(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の1つの実施形態に係る堰折り装置について、
図1から
図12を参照して説明する。
図1にダイカスト成形品Wと堰折り装置20が示されている。ダイカスト成形品Wは、例えば
図2に一部を示すダイカスト成形機1によって予め鋳造されている。
【0012】
図2は、ダイカスト成形機1の一例を模式的に示している。このダイカスト成形機1は、固定ダイプレート2と、移動ダイプレート3とを含んでいる。固定ダイプレート2に固定側の金型4が取付けられている。移動ダイプレート3に移動側の金型5が取付けられている。金型4,5が閉じた状態において、金型4,5間にダイカスト成形品Wに応じた形状のキャビティ6が形成される。キャビティ6は、湯口であるゲート7と、湯道であるランナー8を介して、溶湯供給機構10に連通している。
【0013】
溶湯供給機構10は、スリーブ11と、スリーブ11に挿入されたプランジャチップ12を有するプランジャ13と、プランジャ13を駆動するための駆動源(図示せず)などを含んでいる。注湯口14からスリーブ11内に溶融金属が供給されたのち、プランジャ13が前進することにより、スリーブ11内の溶融金属がランナー8とゲート7を経て、キャビティ6に供給される。この溶融金属がキャビティ6内で固化することにより、ダイカスト成形品Wが鋳造される。
【0014】
キャビティ6の上方にオーバーフロー空間15が形成されている。キャビティ6に流入した溶融金属の一部は、オーバーフロー空間15に入り込んで固化する。また、溶融金属の一部はプランジャチップ12の先端面とランナー8との間に残留し、固化する。
【0015】
このためダイカスト成形機1によって鋳造されたダイカスト成形品Wは、
図3に一例を示すように、製品部W
1と、製品部W
1の周囲において製品部W
1と一体に固化しているオーバーフロー部W
2と、湯口側凝固部W
3とを含んでいる。製品部W
1とオーバーフロー部W
2との間に、断面積が狭まった形状のオーバーフロー側の堰部W
4が形成されている。
【0016】
湯口側凝固部W
3は、ビスケット部W
5と、ランナー部W
6とを含んでいる。ビスケット部W
5は、プランジャチップ12(
図2に示す)の端面側で凝固したものである。製品部W
1とランナー部W
6との間には、断面積が狭まった形状の湯口側の堰部W
7が形成されている。オーバーフロー側の堰部W
4と湯口側の堰部W
7は、堰折り装置20によって破断させる対象となる堰の一例である。なお、金型4,5の合わせ面(パーティングラインX)に沿ってバリが生じることもあるが、このようなバリは、バフ研磨やグラインダ等による仕上げ加工によって除去される。
【0017】
図1に示す堰折り装置20は、ダイカスト成形品Wを保持するクランプ機構30と、ダイカスト成形品Wの上方に配置される昇降ユニット31と、ダイカスト成形品Wの下方に配置される支持体32と、制御部として機能するコントローラ33などを備えている。コントローラ33には、ダイカスト成形品Wに応じて堰折り装置20を電気的に制御するためのコンピュータプログラムとメモリ等が組込まれている。
【0018】
クランプ機構30は、開閉可能なチャック40,41と、チャック40,41を駆動するチャック駆動機構42を含んでいる。チャック駆動機構42は、例えば産業用ロボットを利用でき、チャック40,41によって保持されたダイカスト成形品Wを所望の位置に向けて上下方向(
図1に矢印Aで示す方向)および水平方向(
図1に矢印Bで示す方向)に移動させることができるようになっている。チャック40,41を閉じると、ダイカスト成形品Wのビスケット部W
5が保持され、チャック40,41を開けると、ビスケット部W
5が解放される。このチャック駆動機構42は、例えばコントローラ33によって制御される。
【0019】
昇降ユニット31は、昇降機構50によって上下方向(
図1に矢印Cで示す方向)に往復するようになっている。昇降機構50は、例えば上下方向に伸縮する二段シリンダ51を有し、
図9に示す初期位置H
0から、
図10に示す第1の高さH
1と、第1の高さH
1よりも低い第2の高さH
2(
図12に示す)とにわたって、二段階のストロークで昇降ユニット31を移動させるものである。
【0020】
なお、昇降機構50としては、二段シリンダ51以外のアクチュエータ、例えばボールねじとサーボモータを用いてもよいし、あるいは上下方向に移動するリニアモータなどが使用されてもよい。要するに初期位置H
0から第1の高さH
1と第2の高さH
2との間を移動させることができるものであればよい。この昇降ユニット31は、位置決め機構52によって、水平方向(
図1に矢印Dで示す方向)に移動させることも可能である。これら昇降機構50と位置決め機構52は、コントローラ33によって制御される。
【0021】
図4は、昇降ユニット31を下側から見た斜視図である。この昇降ユニット31は、フレーム55に固定された基盤56を有している。この基盤56には、水平方向に所定ピッチP1,P2で複数の取付孔60が形成されている。各取付孔60の一例は、基盤56を上下方向に貫通するねじ孔である。
【0022】
基盤56の下面側には、複数(例えば3本)の第1のプッシャ61と、1本の第2のプッシャ62が取付けられている。第1のプッシャ61と第2のプッシャ62は、いずれも基盤56の下面から下方に突出している。
図1に示すように第1のプッシャ61の長さL1は、第2のプッシャ62の長さL2よりも大きい。
【0023】
第1のプッシャ61は、前記クランプ機構30によって保持された状態のダイカスト成形品Wのオーバーフロー部W
2と対応した位置に設けられている。すなわち第1のプッシャ61は、基盤56に形成された多数の取付孔60のうち、オーバーフロー部W
2と対応した位置の取付孔60を選択して挿入し、ねじ込むことにより、基盤56に固定されている。このためオーバーフロー部W
2の形態が異なる複数種類のダイカスト成形品に対応することができる。
【0024】
第1のプッシャ61の一例は、頭部に六角穴70を有する六角穴付きボルトであり、第1のプッシャ61を基盤56に取付ける際に六角棒レンチによって回転させることにより、第1のプッシャ61のねじ部71を取付孔60にねじ込むことができるようになっている。
【0025】
第1のプッシャ61の長さL1は、昇降ユニット31が初期位置H
0(
図9に示す)にあるときにはオーバーフロー部W
2の上面に届かないが、昇降ユニット31が第1の高さH
1(
図10に示す)まで下降するとオーバーフロー部W
2の上面に当接してオーバーフロー部W
2を下方に突き押すことができる寸法としている。なお、第1のプッシャ61の数は3つに限ることはなく、要するにオーバーフロー部W
2の数や形状に応じて基盤56に設けられていればよい。また、複数本の第1のプッシャ61のそれぞれの長さL1が互いに異なっていてもよい。
【0026】
第2のプッシャ62は、ダイカスト成形品Wの製品部W
1と対応した位置に設けられている。第2のプッシャ62もねじ部75を有しており、ねじ部75を基盤56のいずれかの取付孔60を選択してねじ込むことによって、基盤56に固定されている。すなわち第2のプッシャ62は、基盤56に形成された多数の取付孔60のうち、製品部W
1と対応した位置の取付孔60を選択して挿入し、ねじ込むことにより、基盤56に固定されている。このため製品部W
1の形態が異なる複数種類のダイカスト成形品に対応することができる。
【0027】
第2のプッシャ62の長さL2は、昇降ユニット31が第1の高さH
1(
図10に示す)にあるときには製品部W
1の上面に届かないが、昇降ユニット31が第2の高さH
2(
図12に示す)まで下降すると製品部W
1の上面に当接して製品部W
1を下方に向けて押すことができる寸法としている。
【0028】
第2のプッシャ62の下端には、製品部W
1に当接した際に製品部W
1を損傷させることを避けるために、ある程度の弾性を有する耐熱性の保護部材76(
図4に示す)が設けられている。またこの第2のプッシャ62には、プッシャ62を取付孔60にねじ込む際にレンチ等の工具によって保持する操作部77が設けられている。なお、第2のプッシャ62の数は2つ以上であってもよく、要するに製品部W
1を上から突き押すことができるように、少なくとも1つ設けられていればよい。
【0029】
図1に示すように、クランプ機構30によって保持されたダイカスト成形品Wの製品部W
1の下方に支持体32が設けられている。この支持体32は、支持体駆動機構80によって、上下方向(
図1に矢印Eで示す方向)と、水平方向(矢印Fで示す方向)に移動させることが可能である。支持体駆動機構80はコントローラ33によって制御され、支持体駆動機構80によって支持体32が前進させられると支持体32が製品部W
1の真下に位置し、支持体32が後退させられると支持体32が製品部W
1の下から側方に退避するようになっている。支持体32の下方には、上面側が開口した堰収容箱90と製品収容箱91とが配置されている。上方から見たときの堰収容箱90の開口面積は製品収容箱91の開口面積よりも大きい。
【0030】
支持体32は、トレイ32aと、トレイ32aに収容された形状可変部材32bとを有している。形状可変部材32bは、ダイカスト成形品Wの製品部W
1と接する上面32cを有し、この上面32cが製品部W
1の下面の輪郭に倣って変形することができる材料によって構成されている。すなわち製品部W
1が形状可変部材32bに乗せられた状態において、形状可変部材32bの上面32cの少なくとも一部が製品部W
1の下面の輪郭に応じて変形するようになっている。形状可変部材32bの上面32cには、形状可変部材32bがダイカスト成形品Wに付着しないように、剥離性のあるカバーが設けられているとよい。
【0031】
前記形状可変部材32bは、ダイカスト成形品Wの鋳造後の余熱の温度域(例えば100〜200℃)のもとで製品部W
1の輪郭に応じて塑性変形を生じる熱可塑性材料、例えば熱可塑性のエラストマー(TPE)であってもよい。あるいは製品部W
1の輪郭に倣う形状に移動可能な多数の粒子の集合体、例えば多数のガラスビーズの集合体あるいは砂の上面を変形可能なカバーで覆ったものでもよい。また、玉砂利等の粒子の集合体の上面に耐熱マットを敷いたものでもよいし、常温で流動性のあるゼリー状の樹脂(例えばジェルマット)の上面に耐熱カバーを敷いたものでもよい。また、耐熱性の気密袋に圧縮空気あるいは液体等の流体を封入したものや、粘性あるいは粘弾性を有する流動性のある材料を封入してなる流体マットが使用されてもよい。いずれにしても形状可変部材32bの上面32cが製品部W
1の輪郭に完全に一致した形状に変形する必要はなく、製品部W
1の輪郭の少なくとも一部に沿った形状に変形することにより、凹凸のある製品部W
1を面で支持することができればよい。
【0032】
次に、前記構成の堰折り装置20の動作(堰折り処理)について、
図6に示すフローチャートと、
図7から
図12に示す工程説明図を参照して説明する。
ダイカスト成形機1によって鋳造されたダイカスト成形品Wは、
図6の動作S1において堰折り装置20に搬入される。このダイカスト成形品Wは、動作S2において、
図7に示すように、ビスケット部W
5がクランプ機構30によって保持される。保持されたダイカスト成形品Wは、そのパーティングラインXが概ね水平となるように横に倒した姿勢となる。このため、製品部W
1の上面とオーバーフロー部W
2の上面とが概ね同じ高さとなる。
【0033】
図6の動作S3において、
図8に示すように、支持体32がダイカスト成形品Wの製品部W
1の下方の位置まで前進する。さらに
図9に示すように、支持体32が上昇することにより、支持体32によって製品部W
1が支持される。この状態において、形状可変部材32bの上面32cの少なくとも一部が、製品部W
1の下面に応じた形状となっている。そして昇降ユニット31がダイカスト成形品Wの上方の位置まで移動する。このとき昇降ユニット31は初期位置H
0にある。このため、第1のプッシャ61の下端がオーバーフロー部W
2の上面と離間対向し、かつ、第2のプッシャ62の下端が製品部W
1の上面と離間対向する。
【0034】
図6の動作S4では、
図10に示すように、昇降ユニット31が前記初期位置H
0から第1の高さH
1まで下降する。そうすると、第1のプッシャ61の下端がオーバーフロー部W
2に突き当たり、その位置からさらに下降する。このとき製品部W
1は支持体32によって支持されており、しかも形状可変部材32bの上面32cが製品部W
1の下面の輪郭に応じて凹凸のある形状となっている。このため第1のプッシャ61がオーバーフロー部W
2を押す際に、製品部W
1は、形状可変部材32bの変形した上面32cによって、面で支えられることになる。このように支持された製品部W
1に対して、オーバーフロー部W
2のみが第1のプッシャ61によって強制的に押下げられることにより、オーバーフロー側の堰部W
4が破断し、オーバーフロー部W
2が堰収容箱90内に落下する。
【0035】
図6の動作S5では、
図11に示すように、支持体32が製品部W
1の下方から側方の退避位置まで後退する。後退した支持体32の上面32cには、それまで支持していた製品部W
1の輪郭に応じた凹部32dが残っている。このため、これ以降の堰折りサイクルで処理されるダイカスト成形品Wの形状が1つ前のダイカスト成形品Wと共通であれば、既に形成されている凹部32dに次のダイカスト成形品Wの製品部W
1を挿入することが可能である。
【0036】
図6の動作S6では、
図12に示すように、昇降ユニット31が前記第1の高さH
1から第2の高さH
2まで下降する。そうすると、第2のプッシャ62の下端が製品部W
1に突き当たり、その位置からさらに下降する。このとき湯口側凝固部W
3がクランプ機構30によって支持されているため、湯口側凝固部W
3に対して製品部W
1のみが第2のプッシャ62によって強制的に押下げられることにより、湯口側の堰部W
7が破断し、製品部W
1が製品収容箱91内に落下する。
【0037】
図6の動作S7において、昇降ユニット31が上昇する。さらに動作S8において、クランプ機構30が所定のビスケット回収部まで移動し、ビスケット部W
5を解放(アンクランプ)することにより、ビスケット部W
5を含む湯口側凝固部W
3がビスケット回収部に回収される。そして動作S9において、製品収容箱91に収容された製品部W
1が、例えばロボットアーム等の移送手段によって所定位置に搬出されることにより、堰折り処理の1サイクルが終了となる。
【0038】
以上説明した堰折り装置20は、第1のプッシャ61と第2のプッシャ62とを備えた昇降ユニット31を、昇降機構50によって初期位置H
0から第1の高さH
1と第2の高さH
2とに順次下降させるだけで、オーバーフロー側の堰部W
4と湯口側の堰部W
7を能率良く破断させることができる。このためオーバーフロー部W
2と湯口側凝固部W
3とを製品部W
1から能率良く除去することができる。
【0039】
本実施形態の堰折り装置20によれば、第1のプッシャ61が下降してオーバーフロー側の堰部W
4が破断される際に、ダイカスト成形品Wの製品部W
1の外形に沿って変形している形状可変部材32bの上面32cによって製品部W
1が支持される。このため堰部W
4が破断される際に、製品部W
1は上下方向だけでなく横方向等に働く力に対しても支持されることになる。
【0040】
このためオーバーフロー部W
2を第1のプッシャ61によって上方から押す際に、
図1に示すようにオーバーフロー部W
2が下方に曲がるにつれてモーメントMが生じ、ダイカスト成形品Wを水平方向等にずれ動かすような力が働いても、凹凸のある立体形状の上面32cによって製品部W
1の横方向の動きが抑制され、たとえ動いたとしても形状可変部材32bの上面32cがその動きに追従するため、製品部W
1が支持体32の上面32cに対して擦れることによる傷の発生を回避できる。しかも形状可変部材32bによって製品部W
1が面(上面32c)で支持されるため、特定の箇所に応力が集中することを回避できる。形状可変部材32bの上面32cは、様々な形状の製品部W
1の輪郭に対応できるため、製品部W
1に応じて形状可変部材32bの位置を微調整したり、プログラムを変更したりする必要がなく、堰折り作業に際しての準備を短時間に行なうことができる。
【0041】
前記したように本実施形態では、第1のプッシャ61によって、オーバーフロー側の堰部W
4を破断させたのち、第2のプッシャ62によって湯口側の堰部W
7を破断させているが、1種類のプッシャのみを備えた昇降ユニットによってオーバーフロー側の堰部W
4のみを破断させるようにしてもよい。
【0042】
また本発明を実施するに当たって、ダイカスト成形品やダイカスト成形機の具体的な形状や構成をはじめとして、堰折り装置を構成する昇降ユニット、昇降機構、支持体、プッシャの数や形状および配置等、発明を構成する種々の要素の具体的な態様を必要に応じて変更して実施できることは言うまでもない。