特許第5857064号(P5857064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5857064メタクリル酸およびその誘導体を製造するための方法ならびにこれを用いて製造されるポリマー
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  • 特許5857064-メタクリル酸およびその誘導体を製造するための方法ならびにこれを用いて製造されるポリマー 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5857064
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】メタクリル酸およびその誘導体を製造するための方法ならびにこれを用いて製造されるポリマー
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/38 20060101AFI20160128BHJP
   C07C 57/04 20060101ALI20160128BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20160128BHJP
   C08F 20/12 20060101ALI20160128BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160128BHJP
【FI】
   C07C51/38
   C07C57/04
   C08F20/06
   C08F20/12
   !C07B61/00 300
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-540434(P2013-540434)
(86)(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公表番号】特表2014-505668(P2014-505668A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】GB2011052271
(87)【国際公開番号】WO2012069813
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】1019915.6
(32)【優先日】2010年11月24日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1105467.3
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ルーサイト インターナショナル ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、デイビッド ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】イーサム、グラハム ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】ポリアコフ、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ハドル、トーマス アンドリュー
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−516089(JP,A)
【文献】 特開平08−208917(JP,A)
【文献】 Industrial & Engineering Chemistry Research,1994年,33(8),pp.1989-1996
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/00−69/96
C08F 20/00−20/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イタコン酸、シトラコン酸もしくはメサコン酸またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸を、塩基を触媒として脱炭酸することによる、メタクリル酸を製造するための方法であって、前記脱炭酸が、240℃を超え、かつ275℃までの温度で実施される、方法。
【請求項2】
前記脱炭酸が、245〜275℃の温度範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸反応体が、水溶液中にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基触媒が、水溶液中にある、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱炭酸反応が、大気圧を超える圧力で実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基触媒が、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩(エタノアート)、アルコキシド、炭酸水素塩もしくはジ−もしくはトリ−カルボン酸の塩または上述したもののうちの1種の4級アンモニウム化合物または1種もしくは2種以上のアミンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基触媒が、次に挙げるもの:LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、CsOH、Sr(OH)、RbOH、NHOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO、Mg(HCO、Ca(HCO、Sr(HCO、Ba(HCO、NHHCO、LiO、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、Li(OR)、Na(OR)、K(OR)、Rb(OR)、Cs(OR)、Mg(OR、Ca(OR、Sr(OR、Ba(OR、NH(OR)(式中、Rは、1種または2種以上の官能基で場合により置換されたC〜C分岐、非分岐または環状
アルキル基のいずれかである);NH(RCO)、Li(RCO)、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCO(式中、RCOは、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩およびメタクリル酸塩から選択される);(NH(CORCO)、Li(CORCO)、Na(CORCO)、K(CORCO)、Rb(CORCO)、Cs(CORCO)、Mg(CORCO)、Ca(CORCO)、Sr(CORCO)、Ba(CORCO)、(NH(CORCO)(式中、CORCOは、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩およびシュウ酸塩から選択される);(NH(COR(CO)CO)、Li(COR(CO)CO)、Na(COR(CO)CO)、K(COR(CO)CO)、Rb(COR(CO)CO)、Cs(COR(CO)CO)、Mg(COR(CO)CO、Ca(COR(CO)CO、Sr(COR(CO)CO、Ba(COR(CO)CO、(NH(COR(CO)CO)(式中、COR(CO)COは、クエン酸塩、イソクエン酸塩およびアコニット酸塩から選択される);メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;およびRNOH(式中、Rは、メチル、エチル プロピル、ブチルから選択される)のうちの1種または2種以上から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が、均一であっても不均一であってもよい、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
塩基OH:酸の有効なモル比が、0.001〜2:1である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記メタクリル酸生成物が、そのエステルを製造するためにエステル化される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
メタクリル酸またはメタクリル酸エステルの重合体または共重合体の調製方法であって、
(i)請求項1〜9のいずれか一項に記載のメタクリル酸の調製ステップと、
(ii)前記メタクリル酸エステルを調製するために、(i)で調製された前記メタクリル酸をエステル化する任意的なステップと、
(iii)その重合体または共重合体を製造するために、(i)で調製された前記メタクリル酸および/または(ii)で調製された前記エステルを、場合により1種または2種以上のコモノマーと一緒に重合するステップと
を含む方法。
【請求項12】
上の(ii)の前記メタクリル酸エステルが、C〜C12アルキルエステルまたはC〜C12ヒドロキシアルキルエステル、グリシジルエステル、イソボルニルエステル、ジメチルアミノエチルエステルおよびトリプロピレングリコールエステルから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
メタクリル酸を製造するための方法であって、
アコニット酸、クエン酸、および/またはイソクエン酸から選択される前駆体酸の供給源を提供することと、
イタコン酸、メサコン酸および/またはシトラコン酸を得るために、塩基触媒の存在下または非存在下に前記前駆体の供給源を十分に高い温度に曝すことによって、その前記供給
源の脱炭酸ステップと、必要に応じて脱水ステップとを実施することと、
メタクリル酸を得るための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法と
を含む、方法。
【請求項14】
前記ジカルボン酸反応体の濃度が少なくとも0.1Mである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
反応混合物中の前記触媒の濃度が少なくとも0.1Mである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
イタコン酸、シトラコン酸もしくはメサコン酸またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸を、塩基を触媒として脱炭酸することによる、メタクリル酸を製造するための方法であって、前記脱炭酸が、240〜290℃の温度範囲で実施され、前記ジカルボン酸反応体が前記反応条件に少なくとも80秒間付される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、イタコン酸またはその供給源を塩基触媒の存在下にて脱炭酸することによる、メタクリル酸またはその誘導体(エステル等)を製造するための方法に関する。より詳細には、これらに限定されるわけではないが、メタクリル酸またはメタクリル酸メチルを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸およびそのメチルエステルすなわちメタクリル酸メチル(MMA)は化学産業に重要なモノマーである。これらは主として、様々な用途に用いられるプラスチックの製造に使用されている。重合の最も重要な用途は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を流延(casting)、成形または押出成形することによって光学的透明性の高いプラスチックを製造することである。これに加えて多くの共重合体も使用されており、重要な共重合体は、メタクリル酸メチルとα−メチルスチレン、アクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチルとの共重合体である。現在、MMA(およびMAA)はすべて石油化学系の原料から製造されている。
【0003】
従来、MMAの工業的製造は、いわゆるアセトン−シアノヒドリン経路によって行われてきた。このプロセスは資本集約的であり、アセトンおよびシアン化水素からMMAを製造するコストは比較的高い。このプロセスは、アセトンおよびシアン化水素からアセトンシアノヒドリンを生成することによって行われており、この中間体を脱水することによってメタクリルアミド硫酸塩が生成し、次いでこれを加水分解することによってMAAが生成する。この中間体であるシアノヒドリンは硫酸によってメタクリルアミドの硫酸エステルに変換され、これをメタノリシスに付すことによって硫酸水素アンモニウムおよびMMAが得られる。しかしながら、この方法にはコストがかかるだけでなく、安全な運転を続けるためには、硫酸もシアン化水素も、慎重かつコストのかかる取扱いを必要とし、しかもこのプロセスは副生成物である硫酸アンモニウムを多量に生成する。この硫酸アンモニウムを利用価値のある肥料に変換する場合も、元の硫酸に変換する場合も、必要となる設備の資本コストは高く、エネルギーコストも相当なものである。
【0004】
あるいは、イソブチレンまたはそれと等価なブタノール反応体から出発し、次いでこれを酸化してメタクロレインとし、次いで酸化してMAAにする他のプロセスが知られている。
【0005】
高収率および高選択性が得られ、かつ副生成物がはるかに低減される改善されたプロセスが、アルファプロセスとして知られる2段階プロセスである。段階Iは、国際公開第96/19434号パンフレットに記載されており、これは、パラジウム触媒の存在下においてエチレンから高収率かつ高選択性でプロピオン酸メチルを得るカルボニル化において、1,2−ビス−(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼン配位子を使用することに関連するものである。当該出願人は、ホルムアルデヒドを用いてプロピオン酸メチル(MEP)をMMAに接触転化するためのプロセスも開発した。これに適した触媒は、担体、例えばシリカに担持したセシウム触媒である。この2段階プロセスは、実施可能な他の競合プロセスと比較して非常に有利であるが、やはり、主として原油および天然ガスから得られるエチレン供給原料に依然として頼っている。しかしながら、エチレン供給源としてバイオエタノールも利用可能である。
【0006】
バイオマスは、化石燃料の替わりとして、代替エネルギー供給源の候補となることも、
化学プロセスの供給原料の代替的な供給源となることも、長年に亘って提案されてきた。つまり、この化石燃料への依存に対する1つの明白な解決策は、MMAまたはMAAを製造するための任意の周知のプロセスを、バイオマスから誘導された供給原料を用いて行うことである。
【0007】
このことに関連して、バイオマスから合成ガス(一酸化炭素および水素)が得られることと、合成ガスからメタノールが製造できることとはよく知られている。これに基づき、幾つかの産業プラント、例えば、ドイツ国のLausitzer Analytik GmbH Laboratorium fuer Umwelt und Brennstoffe Schwarze Pumpeやオランダ国デルフゼイル(Delfzijl)の Biomethanol Chemie Holdingsでは、合成ガスからメタノールを製造している。Nouri and Tillman,Evaluating
synthesis gas based biomass to plastics(BTP) technologies,(ESA−Report 2005:8 ISSN 1404−8167)には、合成ガスから製造されたメタノールを直接供給原料として使用することまたはホルムアルデヒド等の他の供給原料の製造に使用することの実現可能性が教示されている。バイオマスから化学物質を製造するのに適した合成ガスの製造に関する多くの特許および非特許刊行物が存在する。
【0008】
バイオマスから得られたエタノールを脱水することによるエチレンの製造も、特にブラジルにある製造工場で十分に確立されている。
エタノールをカルボニル化することによるプロピオン酸の製造も、バイオマスから得られたグリセロールをアクロレインやアクリル酸等の分子に転化することも特許文献に十分に示されている。
【0009】
このように、エチレン、一酸化炭素およびメタノールは、バイオマスから製造する経路が十分に確立されている。このプロセスによって製造される化学物質は、油/ガスに由来する材料と同じ規格で販売されているかまたは同じ純度が要求されるプロセスで使用されているかのいずれかである。
【0010】
したがって、プロピオン酸メチルを製造するための上述したいわゆるアルファプロセスにバイオマスから得られた供給原料を使用することには原則として何の障害もない。実際、このプロセスは、エチレン、一酸化炭素およびメタノール等の単純な供給原料を使用するため、寧ろ理想的かつ極めて有力な候補である。
【0011】
この点に関し、特許文献1は、上述のアルファプロセスのためにバイオマス供給原料を使用することと、生成したプロピオン酸メチル(MEP)をホルムアルデヒドを用いてMMAに接触転化することとに関連していることが明らかである。これらのMEPおよびホルムアルデヒド供給原料は、上述したようにバイオマス供給源に由来するものであってもよい。しかし、こうした解決策には、バイオマス供給源から供給原料を得るためにかなり多くの処理および精製を行うことが依然として付随し、その処理段階そのものに化石燃料を相当量使用することが伴う。
【0012】
さらに、アルファプロセスでは、1カ所に複数の供給原料を備えておく必要があるため、入手性に関する問題が発生する可能性がある。したがって、複数の供給原料を用いることが回避されるかまたは供給原料の種類を減らした何らかの生物化学的経路があれば有利であろう。
【0013】
したがって、MMA等のアクリル酸エステルモノマーやMAAを得るための、化石燃料をベースとしない改善された代替的経路が依然として必要とされている。
特許文献2には、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの水溶液をそれぞれリンゴ酸塩酸およびシトラマル酸塩酸ならびにこれらの塩の溶液から製造するためのプロセスが開示されている。
【0014】
非特許文献1には、イタコン酸を高温である360℃で脱炭酸することにより最大収率70%でMAAが得られることを開示している。Carlssonは、理想条件下で360から350℃に移行する際に選択性が低下することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2010/058119号パンフレット
【特許文献2】国際出願PCT/GB2010/052176号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Carlsson et al.,Ind. Eng. Chem.Res.1994,33,1989−1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
通常、工業的プロセスの場合は、望ましくない副生成物の生成を回避するために高い選択性が要求され、そうすると結局、連続式プロセスは成立しないであろう。この目的のため、特に連続式プロセスを行うために、所望の生成物の選択性は90%を超えるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、イタコン酸およびイタコン酸の平衡化により生成する他の酸(itaconic equilibrated acid)を脱炭酸することによるMAAの生成おいて、90%を超える高い選択性がこれまでよりも大幅に低い温度で達成できることがここに見出された。
【0019】
本発明の第1の態様においては、イタコン酸、シトラコン酸もしくはメサコン酸またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸を、塩基を触媒として脱炭酸することによる、メタクリル酸を製造するためのプロセスであって、脱炭酸が、240℃を超え、かつ275℃までの温度で行われるプロセスが提供される。
【0020】
ここに存在する化合物は、必ずしもジカルボン酸反応体および塩基触媒のみである必要はない。通常、ジカルボン酸は、塩基を触媒とする熱的脱炭酸を行うための水溶液に、存在する他の任意の化合物と一緒に溶解している。
【0021】
有利には、脱炭酸を低温で行う方が、除去が難しい場合があり、工業的プロセスにおいてはさらなる精製および処理を行う際に問題を引き起こす可能性がある副生成物が多量に生成することが回避される。したがって、驚くべきことに、本プロセスは、この温度範囲における選択性が改善されている。さらに、脱炭酸を低温で行う方が使用するエネルギーが少なくなるので、高温における脱炭酸よりもカーボンフットプリントが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例に使用される装置の概略を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ジカルボン酸は、非化石燃料供給源から入手可能である。例えば、イタコン酸、シトラコ
ン酸またはメサコン酸は、クエン酸やイソクエン酸等の前駆体酸(pre−acid)の供給源の脱水および脱炭酸を適切な高温で行うかまたはアコニット酸の脱炭酸を適切な高温で行うことによって製造することができる。この前駆体酸の供給源の脱水および/または分解は、このような好適な条件下において可能であれば塩基を触媒として行うことができるように、塩基触媒が既に存在することが好ましいであろう。クエン酸およびイソクエン酸自体は周知の発酵プロセスから製造することができ、アコニット酸はクエン酸から製造することができる。したがって、本発明のプロセスは、化石燃料への依存を最小限に抑えながらメタクリル酸エステルを直接生成する生物学的または実質的に生物学的な経路を何らかの方法で提供しようとするものである。
【0024】
上述したように、塩基を触媒とする少なくとも1種のジカルボン酸の脱炭酸は、270℃未満、より典型的には265℃未満、より好ましくは270℃まで、最も好ましくは265℃までで行われる。どの場合においても、本発明のプロセスに好ましい低温側の温度は245℃、より好ましくは250℃、最も好ましくは255℃である。本発明のプロセスに好ましい温度範囲は、245℃〜270℃まで、より好ましくは250℃〜270℃、最も好ましくは255℃〜265℃である。
【0025】
好ましくは、反応は、反応媒体が液相にある温度で行われる。典型的には、反応媒体は水溶液である。
好ましくは、塩基を触媒とする脱炭酸は、ジカルボン酸反応体および好ましくは塩基触媒を用いて水溶液中で行われる。
【0026】
上述の温度条件下で反応体を液相中に維持するために、少なくとも1種のジカルボン酸の脱炭酸反応は、大気圧を超える好適な圧力下で行われる。反応体を上述の温度範囲で液相中に維持するであろう好適な圧力は、200psiを超え、より好適には300psiを超え、最も好適には450psiを超え、これはどの場合においても、反応体の媒体が沸騰するであろう圧力を超える。圧力に上限はないが、当業者は、現実的な限界内かつ装置の許容範囲内、例えば、10,000psi未満、より典型的には5,000psi未満、最も典型的には4000psi未満で運転するであろう。
【0027】
好ましくは、上の反応は、約200〜10000psiの圧力で行われる。より好ましくは、この反応は、約300〜5000psi、よりさらに好ましくは約450〜3000psiで行われる。
【0028】
好ましい実施形態においては、上述の反応は、反応媒体が液相にある圧力で行われる。
好ましくは、反応は、反応媒体が液相にある温度および圧力で行われる。
上述したように、触媒は塩基触媒である。
【0029】
好ましくは、触媒は、OHイオンの供給源を含む。好ましくは、塩基触媒は、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩(エタノアート)、アルコキシド、炭酸水素塩もしくは分解可能なジ−もしくはトリ−カルボン酸の塩または上述したもののうちの1種の4級アンモニウム化合物;より好ましくは第I族または第II族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アルコキシド、炭酸水素塩またはジ−もしくはトリ−カルボン酸もしくはメタクリル酸の塩を含む。塩基触媒には、1種または2種以上のアミンも含まれる。
【0030】
好ましくは、塩基触媒は、次に挙げるものの1種または2種以上から選択される:LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、CsOH、Sr(OH)、RbOH、NHOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO
、Mg(HCO、Ca(HCO、Sr(HCO、Ba(HCO、NHHCO、LiO、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、Li(OR)、Na(OR)、K(OR)、Rb(OR)、Cs(OR)、Mg(OR、Ca(OR、Sr(OR、Ba(OR、NH(OR)(式中、Rは、場合により1種または2種以上の官能基で置換された任意のC〜C分岐、非分岐または環式アルキル基である);NH(RCO)、Li(RCO)、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCO(式中、RCOは、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩およびメタクリル酸塩から選択される);(NH(CORCO)、Li(CORCO)、Na(CORCO)、K(CORCO)、Rb(CORCO)、Cs(CORCO)、Mg(CORCO)、Ca(CORCO)、Sr(CORCO)、Ba(CORCO)、(NH(CORCO)(式中、CORCOは、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩およびシュウ酸塩から選択される);(NH(COR(CO)CO)、Li(COR(CO)CO)、Na(COR(CO)CO)、K(COR(CO)CO)、Rb(COR(CO)CO)、Cs(COR(CO)CO)、Mg(COR(CO)CO、Ca(COR(CO)CO、Sr(COR(CO)CO、Ba(COR(CO)CO、(NH(COR(CO)CO)(式中、COR(CO)COは、クエン酸塩、イソクエン酸塩およびアコニット酸塩から選択される);メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;ならびにRNOH(式中、Rは、メチル、エチル プロピル、ブチルから選択される)。より好ましくは、塩基は、次に示すものの1種または2種以上から選択される:LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、CsOH、Sr(OH)、RbOH、NHOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、(NHCO、LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO、Mg(HCO、Ca(HCO、Sr(HCO、Ba(HCO、NHHCO、LiO、NaO、KO、RbO、CsO;NH(RCO)、Li(RCO)、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCO(式中、RCOは、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、メタクリル酸塩から選択される);(NH(CORCO)、Li(CORCO)、Na(CORCO)、K(CORCO)、Rb(CORCO)、Cs(CORCO)、Mg(CORCO)、Ca(CORCO)、Sr(CORCO)、Ba(CORCO)、(NH(CORCO)(式中、CORCOは、リンゴ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩、シュウ酸塩から選択される);(NH(COR(CO)CO)、Li(COR(CO)CO)、Na(COR(CO)CO)、K(COR(CO)CO)、Rb(COR(CO)CO)、Cs(COR(CO)CO)、Mg(COR(CO)CO、Ca(COR(CO)CO、Sr(COR(CO)CO、Ba(COR(CO)CO、(NH3(COR(CO)CO)(式中、COR(CO)COは、クエン酸塩、イソクエン酸塩から選択される);水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム。最も好ましくは、塩基は、次に示すもののうちの1種または2種以上から選択される:NaOH、KOH、Ca(OH)、CsOH、RbOH、NHOH、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、(NHCO、NH(RCO)、Na(RCO)、K(
RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCO、(式中、RCOは、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、メタクリル酸塩から選択される);(NH(CORCO)、Na(CORCO)、K(CORCO)、Rb(CORCO)、Cs(CORCO)、Mg(CORCO)、Ca(CORCO)、(NH(CORCO)(式中、CORCOは、シトラマル酸塩、メサコン酸塩、シトラコン酸塩、イタコン酸塩、シュウ酸塩から選択される);(NH(COR(CO)CO)、Na(COR(CO)CO)、K(COR(CO)CO)、Rb(COR(CO)CO)、Cs(COR(CO)CO)、Mg(COR(CO)CO、Ca(COR(CO)CO、(NH(COR(CO)CO)(式中、COR(CO)COは、クエン酸塩、イソクエン酸塩から選択される);および水酸化テトラメチルアンモニウム。
【0031】
触媒は、均一触媒であっても不均一触媒であってもよい。一実施形態においては、触媒は、液体反応相中に溶解することができる。一方、触媒は、固体担体上に担持(suspend)させることもでき、その上に反応相を通過させることができる。この構成の場合、反応相は、好ましくは液相、より好ましくは水相に維持される。
【0032】
好ましくは、塩基OH:酸の有効なモル比は、0.001〜2:1、より好ましくは0.01〜1.2:1、最も好ましくは0.1〜1:1、特に0.3〜1:1である。塩基OHの有効なモル比とは、対応する化合物から誘導されるOHの名目上のモル含有量を意味する。
【0033】
酸とは、酸のモル数を意味する。したがって、一塩基塩基(monobasic base)の場合は、塩基OH:酸の有効なモル比は、対応する化合物のモル比と一致することになるが、二または三塩基塩基の場合は、有効なモル比は、対応する化合物のモル比とは一致しないことになる。
【0034】
具体的には、これを、一塩基塩基:ジまたはトリカルボン酸のモル比と見なすこともでき、好ましくは0.001〜2:1、より好ましくは0.01〜1.2:1、最も好ましくは0.1〜1:1、特に0.3〜1:1である。
【0035】
酸の脱プロトン化による塩の生成は、本発明においては第1の酸の脱プロトン化のみを指すため、二または三塩基塩基の場合、上の塩基のモル比はこれに従い変化することになる。
【0036】
場合により、メタクリル酸生成物は、エステル化することによってそのエステルを生成することができる。可能なエステルは、C〜C12アルキルまたはC〜C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソボルニル、ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールエステルから選択することができる。最も好ましくは、エステルの生成に使用されるアルコールまたはアルケンは、生物系供給源、例えば、バイオメタノール、バイオエタノール、バイオブタノールから得ることができる。
【0037】
本発明の第2の態様によれば、メタクリル酸またはメタクリル酸エステルの重合体または共重合体の調製方法であって、
(i)本発明の第1の態様に従うメタクリル酸を調製するステップと、
(ii)メタクリル酸エステルを生成するために、(i)で調製されたメタクリル酸のエステル化を行う任意的なステップと、
(iii)(i)で調製されたメタクリル酸および/または(ii)で調製されたエステ
ルと、場合により1種または2種以上のコモノマーとを、これらの重合体または共重合体を製造するために重合するステップと
を含む方法を提供する。
【0038】
好ましくは、上の(ii)のメタクリル酸エステルは、C〜C12アルキルまたはC〜C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソボルニル、ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールエステル、より好ましくは、メタクリル酸エチル、n−ブチル、i−ブチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシプロピルまたはメチル、最も好ましくは、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルまたはアクリル酸ブチルから選択される。
【0039】
有利には、この種のポリマーには、すべてではないとしても、化石燃料以外の供給源から誘導されたモノマー残基がかなりの割合で存在するであろう。
どの場合も、好ましいコモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和カルボン酸およびジカルボン酸ならびにこれらの誘導体、例えば、エステル、アミドおよび無水物が挙げられる。
【0040】
特に好ましいコモノマーは、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、イソシアネート(トルエンジイソシアネートおよびp,p’−メチレンジフェニルジイソシアネート等)、アクリロニトリル、ブタジエン、ブタジエンおよびスチレン(MBS)およびABSであり、但し、上述のコモノマーは常に、上述した(i)の酸モノマーまたは上述した(ii)のエステルモノマーと、1種または2種以上の上述のコモノマーとの所与の任意の共重合において、上述の(i)または(ii)のメタクリル酸またはメタクリル酸エステルから選択されるモノマーとは異なる。
【0041】
もちろん、異なるコモノマーの混合物を用いることも可能である。コモノマー自体は、上の(i)または(ii)からのモノマーと同じプロセスによって調製されたものであってもなくてもよい。
【0042】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書における本発明の第2の態様の方法により生成するポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリメタクリル酸ブチルの単独重合体または共重合体が提供される。
【0043】
本発明のさらなる態様によれば、メタクリル酸を製造するためのプロセスであって、
アコニット酸、クエン酸および/またはイソクエン酸から選択される前駆体酸の供給源を提供することと、
イタコン酸、メサコン酸および/またはシトラコン酸を得るために、前駆体酸の供給源を、塩基触媒の存在下または非存在下に十分に高い温度に曝すことによる、前駆体酸の供給原の脱炭酸ステップと、必要に応じて脱水ステップとを実施することと、
メタクリル酸を得るための本発明の第1の態様によるプロセスとを含むプロセスが提供される。
【0044】
アコニット酸、クエン酸および/またはイソクエン酸の供給源とは、酸およびその塩、例えば、その第I族または第II族金属塩を意味し、前駆体酸およびその塩の溶液、例えばその水溶液も含む。
【0045】
場合により、前駆体酸の脱炭酸ステップの前、途中または後にこの塩を酸化することによって遊離酸を遊離させることができる。
好ましくは、ジカルボン酸反応体を少なくとも80秒間反応条件に付す。
【0046】
好ましくは、本発明のジカルボン酸反応体またはその前駆体酸の供給源を、本明細書に定めた必要な反応を実施するのに適した時間、例えば80秒間、しかしながら、より好ましくは少なくとも100秒間、よりさらに好ましくは少なくとも約120秒間、最も好ましくは少なくとも約150秒間反応条件に付す。
【0047】
典型的には、ジカルボン酸反応体またはその前駆体酸の供給源を反応条件に付す時間は、約2000秒間未満、より典型的には約1500秒間未満、よりさらに典型的には約1000秒間未満である。
【0048】
好ましくは、本発明のジカルボン酸反応体またはその前駆体酸の供給源を反応条件に付す時間は、約75秒間〜2500秒間、より好ましくは約90秒間〜1800秒間、最も好ましくは約120秒間〜800秒間である。
【0049】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、イタコン酸、シトラコン酸もしくはメサコン酸またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸を、塩基を触媒として脱炭酸することによって、メタクリル酸を製造するためのプロセスであって、この脱炭酸が240〜290℃の温度範囲で行われ、ジカルボン酸反応体が少なくとも80秒間反応条件に付されるプロセスが提供される。
【0050】
有利には、この温度範囲において、反応媒体中の反応体を加熱するのに十分な滞留時間で、高い選択性を達成することができる。
好ましくは、本発明のジカルボン酸反応体またはその前駆体酸の供給源は、反応が水性条件下で起こるように、水に可溶である。
【0051】
上に定めた反応形態から、反応媒体中で前駆体酸の供給源が脱炭酸され、必要に応じて脱水される場合、この反応媒体中で、本発明の第1の態様による前駆体酸の供給源から生成したイタコン酸、シトラコン酸もしくはメサコン酸またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸の塩基を触媒とする脱炭酸も同時に起こることが明らかであろう。したがって、前駆体酸の供給源の脱炭酸および必要に応じた脱水と、少なくとも1種のジカルボン酸の塩基を触媒とする脱炭酸とを一つの反応媒体中で行うことができる、すなわち2つのプロセスをワンポットプロセスで行うことができる。しかしながら、実質的に塩基触媒反応を行うことなく前駆体酸の供給源が脱炭酸され、必要に応じて脱水が行われる場合、前駆体酸の供給源の脱炭酸および必要に応じた脱水と、少なくとも1種のジカルボン酸の塩基を触媒とする脱炭酸とは別々のステップで行うことが好ましい。
【0052】
好ましくは、ジカルボン酸反応体の濃度は、少なくとも0.1M(好ましくは、その水性供給源中);より好ましくは、少なくとも約0.2M(好ましくは、その水性供給源中);最も好ましくは、少なくとも約0.3M(好ましくは、その水性供給源中);特に、少なくとも約0.5Mである。通常、水性供給源は水溶液である。
【0053】
好ましくは、ジカルボン酸反応体の濃度は、約10M未満、より好ましくは8M未満、(好ましくは、その水性供給源中);より好ましくは、約5M未満(好ましくは、その水
性供給源中);より好ましくは、約3M未満(好ましくは、その水性供給源中)である。
【0054】
好ましくは、ジカルボン酸反応体の濃度は、0.05M〜20、典型的には0.05〜10M、より好ましくは0.1M〜5M、最も好ましくは0.3M〜3Mである。
塩基触媒は液体媒体(水であってもよい)に可溶であってもよいし、あるいは塩基触媒は不均一であってもよい。反応体からメタクリル酸への塩基を触媒とする脱炭酸および/または前駆体酸の供給源からジカルボン酸への塩基を触媒とする脱炭酸が起こるであろう温度(上に示した温度等)を超える温度に反応体を曝すことによって反応が起こるように、塩基触媒は反応混合物に可溶なものとすることができる。触媒は水溶液中にあってもよい。したがって、触媒は、均一であっても不均一であってもよいが、典型的には均一である。好ましくは、反応混合物(前駆体酸供給源の混合物の分解を含む)中の触媒の濃度は、少なくとも0.1M以上(好ましくは、その水性供給源中);より好ましくは、少なくとも約0.2M(好ましくは、その水性供給源中);より好ましくは、少なくとも約0.3Mである。
【0055】
好ましくは、反応混合物(前駆体酸供給源の混合物の分解を含む)中の触媒の濃度は、約10M未満、より好ましくは約5M未満、より好ましくは約2M未満であり、どの場合においても、好ましくは、反応温度および反応圧力で飽和溶液になるであろう量以下である。
【0056】
好ましくは、水性反応媒体または場合により前駆体酸の供給源の分解におけるOHのモル濃度は、0.05M〜20M、より好ましくは0.1〜5M、最も好ましくは0.2M〜2Mの範囲にある。
【0057】
好ましくは、反応条件は、弱酸性である。好ましくは、反応pHは、約2〜9、より好ましくは約3〜約6である。
誤解を避けるために、イタコン酸という語は、次の式(i)の化合物を意味するものとする。
【0058】
【化1】
誤解を避けるために、シトラコン酸という語は、次の式(ii)の化合物を意味するものとする。
【0059】
【化2】
誤解を避けるために、メサコン酸という語は、次の式(iii)の化合物を意味するも
のとする。
【0060】
【化3】
上述したように、本発明のプロセスは、均一であっても不均一であってもよい。さらに、このプロセスは、回分式プロセスであっても連続式プロセスであってもよい。
【0061】
有利には、MAAの製造における副生成物のうちの1種は、ジカルボン酸の分解に用いられる条件下において、生成物であるMAAとの平衡中に存在する、ヒドロキシイソ酪酸(HIB)であってもよい。したがって、分解反応の生成物からMAAを一部または全部分離し、平衡をHIBからMAAへと移行させると、このプロセスの最中にまたはMAAを分離した後の後段の溶液処理においてさらにMAAが生成する。
【0062】
上述したように、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸等の前駆体酸の供給源は、好ましくは、好適な温度および圧力条件下および場合により塩基触媒の存在下で分解して、本発明のジカルボン酸の1種になる。この分解に好適な条件は、350℃未満、典型的には330℃未満、より好ましくは310℃まで、最も好ましくは300℃までである。どの場合においても、分解に好ましい低温側の温度は180℃である。前駆体酸の供給源の分解に好ましい温度範囲は、190から349℃まで、より好ましくは200〜300℃、最も好ましくは210〜280℃、特に220〜260℃である。
【0063】
好ましくは、前駆体酸の供給源の分解反応は、水性反応媒体が液相にある温度で行われる。
上の前駆体酸の供給源の分解温度条件下で反応体を液相中に維持するために、脱炭酸反応は大気圧を超える好適な圧力下で行われる。上の温度範囲で反応体を液相中に維持するであろう好適な圧力は、150psiを超え、より好適には180psiを超え、最も好適には230psiを超え、どの場合においても、反応体媒体が沸騰するであろう圧力を超える。圧力に上限はないが、当業者は現実的な限界内かつ装置の許容範囲内、例えば、10,000psi未満、より典型的には5,000psi未満、最も典型的には4000psi未満で運転を行うであろう。
【0064】
好ましくは、前駆体酸の供給源の分解反応は、約150〜10000psiの圧力で行われる。より好ましくは、この反応は、約180〜5000psi、よりさらに好ましくは約230〜3000psiの圧力で行われる。
【0065】
好ましい実施形態においては、前駆体酸混合物の分解反応は、反応媒体が液相にある圧力で行われる。
好ましくは、前駆体酸混合物の分解反応は、水性反応媒体が液相にある温度および圧力で行われる。
【0066】
本明細書に含まれる特徴はいずれも上の態様のいずれかと任意の組合せで組み合わせることができる。
本発明をより十分に理解するために、そして本発明の実施形態をどのように実施することができるかを示すために、ここで一例として次の図面および実施例を参照する。
【実施例】
【0067】
イタコン酸、シトラコン酸およびメサコン酸を分解してメタクリル酸を生成させる調査を様々な温度および滞留時間で行う一連の実験を行った。この実験の手順を次に示す。
一般手順
濃度0.5Mのイタコン酸、シトラコン酸またはメサコン酸および濃度0.5Mの水酸化ナトリウムを含む反応体供給原料溶液を調製した。使用したイタコン酸(≧99%)はSigma Aldrich(カタログ番号:L2,920−4)より入手し;シトラコン酸(98+%)はAlfa Aesar(L044178)より入手し;メサコン酸(99%)はSigma Aldrich(カタログ番号:13,104−0)より入手した。前駆体酸/NaOHの溶媒和に使用した脱イオン水は、予め超音波浴(30Khz)で5分間超音波処理することにより脱気しておいた。
【0068】
この反応体供給原料溶液を、Gilson 10 SCポンプヘッドを取り付けたGilson 305 HPLCポンプモジュールを介して反応器系に供給した。反応体供給原料溶液の反応器系への送液速度は、必要な滞留時間および反応器容量に応じて変化させた。供給速度はまた、反応媒体の密度(これは、今度は反応温度に応じて変化した)に応じても変化させた。
【0069】
反応体供給原料溶液を内径1/16インチのステンレス鋼(SS 316)管(Sandvik)を介して反応器に送液した。反応器は、1/2インチSS 316管の直線状部分が、2個の800W Watlowヒーターカートリッジを取り付けたアルミニウムブロックに収容されている構成とした。SS 316の配管の1/16インチから1/2インチへの移行部分にはSwagelok SS 316径違い継手を使用した。途中段階には1/8インチ管が必要であった(すなわち、1/16インチ管から1/8インチ管へ、1/8管から1/2インチ管へ)。
【0070】
反応器容量の理論値を求め、水を満たした反応器の重量と乾燥時の重量との差からこれを確認した。ここに記載する実験に用いた反応器の容量は19.4cmであった。1/2インチ管「反応器」を経た後、管を縮径して1/16インチに戻してから、Swagelok SS 316 1/16インチ十字継手に接合した。この十字継手において出口排出物(exit feed)の温度を監視するために熱電対(type K)を使用した。
【0071】
反応器容量(滞留時間を求めるために使用)は、アルミニウムブロックの直前および直後に位置する1/2インチから1/8インチに縮径させる2個の縮径管の間の1/2インチ管の部分の容量と定義する。
【0072】
生成物の混合物を最終的に熱交換器(ある程度の長さの1/8インチ管を1/4インチ管の中に挿通してその中に冷水を向流で通過させた)およびTescom手動式背圧調整器を通過させ、これを介して背圧(この位置からポンプヘッドまでの間の系全体の圧力)を発生させた。ここに記載したすべての実験に用いた圧力は3000psiである。試料をバイアルに回収した後、分析の準備を行った。
【0073】
所要の反応温度を得るために、2個のWatlowカートリッジヒーターに供給される電力を調節する、Gefranコントローラ(800P)を取り付けたサーモスタットを使用した。一連の各実験は、運転毎に滞留時間を変化させながら、単一の温度で行うことを含むものとした。最初の運転に必要な流量をGilsonポンプモジュールで設定した。次いでポンプを約20分間放置し、アルミニウムブロックと熱交換させて安定化を図るために脱イオン水のみを送液した。反応器出口の排出物の位置に配置された熱電対が示す
温度が5分間を超える時間変化しなくなったら(許容差(accurate to)1℃)、熱交換により平衡に達したと見なした。この段階で、ポンプ入口を脱イオン水の容器から調製済みの反応体混合物の容器に移し替えた。装置全体の容量(反応器を含む)は反応器自体のほぼ2倍であり、これは予め実験により求めておいた。特定の流量を得る場合、反応が確実に安定状態に達するように、反応体混合物が最終出口から排出され始めるまでに必要な時間の約3倍の時間、反応体混合物を送液したままにした。この時間が経過した後、装置の出口から溶液試料20mlを分析用に回収した。ポンプ効率の安定性を監視するために、出口の溶液回収速度および前駆体溶液の消費速度の両方を時間に対し記録した。特定の運転を行って試料を回収したら、ポンプ入口をイオン交換水の容器に戻して、前の運転の残留物をすべて確実に系外に追い出すように約10分間流量を最大まで上昇させた。次いで、次の調査対象の滞留時間に関し、この手順を繰り返した。
分析
生成物の定量分析を、多波長紫外線検出器を備えたAgilent 1200シリーズHPLCシステムを用いて行った。生成物を、ガードカラムで保護し、75℃に保持した単糖分析用H(8%)カラムPhenomenex Rezex RHMを用いて分離した。アイソクラティック溶出法を用いて、0.005MのHSO水溶液を移動相とし、流量を0.4ml/分として実施した。生成物試料に含まれていた化合物には、MWD検出器で検出可能な最短波長である210nm(バンド幅15nm)のUV吸光度が最適であることが分かった。UV吸光度と一連の濃度との相関をとり、生成したすべての化合物についてUV検出に関する検量線を作成した。各化合物に対し応答が比例する範囲を求めたところ、対象とするすべての化合物に最も適した濃度が5×10−3〜1×10−3Mであることが分かった。このようにして、装置から得られた試料をHPLC分析の前に1〜100倍に希釈することによって、ほとんどの生成物に関し十分な定量的検出を達成した(1〜100倍希釈とは、つまり、0.5Mの前駆体溶液を用いて開始した場合、20%〜100%の収率で生成するすべての生成物が、応答が比例する濃度範囲内に含まれることになる)。この応答が比例する範囲から外れる(例えば、収率が20%未満)化合物については、1〜10倍希釈して2回目のHPLC分析を実施した。1〜10倍希釈法を用いても正確に定量されなかった試料はすべて濃度が微量であり、したがって無視できるものと見なした。
手順
次の手順を実施した。まず、酸前駆体および水酸化ナトリウムを含む試薬混合物を調製した。所定の滞留時間を達成するために必要な流量を反応器の容量および水の密度(温度から計算)から求めた。
【0074】
図1に本発明の装置の略図を示す。前駆体溶液18を、入口16に接続された容器20に装入した。入口を、導管22を介して反応体ポンプ2に接続した。反応体ポンプ2は、反応管24管に溶液18を送液するように操作できるものとした。反応器24は、反応器24の周囲に長手方向に沿って延在するヒーターカートリッジ26に収容した。ポンプ2および反応器24の間の導管22を、ポンプから運転制御弁28、圧力監視装置30および圧力開放弁32を経て反応管に導くように配設した。さらに、遮断用スイッチ34を圧力監視装置30、反応体ポンプ2および温度監視装置14に接続した。温度監視装置14は反応器24の直後かつ出口6よりも手前の導管22に配置した。さらに、監視装置14の後流側の導管を、濾過器36、熱交換器8および背圧調整器4を経て出口に導くように配設した。出口6で回収容器38に生成物を回収した。
【0075】
反応器24は、反応器24の温度を制御するための温度制御ユニット10、12を含むものとした。装置は急冷システムも含み、この急冷システムは、急冷水容器42内に急冷水44用の別個の入口40を備えるものとした。入口40を導管46を介して出口6に接続し、導管46には、別個の急冷水ポンプ48と、その後流側の、急冷水を制御するための弁50とを含むものとした。急冷水用導管46は、反応器24の温度監視装置14の直
後かつ濾過器36よりも手前で反応用導管22と合流し、反応器を出た後も反応が起こっていればそれを停止するようにした。急冷水ポンプ48および温度制御ユニット10、12も遮断用スイッチ34に接続し、遮断基準に一致した場合に必要な遮断を行うようにした。
【0076】
反応器ポンプ2を作動させて脱イオン水を系内に送液した。背圧調整器4を所要の圧力(3000psi)まで徐々に調整した。
5ml/分で、系の出口6で20mlの量の水を採取するまでに要する時間を記録することにより、ポンプの運転効率を検査した。効率が90%を超えれば許容できるものとした。
【0077】
次いで、運転に必要なポンプ流量に設定した。 熱交換器8への水の供給(図示せず)は、実験の反応温度およびポンプ流量に応じて低〜中量に設定した。
温度コントローラ12を取り付けたヒーターのサーモスタット10を運転に必要な温度に設定した。
【0078】
一旦所要の温度に到達したら(サーモスタット10で示される)、反応器温度監視装置14で、その値(許容差1℃)が少なくとも5分間安定したままであることが認められるまで反応器出口温度を監視した(これには通常20分間を要した)。
【0079】
ポンプ入口16を脱イオン水容器(図示せず)から調製済みの試薬混合物の容器18に切り替えた(このためにはポンプの流れを数秒間停止する必要がある)。試薬混合物の容器18中の初期体積を記録した。
【0080】
生成物溶液が系の出口6から流出し始めると考えられるまでの時間は計算で示すことができる。しかしながら、実際は、装置から放出される気泡(試薬の分解により生成する)の存在を目視および聴覚で確認した。これを、生成物溶液が流出するまでに要する時間の3倍の時間継続した。こうすることにより、生成物の混合物が確実に均質になるようにした。
【0081】
出口6において生成物溶液20mlを回収し、回収に要した時間を記録した。終了時の時間および試薬混合物の量の読み取り値も記録した。
生成物を回収した後、ポンプ入口を再び脱イオン水容器側に切り替え、ポンプを「プライムモード(prime mode)」(最大流量)に設定し、約10分間そのままにした。
【0082】
次いで、ポンプ流量を次の運転に必要な値に設定した。
再び反応器出口温度を監視し、その値が少なくとも5分間変化しなくなったら安定したと見なした(これには通常約10分間を要した)。
【0083】
この実験方法を、実験に必要な運転をすべて実施するまで繰り返した。
すべての運転が終了した後、ポンプをプライムモードにして脱イオン水を系に送液し、ヒーター(サーモスタット)の運転を停止した。
【0084】
反応器出口温度が80℃未満に下降したらポンプの運転を停止し、熱交換器への水の供給も停止した。
生成物の収率は絶対モル百分率で表す(100×生成物のモル数/供給した反応体のモル数)。
実施例1 イタコン酸の分解
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
選択性=MAAの収率/(1−(ICの収率+CCの収率+MCの収率+HIB/PCの収率))

選択性=94.13%

ここで、MAAは、メタクリル酸、
PYは、ピルビン酸、
CCは、シトラコン酸、
CMは、シトラマル酸
ICは、イタコン酸、
HIBは、ヒドロキシイソ酪酸、
MCは、メサコン酸、
CTは、クロトン酸、
PCは、パラコン(paraconic)
である。

比較例1 イタコン酸の分解
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
選択性=MAAの収率/(1−(ICの収率+CCの収率+MCの収率+HIB/PCの収率))

選択性=76.89%

比較例2 イタコン酸の分解
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
選択性=MAAの収率/(1−(ICの収率+CCの収率+MCの収率+HIB/PCの収率))

選択性=70.41%

比較例3 イタコン酸の分解
【0091】
【表7】
【0092】
【表8】
選択性=MAAの収率/(1−(ICの収率+CCの収率+MCの収率+HIB/PCの収率))

選択性=63.12%
実施例2〜12および比較例4〜9
一般手順
濃度0.5Mのイタコン酸、シトラコン酸またはメサコン酸および濃度0.5Mの水酸化ナトリウムを含む反応体供給原料溶液を調製した。使用したイタコン酸(≧99%)はSigma Aldrichより入手し(カタログ番号:L2,920−4);シトラコン酸(98+%)はAlfa Aesarより入手し(L044178);メサコン酸(99%)はSigma Aldrich(カタログ番号:13,104−0)より入手した。
【0093】
この反応体供給原料溶液を、10 SCポンプヘッドを取り付けたGilson 205HPLCポンプモジュールを介して反応器系に供給した。ポンプ流量はGilson Unipointソフトウェアを使用してコンピュータ制御した。反応体供給原料溶液は、内径1/16インチのステンレス鋼(SS 316)管(Sandvik)を介して反応器に送液した。反応器は、円筒状のアルミニウム製フォーマの周囲を周回する、ある長さの1/18インチSS 316コイル管から構成されるものとし、これが周回するフォーマの表面を1/8インチ管の寸法に合わせてネジ切りして、フォーマと管との接触面積が確実に高くなるようにした。この円筒状フォーマは、芯部に1kW Watlowヒーターカートリッジを備え、フォーマ中心からの伝導を介して熱を供給するようにした。コイル管の外側も、1kW Watlowバンドヒーター(cuff heater)の内側に収容されるようにした。バンドヒーターと管コイルの外面との間に、内面(管と接触する)がネジ切りされた真鍮製のスペーサ層を配置し、十分な接触表面積を確保することによって、バンドヒーターから管へ確実に熱交換させるようにした。反応器に使用した1/8インチ管の両端には、1/16インチ×1/18インチのSwagelok ss 316径違い継手を取り付けた。反応器出口の径違い継手の直後にSwagelok ss 316 1/16インチ十字継手を配置した。この十字継手によって、第2供給物である急冷水を導入し、タイプKの1/16インチ熱電対(Radio Spares)による温度測定を可能にし、急冷された生成物流の排出経路を提供した。1/16インチ十字継手までの反応器系全体(径違い継手部品を含む)を、グラスウール、アルミ箔および紡織テープタイプのグラスウールの層で断熱した。これは、ヒーター自体と1/16インチ十字継手との間の反応器入口から反応器出口までの温度勾配を最小限に抑えるように作用した。
【0094】
異なる範囲の滞留時間を調査するために2種類の反応器容量を用いた。この容量は反応器のアルミニウムフォーマ周囲のコイルの巻数を減らすことにより調整した。どちらの場合も、反応器入口の径違い継手から反応器出口の1/16インチ十字継手の急冷点までを反応器容量と見なした。どちらの場合も、反応器容量の推定値は、空の反応器部品に正確に計量した水をポンプで送液することによって決定した。反応器部品は、予め高温で乾燥した後、窒素ガスでパージしておいた。一致しなかった場合はこの工程を数回繰り返した。
【0095】
急冷後の生成物の混合物を、最後に熱交換器を通過させた。熱交換器は、急冷点に続く長さ約1.5mの1/16インチ管が同じ長さの1/14インチss 316管の中に挿通された構成を有し、生成物混合物流から残留熱を除くために、その中に水を向流で流すことができるようにした。この熱交換器系の管の寸法は、装置全体の体積を最小限に抑えるように選択した。最後に生成物流をTescom手動式背圧調整器を通過させることによって背圧(この位置からポンプヘッドまでの間の系全体の圧力)を発生させた。ここに記載したすべての実験に用いた圧力は3000psiである。
【0096】
調査対象とした各滞留時間を経た試料をGilson 201フラクションコレクター(Unipointソフトウェアによる制御も行った)を用いて自動でバイアルに回収した。Unipointに記述されたプログラムを次の順序で動作させた:流量を、予め求めておいた、特定の滞留時間を得るのに必要な流量に調整し;次いで、装置全体の容量の3倍に相当する量が系を通過して、ヒーターおよび生成物流の組成が平衡化するのに十分な時間に達するまで、ポンプをこの流量で送液したままにし;次いで、フラクションコレクターの流路系の出口を指定の画分の位置に移動して、指示された量の水性生成物を回収し;最後に、フラクションコレクターの流路系の出口を廃液容器に移動し、ポンプ流量を次の調査対象の滞留時間に必要な流量に調整する。
【0097】
各実験に必要な温度は、WatlowカートリッジヒーターおよびWatlowバンドヒーターの両方に供給する電力を調整する、Gefranコントローラ(800P)を取り付けたサーモスタットを用いて達成した。到達した温度は、アルミニウムフォーマ頂部の管コイルとの接点付近に1/16インチの空洞をドリルで穿孔し、この中に配置した1/16インチのタイプK熱電対を介して、サーモスタットで監視した。この第1空洞に近接した第2空洞に第2熱電対を配置し、独立した温度表示モジュールで温度を監視した。このモジュールは電気遮断回路に接続されており、この電気遮断回路は、温度が過度に上昇した場合にすべての電気素子への電力を遮断することができ、また、電気遮断回路が記録した温度とサーモスタットで測定された温度とが一致するかどうかを検査するためにも使用できるものとした。各実験を行う場合は、サーモスタットを所要の温度に調整し、必要となるであろう最大流量(すなわちヒーターに必要となる電力が最大となる状況)で動作させた。サーモスタットをこのように調整することにより、ヒーターに供給される電力の平衡化に必要な最短時間が判明した。ここで各実験においてより長い滞留時間について調査を行う場合は流量を順次低下させた。どの滞留時間調査においても、まず最初に流量を変更するので、反応器が設定温度(許容差1℃)に調整されるまでの時間は、平衡化するまでの時間全体に対し無視できる部分であることが分かった。
【0098】
これらの実験全体を通して、急冷水流は、反応器を通過する前駆体流と常に等しくなるように設定した。こうすることにより、前駆体の流量(したがって、滞留時間)を変化させても急冷の度合いを実質的に一定にすることが可能になる。サーモスタット(したがって反応器のヒーター)への電力供給を開始する直前に、前駆体試料を、実験中に必要となる異なる流量で(各場合において、前駆体流の流量と等しい流量の急冷水流と一緒に)回収した。これらの前駆体試料は、生成物の収率および物質収支を決定するために、分析の際に生成物試料と比較することになる。前駆体試料をこのように回収することは、対象とする異なる流量における2つのポンプ間の流量効率の差を理解するのに役立つ。
分析
大部分の生成物の定量分析を、多波長UV検出器を備えたAgilent 1200シリーズHPLCシステムを用いて達成した。生成物を、ガードカラムで保護し、75℃に保持した単糖分析用H(8%)カラムPhenomenex Rezex RHMを用いて分離した。アイソクラティック溶出法を用いて、0.005MのHSO水溶液を移動相とし、流量を0.4ml/分として実施した。生成物試料に含まれていた化合物には、MWD検出器で検出可能な最短波長である210nm(バンド幅15nm)のUV吸
光度が最適であることが分かった。UV吸光度と一連の濃度との相関をとり、生成したすべての化合物のUV検出に関する検量線を作成した。各化合物に対し応答が比例する範囲を求めたところ、対象とするすべての化合物に最も適した濃度が5×10−3〜1×10−3Mであることが分かった。このようにして、装置から得られた試料をHPLC分析の前に1〜100倍に希釈することによって、ほとんどの生成物に関し十分な定量的検出を達成した(1〜100倍希釈とは、つまり、0.5Mの前駆体溶液を用いて開始した場合、20%〜100%の収率で生成するすべての生成物が、応答が比例する濃度範囲内に含まれることになる)。この応答が比例する範囲から外れる(例えば、収率が20%未満)化合物については、1〜10倍希釈して2回目のHPLC分析を実施した。1〜10倍希釈法を用いて正確に定量されなかった試料はすべて濃度が微量であり、したがって無視できるものと見なした。
【0099】
生成物の中には、UV検出を用いたHPLCでは定量できない限られた種類の成分が存在していた。その理由は、UV吸収が低いかまたはクロマトグラフィーによる分離の際に一緒に溶出してしまったかのいずれかである。これらの成分は、その替わりに、Bruker dpx 300Mhz NMRシステムを用いてH NMRで定量した。生成物の試料は装置で生成したままの水性形態(急冷水流で希釈した後、生成物全体の濃度を約0.25Mとする)で、DO(Aldrich、99.98%)を用いてそれぞれ1:2の比率で希釈して分析した。内部標準を添加せず、その替わりに、HPLC分析によって濃度が正確に分かっている成分の十分に分解されたピークに対し様々な化学種の濃度を標準化した。この目的のために、イタコン酸に特徴的な非末端CHのプロトン共鳴ピークであるδ3.18ppm(プロトン2個分に相当)またはメタクリル酸に特徴的な末端メチルCHのプロトン共鳴ピークであるδ1.79ppm(プロトン3個分に相当)のいずれかを、どちらの強度が強いかに応じて選択した。予めUV検出により求めておいたイタコン酸またはメタクリル酸の濃度を基準とし、スペクトル中の他のすべての共鳴ピークの積分値を使用して、生成物混合物中の他のすべての化学種を定量することができた。しかしながら、成分の定量がUVおよびNMRのどちらでも可能である場合は、精度が高いUV検出(HPLCを介する)を優先的に選択した。一方、NMRおよびUVによる定量を比較し、2つの分析技法の一貫性および信頼性の検証に使用し、最終的に、NMR分析単独で測定することができる生成物の定量の正確さを評価した。NMR分析のみにより定量された生成物を次に示す:アセトン、共鳴ピークδ2.13ppm(プロトン6個分に相当)を使用;ヒドロキシイソ酪酸、共鳴ピークδ1.27ppm(プロトン6個分に相当)を使用;パラコン酸、共鳴ピークδ3.29ppm(プロトン1個分に相当)を使用。
【0100】
クロトン酸からプロペンとなる分解および生成は、経験的なデータに基づいてモデル化し(modelled)、プロペンの量を推定した。このモデルの妥当性を検証するために、プロペンの推定をマイクロGCでも実施した。
【0101】
【表9】
本出願に関連して本明細書と同時またはその前に提出され、本明細書と一緒に公開されたすべての論文および文書に注目されたい。この種のすべての論文および文書の内容を本
明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0102】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示されたあらゆる特徴および/またはこうして開示された任意の方法もしくはプロセスのあらゆるステップは、このような特徴および/またはステップの少なくとも一部が互いに排他的となる組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0103】
本明細書に開示した各特徴(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)は、明示的に別段の定めがある場合を除き、同一、均等または類似の目的を果たす代替的な特徴と置き換えることができる。したがって、明示的に別段の定めがある場合を除き、開示された各特徴は、一連の均等または類似の特徴全体の単なる一例に過ぎない。
【0104】
本発明は、前述の実施形態の詳細に制限されるものではない。本発明は、本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示した任意の新規な特徴もしくは新規な特徴の任意の組合せまたはこうして開示した方法もしくはプロセスの任意の新規な1ステップもしくは新規なステップの任意の組合せも包含する。
図1