【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
なお、本実施例における材料および方法は、次の通りである。
【0046】
<コホート>
2007年1月から2008年5月までに千葉大医学部附属病院産科、JFE川鉄千葉病院を受診し、出生コホート調査へ参加同意の得られた妊婦から出生した児900名を対象とした。アトピー性皮膚炎(AD)の定義は、生後6か月時の質問票により2か月以上続くかゆみのある湿疹とした。生後6ヶ月時でのアトピー性皮膚炎児55名、対照健康児55名を選び、採取してあった母乳中のTh2アジュバント活性を測定した。
【0047】
<母乳の採取>
生後数日と生後1か月時の母乳を、ディスポーザブルポリスピッツに採取し、凍結保存(-80℃)した。凍結保存しておいた母乳を流水にて溶解し、1mlずつマイクロチューブ(1.5ml)に分注した。10,000g、10分4℃で遠心を行い、細胞(下層)と乳性脂肪(上層)を分離した。乳性脂肪をアスピレーターで吸引して取り除いた後、中間のクリアな水溶性画分をマイクロチューブ(1.5ml)にとって、4℃で保存した。
【0048】
<細胞内cAMP濃度の測定>
THP-1細胞を、加湿培養器中、37℃で、5% CO
2の条件下、10% ウシ胎児血清、1% ペニシリンおよびストレプトマイシン、および1% L−グルタミンで補完したRPMI1640培地で培養した。50ng/mlのPMA(ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート)に48時間曝したTHP-1細胞を洗浄し、その後、1mMの3-イソブチル-1-メチル−キサンチンの存在下で、37℃で培養した。10分後、細胞を30%の母乳(AD:n=55、非AD:n=55)で10分間刺激し、cell lysis buffer(Molecular Devices)で溶解した。いくつかの実験においては、50ng/mlのPMAで48時間処理したTHP-1細胞を10μMのプロスタグランジンE
2(PGE
2)に曝した。細胞内cAMPレベルは、メーカー使用説明書に従い、CatchPointTM cyclicAMP fluorescent assay kit(Molecular Devices社)を用いて計測した。いくつかの実験においては、デルタ(Δ)-cAMPを、アジュバント刺激ありのPMA刺激を与えたTHP-1おけるcAMPの濃度から、アジュバント刺激なしのPMA刺激を与えたTHP-1におけるcAMPの濃度を差し引くことにより算出した。
【0049】
<ヒト単球由来樹状細胞(Mo-DCs)とTリンパ球の調製>
ヒトMo-DCsおよびCD45RA陽性ナイーブT細胞(99%を超える純度)は、従前の報告(Takagi, R. et al., J Immunol 181: 186-189, 2008)に従い調製した。
【0050】
<樹状細胞を用いたT細胞分化解析>
未熟Mo-DCsは、1〜10%の母乳液体画分または0〜10μg/mlのコエンザイムAで刺激した。液体画分またはコエンザイムAとの培養から2日後、混合リンパ球培養反応(MLR)を誘導するために、細胞成分をさらに、HLA-DR-非共有アロジェニックCD4陽性ネガティブT細胞とともに、10%ヒト血清を補完したRPMI1640培地で、6〜8日間培養した。その後、T細胞を抗CD3抗体と抗CD28抗体(BD Pharmingen社)で再刺激した。IFNγとIL-5のELISAキット(R&D systems社)を用いたELISAによるIFNγとIL-5の解析のために、培養上清を48時間後に回収した。
【0051】
<HPLC解析>
母乳の液相は、0.06% TFAで平衡化した、4.6×250mmのC8逆相(RP)-HPLCカラム(Shiseido)にロードした。
A214と
A280を継続的にモニターしながら、カラムを、室温下、1.0ml/分の流速で、0.052% TFA-アセトニトリル濃度勾配により溶出した。画分は、濃縮し、Speed Vac(Savant社)で乾燥させた。
【0052】
<質量分析>
マススペクトルは、エレクトロスプレーイオン化源を備えたLCMS-IT-TOF mass spectrometer(島津製作所)に記録した。試料は、0.2ml/分の流速にて、50% アセトニトリルと0.1% ギ酸の混合物を含む緩衝液でパルス注入された。操作のために、エレクトロスプレー電圧は、4.5kVにセットし、キャピラリー温度を200℃とした。窒素ガスの噴霧は、1.5L/分でセットした。スペクトルは、200〜1000 質量/電荷(m/z)の範囲を、0.3秒毎に2分間スキャンすることにより取得した。スキャン時間における各スペクトルの統合と予想された範囲における質量の計算のために、コンピュータプログラム LCMSソルーションを用いた。
【0053】
<コエンザイムA濃度の決定>
コエンザイムAの濃度は、Coenzyme A Assay kit(BioVision Research Products)を用いて、メーカー使用説明書に従い、決定した。
【0054】
<コエンザイムAを経口投与したマウスから採取したCD3ε陰性細胞を用いたリンパ球混合培養反応>
SJL/Jマウス(H-2
s)とNc/Ngaマウス(非H-2
s)をCharles River社と日本エスエルシー株式会社からそれぞれ購入した。SJL/Jマウスに50μg/mlのコエンザイムAを経口投与した。2日後に、「CD3ε¯ cell isolation kit」(Miltenyi Biotec社)を用いて、腸間膜リンパ節細胞よりCD3ε陰性細胞を得た。同日に、「CD4
+ T cell isolation kit」と「CD62L
+ T cell isolation kit」(Miltenyi Biotec社)を用いて、Nc/Ngaマウスの脾臓からCD62L陽性ナイーブCD4陽性T細胞を得た。その後、1×10
4のCD3ε陰性細胞と1×10
5のアロジェネイックなCD62L陽性ナイーブCD4陽性T細胞を96ウェルの平底培養プレートで共培養し、10% FCSが補充されたRPMI1640培地中で7日間、リンパ球混合培養反応(MLR)を誘導した。次いで、T細胞を抗CD3抗体および抗CD28抗体(Biolegends社)で再刺激した。培養上清を16時間後に採取し、IFNγ、IL-4およびIL-5のELISAキット(R&D systems社)を用いて、IFNγ、IL-4、およびIL-5に関して解析した。
【0055】
[実施例1] 母乳におけるTh2アジュバント活性本体の精製と質量分析
本発明者らは、樹状細胞としてTHP-1細胞を用い、母乳におけるTh2アジュバント活性を検出した結果、アトピー性皮膚炎と関連した母乳において、cAMPの形成を指標としたTh2アジュバント活性が増加していることを見出している(非特許文献3)。そこで、本発明者らは、母乳を遠心により3つの画分、すなわち、細胞を含む沈殿、中間液相、表面脂質に分離した。これらの画分をPMA処理したTHP-1細胞と共培養し、cAMPを上昇させる活性を評価した。その結果、cAMPを上昇させる活性は、沈殿や脂質画分ではなく、液体画分に効率よく回収された(
図1A)。この活性は、除菌のためろ過した後でも、そのまま残っていた。
【0056】
次に、本発明者らは、樹状細胞が仲介するT細胞分化の解析において、Th1/Th2サイトカインプロファイルを調査した。この解析では、Mo-DCsを用い、ろ過した母乳の液相による刺激を行った。この解析においては、母乳調製物は、樹状細胞のみと共培養した(T細胞は、母乳に曝さなかった)。LPSとフォルスコリンをそれぞれTh1アジュバントとTh2アジュバントの陽性対照として用いた(データは示していない)。その結果、母乳の液相は、高いIL-5/IFNγ比を示したことから、実際に、樹状細胞に作用してTh2細胞の分化を誘導する活性を持つことが判明した(
図1B)。
【0057】
そこで、次に、本発明者らは、C8逆相HPLCを用いることにより、母乳の液相の精製を行った。30秒毎の画分のcAMP誘導活性を決定したところ、高cAMP誘導性の母乳における11.0〜11.5分の画分が、排他的に、最も高い活性を示す一方、低cAMP誘導性の母乳における11.0〜11.5分の画分は、このようなcAMP誘導活性を示さなかった(
図2)。この画分は、
A280シグナルをほとんど含んでいなかったことから、ほとんどタンパク質を含まないことが示唆された。15〜25分の画分は、多くの
A280シグナルを示したが、cAMP誘導シグナルは示さなかった(データは示していない)。
【0058】
[実施例2] 母乳中のTh2アジュバント活性の本体の質量分析による同定
本発明者らは、高cAMP誘導性の母乳における11.0〜11.5分の画分を質量分析により解析した。その結果、検出された多くのシグナルのうち、「Mi=384.7719、Mi+1=385.2754(Mi+1-Mi=0.5035)」のシグナルが、高活性の母乳において検出されたが、低活性の母乳においては検出されないことが判明した(表1)。
【0059】
【表1】
【0060】
このシグナルの分子の分子量を算出したところ、767.5292であった。これは、コエンザイムAの分子量と完全に一致した。2つの他の母乳調製物の実験においても同様の結果が得られた。以上から、母乳中のコエンザイムAがTh2アジュバント活性に関与していることが示唆された。
【0061】
[実施例3] in vitroにおける、コエンザイムAのTh2アジュバント活性の解析
次いで、本発明者らは、樹状細胞を用い、in vitroにおいて、コエンザイムAのTh2アジュバント活性を試験した。Th2アジュバント活性は、MLRと細胞内cAMP濃度の変化により試験した。その結果、PMAで処理したTHP-1細胞は、10〜30μg/ml(13〜39μM)のコエンザイムAと共培養すると、細胞内cAMPが上昇した。さらに、Mo-DCsを1μg/mlのコエンザイムAで前処理すると、アロジェニックナイーブCD4陽性T細胞がTh2細胞に分化した(
図3B)。以上から、コエンザイムA自体にTh2アジュバント活性があることが判明した。
【0062】
[実施例4] in vivoにおける、コエンザイムAのTh2アジュバント活性の解析
さらに、本発明者らは、コエンザイムAがin vivoにおいてTh2アジュバント活性を示すか試験した。マウスにコエンザイムAを含む飲用水(10〜20μg/kg/日)を経口投与した。この投与量は、母乳が最も高いTh2アジュバント活性を示した幼児によるコエンザイムAの経口摂取量に対応する。CD3ε陰性細胞は、コエンザイムA投与の2日後に、腸間膜リンパ節より単離し、アロジェネイックなCD62L陽性ナイーブCD4陽性T細胞と共培養した。このMLR解析において、高濃度のIL-4とIL-5が有意に誘導された(
図4A)。IFNγにおいては統計的有意差は認められなかった(
図4A)。IL-4/IFNγ比およびIL-5/IFN比は、処理したマウスにおいて顕著に高かった(
図4B)。以上から、in vivoにおいても、コエンザイムAにTh2アジュバント活性があることが判明した。