(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859063
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】植物用散布剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20160128BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20160128BHJP
A01P 7/02 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01P7/04
A01P7/02
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-102872(P2014-102872)
(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-218138(P2015-218138A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514124126
【氏名又は名称】保科 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100096035
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 敏之
【審査官】
村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−039002(JP,A)
【文献】
特開2004−187622(JP,A)
【文献】
特開2004−203832(JP,A)
【文献】
特開2007−176855(JP,A)
【文献】
特開平08−151302(JP,A)
【文献】
特公昭48−010535(JP,B1)
【文献】
特開平02−279607(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/008391(WO,A1)
【文献】
特開2012−036169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00−65/48
A01P 1/00−23/00
C09D 133/00−133/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸溶性のコーティング剤としても用いられるアクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有し、それぞれの重合度が800−1000の乳化液と、ソルビトール脂肪酸エステルと、ミネラル成分とが配合されて成ることを特徴とする植物用散布剤。
【請求項2】
前記ミネラル成分は、地下の深層水を熱で乾燥させて粉末状にしたものであることを特徴とする請求項1に記載の植物用散布剤。
【請求項3】
前記ミネラル成分にはクエン酸三ナトリウムが添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物用散布剤。
【請求項4】
腸溶性のコーティング剤としても用いられるアクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有し、それぞれの重合度が800−1000の乳化液を作る工程と、
前記乳化液にソルビトール脂肪酸エステル及びミネラル成分を添加する工程と、
を有することを特徴とする植物用散布剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉などに散布する植物用散布剤及びその製造方法に関し、特に、植物の病害虫を防除・駆除するとともに、植物に必要な養分を補給するための植物用散布剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物や果実の品質改良が進み、高品質で高収穫率を得るべく各種の処理が施されている。例えば、病害虫を防除・駆除するために農薬の散布が行われている(以下、従来例1という)。
【0003】
また、リンゴや梨等の果物は、防虫や環境からの果物を保護する、果物の色を良くする等の目的のために果物に紙材で覆う袋がけが為される(以下、従来例2という)。
【0004】
また、野菜や果物などの植物は、根から養分を吸収し、炭酸同化作用により糖分、デンプンを蓄える。これまでは、植物が植えられている土壌に必要な成分が含まれており、リサイクルにより土壌から必要な成分が植物に吸収されていた。一方、有機肥料を使っていても長年の連作により土壌には養分が不足するようになり、またミネラルが不足し、病原菌が多くなって害虫が発生する。このような状況では、病気に弱い植物ができ、害虫に弱いので、害虫駆除のため農薬を使わざるを得ない。
【0005】
最近の土壌では、ミネラル成分が乏しく、野菜や果物の味に風味や甘みが乏しいことが多く、堆肥による成分供給では効果が乏しいものであった。特に、ハウス栽培が増加し、化学肥料が使われるようになり、連作に伴い、ミネラル成分が欠乏気味である。ミネラル成分が十分であれば、野菜を食べたとき味があり、柔らかくて美味しいが、ミネラル成分が不足すると、かたくて美味しさが失われる。
【0006】
そこで、従来では、ミネラル成分を補給するために、海水を汲み上げて、水で薄めて植物の葉表面に散布して葉面から直接的にミネラル成分を補給し、吸収させる方法が提案されていた(以下、従来例3という)。
【0007】
また、重炭素カリウム(炭酸水素カリウム)を主成分とする製品「カリグリーン(登録商標)」が東亞合成株式会社によって製造されている。重炭素カリウムは、うどんこ病・さび病・灰色かび病などの植物病原菌に対して優れた防除効果を発揮するとともに、防除効果を発揮した後、植物に吸収され植物の活性成長を促進する効果を発揮する(以下、従来例4という)。
【0008】
さらに、特許文献1には、溶性セルロースエーテルまたはセルロースグリコール酸エーテルナトリウム塩と、メチルセルロースと、マルトース、グルコース等の多糖類と、クエン酸ナトリウムとが配合されて成ることを特徴とする植物用被膜剤が開示されている(以下、従来例5という)。
【特許文献1】特開平11−225590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来例1では、病害虫を防除・駆除するための農薬には人体に有害な成分が含まれているため、法律等で厳しく規制されているという課題があった。また、必要な時に容易に除去することができないという課題があった。
【0010】
従来例2では、袋がけ作業は、農家の作業者が1個ずつ丁寧に果物を紙材で包み、根元を紐でしばって被覆するため、非常に煩雑である。特に、果物の実が成長すると袋自体が破れるため、実の成長の都度、繰り返し行わなければならず、その作業にかけなければならない労働量は大きなものがあり、コストが非常にかかるという課題があった。
【0011】
従来例3では、散布された海水が葉から容易に吸収されず、雨でとけて流れてしまうため、降雨の度に散布する作業が必要となり、植物の生産コストが高くなるという課題がある。ミネラル成分を土壌に直接散布して植物に根から吸収させる方法もとられているが、根からの補給は効果が限られているだけでなく、雨により流されてしまうという課題がある。
【0012】
従来例4では、植物の葉などへの付着性・持続性に劣るため、植物の葉などに散布しても、雨によってすぐに流れ落ちてしまい、散布回数が増加し、植物の生産コストが高くなるという課題がある。また、実験レベルでは優れた効果を発揮したとしても、実際に農地やハウス栽培等で生育している植物に使用した場合、植物への養分の吸収率、植物の収穫量、糖度を大幅に増加させることができないという課題があった。
【0013】
従来例5では、本願発明のようにアクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を使用していない。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、病害虫を確実かつ持続的に防除・除去でき、人体に害がなく、必要な場合に容易に除去でき、袋がけ作業を不要にし、植物の葉などへの付着性・持続性、植物への養分の吸収率を向上させることができる植物用散布剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有し、それぞれの重合度が800−1000の乳化液と、ソルビトール脂肪酸エステルと、ミネラル成分とが配合されて成ることを特徴とするものである。
【0016】
前記ミネラル成分は、地下の深層水を熱で乾燥させて粉末状にしたものであることが好ましい。
【0017】
前記ミネラル成分にはクエン酸三ナトリウムが添加されていることが好ましい。
【0018】
本発明の植物用散布剤の製造方法は、
アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有し、それぞれの重合度が800−1000の乳化液を作る工程と、
前記乳化液にソルビトール脂肪酸エステル及びミネラル成分を添加する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を奏する。
【0020】
(1)アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有する乳化液によって、被膜強度があり持続性に優れ、雨に溶けることはなく、植物の葉等に付着して細胞膜を包んで、葉の成長と共に延伸する。また、ソルビトール脂肪酸エステルによって、植物の葉の上に散布されたときに弾かれるのを防止できる。これらの作用によって、植物の病害虫の体が包み込まれ、呼吸口を塞がれ窒息させるので、病害虫を確実かつ持続的に防除・除去できる。
【0021】
(2)無味、無臭、無害、無色であるので、人間にとって健康面での影響はない。すなわち、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有する乳化液は医薬の分野では腸溶性のコーティング剤としても用いられるため人体に入れても無害であり、食品添加物としても用いられるソルビトール脂肪酸エステルやミネラル成分も人体に入れても無害であるため、人体に無害で安全な植物用散布剤を提供できる。
【0022】
(3)本発明の植物用散布剤を梨、桃、ぶどう等の植物の表面に散布して被覆することにより、袋付けと同様な効果を得られるため、スプレィ等の簡単な作業で遂行でき、従来のように、一個ずつ袋付けを行なうという極めて煩雑な作業を行う必要がなくなり、労働量の格段の削減が可能となる。
【0023】
(4)植物の表面の被膜を除去したい場合には、例えば弱酸性の酢酸等を用いれば、水に溶かして簡単に除去できる。
【0024】
(5)ミネラル成分として地下の深層水を熱で乾燥させて粉末状にしたものを用いた場合には、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等74種のミネラルが混合しており、海水を用いた場合に比べ不純物も少ないので、植物への補給として最適であり、植物の旨みも増す。
【0025】
(6)ミネラル成分にクエン酸三ナトリウムを添加した場合には、植物の葉の気口を大きくする作用が加わり、炭酸同化作用が促進されるので、ミネラル成分の吸収量が増加し、植物がさらに美味しくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
本発明の実施の形態例に係る植物用散布剤は、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有し、それぞれの重合度が800−1000の乳化液と、ソルビトール脂肪酸エステルと、ミネラル成分とが配合されて成ることを特徴とするものである。
【0028】
本発明の実施の形態例に係る植物用散布剤は、例えば次のように製造される。
【0029】
まず、重量比でアクリル酸メチル700、アクリル酸700、過酸化水素126、スルフォン酸ソーダ14%20、水2000の混合物のうち、20%を70−80℃の温度で2時間攪拌し、残りの80%を3時間かけて添加し、窒素ガスをいれ未反応物を除去して乳化共重合体の乳化液を作る。
【0030】
次いで、その30%乳化液に0.1−0.5%のソルビトール脂肪酸エステルと、0.1−0.5%のミネラル成分を添加して混合物を作る。
【0031】
植物に散布する時は、上記混合物33%、水67%の割合にする。
【0032】
本発明の実施形態例に係る植物用散布剤の特性では、厚さ30μ(ミクロン)のガラス板で株式会社島津製作所のオートグラフ引張試験装置を用いて測定したところ、引張強度が40MPa(MPa10.2kg/cm
2)であった。
【0033】
本発明の実施形態例に係る植物用散布剤では、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有する乳化液によって、被膜強度があり持続性に優れ、雨に溶ける
ことはなく、植物の葉等に付着して細胞膜を包んで、葉の成長と共に延伸する。
【0034】
また、ソルビトール脂肪酸エステルによって、植物の葉の上に散布されたときに弾かれるのを防止できる。これらの作用によって、植物の病害虫の体が包み込まれ、呼吸口を塞がれ窒息させるので、病害虫を確実かつ持続的に防除・除去できる。例えば、カメムシやコガネムシ等の大きな害虫にも効果があり、羽のあるシルバリーフコナジラミやアザミウマの駆除にも適する。
【0035】
本発明の実施形態例に係る植物用散布剤は、無味、無臭、無害、無色で人間にとって健康面での影響はない。すなわち、アクリル酸メチルとアクリル酸の共重合体を有する乳化液は医薬の分野では腸溶性のコーティング剤としても用いられており、人体に入れても無害であり、食品添加物としても用いられるソルビトール脂肪酸エステルやミネラル成分も人体に入れても無害であるため、人体に無害で安全な植物用散布剤を提供できる。
【0036】
また、本発明の実施形態例に係る植物用散布剤を梨、桃、ぶどう等の植物の表面に散布して被覆することにより、袋付けと同様な効果を得られるため、スプレィ等の簡単な作業で遂行でき、従来のように、一個ずつ袋付けを行なうという極めて煩雑な作業を行う必要がなくなり、労働量の格段の削減が可能となる。
【0037】
さらに、植物の表面の被膜を除去したい場合には、例えば弱酸性の酢酸等を用いれば、水に溶かして簡単に除去できる。
【0038】
ミネラル成分としては地下の深層水を250℃−280℃の熱で10−15分乾燥させて粉末状にしたものを用いるのが好ましい。地下の深層水には、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等74種のミネラルが混合しており、海水を用いた場合に比べ不純物も少ないので、植物への補給として最適であり、植物の旨みも増す。
【0039】
また、ミネラル成分にクエン酸三ナトリウムが添加されているのが好ましい。クエン酸三ナトリウムを3−5%添加することにより、植物の葉の気口を大きくする作用が加わり、炭酸同化作用が促進されるので、ミネラル成分の吸収量が増加し、植物がさらに美味しくなる。
【0040】
本発明者は、本発明の実施形態例に係る植物用散布剤の33%本液を25倍の水に溶かして配合した散布液を、10アールのトマトのハウスで120l(リットル)の量を、10日に1回散布する実験を行った。
【0041】
上記トマトにはシルバーリーフコナジラミが発生している状態であったが、散布後15−20分後、シルバーリーフコナジラミは100%下に落ちて窒息して死んでいた。
【0042】
また、2mのリンゴの木で2.2(リットル)の量を20日に1回散布する実験を行った。
【0043】
リンゴにはカメムシ、ダニ、コガネムシ、シンクイ、カミキリムシ等の病害虫が発生していたが、これらの病害虫は100%下に落ちて窒息して死んでいた。
【0044】
さらに、ミニトマトの場合、収穫して出荷場所に届けた後、熟してくると実割れが起こるが、本発明の実施形態例に係る植物用散布剤を収穫の約10日前にミニトマトに散布することにより、実割れを100%防止できた。
【0045】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の植物用散布剤及びその製造方法は、植物の病害虫を防除・駆除するとともに、植物に必要な養分を補給するために用いられる。