(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5857876
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】UOE鋼管製造用の拡管機
(51)【国際特許分類】
B21D 3/14 20060101AFI20160128BHJP
B21D 3/02 20060101ALI20160128BHJP
B21D 39/20 20060101ALI20160128BHJP
B21C 37/08 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
B21D3/14 C
B21D3/02 A
B21D39/20 C
B21C37/08 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-111340(P2012-111340)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-237073(P2013-237073A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100103481
【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134957
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 英幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 靖
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−107431(JP,U)
【文献】
特開平01−306018(JP,A)
【文献】
特開昭62−084829(JP,A)
【文献】
特開平05−180649(JP,A)
【文献】
特開昭63−002517(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0095736(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 3/14
B21C 37/08
B21D 3/02
B21D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UOE鋼管を製造する際に、シーム部を溶接された後の鋼管の拡管に用いられる拡管機であって、
当該拡管機は、
鋼管の一端部を把持するグリッパを搭載し、鋼管を軸方向に押し込み搬送するグリッパキャリッジと、
このグリッパキャリッジと対峙して設置され、鋼管の軸心に沿って延び出すブームを有するメインシリンダと、
このメインシリンダのブームの先端に取り付けられ、鋼管の搬送の進行に伴い鋼管の内部に挿入されて放射状に拡縮する拡管ヘッドと、
鋼管が搬送される進行方向における拡管ヘッドの前方に設置され、鋼管の下部を左右方向の一方から撮像する第1カメラ、および鋼管の左右側部のうちの一側部を上方から撮像する第2カメラからなる一対のカメラと、
鋼管が搬送される進行方向におけるカメラの前方に設置され、鋼管を上下から挟み込む上側ロールおよび下側ロール、並びに鋼管を左右から挟み込む右側ロールおよび左側ロールを有する曲がり矯正ロール装置と、
鋼管内に挿入された拡管ヘッドを広げた状態でカメラから撮像データを取得し、鋼管の上下方向の曲がり量および左右方向の曲がり量を算出する曲がり量演算器と、
この曲がり量演算器で算出した鋼管の曲がり量に基づき、曲がり矯正ロール装置の上側ロールおよび下側ロール、並びに右側ロールおよび左側ロールの移動量を設定し、鋼管内に挿入された拡管ヘッドを広げた瞬間に曲がり矯正ロール装置を駆動させる矯正ロール制御器と、を備えたこと、
を特徴とする拡管機。
【請求項2】
前記一対のカメラは、鋼管が搬送される進行方向に沿って3段以上設置されていること、
を特徴とする請求項1に記載の拡管機。
【請求項3】
前記曲がり量演算器は、予め前記一対のカメラによって撮像した前記ブームの撮像データを取得し、このブームの撮像データを基準にして鋼管の前記曲がり量を算出すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の拡管機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UOE鋼管を製造する際に、溶接後の鋼管を拡管するのに用いられるメカニカル拡管機に関し、特に、鋼管の内外径の矯正とともに曲がりの矯正が可能な拡管機に関する。
【背景技術】
【0002】
主に、石油や天然ガスを輸送するためのラインパイプには大径溶接鋼管が使用され、この大径溶接鋼管としてはUOE鋼管が多用される。
【0003】
UOE鋼管の製造方法は、次の工程からなる:
(1)エッジプレーナにより、タブ板が取り付けられた厚板鋼板の両縁に開先加工を施す;
(2)Cプレス機により、鋼板の開先近辺の形状を製品管(UOE鋼管)の規定外径に近い曲率に変形させるC成形を施し、C管を造形する;
(3)Uプレス機により、C管を断面U字形に変形させるU成形を施し、U管を造形する;
(4)Oプレス機により、U管を断面O字形に変形させるO成形を施し、オープンパイプのO管を造形する;
(5)O管のシーム部である開先同士の突き合わせを行いながら、ガスシールドアーク溶接法(GMAW)により、シーム部の仮付け溶接を行う;
(6)サブマージアーク溶接法(SAW)により、仮付け溶接されたO管のシーム部に、内面側、外面側の順に本溶接を行う;
(7)拡管機により、シーム部が溶接された鋼管を拡管してその外径を製品管で規定される寸法に精整し、UOE鋼管を得る。
このようにして製造されたUOE鋼管は、タブ材を切除した後、超音波やX線により溶接部の検査を行い、その後に出荷される。
【0004】
これらの工程のうちの拡管工程においては、一般に、メカニカル拡管機を用い、各種の成形および溶接を経た後の鋼管を内面から僅かに拡張させる。これにより、鋼管は、溶接部の残留応力が除去されると同時に、鋼管の内外径が矯正され、これとあわせて、先の溶接で生じた曲がりも矯正され、真円、真直に近い所定の外径に仕上げられる。
【0005】
図1は、一般的な拡管機の構成を示す模式図であり、同図(a)は拡管機の側面図を、同図(b)はその拡管機の拡管ヘッドの部分を拡大した縦断面図を、同図(c)はその拡管ヘッドの横断面図をそれぞれ示す。
図1に示すように、拡管機は、グリッパ2を搭載した図示しないグリッパキャリッジと、これに対峙して拡管ヘッド6の作動を司るメインシリンダ3とを備える。グリッパ2は、横置きにされてシーム部を上側に位置させた溶接後の鋼管1の端部を把持する。グリッパ2で把持された鋼管1は、グリッパキャリッジの駆動に伴って軸方向に押し込まれ、メインシリンダ3に向けて移動する。
【0006】
メインシリンダ3には、鋼管1の軸心に沿って延び出す円筒状のブーム4が固定されている。このブーム4内には、メインシリンダ3のラムに連結されたプルロッド5が挿通しており、このプルロッド5はメインシリンダ3の駆動に応じて軸方向に進退する。プルロッド5の先端には、角錐台状のコーン7が取り付けられて一体化されている。コーン7の外周には、コーン7の軸心を中心として8〜12等分した位置にそれぞれセグメント8が配設されている。
【0007】
セグメント8は、プルロッド5がメインシリンダ3に引かれて後退するのに伴い、プルロッド5と一体のコーン7による楔作用によって放射状に広がり、これにより、鋼管1は内面から押し広げられ拡管される。そして、プルロッド5が進出するのに伴い、セグメント8は縮まって元の位置に戻り鋼管1の内面から離れる。これらのコーン7とセグメント8で構成される部分が拡管工具であり、拡管ヘッド6と称される。
【0008】
UOE鋼管の場合、鋼管1の長さは12〜18m程度であり、その肉厚は最大で50mm程度である。一方、セグメント8は、鋼管1の外径および肉厚に応じ、300〜1000mm程度の有効長を有するにすぎない。このため、溶接後の鋼管1を全長にわたって拡管する際、鋼管1は、セグメント8の有効長分の送り量をもってしてグリッパキャリッジが間欠的に駆動することにより、段階的に軸方向に搬送されて拡管ヘッド6が挿入されていき、その都度、メインシリンダ3の駆動に伴ってプルロッド5が進退することにより、拡管ヘッド6のセグメント8が放射状に拡縮し、セグメント8の有効長分の拡管が順次実行される。
【0009】
このような拡管においては、先の溶接によって生じた残留応力と曲がりが除去される。ただし、鋼管は、拡管に伴って周方向に伸び、それに反比例して軸方向の長さが収縮するため、周方向の伸びが不均一な場合は、長さの収縮が不均一となる。この場合、鋼管の曲がりが顕在化し、拡管に本来求められる曲がり矯正を実現できない。特に、外径が36インチ以下の小径UOE鋼管を製造する際の拡管時には、鋼管の断面係数が小さいことに起因し、鋼管の曲がり傾向が大きくなる。
【0010】
拡管時に鋼管の曲がりが発生するのを抑制する従来技術は、下記のものがある。特許文献1には、鋼管が搬送される進行方向における拡管ヘッドの前方に、鋼管を左右から拘束するサイドロールを配設した拡管機が開示されている。また、特許文献2には、拡管対象の鋼管の曲がりを予め変位センサによって検出し、その曲がり情報に基づいて鋼管内面の周方向の適切な箇所に潤滑油を噴射して塗布し、その後に拡管を実行する拡管機が開示されている。また、特許文献3には、拡管によって鋼管が曲がる方向を予め把握できることを前提とし、鋼管が搬送される進行方向における拡管ヘッドの前方に、予想曲がり方向とは反対方向の鋼管内面を拘束するインサイドブロックを配設し、このインサイドブロックの前方に、予想曲がり方向とは反対方向の鋼管外面を支持するアウトサイドローラを配設した拡管機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−15029号公報
【特許文献2】実開平4−98314号公報
【特許文献3】特開2011−167710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前記特許文献1に開示される拡管機は、拡管時に鋼管が左右方向へ曲がろうとする力をサイドロールによって拘束しているにすぎず、上下方向の曲がりにも対応できない。
【0013】
また、前記特許文献2に開示される拡管機では、噴射による潤滑油の塗布範囲が広範囲におよぶため、効果があまり期待できない。その上、拡管時に、塗布された潤滑剤や拡管工具からにじみ出た潤滑油が鋼管内面の下部に集積するため、鋼管の曲がりを正確にコントロールすることは難しい。
【0014】
また、特許文献3に開示される拡管機では、拡管を実行する前段階で、拡管による曲がり方向を予測する必要があり、その予測は作業者の技量に頼っているため、拡管時の鋼管の曲がり矯正が適正に行われないことが間々ある。その上、予測した曲がり方向に応じてインサイドブロックとアウトサイドローラの配置を調整しなければならないので、段取りに時間を要し、生産能率が低下することは否めない。
【0015】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、UOE鋼管を製造する際に、次の特性を有する拡管機を提供することである:
拡管による鋼管の内外径の矯正とあわせ、生産能率を低下させることなく、鋼管の上下方向および左右方向の曲がりを適正に矯正すること。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0017】
UOE鋼管を製造する際に、シーム部を溶接された後の鋼管の拡管に用いられる拡管機であって、
当該拡管機は、
鋼管の一端部を把持するグリッパを搭載し、鋼管を軸方向に押し込み搬送するグリッパキャリッジと、
このグリッパキャリッジと対峙して設置され、鋼管の軸心に沿って延び出すブームを有するメインシリンダと、
このメインシリンダのブームの先端に取り付けられ、鋼管の搬送の進行に伴い鋼管の内部に挿入されて放射状に拡縮する拡管ヘッドと、
鋼管が搬送される進行方向における拡管ヘッドの前方に設置され、鋼管の下部を左右方向の一方から撮像する第1カメラ、および鋼管の左右側部のうちの一側部を上方から撮像する第2カメラからなる一対のカメラと、
鋼管が搬送される進行方向におけるカメラの前方に設置され、鋼管を上下から挟み込む上側ロールおよび下側ロール、並びに鋼管を左右から挟み込む右側ロールおよび左側ロールを有する曲がり矯正ロール装置と、
鋼管内に挿入された拡管ヘッドを広げた状態でカメラから撮像データを取得し、鋼管の上下方向の曲がり量および左右方向の曲がり量を算出する曲がり量演算器と、
この曲がり量演算器で算出した鋼管の曲がり量に基づき、曲がり矯正ロール装置の上側ロールおよび下側ロール、並びに右側ロールおよび左側ロールの移動量を設定し、鋼管内に挿入された拡管ヘッドを広げた瞬間に曲がり矯正ロール装置を駆動させる矯正ロール制御器と、を備えたこと、
を特徴とする拡管機。
【0018】
上記の拡管機において、前記一対のカメラは、鋼管が搬送される進行方向に沿って3段以上設置されていることが好ましい。
【0019】
また、上記の拡管機において、前記曲がり量演算器は、予め前記一対のカメラによって撮像した前記ブームの撮像データを取得し、このブームの撮像データを基準にして鋼管の前記曲がり量を算出する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のUOE鋼管製造用の拡管機は、下記の顕著な効果を有する:
拡管による鋼管の内外径の矯正とあわせ、生産能率を低下させることなく、鋼管の上下方向および左右方向の曲がりを適正に矯正できること。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一般的な拡管機の構成を示す模式図であり、同図(a)は拡管機の側面図を、同図(b)はその拡管機の拡管ヘッドの部分を拡大した縦断面図を、同図(c)はその拡管ヘッドの横断面図をそれぞれ示す。
【
図2】本発明の拡管機の構成を示す模式図であり、同図(a)は拡管機の側面図を、同図(b)はその拡管機におけるカメラの配置構成を表す正面図を、同図(c)はその拡管機における曲がり矯正ロール装置の配置構成を表す正面図をそれぞれ示す。
【
図3】本発明の拡管機のカメラによる画像の一例を示す模式図であり、同図(a)はブームの画像を、同図(b)は鋼管の画像をそれぞれ示す。
【
図4】本発明の拡管機の動作を説明する模式図であり、同図(a)は曲がり計測時の状態を、同図(b)は曲がり矯正時の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2は、本発明の拡管機の構成を示す模式図であり、同図(a)は拡管機の側面図を、同図(b)はその拡管機におけるカメラの配置構成を表す正面図を、同図(c)はその拡管機における曲がり矯正ロール装置の配置構成を表す正面図をそれぞれ示す。同図に示す本発明の拡管機は、前記
図1に示す一般的な拡管機の構成を基本とし、重複する説明は適宜省略する。
【0023】
図2(a)に示すように、本発明の拡管機は、前記
図1に示す拡管機と同様に、グリッパ2を搭載した図示しないグリッパキャリッジと、これに対峙して設置されたメインシリンダ3とを備える。グリッパ2は、鋼管1の一端部を把持し、グリッパキャリッジの駆動に伴って、鋼管1を軸方向に押し込みメインシリンダ3に向けて搬送する。メインシリンダ3からは鋼管1の軸心に沿ってブーム4が延び出している。このブーム4内には、メインシリンダ3のラムに連結されたプルロッド5が挿通しており、ブーム4の先端には拡管ヘッド6が取り付けられている。拡管ヘッド6は、メインシリンダ3のラムの駆動に応じたプルロッド5の軸方向への進退に伴って、放射状に拡縮する。
【0024】
ここで、
図2(a)、(b)に示すように、本発明の拡管機は、鋼管1が搬送される進行方向における拡管ヘッド6の前方でブーム4に沿った鋼管1の搬送路に、第1カメラ11および第2カメラ12からなる一対のカメラ10を備えている。第1カメラ11は、鋼管1の曲がりを上下方向に限定して計測する役割を担うため、鋼管1の下部を右方から撮像するように水平姿勢に設置されている。一方、第2カメラ12は、鋼管1の曲がりを左右方向に限定して計測する役割を担うため、鋼管1の左側部を上方から撮像するように鉛直姿勢に設置されている。
【0025】
図2に示す本発明の拡管機では、このように第1カメラ11および第2カメラ12からなる一対のカメラ10が、鋼管1の搬送路に3段設置されている。例えば、1段目のカメラ10は拡管ヘッド6の先端から2m程度離れた位置に設置され、そこから1.5m程度ずつの間隔をあけて2段目、3段目のカメラ10、10が設置されている。
【0026】
なお、第1カメラ11は、鋼管1の下部を左右方向からの視野で撮像できる限り、鋼管1を左方から撮像するように設置されても構わない。ここで、第1カメラ11による撮像視野として鋼管1の上部を採用していない理由は、鋼管1の上部には形状が不安定な溶接シーム部が存在するため、鋼管1の正確な曲がり量を計測するには適さないからである。一方、第2カメラ12は、鋼管1の左右側部のうちの一側部を上方からの視野で撮像できる限り、鋼管1の右側部を撮像するように設置されても構わない。
【0027】
また、
図2(a)、(c)に示すように、本発明の拡管機は、鋼管1が搬送される進行方向における全てのカメラ10の前方でブーム4に沿った鋼管1の搬送路に、曲がり矯正ロール装置20を備えている。上述のとおり、例えば、1段目のカメラ10が拡管ヘッド6の先端から2m程度離れた位置に設置され、そこから1.5m程度ずつの間隔をあけて2段目、3段目のカメラ10、10が設置されている場合、曲がり矯正ロール装置20は、拡管ヘッド6の先端から6m程度離れた位置に設置されている。
【0028】
曲がり矯正ロール装置20は、ブーム4を挿通する鋼管1の周囲を囲繞するように等角度間隔に配置された4つのロール21a〜21dを有する。これらのロール21a〜21dのうち、その位置を時計の文字盤に見立てて0時の位置に配置された上側ロール21aと6時の位置に配置された下側ロール21cは、鋼管1の曲がりを上下方向に限定して矯正する役割を担うため、鋼管1を上下から挟み込む。また、3時の位置に配置された右側ロール21bと9時の位置に配置された左側ロール21dは、鋼管1の曲がりを左右方向に限定して矯正する役割を担うため、鋼管1を左右から挟み込む。
【0029】
これらのロール21a〜21dは、個々に独立して油圧シリンダ22a〜22dを介して支持され、油圧シリンダ22a〜22dの駆動により、鋼管1の径方向に移動可能に構成されている。なお、上側ロール21aは、鋼管1の溶接シーム部と接触するのを避けるため、その溶接シーム部と対向する部分に深さ5mm程度の凹部が設けられている。
【0030】
また、本発明の拡管機において、拡管機全体の動作は拡管機制御装置30によって制御され、拡管機制御装置30は曲がり量演算器31と矯正ロール制御器32を有する。曲がり量演算器31には各カメラ10が接続され、矯正ロール制御器32には、曲がり矯正ロール装置20における各ロール21a〜21dの油圧シリンダ22a〜22dが接続されている。
【0031】
曲がり量演算器31は、拡管機制御装置30の指令により、鋼管1内に挿入された拡管ヘッド6を広げた状態、すなわちメインシリンダ3のラムを駆動させて拡管を実際に実行している状態で、各カメラ10から撮像データを取得し、鋼管1の上下方向の曲がり量および左右方向の曲がり量を算出する。その際の鋼管1の曲がり量の算出は、取得した撮像データに基づき、鋼管1の輪郭線に相当する画素の座標を認識し、それらの画素の座標情報から鋼管1の輪郭線の変位を導出することにより行う。
【0032】
ここで、鋼管1の正確な曲がり量を算出するためには、実際の鋼管1の撮像データに基づく鋼管1の輪郭線を、予め設定された基準線と比較するのが好ましい。基準線としては、真直度の高い標準材を予め各カメラ10で撮像し、その撮像データに基づく標準材の輪郭線を採用すればよい。具体的には、拡管の実施に先立ち、各カメラ10によってブーム4を撮像し、その撮像データに基づき、ブーム4の輪郭線に相当する画素の座標を認識し、それらの画素の座標情報を基準線として導出し、曲がり量演算器31に登録しておけばよい。ブーム4は、機械加工によって精密に仕上げられるため、真直度が高く、簡易に標準材として適するからである。
【0033】
図3は、本発明の拡管機のカメラによる画像の一例を示す模式図であり、同図(a)はブームの画像を、同図(b)は鋼管の画像をそれぞれ示す。同図は、第1カメラ11による画像を代表的に例示したものであり、左側の画像から順に、1段目、2段目、3段目の第1カメラ11による。
【0034】
ここでは、500万画素のカメラ10を使用し、このカメラ10で撮像する視野を500mm四方としている。この場合、1画素当たりの精度が0.22mmとなり、これにより、鋼管1の曲がり計測時に発生する測定誤差が1mm(画素数×4)以下となることから、ラインパイプ用UOE鋼管の曲がり測定におおよそ必要とされる測定精度±1.0mmを満足できている。また、視野を500mm四方としているので、外径が20インチ(508mm)〜36インチ(914mm)の範囲内にある鋼管1を対象としても、カメラ10の視野を変更する必要が無く、再校正の手間が無い。
【0035】
図3(a)に示すように、ブーム4を第1カメラ11で撮像した場合の画像では、ブーム4の輪郭線がほぼ真直な直線で現れる(図中の点線参照)。この直線を基準線とする。続いて、
図3(b)に示すように、鋼管1を第1カメラ11で撮像した場合の画像では、鋼管1の輪郭線が一方向に曲がって現れる(図中の太線参照)。そして、ブーム4の輪郭線からの鋼管1の輪郭線の最大変位と最小変位を抽出し、その差を導出することにより、鋼管1の曲がり量を算出することができる。
【0036】
曲がり量演算器31によって鋼管1の曲がり量が算出された後、矯正ロール制御器32は、拡管機制御装置30の指令により、その曲がり量に基づき、その曲がり量を相殺するように、曲がり矯正ロール装置20における各ロール21a〜21dの油圧シリンダ22a〜22dの押出し量、すなわち各ロール21a〜21dの移動量を設定する。そして、次のステップの拡管において、矯正ロール制御器32は、拡管機制御装置30の指令により、鋼管1内に挿入された拡管ヘッド6を広げた瞬間、すなわちメインシリンダ3のラムを駆動させて拡管を実際に実行する瞬間に、曲がり矯正ロール装置20を駆動させ、各ロール21a〜21dを移動させる。
【0037】
次に、このような構成の本発明の拡管機による拡管方法を具体的に説明する。
【0038】
図4は、本発明の拡管機の動作を説明する模式図であり、同図(a)は曲がり計測時の状態を、同図(b)は曲がり矯正時の状態をそれぞれ示す。まず、拡管の実施に先立ち、各カメラ10(第1カメラ11および第2カメラ12)によってブーム4を撮像し、その撮像データから基準線を導出し、曲がり量演算器に登録しておく。その後に実際の拡管に移行する。
【0039】
拡管は通常の操業と同様にして行う。すなわち、拡管ヘッド6のセグメントの有効長分の送り量をもってしてグリッパキャリッジを間欠的に駆動させ、これにより、グリッパ2に把持された鋼管1を軸方向に一定のステップで搬送し、鋼管1の内部に拡管ヘッド6を挿入していく。ステップ搬送の都度、メインシリンダ3のラムを駆動させてプルロッド5を進退させ、これにより、拡管ヘッド6のセグメントを放射状に拡縮させる。こうして、鋼管1の全長にわたり、セグメントの有効長分の拡管が順次実行される。
【0040】
その際、
図4(a)に示すように、終盤のステップにおいて、拡管ヘッド6を広げ拡管を実際に実行している状態で、各カメラ10(第1カメラ11および第2カメラ12)によって鋼管1を撮像する。そして、曲がり量演算器により、第1カメラ11による撮像データと上記の基準線との比較に基づいて、鋼管1の上下方向の曲がり量を算出し、これと同時に、第2カメラ12による撮像データと上記の基準線との比較に基づいて、鋼管1の左右方向の曲がり量を算出する。
【0041】
続いて、
図4(b)に示すように、鋼管1の曲がり計測後のステップにおいて、拡管ヘッド6を広げ拡管を実際に実行する瞬間に、矯正ロール制御器により、曲がり矯正ロール装置20を駆動させる。すなわち、鋼管1の上下方向の曲がり量に基づいて、その方向の曲がり量を相殺する移動量で上側ロール21aと下側ロール21c(
図2(c)参照)を移動させ、これにより、鋼管1をそれらのロール21a、21cにより上下から挟み込む。これと同時に、鋼管1の左右方向の曲がり量に基づいて、その方向の曲がり量を相殺する移動量で右側ロール21bと左側ロール21d(
図2(c)参照)を移動させ、これにより、鋼管1をそれらのロール21b、21dにより左右から挟み込む。
【0042】
このとき、鋼管1は、グリッパ2と、拡管ヘッド6と、曲がり矯正ロール装置20の各ロール21a〜21dとの間で3点曲げが行われる状態となるため、上下方向および左右方向の曲がりが有効に取り除かれる。ちなみに、拡管ヘッド6を広げていないときに曲がり矯正ロール装置20を駆動させると、3点曲げの状態とならないので、鋼管1の曲がりを取り除く効果は少ない。
【0043】
このように本発明の拡管機によれば、拡管により鋼管の内外径を矯正できることはもとより、拡管時に鋼管に上下方向および左右方向の曲がりが生じた場合であっても、その曲がり量をカメラによって精度良く計測することができ、さらに、その曲がり量に基づき、鋼管の上下方向および左右方向の曲がりを曲がり矯正ロール装置によって適正に矯正することができる。しかも、格別な段取りを要しないことから、生産能率の低下は無い。
【0044】
その他本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、第1カメラおよび第2カメラからなる一対のカメラは、拡管ヘッドの前方で曲がり矯正ロール装置までの範囲に設置される限り、4段以上設置しても構わない。カメラの設置段数の増加に伴って、曲がり量の計測精度が一層向上するからである。
【0045】
また、曲がり矯正ロール装置の設置位置に関し、曲がり矯正ロール装置が拡管ヘッドから遠くに離れすぎていると、鋼管の曲がりの増加に伴って各ロールの移動量が増えるばかりか、鋼管の端部内面がブームに接触するおそれがある。逆に、曲がり矯正ロール装置が拡管ヘッドに接近しすぎていると、鋼管の曲がり矯正に大きな力が必要となるため、当該装置が大規模になり、その設置費用が莫大となる。これらのことから、曲がり矯正ロール装置は、拡管ヘッドの先端から3〜6m程度離れた位置に設置するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、石油や天然ガスを輸送するためのラインパイプに適用されるUOE鋼管、とりわけ外径が36インチ以下の小径UOE鋼管の製造に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1:鋼管、 2:グリッパ、 3:メインシリンダ、 4:ブーム、
5:プルロッド、 6:拡管ヘッド、 7:コーン、 8:セグメント、
10:カメラ、 11:第1カメラ、 12:第2カメラ、
20:曲がり矯正ロール装置、 21a〜21d:ロール、
22a〜22d:油圧シリンダ、
30:拡管機制御装置、 31:曲がり量演算器、 32:矯正ロール制御器