(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(b−2)において、亜鉛元素と、アルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とのモル比(亜鉛元素/金属元素)が40/60〜95/5である、請求項1〜4のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
塩基触媒存在下においてアルコールを脱水縮合させると、2分子の原料アルコールから1分子のβ−分岐アルコールが得られる。この反応はゲルベ反応と呼ばれており、ゲルベ反応により得られたβ−分岐アルコールはゲルベアルコールと称される。
原料アルコールとして第一級アルコールを用いた場合を例にとると、ゲルベ反応の反応機構は、以下の(1)〜(4)の素反応からなると推測されている。
(1)アルコールの脱水素化によるアルデヒドの生成
(2)アルデヒドのアルドール縮合によるα,β−不飽和アルデヒドの生成
(3)α,β−不飽和アルデヒドの還元によるアリルアルコールの生成
(4)アリルアルコールの還元によるゲルベアルコールの生成
従来のゲルベアルコールの製造方法においては、塩基触媒存在下、高温で反応を行うために、上記(1)のアルコールの脱水素化によって生成したアルデヒドが塩基触媒と反応するという副反応が起こり、これにより脂肪酸塩(以下、脂肪酸塩を「石鹸」と称する場合がある。)が副生する。該副反応が起こると、触媒が消費されることによりゲルベ反応の速度が低下し、更に石鹸の副生により、濾過等の精製プロセスにおける負荷が増大する等の問題となる。
【0003】
ゲルベ反応における反応速度の向上、石鹸副生の抑制を目的として、触媒として塩基触媒及び亜鉛化合物を用いた例が数多く報告されている。例えば、特許文献1には、塩基触媒として水酸化カリウム、亜鉛化合物として亜鉛のカルボン酸塩やβ−ジケトンの亜鉛錯体等の有機亜鉛化合物を用いたアルコールの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、塩基触媒として水酸化カリウム、亜鉛化合物として酸化亜鉛を用いたゲルベアルコールの製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、いずれも反応速度は向上するものの、石鹸の副生を十分に抑制することができない。また、特許文献1に記載の方法では、亜鉛のカルボン酸塩やβ−ジケトンの亜鉛錯体をゲルベアルコールから分離することが困難である。
更に、特許文献3には、アルカリ性物質、脱水素化触媒、及びSiO
2を主成分とする酸化物を添加して反応させるゲルベアルコールの製造方法が開示されている。この製造方法によれば石鹸の副生は抑制されるが、比較的高価な触媒を必須とするため、より安価な方法の開発が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のゲルベアルコールの製造方法は、第一級及び/又は第二級の脂肪族アルコールを、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する塩基触媒(A)、及び亜鉛元素を含有する共触媒(B)の存在下で反応させるゲルベアルコールの製造方法であって、該共触媒(B)が、下記(b−1)及び/又は(b−2)であることを特徴とする。
(b−1)亜鉛化合物、ならびにアルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有する固体金属酸化物
(b−2)亜鉛元素と、アルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とを含有する固体複合金属酸化物
【0010】
[第一級及び/又は第二級の脂肪族アルコール]
本発明において原料として用いられる脂肪族アルコールとしては、第一級及び/又は第二級の脂肪族アルコール(以下、単に「原料アルコール」ともいう。)が挙げられるが、反応性の観点から、第一級脂肪族アルコールであることが好ましい。これらの中でも、炭素数4〜22、更には炭素数8〜18の第一級脂肪族アルコールを用いた場合には、該アルコールから副生する石鹸成分による精製負荷が増大するため、本発明の課題の一つである石鹸副生の抑制効果が顕著に発揮される。
第一級脂肪族アルコールの具体例としては、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデカノール、1−エイコサノール、1−ドコサノール等の飽和直鎖アルコール;シクロヘキサンメタノール、シクロヘキシルエチルアルコール等の飽和脂環式アルコール;オレイルアルコール、シトロネロール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
第二級脂肪族アルコールの具体例としては、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール、2−ウンデカノール、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、2−ヘプタデカノール、2−オクタデカノール、2−ノナデカノール、2−エイコサノール、2−ドコサノール等の飽和直鎖アルコール等が挙げられる。
これらの原料アルコールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
[アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する塩基触媒(A)]
本発明に用いられるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する塩基触媒(A)(以下、単に「塩基触媒」ともいう。)としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ならびにそれらの水素化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及びアルコキシドなどが挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等のアルカリ金属水酸化物、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、Rb
2CO
3、Cs
2CO
3等のアルカリ金属炭酸塩、LiHCO
3、NaHCO
3、KHCO
3、RbHCO
3、CsHCO
3等のアルカリ金属炭酸水素塩、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。以上の塩基触媒は、ペレット等の固体のまま用いてもよく、水溶液として用いてもよい。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシドの具体例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等が挙げられる。
上記の塩基触媒のうち、反応速度の観点から、強塩基であるLiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等のアルカリ金属水酸化物が好ましく、KOH、RbOH、CsOHがより好ましい。
塩基触媒(A)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基触媒(A)の使用量は、主反応であるゲルベ反応を加速し、かつ副反応である石鹸の副生反応(アルコールの脱水素化によって生成したアルデヒドと塩基触媒との反応)を抑制するという観点から、原料アルコールに対して0.01〜15モル%が好ましく、0.3〜10モル%がより好ましく、0.5〜5モル%が更に好ましく、1〜5モル%がより更に好ましい。
【0012】
[亜鉛元素を含有する共触媒(B)]
本発明のゲルベアルコールの製造方法では、塩基触媒(A)の他に、特定の亜鉛元素を含有する共触媒(B)(以下、単に「共触媒」ともいう。)を用いる。該共触媒(B)を用いることで、石鹸の副生を抑制し、かつゲルベアルコールを高収率で得ることができる。
【0013】
本発明に用いられる共触媒(B)は、下記(b−1)及び/又は(b−2)であることを特徴とする。
(b−1)亜鉛化合物、ならびにアルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有する固体金属酸化物
(b−2)亜鉛元素と、アルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とを含有する固体複合金属酸化物
以下、(b−1)、(b−2)各々について説明する。なお、以下の記載において、「周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素」を単に「第4、8、10族に属する金属元素」ともいう。
【0014】
<(b−1)亜鉛化合物、ならびにアルミニウム及び周期表(長周期型)第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有する固体金属酸化物>
本発明において用いられる(b−1)成分は、亜鉛化合物、ならびにアルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有する固体金属酸化物(以下、単に「固体金属酸化物」ともいう。)を組み合わせた共触媒である。なお、ここでいう「固体」とは、後述するゲルベ反応の反応系に不溶であるか、又は溶解度が低く、完全に均一に溶解することのないものをいう。
【0015】
(亜鉛化合物)
本発明において(b−1)成分に用いられる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート等が挙げられ、反応速度の向上と石鹸副生の抑制の観点から、酸化亜鉛を用いることが好ましい。亜鉛化合物は市販品をそのまま用いてもよいし、洗浄・乾燥等の通常の精製を行ってから用いてもよい。また、該亜鉛化合物は固体状態のまま用いてもよいし、原料アルコール、あるいは少量の水や溶媒に溶解又は分散させたものを用いてもよい。
上記亜鉛化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有する固体金属酸化物)
本発明において(b−1)成分に用いられる固体金属酸化物は、アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種の金属元素を含有するものである。石鹸副生を抑制する観点から、上記金属元素は、アルミニウム、チタン、鉄及びニッケルから選ばれることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。
なお、ここでいう「固体金属酸化物」には、後述の(b−2)成分として規定する固体複合金属酸化物を含まないものとする。
アルミニウムを含有する固体金属酸化物としては、α−アルミナ、γ−アルミナ等のアルミナが挙げられ、反応速度の向上及び石鹸副生の抑制に優れることから、α−アルミナ及びγ−アルミナが好ましく、γ−アルミナがより好ましい。
固体金属酸化物は市販品をそのまま用いてもよいし、洗浄・乾燥等の通常の精製を行ってから用いてもよい。また、該固体金属酸化物は固体状態のまま用いてもよいし、原料アルコール、あるいは少量の水や溶媒に溶解又は分散させたものを用いてもよい。
上記固体金属酸化物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
亜鉛化合物と固体金属酸化物とのモル比(亜鉛化合物/固体金属酸化物)は、石鹸副生の抑制の観点から、10/90〜90/10であることが好ましく、50/50〜85/15であることがより好ましく、60/40〜80/20であることが更に好ましい。
また、後述するゲルベ反応において、亜鉛化合物と固体金属酸化物を添加する順序には特に制限はなく、混合して同時に添加してもよいし、個別に添加してもよい。
【0018】
<(b−2)亜鉛元素と、アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とを含有する固体複合金属酸化物>
本発明において(b−2)成分に用いられる固体複合金属酸化物(以下、単に「(b−2)成分」又は「固体複合金属酸化物」ともいう。)は、亜鉛元素と、アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とを必須成分として含有する複合金属酸化物である。
アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素は、石鹸副生を抑制する観点から、前記(b−1)と同様にアルミニウム、チタン、鉄及びニッケルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。
(b−2)成分の具体例としては、Zn−Al−O、Zn−Ti−O、Zn−Fe−O、Zn−Ni−O等が挙げられる。上記固体複合金属酸化物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(b−2)成分において、亜鉛元素と、アルミニウム及び第4、8、10族に属する金属元素から選ばれる1種以上の金属元素とのモル比(亜鉛元素/金属元素)は、反応速度の向上及び石鹸副生の抑制の観点から、40/60〜95/5であることが好ましく、50/50〜90/10であることがより好ましく、60/40〜80/20であることが更に好ましい。
【0019】
本発明に用いられる(b−2)成分である固体複合金属酸化物は、沈殿法、含浸法等の周知の方法によって調製することができる。
沈殿法においては、亜鉛又はアルミニウム及び第4、8、10族の金属のうちいずれか一方の金属の酸化物の存在下で、もう一方の金属の可溶性前駆体を加水分解して沈殿させる方法や、亜鉛及びアルミニウム及び第4、8、10族の金属の可溶性前駆体を加水分解して沈殿させる方法が用いられる。含浸法においては、亜鉛又はアルミニウム及び第4、8、10族の金属のうちいずれか一方の金属の酸化物の粉体に、もう一方の金属の可溶性前駆体の溶液を含浸させ、その後に溶媒を留去することで、目的とする固体複合金属酸化物粒子が得られる。
上記でいう「金属の可溶性前駆体」とは、メタノール等の有機溶剤や水等の溶媒に溶解可能な、亜鉛、アルミニウム、第4、8、10族に属する金属元素を含有する化合物をいい、該化合物としては、例えば、該金属の硝酸塩等の無機金属塩や、金属又は金属酸化物の有機錯体等が挙げられる。
【0020】
本発明における共触媒(B)としては、上記(b−1)、(b−2)のいずれか一方を用いてもよく、(b−1)及び(b−2)を組み合わせて用いてもよい。反応速度向上及び石鹸副生の抑制の観点からは(b−1)を用いることが好ましく、取り扱い性の観点からは(b−2)を用いることが好ましい。
共触媒(B)の使用量は、反応速度の向上及び石鹸副生の抑制の観点から、原料アルコールに対して0.001〜1質量%であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることが更に好ましい。
なお、共触媒(B)は、担体は特に必要としないが、必要に応じ担体として活性炭、シリカ、粘土鉱物等を用いてもよい。
【0021】
塩基触媒(A)に対する共触媒(B)の質量比[(B)/(A)]は、反応速度の向上及び石鹸副生の抑制の観点から、0.005〜10であることが好ましく、0.01〜5であることがより好ましく、0.01〜1であることが更に好ましい。
【0022】
[ゲルベ反応]
本発明のゲルベアルコールの製造方法では、第一級及び/又は第二級の脂肪族アルコールを、塩基触媒(A)及び共触媒(B)の存在下で脱水縮合させる(ゲルベ反応)。
ゲルベ反応における反応温度は、アルコールの脱水素反応を良好に進める観点から、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。一方、石鹸の副生を抑制する観点から、該反応温度は280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
反応時の圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれの状態でもよい。脱水縮合反応により副生した水を効率的に除去して脱水縮合を効率よく進めるためには、反応時の圧力は100kPa以下であることが好ましく、30kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることが更に好ましい。一方、原料アルコールとして低沸点のアルコールを用いる場合には、ゲルベ反応に好適な反応温度において液相状態であることを維持する観点から、加圧状態で反応することが好ましい。操作の簡便性の観点からは、常圧が好ましい。
反応時の圧力の下限値には特に制限はないが、反応時の温度において原料アルコールが沸騰する圧力以上であることが好ましい。なお、反応の初期から後期まで一定の圧力を維持しなくてもよい。
【0023】
反応時の温度と圧力との組み合わせは、水分の除去及び石鹸副生の抑制の観点から、原料アルコール又は必要に応じて用いられる溶媒等が水と共沸し、反応系から容易に除去されるような温度と圧力の組み合わせを選ぶことが好ましい。水と共沸した原料アルコール及び溶媒は、分層させた後、反応系に戻すことができる。
生成したゲルベアルコールの酸化等による劣化を防止する観点から、反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、副生する水を除去する観点から、該不活性ガスをキャリアとして流通させることが好ましい。
上記不活性ガスとしては窒素、アルゴン、炭酸ガス等が好適に用いられる。
上記不活性ガスの流通は、反応液の上方を流通させる方法、あるいは、反応液中にバブリングさせる方法等により行うことができる。不活性ガスの流量には特に制限はないが、副生する水を効率的に除去でき、かつ、飛沫同伴によるロスが防げる程度に適宜調整することが望ましい。上記観点から、不活性ガスの流量は、反応器の容積Vに対して、0.1〜5V/minが好ましく、0.5〜2V/minがより好ましい。
【0024】
原料アルコール、塩基触媒(A)、共触媒(B)の仕込み順には特に制限はないが、原料アルコールとして2種以上のアルコールを用いて交差反応を行う場合は、単独でのゲルベ反応が起こりにくいアルコールを先に仕込み、単独でのゲルベ反応が起こりやすいアルコールを滴下しながら反応させることが好ましい。
反応時間は特に限定されないが、短い方が好ましく、1〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。
【0025】
本発明のゲルベアルコールの製造方法においては、反応液の粘度を制御したり、水分除去を容易にしたりするために、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒を用いる場合には、その使用量には特に制限はないが、原料アルコールに対して10〜500質量%が好ましく、20〜200質量%がより好ましい。
【0026】
上記反応後、更に中間生成物のアルデヒド基や不飽和結合を還元することで、ゲルベアルコールの収率を向上させることができる。
反応後、濾過、水洗、蒸留、再結晶等の通常の精製工程を経て、精製されたゲルベアルコールが得られる。本発明の方法によれば、石鹸の副生が少ないので、カートリッジ式の小型濾過フィルターを通過させる等の簡易な精製操作のみで、高純度のゲルベアルコールを得ることができる。
【実施例】
【0027】
[調製例1〜6;亜鉛化合物及び固体複合金属酸化物の調製]
下記調製例1〜6に記載の方法で、共触媒に用いられる亜鉛化合物及び固体複合金属酸化物を調製した。なお、調製例2〜6における、亜鉛元素を含有する固体複合金属酸化物Zn−M−O(M;金属元素)の亜鉛元素/金属元素のモル比(以下、「Zn/M比」ともいう。)はICP発光分光分析法により求めた。
【0028】
(調製例1)沈殿法によるZnO粒子の調製
500mLのビーカーに硝酸亜鉛六水和物(関東化学株式会社製)89gを入れ、イオン交換水368gを加えて溶解させ、0.75モル/Lの硝酸亜鉛水溶液を調製した。次に、2Lのビーカーに炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)64gを入れ、イオン交換水600mLを加えて溶解させ、1.0モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を調製した。
上記硝酸亜鉛水溶液を、室温で、上記炭酸ナトリウム水溶液に30分かけて滴下した。滴下終了後、析出した白色沈殿を減圧ろ過し、得られたケークを300mLのイオン交換水で洗浄した。該ケークをリスラリー、ろ過、水洗する操作を2回行った後、120℃で終日乾燥させ、更に400℃で3時間焼成して、ZnO粒子を得た。
【0029】
(調製例2)含浸法によるZn−Al−O複合酸化物粒子の調製
500mLのナスフラスコに硝酸アルミニウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)3.5gを入れ、イオン交換水100gを加えて完全に溶解させた。ここへ調製例1のZnO粒子3.0gを加え、ロータリーエバポレーターを用いて液がなくなるまで濃縮した。120℃で終日乾燥させ、更に400℃で3時間焼成して、固体複合金属酸化物であるZn−Al−O粒子を得た。得られたZn−Al−O粒子のZn/Al比(モル比)は80/20であった。
【0030】
(調製例3)含浸法によるZn−Ti−O複合酸化物粒子の調製
500mLのナスフラスコにオルトチタン酸テトライソプロピル1.8gを入れ、脱水メタノール100gを加えて完全に溶解させた。ここへ調製例1のZnO粒子2.0gを加え、その後ロータリーエバポレーターを用いて液がなくなるまで濃縮した。120℃で終日乾燥させ、更に400℃で3時間焼成して、固体複合金属酸化物であるZn−Ti−O粒子を得た。得られたZn−Ti−OのZn/Ti比(モル比)は80/20であった。
【0031】
(調製例4)含浸法によるZn−Fe−O複合酸化物粒子の調製
500mLのナスフラスコに硝酸鉄九水和物(和光純薬工業株式会社製)3.7gを入れ、イオン交換水100gを加えて完全に溶解させた。ここへ調製例1のZnO粒子3.0gを加え、その後ロータリーエバポレーターを用いて液がなくなるまで濃縮した。120℃で終日乾燥させ、更に400℃で3時間焼成して、固体複合金属酸化物であるZn−Fe−Oを得た。得られたZn−Fe−OのZn/Fe比(モル比)は80/20であった。
【0032】
(調製例5)含浸法によるZn−Ni−O複合酸化物粒子の調製
500mLのナスフラスコに硝酸ニッケル六水和物(和光純薬工業株式会社製)2.68gを入れ、イオン交換水100gを加えて完全に溶解させた。ここへ調製例1のZnO粒子3.00gを加え、その後ロータリーエバポレーターを用いて液がなくなるまで濃縮した。120℃で終日乾燥させ、400℃で3時間焼成して、固体複合金属酸化物であるZn−Ni−Oを得た。得られたZn−Ni−OのZn/Ni比(モル比)は80/20であった。
【0033】
(調製例6)含浸法によるZn−Al−O複合酸化物粒子の調製
硝酸アルミニウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)を9.22g、調製例1のZnO粒子を3.00g用いたこと以外は、調整例2と同様の方法で固体複合金属酸化物であるZn−Al−O粒子を得た。得られたZn−Al−O粒子のZn/Al比(モル比)は60/40であった。
【0034】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
下記実施例及び比較例において、アルコール転化率、ゲルベアルコール収率、石鹸副生率及び石鹸副生率差は下記の方法により求めた。
【0035】
<アルコール転化率及びゲルベアルコール収率の測定>
実施例及び比較例において、反応終了後の溶液をヘキサンにより希釈した後、ガスクロマトグラフィー[カラム:Ultra−alloy−1(HT)キャピラリーカラム30.0m×250μm(Fronteer LAB社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:350℃、He流量:19.0mL/min.]にて分析し、生成物を定量した。
アルコール転化率及びゲルベアルコール収率は、それぞれ以下の式により算出した。
アルコール転化率(%)=([原料アルコールの仕込み量(モル)]−[残存アルコールの量(モル)])/[原料アルコールの仕込み量(モル)]×100
ゲルベアルコール収率(%)=[生成したゲルベアルコールの量(モル)]×2/[原料アルコールの仕込み量(モル)]×100
【0036】
<石鹸副生率の測定>
実施例及び比較例において、反応終了時の石鹸生成率(%)は反応前後の酸価を中和滴定法によって求め、下記式に従って算出した。
石鹸副生率(%)=([反応開始時の酸価(mg-KOH/g)]−[反応終了時の酸価(mg-KOH/g)])/[反応開始時の酸価(mg-KOH/g)] × 100
上記石鹸副生率は、添加した塩基と等量の石鹸が生成する場合を理論量として、それに対する実際に生成した石鹸量をパーセンテージで表したものである。
【0037】
<石鹸副生率差の計算方法>
塩基触媒及び共触媒を用いた場合の石鹸副生率と、塩基触媒のみを用いた場合の石鹸副生率との差を「石鹸副生率差」として求めた。
石鹸副生率は反応の進行とともに増大するため、同じアルコール転化率において比較する必要がある。
そこで、共触媒を使用せず、塩基触媒のみを用いたこと以外は後述する実施例1と同様にして反応を行い(比較例3)、この場合の石鹸副生率を基準として、同じアルコール転化率において実施例2〜6の石鹸副生率と比較し、この差分を「石鹸副生率差」として求めた。具体的な計算方法は下記(i)〜(iv)のとおりである。
(i)塩基触媒のみを用いたこと以外は後述する実施例1と同様にして反応を行い(比較例3)、適宜サンプリングして、複数のアルコール転化率における石鹸副生率を求めた。
(ii)(i)で求めたアルコール転化率及び石鹸副生率の値を最小二乗法によって2次近似し、下記式(1)を得た。なお、式(1)で表される近似曲線は
図1に示したとおりである。
[石鹸副生率(%)]=0.008×[転化率(%)]
2 +0.0744×[転化率(%)]+19.497・・・(1)
(iii)各実施例で得られたアルコール転化率の値を上記式(1)に代入し、ここから該アルコール転化率に対応する、比較例3における石鹸副生率[A
0(%)]を求めた。
(iv)各実施例で得られた石鹸副生率[A
1(%)]と、上記(iii)で得られた石鹸副生率との差[A
1−A
0]を求め、これを石鹸副生率差(%)とした。
【0038】
実施例1(共触媒として(b−1)亜鉛化合物及び固体金属酸化物を使用)
攪拌装置付き100mLフラスコに、原料アルコールである1−ドデカノール(花王株式会社製、商品名:カルコール2098)56g(0.30モル)、塩基触媒である水酸化カリウム(キシダ化学株式会社製、ペレット状)0.50g(原料アルコールに対して3.0モル%)、共触媒である調製例1のZnO粒子とAl
2O
3(STREM社製、γ−アルミナ)との混合物0.024g(原料アルコールに対して0.043質量%、ZnO/Al
2O
3=80/20(モル比))を仕込み、攪拌下、240℃にて窒素を系内にバブリングさせながら(窒素流量:50mL/min.)、常圧で5時間反応を行った。
アルコール転化率は94%、ゲルベアルコール収率は87%、石鹸副生率は54%であった。製造条件及び結果を表1に示す。
【0039】
比較例1〜3
表1に示す製造条件で、実施例1と同様にして反応を行った。なお、用いた原料アルコールはいずれも1−ドデカノール(0.30モル)であり、塩基触媒として水酸化カリウム(キシダ化学株式会社製、ペレット状)0.50g(原料アルコールに対して3.0モル%)、共触媒(亜鉛化合物と固体金属酸化物の合計量)0.024g(原料アルコールに対して0.043質量%)を用いた。製造条件及び結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、塩基触媒、及び共触媒として酸化亜鉛及びγ−アルミナの混合物を用いた実施例1は、共触媒として酸化亜鉛又はγ−アルミナのいずれか一方のみを用いた比較例1及び2よりもアルコール転化率及びゲルベアルコールの収率が向上し、また共触媒として酸化亜鉛のみを用いた比較例1よりも石鹸副生率が大幅に低下していることがわかる。また、実施例1は、塩基触媒のみを用いた比較例3に比べてアルコール転化率及びゲルベアルコールの収率が大きく向上し、石鹸副生率も15%低下した。
【0042】
実施例2〜6(共触媒として(b−2)固体複合金属酸化物を使用)
表2に示す製造条件で、実施例1と同様にして反応を行った。なお、用いた原料アルコールはいずれも1−ドデカノール(0.30モル)であり、塩基触媒として水酸化カリウム(キシダ化学株式会社製、ペレット状)0.50g(原料アルコールに対して3.0モル%)、共触媒として調製例2〜6で得られた固体複合金属酸化物0.024g(原料アルコールに対して0.043質量%)を用いた。製造条件及び結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2より、共触媒(B)として固体複合金属酸化物を用いた場合、塩基触媒(A)のみを用いた場合(表1の比較例3)と比べて、いずれも石鹸副生率差がマイナスの値となることが分かった。
また、実施例2と実施例6との比較から、(b−2)固体複合金属酸化物中のアルミニウムの含量が増加すると、石鹸副生率が低下することが分かった。