【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。
【0045】
実施例及び比較例における、(1)PVDF樹脂の重量平均分子量(Mw)、(2)PVDF樹脂の融点(Tm)、(3)非溶媒に対する溶媒の飽和溶解濃度C
max、(4)多孔質膜の透水性、(5)多孔質膜のデキストラン除去率、(6)多孔質膜の薬品耐性、(7)多孔質膜の欠陥発生率は、以下の方法で各々測定及び評価を行った。
【0046】
(1)PVDF樹脂の重量平均分子量(Mw)
PVDF樹脂を1.0mg/mLの濃度でDMFに溶解した試料を50mL用い、以下の条件でGPC測定を行い、その重量平均分子量(PMMA換算)を求めた。
装置 :HPLC−8220GPC (東ソー株式会社)
カラム :Shodex KF―606M、KF−601
移動相 :0.6mL/min DMF
検出器 :示差屈折率検出器
【0047】
(2)PVDF樹脂の融点(Tm)
PVDF樹脂15mgを密封式DSC容器に密封し、セイコー電子製DSC−6200を用いて昇温速度10℃/minで昇温し、この昇温過程で観察される融解ピークの頂点をPVDF樹脂の融点(Tm)とした。
【0048】
(3)非溶媒に対する溶媒の飽和溶解濃度(C
max)
非溶媒100mgを25℃で100rpm攪拌し、この非溶媒中にビュレットを用いて溶媒を滴定添加し、1時間以内に溶媒が非溶媒に均一拡散・溶解する最大量(飽和重量)を測定することにより、飽和溶解濃度(C
max)を算出した。
C
max=滴定した溶媒の量(mg)/使用した非溶媒の量(0.1L)
【0049】
(4)多孔質膜の透水性試験(L/(m
2・hr))
約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、下記式から純水透水率を決定した。
純水透水率(L/(m
2・hr))=(60(min/hr)×透水量(L))/(π×膜内径(m)×膜有効長(m)×測定時間(min))
【0050】
(5)多孔質膜のデキストラン除去率(%)
湿潤中空糸膜両端の中空部内へ注射針を入れ、温度25℃、ろ過差圧50kPa、膜面線速0.5m/sの条件下、分子量200万のデキストラン(Dextran 2000、Amersham bioscience製)1,000ppm水溶液の外圧クロスフローろ過を25分間行った。次に、初期原水中及び25分ろ過終了後に採取したろ過水のデキストラン濃度を、示唆屈折率計を用いて求めた。最後に、分子量200万のデキストラン除去率を、下記式から求めた。
除去率(%)=(1−(25分ろ過終了後デキストラン濃度)/(初期原水中デキストラン濃度))×100
【0051】
(6)多孔質膜の薬品耐性試験(5日目孔径保持率(%))
多孔質膜の薬品耐性試験として、5日目孔径保持率(%)による評価を行った、5日目孔径保持率(%)は、湿潤状態の多孔質中空糸膜を40℃の水酸化ナトリウムを4重量%と次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素濃度で0.5重量%溶液との混合水溶液に5日間浸漬し、薬液への浸漬前後で上記(5)の分子量200万のデキストラン除去率の測定を行い、浸漬前のデキストラン除去率(E
0)と5日浸漬による薬品劣化後のデキストラン除去率(E
5)を下記式に代入して算出した。
5日目孔径保持率(%)=(E
5/E
0)×100
【0052】
(7)多孔質膜の欠陥発生数
約1m長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.2MPaの圧力にて空気を中空部内へ注入し、気泡が外表面から出てくる箇所数を計測することにより、欠陥発生数を決定した。
【0053】
[実施例1]
PVDF樹脂として重量平均分子量が35万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製、Kynar741)24重量%と、K値17のポリビニルピロリドン(BASF製、ルビスコールK17)17重量%と、スルホラン(和光純薬製)59重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は42℃であった。
この製膜原液を2重環紡糸ノズル(最外径1.3mm、中間経0.7mm、最内径0.5mm)から内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに200℃で吐出し、40mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例1の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1と同じPVDFホモポリマー20重量%と、K値17のポリビニルピロリドン17重量%と、Triacetin(Aldrich製、99%)63重量%とを混合し、200℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は102℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに250℃で吐出し、40mmの空走距離を通した後、110℃のグリセリン中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例2の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0055】
[実施例3]
PVDF樹脂として重量平均分子量が30万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6008)20重量%と、K値12のポリビニルピロリドン(BASF製、コリドン 12PF)17重量%と、N-Methyl-2-Pyrrolidone(NMP)(関東化学製、特級)63重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は390℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は35℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに180℃で吐出し、20mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例3の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0056】
[実施例4]
PVDF樹脂として重量平均分子量が44万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6012)22重量%と、K値12のポリビニルピロリドン(BASF製、コリドン 12PF)15重量%と、Triacetin(Aldrich製、99%)63重量%とを混合し、220℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は390℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は102℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに230℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、110℃のグリセリン40%とTriacetin40重量%の混合液中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例4の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例4の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0057】
[実施例5]
3重構造の紡糸ノズルを用いて、外層と内層を有する2層中空糸膜の膜構造を有する実施例5の多孔質膜を得た。ここでは、外層には実施例1と同じ製膜原液を、内層にはフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6020)34重量%、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)33.8重量%、フタル酸ジブチル6.8重量%、微粉シリカ25.4重量%の溶融混練物を、中空部形成流体には空気をそれぞれ用い、これらを3重環紡糸ノズル(外層最外径2.0mm、内層最外径1.8mm、中空部形成層最外径0.9mm)から同時に吐出すことで、中空糸状成型物を得た。
押し出した中空糸状成型物は、80mmの空走距離を通した後、外層は60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、内層は空走部及び水中において熱誘起相分離を進行させ、20m/分の速度でかせに巻き取った。得られた2層中空糸状押出し物を塩化メチレン中に浸漬させてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)及びフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。続いて、50重量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を膨潤化した。続いて、20重量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
このようにして得られた実施例5の多孔質膜は、高い分離性能を有する外層と高い透水性能及び機械強度を有する内層からなり、外層と内層が非連続的に接合し、両層間の界面も極めて連通性が高い構造を有するものであった。また、実施例5の多孔質膜は、実施例1〜4の多孔質膜と比較して、優れた強度、及び透水性能を示した。
表1に、得られた実施例5の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1と同じPVDFポリマー24重量%と、K17ポリビニルピロリドン17重量%と、スルホラン(和光純薬製)59重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この原液の多孔構造形成開始温度は42℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに140℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例1の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例1の多孔質膜は、5日目孔径保持率が10%と極めて低く、実施例1〜5の多孔質膜と比較して、分離層の薬品耐性が低いものであった。
【0059】
[比較例2]
比較例1と同じ製膜原液を用い、実施例1と同じ紡糸ノズルからグリセリン(和光純薬製、特級)とともに200℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、原液の多孔構造形成開始温度(42℃)以下の23℃の水中で熱誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例2の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例2の多孔質膜は、実施例1〜5の多孔質膜とは異なり、極めて緻密で厚い分離層が形成されたものとなり、透水性能が極めて低く、孔径保持率の計測が不可能であった。
【0060】
[比較例3]
PVDF樹脂として重量平均分子量が35万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製、Kynar741)27重量%と、重量平均分子量35000のポリエチレングリコール(メルク社製、ポリエチレングリコール35000)15重量%とを、ジメチルアセトアミド(和光純薬製、特級)58重量%に70℃で溶解させ、製膜原液とした。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は75℃以上、0℃以下であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液である水とともに70℃で吐出し、200mmの空走距離を通した後、77℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例3の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例3の多孔質膜は、実施例1〜5の多孔質膜とは異なり、分離層の薬品耐性が極めて低いものであった。
【0061】
【表1】