特許第5859868号(P5859868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859868
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】超音波診断装置及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   A61B8/08
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-25945(P2012-25945)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-162810(P2013-162810A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】谷川 俊一郎
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−110833(JP,A)
【文献】 特開2010−075616(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/011414(WO,A1)
【文献】 特開2005−118320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に対して超音波の送受信を行ない、エコー信号を取得する超音波プローブと、
前記エコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析部と、
該複数回のマルチフラクタル解析の結果に基づいて、前記生体組織の組織性状を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記複数回のマルチフラクタル解析結果において、組織性状毎に予め特定される特徴に基づいて前記判定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記判定部は、組織性状を一つ又は複数特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記判定部は、特定の組織性状である確率を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記判定部は、特定の組織性状である確率を複数の組織性状について算出することを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記判定部は、マルチフラクタル解析結果におけるパラメータのうち、特定の組織性状である場合に特徴的な値になるパラメータがより顕著な値を示すウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析結果に基づいて、前記特定の組織性状であるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記判定部は、マルチフラクタル解析結果におけるパラメータのうち、特定の組織性状である場合に特徴的な値になるパラメータがより顕著な値を示すウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析結果に基づいて、前記特定の組織性状以外の組織性状であると判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
生体組織に対して超音波の送受信を行ない、エコー信号を取得する超音波プローブと、
前記エコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析部と、
該複数回のマルチフラクタル解析の結果を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
前記複数回のマルチフラクタル解析の結果に基づいて、前記生体組織の組織性状を判定する判定部を備え、
前記表示部には、前記複数回のマルチフラクタル解析の結果とともに、前記判定部の判定結果が表示される
ことを特徴とする請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記ウェブレット関数は、マルチフラクタル解析結果におけるパラメータのうち、特定の組織性状である場合に特徴的な値になるパラメータが、より顕著な値を示す関数である請求項1〜9のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
コンピュータに、
生体組織に対する超音波の送受信によって得られたエコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析機能と、
該複数回のマルチフラクタル解析の結果に基づいて、前記生体組織の組織性状を判定する判定機能と、
前記判定機能の判定結果を表示させる表示制御機能と、
を実行させることを特徴とする超音波診断装置の制御プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
生体組織に対する超音波の送受信によって得られたエコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析機能と、
該複数回のマルチフラクタル解析の結果を表示させる表示制御機能と、
を実行させることを特徴とする超音波診断装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なう超音波診断装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人体に対して超音波を送信して得られたエコー信号に基づいて作成された超音波画像を表示する超音波診断装置においては、超音波画像を観察して、様々な診断が行なわれる。例えば、特許文献1には、超音波画像に基づいて脂肪肝の診断を行なうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233859号公報(第3頁、段落[0004])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような超音波画像に基づく診断では、確実な診断を行なうことが困難な場合もある。また、従来は特定の組織性状の診断に特化したアプリケーションによって診断が行われており、一つのアプリケーションによって脂肪肝や肝硬変など複数の組織形状の診断を行なうことはできない。従って、いくつものアプリケーションを用いなければ特定の組織性状であるとの診断を下すことができない場合もあり、煩雑である。
【0005】
以上より、複数の組織性状のうち、いずれの組織性状に該当するかということについて、より確実な診断を行なうための支援ツール(tool)が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するためになされた一の観点の発明は、生体組織に対して超音波の送受信を行ない、エコー信号を取得する超音波プローブと、前記エコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析部と、この複数回のマルチフラクタル解析の結果に基づいて、前記生体組織の組織性状を判定する判定部と、前記判定部の判定結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする超音波診断装置である。
【0007】
また、他の観点の発明は、生体組織に対して超音波の送受信を行ない、エコー信号を取得する超音波プローブと、前記エコー信号に対してウェブレット関数を用いたウェブレット変換を含むマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部であって、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なうマルチフラクタル解析部と、この複数回のマルチフラクタル解析の結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0008】
上記一の観点の発明によれば、異なるウェブレット関数を用いた複数回のマルチフラクタル解析を行ない、その複数のマルチフラクタル解析結果に基づいて生体組織の組織性状が判定されて判定結果が表示されるので、複数の組織性状のうち、いずれの組織性状に該当するかということについて、より確実な判定結果を表示することができる。
【0009】
上記他の観点の発明によれば、異なるウェブレット関数を用いた複数回のマルチフラクタル解析を行ない、この複数回のマルチフラクタル解析の結果が表示されるので、複数の組織性状のうち、いずれの組織性状に該当するかということについて、より確実な診断を行なうことができる解析結果を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る超音波診断装置の実施形態の概略構成の一例を示すブロック図である。
図2図1に示す超音波診断装置における制御部の構成を示すブロック図である。
図3】第一実施形態の超音波診断装置の作用を示すフローチャートである。
図4】マルチフラクタル解析を行なう対象となる関心領域が超音波画像に設定された表示部を示す図である。
図5】マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの一例を示す図である。
図6】脂肪肝の疑いがある旨のメッセージが表示された表示部を示す図である。
図7】肝硬変の疑いがある旨のメッセージが表示された表示部を示す図である。
図8】関心領域内に色画像が表示された表示部を示す図である。
図9】第一実施形態の第一変形例において、特定の組織性状である確率が複数表示された表示部を示す図である。
図10】第一実施形態の第二変形例における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
図11】エコー信号の結合をさらに詳細に説明する図である。
図12】第一実施形態の第三変形例における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
図13】第一実施形態の第三変形例においてマルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
図14】第一実施形態の第四変形例におけるエコー信号の平均化を説明する図である。
図15】マルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
図16】第一実施形態の第五変形例において、マルチフラクタル解析を行なう対象を指定するカーソルが超音波画像に表示された表示部を示す図である。
図17】第一実施形態の第六変形例におけるマルチフラクタル解析の対象となる領域を説明するための図である。
図18】超音波画像における分割領域に色画像が表示された表示部を示す図である。
図19】第二実施形態における制御部の構成を示すブロック図である。
図20】第二実施形態の超音波診断装置の作用を示すフローチャートである。
図21】第二実施形態において複数のマルチフラクタル解析結果における特定のパラメータが表示された表示部を示す図である。
図22】第三実施形態の超音波診断装置の作用を示すフローチャートである。
図23】第三実施形態において、脂肪肝と判定された場合に、判定結果とマルチフラクタル解析結果とが表示された表示部を示す図である。
図24】第三実施形態において、肝硬変と判定された場合に、判定結果とマルチフラクタル解析結果とが表示された表示部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について図1図8に基づいて説明する。図1に示す超音波診断装置1は、超音波プローブ2、送受信部3、エコーデータ処理部4、表示制御部5、表示部6、操作部7、制御部8を備える。
【0012】
前記超音波プローブ2は、複数の超音波振動子(図示省略)から対象に対して超音波を送信する。前記超音波プローブ2は、音線順次で超音波の走査を行なって超音波を送信する。また、前記超音波プローブ2は、超音波のエコー信号を受信する。前記超音波プローブ2は、本発明における超音波プローブの実施の形態の一例である。
【0013】
前記送受信部3は、前記超音波プローブ2から所定の走査条件で超音波を送信するための電気信号を、前記制御部8からの制御信号に基づいて前記超音波プローブ2に供給する。また、前記送受信部3は、前記超音波プローブ2で受信したエコー信号について、A/D変換、整相加算処理等の信号処理を行なう。
【0014】
前記エコーデータ処理部4は、前記送受信部3から出力されたエコー信号のデータに対し、超音波画像を作成するための処理を行なう。例えば、前記エコーデータ処理部4は、対数圧縮処理及び包絡線検波処理等のBモード処理や、直交検波処理及びフィルタ処理等のドプラ(doppler)処理などを行なう。
【0015】
ちなみに、ドプラ処理には、カラードプラ画像を作成するためのカラードプラ処理、パワードプラ画像を作成するためのパワードプラ処理、パルスドプラ法による画像を作成するためのパルスドプラ処理、連続波ドプラ法による画像を作成するための連続波ドプラ処理が含まれる。
【0016】
前記表示制御部5は、前記エコーデータ処理部4で得られたデータを、スキャンコンバータ(scan converter)によって走査変換して超音波画像データを作成する。また、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像を前記表示部6に表示させる。超音波画像は、Bモード画像やドプラ処理で得られたデータに基づく画像などである。
【0017】
また、前記表示制御部5は、前記超音波画像のほか、後述の判定部83の判定結果を前記表示部6に表示させる(表示制御機能)。表示制御機能は本発明における表示制御機能の実施の形態の一例である。
【0018】
前記表示部6は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などで構成される。前記表示部6は、本発明における表示部の実施の形態の一例である。
【0019】
前記操作部7は、操作者が指示や情報を入力するためのキーボード及びポインティングデバイス(図示省略)などを含んで構成されている。
【0020】
前記制御部8は、特に図示しないがCPU(Central Processing Unit)を有して構成される。この制御部8は、図示しない記憶部に記憶された制御プログラムを読み出し、前記超音波診断装置1の各部における機能を実行させる。
【0021】
前記制御部8の詳細構成について説明する。図2に示すように、前記制御部8は、関心領域設定部81、マルチフラクタル(multi−fractal analysis)解析部82、判定部83を有している。これら各部の機能も、前記記憶部に記憶された制御プログラムにより実行される。これら各部機能の説明は後述する。前記マルチフラクタル解析部82は、本発明におけるマルチフラクタル解析部の実施の形態の一例であり、本発明におけるマルチフラクタル解析機能の実施の形態の一例を実行する。さらに、前記判定部83は、本発明における判定部の実施の形態の一例であり、本発明における判定機能の実施の形態の一例を実行する。
【0022】
さて、本例の超音波診断装置1の作用について図3のフローチャートに基づいて説明する。先ず、ステップS1では、図4に示すように、前記表示部6に超音波画像UGを表示させて関心領域Rを設定する。具体的には、被検体に対して前記超音波プローブ2によって超音波の送受信を行なう。得られたエコー信号は前記送受信部3と前記エコーデータ処理部4で処理される。そして、エコーデータ処理部4からの出力信号に基づいて、前記表示制御部5が超音波画像データを作成する。そして、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像UGを前記表示部6に表示させる。
【0023】
前記超音波画像UGに設定される前記関心領域Rは、後述のマルチフラクタル解析の対象となる領域である。前記関心領域Rは、例えば操作者が前記操作部7のポインティングデバイスなどを操作して、マルチフラクタル解析を行なう領域を前記超音波画像UGにおいて指定すると、前記関心領域設定部81は前記指定された領域を前記関心領域Rとして設定する。
【0024】
次に、ステップS2では、前記マルチフラクタル解析部82は、後述のマルチフラクタル解析の対象となるエコー信号に対して前処理を行なう。前処理は、例えば、エコー信号に対するスムージング(smoothing)処理やフィルタ処理などを含む処理である。
【0025】
マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記送受信部3の出力信号でもよく、前記エコーデータ処理部4の出力信号でもよい。前記エコーデータ処理部4の出力信号は、Bモード処理で得られた信号でもよく、直交検波処理後のI信号又はQ信号でもよい。また、これらI信号及びQ信号を足し合わせるなどして組み合わせた信号に対してマルチフラクタル解析を行なってもよい。
【0026】
また、マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記関心領域Rにおける全て又は一部の音線についてのエコー信号である。前記マルチフラクタル解析部82は、各音線のエコー信号についてそれぞれマルチフラクタル解析を行なう。
【0027】
次に、ステップS3では前記マルチフラクタル解析部82は、前処理を行なったエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なう。本例では、前記マルチフラクタル解析部82は、WTMM(Wavelet Transform Modulus Maxima)法を用いたマルチフラクタル解析を行なう。このWTMM法を用いたマルチフラクタル解析は、ウェブレット(Wavelet)変換、Modulus maxima lineの抽出、分配関数による処理、ルジャンドル(Legendre)変換を含む処理を行なうものである。
【0028】
マルチフラクタル解析の結果として、図5に示すように特異性スペクトルSpが得られる。この特異性スペクトルSpにおいて、横軸hは特異性指数(リプシッツ・ヘルダー指数)であり、縦軸Dはフラクタル次元(fractal dimension)である。また、Dmaxは前記特異性スペクトルSpにおける極大値、すなわちフラクタル次元Dの最大値(最大フラクタル次元)であり、hmaxは前記特異性スペクトルSpにおいてDmaxにおける特異性指数hの値である。さらに、FWHM(full width at half maximum)は、Dmaxの二分の一であるDhalfにおける特異性スペクトルSpの特異性指数hの幅(半値幅)である。
【0029】
ちなみに特異性指数hは、解析対象であるエコー信号の波形の複雑さの程度を示す指数であり、FWHMはエコー信号に含まれる異なる信号パターンの量に関する値である。例えば、エコー信号に、相似形の信号パターンが多く含まれるほど、FWHMの値は小さくなる。
【0030】
前記マルチフラクタル解析部82は、前記最大フラクタル次元Dmax、前記半値幅FWHMを算出する。前記マルチフラクタル解析部82は、さらに前記特異性指数hmaxを算出してもよい。
【0031】
前記マルチフラクタル解析部82は、複数回のマルチフラクタル解析を行なう。この複数回のマルチフラクタル解析においては、前記ウェブレット変換において用いるウェブレット関数を異なる関数とする。
【0032】
本例では、前記ウェブレット関数は、後述する前記判定部83による組織性状の判定に適した解析結果が得られる関数である。例えば、肝臓を対象として超音波の送受信を行なう場合、後述するように前記判定部83によって、脂肪肝、肝硬変のいずれであるかを判定するので、ウェブレット関数として、脂肪肝の判定に適した解析結果が得られる関数f1と、肝硬変の判定に適した解析結果が得られる関数f2とを用いる。
【0033】
より詳細に説明すると、脂肪肝や肝硬変の状態にある肝臓から得られるエコー信号に含まれる信号パターンは、正常肝から得られるエコー信号に含まれる信号パターンとは異なっている。従って、脂肪肝や肝硬変である場合、前記特異性スペクトルSpにおける前記半値幅FWHMや前記最大フラクタル次元Dmaxなどのパラメータ(parameter)のうち、特定のパラメータが大きな値になるなど特徴的な値になる。また、脂肪肝の状態にある肝臓から得られるエコー信号に含まれる信号パターンと、肝硬変の状態にある肝臓から得られるエコー信号に含まれる信号パターンとは異なっている。従って、特徴的な値になるパラメータは、脂肪肝である場合と肝硬変である場合とで異なっている。
【0034】
前記関数f1は、特異性スペクトルSpにおけるパラメータのうち、脂肪肝である場合に特徴的な値になる特定のパラメータP1がより顕著な値を示す関数である。また、前記関数f2は、特異性スペクトルSpにおけるパラメータのうち、肝硬変である場合に特徴的な値になる特定のパラメータP2がより顕著な値を示す関数である。従って、前記関数f1及び前記関数f2を用いることにより、脂肪肝である場合及び肝硬変である場合に、前記パラメータP1,P2がより顕著な値になり、脂肪肝又は肝硬変であるとの判定をより確実に行なうことができる。
【0035】
前記ステップS3では、ウェブレット変換において前記関数f1を用いて得られたマルチフラクタル解析結果X1と、ウェブレット変換において前記関数f2を用いて得られたマルチフラクタル解析結果X2とが得られる。
【0036】
次に、ステップS4では、ステップS3において得られた前記マルチフラクタル解析結果X1に基づいて、前記判定部83は脂肪肝であるか否かを判定する。また、前記判定部83は、前記マルチフラクタル解析結果X2に基づいて、肝硬変であるか否かを判定する。
【0037】
具体的には、前記判定部83は、前記マルチフラクタル解析結果X1において、特異性スペクトルSpにおける前記パラメータP1が特徴的な値になっている場合(例えば閾値よりも大きいなど)、脂肪肝であると判定する。また、前記判定部83は、前記マルチフラクタル解析結果X2において、特異性スペクトルSpにおける前記パラメータP2が特徴的な値になっている場合(例えば閾値よりも大きいなど)、肝硬変であると判定する。
【0038】
なお、脂肪肝である場合及び肝硬変である場合に、特異性スペクトルSpにおいて、どのパラメータが特徴的な値を示すかは、例えば実験的に予め得られているものとする。脂肪肝であるか肝硬変であるかの判定基準は、予め記憶部(不図示)等に記憶されているものとする。
【0039】
次に、ステップS5では、前記表示制御部5は、脂肪肝であると判定された場合、図6に示すように、脂肪肝の疑いがある旨のメッセージM1を、超音波画像UGとともに前記表示部6に表示させる。また、前記表示制御部5は、肝硬変であると判定された場合、図7に示すように、肝硬変の疑いがある旨のメッセージM2を、超音波画像UGとともに前記表示部6に表示させる。
【0040】
前記ステップS5で表示される判定結果は、前記関心領域R内の一音線のエコー信号についてのマルチフラクタル解析結果に基づく判定結果であってもよい。
【0041】
また、前記関心領域R内の複数音線のエコー信号について、それぞれ前記ステップS2〜S4の処理を行なってマルチフラクタル解析を行ない、各マルチフラクタル解析結果に基づいてそれぞれ判定を行なってもよい。この場合、前記判定部83は、複数音線についての複数の判定結果を総合して組織性状の総合判定を行ない、この総合判定結果が前記ステップS5において表示される。
【0042】
総合判定を行なう場合、例えば特定の組織性状(例えば脂肪肝、肝硬変)であるとの判定結果が所定の音線数以上であった場合に、その特定の組織性状であると総合判定がなされてもよい。また、異なる複数の組織性状であるとの判定結果が得られた場合、音線数が多い方の組織性状であるとの総合判定がなされてもよい。
【0043】
前記表示制御部5は、図8に示すように、前記判定部83による判定結果に応じた色を有する色画像CGを前記関心領域R内に表示させてもよい。この場合、背景の超音波画像UGが透過して見える状態で前記色画像CGを表示させることが好ましい。
【0044】
複数音線のエコー信号についてそれぞれフラクタル解析を行なった場合、前記マルチフラクタル解析部82は、各音線についての特異性スペクトルSpにおける各パラメータの平均値を算出してもよい。この場合、前記判定部83は、各パラメータの平均値に基づいて判定を行なってもよい。
【0045】
本例の超音波診断装置1によれば、前記関数f1を用いたマルチフラクタル解析と前記関数f2を用いたマルチフラクタル解析とを行なうことによって複数の組織性状の判定が可能である。また、前記関数f1を用いたマルチフラクタル解析と前記関数f2を用いたマルチフラクタル解析とを行なうので、脂肪肝である場合又は肝硬変である場合に特徴的な値になるパラメータP1,P2がより顕著な値になる。従って、前記判定部83によって、脂肪肝及び肝硬変の判定をより確実に行なうことができるので、より確実な判定結果を表示することができる。
【0046】
次に、第一実施形態の変形例について説明する。先ず、第一変形例について説明する。本例では、前記判定部83は、特定の組織性状である確率を複数の組織性状について算出する。具体的に説明すると、前記マルチフラクタル解析結果X1において、前記パラメータP1が特徴的な値になるとともに、前記マルチフラクタル解析結果X2において、前記パラメータP2が特徴的な値になった場合、前記判定部83は、脂肪肝である確率と肝硬変である確率とを算出する。
【0047】
パラメータP1,P2の値に応じて脂肪肝である確率と肝硬変である確率とが予め定められていてもよい。この場合、特徴的な値になっている前記パラメータP1,P2のうち、どちらがより顕著な値になっているか、顕著性の度合いに応じて、脂肪肝である確率と肝硬変である確率とが定められていてもよい。パラメータP1の方がパラメータP2よりも顕著な値になっている場合、肝硬変である確率よりも脂肪肝である確率の方が高い。一方、パラメータP2の方がパラメータP1よりも顕著な値になっている場合、脂肪肝である確率よりも肝硬変である確率の方が高い。
【0048】
前記判定部83は、予め定められている確率を参照して脂肪肝である確率と肝硬変である確率とを算出する。前記表示制御部5は、例えば図9に示すように、算出された確率を前記表示部6に表示する(図9における確率表示P)。
【0049】
特定の組織性状である確率を複数の組織性状について算出する場合、前記判定部83は、前記確率の算出対象以外の組織性状であると判定してもよい。前記確率の算出対象以外とは、マルチフラクタル解析結果におけるパラメータのうち、特定の組織性状である場合に特徴的な値になるパラメータがより顕著な値を示すウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析結果に基づいて判定される組織性状以外の組織性状である。例えば、マルチフラクタル解析結果X1,X2に基づいて算出された脂肪肝である確率及び肝硬変である確率が所定の確率である場合、前記判定部83は、脂肪肝及び肝硬変以外の組織性状(例えば前記マルチフラクタル解析結果X1に基づいて特定された脂肪肝とは異なる種類の脂肪肝など)であるおそれがあると判定し、その判定結果を表示してもよい。
【0050】
次に、第二変形例について説明する。本例では、前記マルチフラクタル解析部82は、複数の音線におけるエコー信号を結合した信号に対してマルチフラクタル解析を行なう。
【0051】
複数の音線におけるエコー信号の結合について説明する。前記マルチフラクタル解析部82は、図10に示すように、関心領域R内における複数音線のエコー信号sa,sb,scの音線方向における端部を結合して一つのエコー信号s(信号は単純化して直線で示す)とする。そして、前記マルチフラクタル解析部82は、結合された前記エコー信号sについて異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なう。
【0052】
ここで、図11に示すように、前記エコー信号sa,sb,scの浅部側(超音波プローブ2に近い側)の端部をan,bn,cn、深部側(超音波プローブ2から遠い側)の端部をaf,bf,cfとする。前記マルチフラクタル解析部82は、隣り合うエコーにおける深度が近い側の端部同士を結合する。すなわち、前記マルチフラクタル解析部82は、前記エコー信号saの端部afと前記エコー信号sbの端部bfとを結合し、前記エコー信号sbの端部bnと前記エコー信号scの端部cnとを結合する。ただし、このような場合に限られるものではない。
【0053】
ここで、関心領域Rの音線方向(深度方向)の長さが短くなるほど、エコー信号のデータ数が少なくなるので、適正なマルチフラクタル解析の結果が得られなくなるおそれがある。しかし、本例によれば、複数音線のエコー信号が結合されたエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析が行なわれるので、関心領域Rの音線方向の長さが短い場合であっても、適正なマルチフラクタル解析の結果を得ることができる。従って、例えば血管を避けて関心領域Rを設定するような場合に、関心領域Rの音線方向の長さが短くなってしまっても、適正な特異性スペクトルSpを得ることができる。
【0054】
次に、第三変形例について図12及び図13に基づいて説明する。図12において、sl−a,sl−b,sl−cは関心領域R(図12では図示省略)内における音線を示している。そして、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・とする。
【0055】
前記マルチフラクタル解析部82は、各音線において音線方向の順に並ぶエコー信号のデータを、複数の音線にわたって超音波の走査方向の順に並ぶように結合したデータ列からなる信号を作成する。具体的には、前記マルチフラクタル解析部82は、図13に示すように、データa1,b1,c1,c2,b2,a2,a3,b3,c3,・・・の順に並ぶデータ列からなる信号sを作成する。そして、前記マルチフラクタル解析部82は、前記信号sについて、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なう。
【0056】
次に、第四変形例について説明する。前記マルチフラクタル解析部82は、エコー信号を複数音線について平均化した信号s′を作成してもよい。具体的に図14及び図15に基づいて説明する。図14に示すように、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・,an、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・,bn、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・,cnとする。前記マルチフラクタル解析部82は、図15に示すように、各音線におけるエコー信号のデータであって、各深度位置におけるデータ(a1,b1,c1)、(a2,b2,c2)、(a3,b3,c3)、(an,bn,cn)を音線方向に平均化して得られたデータx1,x2,x3,・・・,xnのデータ列からなる信号s′を作成する。具体的には、x1=(a1+b1+c1)/3、x2=(a2+b2+c2)/3、x3=(a3+b3+c3)/3、・・・、xn=(an+bn+cn)/3である。
【0057】
前記マルチフラクタル解析部82は、前記信号s′について、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なう。
【0058】
次に、第五変形例について説明する。前記関心領域Rの代わりに、図16に示すようにカーソルC1,C2を用いてマルチフラクタル解析の対象を指定してもよい。この場合、前記マルチフラクタル解析部82は、前記カーソルC1,C2の間のエコー信号を対象にして異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なう。
【0059】
次に、第六変形例について説明する。前記マルチフラクタル解析部82は、図17に示すように、前記関心領域Rを音線方向に分割した分割領域r1,r2,r3について、異なるウェブレット関数を用いたマルチフラクタル解析を複数回行なう。この場合、各分割領域r1〜r3において、上述のように一音線のエコー信号についてマルチフラクタル解析を行なってもよいし、複数音線のエコー信号についてマルチフラクタル解析を行なってもよい。
【0060】
この第六変形例では、前記各分割領域r1〜r3について、前記判定部83による判定が行われ、それぞれについて判定結果が表示される。判定結果は、前記メッセージM1,2のような文字情報であってもよい。また、判定結果として、図18に示すように、前記各分割領域r1〜r3に、判定結果に応じた色を有する色画像CG1,CG2,CG3が表示されてもよい。
【0061】
(第二実施形態)
次に第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同一事項については説明を省略する。
【0062】
本例では、前記制御部8は、図19に示すように、前記関心領域設定部81及び前記マルチフラクタル解析部82を有しているが、前記判定部83を有していない。
【0063】
本例の作用について図20のフローチャートに基づいて説明する。ステップS1〜S3については第一実施形態と同一の処理であり説明を省略する。ステップS3においてマルチフラクタル解析が行われると、ステップS10の処理へ移行する。このステップS10では、前記表示制御部5が、マルチフラクタル解析結果を前記表示部6に表示させる。本例では、図21に示すように、結果表示Nとして、前記マルチフラクタル解析結果X1における前記パラメータP1と、前記マルチフラクタル解析結果X2における前記パラメータP2とが前記表示部6に表示される。
【0064】
ただし、前記表示制御部5は、特に図示しないが、前記パラメータP1,P2のみならず、マルチフラクタル解析結果X1,X2における他のパラメータを表示させてもよい。
【0065】
本例によれば、前記関数f1を用いたマルチフラクタル解析の結果と前記関数f2を用いたマルチフラクタル解析の結果とが表示され、脂肪肝又は肝硬変である場合には、前記パラメータP1,P2がより顕著な値を示すので、診断をより確実に行なうことができる解析結果を表示することができる。
【0066】
(第三実施形態)
次に第三実施形態について説明する。なお、第一、二実施形態と同一事項については説明を省略する。
【0067】
本例では、前記制御部8は、第一実施形態と同様に、前記関心領域設定部81、前記マルチフラクタル解析部82、前記判定部83を有している。
【0068】
本例の作用について図22のフローチャートに基づいて説明する。ステップS1〜S4については第一実施形態と同一の処理であり説明を省略する。ステップS4において前記判定部83による判定が行われると、ステップS20の処理へ移行する。このステップS20では、前記表示制御部5は、前記表示部6に前記判定部83の判定結果を表示させるとともに、マルチフラクタル解析結果を表示させる。
【0069】
例えば、前記判定部83によって脂肪肝であると判定された場合、前記表示制御部5は、図23に示すように前記メッセージM1を前記表示部6に表示させるとともに、前記結果表示Nとして、前記マルチフラクタル解析結果X1における前記パラメータP1を前記表示部6に表示させる。一方、前記判定部83によって肝硬変であると判定された場合、前記表示制御部5は、図24に示すように前記メッセージM2を前記表示部6に表示させるとともに、前記結果表示Nとして、前記マルチフラクタル解析結果X2における前記パラメータP2を前記表示部6に表示させる。
【0070】
ただし、脂肪肝と判定された場合であっても、前記メッセージM1及び前記パラメータP1とともに前記パラメータP2が表示されてもよい。また、肝硬変と判定された場合であっても、前記メッセージM2及び前記パラメータP2とともに前記パラメータP1が表示されてもよい(それぞれ図示省略)。
【0071】
また、脂肪肝又は肝硬変であると判定されない場合であっても、前記表示制御部5は、前記パラメータP1,P2を表示させてもよい。
【0072】
さらに、特に図示しないが、前記パラメータP1,P2のみならず、マルチフラクタル解析結果X1,X2における他のパラメータが表示されてもよい。
【0073】
以上、本発明を前記各実施形態によって説明したが、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、第一実施形態の第一変形例において、前記判定部83は、特定の組織性状である確率を複数の組織性状について算出しているが、特定の一つの組織性状である確率を算出してもよい。
【0074】
また、前記第二、第三実施形態においても、前記第一実施形態の第二変形例〜第六変形例で説明したマルチフラクタル解析を行なってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 超音波診断装置
2 超音波プローブ
6 表示部
82 マルチフラクタル解析部
83 判定部
図1
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