(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水底用敷き部材に対して略平行状態で倒れる倒伏位置と、前記水底用敷き部材に対して略垂直状態で起き上がる起立位置とに揺動可能であって、倒伏位置において、押し波方向の波力を受ける一端部と引き波方向の波力を受ける他端部とがそれぞれ前記水底用敷き部材よりも上方に設定され、この各端部から前記水底用敷き部材に接触する下面との間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている扉体と、
押し波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の他端部付近に連結されて、前記扉体の他端部を揺動可能に支持する第1の固定ベルトと、
引き波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体の一端部を揺動可能に支持する第2の固定ベルトと、
前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の保持部材と、
前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の保持部材とを備えた起伏式防波装置において、
第1の保持部材は、押し波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の引き止めベルトであり、
第2の保持部材は、引き波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の引き止めベルトであり、
前記水底用敷き部材における前記扉体の下面に対向する上面の少なくとも押し波方向側が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成され、
前記水底用敷き部材の上面と前記扉体の下面との少なくとも一方には、前記ベルトが位置する部分に、このベルトが嵌まり込み可能な凹部が形成されていることを特徴とする起伏式防波装置。
前記水底用敷き部材の上面は、押し波方向側と引き波方向側の双方が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の起伏式防波装置。
前記水底用敷き部材の上面は、押し波方向側が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成され、引き波方向側が、略水平若しくは上向き傾斜のフラット面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の起伏式防波装置。
前記扉体は、一端部と他端部との間の下面が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成され、上面が、フラット状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の起伏式防波装置。
【背景技術】
【0002】
従来、防波提上に、略水平面に沿い歩廊として使用可能な倒伏姿勢と、上方に突出して波浪を防ぐ起立姿勢との間で、防波堤上に固定した回転支持部により起伏自在な防波板(ゲート)を設ける。そして、この防波板を倒伏姿勢と起立姿勢との間で起伏させる起伏駆動装置を設けた起伏式防波装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、津波の進行を阻止しようとする地点の海底に軸水平に揺動できる揺動支持部(ヒンジ)を持つ基礎を設ける。そして、この基礎上の揺動支持部と組み合わせることで機能する揺動支持部(ヒンジ)を備える止水板(ゲート)を揺動支持部のある側を陸地側として配置する。さらに、止水板起立時の安定をはかる止水板起立姿勢保持機構(引き止めベルト等)を設けた津波防波堤がある(特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1の起立式防波装置は、防波板を回転支持部(ヒンジ)で起伏自在に支持しているから、防波板側と防波堤側に複数個のヒンジ金具をそれぞれ取り付け、これら両金具を連結するヒンジ軸も必要とするので、ヒンジ構造が複雑で、部品点数も多くなるという問題がある。また、防波板の起伏を油圧シリンダ等の起伏駆動装置で行うから、装置コストが高くなり、停電時のバックアップ等も必要になるという問題がある。
【0005】
引用文献2の津波防波堤は、平常時には止水板が海底付近に倒伏し、津波到来時には、津波の波力で止水板が自動的に起立するから、引用文献1のような起伏駆動装置が不要である。しかし、止水板を揺動支持部(ヒンジ)で起伏自在に支持しているから、引用文献1と同様に、ヒンジ構造が複雑で、部品点数も多くなるという問題がある。また、津波水流が倒伏時の止水板下方に流入しやすくするために、止水板展開始動用基礎側突起で、止水板の仰角を保持する必要がある。この基礎側突起を省略するために、止水板の下面に隙間を形成して、津波水流を止水板下方に流入しやすくする技術が開示されているが、その構造上、押し波方向だけにしか対応できないという問題がある。
【0006】
このような問題を解消するために、本出願人は、扉体(ゲート)のヒンジ金具等を不要にして(ヒンジレス式)、部品点数が少ない簡単な支持構造とするとともに、押し波にも引き波にも対応可能な起伏式防波装置を提案した(特許文献3)。
【0007】
かかる起伏式防波装置は、
図16(a)(b)に示すように、略水平なフラット面である水底面2に対して略平行状態で倒れる倒伏位置Dと、水底面2に対して略垂直状態で起き上がる起立位置U1〔
図17(a)(b)参照〕,U2〔
図18(a)(b)参照〕とに揺動可能である扉体1を備えている。
【0008】
この扉体1は、押し波方向aの波力を受ける一端部1aと引き波方向bの波力を受ける他端部1bとがそれぞれ水底面2よりも上方に設定され、この各端部1a,1bから水底面2に接触する下面1dとの間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている。なお、各図では、上面1cも側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている(側面視で木の葉状)。
【0009】
また、押し波方向aの水底面2に一端4aが連結され、他端4bが扉体1の他端部1b付近に連結されて、扉体1の他端部1bを揺動可能に支持する第1の固定ベルト4が設けられている。
【0010】
さらに、引き波方向bの水底面2に一端5aが連結され、他端5bが扉体1の一端部1a付近に連結されて、扉体1の一端部1aを揺動可能に支持する第2の固定ベルト5が設けられている。
【0011】
また、扉体1を押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持する第1の保持部材(引き止めベルト)6と、扉体1を引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持する第2の保持部材(引き止めベルト)とが設けられている。
【0012】
この起伏式防波装置によれば、扉体1(ゲート)は、
図16(a)(b)の平常時には水底面2の倒伏位置D(水底面に対して例えば約0度。以下同様。)に倒れているから、船舶(
図4の符号34参照)の航行等に影響を与えない。
【0013】
そして、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、
図17(a)(b)のように、押し波方向aの波力が扉体1の一端部1aと水底面2との間の隙間(仰角)f〔
図16(b)参照〕に流入することで、扉体1の一端部1aには上向き、他端部1bには下向きの偶力が発生する。
【0014】
このとき、扉体1の下面1dが略円弧状であるから、扉体1は、二点鎖線の倒伏位置Dから支点と重心が徐々に他端部1b方向に移動することで、下面1dが水底面2を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が他端部1bに移動すると、この他端部1bは第1の固定ベルト4に連結されているから、扉体1は他端部1bを中心に回転するようになる(矢印Q参照)。つまり、扉体1は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U1まで回転するようになる。また、扉体1は、第1の保持部材6で押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持されるようになる。この結果、押し波は、起立位置U1の扉体1で抑制されるようになる。
【0015】
一方、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、
図18(a)(b)のように、扉体1は水底面2の倒伏位置Dに倒れる。そして、引き波方向bの波力が扉体1の他端部1bと水底面2との間の隙間(仰角)fに流入することで、扉体1の他端部1bには上向き、一端部1aには下向きの偶力が発生する。
【0016】
このとき、扉体1の下面1dが略円弧状であるから、扉体1は、二点鎖線の倒伏位置Dから支点と重心が徐々に一端部1a方向に移動することで、下面1dが水底面2を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が一端部1aに移動すると、この一端部1aは第2の固定ベルト5に連結されているから、扉体1は一端部1aを中心に回転するようになる(矢印R参照)。つまり、扉体1は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U2まで回転するようになる。また、扉体1は、第2の保持部材7で引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持されるようになる。この結果、引き波は、起立位置U2の扉体1で抑制されるようになる。
【0017】
このような起伏式防波装置を港湾の固定防波堤(
図4の符号30参照)で仕切られた出入口(水路)(
図4の符号31参照)に設置すれば、津波等の押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、津波等の引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを抑制できるようになる等の効果を奏することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここで、特許文献3の起伏式防波装置において、流速が遅くても早く起立する、つまり津波等の押し波や引き波に対する起立感度をより向上させて、津波等による被害をより軽減させたいという要望があった。
【0020】
本発明は、前記要望に応えるためになされたもので、津波等の押し波や引き波に対する起立感度をより向上させて、津波等による被害をより軽減させることができる起伏式防波装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、本発明は、水底用敷き部材に対して略平行状態で倒れる倒伏位置と、前記水底用敷き部材に対して略垂直状態で起き上がる起立位置とに揺動可能であって、倒伏位置において、押し波方向の波力を受ける一端部と引き波方向の波力を受ける他端部とがそれぞれ前記水底用敷き部材よりも上方に設定され、この各端部から前記水底用敷き部材に接触する下面との間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている扉体と、押し波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の他端部付近に連結されて、前記扉体の他端部を揺動可能に支持する第1の固定ベルトと、引き波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体の一端部を揺動可能に支持する第2の固定ベルトと、前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の保持部材と、前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の保持部材とを備えた起伏式防波装置において、
第1の保持部材は、押し波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の引き止めベルトであり、第2の保持部材は、引き波方向の前記水底用敷き部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の引き止めベルトであり、前記水底用敷き部材における前記扉体の下面に対向する上面の少なくとも押し波方向側が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成され
、前記水底用敷き部材の上面と前記扉体の下面との少なくとも一方には、前記ベルトが位置する部分に、このベルトが嵌まり込み可能な凹部が形成されているものである。
【0022】
請求項2のように、前記水底用敷き部材の上面は、押し波方向側と引き波方向側の双方が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている構成とすることができる。
【0023】
請求項3のように、前記水底用敷き部材の上面は、押し波方向側が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成され、引き波方向側が、略水平若しくは上向き傾斜のフラット面に形成されている構成とすることができる。
【0024】
請求項4のように、前記扉体は、一端部と他端部との間の下面が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成され、上面が、フラット状に形成されている構成とすることができる。
【0027】
請求項
5のように、前記水底用敷き部材の上面は、前記扉体の揺動方向に、この扉体の下面の一部が接触可能なレール状に形成されていること構成とすることができる。
【0028】
請求項
6のように、前記扉体は、横並び状で複数個が配列され、隣り合う扉体の間に、扉体の横方向移動を規制するガイド板が設けられている構成とすることができる。
【0029】
請求項
7ように、前記扉体は中空状に形成され、この中空部に液体が充填されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、扉体(ゲート)は、平常時には水底用敷き部材の倒伏位置(水底用敷き部材に対して例えば約0度。以下同様)に倒れているから、船舶の航行等に影響を与えない。
【0031】
そして、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、押し波方向の波力が扉体の一端部と水底用敷き部材との間の隙間(仰角)に流入することで、扉体の一端部には上向き、他端部には下向きの偶力が発生する。
【0032】
このとき、扉体の下面が略円弧状であれば、扉体は、支点と重心が徐々に他端部方向に移動することで、下面が水底用敷き部材を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が他端部に移動すると、この他端部は第1の固定ベルトに連結されているから、扉体は他端部を中心に回転するようになる。つまり、扉体は、倒伏位置から所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)まで回転するようになる。また、扉体は、第1の保持部材で押し波方向の波力に抗して起立位置に保持されるようになる。この結果、押し波は、起立位置の扉体で抑制されるようになる。
【0033】
一方、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、扉体は水底用敷き部材の倒伏位置に倒れる。そして、引き波方向の波力が扉体の他端部と水底用敷き部材との間の隙間(仰角)に流入することで、扉体の他端部には上向き、一端部には下向きの偶力が発生する。
【0034】
このとき、扉体の下面が略円弧状であれば、扉体は、支点と重心が徐々に一端部方向に移動することで、下面が水底用敷き部材を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が一端部に移動すると、この一端部は第2の固定ベルトに連結されているから、扉体は一端部を中心に回転するようになる。つまり、扉体は、倒伏位置から所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)まで回転するようになる。また、扉体は、第2の保持部材で引き波方向の波力に抗して起立位置に保持されるようになる。この結果、引き波は、起立位置の扉体で抑制されるようになる。
【0035】
ここで、水底用敷き部材が特許文献3の水底面のように略水平なフラット面であれば、扉体の一端部(若しくは他端部)と水底用敷き部材との間に波力が流入するための隙間(仰角)を確保するために、水底用敷き部材から扉体の一端部(若しくは他端部)までの高さを高く設定する必要がある。これにより、扉体の厚みが厚くなることで、扉体の水中重量が重くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅いときは起立速度が遅くなって、起立感度が悪くなる。
【0036】
これに対して、水底用敷き部材における扉体の下面に対向する上面の少なくとも押し波方向側を、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成しているから、扉体の一端部〔若しくは他端部(請求項2のように、水底用敷き部材の上面の押し波方向側と引き波方向側の双方が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている場合に限る。以下同様。)〕と水平面(特許文献3の水底面2に相当。以下同様。)との間の隙間(仰角)に加えて、この水平面と水底用敷き部材の上面との間にも隙間(仰角)が確保されるために、水平面から扉体の一端部(若しくは他端部)までの高さを高く設定する必要がなくなる。これにより、扉体の厚みを薄くできることで、扉体の水中重量が軽くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅くても起立速度が早くなって、起立感度がより向上するから、津波等による被害がより軽減できるようになる。
【0037】
前記のように起伏式防波装置を港湾の防波堤で仕切られた出入口(水路)に設置すれば、押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを高感度で抑制できるようになる。また、河川の河口に設置すれば、押し波が河川を遡行して上流側の堤防等から溢水するのを高感度で抑制できる。なお、河川の河口に設置した場合、引き波の対策は特に必要ないので、このような場合には、第2の保持部材で、扉体を倒伏位置方向の適当な位置に保持することもできる。
【0038】
このように、扉体は、第1の固定ベルトで扉体の他端部を揺動可能に支持し、第2の固定ベルトで扉体の一端部を揺動可能に支持しているから、背景技術のような複数個のヒンジ金具やヒンジ軸が不要になるので(ヒンジレス式)、支持構造が簡単で、部品点数も少なくなる(ヒンジレスゲート)。
【0039】
また、第1の固定ベルトは、押し波方向の水底用敷き部材に一端を連結し、他端を扉体の他端部付近に連結している。第2の固定ベルトは、引き波方向の水底用敷き部材に一端を連結し、他端を扉体の一端部付近に連結している。したがって、扉体は、第1の固定ベルトと第2の固定ベルトとで、倒伏位置において、押し波方向または引き波方向の何れの方向にもずれ動かないように位置規制される。
【0040】
さらに、特許文献1,2のようなヒンジ式の場合には、倒伏位置からの起立開始時には、扉体の自重による抵抗モーメントが最大で、起立に伴って抵抗モーメントが徐々に減少する。したがって、倒伏位置からの起立開始に際しては、空気力等を利用して、扉体をある程度の角度まで起き上がらせる機構を必要とする。これに対して、本発明のヒンジレス式では、押し波、引き波のいずれに対しても、倒伏位置からの起立開始時には、上述した偶力によって、所定の起立角度(例えば約30度)までは自然に起き上がり、その後は、波力で起立位置に自然に起き上がるようになる。したがって、倒伏位置からの起立開始時には、扉体の自重による抵抗モーメントがゼロ(0)で、起立に伴って抵抗モーメントが徐々に増加することから、ヒンジ式と比べて、空気力等の起き上がらせる機構が不要であり、波力だけでも容易に起立するようになる。また、波力が無くなった時には、ゆっくりと倒伏するようになる。
【0041】
このように、扉体は、押し波・引き波に対して無動力で自動的に起立するから、ライフライン(停電等)の影響を受けることがない。また、水底基礎地盤(水底面敷き部材)と扉体との取り合いに自由度があるので、地震による地盤変動の影響を受けにくい。特に水底面敷き部材との間に流木等の異物が挟まったとしても、扉体は、異物の上に乗り上げながらでも起立するようになる。さらに、据付けが容易で、設置工事期間が短く、船舶航行への影響が少ない。
また、各保持部材を引き止めベルトとしたから、各固定ベルトと同じベルト素材を共用できるので、製造や管理が容易になる。なお、引き波の対策は特に必要ない場合には、第2の引き止めベルトを予め短くしておけば、扉体を倒伏位置付近に保持することもできる。
また、扉体が倒伏位置にある通常時はもちろん、扉体が倒伏位置から起立位置に起きあがる押し波・引き波の到来時にも、凹部にベルトが嵌り込むことで、ベルトが扉体の下面と水底面敷き部材の上面との間に挟み込まれない。したがって、扉体の水中重量(扉体の大きさにもよるが、数トン〜数10トン)がベルトに作用しないので、ベルトの損傷が防止できるようになる。
【0042】
請求項2によれば、水底用敷き部材の上面を、押し波方向側と引き波方向側の双方が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成すれば、扉体の下面と水底用敷き部材の上面と間の隙間(仰角)が押し波時と引き波時で同じにできる。したがって、押し波時と引き波の双方の起立感度がより向上するようになる。
【0043】
請求項3によれば、水底用敷き部材の上面を、押し波方向側が側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成し、引き波方向側が略水平若しくは上向き傾斜のフラット面に形成すれば、扉体の下面と水底用敷き部材の上面と間の隙間(仰角)が、押し波時に対して引き波時を狭くして起立感度を低くできる。したがって、港湾内等に入った海水は、引き波時に、起き上がり感度を低下させた扉体の上方を通過して港湾外に早く排出(内水排除)されるので、港湾内の水位を早く下げることが可能になる。
【0044】
請求項4によれば、扉体の下面だけを下向き略円弧状若しくは略台形状に形成し、上面をフラット状に形成すれば(略三日月形状)、水平面から扉体の一端部(若しくは他端部)までの高さをより低く設定することができ、これにより、扉体の厚みをより薄くできることで、扉体の水中重量がより軽くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅くても起立速度が早くなって、起立感度がより向上するようになる。
【0047】
請求項
5によれば、水底用敷き部材の上面を扉体の下面の一部が接触可能なレール状に形成しているから、略円弧状若しくは略台形状の部分が一部でよいので、全部とする場合に比べて上面の製造コストが大幅(略1/3〜1/4程度)に低減する。また、上面に対する貝類(扉体の揺動の障害となるおそれがある。)の付着量も減るので、付着防止材の塗布コストも低減する。
【0048】
請求項
6によれば、ガイド板で、横並び状の扉体の横方向移動を確実に規制することができる。
【0049】
請求項
7によれば、扉体は中空状であるから、製造時や搬送時は軽量であって、取扱いが容易であるとともに、設置現場で、液体(その現場の海水や川水等)を中空部に充填すると、その場で水底用敷き部材の上部に設置できるから、設置作業が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、特許文献3の
図16〜
図18と同一構成・作用の箇所は、同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
図1〜
図3および
図4〜
図6は、本発明にかかる起伏式防波装置(若しくは揺動式防波堤)である。
図1(a)は平常時(押し波や引き波の無い時)の平面図、
図1(b)は側面図、
図4は
図1(b)に対応する平常時の斜視図である。
図2(a)は押し波時の平面図、
図2(b)は側面図、
図5は
図2(b)に対応する押し波時の斜視図である。
図3(a)は引き波時の平面図、同(b)は側面図、
図6は
図3(b)に対応する引き波時の斜視図である。
【0053】
図1および
図4のように、扉体(ゲート)11は、港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口(水路)31や河川の河口等の水底33に敷設された水底用敷き部材12の上部に設置されている。
【0054】
扉体11は、
図7を参照すれば、平面視では、出入口31等の幅方向に延在する略長方形状である。出入口31等の幅が広い場合には、
図4〜
図6に示したように、その幅をカバーできるように、横並び状で複数台(本例では3台)が配列されることになる。扉体11は、実際には、例えば、1台の幅Wが60m、高さTが20m、後述する略円弧状の最大厚さJ1が1.2mである。
【0055】
扉体11は、水底用敷き部材12に対して略平行状態で倒れる倒伏位置D〔
図1(b)参照〕と、水底用敷き部材12に対して略垂直状態で起き上がる起立位置U1,U2〔
図2(b)、
図3(b)参照〕とに揺動可能となっている。
【0056】
扉体11は、平常時の倒伏位置Dにおいて、押し波方向aの波力を受ける一端部11aと、引き波方向bの波力を受ける他端部11bとが、それぞれ水底用敷き部材12よりも上方に設定されている。そして、少なくとも各端部11a,11bから水底用敷き部材12に接触する下面11dとの間が、側面視で略円弧状に形成されている。具体的には、一端部11aと他端部11bとの間の下面11dが側面視で下向き略円弧状に形成され、上面11cがフラット状に形成されている(略三日月形状)。
【0057】
扉体11は、ステンレス鋼板等の上下面11c,11dと両側面11e,11fとを組み合わせて溶接することで中空状に形成され、この中空部内に適量の液体が充填されている。これにより、扉体11に浮力が生じないので、水底用敷き部材12の上部に倒伏位置Dで設置することが可能となる。なお、液体に代えて固体(鉄塊等)を充填することも可能である。
【0058】
水底用敷き部材12は、
図7を参照すれば、ステンレス鋼板等の上面12aと、これを支持する柱部や梁部となる鋼材等を組み合わせて溶接することで、ユニット化された状態で水底33に設置されている。具体的には、
図4のように、水底面敷き部材12は、水底33に形成した凹部33aの底に設置され、この水底面敷き部材12の上部に設置した扉体11は、倒伏位置Dの扉体11の上面11cが水底33よりも上方に大きく突出しないように設定して、船舶34の航行等に支障が生じないようにしている。
【0059】
水底用敷き部材12における扉体11の下面11dに対向する上面12aは、側面視で上向き略円弧状に形成されている。
【0060】
すなわち、
図1(b)に示した水平面Kに対して、扉体11の下面11dと水底用敷き部材12の上面12aとは、略線対称で下向きと上向きの略円弧状に形成されていることになる。
【0061】
これにより、扉体11の各端部11a,11bの下面11dと水底用敷き部材12の上面12aとの間に、扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aと水平面Kとの間の波力が流入するための隙間(仰角)fに加えて、この水平面Kと水底用敷き部材12の上面12aとの間にも、波力が流入するための隙間(仰角)fが自然に形成されるようになる。
【0062】
扉体11に対しては、複数本(本例では幅方向に所定の間隔を隔てて2本)の可撓性の第1の固定ベルト4が設けられている。この第1の固定ベルト4は、押し波方向aの水底用敷き部材12に一端4aが連結され、扉体11の下面11dに沿って延在して、他端4bが扉体11の他端部11bに連結されている。
【0063】
第1の固定ベルト4は、扉体11の他端部11bを揺動可能に支持するようになる。第1の固定ベルト4は、扉体11が倒伏位置Dから右方向に転動した後に右回転Q〔
図2(b)参照〕し、水底用敷き部材12に接する他端部11bを支点として、押し波方向aの起立位置U1に起き上がる程度の長さとする。
【0064】
各第1の固定ベルト4と同じ位置(
図4〜
図6のように幅方向にずらせることも可。)に、可撓性の第1の引き止めベルト(第1の保持部材)6が設けられている。この第1の引き止めベルト6は、押し波方向aの水底用敷き部材12に一端6aが連結され、押し波方向aと反対方向にループ状で延在して、他端6bが扉体11の一端部11aに連結されている。
【0065】
第1の引き止めベルト6は、扉体11が倒伏位置Dから右方向に転動した後に右回転Qし、第1の固定ベルト4で押し波方向aの起立位置U1に起き上がった時、扉体11を押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持する程度の長さとする。
【0066】
なお、第1の固定ベルト4の一端4aと第1の引き止めベルト6の一端6aとを水底用敷き部材12に連結しているが、水底33に設置したアンカーブロックに連結することもできる。次述する第2の固定ベルト5の一端5aと第2の引き止めベルト7の一端7aも同様である。
【0067】
扉体11に対しては、第1の固定ベルト4と重ならないように、複数本(本例では幅方向に所定の間隔を隔てて2本)の可撓性の第2の固定ベルト5が設けられ、この第2の固定ベルト5は、引き波方向bの水底用敷き部材12に一端5aが連結され、扉体11の下面11dに沿って延在して、他端5bが扉体11の一端部11aに連結されている。
【0068】
第2の固定ベルト5は、扉体11の一端部11aを揺動可能に支持するようになる。第2の固定ベルト5は、扉体11が倒伏位置Dから左方向に転動した後に左回転R〔
図3(b)参照〕し、水底用敷き部材12に接する一端部11aを支点として、引き波方向bの起立位置U2に起き上がる程度の長さとする。
【0069】
各第2の固定ベルト5と同じ位置(
図4〜
図6のように幅方向にずらせることも可。)に、可撓性の第2の引き止めベルト(第2の保持部材)7が設けられている。この第2の引き止めベルト7は、引き波方向bの水底用敷き部材12に一端7aが連結され、引き波方向bと反対方向にループ状で延在して、他端7bが扉体11の他端部11bに連結されている。
【0070】
第2の引き止めベルト7は、扉体11が倒伏位置Dから左方向に転動した後に左回転R〔
図3(b)参照〕し、第2の固定ベルト5で引き波方向bの起立位置U2に起き上がった時、扉体11を引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持する程度の長さとする。
【0071】
各ベルト4〜7は、例えば、補強されたゴム製であることが好ましいが、可撓性の金属製であってもよい。
【0072】
第1、第2引き止めベルト6,7に代えて、扉体11を押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持するとともに、扉体11を引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持するように、扉体11に対してストッパ部材(第1、第2の保持部材)を設けることも可能である。
【0073】
ここで、本実施形態の扉体11と水底用敷き部材12とによる隙間(仰角)fと、特許文献3の扉体1と水底面2とによる隙間(仰角)fとの関係を説明する。
【0074】
図8(a)は、扉体11と水底用敷き部材12とによる隙間(仰角)fを示した側面図、
図9(a)は、扉体11の揺動限界起立角度αを示した側面図である。
【0075】
図8(b)は、扉体1と水底面2とによる隙間(仰角)fを示した側面図、
図9(b)は、扉体1の揺動限界起立角度αを示した側面図である。
【0076】
図8(a)(b)のように、扉体11と扉体1の高さTはいずれも20mであり、扉体11の最大厚さJ1は1.2m、扉体1の最大厚さJ3は2.4mである。
【0077】
水底用敷き部材12の上面12aの最大厚さJ2は1.2mであり、水底面2の上面は略水平なフラット面である。
【0078】
すなわち、水底面2の上面が略水平なフラット面である特許文献3では、隙間(仰角)fを確保するために、扉体1の最大厚さJ3は2.4mが必要となる。
【0079】
これに対して、水底用敷き部材12の上面12aが略円弧状で、最大厚さJ2が1.2mである本実施形態では、特許文献3と同じ隙間(仰角)fを確保するために、扉体11の最大厚さJ1を1.2m(特許文献3の半分)とすることができる。
【0080】
このように、略円弧状の上面12aを有する水底用敷き部材12を組み合わせた本実施形態の扉体11と、略水平なフラット面である上面を有する水底面2を組み合わせた特許文献3の扉体1とは、隙間(仰角)fがほぼ同じとなる。
【0081】
そこで、次に、本実施形態の扉体11と特許文献3の扉体1との揺動限界起立角度αの関係を説明する。ここで、揺動限界起立角度αとは、本実施形態の扉体11では、下面11dが水底用敷き部材12の略円弧状の上面12aを転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がる角度のことであり、特許文献3の扉体1では、下面1dが水底面2の略水平なフラット面である上面を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がる角度のことである。
【0082】
図9(a)のように、扉体11の倒伏位置Dでは、支点Hと重心Gは、高さHの中間位置(最大厚さJ1の位置)にある。また、扉体11の傾きは、水底用敷き部材12に対して例えば約0度である。なお、
図9(b)は扉体1を示すもので、
図9(a)の扉体11と同様であるので、説明を省略する。
【0083】
そして、押し波方向aの波力(引き波方向bの波力でも同様。)が扉体11の一端部11aと水底用敷き部材12の上面12aとの間の隙間(仰角)fに流入することで、扉体11の一端部11aには上向き、他端部11bには下向きの偶力Pが発生する。
【0084】
このとき、扉体11は、倒伏位置Dにあると、支点Hと重心Gは0°の位置にあるが、偶力Pで例えば5°傾くと、支点Hと重心Gは5°の位置に移動する。同様に、10°、15°、20°、25°、30°傾くと、支点Hと重心Gは、それぞれ10°、15°、20°、25°、30°の位置に移動する。
【0085】
この結果、扉体11は、支点Hと重心Gが徐々に他端部11bの方向に移動することで、下面11dが水底用敷き部材12の上面12aを転動しながら所定の起立角度(例えば約30度…揺動限界起立角度α)まで自然に起き上がるのである。
【0086】
そして、支点Hと重心Gが他端部11bに移動すると、この他端部11bは第1の固定ベルト4に連結されているから、扉体11は他端部11bを中心(支点Hとして)に回転するのである。
【0087】
図9(a)の本実施形態の扉体11と
図9(b)の特許文献3の扉体1とを対比すれば、隙間(仰角)fがほぼ同じとなる結果、揺動限界起立角度αもほぼ同じとなることが分かる。
【0088】
このことから、本実施形態の扉体11の最大厚さJ1は、
図9(b)の特許文献3の扉体1の最大厚さJ3と比較して、約半分に薄くできるので、扉体11の水中重量を軽くできるのである。
【0089】
前記のように構成した起伏式防波装置であれば、扉体11は、
図1または
図4のように、平常時には水底用敷き部材12の倒伏位置D(水底用敷き部材12に対して例えば約0度。以下同様)に倒れているから、船舶34の航行等に影響を与えない。この平常時の波の流れでは、扉体11は僅かに揺れ動く程度である。
【0090】
そして、
図2または
図5に示すように、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、押し波方向aの波力が扉体11の一端部11aと水底用敷き部材12との間の隙間(仰角)fに流入することで、扉体11の一端部11aには上向き、他端部11bには下向きの偶力Pが発生する。
【0091】
このとき、扉体11の下面11dと水底用敷き部材12の上面12aとが略円弧状であるから、扉体11は、支点Hと重心Gが徐々に他端部11bの方向に移動することで、下面11dが水底用敷き部材12の上面12aを転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点Hと重心Gが他端部11bに移動すると、この他端部11bは第1の固定ベルト4に連結されているから、扉体11は他端部11bを中心に回転するようになる。つまり、扉体11は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U1まで回転するようになる。
【0092】
一方、
図3または
図5に示すように、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、扉体11は水底用敷き部材12の上面12aの倒伏位置Dに倒れる。そして、引き波方向bの波力が扉体11の他端部11bと水底用敷き部材12の上面12aとの間の隙間fに流入することで、扉体11の他端部11bには上向き、一端部11aには下向きの偶力Pが発生する。
【0093】
このとき、扉体11の下面11dと水底用敷き部材12の上面12aとが略円弧状であるから、扉体11は、支点Hと重心Gが徐々に一端部11a方向に移動することで、下面11dが水底用敷き部材12の上面12aを転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点Hと重心Gが一端部11aに移動すると、この一端部11aは第2の固定ベルト5に連結されているから、扉体11は一端部11aを中心に回転するようになる。つまり、扉体11は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U2まで回転するようになる。
【0094】
したがって、
図2に示したように、押し波が発生したとき、扉体11の他端部11bは第1の固定ベルト4に連結されているから、扉体11は右方向に転動した後に他端部11bを中心に右回転Qする。そして、扉体11の一端部11aは第1の引き止めベルト6に連結されているから、扉体11は押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持されるようになる。この結果、押し波は、起立位置U1の扉体11で抑制されるようになる。
【0095】
また、
図3に示したように、押し波が終わり、ついで引き波が発生したとき、扉体11の一端部11aは第2の固定ベルト5に連結されているから、扉体11は左方向に転動した後に一端部11aを中心に左回転Rする。そして、扉体11の他端部11bは第2の引き止めベルト7に連結されているから、扉体11は引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持されるようになる。この結果、引き波は、起立位置U2の扉体11で抑制されるようになる。
【0096】
ここで、水底用敷き部材12が特許文献3の水底面2のように略水平なフラット面Kであれば、扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aと水底用敷き部材12との間に波力が流入するための隙間(仰角)fを確保するために、水底用敷き部材12から扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aまでの高さを高く設定する必要がある。これにより、扉体11の厚みが厚くなることで、扉体11の水中重量が重くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅いときは起立速度が遅くなって、起立感度が悪くなる。
【0097】
これに対して、水底用敷き部材12における扉体11の下面11dに対向する上面12aを、側面視で上向き略円弧状(若しくは略台形状)に形成しているから、扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aと水平面Kとの間の隙間(仰角)fに加えて、この水平面Kと水底用敷き部材12の上面12aとの間にも隙間(仰角)fが確保されるために、水平面Kから扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aまでの高さを高く設定する必要がなくなる。これにより、扉体11の厚みを薄くできることで、扉体11の水中重量が軽くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅くても起立速度が早くなって、起立感度がより向上するから、津波等による被害がより軽減できるようになる。
【0098】
このように、起伏式防波装置を港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口(水路)31に設置すれば、押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを抑制できるようになる。
【0099】
また、河川の河口に設置すれば、押し波が河川を遡行して上流側の堤防等から溢水するのを抑制できる。なお、河川の河口に設置した場合、引き波の対策は特に必要ないので、この場合には、第2の引き止めベルト7を予め短くしておけば、扉体11を倒伏位置D方向の適当な位置に保持しておくことができる。
【0100】
前記のように構成すれば、扉体11は、第1の固定ベルト4で扉体11の他端部11bを揺動可能に支持し、第2の固定ベルト5で扉体11の一端部11aを揺動可能に支持しているから、背景技術のような複数個のヒンジ金具やヒンジ軸が不要になるので(ヒンジレス式)、支持構造が簡単で、部品点数も少なくなる(ヒンジレスゲート)。
【0101】
また、第1の固定ベルト4は、押し波方向aの水底用敷き部材12に一端4aを連結し、他端4bを扉体11の他端部11b付近に連結している。第2の固定ベルト5は、引き波方向bの水底用敷き部材12に一端5aを連結し、他端5bを扉体11の一端部11a付近に連結している。したがって、扉体11は、第1の固定ベルト4と第2の固定ベルト5とで、倒伏位置Dにおいて、押し波方向aまたは引き波方向bの何れの方向にもずれ動かないように位置規制される。
【0102】
また、各引き止めベルト6,7は、各固定ベルト4,5と同じベルト素材を共用できるので、製造や管理が容易になる。
【0103】
さらに、扉体11の下面11dだけを下向き略円弧状若しくは略台形状に形成し、上面11cをフラット状に形成しているから(略三日月形状)、水平面Kから扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aまでの高さをより低く設定することができ、これにより、扉体11の厚みをより薄くできることで、扉体11の水中重量がより軽くなる結果、押し波(若しくは引き波)の流速が遅くても起立速度が早くなって、起立感度がより向上するようになる。
【0104】
また、扉体11は中空状であるから、製造時や搬送時は軽量であって、取扱いが容易であるとともに、設置現場で、液体(その現場の海水や川水等)を中空部13に充填すると、その場で水底用敷き部材12の上部に設置できるから、設置作業が容易になる。
【0105】
このように、扉体11は、押し波・引き波に対して無動力で自動的に起立するから、ライフライン(停電等)の影響を受けることがない。また、水底基礎地盤(水底面敷き部材12)と扉体11との取り合いに自由度があるので、地震による地盤変動の影響を受けにくい。特に水底面敷き部材12との間に流木等の異物が挟まったとしても、扉体11は、異物の上に乗り上げながらでも起立するようになる。さらに、据付けが容易で、設置工事期間が短く、船舶航行への影響が少ない。
【0106】
前記実施形態では、扉体11の下面11dを側面視で下向き略円弧状に形成し、上面11cをフラットに形成しているが(略三日月形状)、
図10(a)のように、扉体11の上下面11c,11dの双方を略円弧状に形成することもできる。
【0107】
また、
図10(c)(d)のように、扉体11の下面11d、または扉体11の下面11cと上面11cの双方を側面視で略台形状に形成することもできる。
【0108】
前記実施形態では、水底用敷き部材12の上面12aを側面視で上向き略円弧状に形成しているが、
図10(d)(e)のように、水底用敷き部材12の上面12aを側面視で略台形(傾斜)状に形成することもできる。
【0109】
前記実施形態では、水底用敷き部材12の上面12aを、押し波方向a側と引き波方向b側の双方が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成したものである。このようにすれば、扉体11の下面11dと水底用敷き部材12の上面12aと間の隙間(仰角)fが押し波時と引き波時で同じにできるから、押し波時と引き波の双方の起立感度がより向上するようになる。
【0110】
これに対して、
図15(a)のように、水底用敷き部材12の上面12aは、押し波方向a側が、側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成し、引き波方向b側が、略水平なフラット面12f’に形成することもできる。これにより、引き波方向b側の隙間(仰角)f’は、押し波a方向側の隙間(仰角)fの約半分の狭さになる。
【0111】
このようにすれば、押し波時は、所定の起立角度(揺動限界起立角度α)までの起き上がり感度は、前記実施形態と同じであるが、その後の起立速度はやや遅くなる。その反面、引き波時は、隙間(仰角)fが狭いので、所定の起立角度(揺動限界起立角度α)までの起き上がり感度は、前記実施形態の約半分に低くなるが、その後の起立速度は同じである。
【0112】
したがって、押し波時に起立した扉体11の上部を越流等して港湾内に入った海水は、引き波時に、起き上がり感度を低下させた扉体11の上方を通過して港湾外に早く排出(内水排除)されるので、港湾内の水位を早く下げることが可能になる。
【0113】
図12(b)は、
図12(a)のような略水平なフラット面12f’ではなく、上向き傾斜のフラット面12f’’としたものである。
【0114】
このようにすれば、隙間(仰角)f’’は、
図12(a)の隙間(仰角)f’よりもさらに狭くなるので、引き波時の所定の起立角度(揺動限界起立角度α)までの起き上がり感度を、
図12(a)の実施形態よりもさらに低くすることが可能になる。
【0115】
前記実施形態では、水底用敷き部材12の上面12aの全面を、側面視で上向き略円弧状(若しくは略台形状)に形成しているが、
図11(a)〜(c)のH桁タイプ(後述)ように、水底用敷き部材12の上面12aの各ベルト4〜7が位置する部分に、このベルト4〜7がそれぞれ嵌まり込み可能な凹部12bを、扉体11の揺動方向に形成することができる。なお、
図12(a)〜(e)の箱桁タイプ(後述)も同様な凹部12bを形成している。
【0116】
また、水底用敷き部材12の上面12aの凹部12bに代えて、
図14(d)(e)のように、扉体11の下面11dの各ベルト4〜7が位置する部分に、このベルト4〜7がそれぞれ嵌まり込み可能な凹部11gを扉体11の揺動方向に形成することができる。
【0117】
なお、水底用敷き部材12の上面12aと扉体11の下面11dの双方に凹部12b,11gをそれぞれ形成することも可能である。
【0118】
このように、水底用敷き部材12の上面12aと扉体11の下面11dとの少なくとも一方のベルト4〜7が位置する部分に、このベルト4〜7が嵌まり込み可能な凹部12b,11gを扉体11の揺動方向に形成すれば、扉体11が倒伏位置Dにある通常時はもちろん、扉体11が倒伏位置Dから起立位置U1,U2に起きあがる押し波・引き波の到来時にも、凹部12b,11gにベルト4〜7が嵌り込むことで、ベルト4〜7が扉体11の下面11dと水底面敷き部材12の上面12aとの間に挟み込まれない。したがって、扉体11の水中重量(扉体11の大きさにもよるが、数トン〜数10トン)がベルト4〜7に作用しないので、ベルト4〜7の損傷が防止できるようになる。
【0119】
また、
図11(a)〜(c)のH桁タイプの水底用敷き部材12のように、上面12aは、扉体11の揺動方向に、この扉体11の下面11dの一部が接触可能なレール状に形成されている構成とすることができる。
【0120】
図11(a)は凹部12bの有るH桁タイプの水底用敷き部材12の平面図、(b)は(a)のI−I線拡大断面図、(c)は変形例の(a)のI−I線拡大断面図である。
図14(a)は上面12aが上向き略円弧状の水底用敷き部材12の側面図、(b)は上面12aが上向き略台形状の水底用敷き部材12の側面図である。
【0121】
この水底用敷き部材12は、扉体11の幅Wと高さTに相当する略長方形状の土台フレーム12Aを備えている。この土台フレーム12Aが水底33に形成した凹部33a(
図4参照)の底に設置されることになる。この土台フレーム12Aの高さh1は、上面12aの最低高さh1の下端部と略同じ高さh1に設定されている。
【0122】
土台フレーム12Aには、ベルト4〜7が嵌まり込み可能な凹部12bを隔てた2本一対のH桁12Bが幅方向の左右位置にそれぞれ溶接固定されている。そして、このH桁12Bの上面12aのみを上向き略円弧状(若しくは上向き略台形状)に形成している。つまり、2本一対のH桁12Bの上部にレール状の上面12aが形成されることになる。
【0123】
土台フレーム12Aには、短辺方向の縦補強材12cと長辺方向の横補強材12dとが溶接固定され、さらに、斜め方向の斜め補強材12eが溶接固定されることで、補強されるようになっている。
【0124】
ここで、短辺方向の縦補強材12cは、土台フレーム12Aの高さh1と略同じ高さh1に設定されている。また、長辺方向の横補強材12dは、H桁12Bの上部の上面12aの最大高さh2の頂部と略同じ高さh2に設定されている。
【0125】
そして、長辺方向の横補強材12dの高さh2を高く設定することで、押し波方向aの波力と引き波方向bの波力が横補強材12dでブロックされて、上面12aの下方を素通りしにくくなるので、上向きの偶力Pが減少しにくくなる。
【0126】
このように、2本一対のH桁12Bで水底用敷き部材12の上面12aを、扉体11の下面11dの一部が接触可能なレール状に形成しているから、水底用敷き部材12に略円弧状若しくは略台形状の部分が一部でよいので、
図7のような全部とする場合に比べて、上面12aの製造コストが大幅(略1/3〜1/4程度)に低減する。また、上面12aに対する貝類(扉体11の揺動の障害となるおそれがある。)の付着量も減るので、付着防止材の塗布コストも低減する。なお、上面12aを鏡面とし、または上面12aに合成樹脂材をコーティングすれば、貝類の付着量をさらに減少させることができる。
【0127】
図11(c)のように、2本一対のH桁12Bの間を補強材12fでさらに補強することができる。この場合、補強材12fは、ベルト4〜7が凹部12bに深く入り込まないように規制する規制材としも機能するようになる。なお、凹部12bは、ベルト4〜7が引っ掛からないようなU字状に形成することが好ましい。
【0128】
図12(a)は凹部12bの有る箱桁タイプの水底用敷き部材12の平面図、(b)は(a)のI−I線拡大断面図、(c)は変形例の(a)のI−I線拡大断面図、(d)は変形例の凹部12bの有る箱桁タイプの水底用敷き部材12の(a)のI−I線拡大断面図、(e)は(d)の変形例の(a)のI−I線拡大断面図である。
【0129】
図12(b)の凹部12bの有る箱桁タイプの水底用敷き部材12は、H桁12Bの両側に補強板12gをそれぞれ溶接固定することで、2本一対の箱桁12Cとしたものである。
図12(c)は、2本一対の箱桁12Cの間を補強材12fでさらに補強したものである。箱桁タイプはH桁と比べて強度がアップする。
【0130】
図12(d)はH桁12Bを用いずに、水底用敷き部材12の上面12aとなる上部材12jと下部材12kの両側に補強板12gをそれぞれ溶接固定することで、2本一対の箱桁12Cとしたものである。
図12(e)は、2本一対の箱桁12Cの間を補強材12fでさらに補強したものである。
【0131】
図13(a)は凹部12bの無い箱桁タイプの水底用敷き部材12の平面図、(b)は(a)のI−I線拡大断面図、(c)は変形例の(a)のI−I線拡大断面図である。
【0132】
図13(a)の凹部12bの無い箱桁タイプの水底用敷き部材12は、水底用敷き部材12の上面12aとなる上部材12jと下部材12kの両側に補強板12gをそれぞれ溶接固定することで、1本の幅広な箱桁12Cとしたものである。
図13(c)は、1本の幅広な箱桁12Cの内部を補強材12gでさらに補強したものである。
【0133】
図13(a)〜(c)の水底用敷き部材12は、凹部12bを形成していないから、
図14(d)(e)に示したように、下面11dにベルト4〜7がそれぞれ嵌まり込み可能な凹部11gを形成した扉体11と組み合わせて用いることが好適である。
【0134】
図14(c)のように、水底用敷き部材12の固定桁12mは、水底33のコンクリートアンカーブロック35に、ライナー36で高さを調整しながら複数本のアンカーボルト37で固定されるようになる。
【0135】
前記実施形態では、1枚の扉体11について説明したが、
図4〜
図6のように、港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口31等の幅が広い場合には、扉体11は、その幅をカバーできるように、横並び状で複数個が配列されることになる。
【0136】
この場合、隣り合う扉体11の間に、扉体11の横方向移動を規制するガイド板14〔
図3(a)参照〕を設けることが好ましい。このガイド板14によって、横並び状の扉体11の横方向移動を確実に規制することができる。
【0137】
前記実施形態では、扉体11の中空部13内に適量の液体または固体(鉄塊等)を充填することで、扉体11を水底用敷き部材12に倒伏位置Dで設置するようにしたが、特許文献3と同様に、扉体11の中空部13に、液体を給排可能な液体用バルブと気体を給排可能な気体用バルブを設けることで、扉体11の起伏状態を制御することもできる。また、扉体11の中空部13を一端部11aと他端部11bとの間で2室に仕切って、各室の中空部に液体用バルブと気体用バルブをそれぞれ設けることで、扉体11の起伏状態を制御することもできる。さらに、扉体11の一端部11aと他端部11bにブイを取付けることで、水面上で扉体11の倒伏位置D、起立位置U1,U2を容易に確認することもできる。
【0138】
前記実施形態の起伏式防波装置は、港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口(水路)11や河川の河口等の水底に、水底用敷き部材12と扉体11を設置することを前提としたが、これらに限られるものではない。例えば、港湾や河川の防波堤等の上面(押し波や引き波で水がくれば、水底用敷き部材となる。)に設置することも可能である。また、水門、樋門、防潮堤の防潮扉等に代えて設置することも可能である。