(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
出血が健常被検体及び出血性素因を有する被験体の群から選択される被検体で治療され、前記出血性素因が先天性凝固障害、後天性凝固障害、血小板障害及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の使用のためのTF担持微小胞。
出血が健常被検体及び出血性素因を有する被験体の群から選択される被検体で治療され、前記出血性素因が先天性凝固障害、後天性凝固障害、血小板障害及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の使用のための薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】TT−173抽出物によるrTFの発現。4つの独立したタンジェンシャルフロー・フィルトレーションから精製したTT−173(MFR 0.1)からの抽出物のウェスタンブロット解析。ブロットはヒト精製マウス抗体と反応させた(BD Biosciences Pharmingen)。kDaで分子量マーカーは、図の左側に示されている。
【
図2】PS.A.とのインキュベーション後のTT−173のプロコアグラント活性。TT−173生物活性におけるPSの効果をテストするために、PS(0.1mM)をTT−173(1mL)に添加し、混合溶液を実験中R/Tに維持した。図に示された異なる時点において、混合物の1アリコート(10μL)を正常な血小板乏血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。塩化カルシウム(100mM)の20μlを直ちに添加し、凝固時間(秒単位)は凝固計(Stago)を用いて決定した。実験は300秒後に停止した(5ドナーからの血漿をプールした)。B.Aに記載され得られた結果はまた単位/mLとして表された。1ユニットは、標準的な凝固計アッセイ(130μlの血漿、20μlの塩化カルシウム(100mM)及び10μlの産物)において、30秒以内に正常なプール血漿を凝固させるために必要なのTT−173の量として定義される。
【
図3】PSの異なる濃度によるインキュベーション後のTT−173又は脂質付加rTFのプロコアグラント活性。TT−173又は再脂肪付加rTFの生物活性の何れかにおけるPSの効果を試験するために、PSは(図で示された濃度で)TT−173(1mL)又は再脂肪付加rTFのいずれかに添加された。両方の混合溶液を2時間、R/Tで維持した。この時間の後、各混合物の1アリコート(10μl)を正常乏血小板血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)は凝固計(Stago)を用いて決定した。実験は300秒後に停止した(5ドナーからの血漿をプールした)。得られた結果は、単位/mLとして表される。
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図4】適切なリン脂質小胞に埋め込まれている場合のrTFのプロコアグラント活性。Mimms et al. (Biochemistry 20, 833. 1981)に記載の標準的方法に従い、商業的に精製されたrTFは、ホスファチジルコリン/ホスファチジルセリン(PC/PS)を含む小胞に再脂質付加された。簡潔には、100ngのrTF(American Diagnostica Inc.Stanford,CT,USA)が、PC/PS(Sigma Aldrich Inc,Saint Louis,MO,USA)と指定されたPC:PSの割合(100:0,95:5,90:10,80:20,70:30)(2.6mMの最終濃度)で、及び界面活性剤(n−オクチル−D−ガラクトピラノシド(galactopiranoside)、40mMの最終濃度)とインキュベートされた。混合物を均質化し、かつ広範囲に(48時間で緩衝液の複数回の交換し)透析した。この手順により、界面活性剤はゆっくりと除去され、rTFを含む脂質ミセルが自発的に生産される。この再脂肪付加の手順後、rTF含有ミセルは、そのプロコアグラント活性について試験した(青の棒グラフ)。並行して、異なるrTF含有ミセルを、0.1mMの最終濃度で、PSで2時間インキュベートした。この時間の経過後、余分なPSを含むミセルはまたプロコアグラント活性について試験した。凝固分析は以下のように行った:PC/PS小胞の量を含む再脂肪付加rTFのアリコート(10μl)を、正常乏血小板血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)は凝固計(Diagnostica Stago,Inc.NJ,USA).を用いて決定した。
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図5】異なるrTF含有小胞に対するPSの添加効果。i)PC:PS濃度比が80:20での再脂肪付加rTF、ii)PC:PS濃度比が70:30での再脂肪付加rTF、又はiii)TFを発現する組換え酵母から単離されたTT−173小胞の何れかからの2アリコート(各々2mL)は4℃で調製された。0.1mMの濃度のPSが、rTF含有小胞の各々のアリコートの一つに添加され、2時間、R/Tでインキュベートした。この時間の最中、他のアリコートは4℃に保たれた。その後、各rTF含有小胞からの両方のアリコートが、図の説明1に記載のように、プロコアグラント活性について試験された。
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図6】PS及び異なる濃度のTT−100によるインキュベーション後の再脂肪付加rTFのプロコアグラント活性。PS(0.1mM)及び異なる濃度のTT−100(0、0.03、0.1、0.3、及び0.36mg/ml)で2時間インキュベートした再脂肪付加rTF(0.3μ/ml)を、正常乏血小板血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、20μlの塩化カルシウム(100mM)が添加され、凝固計を用いて、凝固時間(秒単位)を測定した。
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図7】FVIIaのアミド分解活性。TF:FVIIa触媒複合体の酵素活性を定量化するため、標準的な発色アッセイを基質S−2238を用いて行った。TF:FVIIa活性は、基質S−2238とプロセシング p−ニトロアニリン(nitroanilina)(PNA)の得られた生成物との間の吸光度の差(光学密度)によって測定される。pNA形成の速度は酵素活性に比例し、それは光度計を用いて都合良く決定される。この実験において、PSを含むか又は含まない、異なる濃度のTT−173が、FVIIaと相互作用し、S−2238の存在下検出可能なpNAを生産するその能力について試験された。
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図8】全血におけるTT−173凝固活性及びPSの効果。健康な血漿試料及び全血試料を凝固させるPSを含むか又は含まない(0.1mM)、TT−173の能力が試験された。TT173及びPS(最終濃度0.1mM)で2時間インキュベートしたTT173のアリコート(10μl)を、正常乏血小板血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)を凝固計を用いて決定した。(5ドナーからの血漿のプール)図に示されたrTFの量を含有するTT−173又はTT−173+PS(0.1mM)のアリコート(200μl)が、健康なドナーから直近に抽出された血液のアリコート(800μl)に添加された。安定的かつ十分強固な凝血塊が現れるまで、凝固時間を、血液抽出の最初からクロノメーターを用いて測定した。N=3。
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図10】凝固因子VIII、IX又はXIが欠損している血漿におけるTT−173凝固活性。(A)TT173又はTT173+PS(0.1mM)のアリコート(10μl)を、正常乏血小板血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加し、直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlが添加され、凝固時間(秒単位)を凝固計を用いて測定した。(5ドナーからの血漿のプール)(B)Aに記載されたのと同様のアリコート(10μl)を、因子VIII、因子IX又は因子XI枯渇血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)を凝固計を用いて決定した。(N=3)。
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図11】凝固因子V又はVIIが欠損している血漿におけるTT−173凝固活性。TT173又はTT173+PS(0.1mM)のアリコート(10μl)を、因子V又は因子VII枯渇血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)を凝固計を用いて決定した。(N=3)。
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図12】ワルファリン処理血漿中のTT−173凝固活性。TT173又はTT173+PS(0.1mM)のアリコート(10μl)を、因子V又は因子VII枯渇血漿の130μlを含む温めたキュベットに添加した。直後に、塩化カルシウム(100mM)の20μlを添加し、凝固時間(秒単位)を凝固計を用いて決定した。(N=3)。
【
図13】プロコアグラント活性におけるTT−173の再構成の効果。プロコアグラント活性におけるTT−173の再構成の影響添加されたPSを有する及び有しないTT−173小胞が、透析可能な界面活性剤で処理することにより破砕され、次いで透析によってインビトロで再構成された場合、初期活性の約50%が失われた(パネルA)。しかし、同様の実験が再脂肪付加されたrTF小胞を用いて行われた場合、感知できるほどの差は透析の前後に観察されなかった(パネルB)。
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図14】異なるrTF含有小胞に対するPSの添加効果。i)PC:PS濃度比が80:20での再脂肪付加rTF、ii)PC:PS濃度比が70:30での再脂肪付加rTF、iii)TFを発現する組換え酵母から単離されたTT−173小胞、又はiiii)組換えバキュロウイルス発現で感染させた昆虫細胞から単離されたTT−173小胞の何れかからの2アリコート(各々2mL)が4℃で調製された。0.1mMの濃度のPSがrTF含有小胞の各々のアリコートの一つに添加され、R/Tで2時間インキュベートした。この時間の最中、他のアリコートは4℃に保たれた。その後、各rTF含有小胞からの両方のアリコートが、図の説明1に記載のように、プロコアグラント活性について試験された。
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図15】PSの添加はTT−173小胞に安定性を与える。TT−173の3つの独立したロットからの各々10mLの4つのアリコートが本研究で用いられた。各ロットからの2アリコートを、PS(0.1mM)とともにR/Tで2時間インキュベートし、残りのアリコートは4℃に保たれた。この時間後、12のTT−173試料の各々からの10μLが、図の説明1に記載の手順に従って、凝固活性の決定に用いられた(時刻0)。直後に、アリコートの半分(TT−173ーPSの3、及びTT−173+PSの3、それらの各々が3つロットの一に対応する)が、安定性実験の残り(rest)の間4℃に維持され、残り(TT−173ーPSの3、及びTT−173+PSの3)は20℃に保たれた。図において指定された時間に、各アリコートの10μLが、4℃(A)又は20℃(B)に保たれたアリコートの何れかにおいて凝固活性を決定するために使用された。結果は、標準偏差と共にプロットしている。4℃(C)及び20℃(D)における異なるバッチの間の安定性最小値の平均もまた示されている。
【
図16】FVII、FVIIa、FX、及びFXaの添加は、TT−173のプロコアグラント作用を増幅する。異なる濃度のFVII(20nM及び60nM),FVIIa(20nM及び60nM),FX(1000nM及び3000nM)及びFXa(1000nM)が、TT−173+PSの0.1(mM)に添加された。TT−173+PS 0.1(mM)/FVII混合物、TT−173+PS 0.1(mM)/FVIIa混合物、TT−173+PS 0.1(mM)/FX混合物及びTT−173+PS 0.1(mM)/FXa混合物のアリコートが、血漿中のTFの最終濃度が45ng/mlにおいて、標準的な凝固アッセイにおける凝固活性のチェックのために用いられた。示されるように、FVII,FVIIa及びFXの添加は、凝固時間をおよそ2秒減少させ、FXaの添加は、凝固時間をおよそ7秒減少させる。
【0023】
本発明の詳細な説明
本発明者らは、酵母細胞に由来し、すでにPSを含むTF担持微小胞へ、界面活性剤の欠損下で、余分なホスファチジルセリン(PS)を添加すると、驚くべきことに、前記小胞のプロコアグラント特性の改善、並びに前記小胞の安定性の増大をもたらすことを見いだしている。プロコアグラント特性の増加は、例えば、本発明の実施例2と3において示された実験で観察することができ、TFを含む酵母由来小胞へのホスファチジルセリンの添加は、リン脂質と接触していない小胞に関して、プロコアグラント特性の増加(凝固時間の減少)を示す小胞をもたらす(例えば
図2及び表2を参照)。いずれの理論に束縛されることを望むことなく、PSがTF担持微小胞と相互作用し、プロトロンビナーゼとXaseの両方の複合体の両方の形成に関与する血漿因子をリクルートする、小胞の能力の増加をもたらし、順に、トロンビンの産生の増加につながると信じられている。小胞の安定性の増加は、例えば、本発明の実施例4に示されており、そこではPSで前処置された小胞は20℃及び4℃の両方で安定性の増加を示す。
【0024】
本発明の第一の方法
第一の態様において、本発明は、プロコアグラント活性を有するTF担持微小胞を調製するための方法(以後は本発明の第一の方法)に関し、
(i)真核細胞内でTF又はプロコアグラント活性を有するその変異体を発現させ、
(ii)工程(i)の細胞からTF担持微小胞を回収し、
(iii)前記リン脂質の前記微小胞への取込みに適した条件下で、負に荷電したリン脂質(NCP)と工程(ii)で得られた微小胞を接触させること
を含む。
【0025】
本明細書で使用されるように、「TF担持微小胞」は、前記脂質微小胞に組み込まれたTFを含み、真核細胞に由来する任意の脂質微小胞を言う。脂質微小胞は、実質的に脂質の単層又は二重層で構成されている小型の閉鎖区画を指す。本発明のTF担持微小胞の大きさは比較的広い範囲内で変えることができ、通常、その大きさは10μm以下であり、典型的には0.5μm以下である。特定の実施態様において、本発明のTF担持酵母由来微小胞の大きさは、10から0.01μmの範囲である。
【0026】
微小胞は、真核細胞に由来する、脂質膜、又はそれらの断片によって形成される。膜は、一般的に、数分子の組織化層(脂質やタンパク質)部分を指し、細胞の境界(すなわち、細胞又は形質膜)又は細胞内小器官の境界を形成する。一般に、膜はタンパク質が埋め込まれうる2つの配向脂質層(すなわち、脂質二重層)で構成されている。細胞の膜の基本構造である脂質二重層は、通常、水性環境における両親媒性分子(例えば、リン脂質、脂肪酸など)によって形成されており、各分子は、親水性基を層の外側に、疎水性基をそ層の内側にして配向している。
【0027】
第一の工程において、本発明の第一の方法は、真核細胞においてTF又はプロコアグラント活性を有するその変異体の発現を含む。
【0028】
「真核細胞」は、本発明において、核など、膜に囲まれた複雑な構造体を含有する任意の細胞と称される。本発明の第一の方法に用いられる真核細胞の例は、真菌細胞、酵母細胞、植物細胞、動物細胞(哺乳動物細胞、魚類細胞、爬虫類細胞、昆虫細胞等)である。
【0029】
本明細で使用されるように、用語「酵母細胞」は、有子嚢胞子酵母(Endomycetales)、担子菌酵母、及び不完全菌類(Blastomycetes)に属する酵母を含む。酵母の分類は将来変わる可能性があるので、本発明の目的のために、酵母は、Skinner, F. et al, (Biology and Activities of Yeast, Soc. App. Bacteriol. Symp. Series No. 9).により記載されるように定義する。適切な酵母株は、限定されないが、トルラの任意の属、パン酵母、ビール酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、シゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属などサッカロマイセス属、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などピキア(Pichia)属、カンジダ属、Hansenula polymorphaなどのハンゼヌラ(Hansenula)属、及び、クリベロマイセス・ラクティス(Klyuveromyces lactis)などのクリベロマイセス(Klyuveromyces)属、並びに、上記酵母種由来の異なる株、例えば、サッカロマイセス・セレビシエのT73株を含む。また、これらの種の任意の混合物もまた用いることができる。
【0030】
本明細に使用されるように、用語「植物細胞」は、植物由来細胞を含み、限定されないが、藻類、単子葉植物、双子葉植物、そして、具体的には、穀物(例えば、トウモロコシ、米、オート麦など)、マメ科植物(例えば、大豆など)、アブラナ科(例えば、シロイヌナズナ、セイヨウアブラナなど)又はナス科(例えば、ジャガイモ、トマト、タバコなど)を含む。植物細胞は、浮遊培養、胚、成長点領域、カルス組織、葉、根、茎、配偶体、胞子、花粉、種子及び胞子を含む。当業者が理解するであろうように、植物細胞は植物の一部分又は全植物であってよく、従って、「植物宿主系」と称される。「植物宿主系」又は単離された植物細胞は成熟の様々な段階であり得る。植物宿主系はまた、性的又は無性的に生成された、そのような植物の任意のクローン、種子、自己又は雑種子孫、栄養繁殖体、及びこれらの任意の子孫、例えば挿し木や種子などを指す。
【0031】
本明細で使用されるように、用語「動物細胞」は、動物からの任意の細胞を含む。動物細胞は、哺乳動物細胞、魚細胞、爬虫類、昆虫細胞などが含まれる。動物細胞は動物の任意の組織(初代培養細胞)に由来することができ、又は不死化細胞であり得る。不死化細胞は、腫瘍組織から得ることができ、又は当業者に公知の技術、例えば、ウイルス感染(例えば欧州特許第1212420号)又は不死化細胞株と正常細胞の融合などを用いて不死化することができる。
【0032】
昆虫細胞は、限定されないが、Sf9細胞、Sf21細胞、SF+細胞、ハイファイブ細胞、又は昆虫の幼虫の細胞を含む。
【0033】
細胞を得ることができる哺乳類は、ラット、マウス、サル、ヒト等を含む。本発明に好適な哺乳動物細胞は、上皮細胞、骨肉腫細胞株、神経芽腫の細胞株、上皮癌、神経膠細胞、肝細胞株、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、COS細胞、BHK細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、293細胞又はPER.C6細胞、ヒトのECC NTERA−2細胞、mESC株のD3細胞、ヒト胚性幹細胞、例えば、HS293及びBGV01、SHEF1、SHEF2及びHS181、NIH3T3細胞、293T細胞、REH細胞、及びMCF−7細胞及びhMSC細胞を含む。
【0034】
「組織因子」又は「TF」はまた、本明細で使用されるように、「トロンボプラスチン」、「血小板組織因子」、「CD142」又は「凝固因子III」としても知られており、広く動物界に分布している内在性膜糖タンパク質を指し、それは内皮下組織、血小板、白血球に現れ、チモーゲンプロトロンビンからのトロンビン形成の開始のために必要である。本発明での使用に適したTFポリペプチドは、ヒトを含めた動物種の天然型又は野生型(wt)TFを含む。本発明で用いることができる典型的なTFタンパク質は、ヒトTF(UniProtKB受入番号PI3726)、マウスTF(UniProtKB受入番号P20352)、ラットTF(UniProtKB受入番号P42533)、ブタTF(NCBI Prot受入番号NP998950)、ウシTF(NCBI Prot受入番号AAB20755)、イヌTF(NCBI Prot受入番号BAD98568)、モルモットTF(NCBI Prot受入番号AAF36523)、及び異なる生物のTFタンパク質を含む。
【0035】
天然型TFは、いくつかのグリコシル化部位を含んでいるため、グリコシル化の程度の違いを示すTF変異体は、N−グリコシル化反応を行うことができる宿主にTFを発現させることにより得ることができる。成熟したTFは、Asn11(配列Asn11−Leu12−Thr13)、Asn124(配列Asn124−Val125−Thr126)、及びAsn137(配列Asn137−Asn138−Thr139)に位置するコンセンサス配列Asn−Xaa−Ser/Thrを有し、3つの潜在的なN−結合グリコシル化を含む。従って、本発明における使用のためのTF分子は、一以上のNグリコシル化部位において、様々な程度のN−結合型グリコシル化を有するTF変異体を含む。酵母では、グリコシル化は、典型的には、2つのGlcNAc残基を介してアスパラギンに連結した約10個のマンノース残基の内部コアを含み、50ー100個のマンノース残基の分岐外鎖を含む。従って、N−結合型グリコシル化は、潜在的には、300ものマンノース残基をTFに付加することができ、分子量を約60kDa増加させる。更に、幾つかのマンノース残基を種々の(25以上)O−結合型グリコシル化部位に結合させる可能性もある。特定の実施態様において、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、グリコシル化されたTFタンパク質を含む。本明細に使用されるように、用語「グリコシル化」は、様々なグリコシル化を含む。
【0036】
用語「プロコアグラント活性を有するTFの変異体」は、実質的にTFと同じ生物学的活性を示す化合物を指し、一以上のアミノ酸残基の挿入、欠失、又は置換から生じる。所定のポリペプチドが、TFの機能的に同等な変異体であるかどうかを評価するために使用することができる適切な機能アッセイは、特異的にFVIIaに結合するTF変異体の能力の決定に基づいたアッセイ、又は、重度出血動物モデルにおけるインビボアッセイによるか、又は致命的な出血動物モデルにおけるインビボアッセイにより、血漿又は全血における凝固時間のインビトロにおける決定に基づいたアッセイである。これらのアッセイを実施するための手順は、従来技術に記載されており、本発明(「方法」の項)の例、並びに、国際公開第2008080989号にまとめられている。
【0037】
本発明に係る変異体は、上記の天然型TFに対して、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%又は96%類似か又は同一であるアミノ酸配列を含む。当該分野で知られるように、2つのタンパク質間の「類似性」は、アミノ酸配列、及び第二のタンパク質の配列に対する一方のタンパク質の保存されたアミノ酸の置換を比較することにより決定される。2つのタンパク質の間の同一性の程度は、広く当業者のために知られているコンピュータアルゴリズム及び方法を使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくはBLASTPアルゴリズムを使用して決定される[BLASTManual, Altschul, S., et al, NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894, Altschul, S., et al, J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)]。
【0038】
TFタンパク質は、詳細に明らかにされたドメイン構造を有し、(1)タンパク質が未成熟形態から成熟形態へとプロセスされた場合、翻訳後にプロセスされる32アミノ酸のリーダー配列を持つシグナルペプチド又は領域、(2)約219末端アミノ酸を含むN−グリコシル化親水性細胞外ドメイン、(3)膜貫通領域のアミノ酸を形成すると考えられる主に疎水性の約23個アミノ酸の断片、及び(4)タンパク質の細胞質断片の一部を形成しているアミノ酸であると考えられている21アミノ酸カルボキシル末端を含む。hTFタンパク質のドメイン構造は、例えば、タンパク質又はその機能性断片の細胞外ドメインの生成を可能にする。
【0039】
特定の実施態様において、プロコアグラント活性を有するTFの断片は、成熟TFタンパク質を含む。本明細で使用されるように、用語「成熟TF」はアミノ酸配列がシグナルペプチドを欠くTFタンパク質を指す。好ましい実施態様において、前記成熟TFタンパク質はヒト成熟TFタンパク質を含む。更に、特定の実施態様において、前記ヒト成熟TFタンパク質は、アミノ酸配列1に示したアミノ酸配列を有する。
【0040】
プロコアグラント活性を有するTFタンパク質の断片は、グリコシル化されているか、部分的にグリコシル化されているか、又はグリコシル化されていない場合がある。従って、特定の実施態様において、本発明のTF担持脂質微小胞は、プロコアグラント活性を有するTFタンパク質の非グリコシル化断片を含むが、別の特定の実施態様においては、本発明の前記TF担持酵母由来の微小胞は、プロコアグラント活性を有するTFタンパク質のグリコシル化断片を含む。上述のように、用語「グリコシル化」は、様々なグリコシル化を含む。好ましい実施態様において、TF又はプロコアグラント活性を有するその機能性変異体は、少なくとも一の非機能性Nグリコシル化部位を含む。
【0041】
好ましい実施態様において、Nグリコシル化部位は、成熟ヒトTFにおけるNグリコシル化部位である、位置11−13のNLTに対応するもの、位置124−126のNVTに対応するもの、又は位置137−139のNNTに対応するものである。より好ましい実施態様において、TFは、一以上のAsn残基の、Nグリコシル化のアクセプターではない残基への置換を保有する。更に好ましい実施態様において、TF変異体は、成熟ヒトTFにおける位置11、124、又は137に対応する位置のAsn残基において、AsnからAlaへの一以上の変異を含む。
【0042】
グリコシル化は、TF担持脂質小胞の生産に使用される発現系によって異なる。従って、本発明は、少なくとも一つの植物特有のグリカン、酵母特有のグリカン又は動物の固有のグリカンを含む組換え哺乳動物組織因子タンパク質を提供する。
【0043】
更に、TFタンパク質の場合のように、この発明を実施するために使用されるTFタンパク質、プロコアグラント活性を有するTFタンパク質の断片は、融合タンパク質の一員であり得、前記融合タンパク質は、別のペプチド又はタンパク質を含む第二の領域に結合する、プロコアグラント活性を有する前記そのTFタンパク質の断片を含む第一の領域を含む。前記第二の領域は前記TFタンパク質断片のアミノ末端領域に結合し得、又は代わりに、前記第二の領域は前記TFタンパク質断片のカルボキシル末端領域に結合し得る。第一領域及び第二領域の両方は、直接結合し得るか、又は前記第一領域及び第二領域の間のリンカーポリペプチドを介して結合し得る。
【0044】
特定の実施態様において、前記融合タンパク質は、プロコアグラント活性を有するTFタンパク質の断片、及び前記TFタンパク質断片のC末端又はN末端ドメインに結合したタグを含む。前記タグは一般にペプチド又はアミノ酸配列であり、前記融合タンパク質の単離又は精製に使用することができる。この融合タンパク質の産生に適したタグの説明に役立つ実例、非限定的な実例は、第一の領域がTFタンパク質である融合タンパク質に関連して以前記述されたものを含む。特定の実施態様において、前記タグは、前記TFタンパク質のC末端ドメイン又はプロコアグラント活性を有するその断片に結合したHisタグである。その他の実施態様において、前記タグは、前記TFタンパク質のN末端ドメイン又はプロコアグラント活性を有するその断片に結合したHisタグである。特定の実施態様において、融合タンパク質は成熟TFタンパク質、好ましくはヒト成熟TFタンパク質を含む。この融合タンパク質はまたプロコアグラント活性を有し、そのプロコアグラント活性は、以前に述べたように、例えば、実施例2で述べた凝固アッセイの何れかによりアッセイすることができる。
【0045】
更に、融合タンパク質の一部を形成するTFタンパク質が与えられ、前記融合タンパク質は別のペプチド又はタンパク質を含む第二の領域に連結したTFタンパク質を含む第一の領域を含む。前記第二の領域は前記TFタンパク質のアミノ末端領域に結合し得、又は代わりに、前記第二の領域は前記TFタンパク質のカルボキシル末端領域に結合し得る。第一領域及び第二領域の両方は、お互いに直接結合し得るか、又は前記第一領域及び第二領域の間のリンカーポリペプチドを介して結合し得る。
【0046】
特定の実施態様において、前記融合タンパク質は、TFタンパク質、及びタグ、通常は前記TFタンパク質断片のC末端又はN末端ドメインに結合したペプチドタグを含む。前記タグは一般にペプチド又はアミノ酸配列であり、前記融合タンパク質の単離又は精製に使用することができる。従って、前記タグは、一以上のリガンド、例えば、クロマトグラフィー支持体又は高親和性のビーズなどの親和性マトリクスの一以上のリガンドに結合することができる。前記タグの例は、ヒスチジンタグ(Hisタグ又はHT)、例えばヒスチジンの6残基(His6又はH6)を含むタグであり、ニッケル(Ni2+)又はコバルト(Co2+)のカラムに高親和性で結合することができる。実施例1(
図4)で示されたHisタグは、大半のタンパク質を変性させ、大半のタンパク質ータンパク質相互作用に破壊的である条件下で、そのリガンドに結合することができる望ましい特徴を有する。従って、それは、ベイトが関与しているタンパク質ータンパク質相互作用の破壊後に、H6でタグ付けされたベイトタンパク質を除去するために使用することができる。
【0047】
融合タンパク質の単離又は精製に有用なタグの説明に役立つ実例、非限定的な実例は、Argタグ、FlAGタグ、Strepタグ、抗体に認識され得るエピトープ、例えばcーmycタグ(抗cーmycタグにより認識される)、SBPタグ、S−タグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS−トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Aviタグなど (Terpe K., Appl. Microbiol. Biotechnol. (2003), 60:523-525)、アミノ酸配列、例えば、Ala−His−Gly−His−Arg−Pro(配列番号2);Pro−Ile−His−Asp−His−Asp−His−Pro−His−Leu−Val−Ile−His−Ser(配列番号3);Gly−Met−Thr−Cys−X−X−Cys(配列番号4);β−ガラクトシダーゼなどを含む。
【0048】
特定の実施態様において、前記タグは、前記TFタンパク質のC末端ドメインに結合したHisタグである。その他の実施態様において、前記タグは、前記TFタンパク質のN末端ドメインに結合したHisタグである。
【0049】
特定の実施態様において、融合タンパク質は、シグナル配列を欠くヒトTF、又は、プロコアグラント活性を有し、グリコシル化部位にN124A変異及びC末端にヘキサヒスチジンタグを有し配列番号5で与えられるその変異体を含む。
【0050】
前記融合タンパク質は従来の方法、例えば、前記融合タンパク質をコードする核酸配列を適切な酵母細胞において遺伝子発現させる方法により、得ることができる。必要に応じて、最終的なタグは、前記融合タンパク質の単離または精製のために、使用することができる。
【0051】
その他の特定の実施態様において、本発明の第一の方法の第一の工程は、プロコアグラント活性を有するTFの断片の真核細胞における発現を含む。
【0052】
本発明によれば、前記TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片の部分は、前記脂質膜に組込まれている。通常は、前記部分は前記タンパク質又は断片の親油性領域(即ち、TFの中央ドメイン)を含むが、その親水性領域(即ち、前記TFタンパク質のアミノ末端領域及びカルボキシル末端領域)は、膜の外質(exoplasmic)側又は内質(endoplasmic)側に面している。TFタンパク質の親油性領域及び親水性領域に関する情報は、国際公開第2008080989号から得ることができる。特定の実施態様において、TFタンパク質のN末端ドメイン又はプロコアグラント活性を有するその断片は、前記膜の外質側に面しているが、その他の特定の実施態様において、前記TFタンパク質のN末端ドメイン又はプロコアグラント活性を有するその断片は前記膜の内質側に面している。
【0053】
TF又はその変異体の発現方法は、用いた真核細胞に依存する。一般には、真核細胞は、本発明に使用することができる任意の細胞:真菌、酵母、植物又は動物(魚類、爬虫類、哺乳類、昆虫など)細胞において、機能性プロモーターに動作可能に連結し、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質転換される。
【0054】
TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するTF又はその断片をコードするcDNAは、テンプレートとしてのcDNAライブラリー、及び適切なプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅することができる。実施例1は18の外部ヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)をその3’終端に持つ成熟hTFタンパク質をコードするcDNAの増幅を開示する。
【0055】
本発明に使用されるように、「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。本発明に使用されるように、用語「酵母発現ベクター」は、DNA発現コンストラクト、例えば、酵母中でベクターにより運ばれ、それらの各組換え遺伝子によりコードされた目的タンパク質(即ち、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片)を合成することができる核酸セグメント、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス又はウイルス粒子を指す。あるいは、核酸セグメントは、遺伝子又は目的の遺伝子が安定して酵母ゲノムに組み込まれ、無指向性又は相同組換えを利用し、トランスジェニック酵母細胞を作成するために使用され得る。通常は、酵母発現ベクターは、酵母細胞で機能性であるプロモーター(即ち、酵母の機能性プロモーター)に動作可能に連結し、TF又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードする核酸配列を含む。本発明で使用するためのベクターは、例えば、酵母細胞においてそれらが連結されている核酸の自律複製及び/又は発現が可能なベクターである。本明細書において、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるため、用語「プラスミド」及び「ベクター」は、同義的に使用される。更に、本発明は、本明細書において、同等の機能を果たし、その後、当該技術分野で知られるようになっている発現ベクターの他の形態を含むことを意図している。前記酵母発現ベクターは、酵母エピソーム発現ベクター又は酵母組込み発現ベクターであってもよく、それらは当業者に知られている従来の技術によって得ることができる。
【0056】
従って、一実施態様において、前記酵母発現ベクターは、酵母エピソーム発現ベクターである。本発明に使用されるように、用語「酵母エピソーム発現ベクター」は、酵母の細胞質内に染色体外DNA分子として維持される発現ベクターを指す。特定の実施態様において、酵母の機能性プロモーターに動作可能に連結した、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードするヌクレオチド配列に加えて、前記酵母エピソーム発現ベクターは、(i)酵母選択遺伝子、(ii)酵母の複製起点、(iii)細菌選択遺伝子、及び(iv)酵母転写終結シグナルを更に含む。有利なことに、前記酵母エピソーム発現ベクターは、酵母転写終結シグナルが後に続く、酵母の機能性プロモーターの制御下において、選択された遺伝子(TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片)をクローニングするためのユニークな制限部位を更に含む。
【0057】
実質的に、クローニングにおける、任意の酵母機能的プロモーター、酵母選択遺伝子、酵母の複製起点、細菌選択遺伝子、酵母転写終結シグナル、及び制限部位が、前記酵母のエピソーム発現ベクターの作成において使用することができるが、にもかかわらず、特定の実施態様において、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(pGPD)が、酵母機能的プロモーターとして使用され、別の特定の実施態様では、URA3遺伝子(URA3)が酵母選択遺伝子として使用され、別の特定の実施態様では、酵母2ミクロン(2μ)複製起点が、酵母の複製開始点として使用され、別の特定の実施態様では、アンピシリン耐性遺伝子(Amp)が、細菌選択遺伝子として使用され、そして、別の特定の実施態様では、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGKt)の転写終結シグナルが、特異的酵母転写終結シグナルとして使用される。従って、特定の実施態様では(例1−2)、酵母エピソーム発現ベクターは、(i)URA3遺伝子、(ii)大腸菌においてベクターを選択及び伝播するためのAmp遺伝子、(iii)酵母2μ複製起点、(iv)pGPD、(v)PGKtの特異的酵母転写終結シグナル、及び(vi)pGPDの制御下で、PGKt配列が後に続く、選択された遺伝子のクローニングを可能にする固有のBamHI制限部位、を含む。一実施態様において、前記酵母発現ベクターは、酵母組み込み発現ベクターである。本発明に使用されるように、用語「酵母組込み発現ベクター」は、酵母ゲノムに組込むことが可能であるベクターを指す。特定の実施態様において、前記酵母組込み発現ベクターは、(i)細菌選択遺伝子、及び(ii)酵母選択遺伝子に挿入された発現カセットを含み、前記発現カセットは、酵母機能性プロモーター、酵母転写終結シグナル及び選択された遺伝子(TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片)をクローニングするための固有の制限部位を更に含む。
【0058】
実質的に、任意の細菌選択遺伝子は、酵母選択遺伝子に挿入された発現カセット、酵母機能的プロモーター、酵母転写終結シグナル、及び選択された遺伝子のクローニングのための固有の制限部位が、前記酵母組み込み発現ベクターの作成に用いることができるが、にも関わらず、特定の実施態様において、アンピシリン耐性遺伝子(Amp)が、細菌選択遺伝子として使用され、その他の特定の実施態様において、URA3遺伝子の中心領域に挿入された発現カセットpGPD−BamHI−PGKtが、酵母機能的プロモーター(pGDP)、酵母転写終結シグナル(PGKt)、及びURA3遺伝子の中心領域で選択された遺伝子のクローニングのための固有の制限部位(BamHI部位)を含む発現カセットとして使用される。
【0059】
実質的に、動作可能に酵母機能的プロモーターに連結され、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードする塩基配列を含む酵母発現ベクターにより形質転換されやすい任意の酵母細胞を本発明に用いることができる。前記酵母発現ベクターによる酵母細胞の形質転換は、当業者に公知の従来の方法により行うことができる(Sambrook et al, 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual)。
【0060】
特定の実施態様において、前記酵母は、非凝集性酵母(すなわち、発酵工程で分散している場合、酵母細胞は凝結(凝集)しない)である。有利なことには、前記酵母細胞はGRAS酵母細胞である。本発明の方法で使用することができる酵母細胞の説明に役立つ、非限定的な実例は、醸造原料液を代謝するによってアルコール、炭酸ガス、パン酵母等を産生するいわゆる酒の酵母種(酒を作るために使用される酵母)である。具体的には、好ましいものはサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)から選択される。このような酒の酵母としては、ビール酵母細胞、ワイン酵母細胞、清酒酵母細胞が挙げられる。本発明の好ましい実施態様において、酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)のT73 ura3−などのワイン酵母細胞である(実施例1)。
【0061】
本発明に使用されるように、用語「植物発現ベクター」は、DNA発現コンストラクト、例えば、植物中でベクターにより運ばれ、それらの各組換え遺伝子によりコードされた目的タンパク質(即ち、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片)を合成することができる核酸セグメント、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス又はウイルス粒子を指す。あるいは、核酸セグメントは、遺伝子又は目的の遺伝子が安定して植物ゲノムに組み込まれ、無指向性又は相同組換えを利用し、トランスジェニック植物細胞を作成するために使用され得る。通常は、植物発現ベクターは、植物細胞で機能性であるプロモーター(即ち、植物の機能性プロモーター)に動作可能に連結し、TF又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードする核酸配列を含む。本発明で使用することができる植物機能性プロモーターは、トウモロコシスクロース合成酵素1、トウモロコシアルコールデヒドロゲナーゼ1、トウモロコシ集光複合体、トウモロコシの熱ショックタンパク質、エンドウ小サブユニットRuBPカルボキシラーゼ、Tiプラスミドマンノピン合成酵素、Tiプラスミドノパリン合成酵素、ペチュニアカルコンイソメラーゼ、豆グリシンリッチタンパク質1、ジャガイモパタチン、レクチン、CaMV35S、及びS−E9小サブユニットRuBPカルボキシラーゼプロモーター、からなる群から選択することができる。植物宿主系の形質転換は、従来の方法を用いて行うことができる。植物への遺伝的伝達の総説は、 "Ingenieria genetica and transferencia genica", by Marta Izquierdo, Ed. Piramide (1999)と題するテキストにおいて、特に9章、頁283−316の"Transferencia genica a plantas"に見ることができる。
【0062】
本発明で使用するためのベクターは、例えば、酵母細胞においてそれらが連結されている核酸の自律複製及び/又は発現が可能なベクターである。本明細書において、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるため、用語「プラスミド」及び「ベクター」は、同義的に使用される。更に、本発明は、本明細書において、同等の機能を果たし、その後、当該技術分野で知られるようになっている発現ベクターの他の形態を含むことを意図している。前記酵母発現ベクターは、植物エピソーム発現ベクター又は植物組込み発現ベクターであってもよく、それらは当業者に知られている従来の技術によって得ることができる。実質的には、クローニングのための任意の植物機能性プロモーター、植物選択遺伝子は、植物複製起点、細菌選択遺伝子、植物転写終結シグナル、及び制限部位を、植物エピソーム発現ベクターの作成に使用することができる。
【0063】
数多くの特定の植物生産システムが開発されてきた。これらは油体に(Rooijen et al, (1995) Plant Physiology 109: 1353-61; Liu et al, (1997) Molecular Breeding 3:463-70)、rhizosecretionを介して(Borisjuk et al, (1999) Nature Biotechnology 17:466-69)、種子に(Hood et al, (1997) Molecular Breeding 3:291-306; Hood et al, (1999) In Chemicals via Higher Plant Bioengineering (ed. Shahidi et al.)Plenum Publishing Corp. 頁127-148; Kusnadi et al, (1997) Biotechnology and Bioengineering 56:473-84; Kusnadi et al, (1998) Biotechnology and Bioengineering 60:44-52; Kusnadi et al., (1998) Biotechnology Progress 14: 149-55; Witcher et al, (1998) Molecular Breeding 4:301-12)、ウイルス表面上のエピトープとして(Verch et al, (1998) J. Immunological Methods 220:69-75; Brennan et al, (1999) J. Virology 73:930-38; Brennan et al, (1999) Microbiology 145:211-20)、及びジャガイモ塊茎中のタンパク質の安定発現によって(Arakawa et al, (1997) Transgenic Research 6:403-13; Arakawa et al., (1998) Nature Biotechnology 16:292-97; Tacket et al, (1998) Nature Medicine 4:607-09)、発現するタンパク質を含む。組換えタンパク質はまた、タンパク質の蓄積の最高レベルを与える場所を同定するために、種子、葉緑体を標的とするか、または分泌させることができる。これらの各々は、適切な植物宿主に組織因子又は断片を発現するように適合させることができた。
【0064】
植物内でタンパク質を発現させるための更なる一般的な方法が報告されている。Bascomb, N.らに対する国際出願PCT/US02/23624号及びHall, G.らへの国際出願PCT/US02/17927号を参照。これらは、組織因子タンパク質又はその断片を、例えば、シロイヌナズナ並びに様々な他の植物において発現するように容易に適合させることができた。
【0065】
単子葉植物と双子葉植物において異種タンパク質を発現させるための更なる方法が報告されている。これらは、目的のタンパク質の安定的かつ恒常的発現をもたらすアプローチ:1)アグロバクテリウム媒介遺伝子転移、2)プロトプラストへのDNAの直接取込みの方法を含む直接DNA取込み、3)植物細胞の短時間の電気ショックにより誘導されるDNA取込み、4)微粒子銃によるか、マイクロピペットシステムの使用によるか、又は出芽花粉を持つDNAの直接インキュベーションによる植物細胞又は組織中へのDNA注入、及び5)遺伝子ベクターとしての植物ウイルスの使用を含む。これらの方法の一つ又は組み合わせは、組織因子とその機能性断片を発現する植物を作成するために使用することができる。
【0066】
操作されたアグロバクテリウム菌株を用いる遺伝子導入は、ほとんどの双子葉植物において、及び幾つかの単子葉植物においてルーチン的となっている。例えばFraley et al.(1983) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:4803を参照。本発明で使用のための更なるベクタ−は、例えば、米国特許第5591616号、及び欧州特許第0604662A1号に開示される「スーパーバイナリー」を含む。Hood et al. (1984) Biotechnol. 2:702-709; Hood et al. (1986) J. Bacteriol. 168: 1283-1290; Komari et al. (1986) J. Bacteriol. 166:88-94; Jin et al. (1987) J. Bacteriol. 169:4417-4425; Komari T. (1989) Plant Science 60:223-229; ATCC受入番号37394)も参照のこと。
【0067】
本発明に使用されるように、用語「動物発現ベクター」は、DNA発現コンストラクト、例えば、動物細胞中でベクターにより運ばれ、それらの各組換え遺伝子によりコードされた目的タンパク質(即ち、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片)を合成することができる核酸セグメント、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス又はウイルス粒子を指す。あるいは、核酸セグメントは、遺伝子又は目的の遺伝子が安定して動物ゲノムに組み込まれ、無指向性又は相同組換えを利用し、トランスジェニック動物細胞を作成するために使用され得る。通常は、動物発現ベクターは、動物細胞で機能性であるプロモーター(即ち、動物の機能性プロモーター)に動作可能に連結し、TF又はプロコアグラント活性を有するその断片をコードする核酸配列を含む。
【0068】
特定の実施態様において、動物細胞は昆虫細胞である。昆虫のトランスフェクションシステムの例としては、例えば、米国特許US6130074Aに記載されているものとして、本発明で使用される組換えバキュロウイルス(例を参照)など特定の昆虫ウイルスが挙げられる。
【0069】
これらの実施態様において、TF又はその変異体が発現される細胞は酵母であり、その酵母は、酵母及び酵母遺伝子の操作についての標準技術を使用して操作される。例えば、Bacila et al, eds. (1978, Biochemistry and Genetics of Yeast, Academic Press, New York); 及びRose and Harrison. (1987, The Yeasts (2.sup.nd ed.) Academic Press, London)を参照。酵母宿主に外来性DNAを導入する方法は、当該分野で周知である。酵母の形質転換のための様々な方法がある。Spheroplast transformation is taught by Hinnen et al (1978, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:1919-1933); Beggs, (1978, Nature 275(5676):104-109);及びStinchcomb et al, (欧州特許庁公開番号45,573;本明細書に参照により援用される), エレクトロポレーションは、Becker and Gaurante, (1991, Methods Enzymol.194:182-187によって教示されている)、酢酸リチウムはGietz et al.(2002, Methods Enzymol.350:87-96によって教示されている) 及びMount et al.(1996, Methods Mol.Biol.53:139-145)。非サッカロマイセス(non−Saccharomyces)酵母の形質転換系の総説については、Wang et al. (Crit. Rev Biotechnol. 2001 ; 21(3): 177-218).を参照。酵母遺伝子工学に関する一般的な手順については、Barr et al., (1989, Yeast genetic engineering, Butterworths, Boston)を参照。
【0070】
真核細胞が、選択されたTF発現ベクターで形質転換されると、次のステップは、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片を、前記TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片を発現させる条件下で、発現する組換え真核細胞の培養物の生育を含む。特定の実施態様において、前記真核細胞は、前記真核細胞が、所望の異種産物(TFタンパク質又はそのプロコアグラント活性を有する断片)を発現することができる適切な培地で生育される。酵母細胞、植物最終、昆虫細胞、魚細胞、哺乳類細胞又他の真核細胞の増殖に適した培地は、当業者に知られており、培養する真核細胞の型に応じて選択される。発酵を行ったり、又は生成物を増殖させるための任意の材料を、それが使用する真核細胞に起因する発酵又は生育に適している限り、使用することができ、かつ既知の材料を自在に使うことができる。必要なときに適切な栄養素等を添加してもよい。
【0071】
発酵条件又細胞培養条件は既知の条件と本質的に異なるものではなく、当業者により修正することができる。制御すべき生育条件は、ガス組成(酸素など)、温度、pH、等である。米国特許第5618676号、米国特許第5854018号、米国特許第5856123号及び米国特許第5919651号の文書は、酵母プロモーターを使用する組み込みタンパク質の発現に適した方法と反応性を記述していた。特定の実施態様において、酵母細胞の発酵が、発酵プロセス全体の主要なパラメータの変化を制御することにより続き、それは酸素圧(PO
2)が定常状態に達したときに停止する。
【0072】
第二工程では、本発明の第一の方法は、工程(i)で得られている細胞からのTF担持微小胞の回収を含む。
【0073】
本発明に使用されるように、用語「回収する」とは、インタクト又は溶解された細胞、並びにDNA、タンパク質など他の細胞組成物からTF担持微小胞を分離し、それにより、TF担持微小胞の部分的又は完全に精製された調製物を得る行為を指す。好ましい実施態様において、回収画分の純度は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%。少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%、及び100%である。
回収は、界面活性剤の欠損下での細胞の溶解を必要とし、又は界面活性剤が使用される場合、臨界ミセル濃度(CMC)未満の前記界面活性剤の濃度を使用する。細胞がトランスジェニック植物又はトランスジェニック動物などの生物全体から得られた場合には、回収は、機械的方法又は酵素的方法を用いて細胞懸濁液に組織を溶かす工程を含んでもよい。
【0074】
細胞懸濁液又は細胞培養由来の細胞は、TF担持微小胞が細胞培養物から回収された場合には、遠心分離など従来の方法でペレット化することができ、前記生成物を均質化に付す前に、適した溶解緩衝液に再懸濁することができる。
【0075】
植物細胞及び菌類細胞は、セルロース壁及びキチン壁を持っている。従って、均質化の前に、余分な工程の細胞が、細胞壁を除去するために必要となる場合がある。この工程は、機械的方法(例えば、モーターと乳棒、フレンチプレス、ブレンダーなどの使用による)又は酵素的方法(例えば、セルラーゼ、キチナーゼなどを使用)を使用して、薬学的に許容される溶解緩衝液(水、生理食塩水(PBS)などをリン酸緩衝)の溶液の存在下で行われ得る。
【0076】
更に、均質化の前に、破片は、約30分未満、好ましくは約5分から約20分の間に、濾過又は穏やかな遠心分離、典型的には約1000回.gにより除去することができる。
【0077】
本発明の第一の方法の第一工程で得られた細胞からのTF担持微小胞を回収するための方法は、使用される真核細胞によって異なり、限定されないが、遠心分離、ゲル濾過クロマトグラフィー、タンジェンシャルフロー濾過又はそれらの組み合せを含む。
【0078】
好ましい実施態様において、細胞は機械的な手段で溶解され、核、壊れていない細胞及び破片は、低速遠心分離により除去され、除核上清(post−nuclear supernatant)(PNS)を与える。従って、好ましい実施態様では、脂質微小胞の調製物は除核上清(post−nuclear supernatant)である。
【0079】
酵母細胞がTF担持微小胞を調製するための宿主細胞として使用される特定のケースにおいて、酵母細胞は、発酵ホモジネートを与えるために高圧ホモジナイザーのような従来の方法によって均質化することができる。発酵ホモジネートは、その後、遠心分離などによって従来の方法により分離され、別個に回収することのできる、プロコアグラント活性を有する微小胞由来の前記TF担持酵母(即ち、本発明のTF担持酵母由来微小胞)を含有するペレット及び清澄酵母エキス(CYE)を与える。
【0080】
TFタンパク質及びプロコアグラント活性を有する断片の存在は、従来の方法、例えば、特異的抗TFタンパク質モノクローナル抗体(mAB)を使うことによるウエスタンブロット解析により、決定することができる。更に、CYEのプロコアグラント活性は、任意の従来法により、例えば、実施例4に述べた凝固アッセイ、典型的には、血漿中又は非抗凝固処理全血中でのインビトロ凝固活性などにより、決定することができる。
【0081】
標識された抗TFモノクローナル抗体を用いた免疫電子顕微鏡法によるCYE試料の精査を、酵母又は他の真核生物由来の微小胞におけるTFの存在を同定するために適用することができる。TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有する断片を含む前記微小胞は、また、プロコアグラント活性を有しており、本発明のTF担持真核生物由来微小胞に相当する。
【0082】
任意で、所望される場合、プロコアグラント活性を有するTF担持真核細胞由来微小胞(例えば、酵母由来微小胞)は濃縮され、又は当業者に公知の従来の方法により単離又は精製することができる。実例を挙げると、C末端又はN末端のどちらかに、ペプチドタグ(例えば、Hisタグなど)を含有するタンパク質のアフィニティークロマトグラフィー精製は、多数のタンパク質の高度に精製された製剤を得るために使用される十分標準化された方法である。任意のクロマトグラフ法のように、前記方法は簡単にスケールアップすることができる。免疫アフィニティークロマトグラフィーなどの代替精製手順を実行することができるが、特にスケールアップ生産のため、特異的抗TF単抗体又はポリクローナル抗体の十分に標準化されたストックの可用性を必要とするであろう。
【0083】
従って、単離及び精製方法は、TFタンパク質又はプロコアグラント活性を有する断片の性質に、即ち、それが、クロマトグラフィー支持体又は高親和性を持つビーズなどの親和性マトリックスの一以上のリガンドに結合するタグ(例えば、Hisタグなど)、又は抗体により認識され得るエピトープ、例えばc−myc−タグ(抗c−myc抗体によって認識される)などを有する融合タンパク質である場合にとりわけ依存する。
【0084】
好ましい実施態様において、本発明のヒスチジンタグTF担持酵母由来微小胞は、以前開示された方法に従って、清澄酵母エキス(CYE)から得られる。典型的には、CYEは、適切なアフィニティーカラム(例えば、HiTrap−アフィニティーカラム)上にロードされる前に(例えば、タンジェンシャルフロー濾過により0.2μmの細孔径フィルタを介して)フィルタリングされ、次いで、試料をアプライした後、フロースルーが回収され(非結合物質)、カラムは数回洗浄され、最後の洗浄の後に、(TF−His−タグタンパク質)担持酵母由来微小胞は、カラムに適切な緩衝液(例えば、イミダゾールを含む緩衝液)を添加することによって溶出され、溶出画分が回収され透析され、単離又は精製された(TF−hisタグタンパク質)担持酵母由来脂質微小胞を与える。
【0085】
また、別の実施態様では、本発明のTF担持微小胞はアクタプライム(AKTA prime)装置によって精製することができる。アクタプライムは、ゼネラル・エレクトリック・ヘルスケアからの自動液体クロマトグラフィーシステムであり、大規模生産のために簡単にスケールアップすることができるサイズ排除クロマトグラフィーカラムを使用して標準的な精製プロトコルの開発に使用することができる。別の実施態様では、タンジェンシャルフロー濾過又は高性能のタンジェンシャルフロー濾過(HPTFF)を使用することができる。
【0086】
特定の実施態様において、TF担持微小胞は、タンジェンシャルフロー濾過及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーの一又は複数の工程の組み合わせを用いて回収される。
【0087】
特定の実施態様において、TF担持酵母微小胞は、タンジェンシャルフロー濾過の一工程、続く1回のサイズ排除クロマトグラフィー、続いて別のタンジェンシャルフロー濾過を使用して回収される。好ましい実施態様において、第一のタンジェンシャルフロー濾過の細孔径は第二(及びそれ以降)のタンジェンシャルフロー濾過の細孔径よりも大きい。更に好ましい実施態様において、第一のタンジェンシャルフロー濾過のサイズの細孔は、0.5から0.1μmで、2回目のタンジェンシャルフロー濾過の孔径は0.2μmからである。
【0088】
第三工程において、本発明の第一の方法は、前記リン脂質を前記微小胞に組込むのに適した条件下で、負に荷電したリン脂質と工程(ii)で得られた微小胞を接触させることを含む。
【0089】
本明細書で使用する用語「リン脂質」は、一つ以上のリン酸基が含まれている脂質を指す。リン脂質は本質的に両親媒性であり、つまり、各分子は、親水性(水を好む)部分及び疎水性(水を嫌う)部分から構成されている。ここで、「リン脂質」は、薬学的に許容される塩と、その化合物のエステル誘導体が含まれる。
【0090】
リン脂質は、それらがグリセロール骨格及びリン脂質がスフィンゴシンを含むスフィンゴ脂質を保有する場合、ホスホグリセリド(またはグリセロリン脂質)中のアルコールの種類に応じて分類することができる。どちらのクラスも、生体膜に存在している。ホスホグリセリドは、自然界に見出されるリン脂質の最も豊富なクラスであり、限定されないが、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、及びカルジオリピンを含む。ホスホグリセリドの各タイプ内の構造的多様性は、鎖長及び脂肪酸エステル基の飽和度の変動によるものである。
【0091】
スフィンゴミエリンは、主要なスフィンゴシンを含有するリン脂質である。一般的に、構造はアミド結合によってスフィンゴシンに付加した脂肪酸から成る。
用語「負に荷電したリン脂質」又は「NCP」は、生理的なpHレベルで、即ち、およそpH7.3から7.5の範囲で、正味の負電荷を保有するリン脂質を指す。本発明で使用することができる負に帯電したリン脂質の例は、ホスファチジルセリン(PS)、ジパルミトイル及びジステアロイルホスファチジン酸(DPPA)、DSPA)、ジパルミトイル及びジステアロイルホスファチジルセリン(DPPS、DSPS)、ジパルミトイル、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DPPG、DSPG)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴ脂質(セラミド−1−リン酸塩;グリコシル化ホスファチジルエタノールアミン;スルファチド(ヒドロキシル化を問わず)ガングリオシド)、ホスファチジルイノシトールリン酸及びホスファチジン酸を含む。
【0092】
好ましい実施態様において、負に荷電したリン脂質は、ホスファチジルセリン(PS)であり、ホスファチジン酸分子中のリン酸基とセリンの水酸基との間のエステル化によって形成されたリン脂質であり、以下の式に示され、
ここでRは脂肪酸である。用語「脂肪酸」は、本明細書で使用されるように、約C
12からC
22の、不飽和を含まないか、一つ又は一以上の不飽和を含む、可変鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を指す。好ましくは、脂肪酸は、ステアリン酸(18:0又はオクタデカン酸)、オレイン酸(18:1シス−9又は(9Z)−オクタデカ−9−エン酸)、パルミチン酸(16:0又はヘキサデカン酸)、リノール酸(linoeic acid)(18:2(ω−6)又はシス,シス−9,12−オクタデカジエン酸)、アラキドン酸(20:4(ω−6)又は全−シス−5、8,11,14−エイコサテトラエン酸)、ドコサヘキサエン酸(22:6(n−3又は(4Z、7Z、10Z、13Z、16Z、19Z)−ドコサ−4、7、10,13,16,19−ヘキサエン酸)からなる群から選択される。
【0093】
本発明の使用のための負に帯電したリン脂質を精製又は単離し、又実質的に純粋にすることができる。化合物は、天然にそれに付随する成分から分離されている場合、「実質的に純粋」である。典型的には、試料中で全物質の少なくとも60重量%、より一般的には、75重量%、又は90重量%以上である場合、化合物は実質的に純粋である。実質的に純粋なリン脂質は、例えば、天然源から抽出または化学合成によって、得ることができる。従って、例えば、化学的に合成されるリン脂質は、一般に、その天然に会合する成分を実質的に含まないであろう。純度は、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、HPLCなどの任意の適切な方法を用いて測定することができる。しかし、リン脂質が、その有用性を実質的に妨害する成分と結合していないという条件で、本発明での使用前に精製されるべき負に荷電したリン脂質は必須ではない。当業者は、天然原料又は負に荷電したリン脂質の部分的に精製された原料を本発明において使用することができ、負に荷電したリン脂質成分がそのような原料から得られた全物質の小さな割合(例えば、10−20%、しかし好ましくは少なくとも30%、40%、50%又はそれ以上)を構成し得ることを理解するであろう。
【0094】
負に帯電したリン脂質と、本発明の第一の方法の第二工程(ii)で得られた微小胞を接触させる工程は、脂質微小胞内の負に帯電したリン脂質の取り込みのための適切な条件の下で行われる。インキュベーション工程の間に最適化することができる変数は、温度、pH、適当な緩衝液、湿度、成分濃度、溶液、洗浄工程などを含む。これらの変数は、最適な微小胞/リン脂質の比を得るために必要に応じて調整することができる。
【0095】
前に説明したように、本発明の第一の方法の工程(i)で得られたベシクル調製物は、膜脂質並びに宿主細胞で発現された組織因子又はその変異体を含むタンパク質、並びに宿主において内因性に現れる膜結合タンパク質からなる。しかし、微小胞の収量を定量化する目的のために、通常、単位体積当たりのタンパク質のマイクログラムとして微小胞の濃度を表現するのがより便利である。微小胞の試料中のタンパク質濃度は、ブラッドフォード法、BCAアッセイ、ビウレットアッセイなどの標準的なタンパク質定量化技術を用いて決定することができる。
【0096】
一度マイクロベシクル中のタンパク質濃度が決定されると、接触工程は、リン脂質と微小胞の任意の適切な比率を用いて行うことができる。当業者は、最良の特性を示す小胞の調製を達成するために、接触工程におけるリン脂質と小胞の比率を必要性に応じて変化させることができることを理解するであろう。好ましくは、負に荷電したリン脂質の適切な最終濃度は、使用された特定の負に荷電したリン脂質を混合し、工程(ii)で得られた微小胞の濃度を増加させ、両方の成分の最適な濃度が決定されるまで、得られた小胞の凝固時間を決定することにより、「飽和曲線検定」を使用して計算することができる。この濃度比は、通常、遊離の負に荷電したリン脂質を実質的に生じない(すなわち微小胞に組み込まれていない)濃度比に対応しているが、一方、本発明はまた、従来の方法により除去することができる取り込まれなかった過剰のリン脂質をもたらす両方の成分の比を考慮している。当業者はまた、負に荷電したリン脂質は、負に荷電したリン脂質の性質と工程(ii)で得られた微小胞(すなわち、酵母由来微小胞、昆虫由来微小胞など)の性質に応じて、異なる比率で工程(ii)で得られた微小胞の脂質二重膜に含まれているであろうことを理解するであろう。
【0097】
好ましい実施態様において、接触工程は、タンパク質濃度がおよそ0,1から1000μg/ml、1から100μg/ml、10−90μg/ml、20−80μg/ml、30−70μg/ml、40−60μg/ml、45−55μg/ml又はμg/mlで行われる。接触工程におけるリン脂質濃度は、好ましくは、0,001mM−1mM、0,005mM−0,5mM、0,1mM−0,4mM、0,2mM−0,3mMである。
【0098】
好ましい実施態様において、接触工程は、約Xμgのタンパク質と約0.005ー1μmolのリン脂質のタンパク質/リン脂質の比率を用いて行われ、ここでXは約5、10、30、40、50、60、70、80、90又は100である。更により好ましい実施態様において、接触工程は、50μg又は50μg未満のタンパク質を有する小胞調製物について、0.05μmolのリン脂質を用いて行われ、又は少なくとも50μgのタンパク質を有する小胞調製物について、1μmolのリン脂質を用いて行われる。
【0099】
接触工程は、通常、実質的なリン脂質の過剰を残すことなく、小胞中にリン脂質の大半を取り込むために適切な条件下で行われるが、これは必ずしもそうでない場合があり、その場合、追加の工程を行うことができ、そこでは負に荷電したリン脂質の過剰が、工程(ii)で得られたリン脂質に富む微小胞の調製物から除去される。過剰分を除去するための異なる方法は、追加の洗浄工程、層分離、遠心分離、クロマトグラフィーなど、当業者から知られている。
【0100】
過剰なリン脂質は、多くの方法によりリン脂質濃縮微小胞から削除することができ、脂質二重膜に結合し挿入された組織因子を有する安定したTF担持微小胞の組成物が得られる。界面活性剤を除去する適切な方法は、透析、タンジェンシャルフロー透析濾過、クロスフロー中空糸濾過、疎水性クロマトグラフィー樹脂による処置、及び単純な希釈を含む。
【0101】
本発明の第二の方法
第二の態様において、本発明は、プロコアグラント活性を有するTF担持微小胞、又は本発明の第二の微小胞を調製するための方法に関し、
(i)真核細胞から得られた脂質微小胞を提供し、
(ii)TFタンパク質又はプロコアグラント活性を持つその変異体を(i)で定義された脂質微小胞と、前記TFタンパク質又はその変異体の前記微小胞への取込みに適した条件下で、接触させ、
(iii)負に荷電したリン脂質と工程(ii)で得られた小胞を、該リン脂質の前記小胞への取込みに適した条件下で接触させる、
工程を含み、
ここで、工程(ii)及び(iii)は任意の順序で行うことができる。
【0102】
用語「TF」、「プロコアグラント活性を有するTF変異体」、及び「負に荷電したリン脂質」は、本発明の第一の方法の文脈で詳細に記述されており、本発明の第ニの方法にも同様に適用可能である。
【0103】
発明の第二の方法の第一工程では、真核細胞から得られた脂質微小胞が提供される。本発明の第二の方法において使用される脂質微小胞は、本発明の第一の方法に記載の方法を使用する、本発明の第一の方法で説明したように、真核細胞のいずれかのタイプから派生した微小胞であり、限定されないが、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、魚類細胞及び植物細胞から単離された小胞を含む。本発明の第一の方法の文脈で説明したように、脂質微小胞は、一般的に界面活性剤の非存在下で又は界面活性剤の存在下で得られ、これらは臨界ミセル濃度以下の濃度で発見されている。
【0104】
第二工程では、前記TFタンパク質又はの変異体が前記微小胞へ取り込まれるための適切な条件の下に、脂質微小胞をTFタンパク質又はプロコアグラント活性を有する変異体と接触させる。上記のようにして得られた微小胞を、その後、組織抽出物から得られたか、又は精製された組換えタンパク質(部分的に)として提供されたTFタンパク質と接触させる。抽出物の調製及びTFの精製は、脳、胎盤、肺組織などいくつかの組織から、及び、羊、牛、ウサギ、イヌ、及びヒトなど異なる動物から行うことができる。抽出物の調製及びTFタンパク質の精製は、限定されないが、米国特許第5622931号に記載のように行うことができる。使用されるTFは、あらゆる細胞発現系から、好ましくは真核細胞から得ることができる組換えTF(rTF)でありうる。前述したように、本発明を実施する際に使用されるrTFは更に、融合タンパク質の一部であってよい。本発明の第二の方法で使用することができるタンパク質の異種発現のために、真核細胞および方法は、以前に記載されている。
【0105】
本発明の第二の方法は、更に、工程(ii)からTFの過剰を除去する工程を含み得る。工程(ii)からTFの過剰を除去する方法は、本発明の第一の方法の文脈で言及されたものと本質的に同じであり、ゲルろ過クロマトグラフィー、分画遠心法、密度勾配遠心法等を含む。
【0106】
第三工程において、本発明の第二の方法は、リン脂質を前記小胞に組込むのに適した条件下で、負に荷電したリン脂質と工程(ii)で得られた小胞を接触させることを含む。
本意図で使用することができる負の荷電したリン脂質、並びにリン脂質の前記小胞への取り込みに適している条件は、本発明の第一の方法で詳細に記載されている。好ましい実施態様において、使用する負に帯電したリン脂質は、ホスファチジルセリンである。
【0107】
表現「小胞におけるリン脂質の取り込みのための適切な条件」とは、リン脂質が自由に移動し、微小胞に組込まれ得る任意の条件として本明細書では理解されるべきである。特に限定されないが、その条件は通常、約4Cから90C、10Cから80C、15Cから70C、20Cから60C,25Cから50C、30Cから40Cの温度又は室温、pHが2−12、3−11、4−10、5−9、6−8又は7、及び生理的塩濃度を含む。
【0108】
好ましい実施態様において、接触工程は、タンパク質濃度がおよそ0,1から1000μg/ml、1から100μg/ml、10−90μg/ml、20−80μg/ml、30−70μg/ml、40−60μg/ml、45−55μg/ml又はμg/mlを有する小胞を使用して行われる。接触工程におけるリン脂質濃度は、好ましくは、0,001mM−1mM、0,005mM−0,5mM、0,1mM−0,4mM、0,2mM−0,3mMである。
【0109】
好ましい実施態様において、接触工程は、約Xμgのタンパク質と約0.005ー1μmolのリン脂質のタンパク質/リン脂質の比率を用いて行われ、ここでXは約5、10、30、40、50、60、70、80、90又は100μgのタンパク質である。更により好ましい実施態様において、接触工程は、50μg又は50μg未満のタンパク質を有する小胞調製物について、0.05μmolのリン脂質を用いて行われ、又は少なくとも50μgのタンパク質を有する小胞調製物について、1μmolのリン脂質を用いて行われる。
【0110】
本発明の第二の方法は、更に、工程(iii)からPSの過剰を除去する工程を含み得る。工程(iii)からPSの過剰を除去する方法は、本発明の第一の方法の文脈で言及されたものと本質的に同じであり、ゲルろ過クロマトグラフィー、分画遠心法、密度勾配遠心法等を含む。
【0111】
本発明の第二の方法はまた、工程(ii)及び(iii)を逆の順序で実施することで、即ち、小胞を負に荷電したリン脂質と第一に接触させ、その後、第一工程で得られた小胞をTFと接触させることによって、行うことができる。従って、その他の態様において、本発明は、前記小胞へのリン脂質の組み込みに適切な条件下で、脂質微小胞を、負に荷電したリン脂質と接触させる第一工程と、微小胞への組換えTFの組み込みに適切な条件下で、第一工程で得られた小胞を、組換えTF又はプロコアグラント活性を有するその変異体と接触させる第二工程を含む。
【0112】
第一工程及び第二工程を実行するための十分な条件は、本質的には上記のとおりである。
【0113】
本発明の微小胞
本発明の第一及び第二の方法の両方とも、負に帯電したリン脂質と接触していない微小胞と比較して、プロコアグラント特性の改善と安定性の増加を示すTF担持微小胞を生じる。従って、別の態様において、本発明は、本発明の第一又は第二の方法を用いて調製された微小胞に関する。
【0114】
用語「微小胞」は、上記で詳細に記載されており、本質的に脂質単層又は脂質二重層からなる閉鎖区画を本質的に指す。微小胞は広い範囲内で変化する直径を示し得る。一般的には、前記の大きさは10μm以下、典型的には0.5μm以下である。特定の実施態様において、本発明のTF担持酵母由来微小胞の大きさは、10μmから0.01μmの範囲である。本発明の方法に従って得られた微小胞は、真核生物から派生するため、それらのタンパク質と脂質成分は、それが派生した生物の膜の成分が反映される。
【0115】
微小胞は酵母細胞から派生した特定の場合において、それらは通常エルゴステロール及びカルジオリピンなどの酵母特有のリン脂質を含む。
【0116】
微小胞が植物細胞に由来する場合、これらは、植物細胞膜特有の脂質、例えば、植物ステロール、スタノール、スタノールエステル(stanolesters)、トコフェロール、d−アルファトコフェロール、d−I−アルファトコフェロール、トコトリエノール、及び、β−シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、スチグマスタロール(stigmastanol)、β−シトスタノール、シトスタノール、デスモステロール、、カリナステロール、ポリフェラステロール、クリオナステロール及びブラシカステロールを含む植物ステロール又はトリテルペンンを含む。
【0117】
微小胞が動物細胞由来する場合、これらは、コレステロール又は典型的な哺乳類の膜脂質組成などの動物細胞膜特有の脂質が含まれている。
【0118】
微小胞が昆虫細胞に由来する場合、これらは、昆虫細胞膜特有の脂質又は典型的な昆虫膜脂質組成、例えば高含量のジアシルグリセロールなどを含む。(昆虫脂質: Chemistry, Biochemistry, and Biology Book by David W. Stanley-Samuelson, Dennis R. Nelson; University of Nebraska Press, 1993)。
【0119】
本発明の微小胞は、他の粒子状物質が存在しないことが好ましいが、プロコアグラント作用が微小胞の広範囲の純度で観測された。従って、本発明の微小胞は、非微小胞の粒子状物質に関して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%,少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の微小胞を含む調製物で提供される。
【0120】
本発明の凍結乾燥組成物
当業者が認識するように、本発明の微小胞組成物の何れも、保存のために凍結乾燥することができ、そして、例えば、水性媒体(例えば、滅菌水、リン酸緩衝液、又は食塩水など)により、激しい撹拌により、再構成される。
【0121】
用語「凍結乾燥(lyophilization)」、「凍結乾燥(freeze−drying)」または文法的に同等なその異形は、一般的に痛みやすい物質を保持するため、又はその物質を移送により好都合にするために使用される、脱水工程を指し、それは、物質を凍結し、その後、周囲の圧力を減少させ、物質中の凍結水を固相からガスへ直接昇華させるために十分な熱を加えることで機能する。
【0122】
使用することができる別の凍結乾燥及び凍結手順が、当業者に知られている。凍結乾燥は、ロータリーエバポレーター、マニホールド凍結乾燥機及びトレイ凍結乾燥機などの標準機器を用いて行うことができる。特定の実施態様において、本発明の医薬組成物は、ドライアイス上で凍結され、その後、−40℃から始まり、48時間かけて室温で終了するサイクルを用いて凍結乾燥され得る。得られた試薬は、0.1Mのトリス、pH7.5、150mMのトレハロースの添加により、作業濃度に再構成され得、本発明の第一又は第二の小胞をおよそ10−250μg/mlで含有する溶液を得る。
【0123】
凍結乾燥の結果として、脂質及び/又は小胞の凝集又は融合を防止するために、融合又は凝集を防ぐ凍結保護物質を含めることが有用であり得る。用語「凍結保護物質」は、脱水−再水和、凍結融解、又は凍結乾燥−再水和を施された脂質粒子を、小胞融合及び/又は小胞内容物の漏出から保護する薬剤を指し、限定されないが、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、トレハロース、ポリビニルピロリドン、及びポリ(エチレングリコール)(PEG)、例えば、PEG 400を含む。これら及び他の添加剤は、米国薬局方USP XXII、NF XVII、米国薬局方、国民医薬品集、米国薬局方(株)、12601 Twinbrook Parkway,Rockville,Md.20852に記載されており、その開示は本明細書において参照によりその全体が援用される。凍結乾燥製剤は、一般的にかなり長い貯蔵寿命という利点がある。
【0124】
本発明の第一の薬学的組成物
その他の態様において、本発明は、本発明の第一及び第二の方法に従って得られた、溶液/懸濁液中か又は凍結乾燥された形態の小胞、及び薬学的に活性なビヒクルを含む、本発明の薬学的組成物に関する。前記薬学的組成物は、被検体への投与に適した医薬投与形式で製剤化されている。
【0125】
本発明の薬学的組成物は、ヒトTFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその変異体を含む本発明の微小胞を含み、それらは上記に詳細に記述されており、成熟ヒトTF、切断型ヒトTF、TFのグリコシル化変異体、タグ付きTF、上記修飾の一以上を持つ変異体、例えば、C末端にヘキサヒスチジンタグとN124A変異を保有する成熟TFを含む。
【0126】
用語「薬学的に許容されるビヒクル」は、本明細書で使用されているように、毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題、又は合理的な発生リスクを持つ合併症などの望ましくない副作用を引き起こすことなく、適切なインビボ又はエキソビボ部位において、本発明の方法に有用な治療組成物を送達するのに適した任意の物質を指す。実際には、本発明の第一の微小胞又は第二の微小胞に悪影響を及ぼさない任意のビヒクルが、本発明の該組成物に使用することができる。一実施態様において、前記ビヒクルは、本発明の方法に取り組むことにより得られた本発明のTF担持微小胞を取り囲む培地など、実質的に液体培地である。従って、特定の実施態様において、本発明の第一の組成物は、負に荷電したリン脂質が追加される、本発明の方法の実行により得られた真核生物の清澄な抽出物を含む。
担体及び賦形剤についての情報、並びに本発明の前記生成物を投与するのに形態に適した前記投与形態についての情報を、生薬調剤の論文に見いだすことができる。一般的な薬物の異なる医薬品投与形態とそれらの調剤工程についての総説をC.Fauli i Trilloによる「Tratado de Farmacia Galenica」(第1版、1993年、Luzan 5,S.A)と題された本の中で見つけることができる。
【0127】
特定の実施態様において、本発明の第一及び第二の方法に従って得られた微小胞は、一緒に処方することができる。
【0128】
特定の実施態様において、TF担持微小胞を含む本発明の薬学的組成物は、凝固促進剤と一緒に処方することができる。
【0129】
本発明において、「凝固促進剤」は、血液が凝血塊を形成するプロセスを促進する任意の薬剤として考えられている。
【0130】
凝固促進剤として有用な薬剤は、zeolin等の吸着剤の化学物質;トロンビン;凝固因子II、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII等のような凝固カスケードの成分、カルシウム、ビタミンKなどの補因子等が挙げられる。好ましい実施態様において、使用される凝固促進剤は、因子VII(前駆体又は活性型として)、因子X(前駆体又は活性型として)、及びそれらの組合わせの群から選択される。
【0131】
本発明の薬学的組成物は精製された微小胞を含むことが好ましいが、その組成物は、実質的に精製された微小胞を含むのも可能である。微小胞は、非微小胞の粒子状物質に関して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%,少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の微小胞を含む調製物を得るために上記記載の方法の何れかにより精製することができる。
【0132】
本発明の薬学的組成物は、治療的に有効な量のTF担持微小胞を含む。前記の量は、投与量、投与経路等に応じて、広い範囲で変化し得る。典型的には、本発明の薬学的組成物は、本発明の活性な微小胞の約10μg/mlと本発明の活性な微小胞の300μg/mlの間、好ましくは、活性なタンパク質の20μg/mlと活性なタンパク質の200μg/mlの間、そして更により好ましくは、本発明の活性な微小胞の約50μg/mlと本発明の活性な微小胞の100μg/mlの間に含み得る。
【0133】
被検体に投与される用量は、非常に広範囲おいて、例えば、本発明の活性な微小胞の約1.0pg/mlと本発明の活性な微小胞の1.0mg/mlの間、好ましくは、本発明の活性な微小胞の0.05μg/mlと本発明の活性な微小胞の100μg/mlの間、そして更により好ましくは、本発明の活性な微小胞の約0.1μg/mlと本発明の活性な微小胞の50μg/mlの間で変化し得る。投与されるべき本発明の第一又は第二の微小胞の用量は、いくつかの要因に依存し、その中には、TFタンパク質又は用いられるプロコアグラント活性を有するその断片の特徴、例えば、その活性及び生物学的半減期、製剤中のTFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片の濃度、被検体又は患者の臨床状態、治療すべき出血性障害等が含まれる。この理由のために、本明細書に記載の用量は、当業者のためのガイドとしてのみ考慮されなれねばならず、この人物は前述の変数に応じて用量を調整しなければならない。にも関わらず、本発明の薬学的組成物は、予防又は治療目的のために、一日あたり1回以上回投与することができる。
【0134】
TF担持微小胞は凍結乾燥されており、それらは、動物への投与に先立ち、再構成するために溶媒中に再懸濁され得る。凍結乾燥されて送達される場合、組成物が動物の体内の親水性環境にさらされると、微小胞は自発的に再編成する。
【0135】
本発明の第二の薬学的組成物
本発明者らは、真核細胞から得られたTFを含む微小胞のプロコアグラント活性を、小胞を凝固促進剤とを組み合わせることにより、相乗的に向上させることができることを観察している。
【0136】
従って、その他の態様において、本発明は、薬学的組成物に関し、
(i)(a)真核細胞内でTF又はプロコアグラント活性を有するその変異体を発現させ、
(b)工程(i)の細胞からTF担持微小胞を回収する
工程を含む方法により得られた微小胞、
(ii)少なくとも一の凝固を促進する薬剤、及び
(iii)薬学的に有効なビヒクル
を含む。
【0137】
用語「微小胞」、「TF」、「TFの機能的に等価な変異体」、「真核細胞」、「凝固を促進する薬剤」及び「薬学的に有効なビヒクル」は上記で詳細に説明されており、本発明の第二の薬学的組成物については本質的に同様に使用されている。
【0138】
本発明の第二の薬学的組成物の第一の成分は、
(a)真核細胞内でTF又はプロコアグラント活性を有するその変異体を発現させ、
(b)工程(i)の細胞からTF担持微小胞を回収する
工程を含む方法により得られた微小胞である。
【0139】
好ましい実施態様において、真核細胞は酵母細胞であり、その場合、微小胞の酵母膜は、本発明のTF担持酵母由来の微小胞の生成に使用された酵母細胞に由来し、それは、酵母膜の一部を通常形成する脂質、及び典型的には酵母膜に埋もれて見いだされるタンパク質を含む。一般に、膜はタンパク質が埋め込まれうる2つの配向脂質層(すなわち、脂質二重層)で構成されている。細胞の膜の基本構造である脂質二重層は、通常、水性環境における両親媒性分子(例えば、リン脂質、脂肪酸など)によって形成されており、各分子は、親水性基を層の外側に、疎水性基をそ層の内側にして配向している。微小胞は、酵母細胞膜又はその断片、例えば、酵母細胞の形質膜又はその断片などから派生する。その他の特定の実施態様において、前記酵母由来微小胞は、その細胞内の酵母細胞内小器官の膜、又はそれらの断片、例えば、核、ゴルジ体、小胞体などから派生する。
【0140】
前記酵母由来微小胞は、その生成に使用される酵母細胞から、一般的に生じる(例えば、実施例1に開示されたプロセスに示されるように、酵母発酵産物に均質化処置を施した後)。実質的には前記酵母細胞を製造するために任意の酵母細胞を使用することができ、有利なのは非凝集性酵母細胞であり、好ましくは、ヒトが消費について、連邦医薬品局(FDA)によって、「一般的に安全と見なされた」(又はGRAS)酵母細胞として分類された酵母細胞であり、その理由は、前記GRAS承認物質は、それらがヒトを含めた動物に対して実質的に無害であるため、FDAによる市販前の承認を必要としないからである。本発明のTF担持酵母由来の微小胞を生成する方法で使用することができる酵母細胞の説明に役立つ、非限定的な実例は、醸造原料液を代謝するによってアルコール、炭酸ガス、パン酵母等を産生するいわゆる酒の酵母種である。具体的には、好ましい酵母細胞は、サッカロミセス属などに由来する酵母細胞、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)株T73 ura3−、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)株T73の誘導体、ワイン生産に広く使用される株(実施例1)、又はピキア属を含む。
【0141】
TF又は機能的に等価なその変異体を生産するため、並びに真核細胞から微小胞を回収するための適切な方法は、本発明の第一の方法との関連で詳細に記載されており、本発明の第二の薬学的組成物の一部を形成する微小胞を得るための方法にも同様に適用可能である。
【0142】
用語「TF」は本質的に上記に記載された通りであり、任意の種に由来する天然のTF並びに機能的に等価なその変異体を含み、それらは上記に詳細に記述されており、成熟ヒトTF、切断型ヒトTF、TFのグリコシル化変異体、タグ付きTF、上記修飾の一以上を持つ変異体、例えば、C末端にヘキサヒスチジンタグとN124A変異を保有する成熟TFを含む。好ましい実施態様において、TFは成熟TFタンパク質である。更により好ましい実施態様において、TFは成熟TFタンパク質である。その他の好ましい実施態様において、TFはN124A変異及び/又はC末端にヘキサヒスチジンタグを有する成熟ヒトTFである。
【0143】
前記薬学的組成物は、被検体への投与に適した医薬投与形式で製剤化されている。
【0144】
実際には、本発明の第一の微小胞又は第二の微小胞に悪影響を及ぼさない任意のビヒクルが、本発明の該組成物に使用することができる。一実施態様において、前記ビヒクルは、本発明の方法に取り組むことにより得られた本発明のTF担持微小胞を取り囲む培地など、実質的に液体培地である。従って、特定の実施態様において、本発明の第一の組成物は、負に荷電したリン脂質が追加される、本発明の方法の実行により得られた真核生物の清澄な抽出物を含む。
【0145】
担体及び賦形剤についての情報、並びに本発明の前記生成物を投与するのに形態に適した前記投与形態についての情報を、生薬調剤の論文に見いだすことができる。一般的な薬物の異なる薬学的投与形態とそれらの調剤工程についての総説をC.Fauli i Trilloによる「Tratado de Farmacia Galenica」(「生薬調剤論文」)(第1版、1993年、Luzan 5,S.A)と題された本の中で見つけることができる。
【0146】
本発明の薬学的組成物は精製された微小胞を含むことが好ましいが、その組成物は、実質的に精製された微小胞を含むのも可能である。微小胞は、非微小胞の粒子状物質に関して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%,少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の微小胞を含む調製物を得るために上記記載の方法の何れかにより精製することができる。
【0147】
本発明の第二の薬学的組成物は、治療的に有効な量のTF担持微小胞を含む。前記の量は、投与量、投与経路等に応じて、広い範囲で変化し得る。典型的には、本発明の薬学的組成物は、本発明の活性な微小胞の約10μg/mlと本発明の活性な微小胞の300μg/mlの間、好ましくは、活性なタンパク質の20μg/mlと活性なタンパク質の200μg/mlの間、そして更により好ましくは、本発明の活性な微小胞の約50μg/mlと本発明の活性な微小胞の100μg/mlの間に含み得る。
【0148】
被検体に投与される用量は、非常に広範囲おいて、例えば、本発明の活性な微小胞の約1.0pg/mlと本発明の活性な微小胞の1.0mg/mlの間、好ましくは、本発明の活性な微小胞の0.05μg/mlと本発明の活性な微小胞の100μg/mlの間、そして更により好ましくは、本発明の活性な微小胞の約0.1μg/mlと本発明の活性な微小胞の50μg/mlの間で変化し得る。投与されるべき本発明の第一又は第二の微小胞の用量は、いくつかの要因に依存し、その中には、TFタンパク質又は用いられるプロコアグラント活性を有するその断片の特徴、例えば、その活性及び生物学的半減期、製剤中のTFタンパク質又はプロコアグラント活性を有するその断片の濃度、被検体又は患者の臨床状態、治療すべき出血性障害等が含まれる。この理由のために、本明細書に記載の用量は、当業者のためのガイドとしてのみ考慮されなれねばならず、この人物は前述の変数に応じて用量を調整しなければならない。にも関わらず、本発明の薬学的組成物は、予防又は治療目的のために、一日あたり1回以上回投与することができる。
【0149】
本発明の第二の薬学的組成物は、1つ又は複数の成分が凍結乾燥されている、凍結乾燥された形態で提供することができる。当業者は、組成物が、以下のように異なる形態で提供されることを理解するであろう。
−懸濁液中の凍結乾燥微小胞及び凝固促進剤、
−懸濁液及び凍結乾燥凝固促進剤中の微小胞、
−凍結乾燥された微小胞及び凍結乾燥された凝固促進剤。
【0150】
微小胞及び凝固促進剤の両方が凍結乾燥された形態で提供される場合、両方の成分は単一の製剤で組み合わせることができるか、又は別々の容器で提供することができる。TF担持微小胞は凍結乾燥されており、それらは、動物への投与に先立ち、再構成するために溶媒中に再懸濁され得る。凍結乾燥されて送達される場合、組成物が動物の体内の親水性環境にさらされると、微小胞は自発的に再編成する。同様に、凝固促進剤が凍結乾燥されている場合、それは、動物への投与に先立ち、再構成するために溶媒中に再懸濁され得る。凍結乾燥されて送達される場合、動物の体内の親水性環境にさらされると、凝固促進剤は再構成される。
【0151】
本発明の治療的使用
血液凝固に関連する使用
異なるアッセイにより、負に荷電したリン脂質で処置されたTF担持微小胞を含む本発明の微小胞は、プロコアグラント活性を強化され、安定性が向上していることが示されている。実施例2は、インビトロでのアッセイを示し、本発明の微小胞が、健常者及び患者の両方の状態において、フィブリン凝血塊形成及び血液凝固を引き起こすことをを実証している。健常患者由来の血漿及び血液、FVIII、FIX又はFXIを欠損した血漿(血漿における凝固アッセイ)、後天的血小板欠損症を示す患者由来の血液(血小板減少性血液における凝固アッセイ)、抗FVII抗体の存在下でFXIを欠損する血漿(血漿における凝固アッセイ)、並びに血友病患者、フォン・ヴィレブランド病患者及びワルファリン投与(warfarinized)患者由来の血液を含む。これらの結果は、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、被験体における出血の局所治療のために有用な、プロコアグラント薬又は抗出血性薬であることを明らかに示している。
【0152】
従って、他の態様において、本発明の微小胞及び本発明の薬学的組成物は、医薬として、つまりプロコアグラント薬として、又は抗出血性薬として、特に被験体における出血の治療に有用である局所適用のための抗出血性薬として使用することができる。従って、その他の態様において、本発明は、医薬として使用するための本発明の第一又は第二の微小胞に関する。更なる態様において、本発明は、被験体に、本発明の微小胞または組成物の投与を含む被験体における出血の治療のための方法に関し、被験体における出血の治療のための医薬の製造のための、本発明の微小胞又は組成物の使用、並びに出血の治療における使用のための本発明の微小胞又は組成物の使用に関する。
【0153】
これらの微小胞は、被験体に対して実質的に無害であるので、本発明の微小胞は、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせることなく、被験体において出血の治療のために局所的に直接使用することができる。しかし、本発明の微小胞は、その投与に、好ましくは、出血の局所(ローカル)治療のための局所投与に適した医薬品投与形態に製剤化されることが一般的に好ましい。
【0154】
次に、本発明の微小胞は、医薬品投与形態に、好ましくは局所投与に適した医薬品投与形態に製剤化することができ、その目的のため、薬学的に許容される担体および所望の医薬品投与形態の調製に適した賦形剤が組み込まれる。前記担体及び前記賦形剤についての情報、並びに本発明の前記生成物を投与するのに形態に適した前記投与形態についての情報を、生薬薬調剤論文に見いだすことができる。一般的な薬物の異なる医薬品投与形態とそれらの調剤工程についての総説をC.Fauli i Trilloによる「Tratado de Farmacia Galenica」(「生薬調剤論文」)(第1版、1993年、Luzan 5,S.A)と題された本の中で見つけることができる。
【0155】
本発明の微小胞の異なる医薬品投与形態を使用することができるが、前記製品を局所的に投与するのが実際に最も有利であり、従って、本発明の第一又は第二の微小胞は、その局所投与に適した医薬品形態に製剤化され得る。前記医薬品形態の、例示的で非限定的な例としては、エアロゾル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、包帯、パッチ、軟膏、うがい薬などが挙げられる。その目的のため、本発明の第一及び第二の薬学的組成物は、局所投与のため、本発明の微小胞の医薬品投与形態を調製するために必要である、薬学的に許容されるビヒクル、担体及び/又は賦形剤が含まれる。
【0156】
従って、特定の実施態様において、本発明の薬学的組成物は、本発明の微小胞の局所投与に適した前記製品及び薬学的に許容されるビヒクル、担体又は賦形剤を含む本発明の微小胞の局所投与のための薬学的組成物である。
【0157】
本発明の前記第一又は第二の微小胞の局所投与に適した薬学的に許容されるビヒクル、担体又は賦形剤の例示的で非限定的な例は、生薬調剤論文に見いだすことができる。
【0158】
本発明の微小胞、及びそれらの組合わせ、及び本発明の薬学的組成物、及びそれらの組合わせは、予防及び/又は出血性素因の治療に有用な他の追加の薬剤(例えば、凝固因子、ヒト血漿など)と一緒に使用することができ、併用療法を提供する。前記追加の薬剤は、同一の薬学的組成物の一部とすることができ、又あるいは、それらは、本発明の医薬組成物の投与に関して、それらの同時又は連続(時間的に逐次に)投与するための別個の組成物の形態で提供することができる。
【0159】
本発明の薬学的組成物はまた、支持体(support)上に配置することができる。従って、その他の態様において、本発明は、本発明の薬学的組成物又はそれらの組み合わせ及び支持体を含む製品に関連する。用語「支持体(support)」は、本明細書に使用される場合、適切な物質でできた基質であり、本発明の薬学的組成物をそれに預け、所望の場所へ、例えば、本発明の薬学的組成物がその治療効果を発揮する場所へ輸送して放出することを可能とする。前記支持体は、固体支持体、又非固体支持体、例えば、液体支持体又はガス性支持体であって良い。固体支持体の例示的で、非限定的な例としては、包帯、バンドエイド、湿布、絆創膏などが含まれる。液体支持体の例示的、非限定的な例としては、ゲル、スプレー、うがい薬などが含まれる。ガス状支持体の例示的、非限定的な例としては、空気、噴射剤等を含む。本発明の微小胞を含むこの製品、又は本発明の薬学的組成物は、従来の方法によって、例えば、本発明の微小胞と支持体を混合することによって得ることができる。本発明の微小胞と支持体との間の相互作用は、物理的又は化学的な相互作用であって良く、小胞の構成成分、本発明の薬学的組成物の組成物又は使用される支持体の性質に依存する。
【0160】
別の態様において、本発明は、被験体における出血の治療のために、特に、健常者におけるか又は出血性素因を有する被験者における出血の局所治療のための、本発明の微小胞又は本発明の薬学的組成物又はそれらの組合わせに関する。
【0161】
用語「局所治療」は、本明細書で使用される場合、それが必要とされる場所で、例えば、皮膚の不連続な切開(切り傷など)、静脈の血管組織(破裂血管など)、及び傷口、手術などによる傷口、皮膚粘膜出血及び微小血管出血においける、直接的な治療の適用を指す。
【0162】
この発明によれば、実施例2に示すように、本発明の微小胞は、プロコアグラント薬又は抗出血性薬として作用することができ、その結果、前記製品は出血性疾患、特に出血性素因に関連付けられている出血性疾患を治療又は直すために使用することができる。
【0163】
用語「出血性素因」は、止血障害を引き起こし、その結果、拡張した過度の出血を伴って時折発生し得る出血症候群の発生を引き起こすプロセスである。出血性素因は、先天性又は後天性凝固障害により、及び/又は先天性及び後天性血小板障害によって引き起こされることがある。
【0164】
用語「凝固障害」は凝固因子障害を指す。この障害は、特定の凝固因子欠損症又は欠損が原因である可能性があり、その結果、出血症候群の発生となり得、又は凝固因子障害が原因である可能性がある。凝固障害は、一般的に先天性凝固障害又は後天性凝固障害であり得る。
【0165】
先天性凝固障害の例示的な非限定的な例として、凝固第V因子(FV)、血液凝固第VII因子(FVII)、その欠乏又は欠損が血友病Aを引き起こす血液凝固第VIII因子(FVIII)、その欠乏又は欠損が血友病Bを引き起こす凝固第IX因子(FIX)、その欠乏又は欠損が血友病Cを引き起こす凝固第X因子(FX)、凝固第XI因子(FXI)、凝固第XII因子(FXII)、血液凝固第XIII因子(FXIII)及びそれらの組み合わせから選択される凝固因子の欠損が挙げられる。
【0166】
後天性凝固障害は、異なる起源を持っているか可能性がある。具体例としては、重篤な肝障害、抗凝固療法(ヘパリン、低分子量ヘパリン、ワルファリン、クマリン誘導体、ジクマリンなど)における凝固因子合成の欠損が含まれる。代替メカニズムは、凝固因子の過剰消耗に基づいており、その結果、それらは出血病変に凝血塊を形成することができない。このメカニズムは、血小板および凝固因子を活性化する微小循環内皮を傷害する重度の敗血症;胎盤放出などのTFによる血管侵入;死亡胎児の保持;組織の破壊を伴う多重外傷;有毒のヘビの噛みつきなどの多重疾患において起こる消耗に起因する、播種性血管内凝固症候群又は凝固障害で発生する。血管炎では、体壁および内皮の損傷が凝固アクチベーターを放出する。凝固因子の消費は、PDFの放出を伴う、抗血小板薬及び抗凝固薬であるプラスミンの作用による多くの微小血栓の繊維素の溶解により悪化する。
【0167】
用語「血小板障害」とは、血小板の数および機能的能力の双方の障害を指し、その結果、出血症候群が起こる。前記血小板障害は先天性又は後天性であり得る。
【0168】
特定の実施態様において、該血小板障害は先天性血小板障害である。先天性血小板障害の例示的、非限定的な例としては、グランツマン病、ベルナール・スーリエ病、Bolin−Jamieson症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、Paris−Trousseau−Jacobsen症候群、X染色体血小板減少症、灰色血小板症候群、Sebastian症候群及びファンコニー貧血が挙げられる。
【0169】
その他の特定の実施態様において、前記血小板障害は後天性血小板障害である。後天性血小板障害の例示的、非限定的な例としては、血小板血症、赤血球増加症、慢性骨髄球性白血病などの骨髄増殖性障害が挙げられ、出血時間の延長、ガラスビーズ保持欠損、血小板凝集欠損、異常な放出および血小板因子III欠損を伴う骨髄化性における機能的血小板障害がある。機能的血小板欠損は、壊血病及び先天性心疾患及び硬変におけるタンパク異常血症で見られている。
【0170】
用語「後天性凝固障害」及び「後天性血小板障害」とは、医原性または他の疾病の続発性であり得る障害の起源を指す。
【0171】
本明細書において「被検体」とは、ヒト種を含む動物種の何れかのメンバーを含み、例示的、非限定的な例としては、該被検体は霊長類、家庭内動物、齧歯類などの哺乳類であり得、該被検体は好ましくは、任意の年齢および人種の男性または女性である。特定の実施態様において、該被検体は、止血障害の履歴のないヒト、例えば、凝固障害又は血小板障害を有していない個体である。別の特定の実施態様では、前記被検体は、止血障害の履歴のあるヒト、例えば、凝固障害(先天性もしくは後天性凝固障害など)、または血小板障害(先天性もしくは後天性血小板障害など)などの出血素因を有する個体である。
【0172】
従って、特定の実施態様では、本発明は、止血障害の履歴のないヒトにおける出血の局所的治療のための医薬の製造における、本発明の微小胞の使用に関する。別の特定の実施態様では、本発明は、出血素因を有するヒトにおける出血の局所的治療のための医薬の製造における、本発明の微小胞又は薬学的組成物の使用に関する。
【0173】
創傷治癒関連の使用
血液凝固における役割に加えて、TFは創傷の修復及び治癒を促進する(Nakagawa, et al. (1998) Seminars in Thromb. and Hemostasis 24:207-210; Philippart, et al. (2003) The Internatl. J. of Oral and Maxillofacial Implants 3:411-416)。
【0174】
従って、別の特定の実施態様では、本発明は、創傷治癒の処置のための医薬の製造における、本発明の微小胞又は薬学的組成物の使用に関する。あるいは、本発明は、創傷治癒の処置のための医薬の製造における使用のための、本発明の微小胞又は薬学的組成物に関する。あるいは、本発明は、被検体における創傷治癒の治療方法に関し、それは前記被検体に、本発明の微小胞又は本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0175】
「創傷治癒」なる表現は、任意の種類の任意の部位における創傷治癒に関する。それは正常及び障害性創傷治癒であり得る。後者は、特に、疾患の場合、例えば、糖尿病、血管炎、動脈閉塞性疾患、慢性静脈及び/又は感染潰瘍、並びに不完全治癒胃潰瘍などで見いだされる。障害性創傷治癒はまた神経支配障害の場合、例えば、対麻痺、ハンセン病、神経障害など、及び介護を必要とする人の圧迫壊疽において見いだされる。障害性創傷治癒は、特に腸の手術及び皮膚及び他の臓器の移植の後で、縫合が弱い場合に、それぞれ生じる可能性がある。障害性創傷治癒はまた、骨折、火傷、及びステロイドを用いた治療の場合においても見いだされる。
【0176】
本発明において、「創傷治癒」又は「創傷修復」は、損傷後に皮膚(又は他の臓器)がそれ自体修復する複雑な過程を指す。本明細書で使用されるように、用語「創傷」は任意の組織への損傷を含み、例えば、癒すことが遅延した又は困難な創傷、及び慢性の創傷を含む。創傷の例としては、開放創傷と閉じた創傷の両方を含むことができる。用語「創傷」は例えば、異なる状況で惹起された皮膚及び皮下組織へ傷害(例えば、長期の床上安静による床ずれ及び外傷によって誘発される創傷)、及び様々な特性を持つ傷害を含む。創傷は傷の深さに応じて4段階のいずれかに分類され得る:i)上皮に限られたグレードIの創傷;ii)真皮内に及んだグレードIIの創傷;iii)皮下組織に及んだグレードIIの創傷;及びiv)骨が露出した(例えば、大転子又は仙骨など骨の圧力点)グレードIV(又は全層創傷)の創傷。
【0177】
用語「慢性創傷」とは、一般的に治っていない傷を指す。例えば、3ヶ月以内に治癒しない傷は慢性的とみなされる。慢性創傷は、静脈性潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、糖尿病性足部潰瘍、血管炎性潰瘍、褥瘡、熱傷潰瘍、外傷誘発潰瘍、感染性潰瘍、混合潰瘍、壊疽性膿皮症を含む。慢性創傷は、完全又は部分的な動脈閉塞に起因する潰瘍を含む、動脈潰瘍であり得る。慢性創傷は、静脈弁の機能不全及び関連する血管疾患に起因する潰瘍を含む、静脈性潰瘍又は静脈うっ血性潰瘍であり得る。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供されており、そこでは、慢性創傷は以下のAHCPRステージの褥瘡の1つ以上により特徴付けられる:ステージ1、ステージ2、ステージ3、及び/又はステージ。
【0178】
本明細書に使用されるように、慢性創傷は、例えば、以下の一つ以上によって少なくとも部分的に特徴づけられる創傷を指す:(1)創傷の炎症の慢性的自己永続状態、(2)欠損及び欠陥創傷細胞外マトリックス、(3)応答性が弱い(老化した)創傷細胞、特に線維芽細胞、限定的な細胞外マトリックスの生産、及び/又は(4)遊走のために必要な細胞外マトリックスの編成の欠如及び足場の欠如に一部起因する再上皮化の失敗。慢性創傷はまた、1)例えば、糖尿病、圧力(褥瘡)、静脈潰瘍、動脈潰瘍を含む、長期の炎症および潰瘍性病変につながるタンパク質分解活性;2)病変部におけるマトリックスの進行性堆積、3)長い修復時間、4)少ない創傷収縮、5)遅い再上皮化、6)肉芽組織の厚さの増加、によっても特徴づけることができる。
【0179】
典型的な慢性創傷は、「褥瘡」を含むことができる。典型的な褥瘡はAHCPR(Agency for Health Care Policy and Research, U.S. Department of Health and Human Services)ガイドラインに基づいて4つの段階に分類され得る。ステージIの褥瘡は、無傷の皮膚の観察可能な圧力関連の変化であり、その指標は、隣接又は体の反対の領域に比べ、以下の一以上の変化を含み得る;皮膚温度(暖かさ又は涼しさ)、組織の一貫性(固い又は浸潤性間隔)及び/又は感覚(痛み、かゆみ)。潰瘍は軽く色素沈着した皮膚において持続的赤みの定まった領域として現れ、ここで、濃い皮膚の色調においては、潰瘍は持続性の赤、青、又は紫の色相で現れる。ステージ1の潰瘍は、無傷の皮膚の脱色できない紅斑、及び皮膚潰瘍の病変を含み得る。濃い皮膚を持つ個体では、皮膚の変色、暖かさ、浮腫、硬結、又は硬さもまた、ステージ1の潰瘍の指標となり得る。ステージ2は、表皮、真皮、またはその両方を含む、部分的厚さの皮膚の損失により特徴付けられる。潰瘍は表面的であり、侵食、水疱、又は浅いクレーターとして臨床的に現れる。ステージ3潰瘍は、下層の筋膜まで、しかし貫通せずに広がっている可能性がある皮下組織への損傷又は壊死を伴う、全層皮膚欠損によって特徴づけることができる。潰瘍は、隣接組織の弱体化を伴うか又は伴わない深いクレーターとして臨床的に現れる。ステージ4の潰瘍は、筋肉、骨、又は支持組織(例えば、腱、関節包)に対して、広範な破壊、組織壊死、又は損傷を持つ、全層皮膚欠損によって特徴づけることができる。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供されており、そこでは、慢性創傷は以下のAHCPRステージの褥瘡の1つ以上により特徴付けられる:ステージ1、ステージ2、ステージ3、及び/又はステージ4。
【0180】
典型的な慢性創傷はまた、「褥瘡性潰瘍」を含むことができる。典型的な褥瘡性潰瘍は、骨ばっている隆起上での、虚血につながる、長時間の単調な圧力の結果として生じ得る。創傷は、体重を開放するために自分自身を再配置することができない患者、例えば麻痺、意識不明、又はひどく衰弱した人などに発生する傾向がある。米国保健社会福祉省によって定められるように、主要な予防策は、高リスク患者の同定、頻繁な評価、予防対策、例えば、スケジュールされた再配置、適切な圧力除去寝具、防湿層、及び十分な栄養状態を含む。治療の選択肢は、例えば、圧力除去、外科的及び酵素的な創面切除、湿潤創傷ケア、細菌負荷のコントロールを含み得る。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供されており、そこでは慢性創傷は褥瘡性潰瘍又は潰瘍によって特徴づけされ、それは骨ばっている隆起上での、虚血につながる、長期間の単調な圧力から生じる。
【0181】
慢性創傷はまた、「動脈性潰瘍」を含むことができる。慢性動脈性潰瘍は、一般的に動脈硬化や高血圧、心血管疾患を伴う潰瘍であると理解される。それらは痛みを伴い、境界明瞭で、多くの場合、横下肢とつま先に見られる。動脈潰瘍が完全又は部分的な動脈閉塞によって特徴づけることができ、これは、組織壊死及び/又は潰瘍につながる可能性がある。動脈潰瘍の兆候は、例えば、四肢の無脈、痛みを伴う潰瘍、通常十分限局性である小さな、点状潰瘍、冷涼または寒冷な皮膚、毛細血管回復時間の遅延(簡潔には、つま先の端を押して放すと、通常の色は約3秒以内につま先に戻るべきである)、萎縮が現れた皮膚(例えば、光沢、薄い、乾燥)、及び指先と足の毛の損失を含む。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、完全または部分的な動脈閉塞に起因する動脈性潰瘍又は潰瘍形成によって特徴づけられる。
【0182】
典型的な慢性創傷は、「静脈性潰瘍」を含むことができる。典型的な静脈性潰瘍は、下肢に影響を与える潰瘍の最も一般的なタイプであり、静脈弁の機能不全によって特徴づけることができる。通常の静脈は、血液の逆流を防止する弁を有する。これらの弁が無能力となると、静脈血の逆流は、静脈うっ血を引き起こす。赤血球からヘモグロビンが漏れ、血管外空間への漏れ、一般的に指摘される茶色がかった変色を引き起こす。静脈性潰瘍の周囲の皮膚の経皮酸素分圧が低下し、その領域の正常な血管増生を妨げる力があることを示唆している。リンパ排液と流れもまた、これらの潰瘍において役割を果たしている。静脈性潰瘍は内果の近くに出現する場合があり、通常浮腫や硬結下肢との組み合わせで発生し、それは浅く、あまり痛くなく、患部からの滲出性分泌を呈する。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、静脈弁の機能不全と関連する血管疾患に起因する静脈性潰瘍又は潰瘍形成によって特徴づけられる。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、完全または部分的な動脈閉塞に起因する動脈性潰瘍又は潰瘍形成によって特徴づけられる。
【0183】
典型的な慢性創傷は、「静脈うっ血性潰瘍」を含むことができる。静脈不全に関連付けられる病変であるうっ血性潰瘍は、内果において、通常、圧痕浮腫、静脈瘤様腫脹、斑状の色素沈着、紅斑、触知不能な点状出血及び紫斑を伴って、より一般的に存在する。うっ滞性皮膚炎及び潰瘍は、一般的に痛みより痒みがある。典型的な静脈うっ血性潰瘍は、局所低酸素症を生じる下肢の慢性受動的静脈性うっ血によって特徴づけることができる。これらの創傷の病変形成の一つの可能なメカニズムは、厚い血管周囲のフィブリンカフを超えて組織への酸素拡散の障害が含まれる。別のメカニズムは、血管周囲組織に漏れる高分子が、皮膚の完全性の維持のために必要な成長因子をトラップすることである。さらに、大きな白血球の流れが静脈性うっ血のため遅くなり、毛細血管を塞ぎ、活性化し、そして血管内皮を損傷し、潰瘍形成を起こしやすくする。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、静脈弁の機能不全と関連する血管疾患に起因する静脈性潰瘍又は潰瘍形成によって特徴づけられる。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、下肢の慢性受動的静脈うっ血、及び/又は生じた局所低酸素症に起因する静脈うっ滞性潰瘍や潰瘍によって特徴づけられる。
【0184】
典型的な慢性創傷は、「糖尿病性潰瘍」を含むことができる。糖尿病患者は、神経と血管合併症の両方に起因する足潰瘍を含む潰瘍になりやすい。末梢神経障害は足及び/又は脚の感覚の変化か、又は完全な損失を引き起こす可能性がある。高度な神経障害を伴う糖尿病患者は、鋭い−鈍いの区別についての全能力を失う。神経障害を有する患者においては、足のいかなる切り傷や外傷も数日間又は数週間完全に気がつかない状態であり得る。実際には、潰瘍がかなりの期間存在していた場合に、潰瘍が「ちょうど現れた」と神経障害を持つ患者に気づかせることは珍しくない。神経障害の患者については、厳格な血糖コントロールは、病気の進行を遅らせることが示されている。シャルコー足変形も、感覚の減少の結果として発生する可能性がある。自分の足に「正常な」感覚を持つ人々は、あまりにも多くの圧力が足の領域に置かれている場合、自動的に感知する能力を持っている。識別されると、私たちの体は、このようなストレスを和らげるために本能的に位置をずらす。高度の神経障害を有する患者は、持続的な圧力傷害を感知するための能力を失い、結果として、足底潰瘍につながる組織の虚血及び壊死が生じる可能性がある。更に、足の骨の微小破壊は、気付かれずに治療しなければと、外観を損なう慢性的な腫れ及び更なる骨突出部をもたらし得る。微小血管疾患は、糖尿病患者の重大な合併症の一つであり、潰瘍につながる可能性がある。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、神経学的合併症及び糖尿病の血管合併症の両方に起因する糖尿病性足潰瘍及び/又は潰瘍形成によって特徴付けられる。
【0185】
典型的な慢性創傷は、「外傷性潰瘍」を含むことができる。外傷性潰瘍の形成は、身体への外傷の結果として生じ得る。これらの傷害としては、例えば、動脈、静脈またはリンパ系jへの損傷、組織層−表皮、真皮、皮下軟部組織、筋肉及び骨の損失、身体の部分又は臓器の損傷、及び身体の部分又は臓器の損失を含む。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、身体への外傷に関連付けられている潰瘍形成によって特徴づけられる。
【0186】
典型的な慢性創傷は、第一度熱傷(即ち、皮膚の表面的な発赤部位);第二度熱傷(水疱液が除去された後、自然治癒することができる水ぶくれ損傷部位):第三度熱傷(皮膚全体にわたるやけどで、通常、創傷治癒のための外科的介入を必要とする):火傷(熱湯、グリースやラジエーター液から生じ得る);熱傷(炎から生じ得、通常は深部熱傷):化学的(酸及びアルカリから生じ得、通常は深部熱傷):電気的(家の中の低電圧又は仕事場での高電圧のどちらか):爆発閃光(通常は表面的な損傷):接触火傷(通常は深部熱傷、マフラーのテールパイプ、ホットアイロン及びストーブから生じ得る)を含む「熱傷潰瘍」を含めることができる。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、身体への火傷に関連付けられている潰瘍形成によって特徴づけられる。典型的な慢性創傷は、「血管炎性潰瘍」を含むことができる。血管炎性潰瘍も下肢に発生し、痛みを伴う、境界明瞭な病変であり、それは触知可能紫斑病及び出血性嚢胞が関連付けられている可能性がある。膠原病、敗血症、及び様々な血液疾患(例えば、血小板減少症、タンパク異常血症)は、この重篤な急性症状の原因である可能性がある。典型的な慢性創傷は、壊疽性膿皮症を含むことができる。壊疽性膿皮症は、単一または複数の、下肢の非常に触ると痛い潰瘍として発生する。深紅から紫の、損なわれた境界が、膿性の中央の欠陥を取り囲んでいる。生検では、一般的に血管炎を明らかにすることができない。半数の患者では、潰瘍性大腸炎、限局性回腸炎、または白血病などの全身性疾患に関連付けられている。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、壊疽性膿皮症に関連付けられている潰瘍形成によって特徴づけられる。典型的な慢性創傷は、感染性潰瘍を含むことができる。感染性潰瘍は様々な生物との直接的な接種後に生じ、重大な所属リンパ節腫大と関連している可能性がある。マイコバクテリア感染症、炭疽病、ジフテリア、ブラストミセス症、スポロトリクム症、野兎病、ねこひっかき病は一例である。第一期梅毒の性器潰瘍は、通常、きれいな堅いベースを持ち、非圧痛性である。軟性下疳及び鼠径部肉芽腫のものは、不揃いで汚れた、より大げさな病変になる傾向がある。所定の実施態様において、慢性創傷を治療する方法が提供され、該慢性創傷は、感染に関連付けられている潰瘍形成によって特徴づけられる。本明細書で使用される、用語「裂開傷」は、破裂又は開裂した、創傷であって、通常、手術創を指す。所定の実施態様において、傷が離開により特徴づけられ、期待された早さで治らない傷を治療する方法が提供される。
【0187】
使用することができる適切な担体は、以前に記載されている。本発明の第一又は第二の微小胞及びそれらの組合わせを含む医薬はまた、創傷治癒のために使用される他の化合物を含むことができる。
【0188】
血管新生関連の使用
血液凝固におけるその役割に加えて、TFは血管新生において役割を果たしている。このことは、TFが遺伝的にノックアウトされたマウスは、血管を発育させることができなかったため、胎生日数9−10日を超えて発育することができなかったことが判明したときに発見された (Carmeliet, et al, 1996, Nature 383:73-75; Bugge et al, 1996, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 93: 6258-6263; Toomey, et al, 1996, Blood 88: 1583-1587)。更なる研究が、凝固プロテアーゼの活性化が、プロテアーゼ活性化受容体の活性化につながることができ、血管新生を刺激する血管内皮増殖因子の産生の増加につながることを実証している(Richard, et al, 2002, Oncogene 20: 1556-1562; Milia, et al, 2002, Circ. Res. 91 :346-352)。更に、腫瘍細胞におけるTFの過剰発現は、腫瘍の増殖、血管新生及び転移を促進する (Mueller, et al, 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 89: 11832-11836)。
【0189】
従って、その他の態様において、本発明は、欠損した血管新生に関連した疾患の治療のための医薬の製造における、本発明の第一又は第二の微小胞又はそれらの組合わせの使用、本発明の第一又は第二の組成物又はそれらの組合わせの使用、又は本発明の第一又は第二の薬学的組成物又はそれらの組合わせの使用に関する。
【0190】
血管新生は、新しい血管又はリンパ管が、既存の管から発達することによって形成されるプロセスである。用語「欠損した血管新生に関連した疾患」は、本発明に使用される場合、血管形成を活性化することによって治療することができる疾患を指す。「血管形成」なる表現は、任意の種類の任意の部位における血管形成に関する。血管形成の促進は、多くの臨床症状に有用であり得る。例えば、本発明の血管新生促進TF担持微小胞は、虚血性疾患、心筋梗塞の最中又は後に、又は冠動脈バイパス手術後に、心筋組織における側副脈管構造の血管新生を促進するために使用され得る。本発明のTF担持微小胞の供給により治療することができる他の疾患又は状態は、末梢又は中枢神経系の病理を引き起こす血管疾患及び/又は虚血性疾患を含む。このような病態/疾患は、例えば、血栓閉塞によって、又は動脈瘤の破裂によって引き起こされる脳血管障害、又は神経細胞死を引き起こす、一般/局所性虚血、運動機能又は感覚機能などの末梢機能障害又は言語障害、虚血性心筋症、又は慢性四肢虚血跛行(骨格筋)など末梢動脈疾患、休息痛/虚血性潰瘍形成/壊疽を含み得る。また、血管形成の促進は、例えば古い血管など、障害を受けた血管を置換するのに十分である。それらは例えば、脳や心臓に存在することができ、よって脳卒中又は梗塞を予防又は治療することができる。予防策はまたプレスビオフレニーに対してとることができる。また、それは、動脈硬化症、クローン病及び潰瘍性大腸炎、糖尿病性網膜症、足/下腿潰瘍の深部静脈血栓症の治療のための血管形成、並び再発防止に関する。
【0191】
欠損した血管新生に関連する疾患を患っている患者は、抗血管新生療法、抗がん治療、疾患または症状を治療するために知られている他の治療と組み合わせて、本発明の微小胞又は本発明に使用の薬学的組成物又はそれらの組み合わせを用いて治療することができる。
【0192】
本明細書において用いられる場合、「治療」とは、限定されないが、既知の薬物を含む。本発明の方法によって治療可能な癌は全ての固形腫瘍及び転移性の癌が含まれ、限定されないが、膀胱、乳房、肝臓、骨、腎臓、結腸、卵巣、前立腺、膵臓、肺、脳及び皮膚の癌からなる群から選択されるものを含む。本発明は、限定されないが、本発明の第一又は第二の微小胞、又はそれらの組合わせにより、単独で、化学療法と併用して、又は放射線療法と併用して、当技術分野で公知の方法による癌の治療を含む(米国特許第6596712号を参照)。
【0193】
本発明のキット
その他の態様において、本発明は、本発明の微小胞を含むキット並びに、試料中の抗凝固療法因子を決定するための該微小胞の使用に関する。
【0194】
本明細書において用いられる場合、用語「キット」は、工程、方法、アッセイ、試料の分析又は操作を容易にするための製品の組合わせに関連して使用される。これらのキットは、本発明に記載の方法を実施するために必要な材料を提供する。
【0195】
用語「抗凝固療法因子」は、本明細書で使用される場合、患者が抗凝固療法を必要とするかどうかを決定するのに有用であるパラメータを指す。抗凝固療法
因子は、限定されないが、プロトロンビン時間(PT)、国際標準比(INR)、修正されたATF(MATF)、訂正されたATF(CATF)、プロトロンビン比(PR)及びフィブリノゲン変換率(FTR)が含まれる。
【0196】
用語「プロトロンビン時間」、「PT」又はそれらの文法的等価物は、本明細書で使用される場合、血液凝固時間の試験を意味し、それは過剰な血液凝固(血栓症)の危険にさらされている患者の治療をモニターするために使用可能である。プロトロンビン時間は、組織異因子−カルシウムの試料への添加から、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換が開始される時点までの時間を指す。プロトロンビン時間は、典型的には、正常なヒト血漿の異なる希釈(好ましくは、0.15MのNaClによる、1:2、1:4、1:10、1:20及び1:40の希釈)を接触させることにより決定され、因子活性が減少した試料を得る(それぞれ、50、25、10、5及び2.5%)。本発明の第一又は第二小胞が試料に追加され、試料が凝固に要する時間が光学的に測定される。
【0197】
プロトロンビン比(PR)は、本明細書中で使用される場合、患者の血漿のPTを正常な個体からの血漿のプールのPTで割って算出される、血液凝固の別の測定を指す。
【0198】
本発明のキット及び使用は、凝固検査室で使用することができる。この試験の異形は多数の用途を持っている(White, et al, Hemostasis and Thrombosis, Basic Principles and Clinical Practice, Coleman, et al, eds., J. B. Lippencott Co., Philadelphia, 頁1048-1060, 1987)。一つの用途は、血液凝固の外因性経路における欠陥を評価することである(因子VII、X、V、およびプロトロンビン)。第二の用途は、再発性静脈血栓症及び癌などの疾患のために長期間経口抗凝固療法を受けている患者を監視することである(Hirsh, J., Seminars in Thrombosis and Hemostasis, 12: 1-11, 1986)。第三の用途は、肝機能障害を評価することである。
【0199】
抗凝固療法の治療域は、出血及び塞栓の合併症の回避に基づく。PT試験による、経口抗凝固療法、並びに他の様々な状態について監視する場合、プロトロンビン時間の2倍の延長が長期治療のために最も望ましい(O'Reilly, Hemostasis and Thrombosis, Basic Principles and Clinical Practice, Coleman, et al, eds., J. B. Lippencott Co., Philadelphia, pp. 1367-1372, 1987)。この延長因子は、プロトロンビン比(PR)として定義され、患者血漿のPTを、正常個体からの血漿のプールのPTにより割って算出される。高いPRは、より敏感なPT試薬を示している。
【0200】
抗凝固療法を監視するためのより敏感な試薬の利点は、抗凝固薬の低用量を使用することである。これらの低用量は、血栓塞栓症に対して十分な保護作用を与え、一方出血性合併症を最小限に抑える。
【0201】
キットには、それに加えて、定められた限度内で試薬を維持することができる包装を含んでもよい。このような充填物を製造するのに適した材料は、ガラス、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなど)、ボトル、バイアル、紙、小袋などが挙げられる。本発明のキットは、更に、該試薬又は本発明の方法における試薬を使用するための使用説明書を含めることができる。使用説明書は、印刷物の形、または被検体により可読できるように使用説明書を保管できる電子サポートの形、例えば、電子記憶媒体(磁気ディスク、テープなど)、光学メディア(CD−ROM、DVD)などなどで見いだすことが可能である。媒体は追加的又は代替的に、前記使用説明書を提供するインターネットのウェブサイトを含めることができる。
【0202】
本発明は、単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではないと考えられるべきであり、以下の実施例により詳細に記載されている。
【実施例】
【0203】
方法
血漿における凝固アッセイ
血漿における自発的プロコアグラント活性(無刺激)を、4チャネル凝固計(Start 4,Diagnostica Stago)にて二段階凝固アッセイにより測定した。簡潔に言うと、50μlの血小板プール血漿を、予め強化したキュベットに加え、50μlの試料(TFまたは対照としての蒸留水)を加えた。この混合物を37℃で60秒インキュベートし、50μlの25mM炭酸カルシウムを直ちに加え、凝固計で凝固時間を秒数として測定し、血塊の形成により確認した。血小板プール血漿を遠心分離により得て、血小板の数をコールターで測定した。
【0204】
それぞれ血友病A、BまたはC相当する凝固因子欠損血漿(FVIII、FIXまたはFXI)に対するTFのプロコアグラント作用を、イムノアフィニティー技術により枯渇させた市販の血漿(Dade Behring Marburg GmbH)を用いることで調べた。各場合で、前記凝固因子の最終含量は1%未満であった。
【0205】
一連の遠心分離プロセスで血小板から奪った血漿において、血小板減少様症状におけるプロコアグラント作用を調べた。
【0206】
全血における凝固アッセイ
非抗凝固処理全血におけるプロコアグラント活性を凝固法により測定した。試験する種々の薬剤(mTF)を、0.8mlの非抗凝固処理全血に0.2ml加え、抽出の始めから安定かつ固化した血塊が表れるまでクロノメーターで凝固時間を測定した。種々の薬剤の作用を、血液凝固時間の短長で評価した。
全血試料は患者または健常なボランティアから得た。
実施例1
完全長TF His−タグ修飾タンパク質の酵母(TT−173)における発現に基づく、プロコアグラント製品の製造。
酵母エピソームベクターは、国際公開第2008080989号に記載されており、URA3遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、複製の酵母2μ起源、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)プロモーター及びホスホグリセリン酸キナーゼの酵母転写終結シグナルを含み、GPDプロモーターの制御下で、18の余分なヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)を3’末端に持ち、天然のhTF配列(配列番号6)のNグリコシル化の候補の一つを不活性化するAsn124Ala変異を持つ、成熟したhTFタンパク質(配列番号1のアミノ酸33−295)をコードするcDNAのクローニングに使用された。
【0207】
酵母菌株T73 ura3−の変換後、ウラシルを含まない培地で生育可能な株が回収され、基本的に国際公開第2008080989号に記載されたように、酵母抽出物のウェスタンブロット分析により、hTFを発現するそれらの能力を測定した。
【0208】
産業化以前のレベルで酵母抽出物の製造のスケーリングの可能性を評価するために、2リットルのバイオリアクター(Biostat B−2L.BRAUN)が、30℃、250から300rpmの撹拌速度、pH4.5、及び空気流速が6L/mにて細胞を増殖させることにより行われた。培地は、CSM−URA:0.78g/L;YNB:6.7g/L;スクロース:20g/Lであった。培養がODが8.0に達したときに発酵を停止させた。
【0209】
発酵から得られた生成物は、3000rpm(1200×g)で10分間、遠心分離により回収され、200mlの溶解緩衝液(20mMリン酸緩衝液(pH7.4)、50mMのNaCl)に再懸濁した。酵母は、高圧(1,000バール(10
8Pa))(ホモジナイザーNIRO SOAVIS.Panda 2K)でホモジナイズし、ホモジネートを4℃で30分間13,000rpmで(13,000×g)で遠心分離した。ペレットを廃棄し、清澄酵母抽出物(CYE)と命名した上清を回収した。
【0210】
rTFを含むこのCYEは、クロスフロー濾過システム(Sartorius sartoflow Slice 200 Benchtop)のタンジェンシャルフロー濾過の連続した工程により、徐々に細孔径を減らした(0.45μm、0.2μm及び0.1μm膜(Sartorius,ポリスルホン)フィルターを使い、分画した。
【0211】
濾過の連続する工程の後の4つの独立したCYEから得られた異なる保留物と透過物のプロコアグラント活性が表1に示されている。4つのMFRが0.1画分の各々におけるTFの存在が、
図1に示されている。
【0212】
このようにして、精製された酵母の小胞の調製物(以下、TT−173と呼ばれる)で、本質的に国際公開第2008080989号に記載されているようにインビボ及びインビトロでのアッセイを用いて測定した異なるプロコアグラント活性を有するものを得た。この結果は、TT−173の産物を精製するために使用されるタンジェンシャルフロー濾過の手順の使用は、酵母由来の膜の微小胞に関連付けられている生物学的に活性なhTFの回収を可能にすることを示している。
【0213】
実施例2
PSの添加によるTT−173生物活性の増強。
2.1 TT−173生物活性に関するホスファチジルセリン(PS)の効果
PS(0.1mM)を、TT−173に加え、混合物を最大4時間インキュベートした。PSが追加された時間(0)から始まり、異なる時点で、TT−173/PS混合物のアリコートが標準的な凝固アッセイにおいて凝固活性について調べられた。
【0214】
結果は、
図2に示され、PSの添加は、明らかに、凝固時間を約10秒間減少させ(パネルA)、これは特異的活性の6倍の増加に対応し(パネルB)、この増幅は時間依存性であり、PSの添加後に1から2時間で最大に達している。
【0215】
凝固時間におけるPSそれ自身の無視できる影響(図示しない)、及びTT−173への添加後の最初の1時間に観測された効果の上昇は、TT−173とPSの間に何らかの相互作用が起こったことを示唆し、この相互作用は、凝固時間を加速するために重要であった。
【0216】
同様の濃度(0.1mM)での非荷電又は正に荷電したリン脂質の付加は、TT−173の凝固活性の検出可能な増加を誘発しないため、この効果は、負に荷電したリン脂質に特異的であった。特に、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、スフィンゴミエリン(SM)、又はホスファチジルコリン(PC)の何れもは、凝固活性における検出可能な増加を誘発しない。
【0217】
その後、PS/TT−173の相互作用が酵母由来の構造に限定されていたかどうか、それが人工的に作られた小胞において再作成することができるかどうか試験された。これを試験するため、PSを、TT−173、またはインビトロで再脂肪付加したrTFのいずれかに相当する凝固活性を持つアリコートに、異なる濃度(0.05から1mMの範囲)で添加した。R/Tで2時間、混合物をインキュベートした後、両方のrTF含有生成物からの試料を、その凝固活性について試験した。結果を
図3に示す。以前に見られたように、TT−173へのPSの添加は明らかにその活性を約6倍増加させる。この効果は、PSの0.05から0.5mMの濃度範囲で観察された。高濃度(1mM)では、PSは明確な凝固抑制効果を生じた。驚くべきことに、再脂肪付加rTFへのPSの付加は、使用されるPSの濃度のいずれにおいても、プロコアグラント活性のはっきりと認識できる増加をもたらさなかった。繰り返しになるが、試験されたPSの高濃度(1mM)は明確な阻害効果を生み出した。高濃度でのPS小胞が、可溶性凝固因子と効率的に相互作用し、それらを捕捉し、したがって、rTF含有小胞との相互作用を制限する場合、TT−173又は再脂肪付加rTFの試料の何れかのPSの濃度が高いことにより、この抑制効果は、説明することができる。
【0218】
このことは、PCのPSに対する異なる比率を有する既存のrTF含有ミセルに、増加したPS濃度を加えた結果として、凝固活性に及ぼす影響を試験することにより更に確認された。完全なrTF活性を復元するリン脂質の至適濃度は十分に確立され、それはホスファチジルセリン(PS)に対するホスファチジルコリン(PC)の比が、80:20から70:30に対応する。
図4(黒色バー)は、rTFがPC単独(PC:PSの濃度が100:0)で、又はPCに関するPSの濃度比を増加させて(PC:PSの濃度がそれぞれ、95:5、90:10及び80:20)、再脂肪付加された典型的な凝固実験を示している。結果は、PSの量を増加して添加すると、凝固時間が減少することを明らかに示している。しかし、余分なPSが、試験された任意のPC:PSの比で既存のミセルに追加された場合、凝固活性のいかなる増加を及ぼさなかった(
図4、灰色のバー)。
【0219】
観察された効果は真核生物由来の構造に制限されており、再脂肪付加によって人工的に作られた小胞に作成し直すことができなかったというさらなる証拠を提供するために、PSを、酵母細胞で産生されたTT−173小胞、又はPC:PSの比が80:20及び70:30でインビトロで再脂肪付加されたrTFのどちらかと同等の凝固活性を持つアリコートに、濃度0.1mMで添加した。異なる小胞を、R/Tで2時間、PCとともにインキュベートした後、異なるrTF含有生成物由来の試料を、その凝固活性について試験した。結果を
図5に示す。観察されるように、酵母起源由来のTT−173にPSを添加すると、明らかに凝固時間が減少したが、一方、予想されたように、再脂肪付加されたrTFへのPSの追加は、再脂肪付加に使用されたPC:PSのいかなる割合においても、プロコアグラント活性のはっきりと認識できる増加をもたらさなかった。
【0220】
PSの添加は酵母由来の小胞に関連付けられている場合にのみ有効であったかどうかを試験するために、再脂肪付加されたrTFとTT−100の小胞(TFタンパク質配列を含まないプラスミドで形質転換された組換え酵母から得られた微小胞)、TT−173と同様の生成手順に従って非組換え酵母から得られた、を用いて実験が行われた。再脂肪付加rTFのアリコートを、2時間、先にPS(0.1mM)でインキュベートされたTT−100小胞の異なる濃度で混合した。30分(m)の後、各アリコートの凝固活性を測定した。結果(
図6)は、明らかに、使用するTT−100の量は独立しており、ΤΤ−100/PSの混合物は再脂肪付加されたrTFにおいて検出可能な効果を持っていないことを示している。
【0221】
この結果は、凝固活性におけるPSの効果は、酵母由来の小胞との会合に依存しており、これらの小胞は、rTFを含まなければならないことを示している。
【0222】
上記結果を考慮して、TT−173のPSによって誘発される昇圧凝固効果
図2、
図3及び
図5を参照)を、i)PSがrTFおよびFVIIの間の相互作用を促進し、相互作用のためのより適切な足場を誘導しii)添加されたPSが小胞に構造的な影響を誘発し、PSに富んだ領域を生みだし、活性化血小板におけるように、プロトロンビナーゼ複合体形成のためより適切である、又はiii)両方の作用の組み合わせである場合、説明することができた。
【0223】
rTF:FVIIの相互作用におけるPSの影響の可能性を試験するために、TF:FVIIの複合体の酵素活性を定量化するために定められた標準的なアミド分解アッセイが使用された。この実験では、追加されたPSの有無にかかわらず、TT−173の3種類の濃度が、市販の精製されたFVIIaの2つの異なる濃度でインキュベートした。TT−173へFVIIaを添加した後、TF/FVIIaの活性は、特異的発色基質S−2288を酵素的に変換するその複合体の能力によって検出された。
図5に示すように、PSの有無にかかわらず、試験された3つの濃度におけるTT−173と、使用されたFVIIaの50nM(図示せず)又は500nM(
図7)の両方の濃度でのTT−173との間のアミド分解活性において目立った違いはなかった。これらの結果は、TT−173へのPSの添加が初期のrTF−FVIIの相互作用に有意な影響を及ぼさないことを示している。
【0224】
しかし、同じTT−173の試料が、正常血漿(
図8、パネルA)又は正常全血(
図8、パネルB)のプロコアグラント活性について試験された場合、PSがTT−173に会合していたときに、凝固活性において非常に有意な増加が観察された。
【0225】
従って、TT−173活性におけるPSの刺激効果は、初期のTF:FVII相互作用より凝固カスケードの下流における作用に起因するべきである。私たちの解釈は、PSは、TT−173小胞の表面を改変し、活性化血小板で観察されたものと同様、PS依存の足場を提供するということである。
【0226】
2.2 TT−173とTT−173 PSの作用機序
正常な止血時には、活性化段階を達成するのに要する時間(FV、FVIIIおよび血小板を活性化するために必要なトロンビン濃度に到達するまでの時間)は、約4分である。これは、TF及びFVII分子(両方とも血漿中又は損傷した細胞の膜のいずれかで比較的低濃度で存在する)の間の相互作用を可能にするために必要な時間である。TFおよびFVIIとの間の分子衝突及び生じる相互作用は、FXのFXaへの変換をもたらし、順に、トロンビンを生成する。
【0227】
従って、適切な膜に組み込まれたTFの濃度を増加させると、例えば、血漿又は血液にTT−173を追加することにより、TF及びFVIIの間の相互作用のための機会を増加させるであろう。これは、FXaのより速くより高い生産性を生じ、したがって、血小板、FVIII及びFVの活性化のために必要なトロンビンの量の迅速な生産をもたらす。
【0228】
TT−173において、TFは、別々のPSのパッチをまた担持する膜状区画に挿入される。従って、血漿又は血液へのTT−173の添加は、高濃度での凝固カスケードのイニシエーターだけでなく、活性なプロトロンビナーゼ複合体の形成のために、適切にPSを含有した生理的足場を提供する適切な表面を与える。
図9は、TT−173の作用の提案されたメカニズムをまとめている。
【0229】
正常な血液凝固中は、血液凝固の活性化は約4分かかる。これは、血管に隣接し損傷した組織中の比較的低濃度のTFタンパク質、および血流中を循環するFVIIaの不足量の結果である。
【0230】
このモデルでは、FXaの生産が増加しており、PSのある無しに関わらず、TT−173が正常血漿に添加された場合に、観察された凝固時間の劇的な減少を説明している(
図10、左)。更に、FVIII又はFIX(血友病A及びBにおいて欠損)が存在しないか、または非常に低い濃度である場合、プロトロンビナーゼ複合体の形成を介して、このモデルは観察された正常な凝固時間を説明している(
図10、右)。凝固因子の欠損の場合、TT−173へのPSの添加は明らかに凝固時間を短縮する。この効果は、FVII又はFVの濃度が1%未満(
図11)である血漿でより顕著である(
図11)。
【0231】
そのモデルが予測したように、FVIIおよびFXの後天的欠損を持つ血漿の凝固時間は、ワルファリン治療の効果として、TT−173を添加することにより正規化される(
図10)。
【0232】
2.3 TT−173活性における酵母膜の役割
酵母の小胞成分は、それ自体限定的なプロコアグラント活性を示したが、しかし、それらの全ては、微粒子の完全性を維持するために不可欠であるべきである。添加されたPSを有する及び有しないTT−173小胞が、透析可能な界面活性剤で処理することにより破砕され、次いで透析によってインビトロで再構成された場合、初期活性の約50%が失われた(
図13、パネルA)。しかし、同様の実験が再脂肪付加されたrTF小胞を用いて行われた場合、感知できるほどの差は透析の前後に観察されなかった(
図13、パネルB)。
【0233】
この結果は、凝固活性は、rTF、酵母タンパク質及び酵母脂質の相対的な量で存在するだけでなく、すべてのこれらの成分の空間的配置/向きで存在することを示している。小胞がインビトロで自発的に生産された場合には、TT−173の全ての膜成分が新たに形成された膜にランダムに組み込まれ、真核生物の生きた細胞が提供することができる状況でのみ獲得することができる複雑なコンフォメーションを獲得しなかった。
【0234】
実施例3
昆虫細胞におけるTFタンパク質の完全長の発現に基づくプロコアグラント生成物の生産
3.1 組換えバキュロウイルスの構築
成熟したヒト組織因子(TF)の全長を発現する組換えバキュロウイルス(rBV)の構築は以下のように行った:
成熟ヒトTFタンパク質(アミノ酸33−295)をコードするcDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により816−bpの断片として増幅した。このPCR反応のために、TFをコードする遺伝子を含むプラスミドpTT−103をテンプレートとして使用し、オリゴヌクレオチドA 5’−CCGCTCGAGCGGTTATGAAACATTCAGTGGGGAGTTCTC−3’(配列番号7)及びB 5’−CCGCTCGAGCGGTTATTCTCTGAATTCCCCTTTCTC−3’(配列番号8)、それぞれをTF遺伝子の5’又は3’末端でアニーリングし、プライマーとして使用した。得られたDNA断片は、NcoI及びHindIIIで消化し、同じ制限酵素で消化したバキュロウイルストランスファーベクターpFastBacl−mAV−MCSに挿入された。得られたプラスミド、pFB−TFを、挿入されたTF配列の正確さを評価するために塩基配列決定に供し、Bac−to−Bacシステムを用いて、製造業者の指示(インビトロジェン)に従って、対応するrBVを生成するために使用した。活性なTF含有小胞の生産及び精製のために、昆虫細胞を、5PFU/細胞の多重度でTFを発現するrBVで感染させた。細胞は感染後72時間で回収し、リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、溶解緩衝液(50nMのTris−HCl、pH8.0、500mMのNaCl)中に再懸濁した。その後、細胞抽出物を加圧型細胞破砕装置を用いて破砕した。細胞抽出物のアリコートを、実施例2で前述したプロトコルに従って、凝固活性について試験した。表2は、抽出物によって誘発された凝固活性は示す。
【0235】
【0236】
3.2野生型TFの生物活性を保有するTT−173昆虫細胞由来微小胞におけるホスファチジルセリン(PS)の作用
観察され、ここで特許請求された効果は真核生物由来の構造に制限されており、再脂肪付加によって人工的に作られた小胞に作成し直すことができなかったというさらなる証拠を提供するために、PSを、酵母細胞で産生されたTT−173小胞、昆虫細胞で産生されたTT−172小胞、又はPC:PSの比が80:20及び70:30でインビトロで再脂肪付加されたrTFのどちらかと同等の凝固活性を持つアリコートに、濃度0.1mMで添加した。異なる小胞を、R/Tで2時間、PSとともにインキュベートした後、異なるrTF含有生成物由来の試料を、その凝固活性について試験した。結果を
図14に示す。観察されたように、昆虫細胞の起源からのTT−170へのPSの添加は、酵母細胞を用いて得られたものと同様の凝固時間の減少をもたらし、明らかに凝固時間を短縮した。しかし、予想されたように、再脂肪付加rTFへのPSの付加は、再脂肪付加に使用されるPC:PSのいずれの割合においても、プロコアグラント活性のはっきりと認識できる増加をもたらさなかった。
【0237】
実施例4
PS添加のもう一つの予想外の効果は、TT−173小胞の安定性の発生率であった。この効果を試験するために、実施例2に記載されるように、PSとともにインキュベートされたか又はされていない3つの独立したTT−173ロットからのアリコートを、長期間にわたって二つの異なる温度(4℃と20℃)に維持した。
【0238】
異なる時点で、各試料からのアリコートを凝固活性について分析した。この実験の結果を
図15に示す。上に示したように、TT−173試料へのPSの添加は、時間0で最大10秒凝固時間を加速し、そして予期せぬことに、PSを含む試料の安定性は、PSの無い試料と比較して延長された。この安定性の効果は20℃で特に顕著であったが、一方、余分なPSなしのTT−173の試料は5時間後に活性の50%以上を失っており、PSが添加された試料は、少なくとも4日間安定していた。
【0239】
PSの添加のある無しによらず、TF−173の異なるバッチの安定性の最小値の平均が、その後20℃及び4℃で決定された。
【0240】
安定性の最小値の平均を
図15(パネルCおよびD)に示す。
【0241】
実施例5
プロコアグラント剤によるTT−173のプロコアグラント効果の増強。
異なる濃度のFVII(20nM及び60nM)、FVIIa(20nM及び60nM)、FX(1000nM及び3000nM)及びFXa(1000nM)が、TT−173に添加された。PSが追加された時間(0)から始まり、異なる時点で、TT−173/FVII混合物のアリコート及びTT−173/FX混合物のアリコートが標準的な凝固アッセイにおいて凝固活性について調べられた。結果は、
図16に示されるように、FVII、FVIIa及びFXの添加は、凝固時間をおよそ2秒減少させ、FXaの添加は、凝固時間をおよそ7秒減少させることを明らかに示している