする請求項8に記載の板材の矯正方法。
【請求項10】
前記レベリングロールユニットの一方側に前記段付き構造のレベリングロールを有し、前記レベリングロールユニットの他方側はストレート形状のレベリングロールのみであり、
板材の板幅方向の降伏応力偏差ΔσがΔσ>0.08×σMAXのとき、および/または耳波が発生しているとき、前記一方側を入側として、前記段付き構造のレベリングロールにより、板材の板幅方向中央部の押込量を板幅方向端部の押込量よりも大きくして、板幅方向端部に耳波が発生することを抑制するように、および/または板幅方向端部に発生している耳波を解消するように板材の矯正が行われ、Δσ≦0.08×σMAXでかつ耳波が発生していないとき、前記他方側を入側として、板材の板幅方向中央部の伸びと板幅方向端部の伸びとがほぼ等しくなるように板材の矯正が行われることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の板材の矯正方法。
ただし、Δσ=σMAX−σMIN、σMAXは板幅方向の降伏応力の最大値、σMINは板幅方向の降伏応力の最小値である。
【請求項11】
前記段付き構造のレベリングロールの前記幅方向中央部の長さと前記幅方向端部の長さは、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて設定されることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の板材の矯正方法。
【請求項12】
前記段付き構造のレベリングロールは、前記幅方向中央部と同じ直径のリングを前記幅方向端部に装着可能であり、前記リングにより、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて前記幅方向中央部の長さを調整することを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の板材の矯正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の板材を矯正するローラレベラおよびそれを用いた板材の矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の板材を製造する過程では圧延や冷却などが実施されるが、これらの工程では板材に反りや波形状の変形が発生する。このため、このような反りや波形状の変形を矯正して板材を平坦化する目的で、複数本のレベリングロールを上下に千鳥状に配置したローラレベラが用いられる。
【0003】
ローラレベラは、矯正すべき板材を、複数の下レベリングロールに対し複数の上レベリングロールを押し込んだ状態、または複数の上レベリングロールに対して複数の下レベリングロールを押し込んだ状態で通板し、板材に繰り返し曲げを与えることによって、板材の反りや波形状を平坦化する。一般的には、複数の下レベリングロールおよび複数の上レベリングロールをそれぞれロールフレームに保持させた状態とし、下レベリングロールを固定し、上レベリングロールを、入側および出側に設けられた圧下シリンダにより押し込んで板材の矯正を行う。
【0004】
板材の矯正に際しては、駆動モータによりレベリングロールが駆動され、レベリングロールと矯正すべき板材とが接触することにより、板材に駆動力が伝達され、板材が上下のレベリングロール間に噛み込まれる。このとき、圧下シリンダによる上レベリングロールの押込量は、板材の厚さ、材料、形状、レベリングロールの径、ロールピッチ等の種々の条件に応じて必要な平坦度が得られるように設定される。
【0005】
ところで、矯正の対象となる鋼板等の板材には、通常、板幅方向端部の波形状の変形、すなわち耳波が生じているものが含まれる。耳波は下記3点に起因して発生する。
(1)圧延工程におけるロールギャップ不均一(端部のほうが強く圧延)。
(2)熱間圧延後の冷却不均一。
(3)板幅方向中央部に比較して板幅方向端部のほうが降伏応力が小さい材料の圧延または矯正。
近年多用されている直径360mm程度の大径ロールを有するローラレベラで、この耳波をもつ厚さ6〜10mmの板材を矯正すると、矯正されない、またはさらに耳波が大きくなってしまうことが問題となっている。つまり、板幅方向中央部に比較して板幅方向端部のほうが降伏応力が小さいため、板幅方向端部の伸びが大きくなり、矯正前には耳波が存在していなくても矯正の過程で耳波が発生してしまい、既に耳波が発生している場合には、耳波がさらに大きくなってしまう。このため、耳波が存在する厚さ6〜10mmの板材、または耳波が存在しなくても板幅方向に50MPa程度以上の降伏応力偏差をもつ厚さ6〜10mmの板材を、直径360mm程度の大径ロールを有するローラレベラで矯正することは困難とされる。
【0006】
板幅方向端部が波形状となる耳波が発生している厚さ6〜10mmの板材を矯正する技術として、レベリングロールを長手方向に湾曲させた状態で矯正するものが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−170526号公報
【特許文献2】特開昭61−037322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レベリングロールが直径190〜230mm程度の小径ロールの場合には、レベリングロールの剛性が小さいため、レベリングロールを長手方向に湾曲させることが可能であるが、最近多用されている直径360mm程度の大径ロールでは、剛性が大きく、湾曲させることが困難であるため、上記特許文献1,2のような技術を適用することが困難である。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、レベリングロールの直径が大きい場合でも、板幅方向の降伏応力偏差に起因して生じる耳波の発生を効果的に抑制すること、および板幅方向の降伏応力偏差にかかわらず板材に発生している耳波を効果的に解消することができるローラレベラおよびそれを用いた板材の矯正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、矯正すべき板材の通板ラインの上下に千鳥状に配置され、板材を挟んで板材を矯正して通板させるように回転する複数のレベリングロールを有するレベリングロールユニットと、前記レベリングロールユニットにおける板材の入側および出側にそれぞれ設けられ前記レベリングロールを介して板材を圧下する圧下シリンダと、前記レベリングロールを回転させて板材を通板させる駆動機構とを具備し、前記複数のレベリングロールのうち少なくとも一つは、板材の板幅方向中央部に対応する大径の幅方向中央部と、板材の板幅方向端部に対応する小径の幅方向端部を有する段付き構造であることを特徴とするローラレベラを提供する。
【0011】
上記ローラレベラにおいて、前記複数のレベリングロールは、前記通板ラインの上に配置された複数の上レベリングロールと、前記通板ラインの下に配置された複数の下レベリングロールとを有し、前記下レベリングロールの少なくとも一つが前記段付き構造のレベリングロールであってよい。また、前記レベリングロールユニットの一方の端部から2以上の前記下レベリングロールが前記段付き構造のレベリングロールであることが好ましい。
【0012】
また、前記レベリングロールユニットの一方側に前記段付き構造のレベリングロールを有し、前記レベリングロールユニットの他方側はストレート形状のレベリングロールのみであり、板材の板幅方向の降伏応力偏差ΔσがΔσ>0.08×σ
MAXのとき、および/または耳波が発生しているとき、前記一方側を入側として板材の矯正が行われ、Δσ≦0.08×σ
MAXでかつ耳波が発生していないとき、前記他方側を入側として板材の矯正が行われるようにすることができる(ただし、Δσ=σ
MAX−σ
MIN、σ
MAXは板幅方向の降伏応力の最大値、σ
MINは板幅方向の降伏応力の最小値である)。
【0013】
さらに、前記段付き構造のレベリングロールの前記幅方向中央部の長さと前記幅方向端部の長さは、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて設定することができる。また、前記段付き構造のレベリングロールは、前記幅方向中央部と同じ直径のリングを前記幅方向端部に装着可能であり、前記リングにより、前記幅方向中央部の長さを調節するように構成することができる。
【0014】
本発明は、また、矯正すべき板材の通板ラインの上下に千鳥状に配置された複数のレベリングロールを有するレベリングロールユニットと、前記レベリングロールユニットにおける板材の入側および出側にそれぞれ設けられ前記レベリングロールを介して板材を圧下する圧下シリンダと、前記レベリングロールを回転させて板材を通板させる駆動機構とを具備するローラレベラを用い、前記複数のレベリングロールにより板材を挟み、前記圧下シリンダにより前記レベリングロールを介して板材を圧下しつつ、前記レベリングロールを回転させ、板材を通板させて板材を矯正する板材の矯正方法であって、前記複数のレベリングロールのうち少なくとも一つを、板材の板幅方向中央部に対応する大径の幅方向中央部と、板材の板幅方向端部に対応する小径の幅方向端部を有する段付き構造とし、これにより、板材を矯正する際に、板材の板幅方向中央部の押込量を板材の板幅方向端部の押込量よりも大きくして、板幅方向端部に耳波が発生することを抑制する、および/または板幅方向端部に発生している耳波を解消することを特徴とする板材の矯正方法を提供する。
【0015】
上記板材の矯正方法において、前記複数のレベリングロールは、前記通板ラインの上に配置された複数の上レベリングロールと、前記通板ラインの下に配置された複数の下レベリングロールとを有し、前記下レベリングロールの少なくとも一つが前記段付き構造のレベリングロールであってよい。また、前記レベリングロールユニットの一方の端部から2以上の前記下レベリングロールが前記段付き構造のレベリングロールであることが好ましい。
【0016】
また、前記レベリングロールユニットの一方側に前記段付き構造のレベリングロールを有し、前記レベリングロールユニットの他方側はストレート形状のレベリングロールのみであり、板材の板幅方向の降伏応力偏差ΔσがΔσ>0.08×σ
MAXのとき、および/または耳波が発生しているとき、前記一方側を入側として、前記段付き構造のレベリングロールにより、板材の板幅方向中央部の押込量を板幅方向端部の押込量よりも大きくして、板幅方向端部に耳波が発生することを抑制するように、および/または板幅方向端部に発生している耳波を解消するように板材の矯正が行われ、Δσ≦0.08×σ
MAXでかつ耳波が発生していないとき、前記他方側を入側として、板材の板幅方向中央部の伸びと板幅方向端部の伸びとがほぼ等しくなるように板材の矯正が行われるようにすることができる(ただし、Δσ=σ
MAX−σ
MIN、σ
MAXは板幅方向の降伏応力の最大値、σ
MINは板幅方向の降伏応力の最小値である)。
【0017】
さらに、前記段付き構造のレベリングロールの前記幅方向中央部の長さと前記幅方向端部の長さは、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて設定することができる。また、前記段付き構造のレベリングロールは、前記幅方向中央部と同じ直径のリングを前記幅方向端部に装着可能であり、前記リングにより、矯正しようとする板材の幅、および板材の材質や熱処理に応じて前記幅方向中央部の長さを調整するように構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数のレベリングロールのうち少なくとも一つを板材の板幅方向中央部に対応する大径の幅方向中央部と、板材の板幅方向端部に対応する小径の幅方向端部を有する段付き構造としたので、板材の板幅方向中央部のほうが板幅方向端部よりも押込量(圧下量)を大きくすることができ、板材の板幅方向中央部は、板幅方向端部よりも矯正経路長が長くなる。このため、板材の板幅方向中央部の伸びを大きくすることができる。したがって、板材の板幅方向の降伏応力偏差が大きい場合、降伏応力が小さく伸びやすい板幅方向端部の押込量(圧下量)を板幅方向中央部よりも小さくして板幅方向中央部の伸びを大きくすることができるので、剛性が大きい大径のレベリングロールを用いた場合でも、矯正中の耳波の発生を抑制することができる。また、既に耳波が発生している場合には、降伏応力偏差の大きさにかかわらず、耳波となっている板幅方向端部の押込量(圧下量)を小さくして伸びを小さくすることができるので、剛性が大きい大径のレベリングロールを用いた場合でも、耳波を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るローラレベラを示す側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るローラレベラを示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るローラレベラのレベリングロールユニットを示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るローラレベラに用いる段付き構造の下レベリングロールの構造を示す
【
図5】段付き構造の下レベリングロールを用いて板材を矯正する場合の、板幅方向中央部と板幅方向端部の板材Pの矯正経路長差を示す図である。
【
図6】段付き構造の下レベリングロールの構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るローラレベラを示す側面図、
図2はその正面図、
図3はレベリングロールユニットを示す斜視図である。本実施形態のローラレベラ100は、ハウジング1と、ハウジング1の内側に設けられた上フレーム2と、ハウジング1を支持するように設けられた下フレーム3とを有している。上フレーム2の下方には上ロールフレーム5が上ロールグリップシリンダ(図示せず)で吊り下げられている。一方、下フレーム3上には下ロールフレーム10が設置されている。
【0021】
上ロールフレーム5と下ロールフレーム10との間には、上ロールフレーム5の下に上ロールフレーム5に支持されるように配置された複数本の上レベリングロール6と、上レベリングロール6の板材Pのパスラインを挟んで反対側に設けられ下ロールフレーム10に支持された複数本の第1の下レベリングロール8aおよび第2の下レベリングロール8bとを有するレベリングロールユニット20が設けられている。レベリングロールユニット20の板材Pの搬送方向上流側および下流側には、板材Pをガイドするガイドロール14が設けられている。上レベリングロール6および第1および第2の下レベリングロール8a,8bは、駆動機構15により正逆回転されるようになっており、板材Pを双方向(
図1におけるA方向およびB方向)に移動して板材Pを矯正することが可能となっている。なお、
図1では、便宜上、駆動機構15を一つの第1の下レベリングロール8aに接続するように描いているが、実際には、上レベリングロール6および第1および第2の下レベリングロール8a,8bを個別的に回転駆動させるようになっている。
【0022】
図3に示すように、上レベリングロール6および第1および第2の下レベリングロール8a,8bは千鳥状に配置されている。上レベリングロール6および第1の下レベリングロール8aはストレート形状をなしている。一方、第2の下レベリングロール8bは、
図4に示すように、大径をなす幅方向中央部21と、小径をなす幅方向端部22を有する段付構造となっている。幅方向中央部21は、板材Pの板幅方向中央部に対応し、幅方向端部22は板材Pの板幅方向端部に対応する。幅方向中央部21と、幅方向端部22の長さは、板材Pの幅および材質や熱処理等に応じて適宜設定される。
【0023】
第2の下レベリングロール8bの幅方向中央部の直径は、上レベリングロール6および第1の下レベリングロール8aの直径と同じである。
【0024】
本実施形態では、上レベリングロール6は4本配置されており、第1の下レベリングロール8aは、レベリングロールユニット20の一方の端部側に2本、第2の下レベリングロール8bは他方の端部側に3本配置されている。
【0025】
上レベリングロール6の上には、上レベリングロール6をバックアップする短尺の上バックアップロール7が上レベリングロール6の軸方向に沿って上ロールフレーム5に支持されるように複数配置されている。また、第1および第2の下レベリングロール8a、8bの下には、これらをバックアップする短尺の下バックアップロール9が第1および第2の下レベリングロール8a,8bの軸方向に沿って下ロールフレーム10に支持されるように複数配置されている。
【0026】
ハウジング1と上フレーム2との間のレベリングロールユニット20の板材P搬送方向の両端には、それぞれ板材Pを矯正するための圧下力を与えるための圧下シリンダ4aおよび4bが配置されている。圧下シリンダ4aおよび4bは、板材Pの幅方向の両端部にそれぞれ2基設けられている(
図2参照。ただし、
図2では圧下シリンダ4bのみ図示)。
【0027】
圧下シリンダ4aおよび4bは、下ロールフレーム10に固定的に設けられた第1および第2の下レベリングロール8a,8bに対して、上ロールフレーム5および上バックアップロール7および上レベリングロール6を介して板材Pを圧下するようになっている。なお、上レベリングロール6を固定的に設け、第1および第2の下レベリングロール8a,8bを圧下シリンダで圧下するようにしてもよい。
【0028】
板材PをA方向に沿ってレベリングロールユニット20に搬入する際には、圧下シリンダ4a側が入側となり、上レベリングロール6と第2の下レベリングロール8bとの間に板材Pが挿入される。この場合には、圧下シリンダ4aが入側の圧下シリンダとして機能し、圧下シリンダ4bが出側の圧下シリンダとして機能する。また、板材PをB方向に沿ってレベリングロールユニット20に搬入する際には、圧下シリンダ4b側が入側となり、上レベリングロール6と第1の下レベリングロール8aとの間に板材Pが挿入される。この場合には、圧下シリンダ4bが入側の圧下シリンダとして機能し、圧下シリンダ4aが出側の圧下シリンダとして機能する。
【0029】
本実施形態のローラレベラ100の各構成要素の制御、例えば圧下シリンダ4a,4bによる上レベリングロール6の圧下量の制御や駆動装置の制御は、制御装置30により行われるようになっている。
【0030】
次に、このように構成されるローラレベラ100により板材Pの矯正を行う際の動作について説明する。
【0031】
まず、ローラレベラ100のレベリングロールユニット20の上流側からガイドロール14にガイドされた状態で板材Pをレベリングロールユニット20へ向けて搬送し、レベリングロールユニット20で板材Pの矯正を行う。
【0032】
板材Pの厚さ等に応じて板材Pの矯正に必要な圧下シリンダ4aおよび4bの押込量(圧下量)が制御装置30に設定されており、その設定された押込量(圧下量)で板材Pの矯正が行われる。押込量(圧下量)は、最入側で最も大きく、出側に行くにつれて小さくなるように設定される。
【0033】
ところで、矯正しようとする板材Pの板厚が6〜10mmで、板幅方向の降伏応力偏差が大きい場合(Δσ=σ
MAX−σ
MIN>0.08×σ
MAXの場合)、直径360mm程度の大径のレベリングロールで矯正を行うと、降伏応力の小さい板幅方向端部のほうが伸びが大きくなり、矯正前には耳波が存在していなくても、矯正の過程で耳波が発生してしまい、既に耳波が発生している場合には、耳波がさらに大きくなってしまう。板幅方向の降伏応力偏差が小さい場合でも、板幅方向中央部に比べ端部が強く圧延される場合には耳波が発生し、一旦耳波が発生した板材を直径360mm程度の大径のレベリングロールで矯正することは困難である。
【0034】
そこで、本実施形態では、大径をなす幅方向中央部21と、小径をなす幅方向端部22を有する段付構造の第2の下レベリングロール8bを圧下シリンダ4a側に配置し、板材Pが、板幅方向の降伏応力偏差が大きいものである場合、具体的には、(1)板幅方向の降伏応力の最大値をσ
MAXに最小値をσ
MINとしたとき、Δσ=σ
MAX−σ
MIN>0.08×σ
MAX(典型的にはΔσが50MPa程度以上)で耳波が発生していない場合、または、(2)Δσ=σ
MAX−σ
MIN≦0.08×σ
MAXと降伏応力偏差は小さいが、板幅方向中央部に比べ端部が強く圧延される等により耳波が発生している場合、または、(3)これら両方の場合、すなわちΔσ=σ
MAX−σ
MIN>0.08×σ
MAXで、かつ耳波が発生している場合に、板材PをA方向に沿って搬送し、圧下シリンダ4a側を入側として上レベリングロール6と第2の下レベリングロール8bとの間に挿入し、板材Pの矯正を行う。なお、(1)の場合には、耳波が発生していないので、予め把握しておいた矯正しようとする板材Pの降伏応力偏差情報に基づいて、圧下シリンダ4a側を入側とするか、圧下シリンダ4b側を入側とするかの判断をする。
【0035】
第2の下レベリングロール8bにより板材Pを圧下する場合には、
図5に示すように、大径の幅方向中央部21では、板材Pが実線で示すように圧下され、図中δで示す押込量(圧下量)となるのに対し、小径の幅方向端部22では、板材Pが破線で示すように、圧下されないか、または押込量(圧下量)が小さくなる。このため、板材Pの板幅方向中央部は、板幅方向端部よりも矯正経路長が長くなる。したがって、押込量(圧下量)が大きい入側において、第2の下レベリングロール8bを用いることにより、板材Pの板幅方向中央部の伸びを大きくすることができる。そして、このように板幅方向中央部の伸びを大きくしてから、レベリングロールユニット20の後段部において、ストレートロールである上レベリングロール6および第1の下レベリングロール8aを用いて均等に矯正される。
【0036】
このため、板材Pの板幅方向の降伏応力偏差が大きい場合(Δσ=σ
MAX−σ
MIN>0.08×σ
MAXの場合)に、降伏応力が小さく伸びやすい板幅方向端部の押込量(圧下量)を板幅方向中央部よりも小さくして板幅方向中央部の伸びを大きくすることができるので、剛性が大きい大径のレベリングロールを用いた場合でも、矯正中の耳波の発生を抑制することができ、また、既に耳波が発生している場合には、降伏応力偏差の大きさにかかわらず、耳波となっている板幅方向端部の押込量(圧下量)を小さくして伸びを小さくすることができるので、剛性が大きい大径のレベリングロールを用いた場合でも、耳波を解消することができる。
【0037】
なお、上述したように、段付き構造の第2の下レベリングロール8bの幅方向中央部21と幅方向端部22の長さは、矯正しようとする板材Pの幅、および板材Pの材質や熱処理等に応じて適宜設定される。すなわち、板材Pの板幅によって耳波が発生する位置が異なり、また材質や熱処理によって発生する耳波の幅が異なるので、これらに応じて幅方向中央部21と幅方向端部22の長さを設定する必要がある。
【0038】
一方、板材Pの板幅方向の降伏応力偏差が小さく(Δσ=σ
MAX−σ
MIN≦0.08×σ
MAX)、かつ耳波が発生していない場合には、通常のレベリングロールで矯正が可能である。このため、そのような板材Pは、ストレート形状の第1の下レベリングロール8aが配置されている圧下シリンダ4b側を入側として板材Pをレベリングロールユニット20に搬入し、板幅方向中央部と板幅方向端部で伸びがほぼ等しくなるように矯正を行う。この際、板材Pの搬送方向がA方向の場合には、上レベリングロール6を上昇させた状態でレベリングロールユニット20を通過させた後、搬送方向をB方向に変えて板材Pを搬入する。
【0039】
このようにすることにより、押込量(圧下量)が大きい入側部分で、幅方向中央部および端部で均等な伸びを得ることができるストレート状のレベリングロールにより通常の矯正を行うことができる。後段部分には、段付構造の第2の下レベリングロール8bが配置されているが、後段部分では押込量(圧下量)が小さいため、その影響を小さくすることができる。
【0040】
このように、レベリングロールユニット20への板材Pの搬入する側を変更するだけで、一台のレベラで板幅方向の降伏応力偏差が大きい場合も小さい場合も矯正を行うことができる。
【0041】
次に、他の実施形態について説明する。
上記第2の下レベリングロール8bにおいては、幅方向中央部21の幅は板材Pの幅、材質や熱処理等に応じて変化させる必要があるため、板材Pの種類毎に対応する第2の下レベリングロール8bを準備して交換する必要があり、極めて煩雑である。
【0042】
そこで、本実施形態では、第2の下レベリングロール8bの幅方向中央部21の幅を可変とし、板材Pの幅、材質や熱処理等の変化に対応できるようにする。具体的には、
図6に示すように、幅方向中央部21の直径と同じ直径を有するリング23を取り付けられるようにして、実質的に幅方向中央部21の幅を調節できるようにする。リング23として幅の異なる複数のものを準備しておくことにより、種々の板材に対応することができる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、下レベリングロールの一部を段付き構造として例を示したが、上レベリングロールを段付き構造としても構わないし、上下レベリングロールを段付き構造にしても構わない。ただし、ロール交換の容易さの観点からは、下レベリングロールを段付き構造とすることが好ましい。また、レベリングロールユニットの一方の端部から3本の下レベリングロールを段付き構造とした例を示したが、板材の板幅方向中央部の伸びを大きくすることができれば、段付き構造のレベリングロールの数は少なくとも1本あればよく、また、複数本の場合の配置も任意である。ただし、一方の端部から2本以上の下レベリングロールを段付き構造とすることにより、ロール交換の容易性を維持しつつ板材の板幅方向中央部の伸びを大きくする効果を有効に発揮することができる。また、降伏応力差の大きい板材の矯正のみを行う場合には、レベリングロールユニットの両方の端部のレベリングロール(上レベリングロールまたは下レベリングロールまたはそれら両方)が段付き構造であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、上下に配置されたレベリングロールの数を合計で9本としたローラレベラを用いた例を示したが、レベリングロールの数はこれに限るものではない。また上レベリングロールを圧下シリンダで圧下して板材の形状を矯正する場合について示したが、下レベリングロールを圧下シリンダで圧下して板材を矯正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1;ハウジング
2;上フレーム
3;下フレーム
4a,4b;圧下シリンダ
5;上ロールフレーム
6;上レベリングロール
7;上バックアップロール
8a;第1の下レベリングロール
8b;第2の下レベリングロール
9;下バックアップロール
10;下ロールフレーム
15;駆動機構
20;レベリングロールユニット
21;幅方向中央部
22;幅方向端部
23;リング
30;制御装置
100;ローラレベラ
P;板材(被矯正材)