特許第5859148号(P5859148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859148
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】Aβ抗体製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20160128BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160128BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   A61K39/395 NZNA
   A61P25/28
   A61K9/08
   A61K47/34
   A61K47/12
   A61K47/22
   A61K47/26
   A61K47/18
【請求項の数】1
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-560323(P2014-560323)
(86)(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公表番号】特表2015-510871(P2015-510871A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2013054313
(87)【国際公開番号】WO2013131866
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2014年9月16日
(31)【優先権主張番号】12158602.8
(32)【優先日】2012年3月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100146422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 聖
(72)【発明者】
【氏名】ゴルトバッハ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】マーラー,ハンス−クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,ロベルト
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−512356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−44
A61K 9/00−72
A61K 47/00−48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0mg/ml〜150mg/mlのAβ抗体、
0.04のポロキサマー188、
20mMの酢酸ナトリウム又はヒスチジン/ヒスチジン−HCl
200mMのトレハロース又は135mMのアルギニン
をpH5.5で含
Aβ抗体は、それぞれ配列番号10及び11の重鎖および軽鎖を含むモノクローナル抗体であり、
該モノクローナルAβ抗体は、モノグリコシル化Aβ抗体と二重グリコシル化Aβ抗体との混合物であり、ここで、モノグリコシル化抗体が、一方の抗体結合部位のVHドメイン中の配列番号2の位置52にグリコシル化アスパラギン(Asn)を含み、ここで、二重グリコシル化抗体が、両方の抗体結合部位のVHドメイン中の配列番号2の位置52にグリコシル化アスパラギン(Asn)を含み、その際、該混合物が、VHドメイン中の配列番号2の位置52でグリコシル化されていない抗体を5%未満含む、
安定な液体薬学的抗体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβペプチド(Aβ)に対する抗体分子および/または抗体分子の混合物の薬学的製剤に関する。
【0002】
タンパク質医薬品群の一部としての抗体分子は、変性および凝集、脱アミド、酸化および加水分解などの物理的分解および化学的分解に非常に感受性である。タンパク質の安定性は、タンパク質自体の特徴、例えばアミノ酸配列によって、および温度、溶媒pH、賦形剤、界面、またはずり速度などの外部影響によって影響される。それで、製造、保存および投与の際に分解反応からタンパク質を保護する最適な製剤条件を定義することが重要である(Manning, M. C., K. Patel, et al. (1989). "Stability of protein pharmaceuticals." Pharm Res 6(11): 903-18., Zheng, J. Y. and L. J. Janis (2005). "Influence of pH, buffer species, and storage temperature on physicochemical stability of a humanized monoclonal antibody LA298." Int)_Pharm)。皮下または筋肉内経路による抗体の投与は、高用量および限られた投与体積を必要とすることが多いので、最終製剤中に高いタンパク質濃度を必要とする(Shire, S. J., Z. Shahrokh, et al. (2004). "Challenges in the development of high protein concentration formulations." J Pharm Sci 93(6): 1390-402., Roskos, L. K., C. G. Davis, et al. (2004). "The clinical pharmacology of therapeutic monoclonal antibodies." Drug Development Research 61(3): 108-120)。高タンパク質濃度の大規模製造は、限外濾過工程、凍結乾燥または噴霧乾燥などの乾燥工程、および沈殿工程によって達成することができる(Shire, S.1., Z. Shahrokh, et al. (2004). "Challenges in the development of high protein concentration formulations." J Pharm Sci 93(6): 1390-402)。
【0003】
患者への抗体の皮下投与を可能にする、Aβ抗体または該抗体の混合物の高濃度安定製剤を提供することが、本発明の目的である。
【0004】
本発明の製剤は、2〜8℃および25℃で8ヶ月間保存したときに、目に見える粒子を形成せずに良好な安定性を示す。薬物製品の製造または輸送の間に潜在的に起こる物理的ストレス条件をシミュレーションするために、液体製剤に振盪段階および複数の凍結解凍段階が適用された。
【0005】
本発明の薬学的製剤は、抗体の凝集および粒子形成を減少させるために界面活性剤としてポロキサマーを含む。本明細書に使用される「ポロキサマー」という用語には、BASF(Parsippany, N.J.)によって商品名PLURONIC(登録商標)F68で販売されている、ポロキサマー188として公知のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体が含まれる。本発明の製剤に利用されうる他のポロキサマーには、ポロキサマー403(PLURONIC(登録商標)P123として販売)、ポロキサマー407(PLURONIC(登録商標)P127として販売)、ポロキサマー402(PLURONIC(登録商標)P122として販売)、ポロキサマー181(PLURONIC(登録商標)L61として販売)、ポロキサマー401(PLURONIC(登録商標)L121として販売)、ポロキサマー185(PLURONIC(登録商標)P65として販売)、およびポロキサマー338(PLURONIC(登録商標)F108として販売)が含まれる。
【0006】
本発明は、
− 約50mg/ml〜200mg/mlのAβ抗体、
− 約0.01%〜0.1%のポロキサマー、好ましくはポロキサマー188、
− 約5mM〜50mMのバッファー、
− 約100mM〜300mMの安定化剤
をpH約4.5〜7.0で含む、安定な液体薬学的抗体製剤を提供する。
【0007】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体の濃度は、約100mg/ml〜200mg/ml、好ましくは約150mg/mlである。
【0008】
本発明の特定の一態様では、ポロキサマーは、濃度約0.02%〜0.06%、好ましくは約0.04%で存在する。
【0009】
本発明の特定の一態様では、バッファーは、酢酸ナトリウムバッファーまたはヒスチジンバッファー、好ましくはヒスチジン/ヒスチジン-HClバッファーである。
【0010】
本発明の特定の一態様では、バッファーは、濃度約10〜30mM、好ましくは約20mMを有する。
【0011】
本発明の特定の一態様では、製剤のpHは、約5〜6、好ましくは約5.5である。
【0012】
本発明の特定の一態様では、安定化剤は、糖およびアミノ酸より選択される。
【0013】
本発明の特定の一態様では、安定化剤は、トレハロースおよびアルギニンより選択される。
【0014】
本発明の特定の一態様では、安定化剤は、濃度約100mM〜300mMを有する。
【0015】
本発明の特定の一態様では、安定化剤はトレハロース(threhalose)であり、濃度約150mM〜250mM、好ましくは約200mMを有する。
【0016】
本発明の特定の一態様では、安定化剤はアルギニンであり、濃度約100mM〜150mM、好ましくは約135mMを有する。
【0017】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体は、重鎖および軽鎖を含むモノクローナル抗体である。
【0018】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体の重鎖は、
− 配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR1、
− 配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR2、
− 配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR3配列
を含むVHドメインを含む。
【0019】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体の軽鎖は、
− 配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、
− 配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、
− 配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3配列
を含むVLドメインを含む。
【0020】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体のVHドメインは、配列番号2のアミノ酸配列を含み、Aβ抗体のVLドメインは、配列番号3のアミノ酸配列を含む。
【0021】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体の重鎖は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明の特定の一態様では、Aβ抗体の軽鎖は、配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0023】
本発明の特定の一態様では、モノクローナルAβ抗体は、モノグリコシル化Aβ抗体と二重グリコシル化Aβ抗体との混合物であり、ここで、モノグリコシル化抗体は、一方の抗体結合部位のVHドメイン中の配列番号2の位置52にグリコシル化アスパラギン(Asn)を含み、ここで、二重グリコシル化抗体は、両方の抗体結合部位のVHドメイン中の配列番号2の位置52にグリコシル化アスパラギン(Asn)を含み、その際、該混合物は、VHドメイン中の配列番号2の位置52でグリコシル化されていない抗体を5%未満含む。
【0024】
特定の一態様では、本発明は、Aβ抗体の皮下投与のための本発明の薬学的製剤の使用を提供する。
【0025】
「Aβ抗体」および「Aβに結合する抗体」という用語は、十分な親和性でAβペプチドと結合できることにより、診断剤および/または治療剤としてAβペプチドのターゲティングに有用な抗体を表す。
【0026】
Aβがいくつかの天然形態を有することは注目に値し、その際、ヒト形態は上述のAβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42およびAβ43と呼ばれる。最も有名な形態であるAβ42は、アミノ酸配列(N末端から開始):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA(配列番号1)を有する。Aβ41、Aβ40、Aβ39では、それぞれC末端アミノ酸A、IAおよびVIAが欠如している。Aβ43形態では、追加的なトレオニン残基が上記配列(配列番号1)のC末端に含まれる。
【0027】
「モノグリコシル化Aβ抗体」という用語は、個別の抗体分子の一方の(VH)領域内の配列番号2の位置52にN−グリコシル化を含む抗体分子に関する。図1も参照されたい。「二重グリコシル化Aβ抗体」という用語は、重鎖」の両方の可変領域上の配列番号2の位置52でN−グリコシル化されている抗体分子を定義するものである(図1)。両方の重鎖(VH)ドメイン上にN−グリコシル化を欠如する抗体分子は、「非グリコシル化抗体」と名付けられる(図1)。モノグリコシル化抗体、二重グリコシル化抗体および非グリコシル化抗体は、同一のアミノ酸配列または異なるアミノ酸配列を含みうる。モノグリコシル化抗体および二重グリコシル化抗体は、本明細書において「グリコシル化抗体アイソフォーム」と呼ばれる。少なくとも1個の抗原結合部位が重鎖(VH)の可変領域中にグリコシル化を含むことを特徴とする精製抗体分子は、二重グリコシル化抗体および非グリコシル化抗体より選択されるアイソフォームに関して不含または非常に低含量であるモノグリコシル化抗体、すなわち「精製モノグリコシル化抗体」である。本発明に関連する二重グリコシル化抗体は、モノグリコシル化抗体および非グリコシル化抗体より選択されるアイソフォームに関して不含または非常に低含量であり、すなわち「精製二重グリコシル化抗体」である。
【0028】
「抗体」という用語は、非限定的に全抗体および抗体フラグメントを含めた多様な形態の抗体構造を包含する。本発明による特性が保たれる限り、本発明による抗体は、好ましくはヒト化抗体、キメラ抗体、またはさらに遺伝子組換え抗体である。
【0029】
「抗体フラグメント」は、全長抗体の一部分、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体フラグメントの例には、抗体フラグメントから形成された二重特異性抗体、1本鎖抗体分子、および多重特異性抗体が含まれる。scFv抗体は、例えばHouston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-96)に記載されている。加えて、抗体フラグメントは、Vドメインの特徴、すなわちVドメインと一緒に集合することができるという特徴、またはAβに結合性のVドメインの特徴、すなわちVドメインと一緒に集合して機能的抗原結合部位になることができるという特徴を有することにより、その特性を提供する1本鎖ポリペプチドを含む。
【0030】
本明細書に使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を表す。
【0031】
「キメラ抗体」という用語は、通常はリコンビナントDNA技法によって調製される、一つの起源または種からの可変領域、すなわち結合領域と、異なる起源または種から得られた定常領域の少なくとも一部分とを含む抗体を表す。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関して本発明による性質を生成するように、定常領域が本来の抗体の定常領域から改変または変更されたキメラ抗体である。そのようなキメラ抗体は、また、「クラススイッチ抗体」と呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体の製造方法は、当技術分野において周知の従来のリコンビナントDNA技法および遺伝子トランスフェクション技法を伴う。例えばMorrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および同第5,204,244号を参照されたい。
【0032】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が改変されて、親免疫グロブリンのCDRと異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含む抗体を表す。好ましい一態様では、マウスCDRがヒト抗体のフレームワーク領域と接ぎ合わされて「ヒト化抗体」が調製される。例えばRiechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について上に記載した抗原を認識する配列を表すCDRに対応する。本発明によって包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関して本発明による性質を生成するように、定常領域が本来の抗体の定常領域から追加的に改変または変更されたヒト化抗体である。
【0033】
本明細書に使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列から得られた可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。ヒト抗体は、当技術の現状において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体は、また、免疫処置したときに、内因性免疫グロブリンの産生の不在下でヒト抗体の全レパートリーまたは選択物を産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)から産生されうる。そのような生殖細胞系突然変異マウスにヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイを導入すると、抗原誘発時にヒト抗体の産生が生じる(例えばJakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258; Bruggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照されたい)。ヒト抗体は、また、ファージディスプレイライブラリー(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)から産生されうる。ColeらおよびBoernerらの技法もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用することができる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体についてすでに言及されたように、本明細書に使用される「ヒト抗体」という用語は、また、特にC1q結合および/またはFcR結合に関して本発明による性質を生成するように、例えば「クラススイッチ」、すなわちFc部分の変更または突然変異(例えばIgG1からIgG4への、および/またはIgG1/IgG4突然変異)によって定常領域が改変されたヒト抗体を含む。
【0034】
「エピトープ」という用語には、抗体に特異的に結合できる任意のポリペプチド決定基が含まれる。ある態様では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの分子の化学的活性表面基(surface grouping)を含み、ある態様では、特異的三次元構造特徴および/または特異的電荷特徴を有しうる。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。
【0035】
本明細書に使用される「可変ドメイン」(軽鎖可変ドメイン(V)、重鎖可変ドメイン(V))は、抗原に抗体を結合させることに直接関与する軽鎖ドメインおよび重鎖ドメインの対のそれぞれを意味する。可変軽鎖および重鎖ドメインは、同じ一般構造を有し、各ドメインは、三つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によって連結された、配列が広く保存されている四つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域は、βシートコンフォメーションをとり、CDRはβシート構造を連結するループを形成しうる。各鎖中のCDRは、フレームワーク領域によってその三次元構造に保持され、もう一方の鎖からのCDRと一緒になって抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性に特に重要な役割を果たし、それによって本発明のさらなる目的を提供する。
【0036】
本明細書に使用するときの「抗体の抗原結合部分」という用語は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を表す。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書において定義されたような超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端にかけてドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。特に、重鎖のCDR3は、最も大きく抗原結合を担う領域であって、抗体の性質を定義する。CDRおよびFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的定義および/または「超可変ループ」からの残基にしたがって決定される。
【0037】
「安定化剤」という用語は、製造、保存および適用の際に活性薬学的成分および/または製剤を化学的および/または物理的分解から保護する、薬学的に許容されうる賦形剤を意味する。タンパク質医薬品の化学的および物理的分解経路は、Cleland, J. L., M. F. Powell, et al. (1993). "The development of stable protein formulations: a close look at protein aggregation, deamidation, and oxidation." Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 10(4): 307-77、Wang, W. (1999). "Instability, stabilization, and formulation of liquid protein pharmaceuticals." Int J Pharm 185(2): 129-88.、Wang, W. (2000). "Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals." Int J Pharm 203(1-2): 1-60.およびChi, E. Y.,. S. Krishnan, et ai. (2003). "Physical stability of proteins in aqueous solution: mechanism and driving forces in nonnative protein aggregation." Pharm Res 20(9): 1325-36によって総説されている。安定化剤には、非限定的に本明細書下記に定義されるような糖、アミノ酸、ポリオール、界面活性剤、抗酸化剤、保存料、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、例えばPEG3000、3350、4000、6000、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、塩類、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、キレート剤、例えばEDTAが含まれる。本明細書で上述のように、安定化剤は、約10〜約500mMの量、好ましくは約10〜約300mMの量、より好ましくは約100mM〜約300mMの量で製剤中に存在しうる。
【0038】
「安定な液体薬学的抗体製剤」は、冷蔵温度(2〜8℃)で少なくとも12ヶ月間、特に2年間、より特定には3年間顕著な変化が観察されない液体抗体製剤である。安定性の基準は以下にしたがう:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC−HPLC)によって測定したとき、10%以下、特に5%以下の抗体モノマーが分解されている。さらに、溶液は、目視分析で無色または透明ないしやや乳白である。製剤のタンパク質濃度は、変化が±10%以下である。凝集の形成は10%以下、特に5%以下である。安定性は、UV分光法、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC−HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IE−HPLC)、比濁法および目視検査などの、当技術分野において公知の方法によって測定される。
【0039】
リコンビナント法およびリコンビナント組成物
抗体は、リコンビナント法およびリコンビナント組成物を使用して、例えば米国特許第4,816,567号に記載されているように製造することができる。一態様では、本明細書記載の抗[[PRO]]抗体をコードする単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列をコードしうる(例えば抗体の軽鎖および/または重鎖)。さらなる一態様では、そのような核酸を含む一つまたは複数のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。さらなる一態様では、そのような核酸を含むホスト細胞が提供される。そのような一態様では、ホスト細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターおよび抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えばそれでトランスフォーメーションされている)。一態様では、ホスト細胞は、真核細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えばY0、NS0、Sp20細胞)である。一態様では、抗[[PRO]]抗体の製造方法であって、上記に提供されるような抗体をコードする核酸を含むホスト細胞を、抗体の発現に適した条件で培養すること、および場合によりホスト細胞(またはホスト細胞の培養液)から抗体を回収することを含む方法が提供される。
【0040】
抗Aβ抗体のリコンビナント産生のために、例えば上記のような抗体をコードする核酸が単離され、ホスト細胞でのさらなるクローニングおよび/または発現のために一つまたは複数のベクターに挿入される。そのような核酸は、従来の手順を使用して(例えば抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離および配列決定することができる。
【0041】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に適したホスト細胞には、本明細書記載の原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、特にグリコシル化およびFcエフエクター機能が必要ない場合、抗体は細菌から産生されうる。細菌での抗体フラグメントおよびポリペプチドの発現については、例えば米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、および同第5,840,523号を参照されたい(Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248(E. coliでの抗体フラグメントの発現を記載しているB.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254も参照されたい)。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離することができ、さらに精製することができる。
【0042】
原核微生物に加えて、グリコシル化経路が「ヒト化」されていて、部分ヒトまたは完全ヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生を生じる真菌株および酵母株を含めた糸状菌または酵母などの真核微生物も、抗体をコードするベクターに適したクローニングホストまたは発現ホストである。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)、およびLi et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)を参照されたい。
【0043】
グリコシル化抗体の発現に適したホスト細胞は、また、多細胞生物(無脊椎生物および脊椎動物)から得られる。無脊椎生物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。昆虫細胞と共に、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために使用することができる多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0044】
植物細胞培養物もまた、ホストとして利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、および同第6,417,429号(トランスジェニック植物から抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技法を記載している)を参照されたい。
【0045】
脊椎動物細胞もまた、ホストとして使用することができる。例えば、懸濁液中で成長するように適応された哺乳動物細胞系が有用でありうる。有用な哺乳動物ホスト細胞系の他の例は、SV40によってトランスフォーメーションされたサル腎臓CV1系(COS−7);ヒト胎児腎臓系(例えばGraham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載されているような293または293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えばMather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されているようなTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76);ヒト子宮頸ガン細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(Hep G2);マウス乳房腫瘍(MMT060562);例えばMather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載されているようなTRI細胞;MRC5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物ホスト細胞系には、DHFRCHO細胞を含めたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));ならびにY0、NS0およびSp2/0などの骨髄腫細胞系が含まれる。抗体産生に適したある種の哺乳動物ホスト細胞系の総説については、例えばYazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照されたい。
【0046】
実施例
本発明による皮下投与用液体医薬品製剤を以下のように開発した。
【0047】
実施例1:液体製剤の調製
以下のAβ液体製剤を、タンパク質濃度150mg/mlで調製した。
【0048】
【表1】
【0049】
国際公開公報第2007/068429号に記載されたように調製および入手されたAβ抗体は、pH約5.5にて10mMヒスチジンバッファー中に濃度約50〜60mg/mLで提供した。実施例に使用されたAβ抗体は、本出願の配列リスト(配列番号2〜11)に明記されたCDR、VHドメイン、VLドメイン、重鎖および軽鎖を含む。
【0050】
液体製剤の調製のために、予測されるバッファー組成を含有するダイアフィルトレーションバッファーに対してAβをバッファー交換し、限外濾過によって抗体濃度約200mg/mLに濃縮した。限外濾過の作業を完了後、賦形剤(例えばトレハロース)を原液として抗体溶液に添加した。次に、界面活性剤を50〜125倍原液として添加した。最後に、タンパク質濃度をバッファーでAβ終濃度約150mg/mLに調整した。
【0051】
0.22μm低タンパク質結合フィルターを通過させて全ての製剤を無菌濾過し、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)でコーティングされたゴム栓およびアルミ(alucrimp)キャップで密封された滅菌6mLガラスバイアルに無菌充填した。充填体積は約2.4mLであった。これらの製剤を異なる気候条件(5℃、25℃および40℃)で異なる時間保存し、振盪(5℃および25℃において振盪回数200回/分で1週間)および凍結解凍ストレス法(−80℃/+5℃で5サイクル)によってストレスを与えた。ストレス検査を適用前後、および保存後に以下の分析法:
− UV分光法
− サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
− イオン交換クロマトグラフィー(IEC)
− 溶液の透明性および乳光
− 目視検査
によって試料を分析した。
【0052】
タンパク質含量の決定のために使用されたUV分光法は、Perkin Elmer λ35UV分光計を用いて波長範囲240nm〜400nmで行った。ニートなタンパク質試料を対応する製剤バッファーで約0.5mg/mLに希釈した。タンパク質濃度を式1により計算した。
【0053】
【数1】
【0054】
280nmでのUV光吸収を320nmでの光散乱について補正し、希釈倍率を乗じた。希釈倍率は、ニートな試料および希釈バッファーの秤量質量および密度から決定した。キュベットの光路長dと吸光係数εの積で分子を除算した。
【0055】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して製剤中の可溶性高分子量種(凝集物)および低分子量加水分解産物(LMW)を検出した。この方法は、Waters W2487二重吸光検出器を有しTosoHaas TSK-Gel G3000SWXLカラムを備えるWaters Alliance 2695 HPLC装置で行った。無傷のモノマー、凝集物および加水分解産物は、移動相として0.2M K2HPO4/0.25M KCL(pH7.0)を使用して均一濃度溶離プロファイルによって分離し、波長280nmで検出した。
【0056】
製剤中のAβの実効電荷を変化させる化学分解産物を検出するためにイオン交換クロマトグラフィー(IEC)を行った。この方法は、Waters W2487二重吸光検出器(検出波長280nm)およびMono S TM 5/50GLカラム(Amersham Biosciences)を有するWaters Alliance 2695 HPLC装置を使用した。50mMマロン酸/マロン酸塩(pH5.3)および移動相A(pH5.3)中の1M酢酸Naを、それぞれ移動相AおよびBとして流速1.0mL/分で使用した。
【0057】
勾配プログラム:
【0058】
【表2】
【0059】
透明度および乳光度は、ネフェロメトリー法によりホルマジン濁度単位(FTU)として測定した。ニートな試料を直径11mmの透明ガラスチューブ内に移し、HACH 2100AN比濁計に入れた。
【0060】
試料は、Seidenader V90-T目視検査装置を使用することによって、目に見える粒子の存在について検査した。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】
【0070】
【表12】
【0071】
【表13】
【0072】
【表14】
【0073】
【表15】
【0074】
【表16】
【0075】
【表17】
【0076】
【表18】
【0077】
上に示した安定性データは、ポリソルベート20含有製剤およびポリソルベート80含有製剤の全てが5℃、25℃または40℃で8ヶ月保存後に目に見える粒子を発生していることを示している。他方、ポロキサマー含有製剤は、5℃、25℃および40℃で8ヶ月保存後に目に見える粒子がほとんどない。したがって、ポロキサマーはAβ抗体製剤中の目に見える粒子の形成を防止することができる。
【0078】
本出願に開示されたアミノ酸配列
【表19】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]