(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5858249
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池セル及び固体酸化物形燃料電池セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/02 20160101AFI20160128BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20160128BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
H01M8/02 E
H01M8/12
H01M4/86 T
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-515222(P2013-515222)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2012062790
(87)【国際公開番号】WO2012157748
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2013年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-111262(P2011-111262)
(32)【優先日】2011年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】塩野 光伸
(72)【発明者】
【氏名】古屋 正紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塩 稔
(72)【発明者】
【氏名】安藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】白▲濱▼ 大
(72)【発明者】
【氏名】島津 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】川上 晃
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−232136(JP,A)
【文献】
特開2009−037873(JP,A)
【文献】
特開平06−243872(JP,A)
【文献】
特開平07−105954(JP,A)
【文献】
特開2001−196069(JP,A)
【文献】
特開2010−257947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
H01M 4/86 − 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス流路と、
前記燃料ガス流路の周囲に設けられた鉄族元素とセラミックスとを含んでなる燃料極層と、
前記燃料極層の周囲に設けられた固体電解質層と、
前記固体電解質層の周囲に設けられた空気極層とを有し、燃料ガスが前記燃料ガス流路の一方側から供給され、前記燃料ガス流路の他方側に設けられた開口部から排出される固体酸化物形燃料電池セルの製造方法であって、
固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電温度に近い高温状態において、前記開口部から酸化剤ガスが流入した場合に生じる前記燃料極層の酸化膨張の速度を抑制するための、膨張速度抑制処理を固体酸化物形燃料電池セルに施す工程と、
前記鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、前記セラミックスからなる粉末とを、溶媒に分散させたスラリー液を乾燥させた複合材料を押出成形させて前記燃料極層を得る工程とを含み、
前記膨張速度抑制処理は、押出成形時に複合材料にせん断を加え、1次粒子化する工程を含み、
前記開口部から前記酸化剤ガスが流入し始めた以降の期間における、前記燃料極の1分間当たりの線膨張率が、0.09%以下であることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項2】
前記鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、前記セラミックスからなる粉末とを、溶媒に分散させたスラリー液を乾燥させた複合材料から前記燃料極層を得る工程を含み、
前記膨張速度抑制処理は、前記スラリー液の分散粒子径を10μm未満とする処理を施す工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項3】
前記鉄族元素がニッケルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項4】
前記セラミックスが安定化ジルコニアであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項5】
前記安定化ジルコニアがイットリア安定化ジルコニアであることを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項6】
前記開口部には、前記開口部への酸化剤ガスの流入に対する圧力損失を高める酸化剤ガス流入抑制部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項7】
前記酸化剤ガス流入抑制部は、前記開口部よりも小さい断面積を有する酸化剤ガス流入抑制流路を具備し、
この酸化剤ガス流入抑制流路は前記燃料ガス流路と連通していることを特徴とする請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【請求項8】
前記酸化剤ガス流入抑制部は、少なくとも前記開口部を覆う胴体部と、前記胴体部から突出するよう伸び、前記胴体部よりも径が細い縮径部とを有することを特徴とする請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セル及び固体酸化物形燃料電池セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池セルは、固体電解質領域を燃料極と空気極とで挟んで形成されている。この固体酸化物形燃料電池セルの燃料極側に水素を含む燃料ガスを流し、空気極側に酸化剤ガスとしての空気を流すことで発電反応を起こさせている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池セルの形状は様々なものがある。例えば、固体酸化物形燃料電池セルの内部に燃料ガス流路を設け、外部に空気を流すことで発電反応を起こさせる固体酸化物形燃料電池セルが知られている(例えば、特開2006−302709号公報)。上記のような固体酸化物形燃料電池セルでは、燃料ガス流路の出口側開口部で外部の空気と燃料が混合し、燃焼させる構成が知られている。(例えば、特開2010−277845号公報)
【発明の概要】
【0004】
固体酸化物形燃料電池を運転する場合、燃料極側には燃料ガスが供給されるので、燃料極は還元雰囲気に曝されることになる。ところが、運転停止時に燃料ガスの供給を止めると高温状態で燃料ガス流路の出口側開口部から燃料極側に空気が流入してしまう場合がある。このとき、燃料極に酸化膨張が発生し、その結果、電解質への亀裂やセル破損が生じる不具合が発生していた。
【0005】
燃料極の酸化膨張量が小さくなる低温域になるまで燃料ガスを供給し続けることも考えられるが、前記低温域になると、固体酸化物形燃料電池セルの前段に設けられた改質器での改質反応が不安定になり、エタンなどC2以上の燃料ガスが固体酸化物形燃料電池セルの燃料極ガス流路に流入する場合がある。このとき、燃料極はコーキングを起こす。つまり、燃料極の触媒表面部分への炭素付着を起こし、燃料ガスとの反応を妨げ、燃料極の伝導性を低減させてしまう。また、燃料極がセルの構造的支持体として作用する場合には燃料極と反応し膨張を起こす。その結果、燃料極が劣化してしまう不具合が生じていた。
【0006】
そこで、高温状態で燃料ガスの出口側開口部から燃料極側に空気が流入しても、電解質の亀裂やセル破損の生じない固体酸化物形燃料電池セルが求められていた。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料電池の運転停止に伴う燃料極側への空気の流入が生じても電解質の亀裂及びセル破損を防止できる固体酸化物形燃料電池セルを提供することにある。
【0008】
本発明者等は、燃料極側への空気の流入による電解質の亀裂やセル破損を起こす固体酸化物形燃料電池セルの燃料極について詳細に検討した結果、酸化膨張量が大きくとも不具合を生じないセルがあることを実験的に見出した。そこで、前記不具合の有無について、さらに酸化膨張の観点から詳細に検討した結果、燃料ガスの供給を止めてから数分間の酸化膨張速度を抑えることが有効であることを見出した。つまり、酸化による膨張の大きさではなく、膨張の速度がポイントであることを見出し、本発明に至った。
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルは、固体酸化物形燃料電池セルであって、燃料ガス流路と、前記燃料ガス流路の周囲に設けられた鉄族元素とセラミックスとを含んでなる燃料極層と、前記燃料極層の周囲に設けられた固体電解質層と、前記固体電解質層の周囲に設けられた空気極層とを有し、燃料ガスが前記燃料ガス流路の一方側から供給され、前記燃料ガス流路の他方側に設けられた開口部から排出され、固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電温度に近い高温状態において、前記開口部から酸化剤ガスが流入した場合に生じる前記燃料極層の酸化膨張の速度を抑制するための、膨張速度抑制処理が施されていることを特徴とする。ここで、「周囲に設けられた」というために、周囲全体に設けられている必要はなく、その周囲に一部でも設けられていれば良い。
【0010】
この膨張速度抑制処理が施された燃料極層を備えた固体酸化物形型燃料電池においては、燃料ガスの供給を止めてから数分間の酸化膨張速度を抑えることができるため、例えば、シャットダウン停止のように高温状態で燃料ガスの供給を止めた場合に、燃料ガスの出口側開口部から燃料極側に空気が流入しても、燃料極層の酸化速度を抑制することができる。これにより、電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することが可能な燃料電池を提供することができる。例えば、シャットダウン停止とは、マイコンメータの警報装置によってガスの供給が自動的に停止することが挙げられる。
【0011】
なお、ここで固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電温度に近い高温状態とは、セルの温度が500〜800℃にある状態を指す。さらに、好ましくは、550〜700℃の状態である。
【0012】
また、ある態様において、本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、前記開口部から前記酸化剤ガスが流入し始めた以降の期間における、前記燃料極の1分間当たりの線膨張率が、0.09%以下であることを特徴とする。このような膨張速度に抑制することで燃料極の膨張により電解質に与えられる応力を緩和し、電解質の亀裂やセル破損を防ぐことができる。
【0013】
燃料極の1分間あたりの線膨張率が0.04%以下であることが好ましい。このようにすることでセルに密着している集電体へのセル膨張による負荷が軽減され、シャットダウン停止を繰り返した際の密着性低下による集電ロスを防ぐことが可能となる。さらに好ましくは、0.03%以下である。このような範囲とすることでガスシール部のような局部的な部位での酸化膨張による急激な応力変化を抑制できるので、シャットダウン停止を100回以上繰り返すようなシステムを構成する際にシール不良を防ぐことが可能となる。
【0014】
さらに、ある態様において、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料極層は、前記鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、前記セラミックスからなる粉末とを、溶媒に分散させたスラリー液を乾燥させた複合材料から得られるものであり、前記膨張速度抑制処理は、前記スラリー液の分散粒子径を10μm未満とする処理を施す工程を含むことを特徴とする。ここで、「セラミックスからなる粉末」とは、成形体を得るための原料としての粉末である。
【0015】
このような分散粒子径とすることにより、燃料極層の膨張速度を抑制し、電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することが可能な燃料電池を提供することができる。
【0016】
本発明において、スラリー液の分散粒子径を3μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは1μm以下である。また、50nm以上であることが好ましい。このような範囲とすることでより均一に燃料極の粒子を分散させることができ、燃料極層の膨張速度をより抑制することができるため、セルを100数十本束ねて作製し、数10℃温度ばらつきをもって運転されるモジュールにおいても、膨張速度のばらつきを抑制し、繰り返しシャットダウン停止を実施する際にも電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することが可能となる。
【0017】
ある態様において、前記燃料極層は、前記鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、前記セラミックスからなる粉末とを、溶媒に分散させたスラリー液を乾燥させた複合材料を押出成形させてなるものであり、前記膨張速度抑制処理は、押出成形時に複合材料にせん断を加え、1次粒子化する工程を含むことを特徴とする。ここで、1次粒子化とは、複合材料の粉末に、解砕する程度にせん断を加え、1次粒子の割合を増やすことである。
【0018】
なお、複合材料を押出成形させてなるとは、複合材料に、有機バインダー、水、可塑剤等の添加剤を混合し、湿式で押出成形することである。
【0019】
このようにすることにより、凝集した粒子を1次粒子に分散化し、燃料極層を構成する粒子を均一充填できるので燃料極層の膨張速度を抑制し、電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することが可能な燃料電池を提供することができる。成形前の原料が均一分散している場合にはさらに燃料極層の微構造が最適化され、燃料極層の骨格となるセラミックス粒子及び酸化膨張する金属酸化物粒子が網目状に均一に配置されるので、膨張が均一に起こり、シャットダウン停止を繰り返した際にも電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することが可能となる。
【0020】
また、ある態様において、本発明の燃料極は、鉄族元素がニッケルであることを特徴とする。
【0021】
鉄族元素をニッケルとすることで、還元雰囲気中にさらされる燃料極層の電子導電率を確保すると同時に、ニッケルはコバルトや鉄に比べ酸化されにくいため、発電温度に近い高温状態での燃料極層の酸化膨張速度を抑制することが可能な燃料電池を提供することができる。
【0022】
ある態様において、本発明の燃料極は、セラミックスが安定化ジルコニアであることを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明の燃料極は、安定化ジルコニアがイットリア安定化ジルコニアであることを特徴とする。
【0024】
本発明の燃料極のセラミックスは好ましくは安定化ジルコニアである。安定化剤としてはカルシア、スカンジア、イットリアなどが含まれる。燃料極が酸化膨張した際に、燃料極の骨格強度を高め、セル破損しにくくするという観点からするとイットリア安定化ジルコニアがより好ましい。
【0025】
特に、燃料極を支持体とする場合には、支持体としての強度に優れ、かつ安定性が高いという観点から、燃料極のセラミックスはイットリア安定化ジルコニアが好ましい。
【0026】
さらに、ある態様において、本発明の開口部には、開口部への酸化剤ガスの流入に対する圧力損失を高める酸化剤ガス流入抑制部が設けられていることを特徴とする。ここで、酸化剤ガス流入抑制部は、酸化剤ガス流入抑制流路と胴体部からなる。酸化剤ガス流入抑制流路とは、燃料ガス流路の開口部よりも小さい開口断面積をもつガス流路のことである。このガス流路には平常運転時、燃料ガス流路から流れてきた燃料ガスがセルの外側に向かって流れている。酸化剤ガス流入抑制流路は、燃料ガスをセルの外側へ流す役割と、燃料ガス流路の開口部よりも絞られた流路によってガス圧力損失を高くし、酸化剤ガスがセルの燃料ガス流路に流れ込む単位時間当たりの量を少なくする役割を果たす。酸化剤ガス流入抑制流路の断面形状は特に限定されず、円形でもよいし、多角形でもよい。総和の断面積がセル開口部断面積より小さければ複数でもよい。酸化剤ガス流入抑制流路を設けることによって、酸化剤ガスに対して圧力損失を高くし、燃料極側へ酸素の流入を抑制することで、燃料極層の酸化膨張速度を抑制し、電解質の亀裂やセル破損を防止することが可能になる。胴体部は燃料ガス流路の開口部から排出された燃料ガスを酸化剤ガス抑制流路に送るものである。また、燃料ガス流路をセルの周りにある酸化剤ガスと遮蔽し、抑制流路だけから流入できるようにしている。胴体部はセルに酸化剤ガス流入抑制流路を固定することもできる。また、胴体部とセルの間にシール部を挟むことで、ガスシールの機能も有することができる。胴体部は少なくとも開口部を覆うように設けられており、セルの周囲を覆っていてもよいし、セルの端部を覆っていてもよい。また、その両方を覆っていてもよい。
【0027】
開口部での酸化剤ガスの流入に対する圧力損失が高くなることで、固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電温度に近い高温状態において、燃料ガスの供給が停止するシャットダウン停止の際にも、前記開口部から酸化剤ガスが流入し難くなり、燃料極層の酸化膨張を抑制することができる。その結果、シャットダウン停止による電解質の亀裂やセル破損を防止することが可能となる。
【0028】
さらに、ある態様において、本発明の酸化剤ガス流入抑制部は、前記開口部よりも小さい断面積を有する酸化剤ガス流入抑制流路を具備し、この酸化剤ガス流入抑制流路は前記燃料ガス流路と連通していることを特徴とする。
【0029】
これにより、開口部から酸化剤ガスが流入しにくくなり、燃料極層の酸化膨張を抑制することができる。その結果、シャットダウン停止による電解質の亀裂やセル破損を防止することが可能となる。
【0030】
さらに、ある態様において、前記酸化剤ガス流入抑制部は、少なくとも前記開口部を覆う胴体部と、前記胴体部から突出するよう伸び、前記胴体部よりも径が細い縮径部とを有することを特徴とする。ここで、縮径部とは、酸化剤ガス流入抑制流路を酸化剤ガス流入抑制部の胴体部からセルの外方向に伸ばしたガス流路のことである。縮径部の開口断面積は酸化剤ガス流入抑制流路と同様、燃料ガス流路の開口部より小さい開口断面積をもつ。縮径部は、酸化剤ガスに対する圧力損失をさらに高くし、燃料極側への酸素の流入をさらに抑制する機能を有する。縮径部は、酸化剤ガス流入抑制部に設けられていても良いし、設けられてなくても良い。縮径部は胴体部と一体的に形成されていても良いし、胴体部のどこに形成されていてもよい。縮径部の形状は、延伸していてもよいし、屈曲していてもよい。
【0031】
酸化剤ガス流入抑制流路、縮径部及び胴体部の材質としては、特に限定されない。例えば、鉄クロム系合金、ニッケルクロム系合金などが挙げられる。なお、燃料極が支持体であるような固体酸化物形燃料電池セルの場合には、胴体部に導電性を有する構成にすることで、酸化剤ガス流入抑制部は燃料極側の電極端子(内側電極端子)の役割も果たすことができる。
【0032】
また、ある態様において、本発明の燃料電池システムは、上記固体酸化物形燃料電池セルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルでは、燃料ガスの供給を止めてからの酸化膨張速度、特に最初の数分間の酸化膨張速度を抑えることができるため、高温状態で燃料ガスの出口側開口部から燃料極側に空気が流入しても、電解質の亀裂やセル破損を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の固体酸化物形燃料電池における単電池の断面を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システムを示す全体構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池スタックを示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池セルユニットを示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す側面断面図である。
【
図6】
図5のIII−III線に沿った断面図である。
【
図9】本発明の実施対象外の固体酸化物形燃料電池セルのシャットダウン試験後の燃料極微構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明における固体酸化物形燃料電池について説明する。
図1は本発明の固体酸化物形燃料電池における単電池の断面の一態様であり、燃料極を支持体としたタイプについて示した。本発明における固体酸化物形燃料電池は、例えば燃料極支持体1(例えばNi及び/又はNiOと、Y
2O
3をドープしたジルコニウム含有酸化物との複合体)と、該燃料極支持体表面に形成された、固体電解質層2における第一の層2a(例えばCe
1-xLa
xO
2(但し0.30≦x≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物)と、固体電解質層2における第二の層2b(ランタンガレート酸化物)と、該固体電解質の表面に形成された空気極3(例えばランタンコバルト系酸化物やサマリウムコバルト系酸化物)とから構成される。
【0036】
図1に示す固体酸化物形燃料電池を例として作動原理を以下に示す。空気極側に空気を流し、燃料極側に燃料を流すと空気中の酸素が、空気極と固体電解質層との界面近傍で酸素イオンに変わり、この酸素イオンが固体電解質層を通って燃料極に達する。そして燃料ガスと酸素イオンが反応して水および二酸化炭素になる。これらの反応は(1)、(2)および(3)式で表される。空気極と燃料極を外部回路で接続することによって外部に電気を取り出すことが出来る。
H
2+O
2-→H
2O+2e
- (1)
CO+O
2-→CO
2+2e
- (2)
1/2O
2+2e
-→O
2- (3)
【0037】
なお燃料ガスに含まれるCH
4等も(1)、(2)式と類似した電子を生成する反応があるとの報告もあるが固体酸化物形燃料電池の発電における反応のほとんどが(1)、(2)式で説明できるので、ここでは(1)、(2)式で説明することとした。
【0038】
本発明における固体電解質層は発電に必要な酸素イオンを空気極側から燃料極側へ輸送できれば、特に限定されない。固体電解質層がランタンガレート酸化物を含む電解質層であると、より低温の発電温度(550〜700℃)で発電を行うことができるので、燃料極層の酸化を起こしにくくし、電解質亀裂やセル破損を有効に抑制できることから、より好ましい。また、固体電解質層は例えばCe
1-xLa
xO
2(但し0.30≦x≦0.50)で表されるセリウム含有酸化物とランタンガレート酸化物の2層構造でもよい。
【0039】
本発明の固体電解質層をセリウム含有酸化物とランタンガレート酸化物の2層構造とした場合、第一の層のセリウム含有酸化物は、ランタンガレート酸化物からなる第二の層との反応性が低いという観点から、一般式Ce
1-xLa
xO
2(但し0.30≦x≦0.50)で表されるものが好ましい。上記組成とすることで、ランタンガレート酸化物からなる固体電解質層との反応を最も効果的に防止することができるため、発電性能は向上する。なお最適なLaのドープ量は、第二層に用いるランタンガレート酸化物の組成により前記範囲内で変わるが、第二の層に酸素イオン伝導率が高い組成のランタンガレート酸化物(例えば、一般式La
1-aSr
aGa
1-b-cMg
bCo
cO
3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)で表されるランタンガレート酸化物)を用いることを鑑みると、Laのドープ量は0.35≦x≦0.45であることがより好ましい。例えばランタンガレート酸化物の組成がLa
0.8Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
3もしくはLa
0.9Sr
0.1Ga
0.8Mg
0.2O
3である場合は0.4≦x≦0.45がより好ましい。
【0040】
前記セリウム含有酸化物の層には焼結助剤を添加してもよい。添加する焼結助剤は、セリウム含有酸化物層の緻密性を向上させるものであって、周りの材料との反応による影響が少ないものが好ましい。我々は焼結助剤の検討を種々行った結果、Ga元素について効果があることを見出した。Ga元素源としては、例えば酸化ガリウム(Ga
2O
3)または焼成工程中にGa
2O
3となるガリウム化合物などが好ましい。
【0041】
前記セリウム含有酸化物層に含まれるGa元素の含有量を酸化物換算でXwt%としたとき、0<X≦5であることが好ましい。この理由は、上記範囲に限定することで、セリウム含有酸化物層がより緻密化するため、支持体とランタンガレート酸化物層との反応を効果的に抑制できるとともに、セリウム含有酸化物層における抵抗損が減少するためである。さらに好ましいXの範囲は、0.3<X<2.0である。この理由は、前記効果に加えて、セリウム含有酸化物自体の電気伝導性が向上するため、第一の層における抵抗損がさらに減少するためである。
【0042】
前記セリウム含有酸化物の膜厚は3〜50μmが好ましい。さらには3〜40μmがより好ましい。
【0043】
この理由は、セリウム含有酸化物層の厚みを3μmよりも厚くすることで、セリウム含有酸化物の成膜時欠陥を防止し、支持体とランタンガレート酸化物層との反応を抑制できるからである。一方、セリウム含有酸化物層の厚みを50μmよりも薄くすることで、セリウム含有酸化物層における抵抗損の影響を小さくでき、さらに40μm以下とすることで、セリウム含有酸化物層における抵抗損の影響をより小さくできるからである。従って、セリウム含有酸化物層の厚みは、支持体とランタンガレート酸化物層との反応を十分防止できる範囲で、できるだけ薄くするのが好ましい。
【0044】
前記ランタンガレート酸化物の膜厚は20〜70μmが好ましく、さらには20〜50μmがより好ましい。
【0045】
この理由は、ランタンガレート酸化物層の厚みを20μm以上とすることで、燃料極の酸化膨張による応力に対して電解質の亀裂を発生しにくくでき、一方、70μmより薄くすることで、ランタンガレート酸化物層における抵抗損の影響を小さくでき、さらに50μm以下とすることで、ランタンガレート酸化物層における抵抗損の影響をより小さくできるからである。
【0046】
なお、本発明の固体酸化物形燃料電池は、固体電解質と燃料極層が直接接する構成に限定されるものではなく、例えば燃料極層を支持体とし、支持体と電解質との間に触媒活性を高めた燃料極触媒層を設けたものであっても良い。設けることで燃料極の酸化膨張で生じる電解質膜への応力を緩和させるので設けたほうが好ましい。応力緩和の観点と触媒活性の観点からバランスを考えると燃料極触媒層の気孔率は運転時状態で20〜50%が好ましい。
【0047】
前記燃料極触媒層はNiOとCeO
2系材料を混合したものが好ましい。NiOは運転時には還元されてNiになる。CeO
2系材料としてはCeO
2にGdを10〜20mol%ドープさせたものが好ましい。混合比はNiOとCeO
2系材料が重量比で40:60〜60:40で混合したものが好ましい。燃料極触媒層の膜厚は5〜30μm程度が好ましい。この理由は、5μm以上とすることで燃料極触媒層の触媒活性を有効に働かせ、一方、30μm以下とすることで成膜時に膜剥がれを抑制できるからである。燃料極の酸化膨張による応力を緩和し、電解質の亀裂を防止するという観点からすると10〜30μm程度がより好ましい。
【0048】
本発明の燃料極層は、鉄族元素とセラミックスとを含んでなる。燃料極層としては、固体酸化物形燃料電池の燃料雰囲気下において電子伝導性が高く、(1)、(2)式の反応が効率良く行われる材料を用いることが好ましい。
【0049】
これらの観点から好ましい鉄族元素としては、ニッケル、鉄、コバルトが挙げられる。その中でも更に好ましくはニッケルである。ニッケルを用いることで、還元雰囲気中にさらされる燃料極層の電子導電率を確保すると同時に、鉄、コバルトに比べ、ニッケルは酸化されにくいため、酸化膨張による電解質の亀裂やセル破損を起こりにくくすることが可能となる。さらに、ニッケルは鉄に比べて、燃料ガス中の水素に対する触媒活性に優れるため、(1)式の反応をより効率よく行うことができる。
【0050】
また、本発明の燃料極層を形成するセラミックスとは、燃料極層の骨格を形成し、燃料極層の強度を確保できるものであれば、特に限定されない。(1)、(2)式の反応を効率よく行うという観点から酸素イオン導電性を有する酸化物が好ましい。電解質との熱膨張を合わせることや電解質との反応を抑制するという観点から、電解質に用いられる酸素イオン導電性酸化物がより好ましく、例えば、ジルコニウム含有酸化物、セリウム含有酸化物、ランタンガレート酸化物などが挙げられる。
【0051】
ジルコニウム含有酸化物としては、例えばCaO、Y
2O
3、Sc
2O
3のうちの一種以上をドープした安定化ジルコニアが好ましい。更に好ましくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。これにより燃料極が酸化膨張した際に、燃料極の骨格強度を高め、セル破損しにくくするとなることが可能となる。また、イットリア安定化ジルコニアはカルシア安定化ジルコニアより他の材料との反応性が低く、スカンジア安定化ジルコニアよりも安価であるため、燃料電池の耐久性やコスト面を考えた際に有利になるので、その観点からもより好ましい。
【0052】
またセリウム含有酸化物としては、一般式Ce
1-yLn
yO
2(但し、LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Yのいずれか一種又は二種以上の組み合わせであり、0.05≦y≦0.50)が挙げられる。セリウム含有酸化物は、燃料雰囲気下で還元されてCe
4+がCe
3+となり、余剰電子により電子伝導性が発現するため、導電種が電子と酸素イオンの混合伝導体となる。
【0053】
ランタンガレート酸化物としては、特に限定は無いが、(1)、(2)式の反応をより効率良く行うために、La
1-aSr
aGa
1-b-cMg
bCo
cO
3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)であることが好ましい。
【0054】
本発明の燃料極層を形成するための材料としては、例えばNiO/ジルコニウム含有酸化物、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物等が挙げられる。ここで言う、NiO/ジルコニウム含有酸化物、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物とは、それぞれNiOとジルコニウム含有酸化物、NiOとセリウム含有酸化物、NiOとランタンガレート酸化物とが、所定の比率で均一に混合されたものを指す。またNiOは燃料雰囲気下で還元されてNiとなるため、前記混合物はそれぞれNi/ジルコニウム含有酸化物、Ni/セリウム含有酸化物、Ni/ランタンガレート酸化物となる。
【0055】
本発明の燃料極層は、鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、セラミックスからなる粉末とを原料として用い、成形体形成することで作製することができる。なお、ここで言う鉄族元素の金属酸化物からなる粉末及びセラミックスからなる粉末とは、それぞれ成形体を得るための原料としての粉末であり、固体酸化物形燃料電池セル作製時における焼成前のものを指す。
【0056】
本発明における、鉄族元素の金属酸化物からなる粉末とセラミックスからなる粉末との混合比率は、発電に必要な電子導電性を確保できることと電解質膜との熱膨張係数を合わせることから考えると、重量比で30:70〜75:25が好ましい。さらに、燃料極は空気に触れた際に酸化膨張するが、鉄族元素の金属量が多いと燃料極自身が塑性変形して電解質の亀裂を起こしにくいという観点も合わせると、鉄族元素の金属酸化物からなる粉末とセラミックスからなる粉末との混合比率は、重量比で55:45〜75:25がより好ましい。なお、焼成後の混合比率は、粉末の混合比率とほぼ同様である。
【0057】
鉄族元素の金属酸化物とセラミックスとの平均粒子径の粒径比は1.00〜3.30倍であることが好ましく、1.00〜1.25倍であることがより好ましい。このような粒径比とすることで燃料極の酸化膨張による膨張を燃料極全体でより均一にすることができるので、繰り返しシャットダウン停止を実施する際にも電解質の亀裂やセル破損を防止することが可能になる。なお、鉄族元素の金属酸化物とセラミックスの粒径はどちらが大きくても良く、同程度であれば良い。
【0058】
前記鉄族元素の金属酸化物とセラミックスの平均粒子径は以下の方法で求められたものである。セルの一部分を切り出したセル片を樹脂包埋した後、セルの断面が露出するように研磨を行なう。研磨は断面イオンミリング加工を実施する。前記加工をした加工面の燃料極層部分の反射電子像を、アニュラー型反射電子検出器を備えた高分解能電解放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察する。加速電圧は25kVで観察する。反射電子像では原子番号のより大きい元素を含む粒子がより明るく観察される。一方、原子番号のより小さい粒子は相対的に暗く観察される。この濃淡差で粒子を鉄族元素の金属酸化物とセラミックスに区別し、それぞれの粒子の大きさを測定する。例えば粒子が円相当のものはその直径が粒子径となり、正方形相当のものは1辺の長さが粒子径として算出される。観察は任意の倍率にて任意の100個の粒子の粒子径を測定し、径の小さい順番から並べた際の3番目〜97番目の範囲で測定されたものの平均から算出したものである。
【0059】
本発明のスラリー液の分散粒子径とは、以下の方法で測定することができる。すなわち、鉄族元素の金属酸化物からなる粉末と、セラミックスからなる粉末とを、溶媒に分散させたスラリー液を調製する。さらにこのスラリー液を日機装社のマイクロトラック粒度測定装置MT3300EXの小容量型試料循環器(型式MICROTRAC-SVR-SC)に滴下し、レーザー回折・散乱法にて、JISR1629に基づく方法で測定する。前記分散粒子径は、体積平均により算出した体積平均粒子径であり、2回測定の平均した値である。解析ソフトは、マイクロトラック粒度分析計Ver.10.1.2−018SDを用いる。循環ポンプスピードは、循環流量3.0〜4.2L/minとし、分散槽内には撹拌翼及び超音波を使用せずに測定する。測定条件としては、スラリー液の溶媒が水の場合は、溶媒屈折率を1.333、粉末の屈折率を1.81とし、Setzero時間30秒、測定時間30秒にて測定する。スラリー液の分散粒子径とは、この際のスラリー中に分散した2次粒子の体積平均粒子径のことである。同一の平均粒子径の粉末を用いた場合、分散粒子径が小さいほど溶媒中の粉末が局所的に凝集せず、より均一に分散していることを示している。
【0060】
上記のスラリー液を乾燥することで燃料極を形成するための複合材料を得ることができる。なお、乾燥の方法としては、スラリー液中の粒子が均一分散した状態を保ったまま水分を蒸発させるような方法であれば特に限定されない。なお、本発明ではスラリー液中の粒子が均一分散した状態を保ったまま水分を容易に蒸発できる観点から、スラリー液を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する噴霧乾燥法で行うのが好ましい。
【0061】
本発明における固体酸化物形燃料電池のセルを焼結法で作製する場合の焼成方法については、高い出力が得られれば良く、特に限定はない。すなわち逐次焼成法でも良いし、少なくとも2種以上、望ましくはすべての部材を一度に焼結させる共焼成法でもよい。ただし、量産性を考慮すると、共焼成法の方が、工数が減るため好ましい。
【0062】
共焼成を行う場合、例えば、燃料極または空気極の支持体の成形体を作製し800℃〜1200℃で仮焼する工程と、得られた仮焼体の表面に固体電解質層を成形し1200℃〜1400℃で支持体と共焼結させる工程と、焼結した固体電解質層の表面にもう一方の電極を成形し800℃〜1200℃で焼結させる工程と、を備えるセル作製方法が好ましい。なお支持体と電解質の共焼成時の焼結温度は、支持体からの金属成分の拡散を抑制する観点と、ガス透過性の無い固体電解質層を得る観点から、1250℃〜1350℃がより好ましい。
【0063】
本発明における固体酸化物形燃料電池システムは、本発明の固体酸化物形燃料電池セルを備えたものであれば特に限定されず、その製造や他の材料等は、例えば、公知のものが使用できる。
【0064】
図2は、本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システムを示す全体構成図である。この
図2に示すように、本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システム1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0065】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(
図3参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(
図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0066】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成 され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、改質器20の熱を受けて空気を加熱し、改質器20の温度低下を抑制するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0067】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0068】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0069】
次に、
図5及び
図6により、本発明の実施形態による固体酸化物形燃料電池システムの燃料電池モジュールの内部構造を説明する。
図5は、本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、
図6は、
図5のIII-III線に沿った断面図である。
図5及び
図6に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0070】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bが形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。
【0071】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホール66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0072】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0073】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、
図6に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0074】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0075】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、
図6に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス室通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、
図2に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図5に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0076】
次に
図4により燃料電池セルユニット16について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池システムの燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。なお、内側電極端子86は、酸化剤ガス流入抑制部の一態様である。
【0077】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0078】
燃料電池セル16は本発明の燃料電池セルを用いる。
【0079】
次に、本実施形態による固体酸化物形燃料電池システムの運転停止時の動作を説明する。燃料電池システムの運転停止を行う場合には、定格温度で運転している燃料電池システムの電流、燃料ガス、空気、水の供給をほぼ同時に遮断する、シャットダウン停止により燃料電池システムを停止させる。運転停止時に燃料を少しずつ絞りながら停止したり、N
2ガスなどのパージガスを流すことなく停止することが可能である。
【0080】
シャットダウン停止のほぼ同時とは、電流、空気、ガス、水が数10秒以内という非常に短い時間にて全て停止することを示す。より詳細には、電流を止めたのち10数秒後に空気と燃料ガスの供給を止め、さらにその10数秒後に水の供給を止める停止操作となる。
【0081】
本発明における燃料ガス流路を形成する方法としては、特に限定されない。例えば、燃料極層を筒状支持体とし、筒の内部に燃料ガスを流す方法や絶縁性の多孔質筒状支持体の表面側から燃料極、電解質、空気極の順に積層させ、前記絶縁性多孔質筒状支持体の内部に燃料ガスを流す方法、平板状の燃料極、電解質、空気極からなる固体酸化物形燃料電池をセパレータを介して積層させ、そのセパレータに燃料ガス流路を形成する方法などが挙げられる。
【0082】
また、本実施形態の固体酸化物形燃料電池セルの燃料極を構成している鉄族元素及びセラミックスは、何れも拡散しにくい。従って、燃料極と固体電解質とを同時焼成した場合における拡散が低減され、固体電解質層のイオン伝導度への悪影響を抑制することができる。
【実施例】
【0083】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
平均粒子径0.3μmの酸化ニッケル粉末と平均粒子径0.25μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と分散剤(ポリカルボン酸アミン)と水とを径が5mmのイットリア安定化ジルコニアボールにて20時間ボールミル混合してスラリー液を得た。このときNiOとYSZの重量比は55:45〜65:35とした。なお、酸化ニッケル粉末およびYSZ粉末の平均粒子径はSEM観察で20000倍の倍率にて100個の粒子の粒子径を測定したものの平均から算出したものである。
得られたスラリー液の分散粒子径を段落0059に基づく方法にて測定した。スラリー液の分散粒子径は1.0μmであった。
(燃料極用の複合材料の作製)
得られたスラリー液を噴霧乾燥機にて乾燥させて燃料極用の複合材料を得た。
(固体酸化物形燃料電池セルの作製)
上記のようにして得られた燃料極用複合材料を用いて、以下の方法で固体酸化物形燃料電池セルを作製した。
前記燃料極用の複合材料に有機バインダー(メチルセルロース)と水、可塑剤(グリセリン)を混合し押出成形機にてせん断を加え1次粒子化させて円筒状に成形し900℃で仮焼した燃料極支持体を作製した。この燃料極支持体上に、NiOとGDC10(10mol%Gd
2O
3−90mol%CeO
2)とを重量比50:50で混合したものをスラリーコート法により製膜し、燃料極反応触媒層を形成した。さらに、燃料極反応触媒層上にLDC40(40mol%La
2O
3−60mol%CeO
2)、La
0.9Sr
0.1Ga
0.8Mg
0.2O
3の組成のLSGMをスラリーコート法により順次積層し、電解質層を形成した。得られた成形体を1300℃にて焼成した後に、空気極層としてLa
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3の組成のLSCFをスラリーコート法にて製膜し、1050℃で焼成することで燃料極組成がNiOとYSZの重量比で55:45のセルが50本、60:40のセルが60本、65:35のセルが50本の計160本の固体酸化物形燃料電池セルを作製した。
作製した固体酸化物形燃料電池セルは、燃料極支持体が外径10〜10.2mm、肉厚1〜1.2mmであり、燃料極反応触媒層の厚さが10〜30μmであり、LDC層の厚みが3〜40μmであり、LSGM層の厚みが20〜50μmであり、空気極の厚みが18〜24μmであった。なお、燃料極支持体の外径は成膜していない個所をマイクロメータで測定した。膜厚はシステムの運転試験後にセルを切断して、断面をSEMで30〜2000倍の任意の倍率にて観察し、膜厚の最大値と最小値を足して2で割ったものである。切断箇所は空気極の成膜してある部分の中央部とした。空気極の面積は35cm
2とした。また、燃料極支持体の平均粒子径を段落0058に基づく方法にて測定した。ニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は1.23倍であった。
(固体酸化物形燃料電池モジュールの作製)
前記固体酸化物形燃料電池セルの空気極上に集電体としてAgを塗布し、また燃料極支持体の両端部に集電体とガスシールを兼ね備えた導電性シール材を取付け、さらに前記燃料極の両端部に前記導電性シール材を覆うように酸化剤ガス流入抑制部を設け、燃料電池セルユニットを作製した。なお、酸化剤ガス流入抑制部は燃料ガス流路となる燃料極支持体の内径より縮径し、前記セルのそれぞれの端部からセルの外方向に伸びる縮径部を有するものとした。前記燃料電池セルユニットを16本一組とし、燃料極と空気極を接続するコネクタで16本を直列につなげスタック化した。前記スタックを10組搭載し160本を直列に接続し、さらに改質器、空気配管、燃料配管を取付けた後ハウジングで囲み、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。前記燃料電池モジュールを固体酸化物形燃料電池システムに組み込んだ。
【0085】
(実施例2)
平均粒子径0.6μmの酸化ニッケル粉末と平均粒子径2μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。
得られたスラリー液の分散粒子径は3.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は3.30倍であった。
【0086】
(実施例3)
燃料極用の複合材料にさらに造孔剤として平均粒子径3μmのPMMAを添加し、押出成形機にてせん断を加え1次粒子化させて円筒状に成形したこと以外は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。燃料極用の複合材料とPMMAの比率は72:28Vol%の割合とした。
得られたスラリー液の分散粒子径は1.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は1.30倍であった。
【0087】
(
参考例)
径が10mmのイットリア安定化ジルコニアボールにて6時間ボールミル混合し、押出成形機にてせん断を加えずに円筒状に成形し、縮径部を有さない酸化剤ガス流入抑制部を設けたこと以外は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。
得られたスラリー液の分散粒子径は8.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は1.50倍であった。
【0088】
(実施例5)
径が10mmのイットリア安定化ジルコニアボールにて2時間ボールミル混合したこと以外は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。
得られたスラリー液の分散粒子径は10.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は1.42倍であった。
【0089】
(実施例6)
実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池セルを作製した。これに燃料極支持体の下端部のみに実施例1と同様の集電体とガスシールを兼ね備えた導電性シール材を取付け、さらに前記燃料極の下端部に前記導電性シール材を覆うように実施例1と同様の酸化剤ガス流入抑制部を設け、燃料電池セルユニットを作製した。すなわち、燃料電池セルの上端部には、酸化剤ガス流入抑制部を設けずに燃料電池セルユニットを作製した。それ以外は実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。
得られたスラリー液の分散粒子径は1.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の粒径比は1.23倍であった。
【0090】
(比較例1)
径が10mmのイットリア安定化ジルコニアボールにて2時間ボールミル混合したことと押出成形機にてせん断を加えずに円筒状に成形したこと以外は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池モジュールを作製した。
得られたスラリー液の分散粒子径は10.0μmであった。
また、燃料極支持体のニッケル粒子とYSZ粒子の平均粒子径の差は1.54倍であった。
【0091】
次に、実施例1〜
3及び5
、参考例、並びに比較例1で得られた燃料極用の複合材料を用いて酸化膨張速度を評価するサンプルを作製し、評価した。
【0092】
(焼結体の作製)
実施例1〜3及び5で得られた燃料極用の複合材料に有機バインダー(メチルセルロース)と水、可塑剤(グリセリン)を混合し押出成形機にてせん断を加え1次粒子化させて円柱状に成形した。また、
参考例及び比較例1で得られた燃料極用の複合材料に有機バインダー(メチルセルロース)と水、可塑剤(グリセリン)を混合し押出成形機にてせん断を加えずに円柱状に成形した。得られたそれぞれの成形体を大気雰囲気中1300℃で焼結させて焼結体を得た。焼結体のNiOとYSZの重量比は65:35とした。
(焼結体の還元体の作製)
得られた焼結体を水素中900℃で還元させそれぞれの還元体を得た。還元体の寸法は直径5mm×長さ15mmの円柱状とした。
【0093】
作製した燃料電池システム及び、酸化膨張速度評価用サンプルについて以下のようにして評価した。
【0094】
評価:シャットダウン試験
作製した燃料電池システムを以下のように運転させたのち、シャットダウン停止後、モジュール内の固体酸化物形燃料電池セルの外観を目視にて確認した。
(燃料電池システム発電)
発電条件としては、燃料は都市ガス13Aで燃料利用率は75%とした。酸化剤は空気で空気利用率は40%とした。S/C=2.25とした。発電定常温度は700℃とし、電流密度0.2A/cm
2で運転した。
(燃料電池システム停止)
定常温度で2時間運転したのち、燃料電池システムの電流、燃料ガス、空気、水の供給をほぼ同時に遮断する、シャットダウン停止により燃料電池システムを停止させた。システム内のモジュールを取り出し、内部の固体酸化物形燃料電池セルの外観を目視にて確認した。
【0095】
(評価:酸化膨張速度の測定)
得られた焼結体の還元体で酸化膨張率の測定を行った。焼結体の還元体を700℃の大気雰囲気下にさらし、酸化膨張率の時間変化を測定した。酸化膨張率はサンプルの長手方向の長さを測定し、還元体の長さをL1、酸化後の長さをL2として、(L2−L1)/L1をパーセント表示することで算出した。また、ある時間におけるサンプルの長手方向の長さをL3、その1分後の長さをL4として、(L4−L3)/L3をパーセント表示することで1分間当たりの線膨張率、即ち酸化膨張速度を算出した。
【0096】
【表1】
【0097】
図7に、それぞれのサンプルを700℃の大気雰囲気下にさらした際の酸化膨張率の時間変化を示す。
図8には酸化開始から10分間における1分間当たりの線膨張率の結果を示す。また、表1には1分間当たりの線膨張率の最大値と最大膨張率、シャットダウン停止後の固体酸化物形燃料電池セルの外観結果を示す。なお、表1中の「◎」印は100回以上のシャットダウン停止において発電に支障なく電解質の亀裂や破損のない場合、「○」印は5回以上のシャットダウン停止において発電に支障なく電解質の亀裂や破損のない場合、「×」印は5回未満のシャットダウン停止において電解質の亀裂や破損し、性能が低下した場合を示す。本発明の固体酸化物形燃料電池セルを備えた燃料電池システムにおいて、優れた発電性能が得られることが確認できた。
【0098】
酸化膨張速度の測定結果をみると、実施例1及び2は実施例
3及び5に比べ、1分間当たりの線膨張率の最大値がさらに小さくなっている。このため、シャットダウン停止を繰り返した際にも電解質へ与える影響も小さく、より多いシャットダウン停止においても良好な発電性能が得られるものと推察される。実施例1と2を比較すると、最大膨張率は実施例1のほうが0.38%と高いがシャットダウン停止による電解質の亀裂や破損の状態は良好であった。このことから最大膨張率よりも1分間当たりの線膨張率のほうがシャットダウン停止による電解質の亀裂や破損に対して影響していることが示唆される。さらに、
図7、8より、実施例1では1分間当たりの線膨張率の最大値が0.022%と非常に小さい上に、酸化膨張の飽和に達するまで緩やかに酸化膨張が起こり、160分程度で最終的に0.4%程度の酸化膨張量で飽和している。このため、燃料極支持体と直接接するガスシール部分にて酸化膨張による急激な応力が生じず、シャットダウン停止を繰り返した際にもさらに安定して良好な発電性能が得られるものと推察される。実施例1〜
3、5及び6と比較例1の燃料極における差の要因は明らかでないが、燃料極の粒子の良好な分散性により燃料極の微構造が最適化された結果、酸化膨張が燃料極全体で均一に起こり、電解質の亀裂やセル破損を起こさなかったことが推察される。初期酸化膨張速度が急激であった比較例1はシャットダウン試験後、
図9に示すようにNiが骨格を広げるように外側へ膨張し、Zr骨格が崩れて(Zr同士が離れて)いることが確認された。実施例1〜
3、5及び6ではZr骨格が崩れていなかった。この理由は明らかではないが、燃料極の粒子の良好な分散性によりNiが骨格を広げることなく均一に酸化膨張したためと考えられる。