特許第5859916号(P5859916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5859916車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859916
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/02 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   F16D65/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-121569(P2012-121569)
(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公開番号】特開2013-245795(P2013-245795A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年6月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】小堤 雅登
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−327339(JP,A)
【文献】 特開平04−181031(JP,A)
【文献】 特開2010−101342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの側部に配置される作用部に、複数の有底のシリンダ孔を併設し、各シリンダ孔に収容されるピストンと各シリンダ孔の底部との間に液圧室をそれぞれ画成し、隣接する液圧室同士を連通させる連通孔を形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法において、隣接する前記シリンダ孔同士の間に、隣接するシリンダ孔同士の間隔より小さな口径を有する穿設孔を前記作用部の外側から形成する工程と、前記シリンダ孔の軸線と平行な軸線を有する小径軸部の先端に設けられて、該小径軸部より大径かつ前記シリンダ孔の内径より小径で、外周部の先端が先鋭化したV字状断面を有している円盤状切削刃を備えた切削治具を用い、該切削治具をシリンダ孔の内部に挿入し、前記円盤状切削刃の先端面をシリンダ孔の底面に当接させた状態で円盤状切削刃を隣接するシリンダ孔の方向に向けて移動させて、隣接するシリンダ孔の底部側周壁にそれぞれ液通孔を形成する工程と、を行うことにより、前記両液通孔の内壁面の切削面を、前記シリンダ孔の底部側周壁から前記穿設孔に向けて液通孔の断面積が漸次小さくなる円弧状の斜面で形成するとともに、シリンダ孔側開口のシリンダ孔底部側をシリンダ孔底面に接して形成したことを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法。
【請求項2】
前記穿設孔がユニオン孔であることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法。
【請求項3】
前記穿設孔を形成した後、該穿設孔の前記作用部の外側に開口した開口部を閉塞することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法に係り、詳しくは、隣接する液圧室同士を連通させる連通孔を備えた車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキのキャリパボディとして、作用部に、2個のシリンダ孔を併設し、各シリンダ孔に収容されるピストンと各シリンダ孔との間に液圧室をそれぞれ画成すると共に、作用部の外側から、前記双方の液圧室に連通するユニオン孔を形成したものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−132449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献のものでは、ユニオン孔によって、2個のシリンダ孔が連通されているが、ユニオン孔がシリンダ孔の周壁に開口していることから、作動液充填時に真空引きする際に、ピストンの底部とシリンダ孔の底部とが当接するまでピストンが後退すると、ピストンの周壁でユニオン孔を塞いでしまい、エアが抜けない虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、作動液充填時のエア抜き性の向上を図ることができる車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ製造方法は、ディスクロータの側部に配置される作用部に、複数の有底のシリンダ孔を併設し、各シリンダ孔に収容されるピストンと各シリンダ孔の底部との間に液圧室をそれぞれ画成し、隣接する液圧室同士を連通させる連通孔を形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディの製造方法において、隣接する前記シリンダ孔同士の間に、隣接するシリンダ孔同士の間隔より小さな口径を有する穿設孔を前記作用部の外側から形成する工程と、前記シリンダ孔の軸線と平行な軸線を有する小径軸部の先端に設けられて、該小径軸部より大径かつ前記シリンダ孔の内径より小径で、外周部の先端が先鋭化したV字状断面を有している円盤状切削刃を備えた切削治具を用い、該切削治具をシリンダ孔の内部に挿入し、前記円盤状切削刃の先端面をシリンダ孔の底面に当接させた状態で円盤状切削刃を隣接するシリンダ孔の方向に向けて移動させて、隣接するシリンダ孔の底部側周壁にそれぞれ液通孔を形成する工程と、を行うことにより、前記両液通孔の内壁面の切削面を、前記シリンダ孔の底部側周壁から前記穿設孔に向けて液通孔の断面積が漸次小さくなる円弧状の斜面で形成するとともに、シリンダ孔側開口のシリンダ孔底部側をシリンダ孔底面に接して形成したことを特徴としている。
【0009】
また、前記穿設孔がユニオン孔であると好適である。さらに、前記穿設孔を形成した後、該穿設孔の前記作用部の外側に開口した開口部を閉塞すると良い。
【発明の効果】
【0012】
発明の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ製造方法によれば、隣接するシリンダ孔同士の間に、隣接するシリンダ孔同士の間隔より小さな口径を有する穿設孔を作用部の外側から形成する工程と、シリンダ孔の軸線と平行な軸線を有する小径軸部と、該小径軸部の先端に設けられて該小径軸部より大径で、シリンダ孔の内径より小径の円盤状切削刃とを備えた切削治具を用い、切削治具をシリンダ孔の内部に挿入し、円盤状切削刃の先端面をシリンダ孔の底面に当接させた状態で円盤状切削刃を隣接するシリンダ孔の方向に向けて移動させることにより、隣接するシリンダ孔の底部側周壁にそれぞれ液通孔を形成する工程と、を行うことにより、隣接するシリンダ孔の液圧室同士を穿設孔及び両液通孔を介して連通させる連通孔を形成することにより、作動液充填時に真空引きする際に、エア抜き性の良い連通孔を容易に形成することができる。
【0013】
さらに、円盤状切削刃の外周部は、先端が先鋭化したV字状断面を有していることにより、円盤状切削刃の先端面をシリンダ孔の底面に当接させた状態で円盤状切削刃を隣接するシリンダ孔の方向に向けて移動させることにより、液通孔の内壁面を、シリンダ孔の底部側周壁から穿設孔に向けて液通孔の断面積が漸次小さくなる斜面に形成することができる。また、穿設孔がユニオン孔であることにより、穿設孔とユニオン孔とを一つの工程で加工することができることから、加工工程の減少を図ることができる。さらに、穿設孔を形成した後、穿設孔の作用部の外側に開口した開口部を閉塞することにより、穿設孔の開口部を容易に閉塞することができ、穿設孔を簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図2のI−I断面図である。
図2図5のII−II断面図である。
図3図2のIII−III断面図である。
図4図2のIV−IV断面図である。
図5】本発明の製造方法によるキャリパボディの一形態例を示す平面図である。
図6図7のVI−VI断面図である。
図7】本発明の製造方法によるディスクブレーキの一形態例を示す正面図である。
図8】同じくディスクブレーキの一部断面平面図である。
図9本発明のキャリパボディの製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至図8は、2輪用のディスクブレーキ一形態例を示すもので、矢印Aは車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向である。
【0016】
ディスクブレーキ1は、ディスクロータ2の一側部で、車体に取り付けられたキャリパブラケット3と、該キャリパブラケット3にスライドピン4,4を介してディスク軸方向へスライド可能に支持されるピンスライド型のキャリパボディ5と、該キャリパボディ5の作用部5a及び反作用部5bとの間に、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の摩擦パッド6,6とを備えている。
【0017】
キャリパボディ5は、ディスクロータ2の両側部に配置される上述の作用部5a及び反作用部5bと、これらをディスクロータ2の外周を跨いで連結するブリッジ部5cとからなっており、作用部5aには、ディスクロータ側を開口した有底の2個のシリンダ孔5d,5dがディスク周方向に併設され、反作用部5bには3つの反力爪5eが形成されている。各シリンダ孔5dには、ピストン7がピストンシール8a及びダストシール8bを介してそれぞれ液密且つスライド可能に内挿され、該ピストン7とシリンダ孔5dの底面5fとの間には、液圧室9がそれぞれ画成されている。
【0018】
作用部5aのディスク半径方向外側で、且つ、ディスク周方向中央部にはユニオンボス部5gが形成され、該ユニオンボス部5gから、双方のシリンダ孔5dの底部同士の中間部に向けてユニオン孔10(穿設孔)が形成されている。ユニオン孔10は、ユニオンボス部5gの上面に開口する大径雌ねじ部10aと該大径雌ねじ部10aから双方のシリンダ孔5d,5dの底部同士の中間部に向けて延出し、該底部同士の中間部の寸法(シリンダ孔同士の間隔)よりも小さな口径を有する液供給孔10bとを備えている。
【0019】
双方のシリンダ孔5d,5dの底部側周壁には、ユニオン孔10の液供給孔10bに向けて、液通孔11,11がそれぞれ形成され、該液通孔11は、シリンダ孔5dの底部側周壁から前記液供給孔10bに向けて断面積が漸次小さくなる斜面で形成されると共に、切削面11aが円弧状に形成される。そして、隣接する液圧室9,9は、ユニオン孔10と液通孔11,11とで形成された連通孔12によって連通している。
【0020】
上述のように形成される液通孔11の加工は、図9に示されるように、シリンダ孔5dの軸線と平行な軸線を有する小径軸部13aと、該小径軸部13aの先端に設けられて該小径軸部より大径で、シリンダ孔5dの内径より小径の円盤状切削刃13bを備えた切削治具13を用いて行われる。
【0021】
鋳造後のキャリパボディ5は、2つのシリンダ孔の下孔が形成されており、ユニオンボス部5gから、下孔の底部同士の中間部に向けてユニオン孔10が形成されている。シリンダ孔の下孔は、仕上げ加工が施されてシリンダ孔5dに形成される。次いで、切削治具13をシリンダ孔5dの内部に挿入し、円盤状切削刃13bの先端面をシリンダ孔5dの底面5fに当接させた状態で円盤状切削刃13bを隣接するシリンダ孔5dの方向に向けて移動させ、シリンダ孔5dの底部側周壁に液通孔11を形成し、隣接するシリンダ孔5dの液圧室同士をユニオン孔10及び両液通孔11,11を介して連通させ、連通孔12を形成する。また、液通孔11は、円盤状切削刃13bを回転させながら加工することにより、切削面11aが円弧状に形成される。
【0022】
本形態例の製造方法によるキャリパボディ5は上述のように形成され、作動液充填時に真空引きする際に、ピストン7の底面7aとシリンダ孔5dの底面5fとが当接するまでピストン7が後退しても、液通孔11の内壁面は、シリンダ孔5dの底部側周壁からユニオン孔10に向けて液通孔11の断面積が漸次小さくなる斜面で形成されていることから、ユニオン孔10と双方の液圧室9との連通を確保することができ、良好にエア抜きをすることができる。
【0023】
また、2個のシリンダ孔5d,5dの底部同士の中間部にユニオン孔10を開口し、切削治具13をシリンダ孔5dの内部に挿入し、円盤状切削刃13bの先端面をシリンダ孔5dの底面5fに当接させた状態で円盤状切削刃13bを隣接するシリンダ孔5dの方向に向けて移動させ、シリンダ孔5dの底部側周壁に液通孔11を形成することから、連通孔12を簡単に形成することができる。
【0024】
尚、本発明の製造方法によるキャリパボディは上述の形態例のように、ユニオン孔に利用して連通孔を形成するものに限らず、ユニオン孔とは別に、シリンダ孔の底部同士の中間部に穿設孔を形成し、該穿設孔と液通孔を連通させて連通孔を形成するものでも良い。この場合、穿設孔を形成した後、該穿設孔の前記作用部の外側に開口した開口部を閉塞することにより、連通孔を良好に形成することができる。また、シリンダ孔の仕上げ加工を、液通孔を加工する切削治具を用いて行うこともできる。さらに、上述の形態例のように2輪用のディスクブレーキに適用されるものに限らず、3輪用、4輪用のピンスライド型のキャリパボディにも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、4…スライドピン、5…キャリパボディ、5a…作用部、5b…反作用部、5c…ブリッジ部、5d…シリンダ孔、5e…反力爪、5f…底面、5g…ユニオンボス部、6…摩擦パッド、7…ピストン、7a…底面、8a…ピストンシール、8b…ダストシール、9…液圧室、10…ユニオン孔、10a…大径雌ねじ部、10b…液供給孔、11…液通孔、11a…切削面、12…連通孔、13…切削治具、13a…小径軸部、13b…円盤状切削刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9