(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856600
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】熱電素子及び熱電モジュール、並びに熱電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/32 20060101AFI20160128BHJP
H01L 35/14 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
H01L35/32 A
H01L35/14
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-224989(P2013-224989)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-88577(P2015-88577A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2014年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】吉見 仁志
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−317629(JP,A)
【文献】
特開平03−297617(JP,A)
【文献】
特開平10−144970(JP,A)
【文献】
特開平10−065222(JP,A)
【文献】
特開平08−306968(JP,A)
【文献】
特開平11−220184(JP,A)
【文献】
特開2007−073889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00−34
H01L 37/00−04
H01L 27/16
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有し、その軸方向を起電力発生方向とした熱電素子であって、
前記軸部の一端部に設けられた頭部と、
前記軸部の全体に形成された螺子部と、
を備えたことを特徴とする熱電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電素子の製造方法であって、消失型模型を用いた精密鋳造により前記熱電素子を形成することを特徴とする、熱電素子の製造方法。
【請求項3】
P型とN型とのうちの一方の熱電特性を有する熱電素子であって、軸部を有してその軸方向を起電力発生方向とし、前記軸部の一端部に螺子部が形成された、第一熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方とは異なる他方の熱電特性を有する熱電素子であって、軸部を有してその軸方向を起電力発生方向とし、前記軸部の一端部に螺子部が形成された、第二熱電素子と、
前記螺子部により前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子に対して固定されることで、前記第一熱電素子における前記一端部と前記第二熱電素子における前記一端部とを電気的に接続するように設けられた、接続電極部材と、
を備え、
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子の各軸部には、前記接続電極部材から露出した部分にもそれぞれ螺子部が形成されたことを特徴とする、熱電モジュール。
【請求項4】
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子は、螺子状の外形形状に形成され、
前記接続電極部材は、前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子における前記一端部が螺着されることで、前記第一熱電素子における前記一端部と前記第二熱電素子における前記一端部とを電気的に接続するように設けられたことを特徴とする、請求項3に記載の熱電モジュール。
【請求項5】
P型とN型とのうちの一方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第一熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方とは異なる他方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第二熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第三熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記他方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第四熱電素子と、
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子における先端部に形成された螺子部が螺着されることで、前記第一熱電素子における前記先端部と前記第二熱電素子における前記先端部とを電気的に接続するように設けられた、第一接続電極部材と、
前記第三熱電素子及び前記第四熱電素子における先端部に形成された螺子部が螺着されることで、前記第三熱電素子における前記先端部と前記第四熱電素子における前記先端部とを電気的に接続するように設けられた、第二接続電極部材と、
前記第二熱電素子における基端部と前記第三熱電素子における基端部との間に掛け渡されることで、前記第二熱電素子における前記基端部と前記第三熱電素子における前記基端部とを電気的に接続するように設けられた、第三接続電極部材と、
を備え、
前記第一熱電素子乃至前記第四熱電素子のそれぞれには、前記第一接続電極部材乃至前記第三接続電極部材のそれぞれから露出した部分にも螺子部が形成されたことを特徴とする、熱電モジュール。
【請求項6】
前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子は、前記基端部に設けられた頭部を除く軸部の全体に前記螺子部が形成されており、
前記第三接続電極部材には、前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における前記螺子部が遊嵌状態で挿通される貫通孔が設けられ、
前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における前記基端部は、前記第三接続電極部材に対して、前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における前記螺子部に螺合されたナットによって固定されたことを特徴とする、請求項5に記載の熱電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子及びこれを備えた熱電モジュール
、並びに熱電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるゼーベック効果あるいはペルチェ効果を利用した熱電モジュール(熱電変換モジュールとも称される)として、下記の特許文献1に開示されたものが知られている。この種の熱電モジュールにおいては、P型及びN型の熱電素子(熱電変換素子とも称される)が、交互に配列されつつ、所定の電極パターンが形成された一対の基板間に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−206497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のこの種の熱電モジュールにおいては、複数(多数)の熱電素子を、基板上の電極パターンにおける所定の位置に配置(位置決め)する必要がある。また、熱電素子と電極パターンとは、通常、半田付け等により接合される。したがって、上述した従来のこの種の熱電モジュールを製造する際には、電極パターンに対する熱電素子の正確な位置決めと、この位置決め状態を維持した状態での両者の接合と、を行う必要があり、製造工程が非常に煩雑なものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、熱電モジュール製造時の、熱電素子と電極との間の位置決めや接合による煩雑さを軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
軸部を有し、その軸方向を起電力発生方向とした熱電素子であって、前記軸部の一端部に設けられた頭部と、前記軸部の全体に形成された螺子部と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の熱電素子
の製造方法であって、消失型模型を用いた精密鋳造により
前記熱電素子を形成することを特徴としている。
【0009】
請求項
3に記載の熱電モジュールは、
P型とN型とのうちの一方の熱電特性を有する熱電素子であって、
軸部を有してその軸方向を起電力発生方向とし、前記軸部の一端部に螺子部が形成された、第一熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方とは異なる他方の熱電特性を有する熱電素子であって、
軸部を有してその軸方向を起電力発生方向とし、前記軸部の一端部に螺子部が形成された、第二熱電素子と、
前記螺子部により前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子に対して固定されることで、前記第一熱電素子における前記一端部と前記第二熱電素子における前記一端部とを電気的に接続するように設けられた、接続電極部材と、
を備え
、
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子の各軸部には、前記接続電極部材から露出した部分にもそれぞれ螺子部が形成されたことを特徴としている。
【0010】
請求項
4に記載の熱電モジュールは、請求項
3に記載の熱電モジュールにおいて、
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子は、螺子状の外形形状に形成され、
前記接続電極部材は、前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子における前記一端部が螺着されることで、前記第一熱電素子における前記一端部と前記第二熱電素子における前記一端部とを電気的に接続するように設けられたことを特徴としている。
【0011】
請求項
5に記載の熱電モジュールは、
P型とN型とのうちの一方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第一熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方とは異なる他方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第二熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記一方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第三熱電素子と、
P型とN型とのうちの前記他方の熱電特性を有する熱電素子であって、螺子状の外形形状に形成された、第四熱電素子と、
前記第一熱電素子及び前記第二熱電素子における先端部
に形成された螺子部が螺着されることで、前記第一熱電素子における前記先端部と前記第二熱電素子における前記先端部とを電気的に接続するように設けられた、第一接続電極部材と、
前記第三熱電素子及び前記第四熱電素子における先端部
に形成された螺子部が螺着されることで、前記第三熱電素子における前記先端部と前記第四熱電素子における前記先端部とを電気的に接続するように設けられた、第二接続電極部材と、
前記第二熱電素子における基端部と前記第三熱電素子における基端部との間に掛け渡されることで、前記第二熱電素子における前記基端部と前記第三熱電素子における前記基端部とを電気的に接続するように設けられた、第三接続電極部材と、
を備え
、
前記第一熱電素子乃至前記第四熱電素子のそれぞれには、前記第一接続電極部材乃至前記第三接続電極部材のそれぞれから露出した部分にも螺子部が形成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項
6に記載の熱電モジュールは、請求項
5に記載の熱電モジュールにおいて、
前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子は、前記基端部に設けられた頭部を除く軸部の全体に前記螺子部が形成されており、
前記第三接続電極部材には、前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における
前記螺子部が遊嵌状態で挿通される貫通孔が設けられ、
前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における前記基端部は、前記第三接続電極部材に対して、前記第二熱電素子及び前記第三熱電素子における前記螺子部に螺合されたナットによって固定されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明においては、熱電素子が、起電力発生方向における一端部に螺子部を有している。このため、かかる螺子部を用いて熱電素子と電極部材(具体的には、電極パターンが形成された基板、あるいは金属板等)とを固定することで、熱電素子と電極部材との間の接合すなわち電気的接続を形成することが可能となる。また、熱電素子と電極部材との間の位置決めは、例えば、電極部材における所定位置に、熱電素子における螺子部に対応する螺子穴や貫通孔等を予め設けておくことで、極めて容易に行われ得る。
【0014】
また、熱電素子が、螺子状の外形形状を有し
、その軸部全体に螺子部が形成されている。このため、例えば、かかる構成の熱電素子を金属板等の電極部材に螺着することで、熱電素子と電極部材との間の接合すなわち電気的接続を形成することが可能となる。また、熱電素子と電極部材との間の位置決めや、隣り合う熱電素子同士の位置決めは、例えば、電極部材における所定位置に予め螺子穴や貫通孔等を設けておくことで、極めて容易に行われ得る。さらに、螺子部における螺子山が放熱フィンの機能を奏することで、熱電素子における両端の間の温度差の発生が促進され、以て良好な熱電変換能力が得られる。
【0015】
請求項
2に記載の発明においては、請求項
1に記載の熱電素子
の製造方法として、消失型模型を用いた精密鋳造により形成
するようにした。消失型模型を用いた精密鋳造としては、例えば、いわゆるロストワックス法を用いることが可能である。したがって、かかる発明によれば、上述のような形状を有する熱電素子が、良好な量産性で実現される。
【0016】
請求項
3に記載の発明においては、第一熱電素子及び第二熱電素子(これは第一熱電素子とは異なる熱電特性を有している)のそれぞれにて起電力発生方向における一端部に形成された螺子部によって、接続電極部材が、第一熱電素子及び第二熱電素子に対して固定される。これにより、第一熱電素子及び第二熱電素子と接続電極部材との間の接合すなわち電気的接続が形成される。また、第一熱電素子及び第二熱電素子における上述の一端部同士が、接続電極部材を介して電気的に接続される。さらに、第一熱電素子及び第二熱電素子と接続電極部材との間の位置決めや、隣り合う第一熱電素子及び第二熱電素子同士の位置決めは、例えば、接続電極部材における所定位置に予め螺子穴や貫通孔等を設けておくことで、極めて容易に行われ得る。したがって、かかる発明によれば、複数の熱電素子を備えた熱電モジュールを、簡略な製造工程で実現することが可能となる。
さらに、露出部分に形成された螺子部における螺子山が放熱フィンの機能を奏することで、熱電素子における両端の間の温度差の発生が促進され、以て良好な熱電変換能力が得られる。
【0017】
請求項
4に記載の発明においては、螺子状の外形形状に形成された第一熱電素子における一端部が、接続電極部材に螺着される。また、螺子状の外形形状に形成された第二熱電素子(これは第一熱電素子とは異なる熱電特性を有している)における一端部が、接続電極部材に螺着される。これにより、第一熱電素子及び第二熱電素子と接続電極部材との間の接合すなわち電気的接続が形成される。また、第一熱電素子における一端部と第二熱電素子における一端部とが、接続電極部材を介して電気的に接続される。したがって、かかる発明によれば、複数の熱電素子を備えた熱電モジュールを、簡略な製造工程で実現することが可能となる。
【0018】
請求項
5に記載の発明においては、螺子状の外形形状に形成された第一熱電素子における先端部が、第一接続電極部材に螺着される。また、螺子状の外形形状に形成された第二熱電素子(これは第一熱電素子とは異なる熱電特性を有している)における先端部が、第一接続電極部材に螺着される。これにより、第一熱電素子及び第二熱電素子と第一接続電極部材との間の接合すなわち電気的接続が形成される。また、第一熱電素子における先端部と第二熱電素子における先端部とが、第一接続電極部材を介して電気的に接続される。
【0019】
同様に、螺子状の外形形状に形成された第三熱電素子(これは第一熱電素子と同一の熱電特性を有している一方で第二熱電素子とは異なる熱電特性を有している)における先端部が、第二接続電極部材に螺着される。また、螺子状の外形形状に形成された第四熱電素子(これは第二熱電素子と同一の熱電特性を有している一方で第一熱電素子及び第三熱電素子とは異なる熱電特性を有している)における先端部が、第二接続電極部材に螺着される。これにより、第三熱電素子及び第四熱電素子と第二接続電極部材との間の接合すなわち電気的接続が形成される。また、第三熱電素子における先端部と第四熱電素子における先端部とが、第二接続電極部材を介して電気的に接続される。
【0020】
さらに、第三接続電極部材が、第二熱電素子における基端部と第三熱電素子における基端部との間に掛け渡されている。これにより、第二熱電素子における基端部と、第三熱電素子における基端部とが、第三接続電極部材を介して電気的に接続される。すると、第一熱電素子、第二熱電素子、第三熱電素子及び第四熱電素子が、熱的に並列且つ電気的に直列に配列した状態で、互いに結合される。
【0021】
このとき、第一熱電素子及び第二熱電素子と第一接続電極部材との間の位置決めや、隣り合う第一熱電素子及び第二熱電素子同士の位置決めは、第一接続電極部材における所定位置に予め螺子穴や貫通孔等を設けておくことで、極めて容易に行われ得る(第三熱電素子、第四熱電素子、及び第二接続電極部材についても同様である。)。したがって、かかる発明によれば、いわゆる「Π型」構造を備えた熱電モジュールを、簡略な製造工程で実現することが可能となる。
さらに、各熱電素子において、接続電極部材から露出した部分に形成された螺子部の螺子山が放熱フィンの機能を奏することで、熱電素子における両端の間の温度差の発生が促進され、以て良好な熱電変換能力が得られる。
【0022】
請求項
6に記載の発明においては、第三接続電極部材に設けられた貫通孔に、第二熱電素子及び第三熱電素子における螺子部が、遊嵌状態で挿通される。その後、第二熱電素子及び第三熱電素子における基端部は、第三接続電極部材に対して、第二熱電素子及び第三熱電素子における螺子部に螺合されたナットによって固定される。これにより、第二熱電素子及び第三熱電素子と第三接続電極部材との間の接合すなわち電気的接続が形成される。また、第二熱電素子における基端部と、第三熱電素子における基端部とが、第三接続電極部材を介して電気的に接続される。このようにして、第一熱電素子、第二熱電素子、第三熱電素子及び第四熱電素子が、熱的に並列且つ電気的に直列に配列した状態で、互いに結合される。
【0023】
このとき、第二熱電素子及び第三熱電素子と第三接続電極部材との間の位置決めや、隣り合う第二熱電素子及び第三熱電素子同士の位置決めは、第三接続電極部材における所定位置に予め設けられた上述の貫通孔により、極めて容易に行われ得る。したがって、かかる発明によれば、いわゆる「Π型」構造を備えた熱電モジュールを、簡略な製造工程で実現することが可能となる。
【0024】
以上のように、本発明によれば、複数の熱電素子における、位置決めや電極との接続の煩雑さを軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱電素子の外観を示す斜視図。
【
図2】
図1に示された熱電素子を備えた、本発明の一実施形態に係る熱電モジュールの外観を示す側面図。
【
図3】
図1に示された熱電素子の製造方法に用いられるロストワックスツリーの外観を示す平面図。
【
図4】
図2に示された熱電モジュールの一変形例の構成の要部を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、変形例は、当該実施形態の説明中に挿入されると首尾一貫した一実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0027】
<熱電素子及び熱電モジュールの構成>
図1に示されているように、本発明の一実施形態に係る熱電素子10(
図2に示されている熱電素子10a、10b、10c及び10dも同様である。)は、螺子状の外形形状を有している。具体的には、この熱電素子10は、丸棒状の軸部11と、この軸部11と一体に形成された頭部12と、を備えている。頭部12は、先端部13とは反対側の端部(基端部)に設けられている。頭部12は、逆円錐台状に形成されている。すなわち、本実施形態の熱電素子10は、いわゆる皿ネジ状に形成されている。
【0028】
本実施形態の熱電素子10は、軸方向(軸部11の中心軸と平行な方向)を起電力発生方向として使用されるようになっている。具体的には、この熱電素子10は、頭部12と先端部13との間の温度差によって軸方向に起電力を発生させるように構成されている。ここで、雄螺子を構成する螺子部14は、熱電素子10における少なくとも先端部13に形成されている。なお、本実施形態においては、螺子部14は、頭部12の直近から先端部13に至るまで形成されている。
【0029】
本実施形態の熱電素子10は、ロストワックス法によって継ぎ目無く一体に形成されている。具体的には、本実施形態の熱電素子10は、鋳放し状態あるいは鋳放し品に適宜熱処理を加えた状態で熱電素子として利用可能な合金系の熱電材料によって形成されている。かかる材料としては、溶製可能なものが好適に用いられ、例えば、Fe−V−Al系材料(例えば特開2007−227755号公報参照)、Fe−Si系材料(例えば特開平8−274380号公報等参照)、Mg−Si系材料、Mn−Si系材料、等が知られている。
【0030】
図2に示されているように、本発明の一実施形態に係る熱電モジュール20は、複数の熱電素子10a、10b、10c及び10dの他に、第一接続電極部材21と、第二接続電極部材22と、第三接続電極部材23と、ナット24と、を備えている。以下、
図1及び
図2を参照しつつ、本実施形態の熱電モジュール20の構成について、より詳細に説明する。
【0031】
P型の熱電素子10a(本発明の「第一熱電素子」に相当する)と、N型の熱電素子10b(本発明の「第二熱電素子」に相当する)とは、銅板からなる第一接続電極部材21を介して電気的に接続されている。具体的には、熱電素子10aにおける先端部13、及び熱電素子10bにおける先端部13は、第一接続電極部材21に予め形成された螺子穴である固定穴25に螺着されている。これにより、熱電素子10a及び10bと第一接続電極部材21との間の接合すなわち電気的接続が形成されている。
【0032】
同様に、P型の熱電素子10c(本発明の「第三熱電素子」に相当する)と、N型の熱電素子10d(本発明の「第四熱電素子」に相当する)とは、銅板からなる第二接続電極部材22を介して電気的に接続されている。具体的には、熱電素子10cにおける先端部13、及び熱電素子10dにおける先端部13は、第二接続電極部材22に予め形成された螺子穴である固定穴25に螺着されている。これにより、熱電素子10c及び10dと第二接続電極部材22との間の接合すなわち電気的接続が形成されている。
【0033】
銅板からなる第三接続電極部材23は、熱電素子10bにおける頭部12と、熱電素子10cにおける頭部12と、の間に掛け渡されるように設けられている。第三接続電極部材23は、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける螺子部14にそれぞれ螺合されたナット24によって、これらの頭部12に対して固定されている。これにより、熱電素子10b及び10cと第三接続電極部材23との間の接合すなわち電気的接続が形成されている。また、熱電素子10bと熱電素子10cとが、第三接続電極部材23を介して電気的に接続されている。
【0034】
具体的には、第三接続電極部材23には、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける軸部11(これのほぼ全体に螺子部14が形成されている)が遊嵌状態で挿通される貫通孔26が設けられている。この貫通孔26は、略円筒状に形成されている。なお、本実施形態においては、貫通孔26における図中上部であって、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける頭部12に対応する位置には、逆円錐面状の凹部である座繰部27が、頭部12の表面と密着可能に形成されている。そして、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける軸部11(螺子部14)が遊嵌状態で挿通された状態でナット24を第三接続電極部材23に向かって締めこむことで、第三接続電極部材23は、熱電素子10b及び10cにおける頭部12とナット24とによって挟持されている。
【0035】
<製造方法>
以下、上述の構成を有する熱電素子10及び熱電モジュール20の製造方法の概要について説明する。まず、熱電素子10は、
図3に示されているロストワックスツリー30を用いたロストワックス法によって形成される。ロストワックス法は、(消失型)模型を用いた精密鋳造であるインベストメントモールド法の一種であって、ソリッドモールド法やセラミックシェルモールド法を用いることが可能である。
【0036】
ロストワックスツリー30は、ロウからなる(消失型)模型であって、鋳型前躯体の加熱により融解することで鋳型前躯体内から脱ロウ(消失)可能に形成されている。なお、脱ロウされた鋳型前躯体を焼成することで、鋳型が得られる。このロストワックスツリー30には、素子模型部31と、湯道形成部32と、湯口形成部33と、が設けられている。素子模型部31は、熱電素子10の外形形状に対応する外形形状に形成されていて、棒状の湯道形成部32から分岐するように設けられている。湯道形成部32の一端には、逆円錐形状の湯口形成部33が接続されている。
【0037】
ロストワックス法による鋳造は、熱電素子10を構成する材質に応じて、大気中、真空中、あるいは不活性ガス雰囲気中で行われる。得られた熱電素子10における、第一接続電極部材21、第二接続電極部材22、あるいは第三接続電極部材23と接触する部分に対しては、酸化皮膜を除去する処理(研磨等)が行われる。これにより、接触抵抗が低減される。
【0038】
ロストワックス法によって形成された熱電素子10a、10b、10c及び10dが用意されると、まず、熱電素子10b及び10cにおける軸部11が、第三接続電極部材23における貫通孔26に挿通される。次に、熱電素子10b及び10cにおける螺子部14に、それぞれナット24が取り付けられる。このとき、ナット24と第三接続電極部材23との間には、所定間隔が設けられる。
【0039】
続いて、熱電素子10a及び10bにおける先端部13が、第一接続電極部材21における固定穴25に螺着される。同様に、熱電素子10c及び10dにおける先端部13が、第二接続電極部材22における固定穴25に螺着される。その後、ナット24が、第三接続電極部材23に密着するまで、頭部12に向かって絞めこまれる。これにより、いわゆる「Π型」構造を備えた熱電モジュール20が形成される。なお、必要に応じて、熱電素子10a〜10dにおける先端部13と第一接続電極部材21及び第二接続電極部材22との螺着部や、ナット24による第三接続電極部材23と熱電素子10b及び10cにおける頭部12との固定部には、ロウ付けや拡散接合等が適宜行われる。
【0040】
<効果>
上述のように、本実施形態の構成においては、熱電素子10(10a〜10d)が螺子部14を有している。このため、かかる螺子部14を用いて熱電素子10と電極部材(第一接続電極部材21等)とを固定することで、両者の接合すなわち電気的接続が行われる。また、熱電素子10の位置決めは、所定位置に予め設けられた固定穴25によって、極めて容易に行われ得る。
【0041】
より詳細には、本実施形態の構成においては、熱電素子10(10a〜10d)が、螺子状の外形形状を有している。このため、かかる構成の熱電素子10における先端部13を金属板からなる第一接続電極部材21及び第二接続電極部材22に螺着することで、熱電素子10a,10bと第一接続電極部材21との間の接合(電気的接続)、及び熱電素子10c,10dと第二接続電極部材22との間の接合(電気的接続)が形成される。
【0042】
また、第三接続電極部材23に設けられた貫通孔26に熱電素子10b及び熱電素子10cにおける螺子部14が遊嵌状態で挿通された状態で、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける頭部12が、第三接続電極部材23に対して、熱電素子10b及び熱電素子10cにおける螺子部14に螺合されたナット24によって固定される。これにより、熱電素子10b,10cと第三接続電極部材23との間の接合(電気的接続)が形成される。
【0043】
このとき、熱電素子10a〜10dと第一接続電極部材21〜第三接続電極部材23との間の位置決めや、隣り合う熱電素子10同士の位置決めは、第一接続電極部材21〜第三接続電極部材23における所定位置に予め設けられた固定穴25や貫通孔26によって極めて容易に行われ得る。また、拡散接合等が行われる場合は、螺着時の締結力を、初期加圧力として利用することができる。したがって、本実施形態によれば、複数の熱電素子10a〜10dを備えいわゆる「Π型」構造を有する熱電モジュール20を、簡略な製造工程で実現することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態の熱電素子10においては、螺子部14における外部に露出した部分(第一接続電極部材21〜第三接続電極部材23及びナット24によって覆われていない部分)にて、螺子山が放熱フィンの機能を奏することで、熱電素子10における頭部12と先端部13との間の温度差の発生が促進される。これにより、良好な熱電変換能力が得られる。さらに、本実施形態においては、熱電素子10が、消失型模型を用いた精密鋳造であるロストワックス法により形成されている。よって、螺子状の外形形状を有する熱電素子10が、良好な量産性で実現される。
【0045】
このように、本実施形態によれば、複数の熱電素子10(10a〜10d)を備えた熱電モジュール20の製造時における、位置決めや接合による煩雑さを軽減することが可能となる。
【0046】
<変形例>
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態にて説明されているものと同様の構成及び機能を有する部分に対しては、上述の実施形態と同様の符号が用いられ得るものとする。そして、かかる部分の説明については、技術的に矛盾しない範囲内において、上述の実施形態における説明が適宜援用され得るものとする。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたものに限定されるものではない。また、上述の実施形態の一部、及び、複数の変形例の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、複合的に適用され得る。
【0047】
例えば、熱電素子10の製造方法や材質は、上述の具体例から種々変更が可能である。具体的には、例えば、消失型模型として、合成樹脂、スズ、冷凍水銀等が利用可能である。すなわち、熱電素子10の製造方法は、いわゆる「ロストワックス法」に限定されるものではない。また、材質についても、消失型模型を用いた精密鋳造が可能なものであれば、特に限定はない。すなわち、例えば、鉄基ホイスラー合金(例えば、Fe
2VAl,Fe
2TiAl,あるいはこれらを母材として元素置換を施したホイスラー合金)及びこれを含有する合金についても、本発明への適用可能性がある。
【0048】
熱電素子10及び熱電モジュール20の形状・構造も、上述の具体例には何ら限定されない。例えば、軸部11の一部(例えば貫通孔26に対応する部分や頭部12の近傍部分)にて、螺子部14の形成は省略され得る。また、頭部12の形状も、種々選択され得る。例えば、頭部12は、フランジ部を有する形状であってもよい。また、
図4に示されているように、熱電素子10は、いわゆる「六角ボルト」状に形成されていてもよい。この場合、第三接続電極部材23には、座繰部27(
図2参照)は形成されない。
【0049】
熱電素子10は、いわゆるタッピング螺子状に形成されていてもよい。この場合、螺子山(雌螺子部)が形成されていない下穴(円筒形状の穴)として形成された固定穴25に対して、いわゆるタッピング螺子状に形成された熱電素子10における螺子部14(先端部13)を螺着することで、第一接続電極部材21あるいは第二接続電極部材22に対する熱電素子10の固定が行われ得る。
【0050】
ナット24は、螺子部14における第一接続電極部材21や第二接続電極部材22側にも設けられ得る。この場合、かかるナット24を第一接続電極部材21や第二接続電極部材22に向かって締めこむことで、ナット24がいわゆる「ロックナット」として機能する。これにより、熱電素子10a及び10bの第一接続電極部材21への固定、並びに熱電素子10c及び10dの第二接続電極部材22への固定が、良好に行われる。
【0051】
あるいは、柱状部材の軸方向両端側に、かかる柱状部材の最大外径よりも小さな外径の螺子部14を設けた場合、ナット24は、上述の柱状部材に当接するようにセットされた第一接続電極部材21〜第三接続電極部材23の外側から螺子部14に締結される。なお、この場合の柱状部材は、その外形形状が、軸方向と直交する断面視にて、楕円形状や多角形状に形成され得る。
【0052】
熱電モジュール20は、熱電素子10が第三接続電極部材23に直接螺着されるように構成されていてもよい。この場合、ナット24は、省略され得る(但し、ナット24が存在することで、当該ナット24が、上述の変形例のように、いわゆる「ロックナット」として機能し得る。)。また、この場合、熱電素子10は、螺子部14のみを有する一方で頭部12を有しない形状(いわゆる「イモネジ」あるいは「長ネジ」状)であってもよい。
【0053】
本発明の「螺子部」は、雄螺子部に限定されない。すなわち、上述の螺子部は、雌螺子部に変更され得る。具体的には、例えば、上述の柱状部材の軸方向における一端部には、本発明の「螺子部」としての螺子穴が形成され得る。この場合、固定穴25は、ボルト等を挿通するための貫通孔として形成される。
【0054】
熱電モジュール20における熱電素子10の個数は、
図2に示されているような4個に限定されない。例えば、熱電モジュール20は、一対の熱電素子10a,10bと、これらに螺着された第一接続電極部材21とから構成されていてもよい。この場合、熱電素子10a,10bは、螺子部14における頭部12側の端部にて、第一接続電極部材21に螺着されていてもよい。
【0055】
あるいは、熱電モジュール20は、6個以上の熱電素子10を備えていてもよい。特に、熱電素子10の個数が多量になればなる程、従来の構成においては位置決めや位置決め状態を維持しながらの接合が困難であったのに対し、本発明による、位置決めや電極との接続の煩雑さの軽減効果が大きくなる。
【符号の説明】
【0056】
10…熱電素子、11…軸部、12…頭部、13…先端部、14…螺子部、20…熱電モジュール、21…第一接続電極部材、22…第二接続電極部材、23…第三接続電極部材、24…ナット、25…固定穴、26…貫通孔、27…座繰部、30…ロストワックスツリー。