【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を挙げて、本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
[実施例1]
リン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%を含む寒天平板培地を作成した。その後、ジェランガム(シグマアルドリッチ社製)を寒天溶液に分散させ、それを前記の培地の上に積層させた。こうしてジェランガムを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0049】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0050】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのジェランガムを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0051】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ジェランガム濃度に換算すると、0.7g/Lの濃度まで減少しており、ジェランガム分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このジェランガム分解酵素が含まれた培養液を培養液A(添加剤)と呼ぶ。
【0052】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Aを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0053】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、50mg/Lまで減少していることを確認し、その液の分子量分布を以下の条件を用いて測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0054】
条件:分子量分布の測定にはHITACHI製HPLCシステムD7000シリーズを使用し、カラムはサイズ排除カラム(昭和電工製Shodex−OH pack SB−806HQ)を用いた。カラム温度は40℃、移動相には0.05M KH
2PO
4 buffer(pH3.0)を1.0mL/minの流量で送液し、200μLのサンプルを注入し、屈折率計により検出した。また、1×10
4、1×10
5、1×10
6、1×10
7、1×10
8および1×10
9Daの分子量を有するプルランで校正曲線を描き、該校正曲線を用いてサンプルの分子量を決定した。
【0055】
[実施例2]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびキサンタンガム(シグマアルドリッチ社製)を1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてキサンタンガムを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0056】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0057】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのキサンタンガムを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0058】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、キサンタンガム濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、キサンタンガム分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このキサンタンガム分解酵素が含まれた培養液を培養液B(添加剤)と呼ぶ。
【0059】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Bを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0060】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、40mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0061】
[実施例3]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびヒアルロン酸1g/L(シグマアルドリッチ社製)を含む寒天平板培地を作成した。こうしてヒアルロン酸を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0062】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0063】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのヒアルロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0064】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後にウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ヒアルロン酸濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、ヒアルロン酸分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このヒアルロン酸分解酵素が含まれた培養液を培養液C(添加剤)と呼ぶ。
【0065】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Cを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0066】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、49mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0067】
[実施例4]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)を1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0068】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0069】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0070】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ポリガラクツロン酸濃度に換算すると0.7g/Lの濃度まで減少しており、ポリガラクツロン酸分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このポリガラクツロン酸分解酵素が含まれた培養液を培養液D(添加剤)と呼ぶ。
【0071】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Dを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0072】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、50mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0073】
[実施例5]
図1の系を用い、BODが750mg/Lの製糖工場の廃水を膜分離活性汚泥法により処理した。この廃水中のウロン酸ユニット濃度は0mg/Lであった。
【0074】
分離膜装置5として、孔径0.1μmの精密ろ過中空糸膜をモジュール化した分離膜装置(旭化成ケミカルズ社製、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製、膜面積0.015m
2、有効膜長さ15cm、内径/外径:0.6/1.2mm)を、有効容積10Lの活性汚泥槽4に浸漬し、吸引ろ過をした。
【0075】
活性汚泥槽中のMLSS濃度は10g/Lで一定とし、活性汚泥槽における廃水の滞留時間は18時間とした。処理開始時のろ過圧力は4kPaであった。活性汚泥の液量は常に一定とし、ろ過Fluxは0.6m/Dayに設定してろ液は全量活性汚泥槽外に排出した。膜への曝気は、空気を膜モジュールの下部から200L/hの流量で送気した。こうした装置を装置A、B、C、DおよびEの5つ用意し、同条件で運転を開始した。
【0076】
ウロン酸ユニット濃度は上述したのと同様の手順で、グルクロン酸の検量線により求めた。1日に1回、活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度を測定した。
【0077】
運転開始から約1週間を経過すると活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度が急激に上昇し、11日目の装置A、B、C、DおよびEの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ50mg/L、55mg/L、53mg/L、50mg/Lおよび50mg/Lとなった。そこで、実施例1〜4で得られた培養液A、B、CおよびDを、毎日10mLずつ装置A、BおよびCにそれぞれ加えた。運転開始から20日目の装置A、BおよびCの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ20mg/L、15mg/L、19mg/Lおよび20mg/Lまで減少し、いずれの装置においても膜間差圧は急上昇することなく安定に運転することができた。
【0078】
一方、装置Eでは、処理開始後20日を経過すると、ウロン酸ユニット濃度が60mg/Lになったがそのまま処理を続けた。するとその5日後には、ろ過圧力が25kPaを超え、分離膜の洗浄が必要となった。
【0079】
[実施例6〜9、比較例1〜4]
実施例5で使用した装置Aの運転11日目の活性汚泥を捕捉粒子径1μmのろ紙でろ過し、ろ液を得た。この液をバイオフィルム液と呼ぶ。このバイオフィルム液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万から1億の分子量にメインピークを有していた。また、このバイオフィルムについて、以下の手法を用いて構成多糖を分析したところ、ヘキソース:50%、デオキシ糖:20%、アミノ糖:20%およびウロン酸:10%であった。
【0080】
バイオフィルムの構成多糖の分析:バイオフィルムサンプルは酸によって単糖まで加水分解し、PMP(1−Phenyl−3−methyl−5−pyrazolone)でラベル化した。こうして得られたPMPラベル化バイオフィルムサンプルはLC/MS(アジレント製、カラム:CD−C18、移動相流量:0.2ml/min、カラム温度:40℃)を用いて分析した。溶離液には0.1M酢酸アンモニウム緩衝液と100%メタノールを用い、10−100%の範囲で濃度勾配をかけ、254nmのUV吸収により構成多糖を検出した。
【0081】
表1の比較例1〜4に示す市販の酵素を各0.05g/Lの濃度で50mMトリス塩酸緩衝液に溶解した溶液を、上記のバイオフィルム液と1:1で混合し、28℃で3時間インキュベート後の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定した。
【0082】
一方、実施例1〜4で得られた培養液A〜Dについて、捕捉粒子径0.45μmのフィルターでろ過して微生物を除去した液を、それぞれ培養液ろ液A〜Dとした。これらの培養液ろ液は、それぞれ表1に記載の酵素を含む。これらの培養液ろ液についてもそれぞれバイオフィルム液と1:1で混合し、28℃で3時間インキュベート後の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定した。
【0083】
結果を表1に示す。表1中、分解率は、処理前のバイオフィルム液の100万から1億の分子量帯のピーク高さをもとに、以下の式を用いて算出した。
分解率=100×(1−(インキュベート後のピーク高さ)/(インキュベート前のピーク高さ)
【0084】
表1から、比較例1〜4に示す市販の酵素を用いた場合、バイオフィルムの分解率は低いことが明らかになった。比較例1〜4で用いた酵素はいずれも細菌の細胞壁等の成分を分解する作用を有する酵素であるが、これらの酵素の作用ではバイオフィルムを高い割合で分解することはできなかった。
【0085】
一方、培養液ろ液A〜Dを用いた場合、いずれもバイオフィルムの分解率が高かった。この結果から、培養液ろ液A〜Dに含まれる、ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはポリガラクツロン酸を分解する酵素により、バイオフィルムを効率よく分解できると考えられた。
【表1】
[比較例5]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%および
グルコース(シグマアルドリッチ社製)1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてグルコースを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0086】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。
【0087】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのグルコースを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0088】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に全糖濃度を測定したところ、グルコース濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、グルコース分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このグルコース分解酵素が含まれた培養液を培養液E(添加剤)と呼ぶ。
【0089】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Eを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0090】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。
【0091】
[比較例6]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%および炭素源としてペプトンおよびポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ0.5g/Lを含む寒天平板培地を作成した。
【0092】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。
【0093】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、ペプトンおよびポリガラクツロン酸をそれぞれ濃度0.5g/L含む、液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0094】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。全糖濃度は0.5g/Lまで減少していた。以下、この培養液を培養液F(添加剤)と呼ぶ。
【0095】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Fを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0096】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。