【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明に基づき、請求項1の特徴を備える鋼製ピストンと請求項
2の特徴を備える内燃機関によって解決される。
【0010】
従って、本発明にとっては、特に高い熱膨張係数(CTE)、例えばシリンダクランクケースのアルミニウム合金のCTE又は軽金属合金のCTEにできるだけ近いCTEを有するステンレス鋼をピストンに使用することが特に重要である。ピストンは、クリアランスがあることにより、ピストンサイドフォースの変化によってシリンダボアの一方の側から他方の側へ押されるが、この場合、作動中にそのクリアランスが縮小される。そのため、本発明に基づき、少なくともピストン下部が鉄合金からなるように設けられており、この鉄合金は、13〜20
*10
−6 1/Kの範囲にある熱膨張係数(CTE)を有している。特に何も指示がない限り、ここでは、常に20℃でのCTE又は室温でのCTEを意味している。
【0011】
特に適しているステンレス鋼には、とりわけ、熱膨張係数が16〜19
*10
−6 1/Kの範囲にある鉄合金が属している。
【0012】
シリンダクランクケースに一般的なアルミニウム合金の室温でのCTEが約19〜25
*10
−6 1/Kの範囲にあることを考慮して、選択されたステンレス鋼により、軽金属製シリンダクランクケースの熱膨張は非常に適切に補正されることができる。作動温度におけるシリンダボアとピストン、又はピストンスカートとの間のクリアランスは、このことにより、適切に縮小することができる。このことは、特に、シリンダライナを鋳込んでいるか、又は摺動面をコーティングしたアルミニウム製シリンダクランクケースにも当てはまる。なぜなら、シリンダクランクケースのCTEが後者によって表面的にのみ不利な影響を受けるからである。
【0013】
この場合、ピストン下部には、ピストンスカートが含まれている。ディーゼルのピストンでは、ピンボアの部分だけ中断されている、閉じられたスカートを備えるいわゆる平滑ピストンスカートが好まれる。ガソリンエンジンのピストンの場合、ピストンスカートの仕様は様々である。高回転数に伴う重量の理由から、スカート面が比較的細いスカート形状にのみ制限される。通常の構造は、様々な幅の摺動面を備えるボックス型ピストン、窓型ピストン及び非対称ピストンである。
【0014】
選択される高いCTEをもつステンレス鋼によって、鋳鉄から作られたシリンダクランクケースの補正、もしくは鋳鉄製ライナ又は鋳鉄製シリンダライナを備えるシリンダクランクケースの補正も非常に良好に実施することができる。従って、本発明の形態には、CTEの範囲が13〜16
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−6 1/Kにある鋼製ピストンと鋳鉄からなるシリンダクランクケース又は鋳鉄製ライナを備えるシリンダクランクケースとの組み合わせが含まれている。
【0015】
本発明に基づき、高いCTE(熱膨張係数)をもつステンレス鋼は、特に好ましくは、Cr含有量が15〜26%及びNi含有量が8〜15%のステンレス鋼から選択される。ここでは、特に指示がない限り、常に重量%又は質量%で含有量を示す。特に好ましくは、Cr含有量が17〜20%の範囲にあり、Ni含有量が9〜13%の範囲にある。特に適しているのは、Ni含有量が上記の上限に近い、特に11〜13%である。
【0016】
高い熱膨張係数の他に、引張強さ及び破断点伸びの数値が大きいことも、適切なステンレス合金に要求される。ピストンスカートは、変形又は割れ目を生じることなく、サイドフォースを吸収する一方、他方ではシリンダの変形に柔軟に適合しなければならない。従って、好ましくは、引張強さが500N/mm
2より大きく、破断点伸びが35%より大きいステンレス鋼が選択される。
【0017】
特に適している高いCTEを持つステンレス鋼には、以下の主な合金成分(質量%)を有する鋼が属している。すなわち、C:0.05〜0.15;Si:最大1.0;Mn:1〜3;Cr:15〜20;Mo:最大4;Ni:8〜13、N:最大0.15、残りFeである。特に適しているのは、以下の名称又はDIN名のステンレス鋼である。すなわち、X5CrNi18−10、DIN1.14301、X2CrNi19−11、DIN1.4306、X2CrNi18−9、DIN1.4307、X2CrNiMo17−12−2又はDIN1.4404である。
【0018】
同様に、以下の主な合金成分(質量%)を備えるステンレス鋼も特に適している。すなわち、C:0.2〜0.45;Si:1.5〜1.75;Mn:0.5〜1.0;Cr:18〜22;Ni:10.5〜14;残り鉄である。特に適しているのは、以下の名称又はDIN名のステンレス鋼である。すなわち、GX40CrNiSi27−4、DIN1.4832、GX40CrNiSi22−10又はDIN1.4826である。
【0019】
本発明に基づく第1の実施形態では、鋼製ピストンが、高いCTEをもつ唯一の鉄合金から一体形成で構成されている。製造方法としては、特に、例えば低圧鋳造法などの鋳造方法が用いられる。この場合、好ましくは、適切な中子成形法によって冷却ダクトも鋳造される。
【0020】
同様に、複数の部分からなるピストンを、高いCTEをもつ同一の鉄合金又は様々な鉄合金から構成することもできる。この場合、特にこの製造バリエーションには、ピストンリング溝も含まれるピストン上部が鍛造されるという利点がある。通常、冷却用ダクトを備えるピストン上部は、鋳造よりもコストの安い鍛造によって製造することができる。従って、高いCTEを持つ鉄合金からなる鍛造された上部と、高いCTEをもつ鉄合金からなる鋳造された下部とを接合したピストンが特に好ましい。
【0021】
ピストンの構造形態及び高いCTEを備える選択された鉄合金の鋳造又は鍛造可能性に応じて、両方の部分を鍛造することもできるし、両方の部分を鋳造することもできる。
【0022】
両方の部分を接続するためには、特に溶接、誘導溶接、摩擦溶接、又はレーザー溶接などの一般的な方法を用いることができる。
【0023】
驚くべきことに、適合するCTEをもつ鋼の選択は、ピストン上部よりもピストン下部の方に決定的役割があることが示された。ピストン下部が最適な形態である場合は、それほど高くない要求をピストン上部に設定することができる。この場合、ピストン下部は、通常、上部よりも大きいか、又は長く形成されている。ピストン上部とは反対に、ピストン下部は、一般的にシールリング又はピストンリングなども取り付けられていない。周知のピストン構造の場合、ピストンは、一般にピストンスカートの部分に通される。しかし、ピストンスカート部分も、ピストン上部も通るピストンも知られている。従って、圧力損失を縮小し、騒音発生を遮断するという目的を達成するためには、ピストンが通る部分に高いCTEをもつ鉄合金を使用することが特に重要である。
【0024】
本発明に基づくもう1つの実施形態では、ピストンスカートを含むピストン下部だけが高いCTEを持つ鉄合金から形成されている。ステンレス鋼の熱伝導率が比較的少ないことは不利であり、それは燃焼室又はピストン全体の過熱を引き起こすおそれがあるからであるが、そのため、上部および下部に適合する様々な素材特性を備えた複数の部分からなるピストンを製造することもできる。この場合は、両方の部品の一方だけが高いCTEを持つ鉄合金からなる。従って、鋼製ピストンは2つ又はそれ以上の部分から構成される。この場合、燃焼室及びリングウォールを備えるピストン上部と、ピストンスカート及びコンロッドベアリングを備えるピストン下部とが区別されなければならない。
【0025】
好ましくは2つ又は複数の部分からなる実施形態では、ピストン上部が耐摩耗性の熱処理合金を有している。下部のために選択された合金鋼は、熱伝導率が比較的小さいため、ピストン上部には、好ましくはより高い熱伝導率をもつ鋼も重要である。特に適しているピストン上部の鋼は、特に、MoCr4、42CrMo4、CrMo4、31CrMoV6又は25MoCr4グループの鋼である。2つ又は複数の部分からなる実施形態でのピストン上部用の素材は、その選択が鋼だけに制限されていない。
【0026】
ピストン上部とピストン下部とは、溶接法又ははんだ付け法によって互いに接合することができる。特に好ましいのは、摩擦溶接、誘導溶接又はレーザー溶接である。
【0027】
ピストンの基本構造図を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。