特許第5859710号(P5859710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

特許5859710加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法
<>
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000005
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000006
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000007
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000008
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000009
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000010
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000011
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000012
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000013
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000014
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000015
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000016
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000017
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000018
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000019
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000020
  • 特許5859710-加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859710
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20160128BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20160128BHJP
   G01N 33/20 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   G01N3/00 R
   G01N17/00
   G01N33/20 N
【請求項の数】16
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-512418(P2015-512418)
(86)(22)【出願日】2013年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2013078957
(87)【国際公開番号】WO2015059815
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2015年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀高
(72)【発明者】
【氏名】松村 栄郎
(72)【発明者】
【氏名】森下 啓司
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−139470(JP,A)
【文献】 特許第4054834(JP,B2)
【文献】 社団法人日本機械学会,動力プラント・構造物の余寿命評価技術,日本,技報堂出版株式会社/長 祥隆,1992年 4月10日,1版1刷,62〜69,196〜207頁
【文献】 野中 勇 他,202 ボイラ機器におけるクリープ疲労損傷の形態と評価法,学術講演会講演論文集,1996年,45,37-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
G01N 17/00 − 17/04
G01N 33/20
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法であって、
加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
前記評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、
前記評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、
得られたボイドの個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、
前記評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、
得られた最大亀裂長さと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂長さを求め、
第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする、検量線の作成方法。
【請求項2】
加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法であって、
加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
前記評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、
前記評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、
得られたボイドの個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、
前記評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、
得られた結晶粒の数と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求め、
第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする、検量線の作成方法。
【請求項3】
前記評価範囲を、第2製品の表面において亀裂が生じやすい箇所に設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の検量線の作成方法。
【請求項4】
所定の割合が半分であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の検量線作成方法。
【請求項5】
第1製品および第2製品が、中空管であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の検量線作成方法。
【請求項6】
第1製品および第2製品が、曲がり部分を有するボイラ用配管であることを特徴とする、請求項に記載の検量線作成方法。
【請求項7】
前記加圧が内圧を加えることにより行われることを特徴とする、請求項またはに記載の検量線作成方法。
【請求項8】
第2製品として、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用い、
前記少なくとも2種類の製品のそれぞれについて求められた、ボイドの個数密度、最大亀裂長さ、および/または、最大亀裂がまたがる結晶粒の数に基づいて、前記検量線を作成することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の検量線作成方法。
【請求項9】
前記少なくとも2種類の製品の寿命が、最も長い製品の寿命を基準として他の製品の寿命が25%以内の差であることを特徴とする、請求項に記載の検量線作成方法。
【請求項10】
加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法であって、
前記製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
前記評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、
前記評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、
得られたボイドの個数密度から前記製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、
前記評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、
得られた最大亀裂長さから前記製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂長さを求め、
前記製品がベイナイト組織を有することを特徴とする、クリープ余寿命予測方法。
【請求項11】
加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法であって、
前記製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
前記評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、
前記評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、
得られたボイドの個数密度から前記製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
前記評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、
前記評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、
得られた結晶粒の数から前記製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求め、
前記製品がベイナイト組織を有することを特徴とする、クリープ余寿命予測方法。
【請求項12】
前記評価範囲を、前記製品の表面において亀裂が生じやすい箇所に設定することを特徴とする、請求項10または11に記載のクリープ余寿命予測方法。
【請求項13】
所定の割合が半分であることを特徴とする、請求項12に記載のクリープ余寿命予測方法。
【請求項14】
前記製品が中空管であることを特徴とする、請求項1013のいずれか1項に記載のクリープ余寿命の予測方法。
【請求項15】
前記製品が曲がり部分を有するボイラ用配管であることを特徴とする、請求項14に記載のクリープ余寿命の予測方法。
【請求項16】
前記加圧が前記製品に内圧を加えることにより行われることを特徴とする、請求項14または15に記載のクリープ余寿命の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備や原子力発電設備等において用いられる機械部品は、長期間に渡って高温・高圧条件におかれることから、徐々に塑性変形を起こし、クリープ寿命に達すると破断してしまう。従って、火力発電設備や原子力発電設備を安全かつ経済的に運転するためには、用いられている機械部品のクリープ余寿命を的確に予測することによって、最適な時期に機械部品の交換を行うことが求められる。
【0003】
このような機械部品に使用されている耐熱鋼のクリープ余寿命を予測する方法としては、例えば特開昭63−235861号公報が示すように、実際に稼動している火力発電設備や原子力発電設備の機械部品の耐熱鋼から試験片を切り出して、クリープ破断試験を行い、その破断時間から余寿命を予測する方法が知られているが、この方法では、実際に稼動している設備から試験片を切り出して長時間に渡って試験をする必要があり、煩雑である。
この他、目視検査、及び、レプリカ法によるクリープボイドを検出する方法などが知られており、例えば、クリープボイドを検出する方法の一種として、最大ボイド粒界占有率(Mパラメータ)を使用する方法が、例えば国際公報WO02/014835号公報により報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法は、加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイド個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、得られた最大亀裂長さと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂長さを求め、
第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法は、加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、得られた結晶粒の数と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求め、
第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴としても良い。
【0007】
評価範囲を、第2製品の表面において亀裂が生じやすい箇所に設定することが好ましい。
【0009】
第1製品および第2製品が中空管であることが好ましく、例えば、曲がり部分を有するボイラ用配管であっても良い。これらの場合に、加圧は内圧であることが好ましい。
【0010】
第2製品として、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用い、これら少なくとも2種類の製品のそれぞれについて求められた、ボイドの個数密度、最大亀裂長さ、および/または、最大亀裂がまたがる結晶粒の数に基づいて、検量線を作成しても良い。この場合、少なくとも2種類の製品の寿命が、最も長い製品の寿命を基準として他の製品の寿命が25%以内の差であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度から製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、得られた最大亀裂長さから製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂長さを求め、
製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度から製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、得られた結晶粒の数から製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
最大亀裂が寸断されている場合に、寸断されている各箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、最大亀裂は寸断されていないものとみなして、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求め、
製品がベイナイト組織を有することを特徴としても良い。
【0013】
評価範囲を、製品の表面において亀裂が生じやすい箇所に設定することが好ましい。
【0015】
製品が中空管であることが好ましく、例えば、曲がり部分を有するボイラ用配管であっても良い。これらの場合に、加圧は製品に内圧を加えることにより行われるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】亀裂が生じたベイナイト組織を有する製品の模式図である。
図2】試験2における、試料の損傷率が0の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図3】試験1における、試料の損傷率が0の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図4】試験1における、試料の損傷率が0.12の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図5】試験1における、試料の損傷率が0.19の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図6】試験1における、試料の損傷率が0.26の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図7】試験1における、試料の損傷率が0.50の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図8】試験1における、試料の損傷率が0.70の時の、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図9】一実施形態における、ボイド個数密度と試料の損傷率との関係を示すグラフである。
図10】試験1における試料の損傷率が0.76の時の、(a)50倍、(b)100倍、及び、(c)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図11】試験1における試料の損傷率が0.85の時の、(a)50倍、(b)100倍、及び、(c)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図12】試験1における試料の損傷率が1.00の時の、(a)10倍、(b)50倍、(c)100倍、及び、(d)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図13】試験2における試料の損傷率が0.70の時の、(a)100倍、及び、(b)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図14】試験2における試料の損傷率が0.98の時の、(a)50倍、(b)100倍、及び、(c)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図15】試験2における試料の損傷率が1.00の時の、(a)10倍、(b)50倍、(c)100倍、及び、(d)400倍の倍率で行った、SEMによる組織検査の結果を示す図である。
図16】一実施形態における、(a)損傷率が0〜1.0、及び、(b)損傷率が0.7〜1.0での、最大亀裂長さと試料の損傷率との関係を表すグラフである。
図17】一実施形態における、拡張Mパラメータと試料の損傷率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0019】
従来、フェライト、オーステナイト及びベイナイトに代表される母材は、加熱及び加圧により劣化しても、ボイドや亀裂はほとんど生じないと考えられてきた。このため、ベイナイト組織を有する製品のクリープ余寿命を、ボイドや亀裂を検出することによって予測することはなかった。
しかし、本発明者等は、ベイナイト組織を有する製品を加熱及び加圧すると、劣化に伴ってボイドが生じ、さらに、劣化が進行するにつれてボイドが亀裂へと変化することを発見した。加えて、製品の表面に亀裂が生じていない時にはボイドに、そして、製品の表面に亀裂が生じている時には、製品に生じた亀裂のうち最大の長さを有する亀裂に着目することによって、ベイナイト組織を有する製品の余寿命を予測できることを見出した。本発明は、これらの発見に基づいて、完成されたものである。
【0020】
===クリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線の作成方法===
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法は、加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、得られた最大亀裂長さと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。
上述のように、ベイナイト組織を有する製品は、加熱及び加圧されると劣化に伴ってボイドが生じ、さらに、劣化が進行するにつれてボイドが亀裂へと変化するが、製品の表面に亀裂が生じているか否かに応じて、ボイドに基づいて検量線を作成するか、または、最大亀裂長さに基づいて検量線を作成するかを使い分けることによって、ベイナイト組織を有する製品の余寿命を、余寿命の値に関係なく精度良く予測することができる。
【0021】
第1製品及び第2製品は、ベイナイト組織を有し、かつ、加熱及び加圧によってクリープ変形を生じる材料から構成されている。このような材料として、例えば、鋳鋼が挙げられるが、これに限定されない。第1製品及び第2製品は、同じ材料から構成されていることが好ましい。
第1製品及び第2製品の形は、特に限定されず、例えば、中空管、板、または、棒であることができるが、中空管であることが好ましい。中空管の断面は、どのような形であっても良く、例えば、円形、楕円形、または、多角形であることができるが、中空管の強度を考慮に入れれば、角を有さない円形または楕円形であることが好ましく、円形であることがより好ましい。
このような中空管として、例えば、曲がり部分を有するボイラ用配管が挙げられる。ボイラ用配管は、従来は、フェライト組織またはパーライト組織を有すると考えられていたため、フェライト組織またはパーライト組織を有する製品のクリープ余寿命を予測する方法に従って、そのクリープ余寿命が予測されてきた。しかし、本発明者等は、ボイラ用配管の曲がり部分を作成する際のゆっくりとした冷却に伴い、この曲がり部分がベイナイト組織を有するように変化することを発見した。従って、本発明に係る検量線作成方法によって作成した検量線を用いて、曲がり部分を有するボイラ用配管のクリープ余寿命を予測すれば、このボイラ用配管のクリープ余寿命を精度良く予測することが可能となる。
なお、第1製品の形と第2製品の形とは、同じであっても異なっていても良いが、同じまたは相似形であることが好ましく、同じであることがより好ましい。
【0022】
第1製品及び第2製品は、それぞれ、一定の高温、及び、常圧よりも高い一定の圧力の条件下に置くことにより劣化した製品である。
温度の範囲は、各製品がベイナイト組織を有する限り特に限定されないが、例えば、210℃〜550℃の範囲であっても良く、350℃〜550℃の範囲であることが好ましい。第1製品の加熱温度と、第2製品の加熱温度とは、同じであっても異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
圧力の範囲は、常圧(0.1MPa)よりも高ければ特に限定されないが、例えば、0.2MPa〜1000MPaであっても良く、0.3MPa〜500MPaであることが好ましく、0.5MPa〜300MPaであることがより好ましい。第1製品に加えられた圧力と、第2製品に加えられた圧力とは、同じであっても異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
製品に圧力を加える方法は、特に限定されず、外圧を加えても良く、内圧を加えても良いが、各製品が中空管である場合には内圧を加えることが好ましい。第2製品に内圧を加える場合には、内圧クリープ試験により第2製品を劣化させることが好ましい。内圧クリープ試験は、高温炉中で中空管に内圧を加え、必要に応じて中空管をクリープ破断させることによって、中空管の寿命を測定する方法である。内圧クリープ試験は、中空管そのものを試験対象とできるため、例えば中空管をボイラの配管として用いた場合に生じる、中空管の外表面および内表面の酸化物など変質層の影響を含めて試験できる点で優れている。さらに、ボイラで実際に用いられる場合と同様に、内圧による応力を中空管に加えることから、ボイラ用配管の寿命を精度よく測定することが可能である。
【0023】
評価範囲の設定は、第2製品の表面において、任意の広さを有する任意の箇所を選択し設定することができる。なお、広さは任意であるが、例えば、0.3mm〜1.0mmの範囲内であっても良い。また、選択箇所は任意であるが、第2製品の表面において亀裂が生じやすい箇所であることが好ましく、当業者であれば、このような箇所を、経験則や計算から求めることができる。
本発明に係る検量線作成方法によれば、評価範囲を任意に設定しても、ベイナイト組織を有する製品に最大亀裂長さを適用することによって、設定の仕方に依存する誤差が極めて少ない検量線を作成できるという有利な効果を奏する。従って、このようにして作成された検量線を用いれば、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を、精度良く予測することができる。
【0024】
設定した評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって組織観察を行うことによって判定しても良い。
【0025】
評価範囲内に亀裂が生じていない場合には、第2製品の表面に生じたボイドに着目して、検量線を作成する。
評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えば、評価範囲内のボイドの個数を求めた後に、得られたボイド個数を評価範囲の面積で割ることによって求めることができる。これは、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて組織観察を行うことによって求めても良い。
【0026】
求めたボイド個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成することによって、第1製品に亀裂が生じていない時の、第1製品のクリープ余寿命を予測するための検量線とすることができる。
製品の損傷率とは、その製品の寿命に対して、寿命を決定するのと同じ加熱条件と同じ加圧条件の下でどれだけの時間が経過したのかを表す割合である。ここで、製品の寿命とは、一定の加熱及び一定の加圧によって、その製品が破断するのに要する時間である。製品の寿命は、公知の方法で求めることができ、例えば、その製品と同じ材料から作られた同一構造の製品を、実際に壊れるまで一定に加熱及び加圧することによって測定することができる。
例えば、ある製品の寿命が10000時間であり、寿命を決定するのと同じ加熱条件及び同じ加圧条件の下での経過時間が8000時間である場合には、損傷率は、8000÷10000=0.80と求めることができる。逆に、ある製品の寿命が10000であり、損傷率が0.80の場合には、寿命を決定するのと同じ加熱条件と同じ加圧条件の下での、その製品の余寿命は、10000x0.80=2000時間と求めることができる。なお、寿命を決定する条件が複数であった場合、余寿命を予測する場合の加熱条件及び加圧条件は、いずれか一つの条件に一致していれば良い。
【0027】
評価範囲内に亀裂が生じている場合には、第2製品の表面に生じた最大亀裂に着目して、検量線を作成する。最大亀裂とは、評価範囲内において、加熱及び加圧による劣化に伴って製品に生じた亀裂のうち、最長の長さを有する亀裂をいう。
亀裂が寸断されている場合には、寸断されている箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、これら両亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなして、亀裂の長さを求めることが好ましい。本発明者等は、亀裂が途中で寸断されている場合において、寸断されている箇所が今後亀裂になるか否かは、この寸断箇所が隣接している両亀裂のうち長い方の亀裂から強い影響を受けることを見出した。さらに、長い方の長さに対して寸断箇所の長さが所定の割合以下である場合には、この寸断箇所が今後亀裂になりやすいと評価できることを見出した。これらの発見に基づき、寸断箇所を上記のようにみなすことによって、第1製品のクリープ余寿命を精度良く予測できる検量線を作成することが可能となる。所定の割合は、例えば、半分であることが好ましく、4割であることがより好ましく、3割であることがさらに好ましい。
【0028】
亀裂の長さとは、亀裂の両端を結んだ直線の長さであり、また、寸断されている箇所の長さとは、寸断されている箇所とこの寸断箇所が隣接する両亀裂とが作る2つの交点間の直線の長さである。
亀裂の長さの求め方を、図1を用いて具体的に説明する。ベイナイト組織を有する製品100において、亀裂10(図1中に太い線で記載)が複数の結晶粒1に沿って生じている。亀裂10は途中で寸断されているが、寸断されている箇所の長さ3が、この寸断箇所が隣接する両亀裂のうちの長い方の長さ4の半分以下であることから、亀裂10は寸断箇所も含めて一つの亀裂であるとみなす。この結果、亀裂10の長さは亀裂長さ2であると求まる。
亀裂の長さを測定する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、走査型電子顕微鏡によって製品の表面の組織観察を行うことによって測定しても良い。
【0029】
このようにして求めた第2製品の最大亀裂長さと損傷率との関係を表す検量線を作成することによって、第1製品において亀裂が生じている時の、第1製品のクリープ余寿命を予測するための検量線とすることができる。
【0030】
また、本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法は、
加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、得られた結晶粒の数と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とをさらに含み、第1製品および第2製品がベイナイト組織を有することを特徴としても良い。
即ち、上述した方法において、最大亀裂長さを求める代わりに最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求め、さらに、最大亀裂長さと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する代わりに、最大亀裂がまたがる結晶粒の数と第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する。
【0031】
亀裂がまたがる結晶粒の数とは、亀裂が走る結晶粒界の面または辺の数をいう。亀裂が寸断されている場合には、寸断されている箇所の長さが、その寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さに対して所定の割合以下であれば、これら両亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなして、亀裂がまたがる結晶粒の数を求めることが好ましい。このようにみなすことによって、第1製品のクリープ余寿命を精度良く予測できる検量線とすることができる。所定の割合は、例えば、半分であることが好ましく、4割であることがより好ましく、3割であることがさらに好ましい。
亀裂がまたがる結晶粒の数の求め方を、図1を用いて具体的に説明する。ベイナイト組織を有する製品100において、亀裂10(図1中に太い線で記載)が複数の結晶粒1に沿って生じている。亀裂10は途中で寸断されているが、寸断されている箇所の長さ3が、この寸断箇所が隣接する両亀裂のうちの長い方の長さ4の半分以下であることから、亀裂10は寸断箇所も含めて一つの亀裂であるとみなす。この結果、亀裂10がまたがる結晶粒の数は6であると求まる。
【0032】
亀裂がまたがる結晶粒の数を測定する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、走査型電子顕微鏡によって製品の表面の組織観察を行うことによって測定しても良い。
本発明に係る検量線作成方法によれば、ベイナイト組織を有する製品の余寿命の予測するにあたって、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を適用することによって、評価範囲を任意に設定しても、設定の仕方に依存する誤差が極めて少ない検量線を作成できるという有利な効果を奏する。
【0033】
このようにして得られた最大亀裂がまたがる結晶粒の数と、第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成することによって、第1製品に亀裂が生じていない時の、第1製品のクリープ余寿命を予測するための検量線とすることができる。
【0034】
上述した全ての方法において、第2製品として、1種類の製品のみを用いても良く、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用いても良い。この場合、これら2種類の製品のそれぞれについて、ボイド個数密度、最大亀裂長さ、および/または、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を適宜求め、求めた全てのボイド個数密度、最大亀裂長さ、および/または、最大亀裂がまたがる結晶粒の数を用いて第2製品の損傷率との関係を求めることによって、検量線を作成する。加熱加圧条件が異なる少なくとも2種類の製品を用いて検量線を作成することによって、検量線の精度を向上させることができる。
加熱加圧条件が異なる少なくとも2種類の製品を用いる場合、これら製品の寿命が、同程度であることが好ましい。同程度とは、2種類以上の製品の寿命が、最も長い製品の寿命を基準として他の製品の寿命が25%以内の差であることが好ましく、20%以内の差であることがより好ましく、10%以内の差であることがさらに好ましい。当業者であれば、2種類以上の製品の寿命が同程度となるように、各製品に加える温度と圧力とを適切に設定することができる。
例えば、本願の実施例1及び実施例3では、550℃で加熱し145MPaで加圧した製品と、525℃で加熱し240MPaで加圧した製品との2種類の製品を用い、これらに共通する関係として、図9に示す近似曲線を、ボイド個数密度と第2製品の損傷率との関係を表す検量線として得た。また、図16に示す近似曲線を、最大亀裂長さと第2製品の損傷率との関係を表す検量線として得、図17に示す近似曲線を、最大亀裂がまたがる結晶粒の数と第2製品の損傷率との関係を表す検量線として得た。
【0035】
このようにして作成した検量線を用いて、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測することができる。
【0036】
===クリープ余寿命を予測する方法==
本発明に係る加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、亀裂が生じているか否かを判定する工程とを含み、評価範囲内において、亀裂が生じていない場合には、評価範囲内において、ボイドの個数密度を求める工程と、得られたボイドの個数密度から前記製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、
評価範囲内において、亀裂が生じている場合には、評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、得られた最大亀裂長さから製品の損傷率を求める工程とをさらに含み、製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。
例えば、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測するには、以下のようにして行う。
まず、第1製品の表面において、任意の評価範囲を設定する。次いで、この評価範囲内に亀裂が生じているか否かを判定する。亀裂が生じていない場合には、第1製品の表面に存在するボイドに基づいてクリープ余寿命を予測する。即ち、まず、評価範囲内における、ボイドの個数密度を求め、得られたボイドの個数密度を、上述の方法によって作成した検量線のボイド個数密度に代入することによって、対応する損傷率を得ることができる。例えば、対応する損傷率が0.40であると求まった場合には、第1製品の余寿命は、これまでに加熱及び加圧した時間の1.5倍であると予測することができる。
また、もし、評価範囲内に亀裂が生じている場合には、第1製品の表面に生じている最大亀裂長さに基づいてクリープ余寿命を予測する。即ち、まず、評価範囲内における、第1製品に生じた最大亀裂の長さを求める。次いで、得られた最大亀裂長さを、上述の方法によって作成した検量線の最大亀裂長さに挿入することによって、対応する製品の損傷率を求めることができる。例えば、対応する損傷率が0.80であると求まった場合には、第1製品の余寿命は、これまでに加熱及び加圧した時間の25%であると予測することができる。
【0037】
また、本発明に係る加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、評価範囲内に亀裂が生じている場合には、「評価範囲内において生じた最大亀裂の長さを求める工程と、得られた最大亀裂長さから製品の損傷率を求める工程とをさらに含む」代わりに、「評価範囲内において生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める工程と、得られた結晶粒の数からその製品の損傷率を求める工程とをさらに含む」ことを特徴としても良い。
この場合、例えば、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測するには、以下のようにして行う。まず、第1製品に生じた最大亀裂がまたがる結晶粒の数を求める。次いで、得られた結晶粒の数を、上述の方法によって作成した検量線における、最大亀裂がまたがる結晶粒の数に挿入する。これにより、対応する製品の損傷率を求めることができる。
【0038】
これら本発明に係る「クリープ余寿命を予測する方法」は、上記「クリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線の作成方法」を参照しながら、当業者であれば、適宜適切に実施することができる。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
クロムモリブデン鉄鋼鋼材から作られたベイナイト組織を有する円筒管(STPA22、外径φ56.5mm、内径47.5mm、長さ35.0mm)を試料として、内圧クリープ試験を行った。1つの試料には、温度550℃の条件下で145MPaの内圧を加え(試験1)、別の試料には、温度525℃の条件下で240MPaの内圧を加えた(試験2)。なお、試験1における試料の寿命と、試験2における試料の寿命とは、試験1における試料に対して、試験2における試料の寿命は約23%短く、同程度であった。
【0040】
試験1については、損傷率が、0、0.12、0.19、0.26、0.50および0.70の時に、また、試験2については、損傷率が、0.00、0.14、0.23、0.32および0.61の時に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて試料の組織観察を行った。
具体的には、各試料について、1.0mmの広さを有する任意の評価範囲を定め、この評価範囲について、100倍、500倍及び1000倍の倍率で組織観察をし、ボイドの数を調べた。なお、評価範囲の選択の仕方によって大きな誤差が生じないことを示すべく、1.0mmの広さを有する評価範囲の中から、0.3mmの広さを有する評価範囲をさらに設定し、この小さな評価範囲についても組織観察を行い、ボイドの数を調べた。
【0041】
得られたSEMの結果のうち、代表して、試験2における損傷率が0.0の時のSEMの像を図2に、試験1における各損傷率時のSEMの像を図3図8に示す。また、図3図8の結果から求めた、ボイドの個数と、ボイド個数を評価範囲の面積で割ったボイド個数密度(個/mm)と、ボイド個数密度平均値(個/mm)とを、表1に示す。
そして、全てのSEMの結果から求めた、ボイド個数密度平均値と損傷率との関係を、図9に示す。なお、全てのSEMの結果において、亀裂は生じていなかった。
【0042】
【表1】
【0043】
表1及び図9が示すように、ボイドの個数密度を用いることによって、特に製品の表面に亀裂は生じていない場合に、ベイナイト組織を有する製品のクリープ余寿命を精度良く予測できる。
また、全てのSEMの結果から求めた、ボイドの個数密度と損傷率との関係を示す図9を用いることによって、実施例1で使用した試料と同一の材料から作られた、ベイナイト組織を有する他の製品のクリープ余寿命を予測することができ、特に、製品の表面に亀裂が生じていない場合に、より精度良くクリープ余寿命を予測することができる。
【0044】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で作成した図9を用いて、ベイナイト組織を有する円筒管のクリープ余寿命を予測した。
クロムモリブデン鉄鋼鋼材で作られた配管(STPA22、JIS規格 G 3457「配管用アーク溶接炭素鋼鋼管」)を、火力発電所のボイラで使用できるように、ゆっくりと加熱しながら曲げ加工した。加工した配管の曲がり部分の組織をSEMで検査したところ、ベイナイト組織が生成していた。このようにして加工した配管に対し、550℃の温度下で、145MPaの内圧を加えた。
【0045】
ある時間経過したところで、配管の曲がり部分について、SEMを用いて組織観察した。得られたSEMの像を解析したところ、この曲がり部分の表面に亀裂が生じていないことが分かったので、SEMの像からボイド個数密度を求めたところ、50であった。
実施例1で作成した図9より、ボイド個数密度が50の時の損傷率は0.41であると求まることから、ボイラの配管の曲がり部分の損傷率は0.41であると予測することができた。即ち、この配管の曲がり部分の余寿命は、現在までの使用時間の約2.5倍であると予測することができた。
【0046】
[実施例3]
実施例1と同様の条件で、クロムモリブデン鉄鋼鋼材から作られたベイナイト組織を有する円筒管(STPA22、外径φ56.5mm、内径47.5mm、長さ35.0mm)を試料として、内圧クリープ試験を行った。1つの試料には、温度550℃の条件下で145MPaの内圧を加え(試験1)、別の試料には、温度525℃の条件下で240MPaの内圧を加えた(試験2)。なお、試験1における試料の寿命と、試験2における試料の寿命とは、試験1における試料に対して、試験2における試料の寿命は約23%短く、同程度であった。
【0047】
試験1については、損傷率が、0、0.11、0.18、0.25、0.47、0.66、0.76、0.85および1.00の時に、また、試験2については、損傷率が、0.00、0.14、0.23、0.32、0.61、0.85、0.98および1.00の時に、試料の組織観察を行った。
具体的には、各試料について、観察毎に評価範囲を定めた。評価範囲の位置の設定は、円筒管において亀裂が生じやすいとされる管の長さ方向の中央部分を含むように設定した。また、評価範囲の面積の設定は、亀裂が1.0mm以上の面積にわたる場合には亀裂全体を含むように定め、これ以外の場合には0.3mmまたは1.0mmの広さを有するように設定した。
定めた評価範囲について、10倍、50倍、100倍及び400倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて組織観察をし、評価範囲内に存在するボイドの数、さらに、亀裂が存在した場合には、最も長い亀裂について、最大亀裂長さ、及び、最大亀裂がまたがる結晶粒の数(以下、「拡張Mパラメータ」ともいう)を測定した。なお、亀裂が途中で寸断されていた場合には、その寸断されている箇所の各長さが、寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さの半分以下であれば、これらの亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなして、最大亀裂長さ及び拡張Mパラメータを求めた。
【0048】
得られたSEMの像のうち、亀裂が生じていた像を図10図15に示す。具体的には、試験1における損傷率が0.76の像を図10に、損傷率が0.85の像を図11に、及び、損傷率が1.00の像を図12に、並びに、試験2における損傷率が0.70の像を図13に、損傷率が0.98の像を図14に、及び、損傷率が1.00の像を図15に示す。
例えば図10(b)が示すように、試験1における損傷率が0.76の時の最大亀裂は、途中で寸断されているが、寸断されている箇所の長さが、隣接する両亀裂のうち長い方の長さの半分以下であったため、これらの亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなして、最大亀裂長さを518μmと求め、拡張Mパラメータを6と求めた。同様に、図11(a)が示すように、試験1における損傷率が0.85の時の最大亀裂は、複数個所が途中で寸断されているが、寸断されている各箇所の長さが、それぞれが隣接する両亀裂のうち長いほうの亀裂の長さの半分以下であったため、これらの亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなして、最大亀裂長さを1.09mmと求め、拡張Mパラメータを14と求めた。
【0049】
このようにして、全てのSEMの像から求めたボイドの数、ボイドの数を評価範囲の面積で割ったボイド個数密度、ボイド個数密度の平均値、最大亀裂長さ及び拡張Mパラメータの結果を、試験1については表2に、試験2については表3にまとめて示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
さらに、表2及び表3に基づいて作成した、最大亀裂長さと損傷率との関係を表すグラフを図16に、拡張Mパラメータと損傷率との関係を表すグラフを図17に示す。
16及び図17が示すように、ボイド個数密度を使用してベイナイト組織を有する製品のクリープ余寿命を予測すれば、特に製品の表面に亀裂は生じていない場合に、クリープ余寿命を精度良く予測できる。
また、図16及び図17が示すように、最大亀裂が途中で寸断されている場合に、寸断されている箇所の各長さが、寸断箇所が隣接する両亀裂のうち長い方の長さの半分以下であれば、これらの亀裂及び寸断箇所は繋がった一つの亀裂であるとみなした最大亀裂長さを採用することによって、最大亀裂長さと損傷率との間、及び、拡張Mパラメータと損傷率との間には、良好な相関関係が存在することが分かる。即ち、これら、最大亀裂長さと損傷率との関係を表す図16、および/または、拡張Mパラメータと損傷率との関係を表す図17を用いることによって、実施例3で使用した試料と同一の材料から作られた、ベイナイト組織を有する他の製品のクリープ余寿命を予測することができ、特に、製品の表面に亀裂が生じている場合に、より精度良くクリープ余寿命を予測することができる。
【0053】
[実施例4]
実施例4では、実施例3で作成した図16及び図17を用いて、ベイナイト組織を有する円筒管のクリープ余寿命を予測した。
クロムモリブデン鉄鋼鋼材で作られた配管(STPA22、JIS規格 G 3457「配管用アーク溶接炭素鋼鋼管」)を、火力発電所のボイラで使用できるように、ゆっくりと加熱しながら曲げ加工した。加工した配管の曲がり部分の組織をSEMで検査したところ、ベイナイト組織が生成していた。このようにして加工した配管に対し、550℃の温度下で、145MPaの内圧を加えた。
【0054】
ある時間経過したところで、配管の曲がり部分について、SEMを用いて組織観察した。得られたSEMの像を解析したところ、この曲がり部分の表面に亀裂が生じていることが分かったので、SEMの像から最大亀裂長さを求めた結果、1.7mmであった。実施例1で作成した図16より、最大亀裂長さが1.7mmの時の損傷率は0.95であると求まることから、ボイラの配管の曲がり部分の損傷率は0.95であると予測することができた。即ち、この配管の曲がり部分の余寿命は、現在までの使用時間の約5%であると予測することができた。
【0055】
同様にして、得られたSEMの像から拡張Mパラメータを求めたところ、25であった。実施例1で作成した図17より、拡張Mパラメータが25の時の損傷率は0.95であると求まることから、ボイラの配管の曲がり部分の損傷率は0.95であると予測することができた。即ち、この配管の曲がり部分の余寿命は、現在までの使用時間の約5%であると予測することができた。
【符号の説明】
【0056】
1 結晶粒
2 亀裂長さ
3 寸断されている箇所の長さ
4 寸断箇所が隣接する亀裂のうち長い方の長さ
10 亀裂
100 ベイナイト組織を有する製品
図1
図9
図16
図17
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図10
図11
図12
図13
図14
図15