特許第5856886号(P5856886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856886
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】内視鏡の吸引操作装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20160128BHJP
【FI】
   A61B1/00 332B
   A61B1/00 330B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-71682(P2012-71682)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-202099(P2013-202099A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】片山 暁元
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−252216(JP,A)
【文献】 特開2004−223121(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0041190(US,A1)
【文献】 実開平03−122801(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の操作部に配置されて、連続運転される外部吸引装置に連通する吸引元管と内視鏡の挿入部先端に開口する吸引管とが接続されたシリンダ体内に、上記シリンダ体の開口端側から軸線方向に押し込み操作される吸引操作弁が配置され、上記吸引操作弁の外周面と上記シリンダ体の内周面との間の隙間により、上記吸引操作弁が上記シリンダ体内に押し込まれていない待機状態の時に上記外部吸引装置に吸引される外気が通過する縦向き穴状流路が形成されると共に、上記縦向き穴状流路の入口側に隣接してそれより上記シリンダ体の開口端寄りの位置には上記吸引操作弁を径方向に貫通する横向き穴状流路が形成され、上記待機状態のときには、上記吸引元管内に吸引される外気が上記横向き穴状流路内を上記シリンダ体の軸線方向に通ったあと上記横向き穴状流路の底面にぶつかってから上記縦向き穴状流路に流れ込むように構成された内視鏡の吸引操作装置において、
上記縦向き穴状流路の入口を臨む上記横向き穴状流路の底面の縁部が、上記縦向き穴状流路側に斜行した斜面にされていて、上記待機状態のときに上記横向き穴状流路を通過して上記縦向き穴状流路に流入する外気が、上記横向き穴状流路と上記縦向き穴状流路との境界部において上記斜面に沿って流れることを特徴とする内視鏡の吸引操作装置。
【請求項2】
上記斜面が上記シリンダ体の軸線方向に対してなす角度(θ)が40°±15°である請求項1記載の内視鏡の吸引操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内視鏡の吸引操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡検査を行う際には、体内の汚液や体内に送り込み過ぎた空気等を吸引するために、挿入部の先端から適宜に吸引をする必要がある。そこで、挿入部の先端に開口する吸引管の基部が操作部に配置された吸引操作装置に接続され、外部吸引装置との接続状態を吸引操作装置で自在に開閉できるようになっている。
【0003】
そのような内視鏡の吸引システムにおいては、吸引操作装置での操作により外部吸引装置の電源をオン/オフするような構成をとると、吸引動作に応答遅れが出て使い難いものになる。
【0004】
そこで、外部吸引装置を連続運転しておき、操作部の吸引操作装置において、待機状態では常に大気を吸引させ、必要に応じて吸引管から吸引を行うように管路の切り替え操作だけを行っている(例えば、特許文献1)。
【0005】
待機状態において大気を常時吸引する方式の内視鏡の吸引操作装置においては、大気だけでなく挿入部先端からも微量の吸引をしてしまういわゆる自然吸引が発生しないように注意する必要がある。
【0006】
そこで、特許文献1に記載された発明等においては、待機状態の時に挿入部先端からの吸引が行われないようにするためのシール部材が設けられている。しかし、そのようなシール部材の存在が吸引操作装置の作動を重くして、操作性を低下させている。
【0007】
また、待機状態における大気通過路の最小断面積部分を大きくして空気流に対する管路抵抗を小さくすることでも自然吸引の発生防止に寄与することができるが、各部の管路断面積を徒に大きくしても、装置が大型化して操作性を低下させてしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−252216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8は、上述のような従来の内視鏡の吸引操作装置における待機状態を示している(特許文献1の図3参照)。図8中、91は、内視鏡の操作部に配置されていて、連続運転される外部吸引装置に連通する吸引元管92と内視鏡の挿入部先端に開口する吸引管93とが接続されたシリンダ体である。
【0010】
シリンダ体91内には、その開口端側から軸線方向に押し込み操作されるピストン状の吸引操作弁94が配置されている。90はシール用のOリングである。シリンダ体91の開口端から外方に突出する吸引操作弁94の突端には、押し込み操作ボタン95が取り付けられている。96は、吸引操作弁94と押し込み操作ボタン95とを、押し込み操作された状態から待機状態に戻すための圧縮コイルスプリングである。
【0011】
待機状態の時に吸引元管92を経て外部吸引装置に吸引される外気が通過する縦向き穴状流路97が、吸引操作弁94の外周面とシリンダ体91の内周面との間の隙間により形成されている。
【0012】
また、縦向き穴状流路97の入口側に隣接して、それよりシリンダ体91の開口端寄り(即ち、図8において上方)の位置には、吸引操作弁94を径方向に貫通する横向き穴状流路98が形成されている。
【0013】
その結果、待機状態においては、外気が、押し込み操作ボタン95とその周辺の部材などの隙間を通り、横向き穴状流路98から縦向き穴状流路97を経て吸引元管92に常時吸引される。99は、自然吸引防止のために、吸引操作弁94の外面部に取り付けられたシール部材である。
【0014】
しかし、そのようなシール部材99(及びOリング90)により発生する摩擦抵抗や、それに打ち勝つために圧縮コイルスプリング96のバネ力量を大きくしなければならない必要性等から、押し込み操作ボタン95の操作力量が大きくなって操作性を阻害していた。
【0015】
そこで、シール部材99やOリング90を取り除いて操作力量を低減させると共に、シリンダ体91の内径を大きくしない範囲で縦向き穴状流路97の断面積をできるだけ大きくすることで自然吸引を防止する構造を検討した。
【0016】
図9は、そのような検討を行った吸引操作装置の側面断面図(図8の場合と比較すると90°回転した向きの断面図)であるが、待機状態の時に吸引管93側から吸引される自然吸引が発生してしまった。
【0017】
そこで、横向き穴状流路98から縦向き穴状流路97を通過する外気の流れを、コンピュータ解析によりシミュレーションした。図9に多数の小さな矢印で示されているのがその空気の流れである。
【0018】
図9に示されるように、吸引される外気(空気)の多くは横向き穴状流路98内をシリンダ体91の軸線方向に通ったあと、横向き穴状流路98の底面98aにぶつかってから縦向き穴状流路97に流れ込む。
【0019】
そこでの空気の流れを見ると、横向き穴状流路98の底面98a付近で急激に側方に向きを変えて、次にはシリンダ体91の内周面にぶつかっている。そのため、図9に示されるように、縦向き穴状流路97の入口部に、空気流が吸引操作弁94の表面から剥離したかのような空気流のデッドスペース100ができ、その領域において空気流の実質的な流路断面積が著しく狭められて、流路抵抗を著しく増大させていることが判明した。
【0020】
そこで、大気を吸引するための流路断面積をより大きくするためにシリンダ体91の径を大きくすれば自然吸引が発生し難くなる可能性があるが、徒にそのようにしたのでは、前述のように装置が大型化して操作性が損なわれてしまうので好ましくない。
【0021】
本発明は、押し込み操作力量が小さくて操作性がよく、しかも装置を大型化することなく、いわゆる自然吸引が発生しない優れた機能を備えた内視鏡の吸引操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の吸引操作装置は、内視鏡の操作部に配置されて、連続運転される外部吸引装置に連通する吸引元管と内視鏡の挿入部先端に開口する吸引管とが接続されたシリンダ体内に、シリンダ体の開口端側から軸線方向に押し込み操作される吸引操作弁が配置され、吸引操作弁の外周面とシリンダ体の内周面との間の隙間により、吸引操作弁がシリンダ体内に押し込まれていない待機状態の時に外部吸引装置に吸引される外気が通過する縦向き穴状流路が形成されると共に、縦向き穴状流路の入口側に隣接してそれよりシリンダ体の開口端寄りの位置には吸引操作弁を径方向に貫通する横向き穴状流路が形成され、待機状態のときには、吸引元管内に吸引される外気が横向き穴状流路内をシリンダ体の軸線方向に通ったあと横向き穴状流路の底面にぶつかってから縦向き穴状流路に流れ込むように構成された内視鏡の吸引操作装置において、縦向き穴状流路の入口を臨む横向き穴状流路の底面の縁部が、縦向き穴状流路側に斜行した斜面にされていて、待機状態のときに横向き穴状流路を通過して縦向き穴状流路に流入する外気が、横向き穴状流路と縦向き穴状流路との境界部において斜面に沿って流れるようにしたものである。
【0023】
なお、斜面がシリンダ体の軸線方向に対してなす角度(θ)が40°±15°であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、縦向き穴状流路の入口を臨む横向き穴状流路の底面の縁部が、縦向き穴状流路側に斜行した斜面にされていて、待機状態のときに横向き穴状流路を通過して縦向き穴状流路に流入する外気が、横向き穴状流路と縦向き穴状流路との境界部において斜面に沿って流れることにより、外気が吸引される吸引路の通過抵抗が従来より大幅に小さくなり、その結果、押し込み操作力量が小さくて操作性がよく、しかも装置を大型化することなく、いわゆる自然吸引が発生しない優れた機能を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置における待機状態の側面断面図(図3におけるI−I断面図)である。
図2】本発明の実施例に係る内視鏡の全体構成図である。
図3】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置における待機状態の正面半断面図である。
図4】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置の図3におけるIV−IV断面図である。
図5】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置における吸引状態の正面半断面図である。
図6】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置の部分ユニットの、正面と左側面との中間方向から見た状態の図である。
図7】本発明の実施例に係る内視鏡の吸引操作装置の図6におけるVII−VII断面図である。
図8】従来の内視鏡の吸引操作装置における待機状態の正面半断面図である。
図9】改良検討を行った吸引操作装置における待機状態の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2は、内視鏡の全体構成を示しており、操作部1に基端が連結された可撓性の挿入部2の先端に、図示されていない観察窓や照明窓等と並んで吸引口3が開口形成されている。
【0027】
挿入部2内には、吸引口3に連通する吸引管4が全長にわたって挿通配置されており、吸引管4の基端は、操作部1に配置された吸引操作装置10に接続されている。また、連続運転される外部吸引装置5と吸引操作装置10との間が吸引元管6によって接続されており、吸引操作装置10を切り替え操作することにより、体内汚液等を吸引口3から外部吸引装置5に任意に吸引排出させることができる。
【0028】
図3は、待機状態にある吸引操作装置10の半断面図である。11は、一端が操作部1の外面に開口配置されたシリンダ体であり、大半の部分が操作部1内に配置されていている。シリンダ体11には、吸引元管6と吸引管4とが各々接続されている。
【0029】
シリンダ体11内には、その開口端側から軸線方向に押し込み操作されるピストン状の吸引操作弁12が軸線方向にスライド自在に配置されている。なお、各図においては、シリンダ体11と吸引操作弁12の断面のみに斜線を施してある。
【0030】
シリンダ体11の開口端から外方に突出する吸引操作弁12の突端には、押し込み操作ボタン13が取り付けられている。14は、吸引操作弁12と押し込み操作ボタン13を、押し込み操作された状態から待機状態に戻すための圧縮コイルスプリング、15は、圧縮コイルスプリング14の周囲を囲んで配置されたかざり環である。
【0031】
待機状態の時に吸引元管6を経て外部吸引装置5に吸引される外気が通過する縦向き穴状流路16が、吸引操作弁12の外周面とシリンダ体11の内周面との間の隙間により形成されている。「縦向き」とは、シリンダ体11の軸線方向の意である。
【0032】
図4は、図3におけるIV−IV断面図であり、縦向き穴状流路16の断面形状(軸線に対して垂直をなす断面の形状)が図示されている。各図に示される17は、後述する吸引状態の時に吸引元管6と吸引管4とを連通させるために吸引操作弁12に形成された吸引連通孔17である。図3に示されるように、吸引連通孔17の側面開口端にはシール材の類が取り付けられていない。
【0033】
縦向き穴状流路16の入口側に隣接して、それよりシリンダ体11の開口端寄り(即ち、図3において上方)の位置には、吸引操作弁12を径方向に貫通する横向き穴状流路18が形成されている。図3に示されるように、横向き穴状流路18の断面形状は、軸線方向(即ち、シリンダ体11の軸線方向)に細長い長円形状に形成されている。
【0034】
その結果、待機状態においては、外気が、押し込み操作ボタン13とその周辺の部材などの隙間を通り、横向き穴状流路18から縦向き穴状流路16を経て吸引元管6に常時吸引される。
【0035】
図5に示されるように、押し込み操作ボタン13が押し込み操作されると、圧縮コイルスプリング14が圧縮されて吸引操作弁12がシリンダ体11内でスライドし、吸引元管6と吸引管4とが吸引連通孔17を介して連通し、挿入部2の先端の吸引口3から吸引が行われる。
【0036】
図6は、シリンダ体11から抜き出された状態の吸引操作弁12を示している。吸引操作弁12の頭部には、押し込み操作ボタン13やかざり環15が取り付けられていて、それらが一つのユニットになっている。
【0037】
吸引操作弁12に形成されている横向き穴状流路18は、VII−VII断面を図示する図7にも示されるように、縦向き穴状流路16の入口を臨む底面18aの縁部が、縦向き穴状流路16側に斜行した斜面18bにされている。斜面18bが底面18aに占める割合は、50%程度で十分であるが、後述する効果を十分に得るためには25%〜100%の範囲であればよい。
【0038】
その斜面18bが吸引操作弁12の軸線方向(即ち、シリンダ体11の軸線方向)に対してなす角度θは25°〜55°の範囲(言い換えると40°±15°)である。その理由は、55°より大きいと、後述する本発明の効果が小さくなり、25°より小さいと、その必要性が乏しいにもかかわらず吸引操作弁12を長くせざるを得なくなって、装置が大型化する可能性があるからである。
【0039】
図1は、図3におけるI−I断面図であり、待機状態において、横向き穴状流路18から縦向き穴状流路16を通過する外気の流れを、コンピュータ解析によりシミュレーションした結果を図示したものである。
【0040】
押し込み操作ボタン13とその周辺の部材などの隙間から吸い込まれた外気は、横向き穴状流路18内をシリンダ体11の軸線方向に通ったあと、横向き穴状流路18の底面18aにぶつかってから縦向き穴状流路16に流れ込み、空気の流れが、横向き穴状流路18の底面18a付近の領域で縦向き穴状流路16の入口方向に向きを変える。
【0041】
しかし、縦向き穴状流路16の入口を臨む横向き穴状流路18の底面18aの縁部が、縦向き穴状流路16側に斜行した斜面18bにされていることにより、横向き穴状流路18を通過して縦向き穴状流路16に流入する外気の多くが、横向き穴状流路18と縦向き穴状流路16との境界部において斜面18bに沿う方向に流れる。
【0042】
したがって、従来のように空気流が吸引操作弁12の表面から剥離したかのような空気流のデッドスペースが発生せず、この領域において空気流の実質的な流路断面積がほとんど狭められない。
【0043】
その結果、外気が吸引される吸引路の通過抵抗が従来より大幅に小さくなり、待機状態における自然吸引が発生しない。そして、自然吸引発生防止のためのシール部材等が不要なので、押し込み操作ボタン13の操作力量が小さくて操作性がよく、吸引操作装置10を大型化する必要もない。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、図示されていない各種の実施態様を含むものである。
【符号の説明】
【0045】
1 操作部
2 挿入部
3 吸引口
4 吸引管
5 外部吸引装置
6 吸引元管
10 吸引操作装置
11 シリンダ体
12 吸引操作弁
13 押し込み操作ボタン
14 圧縮コイルスプリング
16 縦向き穴状流路
18 横向き穴状流路
18a 底面
18b 斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9