(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856549
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】熱供給装置の制御方法および熱供給システム
(51)【国際特許分類】
F24H 1/00 20060101AFI20160120BHJP
F24H 1/18 20060101ALI20160120BHJP
H01M 8/04 20160101ALN20160120BHJP
【FI】
F24H1/00 631A
F24H1/18 302J
!H01M8/04 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-181280(P2012-181280)
(22)【出願日】2012年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-37929(P2014-37929A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田上 誠二
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−90240(JP,A)
【文献】
特開2006−10296(JP,A)
【文献】
特開2003−87970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 1/00
F24H 1/18
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯湯槽に湯を貯めて需要者に湯を供給可能な熱供給装置の制御方法であって、
一日の所定時間毎の使用熱量の推移である熱需要データを、過去の所定期間に対して取得する工程aと、
前記熱需要データに対し、日毎に、所定時間毎における使用熱量があらかじめ設定した基準熱量を超え、かつ、一日の最大使用量となるピーク時間を抽出する工程bと、
日毎の前記ピーク時間から、時間毎の頻度であるピーク時間分布を算出する工程cと、
前記ピーク時間分布に対し、予め設定された基準時刻から遡って時間毎の頻度を累積し、設定された基準頻度を超える時刻である目標時刻を設定する工程dと、
前記基準熱量を超える使用熱量を有する日に対して、日毎の一日の使用熱量の総量を取得し、日毎の総量の分布から標準使用熱量を算出する工程eと、
前記目標時刻に対して前記標準使用熱量を確保することができるだけの湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御する工程fと、
を具備することを特徴とする熱供給装置の制御方法。
【請求項2】
前記工程fにおいて、前記目標時刻に向けて前記標準使用熱量に対応する湯量を貯めるように制御する際に、前記目標時刻よりも前に実際に使用された熱量を前記標準使用熱量から差し引いて前記標準使用熱量を補正し、前記目標時刻に補正後の前記標準使用熱量となるように、貯湯する湯量を再設定することを特徴とする請求項1記載の熱供給装置の制御方法。
【請求項3】
前記工程fにおいて、所定時間毎に実際に使用された熱量を取得して、前記目標時刻まで前記補正を繰り返すことを特徴とする請求項2記載の熱供給装置の制御方法。
【請求項4】
前記工程aから前記工程eについては、複数の需要者に対して、需要者ごとに実施し、
前記工程fの前に、それぞれの需要者の前記ピーク時間ごとの前記標準使用熱量を合算して、時間毎の総熱使用量分布を算出し、
前記工程fでは、前記総熱使用量を確保することができるだけ湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱供給装置の制御方法。
【請求項5】
熱供給システムであって、
湯を貯めることができる貯湯槽と、
前記貯湯槽に貯める湯を作るタイミングおよび量を制御する制御部と、
需要者の熱の使用量の実績を記憶する記憶部と、
を具備し、
前記制御部は、
一日の所定時間毎の使用熱量の推移である熱需要データ取得し、前記記憶部に記憶させ、
前記熱需要データに対し、日毎に、所定時間毎における使用熱量が、あらかじめ設定された基準熱量を超え、かつ、一日の最大使用量となるピーク時間を抽出し、
日毎の前記ピーク時間から、時間毎の頻度であるピーク時間分布を算出し、
前記ピーク時間分布に対し、あらかじめ設定された基準時刻から遡って頻度を累積し、あらかじめ設定された基準頻度を超える時刻である目標時刻を設定し、
前記基準熱量を超える使用熱量を有する日に対して、日毎の一日の使用熱量の総量を取得し、日毎の総量の分布から標準使用熱量を算出し、
前記目標時刻に対して前記標準使用熱量を確保することができるだけの湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御することが可能であることを特徴とする熱供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯湯槽を有する熱供給装置の制御方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば住宅用の燃料電池や、エネファーム(登録商標)やエコウィル(登録商標)などのように、発電とともに熱を利用する貯湯槽一体型の熱供給装置が利用されている。これらの熱供給装置は、回収された熱を各家庭での給湯に利用することができる。
【0003】
熱供給装置で生成されたお湯は、貯湯槽に貯められる。しかし、長時間お湯を貯めておくと、断熱されているものの放熱によってお湯の温度が低下する。したがって、回収した熱の利用効率が低下する。このため、実際の給湯需要に即したタイミングで、所定量のお湯を生成することが望ましい。すなわち、実際にお湯を使用する直前に、使用する量だけのお湯を貯めておくことが望ましい。
【0004】
一方、各家庭における熱需要は、毎日常に同一ではない。例えば、熱を利用する時間帯や量は、その日毎に異なる。したがって、常に、一定のタイミングでお湯を貯め始めたのでは、給湯需要に間に合わない場合がある。この場合には、使用時に必要な量のお湯が溜まっていないため、別途電気やガス等によってお湯を生成する必要があり、給湯のエネルギー消費量が増大する。また、給湯需要に対して過剰にお湯を貯めておくと、前述したように、貯められたお湯が使い切れずに使用時には温度が低下してしまう場合がある。したがって、回収した熱の利用効率の改善を考えた場合、各家庭に対して、より正確な給湯需要予測が必要となる。
【0005】
このような、熱需要の予測を行う手法としては、例えば、前日24時間に対する給湯需要パターンのヒストグラムにおける重心位置を求め、この重心位置の時刻を次の貯湯量ピーク時刻tgに設定し、これを用いて、運転開始時間を算出する方法がある(特許文献1)。
【0006】
また、実使用状況関連データとしての前日の電力負荷について、設定時間毎の電力負荷を時系列的に前後で比較してその差の絶対値を演算し、演算した絶対値の実積算値を求めるように構成され、且つ、その求めた実積算値と他の過去の複数の日についての実積算値の平均値と比較して特異であるか否かを判定し、特異日を判定する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−042377号公報
【特許文献2】特開2006−288037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、前日のデータのみに基づいているため、日々のばらつきが考慮されない。また、ヒストグラムの重心を給湯需要時刻と一意に決めるため、多様なライフスタイルを有する家庭の給湯需要に柔軟に対応することが困難である。
【0009】
また、特許文献2の方法では、熱需要パターンが時刻別となっているため、燃料電池等の最適運転パターンの算出が複雑である。したがって、計算コストが増大する。また、特異日を判定することで予測精度を上げているが、特異日以外の日々のばらつきまでは考慮していない。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、様々なライフスタイルにおける熱需要を、高い確率で予測することが可能な熱供給装置の制御方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために第1の発明は、貯湯槽に湯を貯めて需要者に湯を供給可能な熱供給装置の制御方法であって、一日の所定時間毎の使用熱量の推移である熱需要データを、過去の所定期間に対して取得する工程aと、前記熱需要データに対し、日毎に、所定時間毎における使用熱量があらかじめ設定した基準熱量を超え、かつ、一日の最大使用量となるピーク時間を抽出する工程bと、日毎の前記ピーク時間から、時間毎の頻度であるピーク時間分布を算出する工程cと、前記ピーク時間分布に対し、予め設定された基準時刻から遡って時間毎の頻度を累積し、設定された基準頻度を超える時刻である目標時刻を設定する工程dと、前記基準熱量を超える使用熱量を有する日に対して、日毎の一日の使用熱量の総量を取得し、日毎の総量の分布から標準使用熱量を算出する工程eと、前記目標時刻に対して前記標準使用熱量を確保することができるだけの湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御する工程fと、を具備することを特徴とする熱供給装置の制御方法である。
【0012】
このようにすることで、各家庭における確率的に最も給湯需要が大きくなると判断されるタイミングに向けてお湯を貯めることができる。このため、高い確率でタイミング良く、お湯を利用することができる。ここで、各家庭において、最も大きな熱需要があるのは、風呂のタイミングであると考えられる。したがって、一日における時間毎の最大熱需要量が、風呂に必要な基準熱量未満である場合には、風呂を準備しなかった日であると判定することができる。したがって、風呂を使用しなかった日における熱需要のデータを排除することで、風呂を利用する際に最も良いタイミングを精度よく知ることができる。
【0013】
また、前記工程fにおいて、前記目標時刻に向けて前記標準使用熱量に対応する湯量を貯めるように制御する際に、前記目標時刻よりも前に実際に使用された熱量を前記標準使用熱量から差し引いて前記標準使用熱量を補正し、前記目標時刻に補正後の前記標準使用熱量となるように、貯湯する湯量を再設定することができる。
【0014】
このようにすることで、目標時刻よりも前にすでに利用した熱を、標準使用熱量から差し引いて補正することができる。したがって、すでに利用した熱を、その後に過剰に貯湯することを防止することができる。
【0015】
また、前記工程fにおいて、所定時間毎に実際に使用された熱量を取得して、前記目標時刻まで前記補正を繰り返すことができる。このようにすることで、常に標準使用熱量を補正しながら制御するため、目標時刻よりも早く風呂を準備するような場合でも、より確実に熱需要に追従し、過剰な貯湯を防止することができる。
【0016】
また、前記工程aから前記工程eについては、複数の需要者に対して、需要者ごとに実施し、前記工程fの前に、それぞれの需要者の前記ピーク時間ごとの前記標準使用熱量を合算して、時間毎の総熱使用量分布を算出し、前記工程fでは、前記総熱使用量を確保することができるだけ湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御することができる。
【0017】
このようにすることで、1台の熱供給装置で複数の住居をまかなうような場合でも、最も確率的に効率のよい制御を行うことができる。
【0018】
第2の発明は、熱供給システムであって、湯をためることができる貯湯槽と、前記貯湯槽にためる湯を作るタイミングおよび量を制御する制御部と、需要者の熱の使用量の実績を記憶する記憶部と、を具備し、前記制御部は、一日の所定時間毎の使用熱量の推移である熱需要データ取得し、前記記憶部に記憶させ、前記熱需要データに対し、日毎に、所定時間毎における使用熱量が、あらかじめ設定された基準熱量を超え、かつ、一日の最大使用量となるピーク時間を抽出し、日毎の前記ピーク時間から、時間毎の頻度であるピーク時間分布を算出し、前記ピーク時間分布に対し、あらかじめ設定された基準時刻から遡って頻度を累積し、あらかじめ設定された基準頻度を超える時刻である目標時刻を設定し、前記基準熱量を超える使用熱量を有する日に対して、日毎の一日の使用熱量の総量を取得し、日毎の総量の分布から標準使用熱量を算出し、前記目標時刻に対して前記標準使用熱量を確保することができるだけの湯量を、前記貯湯槽に貯めるように、熱供給装置を制御することが可能であることを特徴とする熱供給システムである。
【0019】
このようにすることで、熱需要を高確率で予測可能であり、効率の良い制御が可能な熱供給システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、様々なライフスタイルにおける熱需要を、高い確率で予測することが可能な熱供給装置の制御方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】熱供給装置の制御方法を示すフローチャート。
【
図4】所定期間における、最大熱需要時間の分布の一例を示す図。
【
図5】
図4において、目標時刻を設定する方法の一例を示す図。
【
図6】標準使用熱量を算出する方法の一例を示す図。
【
図7】目標時刻に向けて熱供給装置を制御する一例を示す図。
【
図8】標準使用熱量を補正する方法の一例を示す図。
【
図9】複数の家庭の熱需要を合わせた状態の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、熱供給システム1を示すブロック図である。熱供給装置3は、例えば燃料電池等であり、制御部5、発電・熱回収部7、貯湯槽9等を有する。発電・熱回収部7は、燃料電池等による発電と、発電に伴って発熱する熱を回収する部位である。なお、発電・熱回収部7の構成は、公知のコジェネレーションシステムを適用することができる。
【0023】
発電・熱回収部7で回収された熱は、お湯となって貯湯槽9に貯められる。このようにして貯められたお湯は、各需要者(各家庭)で使用することができる。ここで、貯湯槽9に貯められたお湯は、時間とともに温度が低下する。また、貯湯槽9が満タンの状態では、それ以上お湯を作ることができない場合がある。この状態では、発電を行っても、その際の熱を有効に利用することができない。
【0024】
一方で、貯湯槽9に十分にお湯が貯められていない状態で、熱需要がある場合には、不足する熱量に対し、バックアップ用の給湯器等によってお湯を作る必要がある。したがって、エネルギー消費量が増大し、発電時に生成される熱が有効に利用されない。したがって、貯湯槽9には、各家庭でのお湯の需要(本発明では熱需要とする)に合わせてお湯を貯めることが望ましい。
【0025】
制御部5は、発電・熱回収部7の運転を制御する。制御部5は、各種データを保存する記憶部と、演算を行うCPU等の演算部を有する。また、制御部5は、各家庭における各種データを取得するデータ入力部と、発電・熱回収部7に対して制御信号を出力する信号出力部を有する。データ入力部は、例えば各家庭における時間毎のお湯(熱)の使用量を流量計等から取得可能である。
【0026】
なお、発電・熱回収部7で発電された電気は、家庭において利用することができる。また、発電・熱回収部7には、図示を省略した水道配管が接続され、必要に応じて水が供給され、生成されたお湯が貯湯槽9に貯められる。
【0027】
次に、本発明の熱供給システム1における、熱供給装置3の制御方法について説明する。
図2は、熱供給装置3の制御方法を示すフローチャートである。まず、制御部5は、1日の所定時間毎(例えば1時間毎)の使用熱量(使用お湯量)の推移である熱需要データを日々取得する。得られた熱需要データは、記憶部に保存される。制御部5は、記憶部に保存された、過去の所定期間(例えば1か月)の日々の熱需要データを取得する(ステップ101)。なお、使用開始から所定期間経過前は、予め設定された標準的な基準熱需要データを適用しても良い。
【0028】
次に、制御部5は、取得した日毎の熱需要データに対して、基準熱量を超え、かつ、1日の最大熱使用量となる時間を、日毎に抽出する(ステップ102)。
図3は、家庭における熱需要の推移の一例を示す図であり、基準熱量を5MJ(図中A)とする例を示す。なお、以下の説明では、熱需要等を「MJ」で示すが、使用お湯量「L」に置き換えても良い。
【0029】
基準熱量は、各家庭における風呂の使用時に最低限必要な熱量とする。すなわち、通常、家庭において一度に最も多くの熱(お湯)を使用するのは、風呂の使用時である。したがって、風呂の使用に合わせて貯湯槽9にお湯を貯めることで、効率良く熱を利用することができる。本発明では、風呂の容量と湯温とから風呂使用時に最低限必要な熱量を基準熱量として設定し、一日のいずれの時間でも基準熱量に達しなかった日は、風呂を使用しなかったものとして熱需要データから排除する。このようにすることで、風呂以外の比較的少量の熱利用の影響を省くことができる。
【0030】
図3に示す例では、基準熱量を超え、かつ、一日の最大使用熱量(ピーク時間)となるのは、18時〜19時となる。このようにして、所定期間の日毎において、風呂を使用した日だけを判別し、風呂を使用した時間を抽出することができる。
【0031】
次に、制御部5は、得られた日毎のピーク時間の分布を算出する(ステップ103)。
図4は、所定期間における、最大熱需要時間の分布の一例を示す図である。例えば、過去1カ月(30日)の熱需要データから、風呂を使用した28日分を判別し、28日分のピーク時間の時間毎の頻度(風呂使用日全体に占める割合)を算出する。
図4に示す例では、18時〜19時に風呂を使用する日が最も多いことを示す。
【0032】
次に、制御部5は、ピーク時間分布(
図4)に対して、予め設定された基準時刻から遡って時間毎の頻度を累積し、設定された基準頻度を超える時刻を目標時刻として設定する(ステップ104)。
図5は、
図4に対して、基準時刻および目標時刻を設定する方法を示す図である。
【0033】
図5では、基準時刻を4時(図中B)に設定した例を示す。基準時刻とは、日毎の熱の利用量が最も少なくなる領域で設定される。基準時刻は、予め設定してもよく、または、例えば、
図3に示すように、日毎の熱需要を取得して、所定期間における時間毎の熱需要量を重ねた場合に、熱需要が最も小さくなる時刻を設定してもよい。すなわち、基準時刻は、一日の熱需要の基点となる時刻であり、基準時刻〜基準時刻までの24時間を、熱需要に対する一日として定義することとなる。したがって、基準時刻前後において、熱需要量が大きいと、次に示す目標時刻を正確に算出することができなくなる。
【0034】
制御部5は、設定された基準時刻Bから、時間を遡ってピーク時間分布の時間毎の頻度を累積する。
図5に示す例では、4時から遡って、0時〜1時の約5%、22時〜23時の約10%・・・と累積する。本実施例では、全体の80%を超えるまで時間を遡って累積を繰り返す。
図5では、累積頻度が80%を超えるのが18時(図中C)となる。この累積頻度が所定値を超えた時刻を目標時刻として設定する。
【0035】
なお、目標時刻を決める累積頻度は、80%に限られるものではないが、累積頻度を小さくすると、実際に最も多くの熱需要がある時刻に対して目標時刻を遅い時間に誤って設定する恐れがあり(例えば
図5では、19時〜20時に設定される恐れがある)、前述したように、バックアップ用の給湯器等を使用する可能性が増大する。一方、累積頻度を高くし過ぎると、イレギュラーな使用時刻までも考慮するため(例えば
図5では、16時に設定される恐れがある)、貯湯槽9における熱損失が増大(回収した熱の利用効率を低く)する恐れがある。したがって、累積頻度は、各家庭における日々のばらつきや分布形状なども考慮して適宜設定する必要がある。
【0036】
次に、制御部5は、基準熱量を超える熱使用量がある日(すなわち風呂を使用した日)に対して、日毎の総使用熱量(給湯需要)を取得する。さらに、この総熱使用量の分布を算出する(ステップ105)。
図6は、総熱使用量の分布の一例を示す図である。制御部5は、この分布から標準使用熱量を算出する。標準使用熱量は、例えば、最小値または最大値から累積して50%を超える量を標準使用熱量とすればよい(中央値)。または、分布の最頻値を標準使用熱量としても良く、分布の平均値を標準使用熱量としてもよい。
図5は、最小値側から50%を超える点を標準使用熱量D(25MJ/日)とした例を示す図である。
【0037】
次に、制御部5は、得られた目標時刻と標準使用熱量から、目標時刻に標準使用熱量の湯が貯まるように、熱供給装置3を制御する(ステップ106)。
図7は、目標時刻18時(図中C)に標準使用熱量である25MJの熱需要(図中D)があるとして設定した例を示す図である。制御部5は、目標時刻に標準使用熱量を貯めることができるように、発電・熱回収部7を制御する。具体的には、所定時間前に発電・熱回収部7を起動し、必要熱量を貯湯槽9に貯留する。
【0038】
このようにすることで、最も熱使用量の大きいと考えられる時間までに、必要な量の熱を貯留することができる。なお、発電・熱回収部7は、起動してすぐには、発電および熱回収を行うことができない。また、起動直後には大きなエネルギーを消費する。したがって、発電・熱回収部7の起動と停止とを繰り返すよりも、一度に必要量を生成する方が、熱供給装置3は効率良く熱を貯めることができる。
【0039】
一方、本発明によれば、特に熱使用量の大きな風呂使用を考慮し、この時間までに、一日の標準使用熱量を貯留するため、効率良く熱を利用することができる。なお、目標時刻前であっても、熱供給装置3の起動後には、徐々に熱の回収によってお湯が生成される。このため、目標時刻前であっても、貯湯槽9内に貯められた分のお湯は使用することができる。
【0040】
なお、本発明では、目標時刻に標準使用熱量を貯留するように制御されるため、目標時刻前にお湯が使用された場合であって、貯湯槽9に蓄えられたお湯が不足する場合には、バックアップ用の給湯器等が用いられる。この際、当初の制御通りに貯湯槽9にお湯が貯められると、すでに使用した熱量だけ、過剰に標準使用量を超えた量のお湯を貯めることとなる。したがって、本発明では、制御部5が、時間毎の熱使用量を取得し、その日の累積熱使用量を算出し、目標時刻以前においてすでに使用した熱量を、標準使用熱量から差し引いて補正を行うことが望ましい。
【0041】
例えば、
図8に示す例では、
図7の制御を行う上で、目標時刻前に10MJの熱をすでに使用した場合を示す。この場合には、熱の不足分はバックアップ用の給湯器等を用いる必要があるが、目標時刻に貯留すべき熱量を補正して制御する。具体的には、標準使用熱量が25MJであるのに対し、すでに使用した10MJを差し引いて(図中矢印F)、目標時刻に15MJの熱を貯留するように制御する。このようにすることで、過剰に熱を貯留することを防止することができる。
【0042】
なお、このような制御は、時間毎に随時行っても良く、起動時に一度補正を行うようにしても良い。また、時間毎の熱使用量と基準熱量とを比較し、目標時刻前の風呂の使用の有無を判定してもよい。
【0043】
この場合において、目標時刻前に風呂をすでに使用した場合には、目標時刻には、風呂を使用することがない。このため、前述した通り、すでに使用した熱量を標準使用熱量から単純に差し引けばよい。一方、目標時刻までに風呂がまだ使用されていないと判断された場合には、目標時刻に貯留される熱量が、少なくとも風呂の使用量(基準熱量)以下とならないように、標準使用熱量を補正する。このようにすることで、より正確な熱需要の予測を行うことができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の熱供給システム1によれば、各家庭における日々の熱需要ばらつきについて、特に風呂の使用時間を考慮して、最も適切なタイミングで熱供給装置3を制御することができる。また、目標時刻前に使用した熱量を標準使用熱量から差し引いて、目標時刻に貯留すべき熱量を設定するため、過剰に熱を貯留することを防止することができる。
【0045】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
例えば、前述の実施形態では、一戸の家庭に対して一台の熱供給装置3を配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、集合住宅等において、複数の家庭の熱需要を1台の熱供給装置3でまかなうこともできる。この場合、家庭毎に、熱需要データを取得し、ピーク時間およびピーク時間分布を算出し、目標時刻および標準使用熱量を算出する(ステップ101〜105)。
【0047】
図9は、4戸の家庭のそれぞれの目標時刻に対する標準使用熱量を重ねた状態を示す図である。図中G〜Jは、各家庭のそれぞれの目標時刻における標準使用熱量であり、
図7に対応する。このように、複数の家庭の熱需要を1台の熱供給装置3で効率良く対応するためには、
図9に示す状態で、最も多くの標準使用熱量となる時刻に、標準使用熱量の総和を確保するように制御すればよい(図に示す例では、18時に約80MJを貯留する)。または、最初の目標時刻に対して標準使用熱量の総和を確保するように制御してもよい(図に示す例では、17時に約80MJを貯留する)。さらに、上記制御に対して、前述した、目標時刻前の熱使用量を差し引いて補正を行っても良い。
【符号の説明】
【0048】
1………熱供給システム
3………熱供給装置
5………制御部
7………発電・熱回収装置
9………貯湯槽