(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、金管楽器から出力される音の調整自由度が低かった。すなわち、従来の技術にかかる消音器は、金管楽器に装着された状態においてベルと逆側に開口部が形成され、当該開口部に対して部材11をネジによって取り付けることにより、当該開口部よりも演奏者側の消音器の端部の位置を調整することができる。しかし、従来の技術においては消音器の開口部に形成されたネジ溝を利用して部材11を取り付ける必要があり、消音器の開口部は金管楽器の内径よりもわずかに小さい径であるため、部材11を演奏者側に延ばしたとしてもすぐに金管楽器の内周に部材11が接触する。この状態においては演奏者の呼気が外部に排出されないため、特許文献1において部材11の可動範囲は極めて狭い範囲となる。また、従来の技術における消音器は消音器の外周とベルの内周との間が演奏者の呼気の流路となっているが、消音器の外周がベルの内周に密着した状態で使用される消音器に対して従来の技術を適用することは想定されていない。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、外周がベルの内周に密着した状態で使用される消音器(弱音器を含む)であって、金管楽器から出力される音の調整自由度が高い消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明においては、筒状部および閉塞部を備える本体と、本体の内側で第1の端部が開口するとともに本体の外側に第2の端部が開口する性能調整パイプと、呼気流路の断面積を調整する断面積調整手段とを備える消音器を構成した。
【0006】
すなわち、消音器を構成する筒状部の外周面が金管楽器のベルの内周面に接するように取り付けられることにより、消音器の外周面とベルの内周面との間からは演奏者の呼気が漏れないように構成されている。このため、演奏者の呼気を排出する必要があり、筒状部と閉塞部とによって消音器の本体が中空となるように構成され、当該筒状部の閉塞部が存在しない側の端部が開口することによって演奏者の呼気が金管楽器から消音器の本体内に導入されるように構成されている。さらに、性能調整パイプの第1の端部が本体の内側で開口し、第2の端部が本体の外側に開口しているため、演奏者の呼気は第1の端部から性能調整パイプ内に導入され、第2の端部から本体の外側に排出されるように構成されている。
【0007】
このような構成においては、本体の開口部(閉塞部と逆側の端部)よりも演奏者側の金管楽器の内側の空間が演奏者の呼気を本体内に導入するための呼気流路となる。断面積調整手段は、呼気流路の断面積(例えば、金管楽器の軸に垂直な方向の断面積)を調整することが可能であり、当該断面積を調整することにより、呼気流路の断面積が異なる複数の状態で金管楽器を使用することができる。この場合、各状態において金管楽器から出力される音の音程や音色が異なり得るため、高い調整自由度で音を調整可能な消音器を提供することができる。
【0008】
ここで、消音器の本体を構成する筒状部は、当該筒状部の外周面が金管楽器のベルの内周面に接するように取り付けられることで、消音器の外周面とベルの内周面との間からは演奏者の呼気が漏れないように構成されていればよい。従って、筒状部の外周面にベルの内周面との接触性を高める部材が取り付けられていてもよいし、外周面が金管楽器のベルの形状に沿ってベルの形状よりも緩やかに変化するように(例えば、外側に向けてベルよりも緩やかに外周の径が徐々に大きくなるように)構成されていても良い。また、筒状部は、薄い板状の壁面が軸の周囲に存在することで軸方向の両端が開口するように構成された部材であれば良く、素材や外周径、内周径は限定されない。
【0009】
閉塞部は、筒状部の一方の端部を閉塞する壁面を構成すれば良く、例えば、薄い板状の部材が筒状部の一方の端部に取り付けられる構成等を採用可能である。すなわち、閉塞部が取り付けられた筒状部の端部(一方の端部)と逆側の端部を金管楽器に挿入するとともに、筒状部の外周面を金管楽器のベルの内周面に接触させることによって本体を金管楽器に取り付けるように構成されている。この結果、閉塞部が金管楽器の外側に露出し、筒状部における閉塞部と逆側の端部が金管楽器の内側に隠れた状態、例えば、トランペットであれば、閉塞部が演奏者と反対側に配置され、筒状部における閉塞部と逆側の端部が演奏者側に配置された状態となる。むろん、閉塞部と筒状部とは一体的に形成されてもよいし、別体であった閉塞部と筒状部とが連結される構成であっても良い。
【0010】
性能調整パイプは、両端が開口したパイプであれば良く、本体の内側で第1の端部が開口するとともに本体の外側に第2の端部が開口するように本体に取り付けられていればよく、第1の端部と第2の端部との間において性能調整パイプが直線状であっても良いし曲げられていてもよい。後者の場合、第1の端部と第2の端部との間における曲率の変化は特に限定されず、直線状の部位と曲げられた部位とが接合された形状であっても良いし、曲率が連続的に変化するように曲げられた形状(例えばらせん状)であってもよい。なお、曲率は離散的に変化してもよいが、特定の音波でディップやピークが生じることや吹奏感の悪化等を防止するためには曲率が連続的に変化する構成の方が好ましい。なお、性能調整パイプの長さや第1の端部の位置は消音器の性能を左右するため、例えば、性能調整パイプの長さが、金管楽器の実用音で共鳴しない長さとなる範囲でできるだけ長くする構成を採用してもよい。また、第1の端部を閉塞部の近傍に開口させることにより、可聴域の音波でディップやピーク等が発生しないように構成されていても良い。
【0011】
断面積調整手段は、呼気流路の断面積を調整することができればよく、断面積調整手段を構成する部材が呼気流路内に存在し、当該部材の大きさ、形状、位置のいずれかまたは組み合わせが変化することに伴って呼気流路の断面積が実質的に変化するように構成されていれば良い。呼気流路は、金管楽器の演奏者の呼気を本体内に導入するための流路であり、上述の従来の技術のように、呼気が消音器の本体の外周面と金管楽器の内周面との間を通る形態の消音器とは異なる消音器が前提となっている。
【0012】
また、呼気流路の断面積は金管楽器の軸に垂直な方向に金管楽器を切断した状態を想定した場合において呼気が通る部分の面積であれば良い。すなわち、金管楽器の使用時における当該断面積を変化させることによって、消音器を装着した状態において出力される音が変化することが判明しており、当該断面積を変化させることによって演奏者の好みの音に音を調整したり、消音器を使用しない場合における出力音と類似した音になるように音を調整したりすることができるように構成されていれば良い。
【0013】
さらに、呼気流路の断面積を調整するための構成例として、断面積調整手段が、消音器の本体に取り付けられるとともに金管楽器の軸方向に移動可能な可動部材を備える構成としてもよい。すなわち、金管楽器の管体はベルから演奏者に向けて内径が徐々に変化するように構成されており、当該管体内で所定の大きさを有する可動部材を金管楽器の軸方向に移動させれば、可動部材と管体の内周面との距離が変動し、これに伴って呼気流路の断面積が変化する。この構成によれば、容易に呼気流路の断面積を変化させることができる。
【0014】
さらに、可動部材の筒状部の軸に垂直な面への投影図は、筒状部の閉塞部と逆側の開口部の筒状部の軸に垂直な面への投影図に内包されるように構成しても良い。この構成によれば、可動部材を筒状部の内側に移動させることが可能であり、音の調整自由度を向上させることが可能であるとともに、小型の金管楽器に使用することも可能になる。
【0015】
さらに、可動部材が直線状に延びる柱状部材を備え、本体に筒状部の軸方向に柱状部材を挿入可能な挿入部が形成されている構成としてもよい。この構成によれば、柱状部材の挿入部に対する挿入深さを調整することによって可動部材を筒状部の軸方向に移動させることが可能であり、簡易な構成によって可動部材を提供することができる。
【0016】
さらに、断面積調整手段において、大きさと形状の少なくとも一方が異なる2個以上の前記可動部材から1個を選択して使用可能であるように構成されていても良い。すなわち、可動部材は交換可能であり、可動部材を交換することによって管体内に配置させる可動部材の大きさと形状の少なくとも一方を変化させることができるように構成する。この構成によれば、より高い自由度で金管楽器から出力される音を調整することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)消音器の構成:
(2)他の実施形態:
【0019】
(1)消音器の構成:
図1A、1Bは、本発明の一実施形態にかかる消音器を示す図である。
図1Aはトランペットのベル1に装着された消音器をトランペットの管の軸に沿って切断した場合の断面図である。本実施形態にかかる消音器は筒状部11と閉塞部12とからなる本体10を備えており、当該本体10の内側には性能調整パイプ20が取り付けられている。また、本体10には音程調整のための可動部材30が取り付けられている。
【0020】
筒状部11は板状の部材で構成されており、軸に沿って内径及び外径が徐々に変化する形状である。すなわち、筒状部11は、略円錐台の形状であり、本実施形態において、円錐台の側面に相当する壁面は
図1Aに示す断面において直線ではなく曲線であり、軸に沿って徐々に曲率が変化する。また、筒状部11における軸方向の一方の端部は他方の端部よりも内径が大きい。本実施形態においては、内径が大きい方の端部14(下底に相当する端部)に閉塞部12が連結され、内径が小さい方の端部13(上底に相当する端部)は開口している。従って、本体10は一端が開口した中空の部材である。
【0021】
閉塞部12は板状の部材で構成されており、本体10の外部に露出する閉塞部12の外面は略椀状の形状である。閉塞部12の内面も略椀状の形状であるが、その中央(筒状部11の軸と閉塞部12との交点)には可動部材30を構成する棒状部材32を固定するための柱状部材であるボス12aが形成されている。ボス12aは、本体10の内側において筒状部11の軸方向に沿って延びる部材であり、筒状部11の軸と同一の軸を有する円柱状の穴12bが形成されている。
【0022】
棒状部材32は、金属製(例えば、アルミ製)の円筒部材であり、棒状部材32の外径はボス12aの穴12bの内径よりもわずかに小さくなっている。従って、棒状部材32を穴12bに挿入することによって棒状部材32をボス12aに固定することができる。棒状部材32には円錐台部31が取り付けられ、当該円錐台部31と棒状部材32とによって可動部材30が構成される。
【0023】
円錐台部31は、板状の部材で構成された略円錐台の形状の部材であり、本実施形態において、円錐台の側面は
図1Aに示す断面において直線である。また、円錐台部31の円錐台における内径が小さい方の端部31c(上底に相当する端部)は閉塞しており、内径が大きい方の端部31a(下底に相当する端部)は開口している。従って、円錐台部31も一端が開口した中空の部材である。円錐台部31の端部31cには棒状部材32を固定するための柱状部材であるボス31bが形成されている。ボス31bは、円錐台部31の内側において円錐台部31の軸方向に沿って延びる部材であり、円錐台部31の軸と同一の軸を有する円柱状の穴が形成されている。当該穴の内径は、棒状部材32の外径よりわずかに大きくなっている。従って、棒状部材32を当該穴に挿入することによって棒状部材32をボス31bに固定することができる。
【0024】
図1Aにおいては、棒状部材32がボス12aの穴12bおよびボス31bの穴に挿入されることにより、棒状部材32を介して可動部材30が本体10に対して取り付けられた状態を示している。なお、円錐台部31を軸に垂直な方向の面に投影した図は、筒状部11の端部13に形成される開口部を軸に垂直な方向の面に投影した図に内包される。従って、棒状部材32を穴12bに押し込みながら可動部材30を本体10側に移動させることにより、端部13よりも本体10の内側に可動部材30の端部31aを挿入することが可能であるとともに、棒状部材32を穴12bに挿入した状態で可動部材30を本体10と逆側に移動させることにより、棒状部材32が穴12bに固定されなくなるまで可動部材30を引き出すことが可能である。本実施形態において、ボス12aの軸と筒状部11の軸とは一致し、筒状部11の軸がトランペットの管の軸に一致するように本体10がトランペットに取り付けられるため、可動部材30をボス12aに沿って移動させると、可動部材30を筒状部11の軸方向に移動させ、また、トランペットの軸方向に移動させることができる。
【0025】
本実施形態にかかる筒状部11においては、外周に摩擦係数の大きい緩衝材(スポンジ等の樹脂)11aが巻き付けられている。また、筒状部11における曲率は、本体10の装着対象となるトランペットのベル1の曲率よりも軸方向の単位距離あたりの変化が小さい。従って、本体10の端部13をベル1内に挿入して本体10をベル1内に移動させると、やがて、筒状部11の外周に取り付けられた緩衝材11aの外周がベル1の内周に密着する。この状態においてさらに本体10をベル1内に押し込むと、緩衝材11aが変形するとともに摩擦力によって本体10がベル1に固定された状態となる。
【0026】
本実施形態においては、緩衝材11aの厚さを所定の厚さとしており、緩衝材11aの変形量にある程度の幅があるため、本体10をベル1に固定する位置にある程度の幅がある。従って、本体10をベル1に固定する位置を調整することによって音程を調整することが可能である。
【0027】
性能調整パイプ20は、円筒部材であり、一方の端部から他方の端部までの軸の形状が、直線状の部位と円弧状の部位と直線状の部位とが連結された形状となるような円筒形状である。すなわち、性能調整パイプ20は、
図1Aに示すように略平行の直線状の部位と各直線状の部位に連結する円弧状の部位とによって構成されている。
【0028】
性能調整パイプ20の両端は開口しており、
図1B(閉塞部12を本体10の外側から見た図)に示すように、第1の端部20aは消音器の本体10の内側で開口し、第2の端部20bは消音器の本体10の外側に開口する。すなわち、閉塞部12においては、裏側(本体10の内側)に、演奏者方向に延びるボス12cが形成されており、当該ボス12cは筒状部11の軸に平行な円柱状の穴が形成され、当該穴は閉塞部12の表裏(本体10の外側と内側)を貫通している。当該穴の内径は性能調整パイプ20の外径よりもわずかに大きくなっており、当該穴に対して性能調整パイプ20の第2の端部20bを挿入して性能調整パイプ20を固定することができる。そして、性能調整パイプ20の第2の端部20bがボス12cに挿入されることにより、第2の端部20bが本体10の外側に開口することになる。
【0029】
性能調整パイプ20は、第1の端部20aと第2の端部20bとの間で半円状に曲がっているため、性能調整パイプ20の第2の端部20bがボス12cに挿入されて固定された状態において性能調整パイプ20の第1の端部20aは第2の端部20bと同方向に開口している。さらに、性能調整パイプ20は直線状の部位と曲がった部位と直線状の部位とが連結された形状であるが、第2の端部20b側の直線状の部位は第1の端部20a側の直線状の部位よりも長い。従って、第1の端部20aは閉塞部12に到達せず、第1の端部20aは閉塞部の近傍で閉塞部12側に開口した状態となる。この結果、本実施形態においては、演奏者の呼気がトランペットの管から本体10内に導入され、本体10内の呼気がさらに性能調整パイプ20の第1の端部20aに導入され、性能調整パイプ20内の呼気は性能調整パイプ20の第2の端部20bから本体10の外側に排出されることになる。
【0030】
図2A、
図2Bは、可動部材30の可動範囲を示す図であり、
図2Aは可動部材30を最も本体10に近い位置に移動させた状態を示し、
図2Bは可動部材を最も本体10から離れた位置に移動させた状態を示している。このように、本実施形態においては、可動部材30を
図2Aに示す状態から
図1Aを経て
図2Bに示す状態になるまで移動させることができる。
図3A、
図3B、
図3Cは、可動部材30が
図2A、
図1A、
図2Bの各位置に固定された状態において、呼気流路の断面積が最小になる部位Pminをトランペットの軸に平行な方向から眺めた状態を示す図である。なお、
図3Aにおいては、円錐台部31の外周面を実線で示し、筒状部11の内周面を破線で示している。また、
図3B、
図3Cにおいては、円錐台部31の外周面を実線で示し、ベル1の内周面を破線で示している。
【0031】
図3A、
図3B、
図3C、
図2A、
図1A、
図2Bにおいては、部位Pminにおける円錐台部31の外周面とベル1もしくは筒状部11の内周面との距離をそれぞれL
2a、L
1a、L
2b、と示しており、この例においては、L
2a<L
1a、L
1a>L
2b、L
2a<L
2bである。すなわち、本実施形態においては、可動部材30を移動させることにより、呼気流路の断面積が最小になる部位Pminにおける呼気流路の断面積が変化し、可動部材30の全可動範囲で比較した場合、
図2Aのように可動部材30を本体10に最も接近させた状態において部位Pminにおける呼気流路の断面積が最も小さくなる。また、可動部材30を本体10に最も接近させた状態から可動部材30を徐々に本体10から離していくと、円錐台部31の外周面とベル1の内周面との距離が最大値に達して部位Pminにおける呼気流路の断面積が最大値となり、さらに可動部材30を本体10から離していくと部位Pminにおける呼気流路の断面積が徐々に小さくなっていく。
【0032】
ここで、トランペットに装着されたマウスピースに演奏者が唇をつけて呼気を導入した場合、演奏者の唇の振動による音波が伝搬する。この音波によってトランペット内部に定在波が発生し、発生した定在波によってトランペットから出力される音の音程が定まる。つまり、呼気流路の断面積を変化させることは、前述の音波が伝搬する経路の断面積を変化させることになる。よって、呼気流路の断面積を変化させる構成においては、おおむね、呼気流路の断面積が大きい場合に音程が上がり、呼気流路の断面積が小さい場合に音程が下がる。従って、可動部材30の位置を調整することによってトランペットから出力される音の音程等を調整することが可能である。
【0033】
なお、本実施形態においては、可動部材30の円錐台部31が円錐台であることにより、可動部材30の移動に伴ってより多くの要素が変化する。例えば、可動部材30の移動に伴って、円錐台部31の側面の全域に渡って円錐台部31の外周面とトランペットもしくは筒状部11の内周面との距離が変化するため、呼気流路の断面積は、部位Pminのみならず円錐台部31の側面の全域に渡って変化する。このため、円錐台部31の側面の周囲に存在する呼気流路の容積および形状が複雑に変化し、トランペットから出力される音の音程等を種々の状態に調整することが可能である。
【0034】
さらに、本実施形態においては、消音器の本体10の閉塞部12が音波の反射面となるが、当該反射面の位置と円錐台部31との位置関係が変化することによって音程等が変化し得る。すなわち、反射面としての閉塞部12と円錐台部31の上底に相当する端部31cとの位置関係が変化するとトランペットから出力される音の音程等が変化し得る。さらに、本体10の端部13と可動部材30の端部31aとの距離が変わることによって、呼気流路の隙間が大きく変動するため演奏者が感じる吹奏感が大きく変動するとともに、当該隙間の大きさによってトランペットから出力される音の音程等が変化し得る。以上のように、本実施形態にかかる消音器によれば、高い自由度で音を調整することができ、高い自由度で吹奏感を調整することができる。
【0035】
(2)他の実施形態:
本発明においては、金管楽器の使用時における呼気流路の断面積を調整することができればよく、他にも種々の構成を採用可能である。例えば、円錐台部31および棒状部材32の大きさは
図1Aに示す構成に限定されない。
図3Dに示す可動部材300は、
図1Aに示す可動部材30とほぼ同様の形状であるが、円錐台部310および棒状部材320が円錐台部31および棒状部材32よりも小さくなっている。このため、可動部材300を
図1Aに示す本体10に取り付けて使用すれば、可動部材300の全体を本体10の内側に挿入して使用することも可能になる。なお、この場合、可動部材300を取り外すことができるように、筒状部11と閉塞部12とが着脱可能であることが好ましい。
【0036】
以上のように、可動部材の形状および大きさが種々のものを構成することが可能であり、複数の可動部材を予め作成しておき、任意の1個を選択して本体10に取り付けて使用できるように構成すれば、音の調整の自由度がさらに高くなる。
【0037】
さらに、可動部材を構成する円錐台部が変形することによって呼気流路の断面積を調整できるように構成されていても良い。
図3E〜3Hは、変形する円錐台部311を示す図であり(棒状部材は省略)、
図3E、
図3Gは円錐台部311の軸に沿って円錐台部311を切断した状態の断面図、
図3F、
図3Hは円錐台部311の軸に平行な方向から円錐台部311の上底側を眺めた図である。なお、
図3Eは
図3FのA−A断面図であり、
図3Gは
図3HのB−B断面図であり、
図3E、
図3Gにおいて断面より奥側の構造は省略している。
【0038】
本例においては、円錐台部311を構成する3カ所の可動部位311aが、円錐台部311の軸に垂直な面内で円錐台部311の軸を中心とした放射状の方向に移動可能である。具体的には、可動部位311aは可撓部311bを介して円錐台部311のボス311c(棒状部材が挿入されるボス)と連結されており、可撓部311bを撓ませることにより、可動部位311aを円錐台部311の軸に近接、または離間させるように移動させることができる。本例においては、
図3F、
図3Hに示す円錐台部311の中心(軸の位置)から上方を0°とし、時計回りに角度を増加させる場合において、120°、240°の方向に可動部位311aが形成されている。従って、0°、120°、240°の位置で可動部位311aが軸に近接し、または離間することが可能である。
【0039】
さらに、本例における可動部位311aにおいては、可撓部311bから延びる壁面の厚さが4段階に変化するように構成されており、可撓部311bに最も近い階段部311e1から順に、階段部311e2、階段部311e3、階段部311e4の順に厚さが厚くなる。そして、各階段部311e4には、ストッパ311dを取り付けることが可能である。すなわち、ストッパ311dは内径および外径が軸方向に変化しない筒状体であるとともに、筒状体の軸方向から見た内径および外径が6角形になるように構成されている。また、当該6角形の3辺に相当する壁面の内側の面は、階段部311e1〜311e4の各面と同じ形状および大きさである。従って、3カ所の可動部位311aにおいて同一の階段部にストッパ311dをかけることによって可動部位311aの位置を4段階に調整可能である。
【0040】
例えば、
図3E、
図3Fにおいては、階段部311e1にストッパ311dをかけた状態を示しており、この状態においては、可動部位311aの外周面と円錐台部311の外周面とが一致している。一方、
図3G、
図3Hにおいては、階段部311e4にストッパ311dをかけた状態を示しており、この状態においては、可動部位311aの外周面が円錐台部311の外周面よりも内側に移動している。従って、
図3E、
図3Fと比較して
図3G、
図3Hの状態においては、呼気流路の断面積が大きくなる。なお、
図3G、
図3Hにおいては、可動部位311aが移動する前の可動部位311aの外周面を破線で示している。このように、可動部位311aを移動させて呼気流路の断面積を調整することにより、トランペットから出力される音を調整することが可能である。
【0041】
図4A〜4Dは、円錐台部の外周面が弾性体(ゴムやエラストマー等)で構成されており、当該弾性体の弾性力を利用して円錐台部の外周面の形状を変形させることが可能である。
図4A〜4Dは、弾性体の弾性力を利用して変形する円錐台部312を示す図であり、
図4A、
図4Cは円錐台部312の軸に沿って円錐台部312を切断した状態の断面図、
図4B、
図4Dは円錐台部312の軸に平行な方向から円錐台部312の上底側を眺めた図である。なお、
図4Aは
図4BのC−C断面図であり、
図4Cは
図4DのD−D断面図であり、
図4A、
図4Bにおいて断面より奥側の構造は省略している。
【0042】
本例において、円錐台部312の外周面は厚さが略一定の弾性体で構成されており、当該弾性体の内側に複数個(本例においては6個)の突出部312aが円錐台部312の軸に向けて突出するように取り付けられている。突出部312aのそれぞれには、さらに円錐台部312の軸に向けて突出するスライド部312a1が設けられている。スライド部312a1は、円錐台部312の軸方向において突出部312aの全長に渡って形成されており、円錐台部312の軸に向けて突出するとともに厚さは一定である。すなわち、板状の突出部312a1が円錐台部312の軸に向けて突出している。また、突出部312aは、円錐台部312の軸に方向において本体10に近づくほど(円錐台部312の上底から下底に向けて)厚さが徐々に増加し、当該厚さの増加に伴ってスライド部312a1の先端と円錐台部312の軸との距離が小さくなるように構成されている。
【0043】
本例においては、円柱状の棒状部材322を介して可動部材(円錐台部312および棒状部材322)が本体10に取り付けられる。当該棒状部材322に対しては、調整部312bと角度調整部312cとが挿入される。調整部312bは、円筒形の部材であるとともに、外周面の6箇所にはスライド部312a1を挿入可能な溝312b1が形成されている。また、調整部312bの内周面にはネジ溝が形成されており、棒状部材322においても、当該棒状部材322の先端から円錐台部312の全長に相当する長さだけネジ溝が形成されている。従って、調整部312bを回転させることによって調整部312bの位置を変化させることが可能である。
【0044】
角度調整部312cは、略円錐台の外形であるとともに中央には棒状部材322を挿入するための穴が形成されている。また、角度調整部312cにおいては、円錐台の下底に相当する部位の6カ所に連結部312c1の端部が回動可能に連結される。当該連結部312c1の他方の端部は突出部312aに対して回動可能に連結される。
【0045】
本例においては、弾性体が円錐台部312の外周面の周が小さくなるように(円錐台部312の軸方向に向けて)力を作用させている。本例においては、調整部312bがいずれの位置にあるとしても、突出部312aに円錐台部312の軸方向に向けた力が作用し、スライド部312a1が調整部312bに接触するまで突出部312aが軸方向に向けて移動される。本例においては、このような作用を利用して円錐台部312の外周の形状を変形させることが可能である。例えば、
図4C、
図4Dに示すように、調整部312bが円錐台部312の最も奥(円錐台部312の上底に相当する面に接触する位置)に存在する状態においては、円錐台部312の外周が円錐台部312の軸に最も近い状態である。
【0046】
この状態から円錐台部312を回転させると、スライド部312a1を介して調整部312bを棒状部材322周りに回転させることが可能である。調整部312bが回転すると、当該調整部312bは棒状部材322の軸方向に移動するため、当該調整部312bの移動に伴って円錐台部312の外周が円錐台部312の軸から徐々に遠ざかる。そして、回転を続けると、やがて調整部312bが可動範囲の端(
図4A、
図4Cの左端)に到達し、円錐台部312の外周が円錐台部312の軸から最も遠い状態となるまで変形させることができる。本例においては、円錐台部312の外周と円錐台部312の軸との距離を連続的に変化させることができ、当該変化に伴って、呼気流路の断面積を徐々に変化させることが可能である。なお、
図4Cにおいては、
図4Aにおける円錐台部312の外周の位置を破線で示している。このように、調整部312bを移動させて呼気流路の断面積を調整することにより、トランペットから出力される音を調整することが可能である。
【0047】
さらに、呼気流路の断面積を変化させるためには、他にも種々の構成を採用可能であり、例えば、大きさがわずかに異なる2個の円錐台を軸に沿って切断して得られた各部材を
共通の軸で回転可能に連結すれば、両者を相対的に回転させることにより、呼気流路の断面積を変形させることが可能になる。また、円錐台部の代わりに中空の弾性体を取り付け可能に構成し、当該弾性体内に気体を封入可能に構成すれば、封入する気体の量を変化させることによって呼気流路の断面積を変化させることが可能になる。むろん、本体10に取り付けられる可動部材の形状は円錐台以外の形状も採用可能であり、円筒形や円柱形であってもよい。
【0048】
さらに、可動部材を本体に対して強固に固定できるように構成しても良い。例えば、
図1Aに示す構成において、棒状部材32を円柱部材で構成し、ボス12aの穴12bと棒状部材32の先端にネジ溝を形成すれば、両者をより強固に、また、演奏中に棒状部材32の位置が変化しないように固定することができる。むろん、棒状部材32の先端はすり割り付き止めネジ(いもネジ)であってもよいし、ボス12aの先端にナットやダブルナットを取り付けるように構成しても良い。また、円錐台部31と棒状部材32とをネジによって固定できるように構成しても良い。
【0049】
さらに、消音器から出力される音は各種の手法で調整されてよく、閉塞部12の内側に特定周波数の音域を吸収する吸音材を取り付ける構成としてもよい。例えば、金管楽器の使用音域の中の中高音域の音波を吸収する吸音材を閉塞部12の内側や性能調整パイプ20の外周の第1の端部20aの近傍に取り付ければ、性能調整パイプ20に進入する中高音成分が相対的に少なくなり、出力音を柔らかくすることが可能である。
【0050】
さらに、消音器によって消音を行いつつマイクによって集音し、集音された音を特定の者(演奏者等)が聞くことができるようにする構成を追加しても良い。
図5は、消音器にマイクを取り付けることができる構成の例を示す図である。
図5においては、
図1Aに示す構成と同様の構成については同一の符号で示している。
図5に示す構成例においては、棒状部材32が円錐台部31の端部31cを貫通するように取り付けられており、棒状部材32の端部にマイク320aが取り付けられている。また、閉塞部12の中央には端子120aが取り付けられており、マイク320aおよび端子120aには信号線320bが接続されている。この構成にかかる消音器10を金管楽器のベルに取り付けた状態で端子120aにアンプ等への出力信号線を接続すれば、金管楽器からの出力音を消音しつつ、アンプ等によって演奏音を所望の大きさの音に変換し、特定の者に聞かせることが可能である。なお、マイク320aの位置は棒状部材32の端部に限定されるものではなく、消音器内で演奏音を検出できる場所であればどこでもよい。また、マイク320aの出力信号をアンプ等に送る手段は有線通信に限定されるものではなく、無線通信でもよい。