【文献】
Victor Kopylov, et al.,Esterification study of acetoxysilane by alcohols and phenols,Organosilicon Chemistry V,2003年,pp.344-347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フェノキシ基を有するケイ素化合物を含有するケイ酸エステル組成物であって、該ケイ素化合物中の70質量%以上が下記式(1)で表されるケイ酸エステルであるケイ酸エステル組成物。
(R1O)2(R2O)2Si (1)
(式中、R1Oはベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノキシ基を示し、R2Oは3級アルコールから水素原子を除いたアルコキシ基を示し、2つのR1O及びR2Oは同一でも異なっていてもよい。)
工程(B)の後に反応溶液を水に接触させることにより塩を除去する工程(C)、及び非プロトン性有機溶媒を除去する工程(D)を有する、請求項9又は10に記載のケイ酸エステル組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ケイ酸エステル組成物]
本発明のケイ酸エステル組成物は、フェノキシ基を有するケイ素化合物を含有するケイ酸エステル組成物であって、該ケイ素化合物中の70質量%以上が下記式(1)で表されるケイ酸エステルであるケイ酸エステル組成物である。
(R
1O)
2(R
2O)
2Si (1)
(式中、R
1Oはベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノキシ基を示し、R
2Oは3級アルコールから水素原子を除いたアルコキシ基を示し、2つのR
1O及びR
2Oは同一でも異なっていてもよい。)
【0010】
本発明のケイ酸エステル組成物が、水系製品に安定に配合でき保存安定性が良好で、実際の使用態様において、香料等の機能性物質であるベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノール(以下、「機能性フェノール」ともいう)を長期に亘り安定に徐放することができる理由は明らかではないが、次のように考えられる。
すなわち、式(1)においてR
1Oは、ベンゼン環に直接カルボニル基が結合していることから、そのフェノール性の水酸基の酸性度が大幅に高くなっているため、加水分解されやすくなっているが、R
2Oは電子求引性が低く酸性度が低いため、ケイ素原子に結合するフェノキシ基の安定性を適度に高め、更にR
2Oの嵩高さによりケイ素原子周辺の構造を固定化し、当該ケイ酸エステルの保存安定性を高めているものと考えられる。
【0011】
また、本発明のケイ酸エステル組成物自体は水に不溶性あるいは難溶性のため、エマルジョンあるいはミセル状で水中に存在していると考えられ、使用時においては、水になじみやすいR
1Oが水と接触して徐々に加水分解を受けることで適度かつ長期に亘る徐放性能を発現するものと考えられる。
なお、本発明において「ベンゼン環に直接結合したカルボニル基」とは、ベンゼン環を構成する炭素原子に対して他の原子を介さずに直接結合しているカルボニル基をいう。
また、「徐放」とは、徐々に加水分解が進行し、機能性フェノールが長期間放出されることをいう。
以下、本発明に用いられる各成分及び工程等について説明する。
【0012】
<ケイ酸エステル>
本発明に用いられるケイ酸エステルは下記式(1)で表される化合物である。
(R
1O)
2(R
2O)
2Si (1)
(式中、R
1Oはベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノキシ基を示し、R
2Oは3級アルコールから水素原子を除いたアルコキシ基を示し、2つのR
1O及びR
2Oは同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
式(1)におけるR
1Oは、香料等の機能性物質であるベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノール(機能性フェノール)のヒドロキシ基から水素原子を除いたフェノキシ基を示す。
前記機能性フェノールとしては、ヒドロキシベンズアルデヒド類及びサリチル酸類が好ましく、中でも香料としての効能及びケイ酸エステル組成物の徐放性能の観点から、ヒドロキシベンズアルデヒド類がより好ましい。
ヒドロキシベンズアルデヒドとしては、香料としての香調及びケイ酸エステル組成物の徐放性能の観点から、バニリン、エチルバニリンが好ましい。
サリチル酸類としては、サリチル酸エステルが好ましく、サリチル酸エチルがより好ましい。
この機能性フェノールは、香料であることが好ましく、フレグランス(香粧品香料)又はフレーバー(食品香料)であることがより好ましく、フレグランスであることが更に好ましい。
R
1Oのうち香料であるものの好ましい具体例としては、香料等としての効能及びケイ酸エステル組成物の徐放性能の観点から、バニリン、エチルバニリン、サリチル酸エチルが好ましく、バニリンがより好ましい。
【0014】
式(1)におけるR
2Oは3級アルコールから水素原子を除いたアルコキシ基である。この3級アルコールの炭素数としては、ケイ酸エステル組成物の保存安定性を保ち、徐放性能を向上させる観点から、4〜15が好ましく、4〜12がより好ましく、4〜10がより好ましく、8〜10が更に好ましい。
この3級アルコールは、香料であることが好ましく、フレグランス(香粧品香料)又はフレーバー(食品香料)であることがより好ましく、フレグランスであることが更に好ましい。
【0015】
3級アルコールのうち香料の具体例としては、ミルセノール類、テルピネオール類、リナロール類、ムゴール類等が挙げられる。
ミルセノール類としては、ミルセノール(2−メチル−6−メチレン−7−オクテン−2−オール)、ジヒドロミルセノール(2,6−ジメチル−7−オクテン−2−オール)、テトラヒドロミルセノール(2,6−ジメチル−2−オクタノール)等が挙げられる。
テルピネオール類としては、テルピネオール(1−メチル−4−イソプロピル−1−シクロヘキセン−8−オール)、ジヒドロテルピネオール(1−メチル−4−イソプロピルシクロヘキサン−8−オール)等が挙げられる。
リナロール類としては、リナロール(3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン−3−オール)、ジヒドロリナロール(3,7−ジメチル−6−オクテン−3−オール)、テトラヒドロリナロール(3,7−ジメチル−3−オクタノール)、エチルリナロール(3,7−ジメチル−1,6−ノナジエン−3−オール)、ゲラニルリナロール(1,6,10,14−ヘキサデカテトラエン−3−オール)等を挙げられる。
ムゴール類としては、ムゴール(2,6−ジメチル−3,5−オクタジエン−2−オール及び3,7−ジメチル−4,6−オクタジエン−3−オール)、テトラヒドロムゴール(2,6−ジメチル−2−オクタノール及び3,7−ジメチル−3−オクタノール)等を挙げられる。
【0016】
その他の香料の具体例としては、2,6−ジメチル−2−ヘプタノール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、アンブリノール(2,5,5−トリメチル−オクタヒドロ−2−ナフトール)、オシメノール(2,6−ジメチル−5,7−オクタジエン−2−オール)、3,6−ジメチル−3−オクタノール、4−ツヤノール(4−メチル−1−イソプロピルビシクロ[3.1.0]ヘキサン−4−オール)、ネロリドール(3,7,11−トリメチル−1、6,10−ドデカトリエン−3−オール)、α−ビサボロール(3−シクロヘキセン−1−メタノール)、パチュリアルコール(1,6−メタノナフタレン−1(2H)−オール)、イソフィトール(3,7,11,15−テトラメチル−1−ヘキサデセン−3−オール)、スクラレオール(1−ナフタレンプロパノール)、α、α−ジメチルフェニルエチルアルコール、p−メチルジメチルベンジルカルビノール、ジメチルフェニルエチルカルビノール、3−メチル−1−フェニル−3−ペンタノール、フロロール(2−イソブチル−4−メチルテトラヒドロ−2H−ピラン−4−オール)等が挙げられる。
これらの香料の中では香調のマッチングの観点から、ミルセノール類及びリナロール類が好ましく、フローラルな香調を有するジヒドロミルセノール及びテトラヒドロリナロールがより好ましい。
香料以外の3級アルコールを用いる場合は、臭気の閾値が高いことが香りを害しない点から好ましく、また分子効率の点から分子量が小さいことが望ましい。具体的な分子量としては、74〜200が好ましく、74〜180がより好ましく、74〜150が更に好ましい。このような3級アルコールとしては、tert−ブチルアルコールが好ましい。
【0017】
前記のとおり、本発明のケイ酸エステル組成物はフェノキシ基を有するケイ素化合物を含有するものであって、該ケイ素化合物中の70質量%以上が前記式(1)で表されるケイ酸エステルであることを特徴とするものである。
このケイ酸エステル組成物中のケイ素化合物の含有量は、ケイ酸エステルの効果を効率的に得る観点から、70〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が更に好ましい。
【0018】
[ケイ酸エステル組成物の製造方法]
本発明のケイ酸エステル組成物の製造方法は、下記工程(A)及び(B)を有する。
工程(A);テトラハロゲン化シラン(SiX
4)と3級アルコール(R
2OH)とを塩基性物質の存在下で反応させることにより下記式(2)で表されるアルコキシシランを得る工程
工程(B);工程(A)で得られたアルコキシシランに対して、ベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノールを反応させることにより下記式(1)で表されるケイ酸エステルを得る工程
(R
1O)
2(R
2O)
2Si (1)
(R
2O)
2SiX
2 (2)
(式中、R
1Oはベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノキシ基を示し、R
2Oは3級アルコールから水素原子を除いたアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、2つのR
1O及びR
2Oは同一でも異なっていてもよい。)
【0019】
(工程(A))
工程(A)は、テトラハロゲン化シラン(SiX
4)と3級アルコール(R
2OH)とを塩基性物質存在下で反応させて、(R
2O)
2SiX
2を得る工程である。
この工程(A)で用いられるテトラハロゲン化シランのハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素を挙げられる。前記テトラハロゲン化シランは、1分子中に複数種のハロゲンを有するものであってもよいが、1分子中に1種類のハロゲンのみを有するものが好ましい。具体的には、テトラクロロシラン(SiCl
4)、テトラブロモシラン(SiBr
4)を挙げることができ、製造コストや入手性の観点から、テトラクロロシランが好ましい。
【0020】
3級アルコールとしては、前述の3級アルコールが好ましく、ケイ酸エステル組成物の保存安定性を保ち徐放性能を向上させる観点から、3級アルコールの炭素数は4〜15であることが好ましく、4〜12であることがより好ましく、4〜10であることがより好ましく、8〜10であることが更に好ましい。
この3級アルコールは香料であることが好ましく、フレグランス又はフレーバーであることがより好ましく、フレグランスであることが更に好ましい。
香料の中では、ミルセノール類及びリナロール類が好ましく、香調のマッチングの観点から、フローラルな香調を有するジヒドロミルセノール及びテトラヒドロリナロールが好ましい。
香料以外の3級アルコールの具体例としては、臭気の閾値が高く分子量が小さいtert−ブチルアルコールが好ましい。
【0021】
工程(A)で用いられる塩基性物質としては、副生成物として生じるハロゲン化水素を中和し、反応を速やかに進行させる観点から、アミン、アルコールのアルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属が好ましい。更に、反応を速やかに進行させつつも二量化反応等の副反応を低減する観点から、アミン及びアルコールのアルカリ金属塩がより好ましく、アミンが更に好ましい。
アミンとしては、環状アミンが好ましく、前記と同様の観点から、環内に窒素原子を有する複素環アミンがより好ましく、イミダゾール、ピリジンが更に好ましい。
アルコールのアルカリ金属塩としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、及びカリウムエトキシドが挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0022】
工程(A)における反応は、反応系を均一に保ちつつ副反応を抑制する観点から、非プロトン性有機溶媒中で行うことが好ましい。用いられる非プロトン性有機溶媒としては、前記と同様の観点からケトン及びエーテルが好ましく、ケトンがより好ましい。
ケトンとしては、炭素数4〜6のケトンが好ましく、炭素数4のケトンがより好ましく、2−ブタノンが更に好ましい。
エーテルとしては、炭素数4〜6のエーテルが好ましく、炭素数4のエーテルがより好ましく、具体例としてはジエチルエーテル、及びテトラヒドロフランを挙げられる。
【0023】
工程(A)における反応は、副反応を防ぐ観点から反応容器内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。不活性ガスで置換された反応容器内に前記原料等を仕込むが、その順序としてはテトラハロゲン化シランを反応容器に入れておき、次いで3級アルコール及び塩基性物質を添加することが好ましい。また、いずれも前述の非プロトン性有機溶媒に溶解させておくことが好ましい。
3級アルコール及び塩基性物質は別々に添加してもよいが、混合して添加することが反応を迅速に進める観点から好ましく、反応が急激に進行しないように徐々に添加することが好ましい。
【0024】
3級アルコールはテトラハロゲン化シランに対して2当量以上であることが副生成物を抑制する観点から好ましい。
また、工程(A)における塩基性物質は、3級アルコールに対して1〜4当量であることが反応の効率性の観点から好ましい。更に、工程(A)における非プロトン性有機溶媒は、テトラハロゲン化シランに対して質量で1〜30倍であることが好ましい。
反応温度は−10〜40℃で行うことが好ましい。具体的には、仕込み時の急激な反応を抑制するために、反応の初期段階は−10〜10℃で行い、その後20〜40℃に昇温して反応を行うことが好ましい。
工程(A)により得られるものはアルコキシシランの混合物であるが、(R
2O)
2SiX
2を主生成物として得ることができる。R
2Oの二置換体を主生成物として得ることができる理由は、3級アルコール由来のR
2Oの嵩高さによるものと考えられる。本発明の製造方法によれば、このように二置換体を多く得ることができるため、安定性と徐放性能に優れる式(1)で表されるケイ酸エステルを純度よく得ることができる。
【0025】
(工程(B))
工程(B)は、工程(A)で得られた(R
2O)
2SiX
2に対して、更にベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノール(機能性フェノール)を反応させることにより前記式(1)で表されるケイ酸エステルを含有するケイ酸エステル組成物を得る工程である。
工程(B)において使用することができる機能性フェノールとしては、前述のものを挙げることができ、ヒドロキシベンズアルデヒド類及びサリチル酸類が好ましく、中でも香料としての効能及びケイ酸エステル組成物の徐放性能の観点から、ヒドロキシベンズアルデヒド類がより好ましい。
ヒドロキシベンズアルデヒドとしては、香料としての香調及びケイ酸エステル組成物の徐放性能の観点からバニリン、エチルバニリンが好ましい。
【0026】
工程(B)においても塩基性物質を用いることが好ましく、反応を速やかに進行させつつも二量化反応等の副反応を低減する観点から、アミンがより好ましい。アミンとしては環状アミンが好ましく、前記と同様の観点から、環内に窒素原子を有する複素環アミンがより好ましく、イミダゾール及びピリジンが更に好ましい。
工程(B)における反応においても、反応系を均一に保ちつつ副反応を抑制する観点から、非プロトン性有機溶媒中で行うことが好ましい。用いられる非プロトン性有機溶媒としては前記と同様の観点から、ケトンが好ましく、ケトンとしては、炭素数4〜6のケトンが好ましく、炭素数4のケトンがより好ましく、2−ブタノンが更に好ましい。
【0027】
この工程(B)においては、工程(A)で得られた(R
2O)
2SiX
2を保持する反応容器に、機能性フェノールを添加することが好ましく、塩基性物質も合わせて添加することが好ましい。また、これらを非プロトン性有機溶媒に溶解させておくことが好ましい。
前記機能性フェノールと塩基性物質とは別々に添加してもよいが、両者を混合して添加することが反応を迅速に進める観点から好ましく、反応が急激に進行しないように徐々に添加することが好ましい。
【0028】
機能性フェノールは、安定性の観点から工程(A)で用いたテトラハロゲン化シランに対して1〜3等量用いることが好ましく、2〜3等量用いることがより好ましい。
また、塩基性物質は、機能性フェノールに対して1〜4当量であることが好ましい。
非プロトン性有機溶媒は工程(A)で用いたテトラハロゲン化シランに対して質量で1〜30倍であることが好ましい。
反応温度は−10〜60℃で行うことが好ましい。具体的には、仕込み時の急激な反応を抑制するために、反応の初期段階は−10〜10℃で行い、その後20〜50℃、より好ましくは20〜40℃に昇温して反応を行うことが好ましい。
【0029】
工程(B)により得られるものは混合物となるが、保存安定性と徐放性能に優れる式(1)で表されるケイ酸エステルを主生成物とするケイ酸エステル組成物を得ることができる。このようにして得られたケイ酸エステル組成物は、機能性フェノールを長期に亘り安定に徐放することができ、ケイ酸エステル組成物を含有する香料前駆体、並びに繊維処理剤に同様の効果を付与することができるものと考えられる。
【0030】
本発明のケイ酸エステル組成物の製造方法においては、工程(B)の後に、水を接触させて塩を除去する工程(C)、及び非プロトン性有機溶媒を除去する工程(D)を有することが好ましい。
(工程(C))
工程(C)は、工程(B)で得られたケイ酸エステル組成物を含む反応混合物に水を接触させて塩を除去する工程である。
工程(C)により除去する塩は、工程(A)及び(B)で生成した塩基性物質とシラン由来のハロゲンとからなる塩である。工程(C)において、水と反応混合物とを接触させる場合には、水にエタノール等の炭素数1〜4のアルコールを添加しておくことが好ましく、pHの変動を抑える観点から、炭酸水素ナトリウム等の弱酸の塩を溶解させた水溶を反応混合物と接触させることが好ましい。
洗浄後のケイ酸エステル組成物及び非プロトン性有機溶媒等の水に不溶あるいは難溶な成分は、ヘキサン等の非極性有機溶媒で抽出することが好ましい。
【0031】
(工程(D))
工程(D)は、工程(C)で得られた水に不溶あるいは難溶な成分の混合物から溶媒を除去する工程である。工程(D)においては、減圧下で濃縮することにより非プロトン性有機溶媒、及び工程(C)で用いた非極性有機溶媒等を除去する。これによって、純度の高いケイ酸エステル組成物と得ることができる。
なお、工程(D)を行う前に残留した水分の濃度が上昇し、加水分解が生じることを抑制するために、前もって硫酸ナトリウム又は硫酸マグネシウム等の乾燥剤で脱水することが好ましい。
【0032】
[香料前駆体組成物]
本発明の香料前駆体組成物は、本発明のケイ酸エステル組成物を含むものであるため、機能性フェノールである香料を加水分解により徐放する。
本発明の香料前駆体組成物は、ケイ酸エステル組成物以外に、油剤、界面活性剤、有機溶媒を含有してもよい。
本発明の香料前駆体組成物は、様々な製品に配合することができるため、機能性フェノールを長期に亘り安定に徐放でき、長期に亘り機能性フェノールに由来する香気を発生させることができる。
本発明の香料前駆体組成物を配合することができる製品としては、油系消臭芳香剤組成物、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型等の消臭剤組成物等、非水溶液系製品が挙げられる。
更に、本発明の香料前駆体組成物は、水溶液系での保存安定性に優れるため、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の頭髪用製品、液体入浴剤等に使用することができる。
本発明のケイ酸エステル組成物を用いて芳香剤組成物を構成する場合、芳香剤組成物中の式(1)で表されるケイ酸エステルの含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
また、消臭剤組成物を構成する場合には、消臭剤組成物中の式(1)で表されるケイ酸エステルの含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
なお、本発明の香料前駆体組成物はケイ酸エステル組成物を含有するものであるが、このケイ酸エステル組成物は前述の本願発明の製造方法により製造したものであることが好ましい。
【0033】
[繊維処理剤]
本発明の繊維処理剤は、本発明のケイ酸エステル組成物を含むものであるため、水系製品に配合した場合にも機能性物質の拙速な加水分解を抑制することができ、実際の使用態様において、機能性フェノールを長期に亘り安定に徐放することが可能であり、該機能性物質由来の様々な機能を持続的に発現させることができる。
かかる本発明のケイ酸エステル組成物を用いることによって、水系製品中における安定性が極めて乏しい機能性フェノールが結合したケイ酸エステルであっても、製品中での加水分解を極力抑制することができ、実際の使用態様において、好ましい香りを発し、優れた効果を持続的に発現させることができる。特に、衣料用洗浄剤及び柔軟仕上げ剤等の繊維処理剤用途において有用である。
【0034】
繊維処理剤において、前記式(1)で表されるケイ酸エステルの含有量は特に限定されず、その用途に応じて適宜変えることができる。本発明のケイ酸エステル組成物を用いて衣料用洗浄剤組成物や柔軟仕上げ剤組成物等の繊維処理剤組成物を構成する場合、繊維処理剤組成物中の式(1)で表されるケイ酸エステルの含有量は0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0035】
<ケイ酸エステル組成物の製造>
実施例1(Si(OVan)
2(OTHLin)
2の製造)
以下の手順にしたがって、テトラクロロシランの4個の塩素原子を2分子のバニリン(HOVan)、及び2分子のテトラヒドロリナロール(3,7−ジメチル−3−オクタノール)(HOTHLin)で置換したSi(OVan)
2(OTHLin)
2を製造した。
攪拌翼と滴下ロートとを備えた300ml四つ口フラスコを窒素で満たし、これに2−ブタノンを30ml、テトラクロロシランを6.0ml(52.5mmol)加えた。一方、イミダゾール7.86g(115mmol)、3,7−ジメチル−3−オクタノール(HOTHLin)16.6g(115mmol)を2−ブタノン20mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、300ml四つ口フラスコを氷浴に浸しながら40分かけて滴下を行った。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で120分攪拌を続けた。次に、イミダゾール7.86g(115mmol)、バニリン(HOVan)16.0g(115mmol)を2−ブタノン20mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、四つ口フラスコを氷浴に浸しながら、20分かけて滴下した。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で90分、40℃で30分攪拌を行った後、25℃に戻した。
4つ口フラスコにエタノールを5ml、次いで5%炭酸水素ナトリウム水溶液180gを加えた後、ヘキサン100mlで抽出操作を行った。この抽出操作は計3回行った。抽出液は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、35.9gの黄色オイルを得た。
ガスクロマトグラフィーにて成分分析を行ったところ、このオイルにはビス(3,7−ジメチルオクタン−3−イル)ビス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートが面積比で46.3%で含まれていた。他の成分としてはバニリンが35.8%、ビス(3、7−ジメチルオクタン−3−イル)エチル(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケート(バニリン一置換体)が4.8%、3、7−ジメチル−3−オクタノールが1.8%の面積比として含まれていた。
すなわち、フェノキシ基を有するケイ素化合物中のビス(3,7−ジメチルオクタン−3−イル)ビス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートの質量は90.6%である。
【0036】
実施例2(Si(OVan)
2(ODHMir)
2の製造)
以下の手順にしたがって、テトラクロロシランの4個の塩素原子を2分子のバニリン(HOVan)、及び2分子のジヒドロミルセノール(HODHMir)で置換したSi(OVan)
2(ODHMir)
2を製造した。
攪拌翼と滴下ロートを備えた300ml四つ口フラスコを窒素で満たし、これに2−ブタノンを30ml、テトラクロロシランを6.0ml(52.5mmol)加えた。一方、イミダゾール7.86g(115mmol)、ジヒドロミルセノール(HODHMir)16.4g(115mmol)を2−ブタノン10mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、300ml四つ口フラスコを氷浴に浸しながら、10分かけて滴下を行った。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で240分攪拌を続けた。次に、イミダゾール7.86g(115mmol)、バニリン(HOVan)16.0g(115mmol)を2−ブタノン20mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、四つ口フラスコを氷浴に浸しながら、10分かけて滴下した。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で120分、50℃で30分攪拌を行った後、25℃に戻した。
4つ口フラスコにエタノールを5ml、次いで5%炭酸水素ナトリウム水溶液180gを加えた後、酢酸エチル30mlで抽出操作を行った。この抽出操作は計3回行った。抽出液は硫酸マグネシウムで脱水後、減圧濃縮を行い、38.3gの黄色オイルを得た。
ガスクロマトグラフィーにて成分分析を行ったところ、このオイルにはビス(2,6−ジメチルオクタ−7−エン−2−イル)ビス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートが面積比20.1%で含まれていた。他の成分としてはバニリンが33.4%、ジヒドロミルセノールが21.1%、ビス(2,6−ジメチルオクタ−7−エン−2−イル)エチル(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートが2.8%の面積比として含まれていた。
すなわち、フェノキシ基を有するケイ素化合物中のビス(2,6−ジメチルオクタ−7−エン−2−イル)ビス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートの質量は87.8%である。
【0037】
比較例1(Si(OVan)
4の製造)
国際公開第01/79212号公報の実施例24に記載される手順にしたがって、テトラキス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケート(Si(OVan)
4)を得た。
【0038】
比較例2(Si(OVan)
2(OTHLin)(OEt)の製造)
以下の手順にしたがって、テトラクロロシランの2個の塩素を2分子のバニリン(HOVan)、1分子のテトラヒドロリナロール(HOTHLin)及び1分子のエタノールで置換したSi(OVan)
2(ODHMir)(OEt)を製造した。
攪拌翼と滴下ロートを備えた300ml四つ口フラスコを窒素で満たし、これにテトラヒドロフランを30ml、テトラクロロシランを11.9g(70mmol)加えた。一方、ピリジンを6.1g(77mmol)、テトラヒドロリナロール(HOTHLin)を11.1g(70mmol)をテトラヒドロフラン15mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、フラスコを氷浴に浸しながら、10分かけて滴下した。25℃で1時間攪拌を行なった後、ピリジン12.2g(154mmol)、バニリン(HOVan)21.3g(140mmol)をテトラヒドロフラン10mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、フラスコを氷浴に浸しながら、10分かけて滴下した。3時間攪拌を行なった後、エタノール(HOEt)を3.2g加えて、更に30分攪拌した。
濾過により沈殿を取り除き、減圧濃縮を行い、25.0gの紫色の液体である、(3、7−ジメチルオクタン−3−イル)エチルビス(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートを得た。
【0039】
比較例3(Si(OVan)(OTHGer)
3の製造)
以下の手順にしたがって、テトラクロロシランの塩素を1分子のバニリン(HOVan)、及び3分子の2,6−ジメチルー3−オクタノール(HOTHGer)で置換したSi(OVan)(OTHGer)
3を製造した。
攪拌翼と滴下ロートを備えた300ml四つ口フラスコを窒素で満たし、これに2−ブタノンを30ml、テトラクロロシランを6.0ml(52.5mmol)加えた。一方、イミダゾール11.8g(173mmol)、2,6−ジメチル−3−オクタノール24.9g(158mmol)を2−ブタノン20mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、300ml四つ口フラスコを氷浴に浸しながら、35分かけて滴下を行った。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で60分攪拌を続けた。次に、イミダゾール3.93g(58mmol)、バニリン8.0g(53mmol)を2−ブタノン20mlと混合して均一な溶液を調製して滴下ロートに入れ、四つ口フラスコを氷浴に浸しながら、10分かけて滴下した。2−ブタノン5mlを用いて滴下ロートを洗浄し、これを滴下し、更に25℃で180分攪拌を行った。
4つ口フラスコにエタノールを10ml、次いで5%炭酸水素ナトリウム水溶液180gを加えた後、ヘキサン100mlで抽出操作を行った。この抽出操作は計3回行った。抽出液は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、33.9gの白濁した黄色オイルである、トリス(3、7−ジメチルオクチル)(4−ホルミル−2−メトキシフェニル)オルトシリケートを得た。
【0040】
<繊維処理剤の製造>
実施例1,2及び比較例1〜3で製造したケイ酸エステル組成物及び比較例4としてのバニリンと、定法にしたがって調製した表1に示す組成の未賦香液体柔軟仕上げ剤Aとを、下記の方法によりそれぞれ混合して柔軟仕上げ剤組成物を調製した。
すなわち、実施例1、2及び比較例1〜3で得られたケイ酸エステル組成物、及びバニリンを未賦香液体柔軟仕上げ剤Aに対して、それぞれ0.5質量%になるように50mLのスクリュー管(マルエムNo.7)に入れ、50℃に加熱後冷却を行うことにより繊維処理剤である柔軟仕上げ剤組成物を調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
<香りの持続性評価>
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)製、商品名「アタック」)を用いて、木綿タオル24枚を日立製全自動洗濯機、型番「NW−6CY」で5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0043】
National製電気バケツ、型番「N−BK2−A」に、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟仕上げ剤組成物(調製後40℃で2週間保存したもの)を10g/衣料1.0kgとなるように溶解(処理浴の調製)させ、1分後に上述の方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理した。その後、この2枚の木綿タオルをNational製電気洗濯機、型番「NA−35」に移して3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを約20℃の室内に1週間放置(吊し乾燥)した。
【0044】
脱水処理直後、1日後、7日後のタオルについて、バニリンの香り強度を専門パネラー10人により下記基準で官能評価を行い平均値を求めた。なお、1日後及び7日後の評価においては、乾燥状態にあるタオルと、下記方法による湿潤処理(湿潤後1分後)後のタオルの両方について官能評価を行った。結果を表2に示す。
<湿潤処理>
リセッシュ(商品名、花王(株)製品)で使用されているトリガー容器(ポリエチレン製のスプレー容器であって、容器内の溶液を霧状に噴射することができるもの)に蒸留水を充填し、タオルより30cmほど離して1プッシュ(水重量0.4g)することで湿潤処理を行った。評価は、蒸留水で湿潤させてから1分経過した後に、専門パネラー10人により以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。
【0045】
評価基準
5:非常ににおいが強い
4:かなりにおいが強い
3:においが強い
2:においがする(認知閾値)
1:微かににおいがする(検知閾値)
0:においがしない
【0046】
【表2】
【0047】
表2から明らかなように、本発明のケイ酸エステル組成物は、柔軟仕上げ剤のような水系製品中においてもベンゼン環にカルボニル基が直接結合したフェノールの拙速な分解・放出を抑制することができ、実際の使用態様において長期に亘り安定に機能性フェノールを徐放させることができる。