特許第5859440号(P5859440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5859440-内燃機関用の鋼製ピストン 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859440
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】内燃機関用の鋼製ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20160128BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   F02F3/00 302Z
   F02F1/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-531256(P2012-531256)
(86)(22)【出願日】2010年9月3日
(65)【公表番号】特表2013-506085(P2013-506085A)
(43)【公表日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】EP2010005417
(87)【国際公開番号】WO2011038823
(87)【国際公開日】20110407
【審査請求日】2012年5月28日
【審判番号】不服2014-21270(P2014-21270/J1)
【審判請求日】2014年10月21日
(31)【優先権主張番号】102009048124.9
(32)【優先日】2009年10月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ティルマン・ハウグ
【合議体】
【審判長】 中村 達之
【審判官】 加藤 友也
【審判官】 金澤 俊郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−541590(JP,A)
【文献】 特開平7−317595(JP,A)
【文献】 特開2005−155600(JP,A)
【文献】 特開平4−2702(JP,A)
【文献】 特開平2−296075(JP,A)
【文献】 特開2003−90432(JP,A)
【文献】 特表2006−500507(JP,A)
【文献】 特許第4500259(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属合金を含み且つ熱膨張係数が19〜2510−6 1/Kの範囲のシリンダクランクケースを備える内燃機関に用いられ、燃焼室(11)及びリングウォール(5)を備えるピストン上部(12)と、ピストンスカート及びコンロッドベアリング(8)を備えるピストン下部(13)とを有する、内燃機関用の鋼製ピストンであって、
前記シリンダクランクケースは、前記鋼製ピストンを収納可能なシリンダライナを含み、
前記ピストン上部が、耐摩耗性の熱処理合金鋼からなり、前記ピストン下部が鉄合金からなり、該鉄合金は、13〜2010−6 1/Kの範囲にある熱膨張係数を有し、
前記シリンダクランクケースがアルミニウム合金からなり
少なくとも前記ピストン下部の前記鉄合金が、Cr含有量15〜26%及びNi含有量8〜15%のステンレス鋼からなる
ことを特徴とする鋼製ピストン。
【請求項2】
請求項に記載の鋼製ピストンと、前記アルミニウム合金からなるシリンダクランクケースとを装備した内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の鋼製ピストンと、鋼製ピストンを備える内燃機関と、鋼製ピストン及びシリンダクランクケースを備える内燃機関とに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン内燃機関においては、最大250barのできる限り高いピーク圧に対する要求が高まっているため、しばしば使用される軽量構造のアルミニウム製ピストンは、その性能の限界に近づきつつある。このことは、特に、ディーゼルエンジンにおいて該当する。従って、トラック分野あるいは乗用車分野でも、再び鋼製ピストンが要求される傾向にある。この場合、基本的により高い強度の鋼が利用される。
【0003】
鋼製ピストンの使用は基本的に周知であり、様々な鋼の組成及び製造方法が公知である。特許文献1から、例えば複数の部分からなる冷却ピストンの製造方法が知られている。ピストン上部は熱耐性鋼から製造され、ピストン下部は鍛造されたAFT鋼(析出硬化フェライト−パーライト鋼)から製造されている。続いて、溶接法又ははんだ付け法によって、ピストン上部の環状リブとピストン下部の支持リブとが接合又は接続される。
【0004】
特許文献2では、鋼製ピストン全体を鋳造することが提案されている。特に、以下の鋼組成(質量パーセント)は、鋳造合金として適している。C≦0.8%、Si≦3%、Mn≦3%、S≦0.2%、Ni≦3%、Cr≦6%、Cu≦6%、Nb0.01〜3%、残りFe及び不可避な不純物、又はC≦0.1〜0.8%、S≦3%、Si≦3%、Mn≦3%、S≦0.2%、Ni≦10%、Cr≦30%、Cu≦6%、Nb≦0.05〜8%、残りはFe及び不可避な不純物である。この場合、特に適切な室温における降伏点、並びに優れた高温引張強さ及び破壊強度が重要となる。
【0005】
特許文献3から、同様に内燃機関用の鋼製ピストンが知られており、これは、組成(重量%)がMn:12〜35、Al:6〜16、Si:0.3〜3、C:0.8〜1.1、Ti:0.03以内、残りはFe及び不可避な鋼トランプエレメントの低密度鉄合金からなるか、又は組成(重量%)がMn:3〜9、Si:0.3〜1、C:0.01〜0.03、Cr:15〜27、Ni:1〜3、Cu:0.2〜1、N:0.05〜0.17、残りはFe及び不可避な鋼トランプエレメントのステンレス合金からなる。
【0006】
周知の鋼製ピストンを軽金属製のシリンダクランクケースに使用する場合、鋼と軽金属の熱膨張の違いにより、特殊な問題が生じる。ピストンの下部を多少とも覆っている部分を形成するピストンスカートは、シリンダ内のピストンのリニアガイドを引き受けている。ピストンスカートは、シリンダに対する十分なクリアランスがある場合のみこの役割を実現することができる。十分なスカート長さと狭いガイドとにより、ピストンが一方のシリンダ内壁から反対側のシリンダ内壁に移動する際(ピストン二次運動)の、いわゆるピストンの傾きを小さく保っている。シリンダクランクケースに適する軽金属合金、特にアルミニウム合金は、非常に高い熱膨張係数(CTE又はα)を有しているため、内燃機関の作動時に熱膨張の顕著な相違が生じる。この場合、作動中にピストンガイドの問題が生じ、このことは、特にガタガタ音などの騒音が発生することによって判断できる。内燃機関におけるクランク機構の主要な騒音発生原因の1つであるピストンの騒音は、まず第1にピストンサイドフォースによって刺激される(ピストンスラップ)。ピストンサイドフォースが急激に変化することにより、ピストンはシリンダボアの一方の側から他方の側へと押される。エンジン冷間時及び軽金属製ピストンでは、この効果は、ピストンのガタガタ音としてはっきりと聞き取ることができる。従って、スカートによるピストンガイドの改善措置とピストンの傾きの軽減措置は、騒音に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10244513A1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1612395A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102006030699A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、軽金属製シリンダクランクケースを備える内燃機関のために、ピストンガイドを改善した鋼製ピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明に基づき、請求項1の特徴を備える鋼製ピストンと請求項の特徴を備える内燃機関によって解決される。
【0010】
従って、本発明にとっては、特に高い熱膨張係数(CTE)、例えばシリンダクランクケースのアルミニウム合金のCTE又は軽金属合金のCTEにできるだけ近いCTEを有するステンレス鋼をピストンに使用することが特に重要である。ピストンは、クリアランスがあることにより、ピストンサイドフォースの変化によってシリンダボアの一方の側から他方の側へ押されるが、この場合、作動中にそのクリアランスが縮小される。そのため、本発明に基づき、少なくともピストン下部が鉄合金からなるように設けられており、この鉄合金は、13〜2010−6 1/Kの範囲にある熱膨張係数(CTE)を有している。特に何も指示がない限り、ここでは、常に20℃でのCTE又は室温でのCTEを意味している。
【0011】
特に適しているステンレス鋼には、とりわけ、熱膨張係数が16〜1910−6 1/Kの範囲にある鉄合金が属している。
【0012】
シリンダクランクケースに一般的なアルミニウム合金の室温でのCTEが約19〜2510−6 1/Kの範囲にあることを考慮して、選択されたステンレス鋼により、軽金属製シリンダクランクケースの熱膨張は非常に適切に補正されることができる。作動温度におけるシリンダボアとピストン、又はピストンスカートとの間のクリアランスは、このことにより、適切に縮小することができる。このことは、特に、シリンダライナを鋳込んでいるか、又は摺動面をコーティングしたアルミニウム製シリンダクランクケースにも当てはまる。なぜなら、シリンダクランクケースのCTEが後者によって表面的にのみ不利な影響を受けるからである。
【0013】
この場合、ピストン下部には、ピストンスカートが含まれている。ディーゼルのピストンでは、ピンボアの部分だけ中断されている、閉じられたスカートを備えるいわゆる平滑ピストンスカートが好まれる。ガソリンエンジンのピストンの場合、ピストンスカートの仕様は様々である。高回転数に伴う重量の理由から、スカート面が比較的細いスカート形状にのみ制限される。通常の構造は、様々な幅の摺動面を備えるボックス型ピストン、窓型ピストン及び非対称ピストンである。
【0014】
選択される高いCTEをもつステンレス鋼によって、鋳鉄から作られたシリンダクランクケースの補正、もしくは鋳鉄製ライナ又は鋳鉄製シリンダライナを備えるシリンダクランクケースの補正も非常に良好に実施することができる。従って、本発明の形態には、CTEの範囲が13〜1610−6 1/Kにある鋼製ピストンと鋳鉄からなるシリンダクランクケース又は鋳鉄製ライナを備えるシリンダクランクケースとの組み合わせが含まれている。
【0015】
本発明に基づき、高いCTE(熱膨張係数)をもつステンレス鋼は、特に好ましくは、Cr含有量が15〜26%及びNi含有量が8〜15%のステンレス鋼から選択される。ここでは、特に指示がない限り、常に重量%又は質量%で含有量を示す。特に好ましくは、Cr含有量が17〜20%の範囲にあり、Ni含有量が9〜13%の範囲にある。特に適しているのは、Ni含有量が上記の上限に近い、特に11〜13%である。
【0016】
高い熱膨張係数の他に、引張強さ及び破断点伸びの数値が大きいことも、適切なステンレス合金に要求される。ピストンスカートは、変形又は割れ目を生じることなく、サイドフォースを吸収する一方、他方ではシリンダの変形に柔軟に適合しなければならない。従って、好ましくは、引張強さが500N/mmより大きく、破断点伸びが35%より大きいステンレス鋼が選択される。
【0017】
特に適している高いCTEを持つステンレス鋼には、以下の主な合金成分(質量%)を有する鋼が属している。すなわち、C:0.05〜0.15;Si:最大1.0;Mn:1〜3;Cr:15〜20;Mo:最大4;Ni:8〜13、N:最大0.15、残りFeである。特に適しているのは、以下の名称又はDIN名のステンレス鋼である。すなわち、X5CrNi18−10、DIN1.14301、X2CrNi19−11、DIN1.4306、X2CrNi18−9、DIN1.4307、X2CrNiMo17−12−2又はDIN1.4404である。
【0018】
同様に、以下の主な合金成分(質量%)を備えるステンレス鋼も特に適している。すなわち、C:0.2〜0.45;Si:1.5〜1.75;Mn:0.5〜1.0;Cr:18〜22;Ni:10.5〜14;残り鉄である。特に適しているのは、以下の名称又はDIN名のステンレス鋼である。すなわち、GX40CrNiSi27−4、DIN1.4832、GX40CrNiSi22−10又はDIN1.4826である。
【0019】
本発明に基づく第1の実施形態では、鋼製ピストンが、高いCTEをもつ唯一の鉄合金から一体形成で構成されている。製造方法としては、特に、例えば低圧鋳造法などの鋳造方法が用いられる。この場合、好ましくは、適切な中子成形法によって冷却ダクトも鋳造される。
【0020】
同様に、複数の部分からなるピストンを、高いCTEをもつ同一の鉄合金又は様々な鉄合金から構成することもできる。この場合、特にこの製造バリエーションには、ピストンリング溝も含まれるピストン上部が鍛造されるという利点がある。通常、冷却用ダクトを備えるピストン上部は、鋳造よりもコストの安い鍛造によって製造することができる。従って、高いCTEを持つ鉄合金からなる鍛造された上部と、高いCTEをもつ鉄合金からなる鋳造された下部とを接合したピストンが特に好ましい。
【0021】
ピストンの構造形態及び高いCTEを備える選択された鉄合金の鋳造又は鍛造可能性に応じて、両方の部分を鍛造することもできるし、両方の部分を鋳造することもできる。
【0022】
両方の部分を接続するためには、特に溶接、誘導溶接、摩擦溶接、又はレーザー溶接などの一般的な方法を用いることができる。
【0023】
驚くべきことに、適合するCTEをもつ鋼の選択は、ピストン上部よりもピストン下部の方に決定的役割があることが示された。ピストン下部が最適な形態である場合は、それほど高くない要求をピストン上部に設定することができる。この場合、ピストン下部は、通常、上部よりも大きいか、又は長く形成されている。ピストン上部とは反対に、ピストン下部は、一般的にシールリング又はピストンリングなども取り付けられていない。周知のピストン構造の場合、ピストンは、一般にピストンスカートの部分に通される。しかし、ピストンスカート部分も、ピストン上部も通るピストンも知られている。従って、圧力損失を縮小し、騒音発生を遮断するという目的を達成するためには、ピストンが通る部分に高いCTEをもつ鉄合金を使用することが特に重要である。
【0024】
本発明に基づくもう1つの実施形態では、ピストンスカートを含むピストン下部だけが高いCTEを持つ鉄合金から形成されている。ステンレス鋼の熱伝導率が比較的少ないことは不利であり、それは燃焼室又はピストン全体の過熱を引き起こすおそれがあるからであるが、そのため、上部および下部に適合する様々な素材特性を備えた複数の部分からなるピストンを製造することもできる。この場合は、両方の部品の一方だけが高いCTEを持つ鉄合金からなる。従って、鋼製ピストンは2つ又はそれ以上の部分から構成される。この場合、燃焼室及びリングウォールを備えるピストン上部と、ピストンスカート及びコンロッドベアリングを備えるピストン下部とが区別されなければならない。
【0025】
好ましくは2つ又は複数の部分からなる実施形態では、ピストン上部が耐摩耗性の熱処理合金を有している。下部のために選択された合金鋼は、熱伝導率が比較的小さいため、ピストン上部には、好ましくはより高い熱伝導率をもつ鋼も重要である。特に適しているピストン上部の鋼は、特に、MoCr4、42CrMo4、CrMo4、31CrMoV6又は25MoCr4グループの鋼である。2つ又は複数の部分からなる実施形態でのピストン上部用の素材は、その選択が鋼だけに制限されていない。
【0026】
ピストン上部とピストン下部とは、溶接法又ははんだ付け法によって互いに接合することができる。特に好ましいのは、摩擦溶接、誘導溶接又はレーザー溶接である。
【0027】
ピストンの基本構造図を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】上部(12)及び下部(13)、リングウォール(5)、冷却用ダクト(4)、冷却用ダクトの開口部(7)、コンロッドベアリング(8)、コンロッドベアリング壁(9)、内燃室(11)を備えるピストン(1)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この場合、複数の部分からなるピストンの製造バリエーションは以下のとおりである。
1)25MoCr4などの鍛鋼からピストン上部を鍛造によって製造する。この場合、燃焼室(11)の部分における必要な機械的及び熱的特性が確保される。
2)暖機運転においてピストンスカートとシリンダボアとの間のクリアランスをできる限り小さく保つため、コンロッドベアリング(8)及びCTEが13〜2010−6 1/Kのステンレス鋼からなるピストンスカートを備えたピストン下部(13)を鋳造によって製造する。
3)両方のピストン部分を溶接、特に誘導溶接又は摩擦溶接によって接続する。
【0030】
ピストン下部の製造方法としては、低圧鋳造法が特に好まれる。
【0031】
本発明のもう1つの実施形態では、シリンダクランクケースが軽金属から作られている鋼製ピストンを装備した内燃機関が設けられている。この場合、例えば鋳込まれたシリンダライナ又は摩耗保護層など、その他の材料によってシリンダボアが形成されているシリンダクランクケースも含まれている。この鋼製ピストンは、少なくともその下部が、14〜2010−6 1/Kの高いCTEをもつステンレス鋼から形成されている。軽金属合金としては、特にアルミニウム合金が使用される。
【0032】
ライナボディは、好ましくは高強度のアルミニウム合金又は強化剤によって強化されているアルミニウム合金からなる。特に適するアルミニウム合金には、特にAlSi5〜AlSi11に列する共晶及び亞共晶Al−Si系合金が属する。この場合、特に好ましいのは、例えばAlSi11、AlSi10又はALSi9など、Si含有量のより高いAl合金である。なぜなら、一般的にはSi含有量が上昇するに従ってCTEが僅かに低下するからである。
【0033】
シリンダクランクケースのシリンダボアは、この場合、摺動可能なAl−Si系合金、金属複合材料、摩耗保護層又は鋳鉄によって周知の用法で形成することができる。これらは、部分的に、独立したシリンダライナ又はライナパッケージとしてあらかじめ製造し、軽金属のライナボディに鋳込むことができる。例えば、シリンダクランクケースをアルミニウム合金又は必要に応じてマグネシウム合金から製造し、一方で、シリンダ摺動面を、アルミニウム合金、特にAl−Si系合金又は鋳鉄合金からなるシリンダライナを鋳込むことによって形成することができる。金属複合材料とは、金属マトリックス、特にアルミニウム合金からなる材料、及び剛性の高い材料又は耐摩耗性材料の分散相、特にケイ素粒子、セラミック粒子又はセラミック繊維からなる材料を意味している。適合する金属複合材料は、例えば、Silitec(登録商標)又はLokasil(登録商標)の名前で知られている。
【0034】
特に好ましいのは、シリンダクランクケースのシリンダボアが、シリンダライナ又は直接ライナボディの基本材料に熱被覆を施した摩耗保護層によって形成されることである。特に有利であるのは、独立したシリンダライナの製造が、このことによって構造的に不要になる場合である。この方法では、鋼製ピストンのCTEをライナボディ又はシリンダクランクケースの軽金属合金に合わせることが非常に重要である。なぜなら、ピストンの反対側にあるのは、摺動パートナーとして、薄い摩耗保護層又はコーティングであり、いわゆるソリッドなシリンダライナではないからである。
【0035】
特に適合するものとして、ここでは、鉄合金ベースへのAWS(アークワイヤ溶射)法による熱被覆が挙げられる。好ましいのは、この熱被覆が、Al−Si系合金からなるシリンダボアの内壁に直接塗布されることである。
【0036】
モノリス構造のシリンダクランクケースは、この場合、例えば過共晶AlSi合金、例えばAlSi17Cu4Mgなどから製造される。クランクケース全体は、好ましくは、低圧ダイカスト法で製造される。経済的観点から、亞共晶合金、特にSi<11%のAl−Si系合金から製造されているクランクケースを使用する。ダイカスト鋳物が特に有利である。
【符号の説明】
【0037】
1 ピストン
4 冷却用ダクト
5 リングウォール
7 冷却用ダクトの開口部
8 コンロッドベアリング
9 コンロッドベアリング壁
11 内燃室
12 上部
13 下部


図1