(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
前記のような医科歯科用ハンドピースには、その先端ヘッド部に、前記切削回転工具を着脱自在に装着し得る工具チャック装置が組み込まれている。医科歯科の診療においては、術者は、患部の状態に応じて、それに適正な切削回転工具をヘッド部に適宜交換装着して診療に用いる。そのため、切削回転工具を着脱自在に装着し得るチャック装置がヘッド部に組み込まれる。そして、このような工具チャック装置には、診療の効率化の観点から、切削回転工具の着脱操作が簡易に行え、且つ、回転中に切削回転工具が抜け出さないよう確実に切削回転工具を保持し得る機構が求められる。このような工具チャック装置の一例として、特許文献1に記載されたものを挙げることができる。
【0003】
特許文献1に開示された工具チャック装置では、ヘッド部に軸回転可能に内装されるバーチューブ(工具保持部材)にコントラバー(切削回転工具)が挿通可能とされ、該バーチユーブの基端部に挿通されたコントラバーを係合保持するバー係合保持部材が設けられている。このバー係合保持部材は、これ自体が拡開弾性変形する弾性リング部材からなり、押圧部材からなるコントラバー解除部材によって、前記弾性リング部材を拡開させて、コントラバーの保持を解除させるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された工具チャック装置の場合、開環状の弾性リング部材からなるバー係合保持部材は、コントラバーの基端部に形成された周溝にコントラバーを抱持するよう嵌り込んで、コントラバーが抜け落ちないように係合保持するものである。そのため、この弾性リング部材による係合保持を解除する場合、当該弾性リング部材を、コントラバーの外径より大きく、前記周溝より完全に脱出し得るように拡開する必要がある。従って、弾性リング部材の拡開に要する大きなスペースをバーチューブ更にはヘッド部内に確保する必要があり、これによって、バーチューブ更にはヘッド部の外径を大きくせざるを得ず、狭い口腔内で使用される歯科用ハンドピースの場合には、その適正が損なわれる可能性がある。一方、拡開変形量を少なくして係合保持させようとすると、係合保持量が少なくなり、それだけ回転中のコントラバーの抜け落ちの危険性が高まることにもなる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みなされたもので、コンパクトで、且つ、切削回転工具の保持が確実になされ、切削回転工具の着脱も簡易になし得る医科歯科用ハンドピースの工具チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工具チャック装置は、医科歯科用ハンドピースの先端ヘッド部に設けられ、切削回転工具を着脱自在に装着し得る工具チャック装置であって、前記先端ヘッド部に軸回転可能に内装され、前記切削回転工具を同心的に挿通し得る内筒部を備えた中空円筒状の工具保持部材と、前記工具保持部材の基端部側の胴部に内外に連通するよう形成された開口部に、前記内筒部に一部が臨んで、挿通された前記切削回転工具の基端部を係止するよう、該工具保持部材の軸心に直交する方向にスライド自在に支持される係止用爪部材と、前記係止用爪部材を前記工具保持部材の軸心側に弾力付勢する係止用弾性部材と、前記係止用爪部材を前記係止用弾性部材の付勢力に抗して前記工具保持部材の遠心側に変位させて前記切削回転工具に対する係止を解除させる係止解除部材と、を備え、前記工具保持部材における前記係止用爪部材の支持部には、遠心方向に張出す平坦面を備えたフランジ部が形成され、前記係止用爪部材は当該フランジ部の平坦面に沿ってスライド可能に支持されており、前記フランジ部の平坦面上には、前記係止用爪部材と前記工具保持部材との前記軸心回りの相対回転を不能とする規制手段として、前記係止用爪部材の前記軸心の回りの両端部に当接するよう形成された2個の突起が設けられて
おり、前記係止用爪部材の外周部には、周溝と周溝を分断する区画壁部とが形成され、前記係止用弾性部材は、前記周溝に嵌め入れられ、かつ開環端部が前記区画壁部を隔てて互いに対峙するように位置付けられる開環リング状に形成され、前記工具保持部材の周面には、前記係止用弾性部材に求心方向に向くように形成された屈曲部が嵌り込む凹所が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の工具チャック装置において、前記先端ヘッド部はヘッドハウジングを備え、前記工具保持部材は、当該ヘッドハウジングに、前記係止用爪部材の支持部より先側部分に設けられる軸受を介して軸回転可能に内装されているものとしても良い。この場合、前記軸受は、前記工具保持部材の長手方向に沿って2個設けられ、前記ヘッドハウジングは、前記基端部側に相当する部分に開口部を有し、前記2個の軸受は、当該開口部側から前記ヘッドハウジング内に前記先側部分に向け組み付けられているものとしても良い。更に、前記係止解除部材は、前記ヘッドハウジングの開口部に、工具保持部材の軸心方向に沿って変位可能且つ当該開口部を塞ぐように設けられるプッシュキャップと、該プッシュキャップを前記軸心方向に沿ってヘッドハウジングの外側に向け付勢する解除用弾性部材とを含み、前記プッシュキャップは、その内面に筒状の作用突部を備え、前記解除用弾性部材の付勢力に抗して押圧操作された際、前記作用突部が前記係止用爪部材に作用して、当該係止用爪部材を前記係止用弾性部材の付勢力に抗して遠心側に変位させるよう構成されているものとしても良い。そして、前記
解除用弾性部材が、金属性の板状ばね部材を打抜き加工した環状体からなり、当該環状体の外径部の形状が円形で且つ内径部の形状が前記作用突部を遊挿し得る楕円形であり、該楕円形の短径を正中として湾曲形成されたものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医科歯科用ハンドピースの先端ヘッド部に設けられる工具チャック装置に切削回転工具を装着することによって、当該医科歯科用ハンドピースを、患部の医科歯科診療に用いることができる。そして、前記切削回転工具は、前記先端ヘッド部に軸回転可能に内装される工具保持部材に挿通され、係止用爪部材によって工具保持部材に係止保持される。従って、工具保持部材の軸回転が前記切削回転工具の軸回転に伝達され、切削回転工具の軸回転によって患部の切削診療等が実施可能とされる。また、切削回転工具は工具保持部材に着脱自在に装着されるから、患部の状態に応じた切削回転工具を選択装着することによって、その適正な切削診療を実施することができる。
【0012】
前記切削回転工具は、前記工具保持部材の基端部側の胴部に内外に連通するよう形成された開口部に、前記内筒部に一部が臨み、この内筒部に臨む一部によって、挿通された前記切削回転工具の基端部が係止されて工具保持部材からの抜けが防止される。該係止用爪部材は、工具保持部材の軸心に直交する方向にスライド自在に支持され、係止用弾性部材によって前記工具保持部材の軸心側に弾力付勢されるから、この弾力付勢によって、前記切削回転工具の前記係止状態が維持される。そして、係止解除部材によって、前記係止用爪部材を前記係止用弾性部材の付勢力に抗して前記工具保持部材の遠心側に変位させることによって、前記切削回転工具に対する係止を解除させ、切削回転工具を取出すことができる。係止用爪部材は、係止用弾性部材の弾力付勢を伴い、前記軸心に直交する方向にスライド自在に設けられているから、前記特許文献1に示されるよう拡開弾性変形するもののように、その変位に大きなスペースを必要としない。従って、当該係止用爪部材が工具保持部材と共に内装されるハンドピースのヘッド部の外径が大きくなる懸念がない。
【0013】
更に、前記係止用爪部材は、その支持部に設けられた規制手段によって、前記係止用爪部材の前記軸心に直交する方向へのスライド変位は許容されながらも、前記工具保持部材との前記軸心回りの相対回転を不能とされている。これによって、回転中に不意に係止解除操作がなされても、相対回転に伴い、当該係止用爪部材がその周辺部材に対してくさびのように食い込んで戻らなくなるような不測の事態を生じる懸念がない。
【0014】
また、前記工具保持部材における前記係止用爪部材の支持部に、遠心方向に張出す平坦面を備えたフランジ部が形成されたものとすれば、前記係止用爪部材は、当該フランジ部によって安定的に支持されると共に、当該フランジ部の平坦面に沿ったスライド変位が円滑になされる。
【0015】
また、前記規制手段が、前記のように2個の突起からなるものとすれば、該突起が前記係止用爪部材の前記軸心の回りの両端部に当接することによって、係止用爪部材と工具保持部材との前記軸心回りの相対回転が確実に防止される。そして、この突起は、工具保持部材の切削加工時に、前記支持部に隆起するよう形成することが可能であるから、突起に相当するものを別部品として準備する必要がなく、部品点数の増加を抑えることができる。
【0016】
また、前記工具保持部材が、前記ヘッドハウジングに、前記係止用爪部材の支持部より先側部分に設けられる軸受を介して軸回転可能に内装されているものとした場合、支持部と軸受とが前記軸心に直交する方向に重ならず、この部分が径大化する懸念がない。この場合、前記軸受を、前記工具保持部材の長手方向に沿って2個設けるようにすれば、工具保持部材が2個の軸受によって安定した軸回転可能状態で支持がなされる。そして、前記ヘッドハウジングは、前記基部側に相当する部分に開口部を有しているので、前記2個の軸受は、当該開口部側から前記ヘッドハウジング内に前記先側部分に向け容易に組み付けることができる。
【0017】
更に、前記係止解除部材を、前記ヘッドハウジングの開口部に、前記のように設けられるプッシュキャップと、該プッシュキャップを前記軸心方向に沿ってヘッドハウジングの外側に向け付勢する解除用弾性部材とを含むものとすれば、プッシュキャップの押圧操作によって後記する係止解除が簡易になされる。また、このプッシュキャップによって前記開口部が塞がれるから、外部からヘッドハウジング内への塵埃等の侵入が防止される。このプッシュキャップが、その内面に前記のような筒状の作用突部を備えているものとすれば、前記解除用弾性部材の付勢力に抗して押圧操作した際、前記作用突部が前記係止用爪部材に作用して、当該係止用爪部材を前記係止用弾性部材の付勢力に抗して遠心側に変位させることができる。これによって、係止用爪部材による切削回転工具の係止解除操作が、簡易且つ的確になされる。
【0018】
そして、前記
解除用弾性部材を、金属性の板状ばね部材を打抜き加工した環状体を湾曲形成したものとすれば、その作成が簡易且つ安価になされる。この場合、前記環状体の外径部の形状が円形で且つ内径部の形状が前記作用突部を遊挿し得る楕円形であり、該楕円形の短径を正中として湾曲形成するようにすれば、湾曲によって環状体の内径部が前記作用突部に干渉することを防止することができる。これによって、ヘッドハウジングの小径化に伴い、当該
解除用弾性部材の収納スペースが狭くなる場合でも、充分なバネ力を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の工具チャック装置の実施の形態について図面に基づき説明する。先ず、本発明に係る工具チャック装置が組み込まれた歯科用(医科歯科用)ハンドピースの一例について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1及び
図2において、歯科用ハンドピース1は、先端ヘッド部2と、該先端ヘッド部2に連接される細径のネック部3と、該ネック部3に連接され手指によって把持される把持部4とを備えている。そして、前記把持部4の基部には、先端ヘッド部2に装着される切削回転工具5を回転駆動させるためのモータユニット6が着脱自在に接続される。ハンドピース1にモータユニット6が連結された状態で歯科用インスツルメント7が構成される。このモータユニット6には、該モータユニット6に内蔵されるマイクロモータ8への電源供給用リード線81、図示を省略する患部照射用ランプの電源供給用リード線、患部に噴霧注水させるための水管路及びエア管路等を内装するホース61が連結されている。
【0021】
歯科用ハンドピース1は、把持部ハウジング4aにネック部3を介してヘッドハウジング20が連なってコントラアングル形に形成されている。把持部ハウジング4a内には、把持部4の基部にモータユニット6が接続されたときに、マイクロモータ8の出力軸82にカップリング部9aを介して連結される第1駆動伝達軸9が軸回転可能に内装されている。第1駆動伝達軸9の先端には第1減速ギヤ機構10を介して第2駆動伝達軸11が軸回転可能に連接され、更に、ネック部3に至る部分には、屈折部分の第2減速ギヤ機構12を介して第3駆動伝達軸13が軸回転可能に連接されている。前記第3駆動伝達軸13は、把持部ハウジング4a内に軸受14を介して軸回転可能に支持され、その先端部にはベベルギヤ15が固設されている。把持部ハウジング4aには、前記モータユニット6に設けられた不図示の照明用ランプ(例えば、LED)が発する照明光を前記ネック部3にまで導光する導光体(例えば、光ファイバ)16が内装されている。この導光体16によって導光された照明光は、その出光端16aから前記切削回転工具5の先端部に向け出射される。
【0022】
先端ヘッド部2のヘッドハウジング20には、本実施形態の工具チャック装置17が組み込まれている。この工具チャック装置17について、
図3〜
図7をも参照して詳細に説明する。該工具チャック装置17は、前記先端ヘッド部2のヘッドハウジング20に軸回転可能に内装される工具保持部材18と、係止用爪部材19と、係止用弾性部材21と、係止解除部材22とを備える。前記工具保持部材18は、前記切削回転工具5を同心的に挿通し得る内筒部18aを備えた中空円筒状とされ、その基端部18b側の胴部に内外に連通する開口部18cが形成されている。更に、当該工具保持部材18の長手方向の略中央部には、前記ベベルギヤ15に噛み合う被伝達ベベルギヤ23が一体に設けられている。前記係止用爪部材19は、前記工具保持部材18の開口部18cに、前記内筒部18aに一部(以下、係止爪部191と言う)が臨んで、挿通された前記切削回転工具5の基端部5aを係止するよう、該工具保持部材5の軸心Lに直交する方向にスライド自在に支持されている。前記係止用弾性部材21は、前記係止用爪部材19を前記工具保持部材18の軸心L側に弾力付勢し、常時は前記係止爪部191が前記開口部18cより前記内筒部18a内に臨んだ状態に維持するよう機能する。そして、前記係止解除部材22は、前記係止用爪部材19を前記係止用弾性部材21の付勢力に抗して前記工具保持部材18の遠心側に変位させて前記切削回転工具5に対する係止を解除させるよう構成されている。
【0023】
前記工具保持部材18における前記係止用爪部材19の支持部には、遠心方向に張出すフランジ部18dが形成され、その上面は平坦面18eとされ、該平坦面18eは前記開口部18cの開口下縁部と連続するように形成されている。なお、本明細書において、下なる用語は、先端ヘッド部2に対して切削回転工具5が装着される側を、また、上なる用語は、切削回転工具5が装着される側の反対側、即ち、工具保持部材18の基端部18b側を、それぞれ意味する。前記フランジ部18dの平坦面18e上であって、前記開口部18cの両側縁部の近傍に2個の突起18f,18fが隆起形成されている。この突起18f,18fは、前記係止用爪部材19が、前記フランジ部18d上で、前記工具保持部材18に対して、前記軸心L回りに相対回転するのを防止するものである。また、前記工具保持部材18における前記開口部18cとは反対側の胴部であって、前記フランジ部18dの下部近傍には、工具保持部材18の内外に通じる第2の開口部18gが形成されている。この第2の開口部18gには、平面視して半月形状のキー部材24が前記内筒部18a内に臨むよう嵌め込まれる。該キー部材24は、前記内筒部18aに臨む部分が、工具保持部材18の内筒部18aに挿通される切削回転工具5の切欠部5bと整合し、そのキー的作用によって、工具保持部材18と切削回転工具5とが、前記軸心L回りに一体回転するようになされている。前記キー部材24の外周円弧形状部の径が、前記工具保持部材18の外径と略同じかやや小とされ、これによって、キー部材24が前記開口部18gに嵌め込まれた状態では、該キー部材24の外周面と、工具保持部材18の外周面とが同じ面をなす。
【0024】
前記係止用爪部材19は、平面視して円弧(扇形)形状をなし、本体部190と、該本体部190から内径側に向け延出される前記係止爪部191とよりなり、縦断面形状が略L字形に形成され、その下面は平坦面とされている。本体部190における内径側の上向角部には、斜面190aが面取状に形成されている。また、前記係止爪部191は、前記工具保持部材18の開口部18cより内筒部18内に侵入し得る形状とされ、その内径側の下向角部には、斜面191aが面取状に形成されている。この斜面191aを含む係止爪部191の内径側部分が前記工具保持部材18の内筒部18内に臨むようになされている。本体部190の外周部には、周溝190bが形成され、その周溝190bの周方向中央部には、該周溝190bを左右に分断する区画壁部190cが形成されている。
【0025】
前記係止用弾性部材21は、バネ性ワイヤを開環リング状に形成したリングバネからなる。このリングバネ(係止用弾性部材)21は、前記工具保持部材18における基端部18bの前記開口部18cとは反対側から、前記係止爪部191が開口部18cに連続する前記フランジ部18d上に置かれた係止用爪部材19を抱え込むように装着される。このとき、リングバネ21は、前記本体部190の周溝190bに嵌め入れられ、その開環端部21a,21aは、前記区画壁部190cを隔てて互いに対峙するよう位置付けられる。当該リングバネ21の開環端部21a,21aとは反対側の中央部には、求心方向に向く屈曲部21bが形成され、一方、前記基端部18bの周面には、該屈曲部21bが嵌り得る凹所18hが形成されている。前記開環端部21a,21aの前記区画壁部190cを隔てた対峙と、前記屈曲部21bの凹所18hへの嵌り込みとにより、リングバネ21の前記基端部18bの回りの位置変位が防止される。そして、このリングバネ21が、前記工具保持部材18に対して係止用爪部材19を抱え込むように装着された状態では、前記係止用爪部材19が、前記工具保持部材18の軸心L方向に弾力付勢され、その係止爪部191が内筒部18a内に臨んだ状態に維持される。
【0026】
前記工具保持部材18は、ヘッドハウジング20内で上下の軸受25,26によって軸回転(軸心L回りの回転)可能に内装されている。前記ヘッドハウジング20の上端部は開口し、この開口部200の内面には雌ねじ部201が形成されている。そして、当該開口部200に雄ねじ部27aを有する支持リング27が、雄ねじ部27a及び雌ねじ部201螺合によって一体に取付けられている。この支持リング27の下部は、上側(開口部側)の前記軸受25の外径面に外嵌されると共に軸受25の上面の一部に当止している。また、支持リング27の上部には、開環状のキャップリング28が取付けられている。このキャップリング28は、開環状態であることにより、求心方向に弾性変形(縮径)可能とされ、弾性変形させた状態で支持リング27内に挿入される。挿入後、この弾性変形を解除すると弾性復元し、前記支持リング27の内周に設けられた周溝27bに、キャップリング28の下端外周に設けられた外向鍔部281が没入係止される。これによって、該キャップリング28が支持リング27からの抜出不可に一体化される。
【0027】
前記キャップリング28には、円筒部290と、該円筒部290の一端(上端)開口部を塞ぐ蓋部291と、蓋部291の内面に下向きに突設された筒状の作用突部292とからなるプッシュキャップ29が上方への抜出しが不能の状態で取付けられている。即ち、前記円筒部290の下端部には、内向の係止鍔部293が連設され、該係止鍔部293の内径側下向角部にテーパー面293aが形成されている。また、前記キャップリング28の上端外周に外向の係止鍔部282が連設され、該係止鍔部282の外径側上向角部にテーパー面282aが形成されている。前記プッシュキャップ29の円筒部290を前記支持リング27内に挿入し、前記テーパー面293aを前記キャップリング28の前記テーパー面282aに宛がい、円筒部290を強く押し下げる。これに伴い、テーパー面293a,282a同士のカム作用によって、前記キャップリング28が縮径するように弾性変形し、プッシュキャップ29の内向の係止鍔部293と前記キャップリング28の外向の係止鍔部282とが噛み合うように係止し合う。これによって、プッシュキャップ29がキャップリング28に対して、上下の変位が許容された状態で、上方への抜出しが不能の状態で取付けられる。このように、プッシュキャップ29のキャップリング28に対する取付は、キャップリング28の縮径によってなされるから、プッシュキャップ29の外径側には、弾性変形による拡径を許容する為のスペースを確保する必要がない。従って、ヘッドハウジング20の径大化を抑え、先端ヘッド部2をコンパクトに構成することができる。そして、前記プッシュキャップ29とキャップリング28との間に、前記解除用弾性部材としてのウェーブワッシャ30がその環内に作用突部292を遊挿した状態で弾装され、プッシュキャップ29は、このウェーブワッシャ30によって常時上方に弾力付勢されている。
【0028】
前記プッシュキャップ29における作用筒部292の下端部の外径側角部はテーパー面292aとされ、該プッシュキャップ29を前記ウェーブワッシャ30の付勢力に抗して押下げ操作すると、当該テーパー面292aが前記係止用爪部材19の斜面190aに当接する。更に押下げ操作を継続すると、テーパー面292aの斜面190aに対するカム作用によって、前記係止用爪部材19が前記リングバネ21の付勢力に抗して、前記フランジ部18dの平坦面18e上を遠心側にスライド変位する。これによって、後記するように、工具保持部材18に挿入され切削回転工具5の係止用爪部材19による係止保持が解除される。即ち、支持リング27、キャップリング28、プッシュキャップ29及びウェーブワッシャ30により係止解除部材22が構成される。
【0029】
前記のように構成される工具チャック装置17のヘッドハウジング20に対する組付け要領について、
図3(a)(b)(c)(d)を参照して説明する。
図3(a)(b)において、先ず、工具保持部材18の前記第2の開口部18gにキー部材24を外側より嵌め込み、更に、上側の軸受25を工具保持部材18の下端より嵌装してフランジ部18dの下面に当接させる。この状態で、前記キー部材24は、前記上側の軸受25と第2の開口部18gの開口縁部とによって挟まれるように保持されるから、その脱落が阻止される。次いで、間座31を工具保持部材18の下端より嵌装して前記軸受25の内径側に当接させ、更に、前記被伝達ベベルギヤ23を、圧嵌め若しくはキー結合によって、工具保持部材18に相対回転不能の状態で嵌装する。そして、下側の軸受26を工具保持部材18に嵌装して前記工具保持部材18に当接させ、工具保持部材18の下端部に止めリング32を圧嵌めによって一体に嵌装する。この状態では、止めリング32によって、それより上に嵌装された前記各部品の抜け落ちが防止される。一方、前記支持リング27に、前記の要領でキャップリング28を嵌め込み、このキャップリング28に、ウェーブワッシャ30を圧縮状態で介在させて前記プッシュキャップ29を前記要領で取付け、係止解除部材22を組み立てておく。
【0030】
図3(c)において、前記係止用爪部材19を、前記工具保持部材18における前記フランジ部18dの上に載せ、この状態で前記開口部18c側にスライドさせ、その係止爪部191が工具保持部材18の内筒部18a内に臨むように、前記開口部18cに嵌め込む。更に、前記リングバネ21を、前記工具保持部材18の前記基端部18b及び当該係止用爪部材19を合わせて、これらを抱きかかえるように弾性的に嵌め合せる。このリングバネ21の縮径弾力により、係止用爪部材19は、前記係止爪部191が工具保持部材18の内筒部18a内に臨み、前記フランジ部18d上で前記工具保持部材18の前記基端部18bに拘束された状態に維持される。このように前記各部品が組付けられた工具保持部材18を、その先端よりヘッドハウジング20内に挿入し、次いで、既に組み立てられた係止解除部材22を、前記支持リング27の雄ねじ部27aをヘッドハウジング20における前記開口部200の雌ねじ部201に螺合することによって、ヘッドハウジング20に取付ける。これによって、ヘッドハウジング20の開口部200が閉塞され、
図3(d)及び
図2に示すように先端ヘッド部2に対する工具チャック装置17の組付けが完了する。
【0031】
前記のように工具チャック装置17の組付けが完了した先端ヘッド部2は、ネック部3を介して前記歯科用ハンドピース1の前記把持部4の先端に連接される。この連接状態で、前記把持部4内に装備されるベベルギヤ15が、前記被伝達ベベルギヤ23に噛み合う。これによって、前記マイクロモータ8から駆動伝達された前記第3駆動伝達軸13の軸回転は、ベベルギヤ15及び被伝達ベベルギヤ23の噛み合い部を介し第3駆動伝達軸13の軸に直交する軸心L回りの回転に変換される。従って、前記工具保持部材18は、上下の軸受25,26によって支持された状態で、前記マイクロモータ8の回転動力を受けて前記軸心L回りに回転する。このような工具チャック装置17が組付けられた先端ヘッド部には、歯科用の前記切削回転工具5が装着される。該切削回転工具5は、コントラアングルバー、或いは、ラッチバーと称され、
図1及び
図2に示すように、その基端部5aに前記係止用爪部材19の係止爪部191が嵌り込み得る周溝5cを備えている。また、前記基端部5aの上端から前記周溝5cの下方部にかけて、平面視して半月形状(前記キー部材24の平面視形状と整合する形状)の切欠部5bが形成されている。更に、前記基端部5aの上端角部にはテーパー面5dが面取り状に形成されている。当該切削回転工具5のシャンク部は中実円柱体でありその外径は、前記工具保持部材18における内筒部18aの内径と同じ若しくは若干小とされている。
【0032】
前記切削回転工具5を前記先端ヘッド部2に装着するに際して、先ず、切削回転工具5を手指で持ち、前記基端部5aを前記工具保持部材18の内筒部18aに、その下端部より挿入する。該切削回転工具5を前記軸心L回りに回しながら挿入を継続し、前記切欠部5bが前記キー部材23に整合する位置になったとき、切削回転工具5を強く押し込む。このとき、切削回転工具5の前記テーパー面5dが、前記係止用爪部材19の前記斜面191aに当接し、テーパー面5dの斜面191aに対するカム作用によって、係止用爪部材19が前記フランジ部18dの平坦面18e上をスライドして遠心側に変位する。この変位は、前記リングバネ21の縮径弾力に抗してなされ、
図4の2点鎖線で示すように、係止用爪部材19の係止爪部191が前記工具保持部材18の内筒部18aから退避し、且つ、リングバネ21が押し広げられる状態でなされる。このように、係止用爪部材19が遠心方向に変位した状態で更に切削回転工具5を押し込むと、基端部5aが係止用爪部材19の支持位置を通過し、周溝5cがこの支持位置に達する。ここで、前記係止用爪部材19が、前記リングバネ21の復元弾力により求心側に変位し、係止爪部191が前記周溝5cに嵌り込み、切削回転工具5の装着が完了する。この装着状態では、係止爪部191が前記周溝5cに嵌り込むことによって切削回転工具5の抜け落ちが阻止され、また、キー部材24の切欠部5bに対する整合によって、工具保持部材18と切削回転工具5との相対回転が不可とされる。従って、前記マイクロモータ8の回転動力は、前記工具保持部材18を介して切削回転工具5に伝達され、該切削回転工具5の前記軸心L回りの回転が安定的になされ、歯牙等の切削診療に供される。
【0033】
このように、切削回転工具5の軸回転により歯牙等の切削診療を行うに際しては、前記のように先端ヘッド部2がコンパクトに構成されるから、診療時の視野が大きく確保される。また、切削回転工具5が工具保持部材18と共に一体に軸回転するから、該切削回転工具5のシャンク部(工具保持部材18に挿通される部分)の摩耗が少なく、切削回転工具5の耐久性が向上する。しかも、切削回転工具5が工具保持部材18に安定的に保持されるから、安全であり、且つ、切削回転工具5の芯ぶれが少なく、患部の疼痛が緩和されると共に、破折が減少し、軸受25,26の耐久性も向上する。
【0034】
前記切削回転工具5の取外しは、前記のように、前記係止解除部材22を構成するプッシュキャップ29を手指でヘッドハウジング20側に強く押し込むことによってなされる。このとき、プッシュキャップ29における作用突部292の作用によって、係止用爪部材19が、遠心方向に変位して(
図4の2点鎖線参照)、係止爪部191の切削回転工具5に対する係止が解除される。このように、切削回転工具5の装着や取外しの際における係止用爪部材19の変位量は、
図4の2点鎖線で示すようにわずかである。また、リングバネ21の拡開量も小さく、しかも、リングバネ21の拡開部分は、係止用爪部材19の前記周溝190bに嵌め入れられているから、拡開しても係止用爪部材19の周壁からの突出量が少ない。従って、これら変位量や拡開量を許容する為の大きなスペースを係止用爪部材19の支持部の周囲に確保する必要がなく、これによって、先端ヘッド部2の径大化を抑えることができる。そして、前記係止用爪部材19は、前記2個の突起18f、18fによって、前記軸心Lに直交する方向へのスライド変位は許容されながらも、前記工具保持部材18との前記軸心回りの相対回転を不能とされている.従って、回転中に不意に係止解除操作がなされても、相対回転によって、当該係止用爪部材19がその周辺部材に対してくさびのように食い込んで戻らなくなるような不測の事態を生じる懸念がない。
【0035】
前記係止解除部材22を構成するウェーブワッシャ30は、金属性の板状ばね部材を打抜き加工した環状体からなる。
図7(a)の左図に示すように、打抜かれた状態の環状体300は、外径部301の形状が円形(真円形)で且つ内径部302の形状が前記プッシュキャップ29の筒状の作用突部292を遊挿し得る楕円形とされている。そして、本実施形態のウェーブワッシャ30は、該環状体300を、
図7(a)の右図に示すように、前記楕円形の短径Dを正中として湾曲して形成されたものである。このように、内径部302が楕円形で、この楕円形の短径Dを正中として湾曲しても、内径部302が前記作用突部292に干渉することがなく、所望のバネ応力を確保することができる。因みに、
図7(b)の左図に示すように、環状体300Aの外径部301A及び内径部302Aを共に同心の円形とし、内径部302Aの径を大きくすると、湾曲させても
図7(b)の右図に示すように、得られたウェーブワッシャ30Aの内径部302Aの作用突部292に対する干渉を防ぐことができる。しかし、外径部301Aの径は周辺部品との制約で大きくできないので、環状体300Aの幅が小さくなり、曲げ部の応力がオーバーし、所望の荷重が得られなくなることがある。また、
図7(c)の左図に示すように、環状体300Bの幅を確保した上で、内径部302Bを円形とすると、
図7(c)の右図に示すように、湾曲させた際、得られたウェーブワッシャ30Bの内径部302Bが作用突部292に干渉する。従って、本実施形態のウェーブワッシャ30の原形たる環状体300としては、
図7(a)の左図に示すような形状のものが、限られたスペース内に組み込むことができる上に、所望のバネ力を得ることができることから、最適であるということができる。
【0036】
尚、前記実施形態では、切削回転工具5の回転駆動源をマイクロモータ8としたが、これに限らず、エアモータ、エアタービン等のその他の駆動手段を駆動源とすることも可能である。また、
解除用弾性部材としてウェーブワッシャ30を用いた例を示したが、圧縮コイルスプリングや板バネ等も採用可能である。更に、工具保持部材18及びその周辺部品の構造も図例のものに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、他の構造のものも採用可能である。また、係止用爪部材19の相対回転を防止する規制手段として、図例のような2個の突起18fを採用したがこれに限られるものではない。例えば、係止用爪部材19の軸心Lに直交する方向へのスライド変位を許容し得るものであれば、フランジ部18dと係止用爪部材19との間に、凹凸の噛み合い構造を形成したり、その他のガイド構造を採用することも可能である。加えて、本発明の工具チャック装置が採用される医科歯科用ハンドピースとして、図例のような歯科用ハンドピースを例に採ったが、他の医科歯科用ハンドピースにも好ましく採用される。