(54)【発明の名称】2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含水結晶及び2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含水結晶含有粉末とそれらの製造方法並びに用途
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶が共存する過飽和の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有水溶液から水を蒸発させることにより請求項1乃至3のいずれかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含水結晶を晶出させ、これを採取することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含水結晶の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、新規なAA−2G含水結晶に関するものである。本発明のAA−2G含水結晶は、後述する実験において示すとおり、X線源としてCuKα線を用いた粉末X線回折法に供して得られる粉末X線回折図において、少なくとも、回折角(2θ)6.1°、9.2°、10.6°、11.4°及び12.1°に、従来公知のAA−2G無水結晶の粉末X線回折図に認められない特徴的な回折ピークを示すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のAA−2G含水結晶は、後述する実験において示すとおり、熱重量分析(TG分析)したとき、約2.7質量%の結晶水含量を示すことを特徴とする。因みに、この結晶水含量の値は、本発明のAA−2G含水結晶が1分子のAA−2Gに対して1/2分子の結晶水を有する1/2含水結晶、すなわち、C
12H
18O
11・1/2H
2Oであると仮定した場合の結晶水含量の理論値である2.66質量%と極めてよく一致している。
【0013】
また、本発明のAA−2G含水結晶は、同じく後述する実験において示すとおり、示差走査熱量分析(DSC分析)において、156℃付近に吸熱ピークを示すことを特徴とし、同分析において176℃付近に単一の吸熱ピークを示す従来公知のAA−2G無水結晶とは明瞭に区別することができる。
【0014】
AA−2G含水結晶は、上記の特徴を有する限り本発明に包含され、特定の製造方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0015】
また、本発明は、新規なAA−2G含水結晶の製造方法を提供する発明でもある。AA−2G含水結晶の原料となるAA−2Gの由来は問わず、有機合成によって得られるものであってもよいが、一般的には従来公知の食品素材、化粧品素材向けAA−2Gの製造方法、すなわち、澱粉質とL−アスコルビン酸にCGTaseを作用させ、さらにグルコアミラーゼを作用させる方法によって得られるAA−2G高含有溶液又はこれから調製されたAA−2G無水結晶含有粉末を用いるのが好適である。なお、本発明はAA−2G自体の製造方法に係るものではないことから、以下に概略を記載するにとどめる(詳細は特開平3−139288号公報、特開平3−135992号公報、特開平3−183492号公報を参照)。
【0016】
例えば、従来のAA−2G無水結晶含有粉末の製造方法は、基本的に、以下の(1)乃至(5)の工程を含んでいる:
(1)澱粉質とL−アスコルビン酸とを含む溶液にCGTaseを作用させてAA−2Gとともに2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトテトラオシル−L−アスコルビン酸などの2−O−α−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させる糖転移反応工程;
(2)得られる2−O−α−グリコシル−L−アスコルビン酸含有溶液にグルコアミラーゼを作用させて2−O−α−グリコシル−L−アスコルビン酸をAA−2Gとグルコースにまで、また、夾雑するマルトオリゴ糖をグルコースにまで分解し、AA−2G含量を高めるグルコアミラーゼ処理工程;
(3)陰イオン交換樹脂にAA−2Gと未反応のL−アスコルビン酸を吸着させ、樹脂に吸着しないグルコースなどの糖質を流去した後、希塩酸でAA−2GとL−アスコルビン酸を溶出し、さらに強酸性カチオン交換樹脂を用いたゲル濾過クロマトグラフィーによりAA−2G高含有画分を採取し、脱色、濾過、脱塩、濃縮する精製工程;
(4)得られるAA−2G高含有溶液にAA−2G無水結晶の種晶を添加し、晶析してAA−2G無水結晶を得る晶析工程;
(5)得られるAA−2G無水結晶を採取し、工程;熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程。
【0017】
本発明のAA−2G含水結晶は、上記の方法で製造されたAA−2G無水結晶含有粉末(例えば、登録商標『AA2G』、AA−2G純度98質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)を原料として、比較的容易に調製することができる。上記AA−2G無水結晶含有粉末を容器に入れた後、比較的少量の精製水に懸濁、加熱攪拌し、未溶解のAA−2G無水結晶が残存する過飽和AA−2G水溶液を調製し、静置した状態で、恒温器又は乾燥機に入れるなどして時間をかけて水を蒸発させれば、再度析出するAA−2G無水結晶の層の表層又は容器の壁面に無水結晶とは外観の異なる本発明のAA−2G含水結晶が塊状に晶出する。この塊状のAA−2G含水結晶を採取し、粉砕、乾燥することにより、無水物換算でAA−2G純度98質量%以上のAA−2G含水結晶粉末を得ることができる。しかしながら、この方法では、原料として用いたAA−2Gの一部しかAA−2G含水結晶として回収できず、AA−2G含水結晶を効率よく製造することは難しい。
【0018】
一方、本発明のAA−2G含水結晶は、一旦得られたAA−2G含水結晶を種晶として用いることにより、無水物換算でAA−2Gを98質量%以上含有する水溶液から効率よく得ることができる。例えば、市販のAA−2G無水結晶含有粉末(登録商標『AA2G』、AA−2G純度98質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)を水に完全に溶解させた後、必要に応じて濃縮することにより固形物濃度を50%(w/v)以上に調整し、容器に入れ、AA−2G含水結晶を種晶として固形物当たり1乃至5質量%加え、温度60℃以下、望ましくは、20乃至50℃の範囲で容器に蓋をしない開放系で0.5乃至7日間放置すれば、AA−2G含水結晶のみが晶出したブロックが得られる。このブロックを常法に従い、切削、粉砕、乾燥することにより、無水物換算でAA−2Gを98質量%以上含有するAA−2G含水結晶粉末を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明のAA−2G含水結晶は、後述する実験で示すように、AA−2G含水結晶を種晶として用いることにより、AA−2G純度が高い非晶質AA−2G粉末から直接製造することもできる。非晶質AA−2G粉末は、例えば、純度98質量%以上のAA−2G含有水溶液を凍結真空乾燥した後、粉砕、乾燥して得ることができる。非晶質AA−2G粉末に対し、AA−2G含水結晶を種晶として30質量%以上になるように添加し、均一に磨砕、混合した後、温度を、通常、10乃至40℃、望ましくは、20乃至30℃に、相対湿度を、通常、70乃至95%、望ましくは80乃至90%にコントロールした環境下で約0.5乃至7日間、静置することにより非晶質AA−2Gをほぼ完全に本発明のAA−2G含水結晶に変換することができる。なお、非晶質AA−2G粉末からAA−2G含水結晶への変換の進展は、その粉末を一部採取し、粉末X線回折法に供して得られる粉末X線回折図によって確認することができる。非晶質AA−2G粉末からの変換によって得たAA−2G含水結晶を、そのまま、又は、切削又は粉砕などして乾燥することにより、AA−2G含水結晶粉末を製造することができる。
【0020】
さらに、本発明のAA−2G含水結晶は、上記の方法で得られたAA−2G含水結晶を種晶として用いることにより、比較的AA−2G純度の低いAA−2G含有溶液からも得ることができる。例えば、前記したAA−2G無水結晶含有粉末の製造方法における工程(1)乃至(3)により得られる、固形物当りのAA−2G純度85質量%以上、濃度65乃至90%(w/v)のAA−2G含有溶液を助晶缶にとり、1乃至20質量%のAA−2G含水結晶粉末を種晶として加え、温度60℃以下、望ましくは、20乃至50℃の範囲で、攪拌しつつ晶析し、AA−2G含水結晶を含有するマスキットとする。マスキットから高純度のAA−2G含水結晶を採取する方法としては、通常、分蜜法が好適に用いられる。分蜜法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、AA−2G含水結晶と蜜(結晶化母液)とを分離し、必要に応じて、当該結晶に、例えば、少量の冷水又は冷エタノールをスプレーすることにより結晶を洗浄して、高純度のAA−2G含水結晶を製造することができる。斯して得られるAA−2G含水結晶におけるAA−2G純度は、通常、98質量%以上である。
【0021】
とりわけ高純度のAA−2G含水結晶を要さない場合には、上記マスキットを噴霧乾燥し、得られた粉末を熟成、乾燥させる噴霧乾燥法により、AA−2G含水結晶含有粉末を製造することも有利に実施できる。この噴霧乾燥法の場合には、前記したAA−2G無水結晶含有粉末の製造方法における工程(1)乃至(4)により得られる、固形物当りのAA−2G純度85質量%以上、濃度65乃至75%(w/v)、晶出率(固形物に対する結晶の割合)10乃至60質量%程度のマスキットを、例えば、高圧ポンプでノズルから噴霧するか、又は回転円盤を用いて噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで、20乃至60℃の温風で、相対湿度を53乃至90%に保ちつつ約1乃至48時間熟成することにより、AA−2G純度85質量%以上のAA−2G含水結晶含有粉末を容易に製造することができる。
【0022】
また、上記マスキットをブロック化し、ブロック粉砕法によりAA−2G含水結晶含有粉末を製造することも有利に実施できる。ブロック粉砕法の場合には、通常、水分5乃至20%(w/v)、晶出率10乃至60質量%程度のマスキットを、約0.1乃至約7日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを切削又は粉砕などの方法によって粉末化し乾燥することにより、AA−2G純度85質量%以上のAA−2G含水結晶含有粉末を容易に製造することができる。
【0023】
さらに、本発明は、AA−2G含水結晶粉末又はAA−2G含水結晶含有粉末の用途を提供する発明でもある。本発明のAA−2G含水結晶粉末は、その粒度分布にもよるものの、従来公知のAA−2G無水結晶含有粉末に比べ、賦形性に優れるという特徴を有する。後述する実験の項に示すとおり、従来のAA−2G無水結晶含有粉末を、打錠機を用いて錠剤に成形しようとすると、粉末への荷重を開放した段階で錠剤には割れ、欠けなどが生じ、錠剤への成形が困難であるのに対し、本発明のAA−2G含水結晶粉末の場合には、割れ、欠けなどを生じることなく、硬度の高い錠剤を調製することができる。
【0024】
また、本発明のAA−2G含水結晶粉末は、従来公知のAA−2G無水結晶含有粉末に比べ、油性物質との親和性が強く、油性物質の粉末化基材として有利に利用できるという特性を有している。この特性は、各種粉末油脂などを製造する上で有利に利用できる。
【0025】
本発明のAA−2G含水結晶及びAA−2G含水結晶含有粉末は、AA−2Gの粉末であるという点では従来のAA−2G無水結晶含有粉末と何ら変わるところがない。したがって、本発明のAA−2G含水結晶及びAA−2G含水結晶含有粉末は上記の用途のみならず、従来のAA−2G無水結晶含有粉末と同様に、広く飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品、成形物などに配合することができ、更には、生活用品、農林水産用品、試薬、化学工業用品などの各種組成物に利用することができることは言うまでもない。
【0026】
次に実験により本発明を具体的に説明する。
【0027】
<実験1:新規なAA−2G結晶の取得>
500ml容ガラスビーカーに、AA−2G無水結晶含有粉末(登録商標『AA2G』、株式会社林原生物化学研究所販売、AA−2G純度98.0質量%以上)20gと脱イオン水7.5gを入れ、50乃至60℃に加熱しつつ攪拌することによりAA−2Gの過飽和水溶液に一部未溶解のAA−2G無水結晶が残存する懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液を入れたビーカーを40℃の恒温器内に入れ、3日間保持することにより時間をかけて水分を蒸発させたところ、ビーカー底面に形成されたAA−2G無水結晶の層の表層及びガラスビーカーの壁面に、AA−2G焦水結晶とは外観の異なる塊状の結晶の析出が認められた。この塊状の結晶を薬匙にて採取し、粉砕、乾燥することにより結晶粉末3.8gを得た。
【0028】
<実験2:新規AA−2G結晶の物性>
実験1で得た結晶粉末を用いて、以下の物性を調査した。
【0029】
<実験2−1:新規AA−2G結晶の顕微鏡写真>
実験1で得た結晶粉末の適量を、グリセロールゼラチン(シグマ社製)に懸濁し、スライドガラスに載せ顕微鏡(オリンパス株式会社製、「BX50」)にて観察するとともに、顕微鏡用デジタルカメラ(オリンパス株式会社製、「DP21」)にて顕微鏡写真を撮影した。結晶の顕微鏡写真の一例(倍率:1,250倍)を
図1に示す。
図1に見られるとおり、柱状結晶が観察された。
【0030】
<実験2−2:新規AA−2G結晶のAA−2G純度>
実験1で得た結晶粉末を、脱イオン水に終濃度0.1又は1%(w/v)になるよう溶解し、メンブランフィルターにて濾過した後、下記の条件によるHPLC分析に供した。なお、AA−2Gの標準品として、試薬級のAA−2G無水結晶含有粉末(商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』、コード番号:AG124、純度99.9質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)を用い、同様にHPLC分析に供した。
【0031】
(HPLC分析条件)
HPLC装置:『LC−10AD』(株式会社島津製作所製)
デガッサー:『DGU−12AM』(株式会社島津製作所製)
カラム:『Wakopak Wakobeads T−330』
(和光純薬工業株式会社販売、H
+型)
サンプル注入量:0.1%溶液5μl(UV検出器)又は
1%溶液20μl(示差屈折計)
溶離液:0.01%(v/v)硝酸水溶液
流 速:0.5ml/分
温 度:25℃
検出器:多波長UV検出器『UV200−400』(株式会社島津製作所製)
示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)
データ処理装置:『クロマトパックC−R7A』(株式会社島津製作所製)
【0032】
実験1で得た結晶粉末は、上記HPLC分析において、UV検出器及び示差屈折計のいずれの検出方法においてもAA−2G標準品と同一の保持時間(Rt)に溶出ピークを示し、また、多波長UV検出器により調べた最大吸収波長(λmax)は248nmと、AA−2G標準品のそれと完全に一致した。実験1で得た結晶粉末のAA−2G純度を、示差屈折計を用いて得られたHPLCクロマトグラムのピーク面積に基づき算出したところ99.5質量%であった。
【0033】
<実験2−3:新規AA−2G結晶粉末の粉末X線回折>
実験1で得たAA−2G結晶粉末約50mgをシリコン製無反射板に乗せ、市販の反射光方式による粉末X線回折装置(商品名『X´ Pert Pro MPD』、スペクトリス株式会社製)を用い、Cu対陰極から放射される特性X線であるCuKα線(X線管電流:40mA、X線管電圧:45kV、波長:1.5405オングストローム)を照射して得られる回折プロファイルに基づく粉末X線回折図を得た。新規AA−2G結晶粉末の粉末X線回折図を
図2に、また、対照として用いた試薬級AA−2G無水結晶含有粉末(商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』、コード番号:AG124、純度99.9質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)のそれを
図3にそれぞれ示す。
【0034】
図2と
図3との対比から明らかなように、実験1で得た新規AA−2G結晶粉末の粉末X線回折図は、従来のAA−2G無水結晶粉末のそれとは全く異なっていた。すなわち、新規AA−2G結晶粉末の粉末X線回折図は、少なくとも、回折角(2θ)6.1°(
図2における符号「a」)、9.2°(
図2における符号「b」)、10.6°(
図2における符号「c」)、11.4°(
図2における符号「d」)及び12.1°(
図2における符号「e」)において、従来のAA−2G無水結晶粉末のそれに認められない特徴的な回折ピークを示した。
【0035】
<実験2−4:新規AA−2G結晶粉末の結晶水含量>
実験1で得たAA−2G結晶粉末3.5mgをアルミ製容器に入れ、示差熱・熱重量同時測定装置(商品名『TG/DTA6200』、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて窒素ガスを300ml/分の流量で流しながら25℃で3分間保持した後、10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温させることにより熱重量分析(TG分析)したところ、加熱に伴い110乃至145℃にかけて2.70質量%の重量減少が認められ、当該結晶粉末が2.70質量%の結晶水を含有していることが判明した。この結果から、実験1で得た新規AA−2G結晶粉末は従来未知の含水結晶であることが判明した。因みに、この結晶水含量の値は、当該結晶がAA−2G1/2含水結晶、すなわち、C
12H
18O
11・1/2H
2Oであると仮定した場合の水分含量の理論値である2.66質量%と極めてよく一致した。
【0036】
<実験2−5:新規AA−2G結晶粉末の元素分析>
実験1で得たAA−2G結晶粉末5乃至10mgを秤取し、酸素循環燃焼・TCD検出方式 NCH定量装置(「スミグラフ NCH−22F型」、住化分析センター製)を用いて、反応温度850℃、還元温度600℃の条件下で炭素(C)及び水素(H)について定量したところ、C:41.53質量%、H:5.58質量%の値が得られた。この元素分析の結果は、当該結晶がAA−2G1/2含水結晶、すなわち、C
12H
18O
11・1/2H
2Oであると仮定した場合の元素分析における理論値であるC:41.50質量%、H:5.51質量%と極めてよく一致した。実験2−4及び2−5の結果から、実験1で得たAA−2G結晶粉末は、1/2含水結晶であると推定された。以下、実験1で得たAA−2G結晶を「AA−2G含水結晶」と呼称する。
【0037】
<実験2−6:AA−2G含水結晶粉末の示差走査熱量分析(DSC分析)>
実験1で得たAA−2G含水結晶粉末3.5mgをアルミ製容器に入れ、示差走査熱量計(商品名『DSC Q20』、TAインスツルメンツ社製)を用いて窒素ガスを50ml/分の流量で流しながら25℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温させることにより、DSC分析における吸熱パターンを分析した。AA−2G含水結晶粉末の吸熱パターンを
図4の符号Aに、試薬級のAA−2G無水結晶含有粉末(商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』、コード番号:AG124、純度99.9質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)のそれを
図4の符号Bに示す。
【0038】
図4から明らかなように、AA−2G無水結晶含有粉末は176℃付近で融解にともなう単一の吸熱ピークを示したのに対し、実験1で得たAA−2G含水結晶粉末は、110乃至145℃の範囲に僅かな吸熱を示すとともに、157℃付近で融解にともなう吸熱ピークを示し、両者のDSC分析における吸熱パターンは全く相違していた。
【0039】
<実験3:高純度AA−2G含有水溶液からのAA−2G含水結晶粉末の調製>
実験1では未溶解のAA−2G無水結晶が共存する高純度AA−2Gの過飽和水溶液系から新規なAA−2G含水結晶が得られた。本実験では新規なAA−2G含水結晶の製造条件について、高純度のAA−2G含有水溶液を用いてさらに詳細な検討を行った。
【0040】
AA−2G無水結晶含有粉末(商品名『AA2G』、純度98質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)200gを200mlの精製水に加え、加熱攪拌することにより完全に溶解した。この水溶液を20cm角、深さ5cmのトレーに移し、実験1の方法で得たAA−2G含水結晶粉末を2.0g添加し、攪拌・混合した後、蓋をしない開放系にて室温で3日間放置したところ、結晶が晶出しブロック状の塊となった。ブロックを乳鉢で粉砕した後、室温で真空乾燥したところ約200gの結晶粉末が得られた。本結晶粉末におけるAA−2G純度を実験2−2記載のHPLC法にて測定したところ99.2質量%であり、また、カールフィッシャー法により水分含量を測定したところ、2.8質量%であった。本結晶粉末を実験2−3記載の粉末X線回折法に供したところ、
図2と同様のAA−2G含水結晶の粉末X線回折図が得られ、AA−2G無水結晶に由来する回折ピークは全く認められなかった。この結果は、AA−2G含水結晶を種晶として用いれば、高純度のAA−2G含有水溶液からAA−2G含水結晶粉末が収率よく得られることを物語っている。
【0041】
<実験4:非晶質AA−2G粉末からのAA−2G含水結晶粉末の調製>
実験3で得たAA−2G含水結晶を種晶として用い、非晶質AA−2G粉末のAA−2G含水結晶粉末への変換を試みた。
【0042】
<実験4−1:非晶質AA−2G粉末の調製>
市販のAA−2G無水結晶含有粉末(商品名『AA2G』、純度98質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)200gを2,000mlの精製水に完全に溶解した後、3日間かけて凍結真空乾燥し、次いで、40℃以下で1晩真空乾燥することにより、約200gのAA−2G粉末を調製した。本粉末におけるAA−2G純度を実験2−2記載のHPLC法にて測定したところ98.7質量%であり、また、カールフィッシャー法により水分含量を測定したところ、1.5質量%であった。本粉末を実験2−3記載の粉末X線回折法に供したところ、粉末X線回折図において非晶質粉末に特有なハローがベースラインの膨らみとして認められたものの、AA−2G無水結晶及びAA−2G含水結晶に特有な回折ピークは一切認められなかった。この結果から、本粉末が非晶質AA−2G粉末であることが確認された。
【0043】
<実験4−2:非晶質AA−2G粉末からのAA−2G含水結晶粉末の調製>
実験4−1で得た非晶質AA−2G粉末と、実験3で得たAA−2G含水結晶粉末をそれぞれ、9:1、8:2、7:3、6:4又は5:5の質量比で混合し、乳鉢で均一に磨砕、混合し、各粉末を恒温恒湿機(「TEMP.&HUMID. CHAMBER PR−4K」、エスペック社製)に入れ、25℃、相対湿度90%の条件下で24時間放置した。その後、各粉末を恒温恒湿機から取り出し、実験2−3記載の粉末X線回折法に供し、それぞれの粉末X線回折図を得た。得られた粉末X線回折図をAA−2G含水結晶及びAA−2G無水結晶の粉末X線回折図(
図2及び
図3)とそれぞれ照合することにより、各粉末の結晶形態を判断した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すとおり、非晶質AA−2G粉末とAA−2G含水結晶粉末をそれぞれ、7:3、6:4及び5:5の質量比で混合した粉末は、25℃、相対湿度90%の条件下で24時間保持したところ、完全にAA−2G含水結晶の粉末X線回折図を示す粉末に変換されていた。一方、非晶質AA−2G粉末とAA−2G含水結晶粉末をそれぞれ、9:1及び8:2の質量比で混合し共存させた粉末は、AA−2G無水結晶とAA−2G含水結晶とが混在する粉末X線回折図を示し、AA−2G無水結晶とAA−2G含水結晶が共存する粉末に変換されていた。この結果は、非晶質AA−2G粉末にAA−2G含水結晶粉末を30質量%以上混合し、25℃、相対湿度90%で24時間以上保持することにより、非晶質AA−2G粉末からAA−2G含水結晶粉末を製造できることを示している。
【0046】
<実験5:AA−2G含有溶液からの晶析>
従来のAA−2G無水結晶含有粉末の製造方法に準じてAA−2G含有溶液を調製し、AA−2G含水結晶含有粉末の製造方法を検討した。
【0047】
<実験5−1:AA−2G含有溶液の調製>
馬鈴薯澱粉液化液の固形物7質量部に対しL−アスコルビン酸3質量部を加え、pHを5.5に、固形物濃度を30%(w/v)に調整し基質溶液とした。これに、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)由来CGTase粗酵素液(株式会社林原製)を澱粉固形物1g当り100単位加え、55℃で40時間反応させL−アスコルビン酸への糖転移を行い、AA−2G及び2−O−α−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させた。
【0048】
得られた反応液を加熱しCGTaseを失活させた後、pH4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(天野エンザイム株式会社販売、商品名『グルクザイムAF6』、6,000単位/g)を澱粉固形物1g当り50単位加え55℃で24時間処理し、2−O−α−グリコシル−L−アスコルビン酸をAA−2Gにまで、また、混在する糖質をグルコースにまで分解した。本反応液のAA−2G含量は固形物当たり30.4質量%であった。
【0049】
本反応液を加熱しグルコアミラーゼを失活させた後、活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H
+型)にて脱塩し、次いで、アニオン交換樹脂(OH
−型)にL−アスコルビン酸及びAA−2Gを吸着させ、水洗してグルコースの大部分を除いた。樹脂に吸着したAA−2G及びL−アスコルビン酸を0.5N塩酸溶液で溶出し、さらに、強酸性カチオン交換樹脂(商品名「ダウェックス50WX4」、Ca
2+型、ダウケミカル社製造)を用いるゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供することにより、AA−2G高含有画分を回収した。回収したAA−2G含有溶液の組成は、固形物当たりAA−2G92.0質量%、L−アスコルビン酸0.8質量%、グルコース6.5質量%、その他0.7質量%であった。
【0050】
<実験5−2:分蜜法によるAA−2G含水結晶含有粉末の調製>
実験5−1の方法で得たAA−2G含有溶液を減圧濃縮し、濃度約50%(w/v)の濃縮液とし、これを助晶缶にとり、実験3で得たAA−2G含水結晶粉末を種晶として濃縮液固形物当たり1質量%加えて40℃とし、穏やかに撹拌しつつ5日間かけて晶析し、AA−2G含水結晶を含むマスキットを得た。
【0051】
得られたマスキットを常法によりバスケット型遠心分離機にかけ、析出したAA−2G含水結晶を回収し、少量のエタノール水をスプレーして洗浄した後、熟成、粉砕、乾燥してAA−2G純度99.3質量%のAA−2G含水結晶含有粉末を得た。
【0052】
<実験5−3:ブロック粉砕法によるAA−2G含水結晶含有粉末の調製>
実験5−1の方法で得たAA−2G含有溶液を減圧濃縮し、濃度約60%(w/v)の濃縮液とし、プラスチックトレー(縦80cm、横30cm、高さ30cm)に移し、実験1で得たAA−2G含水結晶粉末を濃縮液固形物当たり2質量%添加し、攪拌・混合した後、蓋をしない状態で45℃にて4日間放置することにより結晶化させ、AA−2G含水結晶のブロックを調製した。ブロックをハンマーで粗砕きした後、ブレンダー(商品名「オスターブレンダー ST−2」、大阪ケミカル株式会社製)にて粉砕した後、室温で真空乾燥し、AA−2G含水結晶含有粉末を得た。なお、得られたAA−2G含水結晶含有粉末におけるAA−2G純度は91.8質量%であった。
【0053】
<実験6:AA−2G含水結晶粉末の打錠性>
本発明のAA−2G含水結晶粉末の打錠性を以下の方法で調べ、従来のAA−2G無水結晶含有粉末と比較した。
【0054】
実験3の方法で得たAA−2G含水結晶粉末(AA−2G純度99.2質量%)を篩にかけ、粒度53乃至106μmの粉末を回収した。得られた粉末を打錠用金型(直径11mm、厚み30mm)に0.4g入れ、卓上型プレス機(島津製作所製、SSP−10A型)にて1トンの荷重を30秒間かけることにより打錠した後、荷重を開放し錠剤を取り出した。この操作を10回繰り返し計10個の錠剤を作製した。対照として、市販のAA−2G無水結晶含有粉末(登録商標『AA2G』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)を用い、上記と同様に粒度53乃至106μmの粉末を調製し、上記と同じ方法により10個の錠剤を作製した。各10個の錠剤についてその形状(割れ、又は、欠けの有無)を観察し、錠剤10個中1個以上に割れや欠けが認められた場合を「打錠性 不合格」(×)、錠剤10個中割れや欠けが全く認められない場合を「打錠性 合格」(○)と判定した。結果を表2に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、対照のAA−2G無水結晶含有粉末では錠剤10個のうち9個に割れや欠けが認められ、打錠性が劣っていた。錠剤調製時に荷重を開放した段階でプレス機のシリンダー(杵)への粉末の付着が屡々認められ欠けの原因となり、また、錠剤をプレス機の金型から取り出した段階で割れが生じた。一方、本発明のAA−2G含水結晶粉末では、錠剤10個全てにおいて割れや欠けは認められず、打錠性に優れることが判明した。AA−2G含水結晶粉末で調製した錠剤についてレオメーター(商品名『レオメーター CR−500DX』、サン科学社製)を用いて硬度を測定したところ約90Nであった。この結果は、本発明のAA−2G含水結晶粉末がAA−2G無水結晶含有粉末よりも打錠性、すなわち賦形性に優れ、硬度の高い錠剤を調製するための基材として有用であることを示している。
【0057】
<実験7:AA−2G含水結晶粉末の保油力>
実験3−2の方法で得たAA−2G含水結晶粉末を用いて結晶粉末の保油力を測定した。対照として、市販のAA−2G無水結晶含有粉末(商品名『AA2G』、純度98質量%以上、株式会社林原生物化学研究所販売)を用いた。
【0058】
結晶粉末の保油力の測定は、特開昭59−31650号公報に開示されている方法に準じて以下のように行った。すなわち、コーン油(試薬、ロット番号 WKL1215、和光純薬工業株式会社販売)5gを50ml容のプラスチック容器に採取し、攪拌しながら実験6と同様に粒度53乃至106μmに調整したAA−2G含水結晶粉末又はAA−2G無水結晶含有粉末を添加してゆく。この混合物は結晶粉末の添加量の少ない内は流動性を保持しているものの、その量が増すにつれて粘稠度が増し、やがて一つの塊となる。さらにその添加量を増すと、固さが増し、やがて一つにまとまらなくなりほぐれはじめる。この点を終点として、終点までに添加した結晶粉末の量に基づき次式により保油力を求めた。結果を表3に示した。
【0059】
【数1】
【0060】
【表3】
【0061】
表3の結果から明らかなように、対照のAA−2G無水結晶含有粉末の保油力が25.2であったのに対し、AA−2G含水結晶粉末の保油力は38.3であり、約1.5倍高かった。この結果は、AA−2G含水結晶粉末はAA−2G無水結晶含有粉末よりも親油性が高く、本発明のAA−2G含水結晶粉末の方が油性物質の粉末化基材として、より有用であることを示している。
【0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。