特許第5859711号(P5859711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5859711
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】飛散塩分捕獲装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20160128BHJP
【FI】
   G01N1/02 F
   G01N1/02 D
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-513542(P2015-513542)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2014052523
【審査請求日】2015年3月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】住谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和文
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−178586(JP,U)
【文献】 岩崎 英治, 長井 正嗣,橋梁断面周辺の飛来塩分の推定に関する一検討,構造工学論文集 A,2007年,Vol.53A,p.739-746
【文献】 岩崎 英治 他3名,塩分捕集器具の設置方向と飛来塩分の関係,構造工学論文集,2010年,Vol.56A,p.616-629
【文献】 岩崎 英治 他3名,凍結防止剤の飛散と鋼橋の腐食,構造工学論文集 A,2012年 3月,Vol.58A,p.655-667
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中に飛散している塩分を捕獲可能である素材と、該素材が張られた枠体とを有する複数の飛散塩分捕獲体と、前記飛散塩分捕獲体を収容し、前記素材に導風する導風口が設けられた箱と、を備え、
前記複数の飛散塩分捕獲体は、前記素材が平面視にて交差するように上下に重ねて配されている飛散塩分捕獲装置。
【請求項2】
上下一対の前記飛散塩分捕獲体が、前記素材が平面視にて直交するように配されている請求項1に記載の飛散塩分捕獲装置。
【請求項3】
上下一対の前記飛散塩分捕獲体が、前記素材が平面視にて十字状に交差するように配されている請求項1又は2に記載の飛散塩分捕獲装置。
【請求項4】
前記箱が直方体状に形成され、前記素材が前記箱の互いに対向する2つの側面の間においてこれら側面に対向するように前記飛散塩分捕獲体が配されている請求項1から請求項3の何れか1項に記載の飛散塩分捕獲装置。
【請求項5】
前記導風口にはガラリが設けられている請求項1から請求項4の何れか1項に記載の飛散塩分捕獲装置。
【請求項6】
前記飛散塩分捕獲体には、方位を示す指標が記されている請求項1から請求項までの何れか1項に記載の飛散塩分捕獲装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛散塩分量を測定するために大気中に飛散している塩分を捕獲する飛散塩分捕獲装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電系統の絶縁碍子や鉄塔等の海塩粒子による塩害の予測を行うために、大気中に飛散している塩分(以下、単位体積あたりに含まれる塩分を気中塩分量、これに風速を乗じたものを飛散塩分量という)の量(飛散塩分量)を測定する必要があり、そのためには、大気中に飛散している塩分を捕獲する必要がある。JIS Z2382で規定されているドライガーゼ法は、窓が空いた木枠にガーゼをはめ込んで雨に濡れない風通しの良い場所に設置し、ガーゼに付着した塩分の量を測定するというものである。また、特許文献1に記載の海塩粒子(気中塩分)の捕捉分析方法は、海塩粒子よりも目が細かいフィルタを通して大気を吸引することにより、海塩粒子をフィルタで捕捉するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−112719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の海塩粒子の捕捉分析方法では、風速に関わらず空気の吸引量が一定であることから、飛散塩分量を求めるためには風速を測定してその測定値に基づいて計算を行う必要がある。また、上記ドライガーゼ法では、ガーゼを百葉箱内に設置する場合には、面状に張られたガーゼを一方向に向けて設置していたため、特定方向から飛来する飛散塩分しか捕獲できない。従って、飛散塩分の捕獲量が少なくなることで飛散塩分量を正確に測定できない、飛来方向毎に飛散塩分量を測定できないといった課題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、風速に応じた量の塩分を捕獲できると共に、様々な方向から飛来する飛散塩分を捕獲できる飛散塩分捕獲装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る飛散塩分捕獲装置は、大気中に飛散している塩分を捕獲可能である素材と、該素材が張られた枠体とを有する複数の飛散塩分捕獲体と、前記飛散塩分捕獲体を収容し、前記素材に導風する導風口が設けられた箱と、を備え、前記複数の飛散塩分捕獲体は、前記素材が平面視にて交差するように上下に重ねて配されている。
【0007】
前記飛散塩分捕獲装置において、上下一対の前記飛散塩分捕獲体が、前記素材が平面視にて直交するように配されてもよい。
前記飛散塩分捕獲装置において、上下一対の前記飛散塩分捕獲体が、前記素材が平面視にて十字状に交差するように配されてもよい。
【0008】
た、前記箱が直方体状に形成され、前記素材が前記箱の互いに対向する2つの側面の間においてこれら側面に対向するように前記飛散塩分捕獲体が配されてもよい。また、前記飛散塩分捕獲装置において、前記導風口にはガラリが設けられてもよい。また、前記飛散塩分捕獲体には、方位を示す指標が記されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風速に応じた量の塩分を捕獲できると共に、様々な方向から飛来する飛散塩分を捕獲できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る飛散塩分捕獲装置を示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る飛散塩分捕獲装置を示す縦断面図(図3の2−2断面図)である。
図3図2の3−3断面図である。
図4】一実施形態に係る飛散塩分捕獲装置の内部を示す斜視図である。
図5】一実施形態に係る飛散塩分捕獲装置の作用を示す平断面図である。
図6】一実施形態に係る飛散塩分捕捉装置の作用を示す縦断面図である。
図7】ドライガーゼ法により捕獲できる飛散塩分量と本実施形態に係る飛散塩分捕獲装置により捕獲できる飛散塩分量との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。図1は、一実施形態に係る飛散塩分捕獲装置10を示す斜視図である。また、図2は、飛散塩分捕獲装置10を示す縦断面図(図3の2−2断面図)であり、図3は、図2の3−3断面図である。さらに、図4は、飛散塩分捕獲装置10の内部を示す斜視図である。これらの図に示すように、飛散塩分捕獲装置10は、百葉箱1と、百葉箱1内に設置された上下一対の飛散塩分捕獲体20とを備えている。
【0012】
百葉箱1は、直方体状の箱であり、四つの側面にガラリ2が設けられている。ガラリ2は、奥側へかけて上側に約45°で傾斜する整流板が縦に並んだ構成である。また、百葉箱1の上面には、飛散塩分捕獲体20を箱内に出し入れするための蓋3が設けられている。この蓋3の一辺がヒンジ8(図2参照)を介して百葉箱1の上端の一辺に取り付けられており、蓋3のヒンジ8とは反対側の一辺と百葉箱1の上端の一辺とが蝶番9で着脱可能に固定されている。
【0013】
図2図4に示すように、飛散塩分捕獲体20は、通気性を有し、飛散する塩分を捕獲可能である矩形状のガーゼ22と、ガーゼ22を保持する矩形状の枠体であるガーゼホルダー24とを備えている。この飛散塩分捕獲体20では、ガーゼ22の周縁部がガーゼホルダー24に取り付けられることで、ガーゼ22がガーゼホルダー24の内側に張られている。また、上下のガーゼ22には、非導電性のインクにより方位が記されている。ここで、上側のガーゼ22の一方の面と他方の面とにはそれぞれ、E、Wと記され、下側のガーゼ22の一方の面と他方の面とにはそれぞれ、S、Nと記されている。
【0014】
上下一対の飛散塩分捕獲体20は、平面視にて互いに直交して十字状になるように上下に重ねて配されている。百葉箱1の下側には、下側の飛散塩分捕獲体20を保持する下側保持部30が設けられ、百葉箱1の上側には、上側の飛散塩分捕獲体20を保持する上側保持部40が設けられている。
【0015】
下側保持部30は、左右一対のレール32と、左右のレール32の下部に両端が結合された軸材34とを備えている。レール32は、平断面の形状がコ字状で鉛直方向に延びる部材であり、ガラリ2の横方向中央部において下端から上端まで延びるように形成された断面が矩形状の溝に嵌め込まれている。ここで、下側の飛散塩分捕獲体20のガーゼホルダー24は、左右端が左右のレール32に嵌め込まれた状態で軸材34の上に乗っており、下側の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22は、一組の互いに対向するガラリ2から等距離の位置において、これらのガラリ2に対して平行に、百葉箱1の下側に保持されている。
【0016】
上側保持部40は、左右一対のレール42を備えている。レール42は、平断面の形状がコ字状で鉛直方向に延びる部材であり、ガラリ2の横方向中央部において高さ方向中央部から上端まで延びるように形成された断面が矩形状の溝に嵌め込まれている。ここで、左右のレール42は、下側の左右のレール32が取り付けられていない一組の互いに対向するガラリ2に取り付けられている。また、上側の飛散塩分捕獲体20のガーゼホルダー24は、左右端が左右のレール42に嵌め込まれた状態で高さ方向中央部の整流板の上に乗っている。これにより、上側の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22は、一組の互いに対向するガラリ2から等距離の位置において、これらのガラリ2に対して平行に、そして、下側の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22とは90°だけ異なる方位を向くように百葉箱1の上側に保持されている。
【0017】
飛散塩分捕獲体20を百葉箱1内に設置する際には、蓋3を開けて、まず、下側の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼホルダー24の左右端を左右のレール32に嵌め込んだ状態でガーゼホルダー24の下端が軸材34に当たるまで降下させる。次に、上側の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼホルダー24の左右端を左右のレール42に嵌め込んだ状態でガーゼホルダー24の下端が高さ方向中央部の整流板に当たるまで降下させる。
【0018】
一方、飛散塩分捕獲体20を百葉箱1内から取り出す際には、蓋3を開けて、まず、上側の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼホルダー24の左右端を左右のレール42に嵌め込んだ状態で百葉箱1外まで上昇させる。次に、下側の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼホルダー24の左右端を左右のレール32に嵌め込んだ状態で百葉箱1外まで上昇させる。
【0019】
図5は、飛散塩分捕獲装置10の作用を示す平断面図である。この図に示すように、百葉箱1の四面にガラリ2が設けられているため、風向にかかわらず風が百葉箱1内を吹き抜ける。また、上側の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22が一組の互いに対向するガラリ2に対して平行に配され、下側の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22が、残りの一組の互いに対向するガラリ2に対して平行に配され、即ち、上下の飛散塩分捕獲体20のガーゼ22が、互いに90°異なる方位を向くように配されているため、風向にかかわらず百葉箱1内を吹き抜ける風がガーゼ22を通過する。これにより、風向に関わらずガーゼ22には飛散塩分が付着する。また、風速に応じた量の飛散塩分がガーゼ22に付着する。
【0020】
図6は、飛散塩分捕獲装置10の作用を示す縦断面図である。この図に示すように、百葉箱1の四面のガラリ2は、奥側へかけて上側に約45°で傾斜する整流板が縦に並んだ構成であることから、百葉箱1内を風が吹き抜ける一方で、百葉箱1内への雨の降り込みが防止される。これにより、設置場所の屋根の有無にかかわらず、風速に応じた量の飛散塩分がガーゼ22に付着すると共に、ガーゼ22に付着した塩分が雨により洗い流されることが防止される。
【0021】
ところで、ドライガーゼ法(JIS Z2382)により捕獲できる飛散塩分量と本実施形態に係る飛散塩分捕獲装置10により捕獲できる飛散塩分量とを調べる実験を行ったところ、両者は、図7のグラフに示すように相関関係があることがわかった。ここで、飛散塩分量は、気中塩分がある断面積の範囲を通過する量であり、下記の式で表される。
・飛散塩分量=気中塩分密度×風速
【0022】
本実験では、ドライガーゼ法による飛散塩分の捕獲と、飛散塩分捕獲装置10を用いての飛散塩分の捕獲とを同じ日時で1日間実施することを20回行った。また、前者では、10cm四方のガーゼを木枠に取り付けた塩分捕獲体20を、2m四方の屋根の下の中央に取り付け、後者では、同様の塩分捕獲体20を用いた飛散塩分捕獲装置10を、前者の塩分捕獲体20の近傍に設置した。
【0023】
以上説明したように、本実施形態に係る飛散塩分捕獲装置10は、大気中に飛散している塩分を捕獲可能であるガーゼ22と、ガーゼ22が張られた枠体であるガーゼホルダー24とを有する複数の飛散塩分捕獲体20を備えており、複数の飛散塩分捕獲体10は、ガーゼ22が平面視にて交差するように上下に重ねて配されている。即ち、複数のガーゼ22を異なる方位に向けて曝露することによって、風速に応じた量の飛散塩分を、その飛来方向にかかわらずガーゼ22で捕獲できる。
【0024】
特に、本実施形態では、上下一対の飛散塩分捕獲体20が、ガーゼ22が平面視にて直交するように配されている。これにより、一対のガーゼ22により、風速に応じた量の飛散塩分を、その飛来方向にかかわらず捕獲できる。従って、装置の全高を抑えたうえで、様々な方向から飛来する塩分をガーゼ22で捕獲できる。
【0025】
また、飛散塩分捕獲体20が、側面にガラリ2が設けられた百葉箱1内に設置されていることにより、ガーゼ22に、設置場所の屋根の有無にかかわらず雨の影響を受けることがないように、風速に応じた量の塩分を付着させることができる。
【0026】
さらに、飛散塩分捕獲体20には、方位を示す指標が記されていることにより、各方位毎に飛散塩分量を測定することが可能になる。
【0027】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、上記実施形態では、上下一対の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼ22が平面視にて互いに直交するように上下に重ねて配したが、3個以上の飛散塩分捕獲体20を、ガーゼ22が平面視にて互いに90°未満の角度で交差するように上下に重ねて配してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 百葉箱、2 ガラリ、3 蓋、8 ヒンジ、9 蝶番、10 飛散塩分捕獲装置、20 飛散塩分捕獲体、22 ガーゼ、24 ガーゼホルダー、30 下側保持部、32 レール、34 軸材、40 上側保持部、42 レール
【要約】
【課題】風速に応じた量の塩分を捕獲できると共に、様々な方向から飛来する飛散塩分を捕獲できる飛散塩分捕獲装置を提供する。
【解決手段】、大気中に飛散している塩分を捕獲可能であるガーゼ22と、ガーゼ22が張られた枠体であるガーゼホルダー24とを有する複数の飛散塩分捕獲体20を備えており、複数の飛散塩分捕獲体10は、ガーゼ22が平面視にて交差するように上下に重ねて配されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7