(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5856972
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】フェニルエステルを含む熱界面材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20160128BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20160128BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20160128BHJP
C09K 5/00 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
C08G59/40
C08K3/00
C08L63/00
C09K5/00
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-538878(P2012-538878)
(86)(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公表番号】特表2013-510926(P2013-510926A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】US2010055924
(87)【国際公開番号】WO2011059942
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年11月8日
(31)【優先権主張番号】61/261,152
(32)【優先日】2009年11月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514056229
【氏名又は名称】ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】フォレー、 デボラ
(72)【発明者】
【氏名】グエン、 マイ ヌー
【審査官】
杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−524286(JP,A)
【文献】
特開平08−120057(JP,A)
【文献】
特開2004−266134(JP,A)
【文献】
特開2007−204750(JP,A)
【文献】
特表2009−540046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08G59/00−59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記のフェニルエステルと、
【化1】
(b)熱伝導性フィラーと
、
(c)エポキシ化ダイマー脂肪酸およびエポキシ化ナットシェルオイルの少なくともいずれか一方と
を含む、熱界面材料。
【請求項2】
前記エポキシ化ダイマー脂肪酸および前記エポキシ化ナットシェルオイルの両者を含む、請求項1に記載の熱界面材料。
【請求項3】
150℃で100時間の焼成後における熱インピーダンスが0.2℃・cm2/ワット以下である、請求項1または2に記載の熱界面材料。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーが、アルミニウム粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項5】
前記エポキシ化ダイマー脂肪酸が、構造:
【化2】
を有する、請求項
1〜4のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項6】
前記エポキシ化ナットシェルオイルが、下記の構造:
【化3】
の一方、または両方を含む、請求項
1〜5のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項7】
前記フェニルエステルが、全組成物の5〜35重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項8】
前記エポキシ化ダイマー脂肪酸が、全組成物の1〜10重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項9】
前記エポキシ化ナットシェルオイルが、全組成物の1〜10重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項10】
前記熱伝導性フィラーが、全組成物の50〜95重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱界面材料。
【請求項11】
半導体チップ、ヒートスプレッダー、およびそれらの間に請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱界面材料を含む、組立品。
【請求項12】
ヒートスプレッダー、ヒートシンク、およびそれらの間に請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱界面材料を含む、組立品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導熱を吸収および放散するヒートシンクに熱発生電子デバイスからの熱を伝導するために利用される、熱伝導性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を含む電子デバイスは、操作中にかなりの量の熱を発生する。発生熱量は半導体の性能と関連しており、高性能ではないデバイスほど発生熱量が小さい。相当なレベルの半導体の性能を達成するために半導体は冷却されなければならないが、その冷却のためにヒートシンクがデバイスに取り付けられている。操作において、使用中に発生する熱は、半導体からヒートシンクへと伝導されるが、そこで害を与えることなく熱が放散される。半導体からヒートシンクへの熱伝導を最大にするために、熱界面材料(TIM)として公知の熱伝導性材料が利用される。TIMは、熱伝導を容易にするために、理想的には、ヒートシンクと半導体とが密接に接触するように設けられる。
【0003】
これまで、半導体の製造業者によって様々なタイプのTIMが使用されているが、それらはすべて利点と欠点を有する。高性能半導体よりも発生する熱量が比較的低い半導体に対しては、好ましい熱の解決策は、伝導性材料としてアルミニウムを含有する熱ゲルを使用することである。これらの材料は、適切な熱伝導性(3〜4W/m・K)をもたらすが、応力下では層間剥離しやすい場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、取り扱い、および塗布が容易な熱界面材料を提供すること、さらに、非常に適切な熱伝導性、および信頼性の高い性能を提供することは有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱を発生する半導体を含むデバイスにおいて、熱界面材料として使用するための組成物である。
【0006】
1つの実施形態では、組成物は、アルミニウム金属粒子およびフェニルエステルを含む。他の実施形態では、組成物はさらに、エポキシ化ダイマー脂肪酸を含む。第3の実施形態では、組成物はさらに、ナットシェルオイルから誘導されるエポキシ樹脂を含む。すべての実施形態において、触媒は任意である。金属粒子は、実質的に鉛が添加されていない。主要な樹脂成分としてフェニルエステルが存在ことによって、組成物はより柔軟になり、クラッキングが防止され、ヒートシンクと半導体との間の接触が高まる。従って、フェニルエステルの存在は熱劣化を阻止するように作用し、結果として、熱インピーダンスを経時的に安定に保つように機能する。
【0007】
エポキシ化ダイマー脂肪酸を使用すると、および、ある実施形態ではナットシェルオイルから誘導されるエポキシ樹脂をさらに使用すると、熱界面材料について、最適な範囲の弾性率が得られる。これらのエポキシ樹脂は、物理的に半田粒子を結び付け、熱界面材料内に保持するゲル状または粘着性の物質を形成し、熱インピーダンスを経時的に安定に保つ。
【0008】
他の実施形態では、本発明は、熱発生部品、ヒートシンクおよび上記の熱界面材料を含む電子デバイスである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、および熱界面材料を有する電子部品の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱界面材料は、熱放散が必要な任意の熱発生部品と共に、特に、半導体デバイス中の熱発生部品のために利用することができる。そのようなデバイスにおいては、熱界面材料は、熱発生部品とヒートシンクとの間に層を形成し、放散される熱をヒートシンクに伝導する。また、熱界面材料は、ヒートスプレッダーを含むデバイスにおいて使用することができる。そのようなデバイスでは、熱界面材料の層は、熱発生部品とヒートスプレッダーとの間に配置され、熱界面材料の第2の層は、ヒートスプレッダーとヒートシンクとの間に配置される。
【0011】
1つの実施形態では、フェニルエステルは、以下からなる群より選択される:
【0013】
フェニルエステルは、組成物の全重量を基準にして、組成物中に5〜35重量%の範囲で存在してよい。
【0014】
エポキシ化ダイマー脂肪酸は、ダイマー脂肪酸とエピクロロヒドリンとの反応生成物である。1つの実施形態では、エポキシ化ダイマー脂肪酸は下記の構造を有し、構造中、Rは、C
34H
68で表される34個の炭素原子鎖である:
【0016】
このエポキシ化ダイマー脂肪酸は、New JerseyにあるCVC Chemicalから市販品が入手可能である。
【0017】
ナットシェルオイルから誘導されるエポキシ樹脂は、下記の構造の一方、または両方を含む:
【0019】
これらの樹脂は、New JerseyにあるCardolite Corporationから市販品が入手可能である。単官能性エポキシ樹脂もしくは2官能性エポキシ樹脂、または任意の比率のブレンドのいずれもが、TIM組成物において同様に有効である。
【0020】
エポキシ官能基の反応に触媒を使用するかは任意であるが、エポキシ官能基を重合または硬化するのに適した、当該技術分野において公知である任意の触媒を使用することができる。適した触媒の例としては、ペルオキシドおよびアミンが挙げられる。触媒が存在する場合、触媒は有効な量で使用され、1つの実施形態では、有効な量は組成物の0.2〜2重量%の範囲である。
【0021】
半田または銀と比較して安価であるので、典型的にはアルミニウム金属粒子が熱界面材料中で使用されるが、銀粒子も存在することができる。具体例としてのアルミニウム金属粉末は、IllinoisにあるToyal Americaから市販品が入手可能である。1つの実施形態では、金属粉末は、約1〜10ミクロンの平均粒径を有する。1つの実施形態では、金属粉末は、全組成物の50〜95重量%の範囲で組成物中に存在してよい。
【0022】
図1に示された1つの実施形態では、電子部品10は、2つの熱界面材料の層を利用しており、接続部14によってシリコンダイ12に取り付けられている基体11を含む。シリコンダイは熱を発生し、その熱はダイの少なくとも1つの面と隣接する熱界面材料15を通って伝導する。ヒートスプレッダー16は、熱界面材料に隣接して配置され、第1の熱界面材料層を通過する熱の一部を放散するように作用する。ヒートシンク17は、すべての伝導熱エネルギーを放散するように、ヒートスプレッダーに隣接して配置される。熱界面材料は、ヒートスプレッダーとヒートシンクとの間に配置される。熱界面材料18は、通常、熱界面材料15より厚い。
【実施例】
【0023】
組成物は、以下の表に示す重量%で各成分を含むように調製した。本発明の試料を、A、B、C、およびDとする。比較試料を、E、F、およびGとする。それらはすべて、ポリマー樹脂とアルミニウム粉末との液体反応性混合物からなる。
【0024】
シリコンダイと銅板との間に配置したTIM組成物内の抵抗を測定することによって、TIM組成物の熱伝導性について試験した。シリコンダイを加熱し、電圧・電流計の組合せを使用して、入熱を測定した。熱はTIMを通って銅ヒートシンクへ移動し、ヒートシンク上の温度を熱電対によって読み取った。これらの値から抵抗を計算した。
【0025】
結果を表に示す。フェニルエステルを含有する本発明の組成物は、比較組成物と比べて、特に焼成および熱サイクルの信頼性試験の後に、安定でより低い熱インピーダンスを示した。熱放散では低い熱インピーダンスが要求され、また、熱インピーダンスが経時的に安定していることも重要であり、それによって、組成物が使用される最終的なデバイスのより長い寿命が確実に得られる。
【0026】
さらに、これらの結果は、フェニルエステルを含有する本発明の組成物は、弾性率がより低く、高い温度に曝した後でも弾性率が増加しなかったことを示す。組成物が柔軟でフレキシブルであるためには、弾性率が低いことが必要であり、それによって良好な熱伝導性が得られる。これは比較組成物とは対照的であり、比較組成物はすべて、高温での焼成の後、弾性率が顕著に増加した。これらの比較組成物は熱劣化が激しく、硬く、脆くなり、最終的には、基体とTIMの界面層間剥離が生じることになる。
【0027】
【表1】