特許第5856749号(P5856749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5856749-バイオフィルム除去剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856749
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/24 20060101AFI20160128BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20160128BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20160128BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20160128BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20160128BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   C12N9/24
   B01D65/06
   C02F3/12 B
   C02F1/44 F
   C02F3/12 S
   C02F3/12 P
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 520P
   C02F1/50 532A
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550C
   C02F1/50 550B
   C02F1/50 550H
   C02F1/50 560E
   C02F1/50 550D
   C02F1/50 550L
   C12P19/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-81601(P2011-81601)
(22)【出願日】2011年4月1日
(65)【公開番号】特開2012-213364(P2012-213364A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀 克敏
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−508677(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0121019(US,A1)
【文献】 特表2008−512468(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150784(WO,A1)
【文献】 特開2009−066505(JP,A)
【文献】 特開平08−052486(JP,A)
【文献】 特開2005−040747(JP,A)
【文献】 特開2010−227922(JP,A)
【文献】 特開2007−260664(JP,A)
【文献】 特表2006−504835(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10362020(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102005028295(DE,A1)
【文献】 KOHLER N. et al., Proceedings. 3rd Joint SPE/DOE Symposium on Enhanced Oil Recovery, 1982, pp537-557
【文献】 BANIK R.M. et al., World Journal of Microbiology & Biotechnology, 2002, 18(8), pp715-720
【文献】 LEQUETTE Y., et al., Biofouling, 2010, 26(3/4), pp421-431
【文献】 WALKER S.L., et al., Journal of the Institute of Brewing, 2007, 113(1), pp61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−C12N 15/90
C02F 3/00−C02F 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする培地で培養可能な細菌コロニーを培養した培養液のろ液を含む、バイオフィルム除去剤。
【請求項2】
請求項に記載のバイオフィルム除去剤でバイオフィルムを処理する工程を含む、バイオフィルムの除去方法。
【請求項3】
分離膜が設置された分離膜装置を用いて被処理水をろ過する工程を含む膜分離方法であって、
前記分離膜を、請求項に記載のバイオフィルム除去剤で処理して、膜差圧の上昇を抑制する工程を含む、膜分離方法。
【請求項4】
活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときに、請求項に記載のバイオフィルム除去剤を活性汚泥に添加する工程を含む、膜分離活性汚泥法。
【請求項5】
微生物を含む活性汚泥を収容した、有機性廃水を生物処理する活性汚泥槽と、
該活性汚泥槽中またはその後段に設置した、生物処理水を固液分離する分離膜装置と、
該活性汚泥槽中の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定するウロン酸ユニット濃度測定手段と、
該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、請求項に記載のバイオフィルム除去剤で該分離膜装置を処理するために、バイオフィルム除去剤を添加するバイオフィルム除去剤添加手段と、
を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置。
【請求項6】
ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする培地で培養可能な細菌コロニーを採取する工程;
採取した細菌コロニーを培養する工程;
得られた培養液のろ液を含むバイオフィルム除去剤を得る工程;
を含む、バイオフィルム除去剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤に関する。本発明はまた、該バイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルムの除去方法、膜分離方法、膜分離活性汚泥方法および有機性廃水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工、自然環境を問わず、固体表面と水とが接する場面では、必ずといっていいほどバイオフィルムが存在する。バイオフィルムとは、固体表面に吸着した微生物が、細胞外多糖などの有機高分子マトリックスを産出し、そのマトリックス内に入り込んだ微生物の群落である。バイオフィルムはあらゆる固体表面に発生し、種々の問題を引き起こす。例えば、水道管や船底での流体の摩擦抵抗の増加や、熱交換器の熱移動の減少、金属材料の腐食や、食品、医療機器の汚染などが挙げられる。そして河川水や海水、活性汚泥などの液体をろ過する膜分離においても、水相中に放出されたバイオフィルム中の有機高分子が、膜の目詰まりの原因となる。
【0003】
バイオフィルム内で増殖した微生物は、浮遊性の微生物に比べて、抗生物質や殺菌剤に対しての耐性がより強く、一度形成されると除去することは容易なことではない。バイオフィルムは次に述べる一連の基本的な過程を経て形成される:(i) 裸の固体表面へのイオン、有機物の吸着;(ii) (i)への微生物細胞の付着;(iii) 付着した細胞の増殖とそれにともなう細胞外多糖の生産;および(iv) 他の細菌、微生物も含めた共同体としてのバイオフィルムの成長。このようなバイオフィルムの形成過程に対し、常にそれを阻止する脱離作用が働いている。例えば、バイオフィルム近傍に水の流れがあれば、せん断力が働き、それによる脱離作用によって、水相中にバイオフィルムが放出される場合もある。このようにして固体表面へ付着したバイオフィルムや、水相中へ放出されたバイオフィルムは、いずれも前述のような種々の問題を引き起こす。
【0004】
このような問題に対して、例えば特許文献1には、プロテアーゼのグループから選ばれる少なくとも1種類の酵素と、エステラーゼのグループから選ばれる少なくとも1種類の酵素と、アミラーゼとを含む酵素混合物の作用と、アルカリ性の洗浄剤での洗浄を組み合わせた、バイオフィルムの除去方法が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、膜分離活性汚泥法において、生物処理槽(曝気槽)内に浸漬設置した第1分離手段をなす浸漬型膜分離装置で活性汚泥混合液を固液分離し、活性汚泥処理により生物処理槽内に蓄積される生物由来ポリマーを含むCOD(化学的酸素要求量)を、第2分離手段によって適時に活性汚泥混合液から固液分離して、生物処理槽内の活性汚泥量を高濃度に維持しつつ、活性汚泥混合液中の生物由来ポリマー量を低濃度に維持することを特徴とする、膜面に過剰なポリマーが付着することを防止する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、有機性廃水を膜分離活性汚泥法により処理する際に、膜の目詰まりの原因となる原核生物を捕食する微小動物を生物反応槽内に添加することにより、排水処理を安定して長時間継続実施する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−504835号公報
【特許文献2】特開2005−40747号公報
【特許文献3】特開2007−260664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、酵素混合物の作用とアルカリ洗浄剤による洗浄の両方が必要であるなどの煩雑さがあった。また、特許文献2に記載の方法では、膜の目詰まりの原因となるポリマーの量を推測する手段としてCOD値を求め、代用しているが、CODでは、膜の細孔を素通りできる有機物も検出してしまうという問題がある。さらに、特許文献3に記載の方法では、バイオフィルム等の生物由来ポリマーによる目詰まりには対処することができないという問題がある。
【0009】
このような背景のもと、本発明は、バイオフィルム除去剤および除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、バイオフィルムに対し、骨格に5〜100%の割合でウロン酸ユニットを含む多糖類を分解することができる多糖類分解酵素を作用させると、バイオフィルムを除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、多糖類分解酵素を含むバイオフィルム除去剤であって、前記多糖類分解酵素が、ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し5〜100%含む多糖類を分解する酵素である、バイオフィルム除去剤に関する。
本発明は、また、前記多糖類分解酵素が、キサンタンガム分解酵素、ヒアルロン酸分解酵素、ジェランガム分解酵素およびポリガラクツロン酸分解酵素からなる群から選択される1種または複数種の酵素である、前記バイオフィルム除去剤に関する。
さらに、本発明は、前記バイオフィルム除去剤でバイオフィルムを処理する工程を含む、バイオフィルムの除去方法に関する。
さらに、本発明は、分離膜が設置された分離膜装置を用いて被処理水をろ過する工程を含む膜分離方法であって、前記分離膜を、前記バイオフィルム除去剤で処理して、膜差圧の上昇を抑制する工程を含む、膜分離方法に関する。
さらに、本発明は、活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときに、前記バイオフィルム除去剤を活性汚泥に添加する工程を含む、膜分離活性汚泥法に関する。
さらに、本発明は、微生物を含む活性汚泥を収容した、有機性廃水を生物処理する活性汚泥槽と、該活性汚泥槽中またはその後段に設置した、生物処理水を固液分離する分離膜装置と、該活性汚泥槽中の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定するウロン酸ユニット濃度測定手段と、該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、前記バイオフィルム除去剤で該分離膜装置を処理するために、バイオフィルム除去剤を添加するバイオフィルム除去剤添加手段と、を含む、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバイオフィルム除去剤を使用することにより、固体表面に付着したバイオフィルムおよび水相中に放出されたバイオフィルムを除去することができる。特にこのバイオフィルム除去剤を膜分離活性汚泥法において用いることにより、分離膜の目詰まりを防ぎ、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を長期間安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】膜分離活性汚泥法を用いる有機性廃水の処理方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、図面における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0015】
(バイオフィルム除去剤)
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤について説明する。人工、自然環境を問わず、固体表面と水とが接する場面では、必ずといっていいほどバイオフィルムが存在する。バイオフィルムとは、固体表面に吸着した微生物が、細胞外多糖などの有機高分子マトリックスを産出し、そのマトリックス内に入り込んだ微生物の群落であり、嫌気性微生物および好気性微生物のいずれも存在する。バイオフィルムはあらゆる固体表面に発生し、種々の問題を引き起こす。例えば、廃水処理における活性汚泥槽などにおいても、バイオフィルムは形成される。本発明者らは、このバイオフィルムが、多糖類分解酵素、特にウロン酸ユニットを含有する多糖類を分解することができる酵素により、分解除去可能であることを見出した。なお、本発明者らは、後述の実施例に示すとおり、特定のバイオフィルムについて構成多糖の分析を実施したところ、ヘキソース:50%、デオキシ糖:20%、アミノ糖:20%およびウロン酸:10%であったが、このような構成のバイオフィルムであっても、特にウロン酸ユニットを含有する多糖類を分解することができる酵素により、分解除去可能であることを見出した。
【0016】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤でバイオフィルムを処理することにより、主にバイオフィルムを形成する高分子マトリックスが分解され、バイオフィルムを分解および/または除去することができる。バイオフィルムの処理は、例えば、固体表面に発生したバイオフィルムと本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を接触させることによって行うことができる。また、活性汚泥槽などにおいて水相中に放出されたバイオフィルムの場合には、バイオフィルムを含む水(例えば、活性汚泥槽)に本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を添加することによって、バイオフィルムの処理を行うことができる。
【0017】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は、多糖類分解酵素を含むことを特徴とする。該酵素が分解する多糖類としては、でんぷんなどの中性多糖、キチンなどのアミノ多糖、ポリウロン酸などの酸性多糖、キサンタンガムなどのウロン酸ユニット含有多糖類などが挙げられ、好ましくはウロン酸ユニット含有多糖類である。
【0018】
ウロン酸ユニット含有多糖類としては、単糖を酸化して得られる誘導体のうち、主鎖の末端のヒドロキシメチル基(−CH2OH)がカルボキシル基(−CO2H)に変換されたカルボン酸であるウロン酸をその骨格に含む多糖類であれば特に限定されず、例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸等のウロン酸ユニットを含む単糖類を構成単位とする多糖類であるキサンタンガム、ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ジェランガムや、単一のウロン酸ユニットのみからなる高分子であるポリウロン酸であるポリガラクツロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤に含まれる多糖類分解酵素が分解するウロン酸ユニット含有多糖類は、キサンタンガム、ジェランガム、ヒアルロン酸またはポリガラクツロン酸であり、より好ましくは、キサンタンガム、ジェランガムまたはヒアルロン酸であり、さらに好ましくは、キサンタンガムまたはジェランガムであり、特に好ましくはキサンタンガムである。尚、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤に含まれる多糖類分解酵素は、これらの多糖類の1種または複数種を分解するものであってもよい。
【0019】
前記多糖類を分解できる酵素としては、実際のバイオフィルムの分子構造と似ているという点から、キサンタンガム分解酵素、ヒアルロン酸分解酵素、ジェランガム分解酵素およびポリガラクツロン酸分解酵素からなる群から選択される1種または複数種の酵素が好ましく、キサンタンガム分解酵素、ヒアルロン酸分解酵素およびジェランガム分解酵素からなる群から選択される1種または複数種の酵素がより好ましく、キサンタンガム分解酵素およびジェランガム分解酵素からなる群から選択される1種または複数種の酵素がさらに好ましく、キサンタンガム分解酵素が含まれることが特に好ましい。
【0020】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤に含まれる多糖類分解酵素が分解するウロン酸ユニット含有多糖類は、バイオフィルムの分解効率を高めるという観点から、好ましくはウロン酸ユニットと他の糖ユニットとを含有する多糖類である。例えば、好ましくは、ウロン酸ユニット濃度が全糖ユニット濃度の5〜100%であり、より好ましくは7〜100%であり、さらに好ましくは10〜70%であり、特に好ましくは20〜50%である。このような多糖類としては、例えば、キサンタンガム(ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し20%含有)、ヒアルロン酸(ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し50%含有)、ジェランガム(ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し25%含有)、ポリガラクツロン酸(ウロン酸ユニットを全糖ユニットに対し100%含有)、が挙げられる。
【0021】
ここで全糖ユニット濃度は、以下に示すフェノール硫酸法により測定できる。
1)試験管に試料水溶液または標準単糖水溶液を500μL加える
2)5wt%フェノール水溶液を500μL加え、撹拌する
3)濃硫酸を2.5mL加え、すぐに10秒間激しく撹拌する
4)30℃水浴中に20分以上放置する
5)分光光度計で490nmの吸収を測定し、既知濃度の標準単糖で作製した検量線から濃度を求める
尚、ウロン酸ユニット濃度は、後述の手法を用いて測定することができる。
【0022】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤としては、例えば、ウロン酸ユニットを含む多糖類のみを炭素源として含む培地で培養可能な細菌コロニーを培養した培養液のろ液を用いることもできる。ウロン酸ユニットを含む多糖類のみを炭素源として含む培地で培養可能な細菌コロニーは、ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する酵素を産生していると考えられ、このような細菌コロニーの培養液のろ液は、ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する酵素を含むため、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤として用いることができる。
【0023】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は水系で水希釈物として用いるのが効果的である。本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で処理することにより、拭き取り、ブラッシング、水流などの物理力なしに対象物からバイオフィルムを除去することが可能であるが、短時間でのバイオフィルム除去のためには、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤での処理に加えて前記のような物理力を併用してもよい。除去対象のバイオフィルムが広範囲にわたる場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。
【0024】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を水系で水に溶解させて使用する場合にはバイオフィルム除去剤中の多糖類分解酵素の濃度が0.05g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上の水溶液として使用し、バイオフィルムの処理は連続して行うことが好ましい。
【0025】
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムの危害が及ぶ広い分野に使用することができる。例えば、菌汚染リスクの高い食品製造現場、キッチン、厨房などの洗浄、医療機器の洗浄、逆浸透膜や精密ろ過膜の洗浄の際に使用することができる。また、バイオフィルムが水相中に放出される膜分離活性汚泥の場合には、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で分離膜や活性汚泥を処理するよう、活性汚泥槽等へ添加して使用することができる。
【0026】
(膜分離方法)
本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は、分離膜が設置された分離膜装置を用いて被処理水をろ過する工程を含む膜分離方法において使用することができる。前記分離膜を本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で処理することにより、膜の目詰まりの原因となるバイオフィルムを分解および除去し、膜差圧の上昇を抑制することができる。これにより、長期間安定的に膜分離方法による水処理を行うことができる。
【0027】
(膜分離活性汚泥法)
上記の膜分離方法の一例として、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を好適に用いることができる膜分離活性汚泥法について説明する。
【0028】
膜分離活性汚泥法は、微生物を含む活性汚泥を収容した活性汚泥槽に有機性廃水を流入させる流入工程、および、この活性汚泥槽で生物的に処理した処理液を、活性汚泥槽に設置した分離膜装置によって固液分離する分離工程を含む。
【0029】
流入工程では、まず、有機性廃水から夾雑物を取り除く前処理設備によって、大きな固形分などをおおまかに除去する。前処理された有機性廃水は、流量調節槽にいったん蓄えられた後、流量を調節しながら活性汚泥槽に送り込まれる。
【0030】
続く分離工程では、まずこの活性汚泥槽において、活性汚泥中の微生物により有機性廃水中の有機物が分解される(生分解可能な該有機物をBOD成分とも呼ぶ)。活性汚泥槽の大きさおよび有機性廃水の活性汚泥槽での滞留時間は、活性汚泥槽における有機性廃水の処理量や、有機性廃水中の有機物濃度に応じて適宜決定することができる。活性汚泥槽中の活性汚泥濃度は一般に5〜20g/L程度が好ましいが、この範囲に限定されない。
【0031】
分離工程では、次に、分離膜装置によって、活性汚泥槽中の活性汚泥と有機性廃水との固液分離を行う。活性汚泥槽に設置された浸漬型分離膜装置は、分離膜と集水部を含む。分離膜装置の集水部は吸引ポンプに配管され、吸引ポンプによって膜の内面と外面に圧力勾配が発生し、固液分離が達成される。この活性汚泥槽中で、活性汚泥中および有機性廃水中の微生物等によりバイオフィルムが形成され、分離膜の目詰まりの一因となる。したがって、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で分離膜や活性汚泥を処理するために、活性汚泥等に本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を添加することにより、分離膜の目詰まりを防止し、長期間安定的に膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を行うことができる。
【0032】
分離膜に用いられる膜カートリッジには、平膜、中空糸膜など公知の分離膜を用いることができる。中でも、中空糸膜は膜自身の強度が高く、有機性廃水中の夾雑物との接触から膜表面に受けるダメージが少なく、比較的長期間の使用に耐えることができる。
【0033】
分離膜の孔径や素材は、ろ過が好適に実施される限り特に限定されないが、例えば、孔径0.1μm程度で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製のものが好ましく用いられる。
【0034】
分離膜の目詰まりを防ぐためには、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤による処理に加え、物理的手法として、分離膜装置にスカートを設置してスカートへブロワーから気体を送り込んで膜を揺動させたり、膜面に水流をあててせん断力を与えたりしてもよい。ろ過方向とは逆方向にろ過水等を噴出させることによってバイオフィルム等膜表面の付着物を除去する逆洗を行ってもよい。
【0035】
分離膜装置は、活性汚泥槽内に浸漬して設置するだけでなく、活性汚泥槽の後段に接続して設置してもよい。したがって本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は、分離膜装置浸漬型の膜分離活性汚泥法だけでなく、分離膜装置を活性汚泥槽とは別の槽へ設ける場合や、加圧型の分離膜装置を用いる場合にも適用できる。これらの方法の場合は、活性汚泥槽と分離膜装置の間で活性汚泥を循環させ、濃縮液を活性汚泥槽へ戻す。また、これらの方法の場合、バイオフィルム除去剤は、分離膜装置および活性汚泥槽の両方に添加することも、どちらか一方に添加することもできる。どちらか一方に添加する場合、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で分離膜を処理して分離膜の目詰まりを効率よく防止するという観点から、分離膜装置への添加が好ましい。
【0036】
分離膜は必要に応じて複数系列としてもよい。複数系列とすることにより、分離膜の系列毎に分離作業を行ったり分離作業を止めたりすることもできるので、廃水処理スピードの調整や分離膜の管理が可能になる。この場合、複数の分離膜のそれぞれを本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤で処理することが好ましい。
【0037】
本実施の形態のバイオフィルム除去剤を用いた膜分離活性汚泥法で処理することのできる有機性廃水は、特に限定されないが、例えば、食品工場廃水、製糖工場廃水、洗剤工場廃水、スターチ工場廃水、豆腐工場廃水などが挙げられる。
【0038】
(廃水処理装置)
上記の膜分離活性汚泥法による廃水処理方法に用いる処理に用いる装置としては、例えば、図1に示される装置が挙げられる。
【0039】
まず、有機性廃水1は、前処理設備2で夾雑物を除去した後に流量調整槽3に一旦貯留され、流量調整槽3から一定の流量で活性汚泥槽(曝気槽)4に供給される。
【0040】
活性汚泥槽4では、槽に入れられた活性汚泥中の微生物によって有機性廃水1中の有機物(BOD成分)が分解除去される。活性汚泥槽4における活性汚泥混合液の固液分離は槽内に浸漬された分離膜装置5で行う。活性汚泥槽4に本実施の形態のバイオフィルム除去剤を添加して分離膜装置5を処理することにより、バイオフィルムによる分離膜装置5の目詰まりを防止することができる。例えば、ウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定する濃度測定手段としてウロン酸ユニット濃度測定装置13を活性汚泥槽4中に設け、該濃度測定装置で測定したウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、バイオフィルム除去剤を活性汚泥中に添加するバイオフィルム除去剤添加装置14を設けることにより、本実施の形態のバイオフィルム除去剤を添加することができる。また、分離膜装置5の下部にはスカート6およびブロワー7が設置されており、スカート6へブロワー7から気体が送り込まれることで、物理的にも分離膜装置5の目詰まりを防止することができる。分離膜装置5で処理されたろ過液9は、吸引ポンプ8で吸引されて、必要に応じて滅菌槽10で消毒後、処理水11として放流される。余剰汚泥15は、必要に応じて活性汚泥槽(曝気槽)4から汚泥引き抜きポンプ12により引き抜かれる。
【0041】
(廃水処理方法)
上記の廃水処理装置を用いた本実施の形態に係る廃水処理方法において、前記活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定し、該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度、例えば30mg/Lに達したときに、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を添加することができる。
【0042】
上述のとおり、膜分離活性汚泥法における分離膜の目詰まりは、活性汚泥中の微生物が代謝する多糖類を含むバイオフィルムが一因である。ウロン酸ユニットを含む多糖類を分解する酵素を含む、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤によって、バイオフィルムを除去することができるため、活性汚泥槽に収容された活性汚泥の水相中の糖濃度、好ましくはウロン酸ユニット濃度を測定し、これに基づいて本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を適時に適量加えて、安定した膜分離を効率よく達成することができる。
【0043】
一般に、活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、好ましくは50mg/L以下であり、より好ましくは30mg/L以下であり、さらに好ましくは20mg/L以下、最も好ましくは10mg/Lである。従って、本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤は、このウロン酸ユニット濃度をこれらの濃度以下に維持するように添加することが好ましいが、一般に、0.6m/Day以下のフラックスで運転した場合には、ウロン酸ユニット濃度が30mg/L以下において膜の目詰まりが起こりにくい傾向にあるため、ウロン酸ユニット濃度が30mg/Lに達したときにバイオフィルム除去剤を添加すれば、経済的にも有利である。一方、ウロン酸ユニット濃度が50mg/Lになると膜の目詰まりが起こり始めるため、50mg/Lに達する前、好ましくは40mg/Lに達する前に本実施の形態に係るバイオフィルム除去剤を添加することが望ましい。
【0044】
活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度を測定するためには、ろ紙など、分離膜装置の分離膜より大きな孔径を有するろ材によってろ過して汚泥ろ液を得てから、測定することが好ましい。この操作によって、活性汚泥中の浮遊物のみがろ材に捕捉され、糖成分はろ紙を通過する。したがってそのろ液中の全糖ユニット濃度および/またはウロン酸ユニット濃度を測定すれば膜の目詰まり物質(バイオフィルム)となる生物由来多糖類の濃度をより正確に知ることができる。
【0045】
ろ材の孔径は、分離膜装置に備えられた分離膜の孔径の好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上である。また、分離膜装置に備えられた分離膜の約100倍以下を上限とすることが好ましく、孔径の上限は10μmであることがより好ましい。さらに、親水性の素材の方が糖成分の吸着が少ないので好適であり、例えば、セルロースを素材とするろ紙を用いることができる。
【0046】
尚、本実施の形態においてウロン酸ユニット濃度は、ウロン酸ユニット含有多糖類のウロン酸ユニットのみの濃度であり、ウロン酸濃度としてNELLY BLUMENKRANTZ,GUSTAV ASBOE−HANSEN著「New Method for Quantitative Determination of Uronic Acid」ANALYTICAL BIOCHEMISTRY54巻、484〜489貢(1973年発行)に記載された以下の方法に従い、ポリウロン酸の一つであるポリガラクツロン酸を用いて作成した検量線により測定することができる。
1)0.5mLの汚泥ろ液および既知濃度のポリガラクツロン酸水溶液を試験管にとり、各々に3.0mLの0.0125MのNa247濃硫酸溶液を加える。
2)各液をよくふって、沸騰湯浴中で5分間温め、その後氷水中で20分間冷やす。
3)各液に50μLの0.15%m−ヒドロキシジフェニルの0.5%NaOH溶液を加える。
4)各液をよく撹拌して、5分たったら3)の各液の520nm吸光度を測定し、既知濃度のポリガラクツロン酸水溶液の値と汚泥ろ液の値とを比較して濃度を求める。
【0047】
本実施の形態は、一態様において、膜分離活性汚泥法による有機性廃水処理装置(既存の装置であってもよい)に、活性汚泥槽の水相中のウロン酸ユニット濃度の経時的な変化を測定する濃度測定手段および該ウロン酸ユニット濃度が所定の濃度に達したときに、前記バイオフィルム除去剤を添加するバイオフィルム除去剤添加手段を備えた、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理装置を提供する。該装置によれば、ウロン酸ユニット濃度に応じたバイオフィルム除去剤の添加を行うため、連続的な廃水処理を経済的に行うことができる。ウロン酸ユニット濃度の測定は、例えば上記の記載を参照して行うことができる。また、バイオフィルム除去剤添加手段は、当業者に公知に手法を用いて行うことができ、該バイオフィルム除去剤の添加を自動で行うこともできる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を挙げて、本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
[実施例1]
リン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%を含む寒天平板培地を作成した。その後、ジェランガム(シグマアルドリッチ社製)を寒天溶液に分散させ、それを前記の培地の上に積層させた。こうしてジェランガムを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0049】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0050】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのジェランガムを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0051】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ジェランガム濃度に換算すると、0.7g/Lの濃度まで減少しており、ジェランガム分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このジェランガム分解酵素が含まれた培養液を培養液A(添加剤)と呼ぶ。
【0052】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Aを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0053】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、50mg/Lまで減少していることを確認し、その液の分子量分布を以下の条件を用いて測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0054】
条件:分子量分布の測定にはHITACHI製HPLCシステムD7000シリーズを使用し、カラムはサイズ排除カラム(昭和電工製Shodex−OH pack SB−806HQ)を用いた。カラム温度は40℃、移動相には0.05M KH2PO4 buffer(pH3.0)を1.0mL/minの流量で送液し、200μLのサンプルを注入し、屈折率計により検出した。また、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108および1×109Daの分子量を有するプルランで校正曲線を描き、該校正曲線を用いてサンプルの分子量を決定した。
【0055】
[実施例2]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびキサンタンガム(シグマアルドリッチ社製)を1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてキサンタンガムを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0056】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0057】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのキサンタンガムを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0058】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、キサンタンガム濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、キサンタンガム分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このキサンタンガム分解酵素が含まれた培養液を培養液B(添加剤)と呼ぶ。
【0059】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Bを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0060】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、40mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0061】
[実施例3]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびヒアルロン酸1g/L(シグマアルドリッチ社製)を含む寒天平板培地を作成した。こうしてヒアルロン酸を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0062】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0063】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのヒアルロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0064】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後にウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ヒアルロン酸濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、ヒアルロン酸分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このヒアルロン酸分解酵素が含まれた培養液を培養液C(添加剤)と呼ぶ。
【0065】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Cを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0066】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、49mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0067】
[実施例4]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)を1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。
【0068】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上にカビ類、細菌類のコロニーが発生した。
【0069】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのポリガラクツロン酸を唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生したカビ、細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0070】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定したところ、ポリガラクツロン酸濃度に換算すると0.7g/Lの濃度まで減少しており、ポリガラクツロン酸分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このポリガラクツロン酸分解酵素が含まれた培養液を培養液D(添加剤)と呼ぶ。
【0071】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Dを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0072】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、50mg/Lまで減少していることを確認し、またその液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークが減少していることも確認した。
【0073】
[実施例5]
図1の系を用い、BODが750mg/Lの製糖工場の廃水を膜分離活性汚泥法により処理した。この廃水中のウロン酸ユニット濃度は0mg/Lであった。
【0074】
分離膜装置5として、孔径0.1μmの精密ろ過中空糸膜をモジュール化した分離膜装置(旭化成ケミカルズ社製、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製、膜面積0.015m2、有効膜長さ15cm、内径/外径:0.6/1.2mm)を、有効容積10Lの活性汚泥槽4に浸漬し、吸引ろ過をした。
【0075】
活性汚泥槽中のMLSS濃度は10g/Lで一定とし、活性汚泥槽における廃水の滞留時間は18時間とした。処理開始時のろ過圧力は4kPaであった。活性汚泥の液量は常に一定とし、ろ過Fluxは0.6m/Dayに設定してろ液は全量活性汚泥槽外に排出した。膜への曝気は、空気を膜モジュールの下部から200L/hの流量で送気した。こうした装置を装置A、B、C、DおよびEの5つ用意し、同条件で運転を開始した。
【0076】
ウロン酸ユニット濃度は上述したのと同様の手順で、グルクロン酸の検量線により求めた。1日に1回、活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度を測定した。
【0077】
運転開始から約1週間を経過すると活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度が急激に上昇し、11日目の装置A、B、C、DおよびEの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ50mg/L、55mg/L、53mg/L、50mg/Lおよび50mg/Lとなった。そこで、実施例1〜4で得られた培養液A、B、CおよびDを、毎日10mLずつ装置A、BおよびCにそれぞれ加えた。運転開始から20日目の装置A、BおよびCの活性汚泥の水相中のウロン酸ユニット濃度は、それぞれ20mg/L、15mg/L、19mg/Lおよび20mg/Lまで減少し、いずれの装置においても膜間差圧は急上昇することなく安定に運転することができた。
【0078】
一方、装置Eでは、処理開始後20日を経過すると、ウロン酸ユニット濃度が60mg/Lになったがそのまま処理を続けた。するとその5日後には、ろ過圧力が25kPaを超え、分離膜の洗浄が必要となった。
【0079】
[実施例6〜9、比較例1〜4]
実施例5で使用した装置Aの運転11日目の活性汚泥を捕捉粒子径1μmのろ紙でろ過し、ろ液を得た。この液をバイオフィルム液と呼ぶ。このバイオフィルム液の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定すると100万から1億の分子量にメインピークを有していた。また、このバイオフィルムについて、以下の手法を用いて構成多糖を分析したところ、ヘキソース:50%、デオキシ糖:20%、アミノ糖:20%およびウロン酸:10%であった。
【0080】
バイオフィルムの構成多糖の分析:バイオフィルムサンプルは酸によって単糖まで加水分解し、PMP(1−Phenyl−3−methyl−5−pyrazolone)でラベル化した。こうして得られたPMPラベル化バイオフィルムサンプルはLC/MS(アジレント製、カラム:CD−C18、移動相流量:0.2ml/min、カラム温度:40℃)を用いて分析した。溶離液には0.1M酢酸アンモニウム緩衝液と100%メタノールを用い、10−100%の範囲で濃度勾配をかけ、254nmのUV吸収により構成多糖を検出した。
【0081】
表1の比較例1〜4に示す市販の酵素を各0.05g/Lの濃度で50mMトリス塩酸緩衝液に溶解した溶液を、上記のバイオフィルム液と1:1で混合し、28℃で3時間インキュベート後の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定した。
【0082】
一方、実施例1〜4で得られた培養液A〜Dについて、捕捉粒子径0.45μmのフィルターでろ過して微生物を除去した液を、それぞれ培養液ろ液A〜Dとした。これらの培養液ろ液は、それぞれ表1に記載の酵素を含む。これらの培養液ろ液についてもそれぞれバイオフィルム液と1:1で混合し、28℃で3時間インキュベート後の分子量分布を実施例1と同様の手法で測定した。
【0083】
結果を表1に示す。表1中、分解率は、処理前のバイオフィルム液の100万から1億の分子量帯のピーク高さをもとに、以下の式を用いて算出した。
分解率=100×(1−(インキュベート後のピーク高さ)/(インキュベート前のピーク高さ)
【0084】
表1から、比較例1〜4に示す市販の酵素を用いた場合、バイオフィルムの分解率は低いことが明らかになった。比較例1〜4で用いた酵素はいずれも細菌の細胞壁等の成分を分解する作用を有する酵素であるが、これらの酵素の作用ではバイオフィルムを高い割合で分解することはできなかった。
【0085】
一方、培養液ろ液A〜Dを用いた場合、いずれもバイオフィルムの分解率が高かった。この結果から、培養液ろ液A〜Dに含まれる、ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはポリガラクツロン酸を分解する酵素により、バイオフィルムを効率よく分解できると考えられた。
【表1】
[比較例5]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%およびグルコース(シグマアルドリッチ社製)1g/Lを含む寒天平板培地を作成した。こうしてグルコースを唯一の炭素源とする寒天平板培地を作製した。

【0086】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。
【0087】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、濃度1g/Lのグルコースを唯一の炭素源とする液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0088】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。24時間後に全糖濃度を測定したところ、グルコース濃度に換算すると0.6g/Lの濃度まで減少しており、グルコース分解酵素が含まれていることを確認した。以下、このグルコース分解酵素が含まれた培養液を培養液E(添加剤)と呼ぶ。
【0089】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Eを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0090】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。
【0091】
[比較例6]
リン分0.15%、窒素分0.04%、Mg分0.001%および炭素源としてペプトンおよびポリガラクツロン酸(シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ0.5g/Lを含む寒天平板培地を作成した。
【0092】
この培地に活性汚泥、土壌および湖沼を一様に塗沫接種し、28℃で72時間インキュベートすると寒天平板上に細菌類のコロニーが発生した。
【0093】
栄養塩類としてリン分0.15%、窒素分0.04%およびMg分0.001%さらに、ペプトンおよびポリガラクツロン酸をそれぞれ濃度0.5g/L含む、液体培地20mL中に、寒天平板上に発生した細菌コロニーを白金耳で無菌的に植菌した。
【0094】
28℃に維持して120rpmで24時間振とう通気しながら培養した。全糖濃度は0.5g/Lまで減少していた。以下、この培養液を培養液F(添加剤)と呼ぶ。
【0095】
続いて、上述の方法で測定したウロン酸ユニット濃度が100mg/Lに達した活性汚泥をアドバンテック社製5Cのろ紙でろ過した液1Lを、5L三角フラスコ中に用意し、前述の培養液Fを10mL、無菌的に加え、28℃に維持して120rpmの速度で振とう通気処理を24時間行った。
【0096】
24時間後に上述の方法でウロン酸ユニット濃度を測定すると、100mg/Lとほとんど変化しておらず、またその液の分子量分布を実施例1の条件と同様の手法で測定すると100万〜1億の分子量を示すピークも全く変化しておらず、多糖類の分解は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のバイオフィルム除去剤によれば、固体表面に付着したバイオフィルムや水相中に放出されたバイオフィルムを分解除去することができる。バイオフィルムは、水道管や船底での流体の摩擦抵抗の増加や、熱交換器の熱移動の減少、金属材料の腐食や、食品、医療機器の汚染など、種々の問題を引き起こすため、本発明は、このような問題の解決に寄与するという産業上の利用可能性を有する。特に膜分離活性汚泥法において、本発明のバイオフィルム除去剤を用いることにより、分離膜の目詰まりを防ぎ、膜分離活性汚泥法による有機性廃水の処理を長期間安定的に行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
1…有機性廃水(流入)、2…前処理設備、3…流量調整槽、4…活性汚泥槽(曝気槽)、5…分離膜装置、6…スカート、7…ブロワー、8…吸引ポンプ、9…ろ過液、10…滅菌槽、11…処理水(放流)、12…汚泥引き抜きポンプ、13…ウロン酸ユニット濃度測定装置、14…バイオフィルム除去剤添加装置、15…余剰汚泥
図1