特許第5857742号(P5857742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5857742
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20160128BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160128BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20160128BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   C08L77/06
   C08K3/00
   C08G69/26
   C08K7/04
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-530916(P2011-530916)
(86)(22)【出願日】2010年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2010065879
(87)【国際公開番号】WO2011030911
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2013年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2009-211834(P2009-211834)
(32)【優先日】2009年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 久征
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
(72)【発明者】
【氏名】阿由葉 慎市
(72)【発明者】
【氏名】住野 隆彦
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−504142(JP,A)
【文献】 米国特許第02130947(US,A)
【文献】 特開2008−280535(JP,A)
【文献】 特開平05−117524(JP,A)
【文献】 特開2000−204240(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/053911(WO,A1)
【文献】 特開2008−214526(JP,A)
【文献】 特開2009−161748(JP,A)
【文献】 特開2009−035656(JP,A)
【文献】 特開2007−291250(JP,A)
【文献】 特開2004−131544(JP,A)
【文献】 特公昭49−035358(JP,B1)
【文献】 特開2007−321035(JP,A)
【文献】 特公昭47−015106(JP,B1)
【文献】 特開平06−192416(JP,A)
【文献】 特開平05−170897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77
C08G 69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位とを含有してなるポリアミド(A)、難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)、難燃助剤である無機化合物(C)及び無機充填剤(D)を含む難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、該直鎖脂肪族ジカルボン酸単位が、セバシン酸単位及び/又はアゼライン酸単位であり、
ポリアミド(A)が、リン原子濃度が50〜1000ppmかつJIS−K−7105の色差試験におけるYI値が10以下であり、ゲル浸透クロマトグラフィー測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜30,000の範囲であり、かつ分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)が1.5〜3.5の範囲であるポリアミドであり、ポリアミド(A)100質量部に対して有機ハロゲン化合物(B)1〜100質量部、無機化合物(C)0.5〜50質量部、無機充填剤(D)0〜100質量部を含む、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド(A)が、パラキシリレンジアミン単位を90モル%以上含むジアミン単位と、セバシン酸単位及び/又はアゼライン酸単位を90モル%以上含むジカルボン酸単位とを含有してなるポリアミドである、請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド(A)の相対粘度が1.8〜4.2の範囲である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
有機ハロゲン化合物(B)が、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化ビスフェノール型エポキシ系重合体、臭素化スチレン無水マレイン酸重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモビフェニル、臭素化架橋芳香族重合体及びパークロロシクロペンタデカンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
有機ハロゲン化合物(B)が、臭素化ポリスチレン及び/又は臭素化ポリフェニレンエーテルである、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
有機ハロゲン化合物(B)中のハロゲン原子の含有量が15〜87質量%である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
無機化合物(C)が、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酸化錫、酸化鉄、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム及びカオリンクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
無機化合物(C)が、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
無機充填剤(D)が、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素繊維、ホウ素繊維、タルク、マイカ、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、グラファイト、カオリン、二酸化チタン及び二硫化モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
無機充填剤(D)が、ガラス繊維及び/又は炭素繊維である、請求項1〜のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含んでなる成形品。
【請求項12】
電気部品又は電子部品である、請求項11に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリアミド樹脂組成物に関し、詳しくは、パラキシリレンジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とを主成分として含有してなるポリアミド樹脂及び特定量の添加剤を含む難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66に代表される脂肪族ポリアミドは、耐熱性、耐薬品性、剛性、耐磨耗性、成形性等の優れた性質を持つために、エンジニアリングプラスチックとして多くの用途に使用されている。電気・電子分野では、UL94規格に基づく高い難燃性が要求されるため、種々の難燃剤による難燃化の方法が多数提案され、実用化されている。しかしながら、これらの脂肪族ポリアミドは吸水性が大きく、成形品の寸法変化や物性低下等が問題となっている。さらに近年では、難燃化が必要とされる電気・電子分野において、部品の高密度実装、半田付け工程の効率化等の目的で、表面実装方式(SMT)と呼ばれる方法が急速に浸透している。そのため、これまでの樹脂では耐熱性の面でも対応できなくなってきている。
【0003】
これに対し、最近では1,6−ヘキサンジアミンとテレフタル酸とからなるポリアミドを主成分とした6T系ポリアミドと呼ばれる半芳香族ポリアミドも、難燃性が必要とされる電気・電子分野に使用されている。例えば、特許文献1及び2には、6T系ポリアミドを始めとする半芳香族ポリアミドの難燃化技術が提案されている。
しかしながら、1,6−ヘキサンジアミンとテレフタル酸とからなるポリアミドは、融点が370℃付近にあるため、溶融重合、溶融成形をポリマーの分解温度以上で実施する必要があり、実用に耐え得るものではない。そのため実際には、アジピン酸やイソフタル酸、ε−カプロラクタム等を30〜40モル%程度共重合することにより、ポリアミドとして実使用可能な温度領域である320℃程度まで低融点化した組成で実用化されている。このような第3成分ないし第4成分の共重合は低融点化には有効であるが、その一方で結晶化速度、到達結晶化度の低下を招き、その結果、高温下での剛性、耐薬品性、寸法安定性等の諸物性が低下するだけでなく、成形サイクルの延長に伴う生産性の低下も懸念される。また、吸水による寸法安定性等の諸物性の変動についても、芳香族基の導入により従来のポリアミドに比べれば多少改善されてはいるものの、実質的な問題解決のレベルにまでは達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−239755号公報
【特許文献2】特開平4−96970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、成形性、機械物性、耐熱性、低吸水性等の諸物性に優れた難燃性ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、パラキシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分とからなるポリアミドに難燃剤、難燃助剤及び補強剤を特定量配合することで、上記性能に優れた難燃性ポリアミド組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明は、下記[1]及び[2]に関する。
[1]パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位とを含有してなるポリアミド(A)、難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)、難燃助剤である無機化合物(C)及び無機充填剤(D)を含む難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)が、リン原子濃度が50〜1000ppmかつJIS−K−7105の色差試験におけるYI値が10以下であるポリアミドであり、ポリアミド(A)100質量部に対して有機ハロゲン化合物(B)1〜100質量部、無機化合物(C)0.5〜50質量部、無機充填剤(D)0〜100質量部を含む、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[2]前記[1]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物を含んでなる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、難燃性に優れるばかりではなく、成形性、機械物性、耐熱性、低吸水性等の諸物性にも優れ、難燃性が必要とされる電気・電子部品や、自動車部品、機械部品等の各種産業、工業、及び家庭用品の成形材料として幅広い用途、条件下で好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、後述するジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有してなるポリアミド(A)、難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)及び難燃助剤である無機化合物(C)を含有し、さらに必要に応じて補強剤である無機充填剤(D)を含有する。ここで、ジアミン単位とは原料ジアミン成分に由来する構成単位を指し、ジカルボン酸単位とは原料ジカルボン酸成分に由来する構成単位を指す。
【0010】
<ポリアミド(A)>
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位とを含有してなる。
ジアミン単位中のパラキシリレンジアミン単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。ジカルボン酸単位中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0011】
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合させることにより得られる。
【0012】
ポリアミド(A)の原料のジアミン成分は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含み、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。ジアミン成分中のパラキシリレンジアミンを70モル%以上とすることで、得られるポリアミドは高融点、高結晶性を示し、耐熱性、耐薬品性等に優れ、低い吸水性を有するポリアミドとして種々の用途に好適に用いることができる。原料のジアミン成分中のパラキシリレンジアミン濃度が70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性が低下し、吸水性が増大する。
【0013】
パラキシリレンジアミン以外の原料ジアミン成分としては、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
ポリアミド(A)の原料のジカルボン酸成分は、炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含み、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上とすることで、得られるポリアミドは溶融加工時の流動性、高い結晶性、低吸水率を示し、耐熱性、耐薬品性、成型加工性、寸法安定性に優れるポリアミドとして種々の用途に好適に用いることが可能となる。原料ジカルボン酸成分中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸濃度が70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性、成型加工性が低下する。
【0015】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸等が例示できる。中でもアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸及びドデカン二酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に好ましくはセバシン酸及び/又はアゼライン酸である。炭素数が5以下の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合、ジカルボン酸の融点、沸点が低いために重縮合反応時に反応系外に留出してジアミンとジカルボン酸との反応モル比が崩れ、得られるポリアミドの機械物性や熱安定性が低くなる。また、炭素数が19以上の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合、ポリアミドの融点が大きく低下し、耐熱性が得られなくなる。
【0016】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸以外の原料ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
前記のジアミン成分及びジカルボン酸成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類もポリアミド(A)を構成する共重合成分として使用できる。
【0018】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤として、ポリアミドの末端アミノ基又はカルボキシル基と反応性を有する単官能化合物を少量添加してもよい。使用できる化合物としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸等の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族モノアミン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン等の芳香脂肪族モノアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤を使用する場合、好適な使用量については、用いる分子量調整剤の反応性や沸点、反応条件等により異なるものとなるが、通常、原料ジアミン成分とジカルボン酸成分との合計に対して0.1〜10質量%程度である。
【0020】
ポリアミド(A)の重縮合系内には、重縮合反応の触媒、重縮合系内に存在する酸素によるポリアミドの着色を防止する酸化防止剤としてリン原子含有化合物を添加してもよい。
リン原子含有化合物としては、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、亜リン酸のアルカリ金属塩、亜リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、ピロリン酸のアルカリ金属塩、ピロリン酸のアルカリ土類金属塩、メタリン酸のアルカリ金属塩及びメタリン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
具体的には、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸水素リチウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸水素マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素二マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸リチウム、あるいはこれらの混合物が例示できる。これらの中でも、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムが好ましく、次亜リン酸カルシウムがより好ましい。なお、これらのリン原子含有化合物は水和物であってもよい。
【0021】
ポリアミド(A)の重縮合系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド(A)中のリン原子濃度換算で50〜1000ppmとなる量であり、50〜400ppmであることが好ましく、60〜350ppmであることがより好ましく、70〜300ppmであることが特に好ましい。ポリアミド(A)中のリン原子濃度が50ppm未満の場合は、酸化防止剤としての効果を十分に得ることができず、ポリアミド樹脂組成物が着色する傾向にある。また、ポリアミド(A)中のリン原子濃度が1000ppmを超える場合は、ポリアミド樹脂組成物のゲル化反応が促進され、リン原子含有化合物に起因すると考えられる異物が成形品中に混入する場合があり、成形品の外観が悪化する傾向がある。
ポリアミド(A)中のリン原子濃度は、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、亜リン酸のアルカリ金属塩、亜リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、ピロリン酸のアルカリ金属塩、ピロリン酸のアルカリ土類金属塩、メタリン酸のアルカリ金属塩及びメタリン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のリン原子含有化合物に由来するものであることが好ましく、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来するものであることがより好ましい。
【0022】
また、ポリアミド(A)の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用して重合速度調整剤を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミドの着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、ポリアミドのゲル化を招くおそれがあるため、アミド化反応速度を調整するためにも重合速度調整剤を共存させることが好ましい。
重合速度調整剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩及びアルカリ土類金属酢酸塩が挙げられ、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が好ましい。重合速度調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが好ましく、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムがより好ましい。
【0023】
重縮合系内に重合速度調整剤を添加する場合、アミド化反応の促進と抑制のバランスの観点から、リン原子含有化合物のリン原子と重合速度調整剤とのモル比(=[重合速度調整剤の物質量]/[リン原子含有化合物のリン原子の物質量])が0.3〜1.0となるようにすることが好ましく、さらには0.4〜0.95であることが好ましく、0.5〜0.9であることが特に好ましい。
【0024】
ポリアミド(A)の重合方法としては、(a)溶融状態における重縮合、(b)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後に固相状態で加熱処理するいわゆる固相重合、(c)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後混練押出機を使用して溶融状態で高分子量化する押出重合等の任意の方法を用いることができる。
【0025】
溶融状態における重縮合方法は特に限定されるものではないが、ジアミン成分とジカルボン酸成分とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧又は水蒸気加圧雰囲気下で重縮合する方法を例示できる。ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて重合する場合、反応系を均一な液状状態で保つためにジアミン成分を溶融ジカルボン酸相に連続的に加え、生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点を下回らないように反応温度を制御しつつ重縮合が進められる。上記の重縮合方法によって製品を得るにあたり、品種の切り替え等で装置内を洗浄する場合にはトリエチレングリコール、エチレングリコール、メタキシリレンジアミン等を使用することができる。
【0026】
溶融重縮合で得られたポリアミドは一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用される。また更に重合度を高めるために固相重合してもよい。乾燥乃至固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置及びナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミドの固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回転ドラム式の加熱装置が、系内を密閉化でき、着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0027】
ポリアミド(A)は着色が少なく、ゲルの少ないものである。また、ポリアミド(A)は、JIS−K−7105の色差試験におけるYI値が10以下であり、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。YI値が10を超えるポリアミド(A)を含有する樹脂組成物から得られる成形品は、黄色味がかったものとなり、その商品価値が低くなるため好ましくない。
【0028】
ポリアミドの重合度の指標としてはいくつかあるが、相対粘度は一般的に使われるものである。ポリアミド(A)の相対粘度は、成形品の外観や成形加工性の観点から、1.8〜4.2であることが好ましく、1.9〜3.5であることがより好ましく、2.0〜3.0であることが更に好ましい。なお、ここで言う相対粘度は、ポリアミド1gを96%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96%硫酸そのものの落下時間(t0)の比であり、下記式(1)で示される。
相対粘度=t/t0 ・・・(1)
【0029】
ポリアミド(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜50,000の範囲であることが好ましく、12,000〜40,000の範囲であることがより好ましく、14,000〜30,000の範囲であることが更に好ましい。Mnを上記範囲にすることで、成形品とした場合の機械的強度が安定し、また成形性の上でも加工性良好となる適度な溶融粘度を持つものとなる。
また、分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)は1.5〜5.0の範囲が好ましく、1.5〜3.5の範囲がより好ましい。分散度を上記範囲とすることにより溶融時の流動性や溶融粘度の安定性が増し、溶融混練や溶融成形の加工性が良好となる。また靭性が良好であり、耐吸水性、耐薬品性、耐熱老化性といった諸物性も良好となる。
【0030】
<有機ハロゲン化合物(B)>
難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)としては、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化ビスフェノール型エポキシ系重合体、臭素化スチレン無水マレイン酸重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモビフェニル、臭素化架橋芳香族重合体、パークロロシクロペンタデカン等が例示でき、中でも難燃性及び耐熱分解性の観点から、臭素系化合物が好ましく、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。有機ハロゲン化合物(B)中のハロゲン原子の含有量は、難燃性及び耐熱分解性の観点から、15〜87質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
有機ハロゲン化合物(B)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、1〜100質量部であり、好ましくは10〜60質量部である。有機ハロゲン化合物(B)の含有量が、ポリアミド(A)100質量部に対して1質量部未満では難燃効果が得られず、100質量部を超えると大幅に機械物性が低下する。
【0031】
<無機化合物(C)>
難燃助剤である無機化合物(C)としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酸化錫、酸化鉄、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンクレー等が例示でき、中でも難燃性及び耐熱分解性の観点から、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。これらはシランカップラーやチタンカップラー等で処理されてもよく、単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
無機化合物(C)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.5〜50質量部、好ましくは1〜30質量部である。無機化合物(C)の含有量が、ポリアミド(A)100質量部に対して0.5質量部未満では難燃効果が低く、50質量部を超えると機械物性の低下や成形品の表面状態の悪化を招く。
【0032】
<無機充填剤(D)>
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、機械物性及び成形性の観点から、補強剤である無機充填剤(D)を含有することが好ましい。無機充填剤(D)としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素繊維、ホウ素繊維、タルク、マイカ、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、グラファイト、カオリン、二酸化チタン、二硫化モリブデン等が例示でき、中でも機械的強度及び成形性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
無機充填剤(D)の含有量は、機械物性と成形性とのバランスの観点から、ポリアミド(A)100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部、より好ましくは10〜100質量部、特に好ましくは50〜100質量部である。
【0033】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、上記構成成分以外の構成成分として、必要に応じてヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤等を含有していてもよい。
【0034】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、耐熱性樹脂を配合してもよい。このような耐熱性樹脂の例としてはPPE(ポリフェニレンエーテル)、ポリフェニレンスルフィド、変性ポリオレフィン、PES(ポリエーテルスルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)、溶融液晶高分子等の、耐熱性の熱可塑性樹脂及びこれらの樹脂の変性物等を配合することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物が摺動部品用樹脂組成物である場合、摺動性及び成形品の機械物性の観点から、これら高融点の熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
【0035】
(ポリフェニレンスルフィド)
本発明のポリアミド樹脂組成物に配合しうるポリフェニレンスルフィドは、下記一般式(I)で示される構造単位を全構造単位の70モル%以上、好ましくは90モル%以上有する重合体である。
【0036】
【化1】
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物に配合しうるポリフェニレンスルフィドとしては、前記一般式(I)で示される構造単位を単独で有する重合体の他に、下記一般式(II)〜(VI)で示され構造単位を例示でき、これらのうち1種又は2種以上を含んでもよい。
【0038】
【化2】



【0039】
ポリフェニレンスルフィドは、さらに下記一般式(VII)で示されるような三官能の構造単位を、全構造単位の10モル%以下の量を含んでいてもよい。
【0040】
【化3】
【0041】
上記一般式(I)〜(VII)で示される構成単位は、芳香族環にアルキル基、ニトロ基、フェニル基又はアルコキシル基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物に配合しうるポリフェニレンスルフィドとしては、フローテスターを使用して、荷重20kg、温度300℃で測定した粘度が、好ましくは100〜10000poise、より好ましくは200〜5000poise、更に好ましくは300〜3000poiseの範囲内にあることが好ましい。前記ポリフェニレンスルフィドは、任意の方法により調製することができる。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、及び前記ポリアミド(A)と前記ポリフェニレンスルフィドとの質量比は、耐熱性の観点から、好ましくは5:95〜99.9:0.1、より好ましくは5:95〜95:5、更に好ましくは20:80〜80:20である。
【0044】
(変性ポリオレフィン)
変性ポリオレフィンとしては、ポリオレフィンをα,β−不飽和カルボン酸あるいはそのエステル、金属塩誘導体で共重合により改質したものや、カルボン酸又は酸無水物等をポリオレフィンにグラフト導入して改質したものが使用できる。具体的にはエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デゼン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・1−デゼン共重合体、プロピレン・1−ドデゼン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0045】
本発明のポリアミド樹脂組成物において及び、変性ポリオレフィンの配合量は、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、ポリアミド(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜50質量部、より好ましくは1〜45質量部、更に好ましくは5〜40質量部である。
【0046】
(溶融液晶高分子)
溶融液晶高分子としては、溶融相において液晶を形成する(すなわち光学的異方性を示す)性質を有しており、ペンタフルオロフェノール中60℃で測定した極限粘度[η]が0.1〜5dl/gであることが好ましい。
【0047】
溶融液晶高分子の代表的な例として、実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位からなるポリエステル;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位及び芳香族ジオール単位からなるポリエステル;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位及び脂肪族ジオール単位からなるポリエステル;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族アミノカルボン酸単位からなるポリエステルアミド;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位及び芳香族ジアミン単位からなるポリエステルアミド;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族アミノカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位及び芳香族ジオール単位からなるポリエステルアミド;実質的に芳香族ヒドロキシカルボン酸単位、芳香族アミノカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位及び脂肪族ジオール単位からなるポリエステルアミド等が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0048】
溶融液晶高分子を構成する芳香族ヒドロキシカルボン酸単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等から誘導される単位を例示できる。
芳香族ジカルボン酸単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、クロロ安息香酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸等から誘導される単位を例示できる。
芳香族ジオール酸単位としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノン、クロロヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン等から誘導される単位を例示できる。
脂肪族ジオール酸単位としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等から誘導される単位を例示できる。
芳香族アミノカルボン酸単位としては、例えば、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、7−アミノ−2−ナフトエ酸等から誘導される単位を例示できる。
芳香族ジアミン単位としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン等から誘導される単位を例示できる。
【0049】
溶融液晶高分子の好ましい例としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸単位及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位からなるポリエステル;p−ヒドロキシ安息香酸単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル単位及びテレフタル酸単位からなるポリエステル;p−ヒドロキシ安息香酸単位、エチレングリコール単位及びテレフタル酸単位からなるポリエステル;p−ヒドロキシ安息香酸単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位及びp−アミノ安息香酸単位からなるポリエステルアミドを例示できる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において及び、溶融液晶高分子の配合量は、成形加工性、成形品の寸法安定性や耐薬品性等の観点から、ポリアミド(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは0.5〜150質量部、更に好ましくは1〜100質量部である。
【0051】
本発明の成形材料用ポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、ポリアミド(A)、有機ハロゲン化合物(B)及び無機化合物(C)、さらに必要に応じて無機充填剤(D)やその他の添加剤及び樹脂を所定量配合して溶融混練することにより製造できる。溶融混練には従来公知の方法で行うことができる。例えば単軸や2軸の押出機、バンバリーミキサー又はこれに類似した装置を用いて、一括で押出機根元から全ての材料を投入して溶融混練してもよいし、先ず樹脂成分を投入して溶融しながらサイドフィードした繊維状強化材と混練する方法により、ペレットを製造してもよい。また、異なる種類のコンパウンド物をペレット化した後にペレットブレンドしてもよいし、一部の粉末成分や液体成分を別途ブレンドする方法でもよい。
【0052】
<成形品>
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、難燃性に優れるばかりではなく、成形性、機械物性、耐熱性、耐薬品性、低吸水性等の諸物性にも優れ、難燃性が必要とされる電気・電子部品、その他の成形材料として幅広い用途、条件下で好適に使用することができる。本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、延伸、真空成形等の公知の成形方法により、所望の形状の成形体を製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において各種測定は以下の方法により行った。
【0054】
(1)ポリアミドの相対粘度
ポリアミド1gを精秤し、96%硫酸100mlに20〜30℃で攪拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下時間(t0)も同様に測定した。t及びt0から下記式(1)により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t0 ・・・(1)
【0055】
(2)ポリアミドのYI値
JIS−K−7105に準じて、反射法によりYI値を測定した。YI値が高い値を示すほど、黄色く着色しているものと判断される。YI値の測定装置は、日本電色工業社製の色差測定装置(型式:Z−Σ80 Color Measuring System)を使用した。
【0056】
(3)リン原子濃度
蛍光X線分析によりリン原子濃度を測定した。測定装置は株式会社リガク製ZSXprimus(商品名)を使用した。分析条件は管球:Rh4kW、雰囲気:真空、分析窓:ポリエステルフィルム5μm、測定モード:EZスキャン、測定径:30mmφで行った。計算は株式会社リガク製ソフトによりSQX計算を行った。
【0057】
(4)分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。測定装置は、東ソー(株)製GPC装置HLC−8320GPC(商品名)に、測定カラムとして同社製TSKgel SuperHM−H(商品名)を2本接続して使用した。溶媒にはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、サンプルのポリアミド10mgを10gのHFIPに溶解させて測定した。測定条件は、カラム温度40℃、溶媒流量0.3mL/minとし、標準試料にはポリメタクリル酸メチルを使用して数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0058】
(5)燃焼性
以下に示すUL94Vの規定に準じて燃焼試験を行った。125×13×6mmの試験片をクランプで垂直に固定し、試験片の下方に乾燥した脱脂綿を置き、試験片の下端に所定の炎をあてて10秒間保ち、その後、炎を試験片から離し、燃焼時間(1回目)を測定した。消火後、再び試験片の下端に炎を10秒間あて、燃焼時間(2回目)を測定した。5本の試験片について測定を行い、下記の分類からV−0、V−1、V−2を判定した。
【0059】
【表1】
【0060】
(6)成形品機械物性
成形品の機械物性の測定は以下の条件にて行った。
【0061】
【表2】
【0062】
(7)平衡吸水率
直径50mm×3mm厚円盤型の試験片について、絶乾状態の質量を秤量した後、常圧沸騰水に浸漬し、経時的な質量変化を測定し、質量変化がなくなった時点での吸水率を平衡吸水率とした。
【0063】
合成例1
攪拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置及び窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したセバシン酸(伊藤製油(株)製、商品名:セバシン酸TA)8950g(44.25mol)、次亜リン酸カルシウム(関東化学(株)製)12.54g(0.073mol)、酢酸ナトリウム(関東化学(株)製)6.45g(0.073mol)を秤量して仕込んだ(次亜リン酸カルシウムのリン原子と酢酸ナトリウムとのモル比は0.5)。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.3MPaに加圧し、攪拌しながら160℃に昇温してセバシン酸を均一に溶融した。次いでパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)6026g(44.25mol)を攪拌下で170分を要して滴下した。この間、反応容器内温は281℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器及び冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145〜147℃の範囲に制御した。パラキシリレンジアミン滴下終了後、0.4MPa/hの速度で降圧し、60分間で常圧まで降圧した。この間に内温は300℃まで昇温した。その後0.002MPa/minの速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、約13kgのポリアミド(PA1)を得た。
得られたポリアミド(PA1)の物性値を表3に示す。ポリアミド(PA1)のリン原子濃度は315ppm、YI値は−6.5、相対粘度は2.47、数平均分子量Mnは21000、Mw/Mnは2.6であった。
【0064】
合成例2
ジカルボン酸の種類及び配合量をアゼライン酸(コグニス社製、製品名:EMEROX1144)8329g(44.25mol)に変更したこと以外は、合成例1と同様にして溶融重縮合を行い、ポリアミド(PA2)を得た。
得られたポリアミド(PA1)の物性値を表3に示す。ポリアミド(PA2)のリン原子濃度は302ppm、YI値は−1.0、相対粘度は2.22、数平均分子量Mnは17500、Mw/Mnは2.5であった。
【0065】
合成例3
ジアミン成分を、パラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)5423g(39.82mol)及びメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)603g(4.43mol)(ジアミン成分の90mol%がパラキシリレンジアミン、10mol%がメタキシリレンジアミン)に変更したこと以外は、合成例1と同様にして溶融重縮合を行い、ポリアミド(PA3)を得た。
得られたポリアミド(PA1)の物性値を表3に示す。ポリアミド(PA3)のリン原子濃度は300ppm、YI値は−2.0、相対粘度は2.11、数平均分子量Mnは17200、Mw/Mnは2.7であった。
【0066】
合成例4
次亜リン酸カルシウムの配合量を1.19g(0.007mol)、酢酸ナトリウムの配合量を0.57g(0.007mol)(次亜リン酸カルシウムのリン原子と酢酸ナトリウムとのモル比は0.5)とした以外は合成例1と同様にして溶融重縮合を行い、ポリアミド(PA4)を得た。
得られたポリアミド(PA4)の物性値を表3に示す。ポリアミド(PA4)のリン原子濃度は28ppm、YI値は25.0、相対粘度は2.23、数平均分子量Mnは18000、Mw/Mnは2.6であった。
【0067】
合成例5
次亜リン酸カルシウムの配合量を49.25g(0.292mol)、酢酸ナトリウムの配合量を23.95g(0.292mol)(次亜リン酸カルシウムのリン原子と酢酸ナトリウムとのモル比は0.5)とした以外は合成例1と同様にして溶融重縮合を行ったが、溶融重合時の分子量上昇が速く、分子量制御が困難であった。
得られたポリアミド(PA5)の物性値を表3に示す。ポリアミド(PA5)のリン原子濃度は1210ppm、YI値は0.5、相対粘度は2.42、数平均分子量Mnは40000、Mw/Mnは2.7であった。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例1
減圧下150℃で7時間乾燥したポリアミド(PA1)100質量部に対して、臭素化ポリスチレン(日産フェロ有機化学(株)製、商品名:パイロチェック68PB、ハロゲン原子の含有量:66質量%)30質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱(株)製、商品名:パドックスC)10質量部をドライブレンドした。これを2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度280〜300℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、ポリアミド(PA1)100質量部に対してガラス繊維(日本電気硝子(株)製、商品名:03T−296GH)100質量部をサイドフィードして樹脂組成物ペレットを作成した。得られた樹脂組成物ペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、商品名:SE130DU−HP)にてシリンダ温度300℃、金型温度120℃で射出成形し、評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0070】
実施例2
ポリアミド(PA1)をポリアミド(PA2)に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0071】
実施例3
ポリアミド(PA1)をポリアミド(PA3)に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0072】
実施例4
臭素化ポリスチレン30質量部を、臭素化ポリフェニレンエーテル(アルベマール日本株式会社製、商品名:SAYTEX102E、ハロゲン原子の含有量:83質量%)80質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0073】
実施例5
臭素化ポリフェニレンエーテルの配合量を80質量部から4質量部に変更したこと以外は実施例4と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0074】
実施例6
三酸化アンチモン10質量部を、五酸化アンチモン(日産化学工業株式会社製、商品名:NA−1030)1質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0075】
実施例7
三酸化アンチモン1質量部を、アンチモン酸ナトリウム40質量部に変更したこと以外は実施例6と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0076】
実施例8
ガラス繊維の配合量100質量部を50質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0077】
実施例9
ガラス繊維をPAN系炭素繊維チョップドファイバーに変更した以外は、実施例8と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0078】
実施例10
ガラス繊維を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0079】
実施例11
臭素化ポリスチレンの配合量30質量部を10質量部に、三酸化アンチモン10質量部を4質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0080】
比較例1
ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ソルヴェイ社製、商品名:Amodel)100質量部に対して、臭素化ポリスチレン(日産フェロ有機化学(株)製、商品名:パイロチェック66PB)30質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱(株)製、商品名:パドックスC)10質量部をドライブレンドした。これを2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度300〜340℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、樹脂100質量部に対してガラス繊維(日本電気硝子(株)製、商品名:03T−296GH)100質量部をサイドフィードして樹脂組成物ペレットを作成した。得られた樹脂組成物ペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、商品名:SE130DU−HP)にてシリンダ温度340℃、金型温度130℃で射出成形し、評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0081】
比較例2
ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド、DSM社製、商品名:Stanyl)100質量部に対して、臭素化ポリスチレン(日産フェロ有機化学(株)製、商品名:パイロチェック66PB)30質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱(株)製、商品名:パドックスC)10質量部をドライブレンドした。これを2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度290〜310℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、樹脂100質量部に対してガラス繊維(日本電気硝子(株)製、商品名:03T−296GH)100質量部をサイドフィードして樹脂組成物ペレットを作成した。得られた樹脂組成物ペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、商品名:SE130DU−HP)にてシリンダ温度310℃、金型温度120℃で射出成形し、評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0082】
比較例3
ポリアミド(PA1)をポリアミド(PA4)に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0083】
比較例4
ポリアミド(PA1)をポリアミド(PA5)に変更したこと以外は実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0084】
比較例5
臭素化ポリスチレンを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0085】
比較例6
臭素化ポリスチレン及び三酸化アンチモンを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0086】
比較例7
臭素化ポリスチレンの配合量を30質量部から150質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0087】
比較例8
三酸化アンチモンを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0088】
比較例9
三酸化アンチモンの配合量を10質量部から70質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用試験片を得た。得られた試験片について成形品の物性を測定した。評価結果を表4に示す。
【0089】
比較例10
ガラス繊維の配合量を100質量部から250質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製しようと試みたが、ストランドに毛羽立ちが発生したため樹脂組成物ペレットを作製することができなかった。
【0090】
【表4-1】
【0091】
【表4-2】
【0092】
【表4-3】
【0093】
【表4-4】
【0094】
なお、実施例8〜10については、高温曲げ弾性率についての測定を行っていない。
表4から明らかなように、ポリアミド6T又はポリアミド46を用いた比較例1及び2の成形品は、機械的強度及び弾性率が低く、平衡吸水率が高かった。電子部品用樹脂として従来検討されているナイロン46樹脂は、テトラメチレンジアミンとアジピン酸とから得られる樹脂であり、耐熱性に優れ機械物性にも優れるが、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂等の通常のポリアミド樹脂よりもアミド基の比率が高いため吸水率が高くなるという欠点を有する。このことは、ナイロン46樹脂が乾燥状態では優れた耐熱性、機械的特性をもちながら、実使用時においては通常のポリアミド樹脂より吸水率が高いことにより耐熱性、機械特性の低下はそれらよりも大きくなる。また吸水率が高いということはそれだけ寸法変化も大きくなることから、その寸法精度は必ずしも満足のいくレベルではなく、高い精度を要求される部品には使用が困難となっている。さらに吸水状態によっては、表面実装方式で基板への実装を行なう際に部品表面にフクレと呼ばれる損傷が現れ、部品の性能及び信頼性が著しく低下してしまう。
【0095】
リン原子濃度が50ppm以下であるポリアミド(PA4)は、YI値が大きいため、該ポリアミドから得られる成形品は、黄色味がかったものとなり、その商品価値が低い(比較例3)。また、リン原子濃度が1000ppm以上であるポリアミド(PA5)は、溶融重合時に分子量上昇が大きく、分子量制御ができなかった(比較例4)。
また、難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)が配合されていない比較例5及び6の成形品は難燃性が低いものであった。また、難燃剤である有機ハロゲン化合物(B)を過剰に添加した比較例7の成形品、及び難燃助剤である無機化合物(C)を過剰に添加した比較例9の成形品は機械物性に劣るものであった。
難燃助剤である無機化合物(C)が添加されていない比較例8の成形品は、実施例1の成形品に比べて難燃性に劣るものであった。
さらに、無機充填剤(D)が過剰に添加された樹脂組成物については、ペレットにする際にストランドに毛羽立ちが発生したため、ペレットに供することができなかった(比較例10)。
これに対して、実施例1〜11に供されたポリアミド(PA1)〜ポリアミド(PA3)は、溶融重合する際に、分子量制御が可能であり、さらに得られた樹脂の着色はほとんどなく、成形品成形された際に外観に優れたものであった。さらに、該ポリアミド樹脂を用いた実施例1〜11の成形品は、低吸水率であり、かつ難燃性、機械物性、耐熱性にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、難燃性に優れるばかりではなく、成形性、機械物性、耐熱性、低吸水性等の諸物性にも優れ、難燃性が必要とされる電気・電子部品や、自動車部品、機械部品等の各種産業、工業、及び家庭用品の成形材料として幅広い用途、条件下で好適に使用することができる。