【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患者に投与するタンパク質溶液は、投与後患者の血中タンパク質濃度を増加させる目的もあるため、ある程度高い濃度であることが必要となるが、そのために高い濃縮倍率になるよう濃縮する必要がある。処理する腹水のタンパク質濃度が濃くなると、濃縮用フィルタはタンパク質により目詰まりし、濃縮速度が低下してしまい、目標とする濃縮倍率に濃縮できない場合がある。このような場合、一旦濃縮不十分の状態でタンパク質溶液を回収し、追加で濃縮するといった非常に煩雑な工程を経る必要があり、さらに場合によっては濃縮用フィルタを新しいものと交換する必要があるため、施行者にとり、作業面、作業時間で負担のかかるものである上、経済面の不利益もある。また、患者にとってもタンパク質溶液が投与されるまでの拘束時間が長くなるという不利益がある。
【0005】
一方、腹水が貯留する患者は、大別すると肝硬変などの疾患が元で貯留する肝性腹水患者と、胃癌、卵巣癌、大腸癌などの癌が元で貯留する癌性腹水患者に分けられる。従来、本治療は主に肝性腹水患者に対して施行されることがほとんどであったが、近年、癌性腹水患者に対して本治療を実施することの治療効果が認められつつあり、癌性腹水患者に対する施行機会が増加している。しかし癌性腹水は一般的に肝性腹水よりタンパク質濃度が濃い傾向があるため、前記のような追加濃縮工程が必要な場合が頻発していた。
【0006】
また、特許文献1には、濃縮フィルタの廃液側に設けられた吸引装置により濃縮する方法において、濃縮フィルタの下流に陰圧発生装置を設置し、堆積物の堆積を抑制する方法が開示されているが、この方法においても吸引装置の途中に設けられた圧開放ラインを開放し、濃縮器にかかる吸引圧を開放させる、施行者による対応が必要であった。
【0007】
本発明は、上記従来法の問題点に対し、腹水などの希薄なタンパク質溶液を濃縮し、濃厚なタンパク質溶液を得る方法において、目詰まりによる処理速度低下をきたさず、追加濃縮工程など施行者の負担なしで高いタンパク質濃度の濃厚タンパク質溶液を得る腹水濾過濃縮装置及び高濃度タンパク質溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、濃縮器の目詰まりには装置に用いる濃縮フィルタの限外濾過性能が関係することを見出し、腹水を濃縮処理するのにも最適な限外濾過性能を有する濃縮用フィルタを用いた装置とすることによって濃縮速度の低下が抑えられ、またタンパク質を損失することなく高倍率にまで濃縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
【0009】
〔1〕
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【0010】
〔2〕
前記貯留容器内に貯留された前記タンパク質溶液を前記第1の流路を通して前記腹水濾過用フィルタに送液し、前記細胞成分が除去された濾過済タンパク質溶液を前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口から前記第2の流路に送出させるとともに、前記細胞成分を含む溶液を前記腹水濾過用フィルタの出口から第3の流路に排出させるステップと、
前記第2の流路に送出された前記濾過済タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタに送液し、濃縮された濃厚タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタの出口から第4の流路に送出させるとともに、水溶液を前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口から第5の流路に水溶液を排出させるステップと、
前記第4の流路に送出された前記濃厚タンパク質溶液を、前記回収容器に回収するステップと、を行い、
前記第1〜第5の流路のうちの少なくとも1つの流路の流量を制御する制御手段を更に備える、請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0011】
〔3〕
前記制御手段は、前記第1の流路に設けられた送液ポンプを含む、請求項2に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0012】
〔4〕
前記腹水濾過用フィルタは、該腹水濾過用フィルタの入口における液体の落差圧が前記貯留容器と前記第1の流路との接続部における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置され、かつ、
前記回収容器は、該回収容器と前記第4の流路との接続部における液体の落差圧が前記腹水濃縮用フィルタの出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0013】
〔5〕
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧と等しくなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0014】
〔6〕
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0015】
〔7〕
前記腹水濃縮用フィルタの限外濾過性能が腹水の濃縮処理に最適なものであることから、腹水の濃縮が1回で足り、追加濃縮工程を必要としないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0016】
〔8〕
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度を5倍以上に濃縮することが可能なことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0017】
〔9〕
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度が7g/dl以上の濃厚タンパク質溶液を得られることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0018】
〔10〕
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
時間当たりのタンパク質濃縮倍率が0.1倍/分以上であり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【0019】
〔11〕
タンパク質濃度が5g/dL以下の低濃度タンパク質溶液を貯留容器に貯留する工程と、
前記貯留容器に貯留された前記低濃度タンパク質溶液を、限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型フィルタに通液させ、前記フィルタの濾過側出口からタンパク質濃度が100mg/dL以下である低濃度タンパク質溶液を送出させるとともに、前記フィルタの出口からタンパク質濃度が7g/dL以上である高濃度タンパク質溶液を送出させる工程と、
前記フィルタの出口から送出された前記高濃度タンパク質溶液を回収容器に回収する工程と、を含む、高濃度タンパク質溶液の製造方法。